特許第6647929号(P6647929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647929
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
   A01F 12/56 20060101AFI20200203BHJP
   A01D 41/12 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A01F12/56 Z
   A01D41/12 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-51015(P2016-51015)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-163879(P2017-163879A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】松本 大
(72)【発明者】
【氏名】板持 透
(72)【発明者】
【氏名】木村 敦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】森広 忠光
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−013325(JP,U)
【文献】 米国特許第05947818(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01F 12/56
A01D 41/12
A01D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱穀装置(6)の扱室(21)内に回転駆動可能に支持された扱胴(23)と、
該扱胴(23)の回転速度を操作具による手動操作によって複数の変速段に変速設定可能に構成された変速装置(73)と、
前記扱胴(23)の回転数を検出する回転センサ(98)と、
該回転センサ(98)の検出結果が入力される制御部(50)と
表示内容が上記制御部(50)によって制御される運転席(10)の前方に配置されたモニタ(87)とを備え、
前記制御部(50)は、前記回転センサ(98)の検出結果に基づいて、前記操作具によって変速設定された前記変速装置(73)の変速段を示す変速状態を判定する判定処理を実行するように構成し、
該制御部(50)は、上記判定処理によって判定された変速装置の変速状態を前記モニタ(87)に表示させるように構成された
ことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御部(50)は、予め定めた所定条件を満たした場合にのみ、上記判定処理を実行する
請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御部(50)は、判定した変速状態を記憶可能な記憶部(101)を有し、
該制御部(50)は、上記判定処理によって判定された変速状態が、記憶部(101)に記憶された変速状態と異なるとともに、予め定めた所定の書換条件を満たした場合には、該判定された変速状態を、該記憶部(101)に記憶する変速状態として書換える更新処理を行う
請求項1又は2の何れかに記載のコンバイン。
【請求項4】
前記制御部(50)によって制御される報知手段(100)を備え、
前記制御部(50)は、上記記憶部(101)に記憶された変速状態に基づいて求められる扱胴(23)の回転数と、前記回転センサ(98)によって検出される扱胴(23)の回転数とが不一致であると判断した場合には、上記報知手段(100)によって報知する
請求項3に記載のコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扱胴の回転速度を変速できるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
脱穀装置の扱室内に回転駆動可能に支持された扱胴と、該扱胴の回転速度を変速する変速装置とを備え、脱穀処理する穀物の種類に応じて、扱胴を脱穀処理に適した回転速度に変速することのできる特許文献1に記載のコンバインが従来公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−81377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献によれば、前記扱胴は、前記変速装置により脱穀処理する穀物の種類に適した回転速度に変速することで、稲・麦・大豆等、複数種類の穀物をそれぞれ効率的に脱穀処理できるものであるが、もし、脱穀処理に扱胴の高速回転が適した稲や麦が、低速回転された状態の扱胴で脱穀処理されると、脱穀処理が十分にされない場合があるとともに、脱穀装置内が詰り易くなり、脱穀装置内の掃除に余分な手間が掛かる場合があるという課題があった。
【0005】
本発明では、脱穀装置の扱室内に回転駆動可能に支持された扱胴と、該扱胴の回転速度を変速する変速装置とを備えたコンバインにおいて、前記扱胴が脱穀処理する穀物の種類に応じた変速状態となっているか、オペレータが容易に確認できるコンバインを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1に、脱穀装置6の扱室21内に回転駆動可能に支持された扱胴23と、該扱胴23の回転速度を操作具による手動操作によって複数の変速段に変速設定可能に構成された変速装置73と、前記扱胴23の回転数を検出する回転センサ98と、該回転センサ98の検出結果が入力される制御部50と、表示内容が上記制御部50によって制御される運転席10の前方に配置されたモニタ87とを備え、前記制御部50は、前記回転センサ98の検出結果に基づいて、前記操作具によって変速設定された前記変速装置73の変速段を示す変速状態を判定する判定処理を実行するように構成し、該制御部50は、上記判定処理によって判定された変速装置の変速状態を前記モニタ87に表示させるように構成されたことを特徴としている。
【0007】
第2に、前記制御部50は、予め定めた所定条件を満たした場合にのみ、上記判定処理を実行することを特徴としている。
【0008】
第3に、前記制御部50は、判定した変速状態を記憶可能な記憶部101を有し、該制御部50は、上記判定処理によって判定された変速状態が、記憶部に記憶された変速状態と異なるとともに、予め定めた所定の書換条件を満たした場合には、該判定された変速状態を、該記憶部101に記憶する変速状態として書換える更新処理を行うことを特徴としている。
【0009】
第4に、前記制御部50によって制御される報知手段100を備え、前記制御部50は、上記記憶部101に記憶された変速状態に基づいて求められる扱胴23の回転数と、前記回転センサ98によって検出される扱胴23の回転数とが不一致であると判断した場合には、上記報知手段100によって報知することを特徴といている。
【発明の効果】
【0010】
前記制御部により、回転センサの検出結果に基づいて扱胴の変速状態を自動的に判定することができるため、オペレータは、前記扱胴が脱穀処理する穀物の種類に適した変速状態に設定されているか否かを容易に確認できる。
【0011】
また、前記制御部は、予め定めた所定条件を満たした場合にのみ、上記判定処理を実行するものによれば、該制御部は、必要なタイミングでのみ判定処理が実行されることで、誤判定されることを効率的に防止できる。
【0012】
また、前記制御部は、判定した変速状態を記憶可能な記憶部を有し、該制御部は、上記判定処理によって判定された変速状態が、記憶部に記憶された変速状態と異なる場合には、該判定された変速状態を、変速状態として書換える更新処理を行うものによれば、判定処理実行後の脱穀処理によって扱胴が処理物詰りし、回転速度が低下した場合であっても、変速状態の判定に影響が及ばない。
【0013】
また、前記制御部によって制御される報知手段を備え、前記制御部は、上記記憶部に記憶された変速状態に基づいて求められる扱胴の回転数と、前記回転センサによって検出される扱胴の回転数とが不一致であると判断した場合には、上記報知手段によって報知するものによれば、前記回転センサが判定処理以外の制御にも兼用されるため、コストを低く抑えることができる。
【0014】
なお、表示内容が上記制御部によって制御される運転席の前方に配置されたモニタを備え、前記制御部は、上記判定処理によって判定された変速装置の変速状態を前記モニタに表示させるものによれば、扱胴の変速状態を運転席の前方に配置されたモニタに表示できるため、オペレータが運転時に扱胴の変速状態を確認し易い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用した汎用コンバインの全体側面図である。
図2】脱穀装置を示した要部側面図である。
図3】本汎用コンバインの伝動構成について説明する。
図4】操縦部を示した要部平面図である。
図5】(A)及び(B)は、モニタを示した図である。
図6】制御部の構成を示すブロック図である。
図7】制御部が実行する扱胴設定判定制御の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明を適用した汎用コンバインの全体側面図であり、図2は、脱穀装置を示した要部側面図である。図より、本汎用コンバインは、走行部である左右一対のクローラ式走行装置1,1に支持された走行機体2と、該走行機体2の前方に昇降可能に連結されて圃場の作物(穀稈)の刈取作業を行う刈取部3とを備えている。
【0017】
前記走行機体2は、オペレータが乗込んで操向操作を行う操縦部4を刈取部3の真後ろ側近傍における右寄り位置に設け、該操縦部4の後方斜め左側に前記刈取部3で刈取られた穀稈の脱穀作業等を行う脱穀装置6を設置し、操縦部4の後方且つ脱穀装置6右側に脱穀装置6で脱穀された処理物である穀粒を収納するグレンタンク7を配置し、脱穀装置6の後方に脱穀後の藁屑等を後処理して排出する後処理部8が設けられている。
【0018】
前記刈取部3は、刈取った作物を脱穀装置6側に搬送するフィーダ9と、該フィーダ9の前端側から前方が開放されたコ字状に形成された刈取フレーム11と、該刈取フレーム11の前端に設けた左右一対のデバイダ12,12と、刈取フレーム11側に支持された左右の支持アーム13の延出端の間に回転自在に架設支持された掻込リール14とを備えている。
【0019】
これにより、前記刈取部3は、圃場の作物を、左右のデバイダ12の間である刈取側と、該刈取側の左右両外側である非刈取側とに分草し、刈取側に分草された作物を、前記掻込リール14によって掻込みながらデバイダ12の後方に備えたレシプロ式の刈刃15によって作物を根元側から刈取る。
【0020】
刈取部3によって刈取られた作物は、刈取フレーム11側の搬送オーガ16により前記フィーダ9の前端側に送られ、該フィーダ9に搬送された作物がフィーダ9の内部に備えた搬送コンベア17によって後方側に搬送される。フィーダ9の後端側に搬送された作物は、前記脱穀装置6の上部前端側に送られる。
【0021】
前記脱穀装置6は、該脱穀装置6の上側であって前記フィーダ9から搬送される作物の脱穀作業を行う脱穀部18と、脱穀装置6の下側であって前記脱穀部18により脱穀された処理物を穀粒と藁屑等に選別する選別部19とから構成されている。
【0022】
前記脱穀部18は、前記フィーダ9の後端側から作物の全体が投入される扱室21と、該扱室21の前後方向全体に亘って配置された扱胴回転軸22回りに回転駆動し、その前端側が漏斗型となる円筒状に形成された扱胴23と、該扱胴23の下方であって、扱胴23の形状に沿って中央が窪んだ円弧状をしている受網24とを備えている。
【0023】
該構成により、フィーダ9によって扱室21に投入された作物(刈取穀稈)は、回転駆動される扱胴23によって扱降し処理(脱穀処理)されて排藁となり、該排藁は扱室21の後方の後処理部8で切断処理されてから機外へと排出される。その一方で、扱胴23によって扱降ろされた処理物は、籾などの穀粒と藁屑等とを含んでおり、受網24で受止められるとともに下方側に漏下することで選別部19側に導入される。
【0024】
前記選別部19は、前記受網24から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別体26と、該揺動選別体26の前方下方側に配置されて後方上側に向けて選別風を送風する唐箕ファン27と、選別後の排塵物を機外へ排出する二番選別ファン28と、唐箕ファン27によって選別された1番物である穀粒を回収する1番ラセン29と、2番物を回収する2番ラセン31とを備えている。
【0025】
該構成により、揺動選別体26で選別されて漏下した処理物は、唐箕ファン27によって起風された選別風の影響を殆ど受けずに選別部19の前後方向中央(1番ラセン29)よりも前方側に落下して前記1番ラセン29によって回収される1番物と、選別風の影響を若干受けて1番ラセン29よりも後方に落下して前記2番ラセン31によって回収される2番物とに風選され、藁屑等は上記選別風によって後処理部8から機外に飛ばされる。
【0026】
該1番ラセン29によって回収された穀粒は、1番ラセン29の搬送端側に設けられた穀粒搬送装置32を介して上方搬送されることにより、前記グレンタンク7側へと搬送され、グレンタンク7内に貯留された穀粒はオーガ33によって機外に排出できるように構成されている。また、該2番ラセン31によって回収された処理物は、2番ラセン31の搬送端側に設けられた還元搬送装置34を介して扱室21側又は揺動選別体26側に還元搬送される。
【0027】
次に、図3に基づいて、本汎用コンバインの伝動構成について説明する。図3は、汎用コンバインの伝動構成を示す伝動図である。図3に示すように、エンジン36で発生した回転動力は、出力軸37に出力され、該出力軸37は、第1作業プーリ38と、走行プーリ39と、排出プーリ41とが一体回転するように設けられている。
【0028】
前記走行プーリ39に伝動された動力は、走行HST42側にベルト伝動され、無段階に変速伝動された後、走行トランスミッション43を介して、左右のクローラ式走行装置1に伝動される。
【0029】
前記排出プーリ41に伝動された動力は、前記グレンタンク7内の横ラセン44や、オーガ33内の縦ラセン46及び排出ラセン47等に伝動され、穀粒が機外に排出されるようにグレンタンク7及びオーガ33を駆動させることができる。ちなみに、この複数の排出ラセン等44,46,47へのベルト伝動は、テンションプーリ等からなる排出クラッチ48によって断続操作される。
【0030】
前記第1作業プーリ38に伝動された動力は、第1作業伝動軸51にベルト伝動される。具体的に説明すると、第1作業プーリ38と、第1作業伝動軸51と一体回転する第1作業伝動プーリ52とに掛け回される第1作業伝動ベルト53には、第1作業伝動ベルト53のテンションを調整するテンションプーリで構成されて第1作業伝動軸51へ伝動される動力を断続操作する脱穀クラッチ54が設けられている。この第1作業伝動軸51に伝動された動力によって、刈取部3及び脱穀装置6が駆動される。
【0031】
前記第1作業伝動軸51は、第2作業プーリ56と、刈取プーリ55と、選別プーリ57と、唐箕プーリ58とが一体回転するように設けられている。これにより、第1作業伝動軸51に伝動された動力は、第2作業プーリ56と、第2作業伝動プーリ59とで掛け回される第2作業伝動ベルト61を介して、第2作業伝動プーリ59と一体回転する第2作業伝動軸62へ伝動される。
【0032】
前記刈取プーリ55に伝動された動力は、刈取伝動軸50にベルト伝動され、この刈取伝動軸50に伝動された動力によって、前記搬送コンベア17、掻込オーガ16、刈刃15、掻込リール14が駆動する。
【0033】
前記選別プーリ57に伝動された動力は、選別伝動軸63にベルト伝動され、この選別伝動軸63に伝動された動力によって、前記2番ラセン29、還元搬送装置32、揺動選別体26、二番選別ファン28、1番ラセン31、穀粒搬送装置34が駆動する。同様に、唐箕プーリ58に伝動された動力によって、前記唐箕ファン27が駆動する。
【0034】
前記第2作業伝動軸62は、第3作業プーリ63と、後処理プーリ64とが一体回転するように設けられている。これにより、第2作業伝動軸62に伝動された動力は、第3作業プーリ63と、第3作業伝動プーリ66とで掛け回される第3作業伝動ベルト67を介して、該第3作業伝動プーリ66と一体回転する第3作業伝動軸68へ伝動される。
【0035】
前記後処理プーリ64に伝動された動力は、後処理伝動軸69にベルト伝動され、この後処理伝動軸71に伝動された動力によって、前記後処理部8で排藁を切断して排出する後処理カッター70が駆動する。
【0036】
第3作業伝動軸68は、ベベルギヤ72を介して、扱胴23に伝動される動力をギヤ変速する変速装置73が設けられている。該変速装置73によって変速された動力は、変速プーリ74と、変速伝動プーリ76とで掛け回される変速伝動ベルト77を介して、該変速伝動プーリ76と一体回転する扱胴回転軸22へ伝動される。すなわち、前記扱胴23は、変速装置72を介することによって、その回転速度を少なくとも2段階以上、変速設定を操作することができる。
【0037】
前記変速装置73は、ベベルギヤ72と一体回転する入力軸78と、変速された動力を出力する出力軸79と、該出力軸77と一体回転する小径の高速ギヤ81と、大径の低速ギヤ82と、入力軸上をスライド移動可能に構成されて前記高速ギヤ81又は低速ギヤ82の何れかと噛合う変速ギヤ83とから構成され、該変速装置73によって変速された動力が扱胴回転軸22に伝動されている。
【0038】
すなわち、該構成の変速装置73は、前記変速ギヤ83を低速ギヤ82と噛合わせることにより、前記扱胴23が、豆類等の比較的大きな穀物の脱穀に適した「低速状態」に切換えられ、前記変速ギヤ83を高速ギヤ81と噛合せることにより、前記扱胴23が、稲等の比較的小さな穀物の脱穀に適した「高速状態」に切換えられる。
【0039】
また、該変速装置73による扱胴23の変速操作は、操縦部側に設けた操作具(図示しない)により、変速装置73の変速ギヤ83がスライド操作されることによって扱胴23が変速操作される構成としても良い。この他、扱胴23の変速操作は、作業者が変速装置73内の変速ギヤ83を直接スライド操作したり、噛合う変速ギヤ83に交換したりする構成であっても良い。
【0040】
ちなみに、該構成のコンバインには、前記扱胴回転軸22(扱胴23)の回転速度を検出する扱胴回転センサ(回転センサ)98と、該扱胴回転センサ98による検出結果が入力される制御部50とが設けられており、該制御部50は、扱胴回転センサ98の検出結果に基づいて、扱胴23の変速状態の設定を判別する扱胴設定判定制御が実行可能に構成されている。該制御部50の具体的な構成については後述する。
【0041】
次に、図4及び図5に基づいて、前記操縦部について説明する。図4は、操縦部を示した要部平面図であり、図5(A)及び(B)は、モニタを示した図である。前記操縦部4は、オペレータが着座する座席10と、該座席10の前方側に配置されたフロントパネル86と、前後揺動操作されることによって走行機体2が変速操作される走行変速レバー84と、走行機体2の操向操作や刈取部3の昇降を操作できるマルチステアリングレバー85とを備え、前記フロントパネル86には、汎用コンバインの各種状況をオペレータに報知するための表示部である液晶モニタ(モニタ)87が設けられている。
【0042】
前記液晶モニタ87は、図5に示されるように、その中央に設けた傾斜した分割線の左側には、走行機体2の各種状態を報知する表示部が配置されるとともに、該分割線の右側には、前記刈取部3及び脱穀装置6の各種状態を報知する表示部が配置されている。具体的には、前記液晶モニタ87の左部には、走行速度を表示する速度メータ88と、エンジン36の回転数を表示するタコメータ89と、燃料の残量を表示する燃料計90とが配置されている。
【0043】
また、該液晶モニタ87の右上部には、揺動選別体26上の処理物の層厚を報知する選別負荷ゲージ91と、該揺動選別体26のチャフシーブの開度を報知するチャフシーブゲージと92、前記掻込リール14の回転速度を報知するリール回転ゲージ93と、刈取部3による刈取高さの下限値を示した刈取ゲージ94とが表示されている。
【0044】
また、該表示部の右下部には、扱胴23の回転速度(変速状態)を報知するロータ速度表示部95が設けられている。該ロータ速度表示部95は、前記変速装置73によって扱胴23が高速状態に切換えられている場合には、黒色を背景にして記載された「ロータ高速」という文字を表示し(図5(A)参照)、前記変速装置73によって扱胴23が低速状態に切換えられている場合には、黄色を背景にして記載された「ロータ低速」という文字を表示する(図5(B)参照)ことによって、扱胴23の変速状態をオペレータに報知することができる。
【0045】
ちなみに、前記ロータ速度表示部95は、前記制御部50の扱胴設定判定制御による変速装置73の変速状態の判定結果に基づいて上記の表示が切換えられる。以下、前記制御部50の具体的構成について説明する。
【0046】
次に、図6に基づき、制御部による扱胴設定判定制御について説明する。図6は、制御部の構成を示すブロック図である。制御部50の入力側には、前記エンジン36の回転数を検出するエンジン回転センサ96と、前記脱穀クラッチ54の入切の状態を検出する脱穀クラッチ検出手段97と、前記扱胴回転センサ98と、エンジンの始動を検出するスタータスイッチ99とが接続されている。
【0047】
一方で、制御部50の出力側には、前記液晶モニタ87と、ブザー音によって所定の状態であることをオペレータに報知するブザー(報知手段)100とが接続されている。また、該制御部50は、時間を計測するためのタイマー102と、所定の情報を一時的に記憶するための記憶部101とを有しており、該記憶部101は、例えば、各種情報を一時的に記憶し且つプログラム等の実行するための作業領域となるRAMメモリと、記録させた各種情報が電源をOFFしても消えないEEPROM等からなるROMメモリとから構成されている。
【0048】
前記制御部50は、前記扱胴回転センサ98によって検出された扱胴23の回転速度が、変速装置73によって設定された扱胴23の回転速度よりも遅くなっている状態、具体的には、扱室21内で脱穀物が詰ることによって、扱胴23が空回りする状態(滑り状態)であることを検出する滑り検出制御を実行することができる。
【0049】
また、前記制御部50は、前記扱胴回転センサ98の検出結果に基づいて、変速装置73の変速状態(変速設定)を判定するとともに、その判定結果を前記液晶モニタ87に表示することによって、変速装置73の変速状態を操縦部4側にいるオペレータに報知する扱胴設定判定制御を実行することができる。該扱胴設定判定制御の詳細については後述する。
【0050】
すなわち、前記扱胴回転センサ98が、扱胴23にトルクが掛かることによる扱胴23のすべりを検出する前記滑り制御と、扱胴23を変速する変速装置73の変速設定を判定する前記扱胴設定判定制御とに兼用されるため、各制御に別途にセンサを設けたものと比較して、コストを低く抑えることができる。
【0051】
図7は、制御部が実行する扱胴設定判定制御の処理フロー図である。前記制御部50は、扱胴設定判定制御が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、扱胴23の変速状態の判定を実行するか否かを判断する判定条件が成立している否か判定し、判定条件が成立している場合にはステップS2に進む。
【0052】
前記判定条件は、前記脱穀クラッチ検出手段97により、脱穀クラッチ54が接続状態であることが検出されるとともに、前記エンジン回転センサ96及びスタータスイッチ99によって、エンジン36の回転数が予め定めた回転数以上で駆動している状態であることが検出された場合には、判定条件が成立したものと判断する。
【0053】
ステップS2では、判定条件が成立してから予め定めた一定時間が経過したか否かが判定され、判定条件が成立してから一定時間が経過したことによって、扱胴23の回転が安定していることが確認できた場合には、ステップS3に進む。その一方で、ステップS2において、一定時間が経過していなかった場合には、ステップS2の直前に戻るため、扱胴23の回転駆動が安定するのを待った後に、ステップS3に進むように構成されている。
【0054】
すなわち、エンジン36が所定回転以上に達するとともに、該状態で所定時間が経過して扱胴23の駆動が安定していることを確認した後に、扱胴回転センサ96による変速装置73の変速状態の判定を行うため、扱胴23の変速状態を誤判定する事態を防止できる。
【0055】
ステップS3では、前記扱胴回転センサ98によって検出された扱胴回転軸22の回転数と、扱胴23が高速状態であるか低速状態であるかを判定するためのしきい値とを比較することにより、前記変速装置73の変速状態が「高速状態」であると判定された場合には、ステップS4に進む。
【0056】
具体的に説明すると、前記しきい値は、扱胴23が高速状態か低速状態の何れかの状態であることを判定するために予め定めた回転数であって、該しきい値よりも、扱胴回転センサ98により検出された回転数が高い場合には、変速装置73が「高速状態」に変速設定されていると判定され、該しきい値よりも、前記扱胴回転センサ98により検出された回転数が低い場合には、変速装置73が「低速状態」に変速設定されていると判定される。
【0057】
ステップS4では、前記記憶部101によって記憶された変速装置73の変速状態と、扱胴回転センサ98に基づいて判定された変速状態(具体的には「高速状態」)とを比較し、これが互いに相違する場合、言い換えると、記憶部101において、変速装置73が低速状態であることが記憶されている場合には、ステップS5に進む。
【0058】
ステップS5では、記憶部101で記憶された変速装置73の変速状態と、扱胴回転センサ98によって判定された変速装置73の変速状態とが異なる旨を、前記液晶モニタ87及び、前記ブザー100を用いてオペレータに報知し、ステップS6に進む。
【0059】
ステップS6では、予め設定された所定の書換条件が成立しているか否かが判断され、書換条件が成立している場合には、ステップS7に進む。ステップS7では、前記記憶部101に記憶されている変速装置73の変速状態を、「高速状態」に書換え、その後、ステップS8に進む。なお、ステップS6において、書換条件が不成立であった場合には、そのままステップS8に進む。
【0060】
該書換条件について具体的に説明すると、ステップS6では、前記タイマー102及び脱穀クラッチ検出手段97を用いて、脱穀クラッチ54が接続操作されてから経過時間が、予め設定された所定時間以上となっているか否かを判定し、脱穀クラッチ54の接続操作から所定時間が経過していたことが検出された場合には、書換条件が成立したと判断する。
【0061】
また、該書換条件は、前記タイマー102及びスタータスイッチ99を用いて、エンジン36が始動してからの経過時間が、予め設定された所定時間以上となっているか否かを判定し、エンジン36の始動から所定時間が経過していたことが検出された場合には、書換条件が成立したと判断する構成としても良い。該書換条件は、これらに限られず、扱胴23の駆動が安定した後であることが判断できれば、その他の条件であっても良い。
【0062】
ステップS8では、液晶モニタの前記ロータ速度表示部95に、現在記憶部101に記憶されている変速装置73の変速状態を表示し、その後、処理を戻す。
【0063】
ステップS4において、扱胴回転センサ98の検出結果に基づいて判定された変速状態と、前記記憶部によって記憶された変速装置73の変速状態とを比較し、これが互いに同一だった場合、言い換えると、記憶部101において、変速装置73が高速状態であることが記憶されている場合には、その後、ステップS8に進む。ステップS8では、液晶モニタの前記ロータ速度表示部95に、現在記憶部101に記憶されている変速装置73の変速状態を表示し、その後、処理を戻す。
【0064】
同様に、ステップS1において、前記判定条件が不成立となった場合には、ステップS8に進み、液晶モニタの前記ロータ速度表示部95に、記憶部101に記憶された変速装置73の変速状態を表示し、その後、処理を戻す。
【0065】
次に、ステップS3において、扱胴回転センサ98で検出された回転数が、前記しきい値よりも少ない場合には、前記変速装置73の変速状態が「低速状態」であると判定され、ステップS9に進む。
【0066】
ステップS9では、前記記憶部101によって記憶された変速装置73の変速状態と、扱胴回転センサ98に基づいて判定された変速状態(具体的には「低速状態」)とを比較し、前記記憶部101によって記憶された変速装置73の変速状態とを比較し、これが互いに相違する場合、言い換えると、記憶部101において、変速装置73が高速状態であることが記憶されている場合には、ステップS10に進む。
【0067】
ステップS10では、記憶部101で記憶された変速装置73の変速状態と、扱胴回転センサ98によって判定された変速装置73の変速状態とが異なる旨を、前記液晶モニタ及び前記ブザー100を用いてオペレータに報知し、ステップS11に進む。
【0068】
ステップS11では、予め設定された所定の書換条件が成立しているか否かが判断され、書換条件が成立している場合には、ステップS12に進む。ステップS12では、前記記憶部101に記憶する変速装置の変速状態を、「低速状態」に書換え、その後、ステップS8に進む。なお、ステップS11において、書換条件が不成立であった場合には、そのままステップS8に進む。
【0069】
以上より、扱胴設定判定制御によって、扱胴23(変速装置73)の変速状態を自動的に判定することができるとともに、その判定結果を座席10前方の液晶モニタ87に表示することができるため、オペレータは、操縦部4から降りることなく、変速装置73の変速状態を確認できるため、扱胴23の回転速度が誤設定された状態で作業する事態を効率的に防止できる。
【0070】
次に、図7に示した扱胴設定判定制御の別実施例について、上述と異なる点について説明する。ステップS1で判断される前記判定条件は、前記脱穀クラッチ検出手段97により、脱穀クラッチ54が接続状態であるか否かについてのみ検出し、エンジン36の回転数を考慮しない構成であっても良い。
【0071】
この場合、ステップS3で用いられる前記しきい値は、予め設定された固定値ではなく、前記エンジン回転センサ96で検出されたエンジンの回転数に応じて補正した値が設定される。
【0072】
該構成によれば、脱穀作業時にエンジン36が定格回転に制御されない構成であっても、扱胴設定判定制御によって、扱胴23(変速装置73)が何れの変速状態に切換えられているかについて判定することができる。
【符号の説明】
【0073】
6 脱穀装置
10 座席(運転席)
21 扱室
23 扱胴
50 制御部
73 変速装置
87 液晶モニタ(モニタ)
98 扱胴回転センサ(回転センサ)
101 記憶部
100 ブザー(報知手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7