(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2NMOSトランジスタのオン抵抗は、前記第2PMOSトランジスタのオン抵抗の1.2倍〜2倍であることを特徴とする請求項5に記載のオーディオアンプ回路。
前記複数のトランジスタエリアの少なくとも一部は、前記ハイサイドトランジスタおよび前記ローサイドトランジスタと結合する寄生容量に電流が流れ込む期間において、順にターンオフすることを特徴とする請求項9または10に記載のオーディオアンプ回路。
【背景技術】
【0002】
微弱なオーディオ信号を増幅し、スピーカやヘッドホンなどの電気音響変換素子を駆動するために、オーディオアンプ回路が用いられる。
図1は、オーディオ出力装置100rの回路図である。オーディオ出力装置100rは、電気音響変換素子102に加えて、オーディオアンプIC(Integrated Circuit)200r、フィルタ104
P/N、スナバ回路106
P/Nを備え、電気音響変換素子102の正極/負極に対して対称に構成され、電気音響変換素子102は、オーディオアンプIC200rに対してBTL(Bridged Transless/Bridge-Tied Load)接続される。
【0003】
オーディオアンプIC200rは、OUTP端子、OUTN端子を備える。電気音響変換素子102の正極端子+とOUTP端子の間には、フィルタ104
Pが設けられ、電気音響変換素子102の負極端子−とOUTN端子の間には、フィルタ104
Nが設けられる。フィルタ104は、シリーズインダクタL1とシャントキャパシタC1を有する1次フィルタである。
【0004】
オーディオアンプIC200は、D級アンプ202
P/N、ドライバ204
P/N、パルス変調器206を備える。パルス変調器206は、アナログもしくはデジタルのオーディオ信号S1を受け、それをパルス変調して、パルス信号S2
P/Nを生成する。
【0005】
ドライバ204
Pは、パルス信号S2
Pに応じて、D級アンプ202
Pを駆動する。同様にドライバ204
Nは、パルス信号S2
Nに応じて、D級アンプ202
Nを駆動する。
【0006】
図2は、差動方式で動作する
図1のオーディオ出力装置100rの波形図である。本明細書における波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0007】
ここでは理解の容易のため、三角波とオーディオ信号S1の比較によってパルス信号S2
P、S2
Nが生成される場合を説明する。差動方式のD級アンプでは、パルス信号S2
P、S2
Nは逆相となる。その結果、OUTP端子の電圧Vo
+とOUTN端子の電圧Vo
−が差動信号となり、その最大振幅は、D級アンプ202
P/Nの電源電圧V
DDの2倍となる。
【0008】
差動方式のD級アンプにおいて、フィルタ104
P/Nは、差動信号Voのスイッチング周波数を除去して、もとのオーディオ信号S1を再生するためのローパスフィルタとして機能する。
【0009】
近年、
図2で説明した差動方式のD級アンプに代えて、フィルタレス方式が採用されている。
図3は、フィルタレス方式で動作するオーディオ出力装置100rの波形図である。フィルタレス動作では、オーディオ信号S1と三角波の比較によってパルス信号S2
Pが生成され、オーディオ信号S1の反転信号#S1と三角波の比較によってパルス信号S2
Nが生成される。このフィルタレス方式では電気音響変換素子102に印加される差動信号Voの振幅は、
図1の差動方式の1/2となるが、スイッチング周波数を除去するためのローパスフィルタが不要である。ただし、不要輻射(EMI:ElectroMagnetic Interference)を抑制するために、フィルタを外すことはできず、フィルタレス方式ではフィルタ104
P/Nは、EMI除去用フィルタとして機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1のオーディオ出力装置100rをフィルタレス方式で動作させると、OUTP,OUTNのデューティ比の差が大きな状態において、言い換えれば電気音響変換素子102の電流が大きな状態において、出力電圧Vo+、Vo−がオーバーシュートする。オーバーシュートを抑制するためには、OUTP端子、OUTN端子それぞれにスナバ回路106
P/Nを追加する必要があるが、回路の部品点数が増加するという問題がある。
【0012】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、スナバ回路とは別のアプローチによりオーバーシュートを抑制可能なオーディオ出力装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある態様は、BTL(Bridged Transless)接続される電気音響変換素子をフィルタレス方式で駆動するオーディオアンプ回路に関する。オーディオアンプ回路は、ハイサイドトランジスタおよびローサイドトランジスタを含むD級アンプと、ハイサイドトランジスタを駆動するハイサイドドライバと、ローサイドトランジスタを駆動するローサイドドライバと、を一対備える。ローサイドドライバによるローサイドトランジスタのターンオフ時間は、ハイサイドドライバによるハイサイドトランジスタのターンオフ時間より長い。
【0014】
この態様によると、ローサイドトランジスタのターンオフ時間を長くすることにより、オーバーシュートを抑制できる。
【0015】
ハイサイドトランジスタおよびローサイドトランジスタはそれぞれNMOSトランジスタであってもよい。ハイサイドドライバは、第1PMOSトランジスタおよび第1NMOSトランジスタを含んでもよい。ローサイドドライバは、第2PMOSトランジスタおよび第2NMOSトランジスタを含んでもよい。第2NMOSトランジスタのオン抵抗は、第1NMOSトランジスタのオン抵抗よりも高くてもよい。
この態様によると、オーバーシュートを抑制できる。また回路面積を大きくする必要がない。
【0016】
第2NMOSトランジスタのオン抵抗は、第1NMOSトランジスタのオン抵抗の1.2倍〜2倍であってもよい。
これにより、応答性を維持しつつ、オーバーシュートを抑制できる。また回路面積を大きくする必要がない。
【0017】
本発明の別の態様もまた、オーディオアンプ回路である。このオーディオアンプ回路は、ハイサイドトランジスタおよびローサイドトランジスタを含むD級アンプと、ハイサイドトランジスタを駆動するハイサイドドライバと、ローサイドトランジスタを駆動するローサイドドライバと、を一対備える。ローサイドドライバによるローサイドトランジスタのターンオフ時間は、ローサイドトランジスタのターンオン時間より長い。
【0018】
この態様によると、オーバーシュートを抑制できる。
【0019】
ローサイドドライバは、第2PMOSトランジスタおよび第2NMOSトランジスタを含んでもよい。第2NMOSトランジスタのオン抵抗は、第2PMOSトランジスタのオン抵抗よりも高くてもよい。
【0020】
第2NMOSトランジスタのオン抵抗は、第2PMOSトランジスタのオン抵抗の1.2倍〜2倍であってもよい。
【0021】
本発明のさらに別の態様も、オーディオアンプ回路に関する。オーディオアンプ回路は、ハイサイドトランジスタおよびローサイドトランジスタを含む一対のD級アンプを備える。ローサイドトランジスタは、制御端子が独立している複数のトランジスタエリアに分割されている。オーディオアンプ回路は、複数のトランジスタエリアが順にターンオフするよう構成される。
【0022】
オーディオアンプ回路は、各トランジスタエリアへのゲート信号のネガティブエッジを遅延させる遅延回路をさらに備えてもよい。複数のトランジスタエリアの少なくとも一部は、ハイサイドトランジスタおよびローサイドトランジスタと結合する寄生容量に電流が流れ込む期間において、順にターンオフしてもよい。
【0023】
オーディオアンプ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0024】
本発明の別の態様は、オーディオ出力装置に関する。オーディオ出力装置は、電気音響変換素子と、電気音響変換素子を駆動する上述のいずれかのオーディオアンプ回路と、を備え、オーディオアンプ回路と電気音響変換素子の間には、スナバ回路が接続されない。
この態様によれば、スナバ回路が不要となるため、コストおよび回路部品の実装面積を削減できる。
【0025】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、電気音響変換素子と、電気音響変換素子を駆動する上述のいずれかのオーディオアンプ回路と、を備え、オーディオアンプ回路と電気音響変換素子の間には、スナバ回路が接続されない。
【0026】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、D級方式のオーディオアンプ回路の出力のオーバーシュートを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0030】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0031】
図4は、実施の形態に係るオーディオ出力装置100の構成を示す回路図である。
オーディオ出力装置100は、電気音響変換素子102、フィルタ104
P/NおよびオーディオアンプIC200を備える。オーディオアンプIC200はひとつの半導体基板に集積化された機能ICであり、出力端子OUTP、OUTN、電源(VDD)端子、接地(GND)端子を備える。VDD端子には電源電圧V
DDが、GND端子には接地電圧V
GNDが供給される。
【0032】
電気音響変換素子102は、オーディオアンプIC200に対してBTL接続される。電気音響変換素子102の正極端子+にはフィルタ104
Pを介して、オーディオアンプIC200のOUTP端子の電圧V+が印加され、その負極端子−にはフィルタ104
Nを介して、オーディオアンプIC200のOUTN端子の電圧V−が印加される。
【0033】
フィルタ104
P/Nは、シャントキャパシタC1およびシリーズインダクタL1を含む1次ローパスフィルタであり、主として不要輻射の抑制のために設けられる。不要輻射が問題とならない用途においては、フィルタレス方式の名の通りフィルタ104
P/Nは省略しうる。フィルタ104
P/NそれぞれのシリーズインダクタL1は、共通のコアに巻装されるコモンモードチョークコイルであってもよい。
【0034】
オーディオアンプIC200は、OUTP端子とOUTN端子の間にBTL接続される電気音響変換素子102を、フィルタレス方式で駆動する。オーディオアンプIC200は、パルス変調器206およびD級アンプ202、ドライバ204、パルス変調器206、デッドタイム生成回路208、を備える。D級アンプ202、ドライバ204、デッドタイム生成回路208は、出力端子OUTP,OUTNごとに一対設けられる。OUTP側の回路には添え字Pを、OUTN側の回路には添え字Nを付する。P側とN側は同様に構成されるため、以下、添え字を省略して説明する。
【0035】
D級アンプ202は、電源ライン220と接地ライン222の間に直列に設けられたハイサイドトランジスタM1およびローサイドトランジスタM2を含む。本実施の形態においてハイサイドトランジスタM1、ローサイドトランジスタM2はいずれもNチャンネルのパワーMOSFETである。ハイサイドトランジスタM1のドレインは電源ライン220と接続され、そのソースは、対応する出力端子(OUTP/OUTN)と接続される。ローサイドトランジスタM2のドレインは、対応する出力端子(OUTP/OUTN)と接続され、そのソースは接地ライン222と接続される。
【0036】
ドライバ204は、対応するD級アンプ202を駆動する。ドライバ204は、ハイサイドトランジスタM1を駆動するハイサイドドライバ210と、ローサイドトランジスタM2を駆動するローサイドドライバ212を備える。
【0037】
パルス変調器206は、D級アンプ202
P/Nをフィルタレス方式で動作させるためのパルス信号S2
P/Nを生成する。パルス変調器206の構成は特に限定されず、公知の回路を用いればよい。
【0038】
基本動作として、ハイサイドドライバ210およびローサイドドライバ212は、対応するパルス信号S2に応じて、ハイサイドトランジスタM1、ローサイドトランジスタM2を相補的にオン、オフするが、ハイサイドトランジスタM1とローサイドトランジスタM2が同時にオンすると、貫通電流が流れて効率が低下する。そこでパルス変調器206とドライバ204の間に挿入されるデッドタイム生成回路208は、パルス信号S2にデッドタイムが挿入し、ハイサイド用のゲート駆動信号S3、ローサイド用のゲート駆動信号S4を生成する。
【0039】
ハイサイドドライバ210は、ゲート駆動信号S3に応じてハイサイドトランジスタM1をスイッチングし、ローサイドドライバ212は、ゲート駆動信号S4に応じてローサイドトランジスタM2をスイッチングする。なお、NチャンネルMOSFETのハイサイドトランジスタM1をターンオンするために、ハイサイドドライバ210の上側の電源端子はブートストラップライン224と接続される。ブートストラップライン224には、図示しないブートストラップ回路によって生成されるブートストラップ電圧V
BSTが供給される。ブートストラップ電圧V
BSTは、V
BST≒V
OUT+V
REGである。V
REGはオーディオアンプIC200において内部生成される、あるいは外部から供給される直流電圧であり、V
OUTはOUT端子の電圧である。
【0040】
続いて、オーバーシュートを抑制するための構成を説明する。本実施の形態において、ローサイドドライバ212によるローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2は、意図的に従来のそれより長く設計されている。
【0041】
図5(a)は、従来のオーディオ出力装置のハイサイドトランジスタM1、ローサイドトランジスタM2それぞれのターンオン、ターンオフを示す波形図であり、
図5(b)は、実施の形態に係るオーディオ出力装置におけるハイサイドトランジスタM1、ローサイドトランジスタM2それぞれのターンオン、ターンオフ動作を示す波形図である。P極側とN極側は同様に構成されるため、P極側の動作のみを示す。
【0042】
図5(a)に示すように従来技術においては、ハイサイドトランジスタM1のターンオン時間T
ON1、ターンオフ時間T
OFF1、ローサイドトランジスタM2のターンオン時間T
ON2、ターンオフ時間T
OFF2はすべて等しく設計されていた。
【0043】
これに対して、本実施の形態では、
図5(b)に示すようにローサイドドライバ212によるローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2は、ハイサイドドライバ210によるハイサイドトランジスタM1のターンオフ時間T
OFF1、ならびにローサイドドライバ212によるローサイドトランジスタM2のターンオン時間T
ON2より長くなるよう設計される。
【0044】
ハイサイドトランジスタM1のターンオン時間T
ON1は、ハイサイドトランジスタM1がオフの状態からフルオンするまでの時間であり、そのゲート電圧(ゲートソース間電圧)V
G1の登りのスルーレート(傾き)が高いほど、短くなる。ターンオン時間T
ON1は、ゲート電圧V
G1のライズタイムT
R1に対応する。
【0045】
ハイサイドトランジスタM1のターンオフ時間T
OFF1は、ハイサイドトランジスタM1がフルオンの状態からオフするまでの時間であり、そのゲート電圧V
G1の下りのスルーレート(傾き)が高いほど、短くなる。ターンオフ時間T
OFF1は、ゲート電圧V
G1のフォールタイムT
F1に対応する。
【0046】
ローサイドトランジスタM2のターンオン時間T
ON2は、ローサイドトランジスタM2がオフの状態からフルオンするまでの時間であり、そのゲート電圧(ゲートソース間電圧)V
G2の登りのスルーレート(傾き)が高いほど、短くなる。ターンオン時間T
ON2は、ゲート電圧V
G2のライズタイムT
R2に対応する。
【0047】
ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2は、ローサイドトランジスタM2がフルオンの状態からオフするまでの時間であり、そのゲート電圧V
G2の下りのスルーレート(傾き)が高いほど、短くなる。ターンオフ時間T
OFF2は、ゲート電圧V
G2のフォールタイムT
F2に対応する。
【0048】
まとめると、従来技術では以下の関係が成り立つ。
T
ON1=T
ON2=T
OFF1=T
OFF2
これに対して実施の形態では、以下の関係が成り立つ。
T
ON1=T
ON2=T
OFF1<T
OFF2
【0049】
以上がオーディオ出力装置100の構成である。続いてその動作を説明する。
はじめに、オーディオ出力装置100においてオーバーシュートが発生する理由を説明する。
【0050】
図6は、オーバーシュートが発生するときのOUTP端子、OUTN端子の波形図である。オーバーシュートは、OUTN端子がローレベルからハイレベルに遷移する時刻t1にOUTN端子に発生する。
【0051】
このオーバーシュートは、
図3の波形図において、オーディオ信号S1の絶対値が大きいとき、言い換えればOUTP側のパルス幅T
Pと、OUTN側のパルス幅T
Nの差が大きいときに特に顕著に発生する。OUTPとOUTNの関係が逆の場合には、OUTP端子側にオーバーシュートが発生する。
【0052】
図7(a)〜(c)は、オーバーシュートが発生するときのD級アンプの状態を示す図である。
図7(a)は、時刻t1の直前の状態を、
図7(b)、(c)は時刻t1の直後のデッドタイムの状態を示す。
図7(a)において、電気音響変換素子102に流れる負荷電流I
LOADは、ハイサイドトランジスタM1
P、電気音響変換素子102、ローサイドトランジスタM2
Nの経路で流れており、フィルタ104および電気音響変換素子102には、負荷電流I
LOADに応じたエネルギーが蓄えられている。
【0053】
図7(b)において、ローサイドトランジスタM2
Nが急峻にターンオフすると、OUTN端子がハイインピーダンスとなり、それまで電気音響変換素子102に流れていた負荷電流I
LOADは、OUTN端子に接続する寄生容量Cpに流れ込む。そして
図7(c)に示すように、負荷電流I
LOADが、ハイサイドトランジスタM1
P、電気音響変換素子102、ローサイドトランジスタM2
NのボディダイオードD1
Nの経路に流れ込む。このときに、オーバーシュートが発生する。
【0054】
ここで、実施の形態に係るオーディオ出力装置100においては、ローサイドトランジスタM2
Nのターンオフ時間T
OFF2が、従来よりも、言い換えれば、ターンオン時間T
ON1、T
ON2および他のターンオフ時間T
OFF1よりも長く構成される。
【0055】
したがって、
図7(a)から
図7(c)の状態への遷移時間が従来よりも長くなる。この遷移時間の間、負荷電流I
LOADは、チャネルの抵抗値が徐々に増大するローサイドトランジスタM2
Nに流れ、その電流量は時間とともに減少する。そして負荷電流I
LOADがある程度小さくなった状態で、ハイサイドトランジスタM1をターンオンすることによりオーバーシュートを抑制できる。
【0056】
以上がオーディオ出力装置100の動作である。このオーディオ出力装置100によれば、ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFFを長く設計することにより、オーバーシュートを抑制できる。
【0057】
またOUTP端子、OUTN端子に、スナバ回路を接続する必要が無いため、コストを削減できる。
【0058】
本発明は、
図2の回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を容易、明確化するために、より具体的な構成例を説明する。
【0059】
図8は、オーディオアンプIC200の構成例を示す回路図である。OUTP側とOUTN側は同様に構成されるため、ここではOUTP側の構成を説明する。
【0060】
ハイサイドドライバ210
Pは、レベルシフタ230、第1論理回路232、第1PMOSトランジスタ234、第1NMOSトランジスタ236を含む。
第1PMOSトランジスタ234は、ブートストラップ(BSP1P)端子とハイサイドトランジスタM1
Pのゲートの間に設けられ、第1NMOSトランジスタ236は、ハイサイドトランジスタM1
Pのゲートとソースの間に設けられる。
【0061】
レベルシフタ230は、デッドタイム生成回路208から出力されるゲート駆動信号S3
Pをレベルシフトする。第1論理回路232は、レベルシフトされたゲート駆動信号S3
P’にもとづいて、第1PMOSトランジスタ234、第1NMOSトランジスタ236それぞれのゲート信号を制御する。第1論理回路232は、第1PMOSトランジスタ234、第1NMOSトランジスタ236が同時にオンしないように構成され、具体的には一方のオンが指示されると、他方がオフした後にその一方をオンする。
【0062】
第1論理回路232のANDゲートは、ゲート駆動信号S3
P’と第1PMOSトランジスタ234のゲート信号を受け、第1NMOSトランジスタ236のゲートに出力する。ANDゲートにより、ゲート駆動信号S3
P’がハイレベルとなると、第1PMOSトランジスタ234のゲート信号がハイレベルとなった後に、言い換えれば第1PMOSトランジスタ234がターンオフした後に、第1NMOSトランジスタ236のゲート信号がハイレベルとなり、第1NMOSトランジスタ236がターンオンする。
【0063】
第1論理回路232のORゲートは、ゲート駆動信号S3
P’と第1NMOSトランジスタ236のゲート信号を受け、第1PMOSトランジスタ234のゲートに出力する。ORゲートにより、ゲート駆動信号S3
P’がローレベルとなると、第1NMOSトランジスタ236のゲート信号がローレベルとなった後に、言い換えれば第1NMOSトランジスタ236がターンオフした後に、第1PMOSトランジスタ234のゲート信号がローレベルとなり、第1PMOSトランジスタ234がターンオンする。
【0064】
リニアレギュレータ250は、安定化された直流電圧V
REGを生成する。直流電圧V
REGは、ダイオードD11を介してBSP1P端子と接続される。ダイオードD11およびキャパシタC11は、ブートストラップ回路を形成しており、BSP1P端子に、ブートストラップ電圧V
BSTP=(V
REG−Vf)+V
DDを発生させる。VfはダイオードD11の順方向電圧である。
【0065】
ローサイドドライバ212
Pは、第2論理回路238、第2PMOSトランジスタ240、第2NMOSトランジスタ242を含む。第2PMOSトランジスタ240のソースには、ダイオードD12を介して直流電圧V
REGが供給される。第2PMOSトランジスタ240のドレインはローサイドトランジスタM2
Pのゲートと接続される。第2NMOSトランジスタ242は、ローサイドトランジスタM2
Pのゲートと接地ラインの間に設けられる。
【0066】
第2論理回路238は、ゲート駆動信号S4
Pにもとづいて、第2PMOSトランジスタ240、第2NMOSトランジスタ242それぞれのゲート信号を制御する。具体的には第2論理回路238は、第2PMOSトランジスタ240、第2NMOSトランジスタ242が同時にオンしないように構成される。第2論理回路238の構成、動作は第1論理回路232と同様である。
【0067】
上述のように、実施の形態では、以下の関係が成り立つ。
T
ON1=T
ON2=T
OFF1<T
OFF2
このために、第2NMOSトランジスタ242のオン抵抗R
ON4は、第1NMOSトランジスタ236のオン抵抗R
ON2よりも高い。第2NMOSトランジスタ242のオン抵抗R
ON4は、第1NMOSトランジスタ236のオン抵抗R
ON2のK=1.2倍〜2倍程度とすることが好ましい。一例として1.4倍としてもよい。第2NMOSトランジスタ242のサイズ(ゲート幅W)は、第1NMOSトランジスタ236のサイズの1/K倍とされる。
【0068】
また第2NMOSトランジスタ242のオン抵抗R
ON4は、第2PMOSトランジスタ240のオン抵抗R
ON3よりも高い。第2NMOSトランジスタ242のオン抵抗R
ON4は、第2PMOSトランジスタ240のオン抵抗の1.2倍〜2倍程度とすることが好ましい。一例として1.4倍としてもよい。
【0069】
本実施の形態において、第1PMOSトランジスタ234、第1NMOSトランジスタ236、第2PMOSトランジスタ240、第2NMOSトランジスタ242それぞれのオン抵抗R
ON1〜R
ON4は、以下の関係を満たす。
R
ON1=R
ON2=R
ON3<R
ON4
【0070】
図9(a)は、OUTP端子、OUTN端子の電圧波形図であり、
図9(b)は、ローサイドトランジスタM2のゲート幅Wとスルーレートの関係を示すシミュレーション結果を示す図である。
【0071】
図9(a)のスロープAはOUTPの立ち上がり、スロープBはOUTNの立ち上がり、スロープCはOUTPの立ち下がり、スロープDはOUTNの立ち下がりを示す。
図9(b)には、ローサイドトランジスタM2のゲート幅Wと、各スロープのスルーレート(傾き)の関係が示される。
【0072】
W=1μmのときに、R
ON1=R
ON2=R
ON3=R
ON4となる。第2NMOSトランジスタ242のゲート幅Wを小さくすると、ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2が長くなり、OUTNの立ち上がりスロープBのスルーレートが小さくなる。OUTPの立ち下がりスロープDのスルーレートも同様である。一方、第2NMOSトランジスタ242のゲート幅Wは、スロープA,Cには影響を与えない。
【0073】
このオーディオアンプIC200によれば、ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2を、そのほかのターンオフ時間T
OFF1およびターンオン時間T
ON1,T
ON2よりも長くすることができ、オーバーシュートを抑制できる。
【0074】
ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間T
OFF2を長くするためには、第2NMOSトランジスタ242の素子サイズを小さくするほか、第2NMOSトランジスタ242と直列な抵抗成分を増加させる方法が考えられる。
図8において採用する前者では、回路面積が増大しないという利点もある。
【0075】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0076】
(第1変形例)
実施の形態では、以下の関係を満たすように設計したが、本発明はそれには限定されない。
T
ON1=T
ON2=T
OFF1<T
OFF2
ハイサイドトランジスタM1のターンオフ時間T
OFF1を長くしても、オーバーシュートの低減には寄与しないが、長くしたとしても、デメリットもない。したがって回路の対称性を考慮して、以下の式を満たすように設計してもよい。
T
ON1=T
ON2<T
OFF1=T
OFF2
この場合、
図8の回路図において、以下の関係を満たすように設計すればよい。
R
ON1=R
ON3<R
ON2=R
ON4
【0077】
(第2変形例)
ローサイドトランジスタM2のターンオフ時間を長くする方法は、第2NMOSトランジスタ242のサイズを小さくすることには限定されない。たとえば第2NMOSトランジスタ242のソースあるいはドレインと結線される配線の配線長を長くしたり、配線幅を細くしてもよいし、ボンディングワイヤの本数を減らしたり、長くしてもよい。つまり第2NMOSトランジスタ242と直列な抵抗成分を大きくすればよい。
【0078】
(第3変形例)
実施の形態では、電源ライン220側のハイサイドトランジスタM1をNチャンネルMOSFETで構成したが、PチャンネルMOSFETであってもよい。この場合、ブートストラップ回路が不要となる。
【0079】
(第4変形例)
図10は、第4変形例に係るオーディオ出力装置100aの回路図である。この変形例において、ローサイドトランジスタM2
Pは、制御端子(ゲート)が独立した複数(M個)のトランジスタエリアTA
1〜TA
Mに分割して構成されている。そして、ローサイドトランジスタM2
Pをターンオフする際には、複数のトランジスタエリアTA
1〜TA
Mが時間差をもって順にターンオフしていく。ローサイドトランジスタM2
Pをターンオンする際には、トランジスタエリアTA
1〜TA
Mは同時にオンすることが好ましい。
【0080】
オーディオ出力装置100aは、複数のトランジスタエリアTA
1〜TA
Mのゲート信号V
G21〜V
G2Nに、個別の遅延を与える遅延回路260を備える。遅延回路260は、ゲート信号V
G21〜V
G2Nのポジティブエッジは遅延させず、それらのネガティブエッジのみを遅延させる。
【0081】
遅延回路260の構成は特に限定されない。たとえば遅延回路260は直列に接続された複数の遅延素子262を含み、各遅延素子262の出力に対応するタップから、複数のゲート信号V
G21〜V
G2Nが取り出される構成となっている。各遅延素子262の遅延量は、
図7(b)に示す寄生容量Cpへの充電フェーズにおいて、複数のトランジスタエリアTAが順にオフするように定めることが望ましい。遅延回路260は、ローサイドドライバ212
Pと一体に構成してもよい。
【0082】
ローサイドトランジスタM2
Nについても同様である。
【0083】
図11は、
図10のオーディオ出力装置100aの動作波形図である。比較のために、
図11には、
図4のオーディオ出力装置100の動作波形図が一点鎖線で示される。期間ta、tb、tcはそれぞれ、
図7(a)、(b)、(c)の期間に対応する。
図10のオーディオ出力装置100aでは、期間tbにおいて、ローサイドトランジスタM2を急激にオフさせずに、トランジスタエリアTAごとに順次ターンオフさせていく。これにより寄生容量Cpへ流れ込む電流を減らすことができる。また寄生容量Cpがチャージされた後に、ハイサイドトランジスタM1のボディダイオードD1に流れる電流を減らすことができ、オーバーシュート量をさらに小さくすることができる。
【0084】
また
図4のオーディオ出力装置100では、ローサイドトランジスタM2のゲート信号の傾き(スルーレート)を、ハイサイドトランジスタM1とローサイドトランジスタM2の同時オンによる貫通電流が流れないように、注意深く設計する必要があった。これに対して、ローサイドトランジスタM2を分割構成した場合、もし貫通電流が流れる状態となっても、貫通電流はローサイドトランジスタM2全体に流れるのではなく、ある一部のトランジスタエリアTAに流れることとなる。つまり貫通電流経路のインピーダンスが高くなるため、貫通電流の量を小さくできる。これは、タイミングのケアを簡単にできるという利点を提供する。
【0085】
(用途)
最後に、オーディオ出力装置100のアプリケーションを説明する。
図12(a)〜(c)は、電子機器1の外観図である。
図12(a)は電子機器1の一例であるディスプレイ装置600である。ディスプレイ装置600は、筐体602、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置100は筐体に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0086】
図12(b)は電子機器1の一例であるオーディオコンポ700である。オーディオコンポ700は、筐体702、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置100は筐体702に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0087】
図12(c)は電子機器1の一例である小型情報端末800である。小型情報端末800は、携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System)、PDA(Personal Digital Assistant)、タブレットPC(Personal Computer)、オーディオプレイヤなどである。小型情報端末800は、筐体802、スピーカ2、ディスプレイ804を備える。オーディオ出力装置100は筐体802に内蔵され、スピーカ2を駆動する。