特許第6647931号(P6647931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647931半導体ウェーハの温度制御装置、および半導体ウェーハの温度制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647931
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】半導体ウェーハの温度制御装置、および半導体ウェーハの温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20200203BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20200203BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20200203BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20200203BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   G05B13/02 J
   G05B11/36 K
   G05B13/04
   G05D23/19 G
   G05D23/19 J
   H01L21/302 101G
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-52462(P2016-52462)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-167813(P2017-167813A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】三村 和弘
【審査官】 藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−012228(JP,A)
【文献】 特開2001−085339(JP,A)
【文献】 特開2001−265408(JP,A)
【文献】 特開2005−033178(JP,A)
【文献】 特開2005−135186(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136160(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0098145(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
G05B 11/36
G05B 13/04
G05D 23/19
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の温度調整手段により半導体ウェーハの温度を調整するために、前記複数の温度調整手段の温度制御を行う半導体ウェーハの温度制御装置であって、
前記複数の温度調整手段のそれぞれに設定された複数の制御ループと、
それぞれの制御ループに設けられ、それぞれの温度調整手段で温度調整された半導体ウェーハの温度を検出する複数の温度検出手段と、
それぞれの温度検出手段で検出された温度に基づいて、それぞれの制御ループの温度調整手段に与える操作量を演算する操作量演算手段とを備え、
前記操作量演算手段は、
前記複数の制御ループのうち、最も応答速度の遅い制御ループの操作量を100%として、他の制御ループはこれに追従するように制御された応答から生成された規範モデルと、
前記規範モデルを用い、目標温度に最短時間で到達させるための操作量パターンを探索する最適操作量パターン探索手段と、
前記規範モデルに対して、前記最適操作量パターン探索手段で探索された最適操作量パターンの操作量を与える規範モデル出力生成手段と、
前記規範モデル出力生成手段によって得られた前記規範モデルの出力を、規範モデル出力として使用するモデル追従サーボ演算手段と、
規範モデルの出力開始後、規範モデル出力が予め設定された所定の時間、または所定の温度に達したら、前記規範モデル出力および前記目標温度の偏差をフィードバックし、前記偏差をゼロにするフィードバック制御に切り替える制御切替手段とを備えていることを特徴とする半導体ウェーハの温度制御装置。
【請求項2】
複数の温度調整手段により半導体ウェーハの温度を調整するために、前記複数の温度調整手段の温度制御を行う半導体ウェーハの温度制御方法であって、
前記複数の温度調整手段の温度制御を行う温度制御装置は、
前記複数の温度調整手段のそれぞれに設定された複数の制御ループと、
それぞれの制御ループに設けられ、それぞれの温度調整手段で温度調整された半導体ウェーハの温度を検出する複数の温度検出手段と、
それぞれの温度検出手段で検出された温度に基づいて、それぞれの制御ループの温度調整手段に与える操作量を演算する操作量演算手段とを備え、
前記操作量演算手段は、
前記複数の制御ループのうち、最も応答速度の遅い制御ループの操作量を100%として、他の制御ループはこれに追従するように制御された応答から生成された規範モデルを用い、目標温度に最短時間で到達させるための操作量パターンを探索する手順と、
前記規範モデルに対して、前記最適操作量パターン探索手段で探索された最適操作量パターンの操作量を与える手順と、
得られた前記規範モデルの出力を、規範モデル出力として使用するモデル追従サーボ演算を実行して制御対象への操作量を演算する手順と、
出力開始後、予め設定された所定の時間、または所定の温度に達したら、前記規範モデル出力および前記目標温度の偏差をフィードバックし前記偏差をゼロにするフィードバック制御に切り替える手順とを実施することを特徴とする半導体ウェーハの温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの温度制御装置、および半導体ウェーハの温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体に用いられるシリコン等のウェーハに処理を施す工程には、半導体ウェーハの温度を目標温度に制御するとともに、半導体ウェーハの面内の温度分布を所望の分布にしなければならない工程がある。
このため、処理装置は複数の温度調整手段を持ち、それぞれの温度調整手段に対して制御ループを設け、個別に温度制御することによって半導体ウェーハを望ましい温度に温度制御する方法が一般的であり、このような多入力多出力系の制御方法のひとつとして、モデル追従サーボ制御という方法が用いられている。
モデル追従サーボ制御では、一般に規範モデルとして望ましい動特性を持つモデル(例えば二次遅れ系)を選び、目標値応答は、そのモデルのステップ応答を参照軌道として制御量を追従させることとなる。
【0003】
ここで、プロセスのスループット向上のため、操作量を意図的に飽和させ、最大速度で出来るだけ早く目標値に到達させることが望ましい。
このため、特許文献1には、複数の制御ループのうち、最も応答速度の遅い制御ループの操作量を100%として、他の制御ループはこれに追従するように制御された応答から規範モデルを生成し、生成した規範モデルを用いて、目標温度に最短時間で到達させるための操作量パターンを所定の評価関数を用いて探索し、規範モデルに対して、探索された最適操作量パターンの操作量を与え、得られた出力を、規範モデル出力として使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−12228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では、評価関数が最小となる切り替え時間、すなわち、オーバーシュートが小さく、整定時間が短い切り替え時間を探索しており、得られた結果が必ずしも目標値に完全に一致するとは限らず、目標値に対して偏差を持つ可能性があるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、モデル追従サーボ制御において、規範モデル出力を目標値に完全に一致させることのできる半導体ウェーハの温度制御装置、および半導体ウェーハの温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体ウェーハの温度制御装置は、
複数の温度調整手段により半導体ウェーハの温度を調整するために、前記複数の温度調整手段の温度制御を行う半導体ウェーハの温度制御装置であって、
前記複数の温度調整手段に設定された複数の制御ループと、
それぞれの制御ループに設けられ、それぞれの温度調整手段で温度調整された半導体ウェーハの温度を検出する複数の温度検出手段と、
それぞれの温度検出手段で検出された温度に基づいて、それぞれの制御ループの温度調整手段に与える操作量を演算する操作量演算手段とを備え、
前記操作量演算手段は、
前記複数の制御ループのうち、最も応答速度の遅い制御ループの操作量を100%として、他の制御ループはこれに追従するように制御された応答から生成された規範モデルと、
前記規範モデルを用い、目標温度に最短時間で到達させるための操作量パターンをオンラインまたは事前にオフラインで探索する最適操作量パターン探索手段と、
前記規範モデルに対して、前記最適操作量パターン探索手段で探索された最適操作量パターンの操作量を与える規範モデル出力生成手段と、
前記規範モデル出力生成手段によって得られた前記規範モデルの出力を、規範モデル出力として使用するモデル追従サーボ演算手段と、
前記規範モデルの出力開始後、前記規範モデル出力が予め設定された所定の時間、または所定の温度に達したら、前記規範モデル出力および前記目標温度の偏差をフィードバックし、前記偏差をゼロにするフィードバック制御に切り替える制御切替手段を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の半導体ウェーハの温度制御方法は、
複数の温度調整手段により半導体ウェーハの温度を調整するために、前記複数の温度調整手段の温度制御を行う半導体ウェーハの温度制御方法であって、
前記複数の温度制御を行う温度制御装置は、
前記複数の温度調整手段のそれぞれに設定された複数の制御ループと、
それぞれの制御ループに設けられ、それぞれの温度調整手段で温度調整された半導体ウェーハの温度を検出する複数の温度検出手段と、
それぞれの温度検出手段で検出された温度に基づいて、それぞれの制御ループの温度調整手段に与える操作量を演算する操作量演算手段とを備え、
前記操作量演算手段は、
前記複数の制御ループのうち、最も応答速度の遅い制御ループの操作量を100%として、他の制御ループはこれに追従するように制御された応答から生成された規範モデルを用い、目標温度に最短時間で到達させるための操作量パターンをオンラインまたは事前にオフラインで探索する手順と、
前記規範モデルに対して、前記最適操作量パターン探索手段で探索された最適操作量パターンの操作量を与える手順と、
得られた前記規範モデルの出力を、規範モデル出力として使用するモデル追従サーボ演算を実行して制御対象への操作量を演算する手順と、
出力開始後、予め設定された所定の時間、または所定の温度に達したら、前記規範モデル出力および前記目標温度の偏差をフィードバックし、前記偏差をゼロにするフィードバック制御に切り替える手順とを実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、規範モデル出力を目標温度に完全に合致させることができるため、温度調整手段によって半導体ウェーハの温度が定常状態となった時、規範モデル出力に追従していた半導体ウェーハ温度は目標温度に完全に一致することができる。。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る温度調整装置を示すブロック図。
図2】前記実施形態における温度調整手段及び温度センサの配置を表す断面図及び平面図。
図3】前記実施形態における温度調整装置の制御を行うコントローラの構造を表すブロック図。
図4】前記実施形態における規範モデルを説明するためのグラフ。
図5】前記実施形態における規範モデルの生成を説明するための模式図。
図6】前記実施形態における規範モデル出力生成部の構造を表すブロック図。
図7】前記実施形態の作用を説明するためのフローチャート。
図8】前記実施形態の効果を確認するためのシミュレーションに用いた制御システムを表す模式図。
図9】前記実施形態の効果を確認するためのシミュレーションに用いた制御システムを表す平面図。
図10】先行技術によるシミュレーション結果を表すグラフ。
図11】前記実施形態によるシミュレーション結果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[1]温度調整装置1の構成
図1には、本発明の第1実施形態に係る温度調整装置1が示されている。温度調整装置1は、プレート状のステージ2上に載置されたシリコンウェーハWの温度を目標温度に制御し、シリコンウェーハWの面内の温度分布を制御するための装置である。この温度調整装置1は、たとえばドライプロセスに使用される。
温度調整装置1は、プレート状のステージ2であり、温度調整手段3を備えている。尚、温度調整手段3としては、加熱冷却制御を行う場合は、チラー装置や熱電素子を採用するのが好ましく、専ら加熱制御だけの場合は、加熱用ヒータを採用することができる。
【0012】
ステージ2は、真空チャンバー4内に配置され、ステージ2上には、半導体ウェーハとしてのシリコンウェーハWが載置される。シリコンウェーハWは、静電気によってステージ2上に保持される。尚、ステージ2とシリコンウェーハWとの間にヘリウムガスを流し、ステージ2とシリコンウェーハWとの間の熱伝達の効率を高めるようにしてもよい。
ドライプロセス時には、真空チャンバー4内は真空引きされ、所定の低圧状態に維持される。
ステージ2内には、図2(A)、(B)に示されるように、ステージ2上に載置されたシリコンウェーハWの面内温度分布を調整できるように、複数の温度調整手段3が配置されている。
【0013】
図2(A)は、ステージ2の断面図であり、ベースプレート7の上に温度調整手段3が配置され、さらにその上にプレート5が載置される。プレート5内には、複数の温度検出手段としての温度センサ6が複数設けられている。
図2(B)は、ステージ2の平面図であり、ステージ2は、同心円状に3つのゾーン2A(後述するゾーン1)、2B(後述するゾーン2)、2C(後述するゾーン3)に分割され、各領域に温度調整手段3が配置される。また、プレート5内の温度検出手段としての温度センサ6は、温度調整手段3に応じた位置に配置される。
【0014】
複数の温度調整手段3に通電すると、ステージ2の各ゾーン2A、2B、2Cを、複数の制御ループによって独立に加熱・冷却することができる。よって、各温度調整手段3への通電を調整し、温度調整手段3を制御することにより、ステージ2上のシリコンウェーハWの面内温度分布を調整することができ、ゾーン2A、2B、2C内のそれぞれの温度調整手段3は、温度制御装置としてのコントローラ24によって制御される。
【0015】
[2]コントローラ24の構成
図3には、本実施形態に係るコントローラ24のブロック図が示されている。コントローラ24は、操作量演算手段としての操作量演算部30を備える。この操作量演算部30は、規範モデル出力手段としての規範モデル出力生成部31、モデル追従サーボ演算手段としての偏差算出部32、積分器33、および偏差算出部34を備え、一般的なモデル追従制御を実施する。また、ステージ2の温度センサ6からの出力には、状態フィードバックゲインK1、規範モデル出力生成部31からの出力には、状態フィードフォワードゲインK2、及び積分器33に対するゲインK3が設定されている。尚、各ブロック図の各要素に対する入出力は、以下に示されるものである。
r:目標温度
yr:参照軌道
xr:規範モデルの状態量
error:偏差
u:操作量
y:制御量(温度)
xp:制御対象の状態量
なお、図3では制御対象の状態量xpは制御対象より直接観測可能としているが、観測できない場合は推定器等を用いた推定値をxpの代わりに用いてもよい。
【0016】
制御対象であるステージ2はm入力m出力系の多入力多出力であるとすると、制御対象の状態変数表現は、下記式(1)及び式(2)で表される。
【0017】
【数1】
【0018】
このとき、各ゲイン行列K1、K2、K3は、下記式(3)で表される。ここで、pは規範モデルの次数に依存する。
【0019】
【数2】
【0020】
規範モデルには、望ましい応答(動特性)を持った線形システム(状態方程式、伝達関数)が選ばれ、そのステップ応答に制御量を偏差なく追従させる。多入力多出力系の場合、規範モデルを全ループとも同じモデルを使用していれば、同じ参照軌道に追従しようとするのでループ間の均一性が期待できる。
各部のゲイン(K1,K2,K3)は最適制御の手法を用いて決定する。本手法を用いれば最適制御の長所(安定性の保証、ロバスト性)を持ち、かつ非干渉化を陽に考慮することなく取り入れることができ、本制御対象のような干渉のある多入力多出力系には好適である。
【0021】
本実施形態では、「目標温度にできるだけ早く到達する」という要求仕様に対して、以下のようにして、理想的な応答を求めている。
目標温度SVに最短時間で到達させるための操作量パターンは、図4に示すように、途中のポイントXまでは最大操作量で加速し、XからSVまでは最小操作量で減速させ、SV到達後はその位置を維持するために必要な操作量MVssに切り替える方法である。
【0022】
この操作量パターンをプラントモデルに入力すれば、プラントは最短時間で目標値に到達するはずである。そこで、従来のモデル追従制御では図5(A)のように望ましいステップ応答を示す伝達関数にステップ入力を与えるのみであったものを、図5(B)のように、プラントモデルそのものに、最短時間制御達成のための操作量パターンを入力してやることを考える。
多入力多出力系の場合、図5(B)の様な操作量パターンが制御ループの数だけ必要となり、しかも各制御ループの制御量が、干渉下で均一にならなければ追従するための参照軌道も均一にならない。このような操作量パターンをステップ状信号の組み合わせだけで作るのは非常に困難となるため次に示す方法をとることとした。
【0023】
(1)プラントモデルGp(s)あるいは実プラントを使用して、各制御ループの制御量の均一性を保ちながら実現できる最大速度の応答を決定する。3ゾーンのうち一番応答速度の遅いゾーンに100%の最大操作量MVmaxを与え、残りの2ゾーンはこの応答に追従する場合が均一性を保ちながら実現できる最大速度となる操作量を与える。
(2)(1)で得られた応答波形のうち一番遅い制御ループを選び、これをステップ入力による応答と仮定し、システム同定によって無駄時間+一次遅れ系の規範モデルGm(s)を得る。
(3)(2)で得た規範モデルGm(s)に対して、最適時間制御を実現する操作量パターンを逐次シミュレーションで決定する。ここでは最大操作量から定常時操作量に制御開始からt1秒後に切り替えるものとしてt1の最適値を探索する。
最適値の探索に用いる評価関数としては、例えば下記式(4)で表されるIAE(Integral of Absolute Error)評価規範を採用し、評価関数が最小になるような操作量パターンを探索する。
【0024】
【数3】
【0025】
(4)規範モデルとしてGm(s)をすべての入出力に使用することによって、全ての制
御ループの参照軌道が共通となるため、制御ループ間の制御量の均一性が期待できる。規範モデルをループの数だけ用意して個別に異なる目標値を与えることももちろん可能である。
【0026】
規範モデル出力生成手段としての規範モデル出力生成部31は、図6に示されるように、シミュレータ31Aと、上記手順で求めた規範モデル31Bと、制御切替手段としての制御切替部31Cとを備えている。この規範モデル31Bの入力は、従来法のように、目標温度の入力ではなく、制御対象2と同じ次元の操作量パターンである。
このため、目標温度SVから操作量パターンMVrefへ対応させる必要がある。
最適操作量パターン探索手段としてのシミュレータ31Aは、目標温度SVが入力された時点で、切り替え時間t1の逐次探索を実施し、最大操作量MVmaxから操作量MVssへの切り替えを行う操作量パターンMVrefを決定する。なお、本実施形態では、シミュレータ31Aを用いて、オンラインで逐次探索を実施して最適時間を求めているが、これに限らず、予めオフラインで制御対象等で目標温度SVと、その目標温度に最短で達する最適時間とを対応させた操作量パターンのテーブルを準備しておき、目標温度SVが入力されたら、このテーブルを参照して最適操作量パターンMVrefを選択するようにしてもよい。
【0027】
規範モデル31Bは、上述したようにプラントモデルGp(s)または実プラントを使用して、各制御ループの制御量を保ちながら、実現できる最大速度の応答を決定し、最も応答の遅いゾーンに100%の操作量を与え、例えば下記式(5)に示されるような無駄時間+一次遅れ系を用いて表現される。
【0028】
【数4】
【0029】
制御切替部31Cは、切替器およびPIDコントローラから構成され、規範モデル31Bから出力された規範モデル出力yrを取得し、規範モデル31Bの出力開始後、所定の温度Tswとなったら、規範モデル出力yrと目標温度SVの偏差を、操作量パターンMVrefにフィードバックして、規範モデル出力yrを目標温度SVに完全に一致させる。なお、本実施形態では、所定の温度Tswとなるか否かでフィードバック制御の切り替えを行っているが、これに限らず、切り替えのタイミングを所定の時間Tswで行ってもよい。
【0030】
[3]実施形態の作用
次に、本実施形態における半導体ウェーハの温度制御方法を、図7に示されるフローチャートに基づいて説明する。
コントローラ24の操作量演算部30は、装置の起動とともに初期化を行う(手順S1)。
操作量演算部30は、目標温度SVが変更されたか否かを判定し(手順S2)、目標温度SVが変更されていない場合、後述する手順S7による規範モデル出力yrを生成し、制御を継続する。
目標温度SVが変更された場合、制御切替部31Cは、PIDコントローラを初期化するとともに、タイマーをゼロリセットする(手順S3)。
【0031】
シミュレータ31Aは、規範モデル出力の現在値y0を取得し(手順S4)、y0、SVに基づいて、切り替え時間t1を探索する(手順S5)。
切り替え時間t1が探索されたら、シミュレータ31Aは、MVref=MVmaxとして、規範モデル31Bに入力する。
規範モデル31Bは、生成した規範モデルGm(s)に操作量パターンMVrefを乗じて、規範モデル出力を出力する(手順S7)。
【0032】
シミュレータ31Aは、タイマーを監視し、切り替え時間t1が経過したか否かを判定し(手順S8)、経過していないと判定されたら、規範モデル31BへのMVref=MVmaxの出力を継続する(手順S9)。
切り替え時間t1が経過したと判定された場合、制御切替部31Cは、規範モデル出力yrが所定の温度Tswに達しているか否かを判定する(手順S10)。
所定の温度Tswに達していないと判定された場合、MVref=MVssを設定する(手順S11)。
所定の温度Tswに達していると判定された場合、制御切替部31Cは、目標温度SVと規範モデル出力yrの偏差errorをPIDコントローラにフィードバックして、その出力をMVssに加算する(手順S12)。
このようにして設定された操作量を次のサンプリングタイムで出力する。
【0033】
[4]シミュレーションによる効果の確認
[4-1]シミュレーションにおける制御システムの構成
3入力3出力系の制御を、図8に示した制御システムをモデル化したシミュレーション結果を例に説明する。この制御システムは、図9に示されるように、400×150×t4のアルミプレートの温度を制御するシステムであり、アクチュエータとして加熱・冷却可能なサーモモジュールを、3個を使用している。アルミプレートの温度はモジュールの近くに配した3つのK熱電対によって測定する。サーモモジュール及び熱電対はプレート長手方向に対してわざと非対称になるように配置しており図9にその寸法詳細を示す。左からゾーン1、2、3とする。
【0034】
[4-2]特許文献1における問題点
前記特許文献における規範モデルを、下記式(6)の無駄時間+一次遅れ系とした場合の切り替え時間の同定方法について具体的に説明する。
【0035】
【数5】
【0036】
式(6)は無駄時間を一次のパディ近似に置き換えることにより、下記式(7)のように表される。
【0037】
【数6】
【0038】
式(7)をさらに離散時間系の状態方程式(サンプリング時間0.1秒)に変換すると、下記式(8)、式(9)のようになる。
【0039】
【数7】
【0040】
式(8)、式(9)において応答を考えると、加熱開始温度(y0とする)によって初期条件が変わるため、切り替え時間の探索には、加熱開始温度y0および目標温度SVの2入力が必要となる。ここで、加熱開始温度y0が定常になっているとすると、y0での初期条件x(0)、x(0)は下記式(10)で表される。
【0041】
【数8】
【0042】
ここで、A、Cは式(8)、式(9)における係数行列(式(11)参照)に相当する。
【0043】
【数9】
【0044】
式(8)〜式(10)を用いて想定される加熱(冷却)範囲で、切り替え時間t1の探索を実行する。これにより、入力がy0およびSV、出力が切り替え時間t1の二次元テーブルが得られる。表1にその一例を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
例えば、加熱開始温度y0が10℃、目標温度SVが30℃では、切り替え時間は153.9秒であるテーブルの入力は、5℃間隔であるため、間の温度は内挿して得るが、もちろん間隔を小さくしてもよい。
【0047】
前記特許文献1に記載の技術では、切り替え時間の前後で規範モデル31Bに最大操作量MVmaxおよび定常時の操作量MVssを入力し、前述した式(4)で表される評価関数が最小となる切り替え時間、すなわち、オーバーシュートが小さく整定時間が早い切り替え時間を探索しており、得られた結果が必ずしも一致するとは限らない。
このため、定常時の規範モデル出力yrは、目標温度SVに対してわずかながら偏差を持つ可能性がある。具体的なシミュレーション結果として、図10に示されるように、目標温度24℃に到達後、わずかにオーバーシュートして時刻t=250sでは、まだ目標温度に制定していない。このように規範モデル出力yrに偏差が残れば、当然それに追従する制御量も偏差を持つこととなる。
【0048】
これに対して、本実施形態によるシミュレーション結果では、図11に示されるように、SV−0.1℃から偏差をフィードバックしている。操作量は出力開始から、約125秒後、最大操作量MVmaxから定常操作量MVssに切り替わり、さらに23.9℃からフィードバック補償量が、MVssに加算されている。この結果、規範モデル出力yrが目標温度SVに偏差なく整定していることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
1…温度調整装置、2…制御対象、24…コントローラ、2A…ゾーン、2B…ゾーン、2C…ゾーン、3…温度調整手段、30…操作量演算部、31…規範モデル出力生成部、31A…シミュレータ、31B…規範モデル、31C…制御切替部、32…偏差算出部、33…積分器、34…偏差算出部、4…真空チャンバー、5…プレート、6…温度センサ、7…ベースプレート、error…偏差、K1…状態フィードバックゲイン、K2…状態フィードフォワードゲイン、K3…ゲイン、MVmax…最大操作量、MVref…最適操作量パターン、MVss…定常操作量、SV…目標温度、Tsw…温度、W…シリコンウェーハ、X…ポイント、xp…状態量、y0…加熱開始温度、yr…規範モデル出力。
図1
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図11