特許第6647961号(P6647961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647961
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】電子顕微鏡および電子顕微鏡の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/12 20060101AFI20200203BHJP
   H01J 37/05 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01J37/12
   H01J37/05
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-95193(P2016-95193)
(22)【出願日】2016年5月11日
(65)【公開番号】特開2017-204375(P2017-204375A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】向井 雅貴
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−081743(JP,A)
【文献】 特開2016−009684(JP,A)
【文献】 特開2009−205904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子源と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記加速管に加速電圧を供給する加速用電源部と、
前記第1電極に電圧を供給する第1電極用電源部と、
前記第1電極用電源部を制御する制御部と、
を含み、
前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線はクロスオーバーを形成し、
前記制御部は、前記加速電圧が変更された場合に、前記第1電極に印加される電圧と前記初段の加速電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記加速電圧の変化に応じて、前記第1電極に印加される電圧を変化させる、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記電子線を単色化するためのモノクロメーターと、
前記モノクロメーターの入口側に配置され、前記モノクロメーターとの間でレンズ作用を生じさせる入射側電極と、
前記モノクロメーターの出口側に配置され、前記モノクロメーターとの間でレンズ作用を生じさせる出射側電極と、
を含む、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記出射側電極と前記第1電極との間に配置され、前記電子線を偏向する偏向器を含む、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3において、
前記偏向器は、前記モノクロメーターと前記出射側電極との間に生じるレンズ作用によって形成される前記電子線のクロスオーバーの位置に配置されている、電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1において、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
を含む、電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5において、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
を含み、
前記制御部は、さらに、前記第2電極用電源部を制御し
前記制御部は、前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御する、電子顕微鏡。
【請求項7】
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記引出電極と前記第1電極との間に配置され、前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
前記第2電極用電源部を制御する制御部と、
を含み、
前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線はクロスオーバーを形成し、
前記制御部は、前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御する、電子顕微鏡。
【請求項8】
電子線を放出する電子源と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記加速管に加速電圧を供給する加速用電源部と、
前記第1電極に電圧を供給する第1電極用電源部と、
を含み、前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線がクロスオーバーを形成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記加速電圧が変更された場合に、前記第1電極に印加される電圧と前記初段の加速電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記加速電圧の変化に応じて、前記第1電極に印加される電圧を変化させる、電子顕微鏡の制御方法。
【請求項9】
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記引出電極と前記第1電極との間に配置され、前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
を含み、前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線がクロスオーバーを形成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御する、電子顕微鏡の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡および電子顕微鏡の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクロメーター(monochromator)は、一般的に、電子線の分光部であるエネルギーフィルターと、エネルギー選択スリットと、で構成されている。モノクロメーターに入射した電子線は、エネルギーフィルターによる分光によって、エネルギー分散面に置かれたエネルギー選択スリット面上で電子線のエネルギー分布に対応するスペクトルとなる。このスペクトルに対してエネルギー選択スリットを用いることで、エネルギー選択スリットのスリット幅に相当する特定のエネルギー幅の電子線のみがスリットを通過し、電子線が単色化される。このようなモノクロメーターは、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−039119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7は、参考例に係る電子銃1Aを模式的に示す図である。図7に示すように、電子銃1Aは、モノクロメーター4を内蔵した電子銃である。
【0005】
まず、電子銃1Aの構成について説明する。
【0006】
電子銃1Aは、図7に示すように、電子源1と、引出電極2と、モノクロメーター4と、モノクロメーター4の入口に配置されている入射側電極3と、モノクロメーター4の出口に配置されている出射側電極5と、複数段に積み重ねられている加速電極6a〜6fを有する加速管6と、を含んで構成されている。
【0007】
電子源1は、陰極(フィラメント)を備えており、当該陰極はフィラメント電源11に接続されている。
【0008】
モノクロメーター4に内蔵されているエネルギーフィルターは、複数の電極および複数の磁極コイルで構成されており、複数の電極は、電極用電圧制御電源14cに接続され、複数の磁極コイルは、磁極コイル用電流制御電源14bに接続されている。
【0009】
引出電極2、入射側電極3、モノクロメーター4(モノクロメーター4の筐体)、および出射側電極5は、それぞれ引出電極用電源12、入射側電極用電源13、モノクロメーター用電源14a、出射側電極用電源15に接続されている。また、加速管6は、加速用電源10に接続されている。
【0010】
次に、電子銃1Aの動作について説明する。
【0011】
引出電極2で電子源1から引き出された電子線は、入射側電極3とモノクロメーター4の間に発生する静電レンズEL1により平行な軌道になり、モノクロメーター4に入射する。モノクロメーター4に入射した電子線は、モノクロメーター4によって単色化される。単色化された電子線は、モノクロメーター4の出口で再び平行となり、モノクロメータ
ー4と出射側電極5との間に発生する静電レンズEL2および出射側電極5と加速管6の最上段の加速電極6aとの間に発生する静電レンズEL3により、それぞれ出射側電極5の位置と、加速管6の出口の位置と、でクロスオーバーを形成する。
【0012】
電子銃1Aでは、モノクロメーター4の光軸上の電位分布が常に一定に保たれ、かつ、エネルギーフィルターの電子光学的な設定も一定に保たれていることから、エネルギーフィルターの分解能は一定に保たれている。当然のことながら、電子源1近傍の光軸上の電位分布も常に一定に保たれている。そのため、電子源1からモノクロメーター4までの光軸上の電位分布は、常に、一定に保たれている。よって、電子銃1Aでは、加速電圧が一定である限りは、すべての静電レンズEL1,EL2,EL3の強度は一定に保たれ、常に同じ光学系に設定される。
【0013】
近年の電子顕微鏡の球面収差補正技術の発展により、100kV以下のような低い加速電圧の電子顕微鏡でもその空間分解能は原子スケールに到達した。モノクロメーターを搭載した低加速収差補正電子顕微鏡では、モノクロメーターによる小さい色収差がもたらす透過電子顕微鏡像の高空間分解能化や、低加速電圧がもたらす試料の非弾性散乱断面積の増大による電子エネルギー損失分光における分析精度の向上が期待される。そのため、モノクロメーターが内蔵された電子銃には、従来の汎用加速電圧である200kVに加えて、100kV以下の加速電圧への適用が求められている。
【0014】
ここで、図7に示す電子銃1Aを低加速電圧で使用した場合、加速管6の最上段の加速電極6aの印加電圧が低下することから、出射側電極5と加速電極6aとの間に発生する静電レンズEL3の強度が下がり(レンズ作用が弱くなり)、クロスオーバーCOの位置が変化してしまう。その結果、電子顕微鏡における像観察に必要な電子線の輝度を得ることができなくなる場合がある。
【0015】
また、モノクロメーターが搭載されていない電子銃では、電子線を引き出すための引出電圧を変化させた場合に、クロスオーバーの位置が変化して、像観察に必要な電子線の輝度を得ることができなくなる場合がある。
【0016】
図8は、参考例に係る電子銃1Bの一例を模式的に示す図である。図8に示すように、電子銃1Bは、モノクロメーターを内蔵していない。
【0017】
電子銃1Bは、図8に示すように、電子源1と、引出電極2と、加速管6の入口側に配置されている電極7と、加速管6と、を含んで構成されている。電極7は、電源17に接続されている。
【0018】
引出電極2によって電子源1から引き出された電子線は、引出電極2と電極7の間に発生する静電レンズEL4により電子線の軌道が調整され、電極7と加速管6の間に発生する静電レンズEL5により加速管6の出口の位置にクロスオーバーCOを形成する。
【0019】
ここで、電子銃1Bでは、電子源1から放出される電子線の量を調整するために、引出電極2に印加される引出電圧が変更される。電子銃1Bでは、引出電圧が変更された場合、静電レンズEL4のレンズ作用が一定となるように(すなわち、電子線の軌道が変化しないように)、電極7に印加される電圧を引出電圧に応じて変更しなければならない。
【0020】
しかしながら、電極7に印加される電圧を変更すると、静電レンズEL5の強度が変わるため、クロスオーバーCOの位置が変化してしまう。その結果、電子顕微鏡における像観察に必要な電子線の輝度を得ることができなくなる場合がある。
【0021】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、クロスオーバー位置を一定に保つことができる電子顕微鏡および電子顕微鏡の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、
電子線を放出する電子源と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記加速管に加速電圧を供給する加速用電源部と、
前記第1電極に電圧を供給する第1電極用電源部と、
前記第1電極用電源部を制御する制御部と、
を含み、
前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線はクロスオーバーを形成し、
前記制御部は、前記加速電圧が変更された場合に、前記第1電極に印加される電圧と前記初段の加速電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記加速電圧の変化に応じて、前記第1電極に印加される電圧を変化させる
【0023】
このような電子顕微鏡では、制御部が、加速電圧が変更された場合に、第1電極に印加される電圧と初段の加速電極に印加される電圧との比が一定になるように、第1電極用電源部を制御するため、加速電圧が変更された場合であっても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用を一定にできる。したがって、このような電子顕微鏡では、加速電圧が変更された場合であっても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーの位置を一定に保つことができる。
【0024】
(2)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記電子線を単色化するためのモノクロメーターと、
前記モノクロメーターの入口側に配置され、前記モノクロメーターとの間でレンズ作用を生じさせる入射側電極と、
前記モノクロメーターの出口側に配置され、前記モノクロメーターとの間でレンズ作用を生じさせる出射側電極と、
を含んでいてもよい。
【0025】
このような電子顕微鏡では、モノクロメーターを含むため、高エネルギー分解能での電子エネルギー損失分光法や、高空間分解能での透過電子顕微鏡像観察等が可能である。
【0026】
(3)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記出射側電極と前記第1電極との間に配置され、前記電子線を偏向する偏向器を含んでいてもよい。
【0027】
このような電子顕微鏡では、出射側電極と第1電極との間に配置されている偏向器を含むため、第1電極に印加される電圧を変化させた際に生じる電子線の軸ずれを補正することができる。したがって、このような電子顕微鏡では、電子線の軸ずれに起因する収差を低減することができる。
【0028】
(4)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記偏向器は、前記モノクロメーターと前記出射側電極との間に生じるレンズ作用によ
って形成される前記電子線のクロスオーバーの位置に配置されていてもよい。
【0029】
このような電子顕微鏡では、偏向器がモノクロメーターと出射側電極との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーの位置に配置されているため、光学系に対する電子線の入射角度のみを調整することができる。
【0030】
(5)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
を含んでいてもよい。
【0031】
(6)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
を含み、
前記制御部は、さらに、前記第2電極用電源部を制御し
前記制御部は、前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御してもよい。
【0032】
このような電子顕微鏡では、制御部が、引出電圧が変更された場合に、引出電極に印加される電圧と第2電極に印加される電圧との比が一定になるように、第2電極用電源部を制御するため、引出電圧が変更された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用を一定にできる。したがって、このような電子顕微鏡では、引出電圧が変更された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用による電子線の軌道は変わらない。
【0033】
(7)本発明に係る電子顕微鏡は、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記引出電極と前記第1電極との間に配置され、前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
前記第2電極用電源部を制御する制御部と、
を含み、
前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線はクロスオーバーを形成し、
前記制御部は、前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御する。
【0034】
このような電子顕微鏡では、制御部が、引出電圧が変更された場合に、引出電極に印加される電圧と第2電極に印加される電圧との比が一定になるように、第2電極用電源部を制御するため、引出電圧が変更された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用を一定にできる。したがって、このような電子顕微鏡では、引出電圧が変更
された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用による電子線の軌道は変わらない。
【0035】
さらに、このような電子顕微鏡では、第1電極を有しているため、引出電圧が変更されても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用は影響を受けない。したがって、このような電子顕微鏡では、引出電圧が変更されても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーの位置を一定に保つことができる。
【0036】
(8)本発明に係る電子顕微鏡の制御方法は、
電子線を放出する電子源と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記加速管に加速電圧を供給する加速用電源部と、
前記第1電極に電圧を供給する第1電極用電源部と、
を含み、前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線がクロスオーバーを形成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記加速電圧が変更された場合に、前記第1電極に印加される電圧と前記初段の加速電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記加速電圧の変化に応じて、前記第1電極に印加される電圧を変化させる
【0037】
このような電子顕微鏡の制御方法では、加速電圧が変更された場合に、第1電極に印加される電圧と初段の加速電極に印加される電圧との比が一定になるように、第1電極用電源部を制御するため、加速電圧が変更された場合であっても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用を一定にできる。したがって、加速電圧が変更された場合であっても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーの位置を一定に保つことができる。
【0038】
(9)本発明に係る電子顕微鏡の制御方法は、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から前記電子線を引き出すための引出電極と、
複数段に積み重ねられている加速電極を備え、前記電子線を加速させるための加速管と、
前記加速管の前段に配置され、複数段に積み重ねられている前記加速電極のうちの初段の加速電極との間でレンズ作用を生じさせる第1電極と、
前記引出電極と前記第1電極との間に配置され、前記引出電極との間でレンズ作用を生じさせる第2電極と、
前記引出電極に引出電圧を供給する引出電極用電源部と、
前記第2電極に電圧を供給する第2電極用電源部と、
を含み、前記第1電極と前記初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって、前記電子線がクロスオーバーを形成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記引出電圧が変更された場合に、前記引出電極に印加される電圧と前記第2電極に印加される電圧との比が一定となるように、前記第2電極用電源部を制御する。
【0039】
このような電子顕微鏡の制御方法では、引出電圧が変更された場合に、引出電極に印加される電圧と第2電極に印加される電圧との比が一定になるように、第2電極用電源部を制御するため、引出電圧が変更された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用を一定にできる。したがって、引出電圧が変更された場合であっても、引出電極と第2電極との間に生じるレンズ作用による電子線の軌道は変わらない。
【0040】
さらに、このような電子顕微鏡の制御方法では、電子顕微鏡が第1電極を有しているため、引出電圧が変更されても(すなわち、引出電極に印加される電圧や第2電極に印加される電圧が変更されても)、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用は影響を受けない。したがって、このような電子顕微鏡では、引出電圧が変更されても、第1電極と初段の加速電極との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーの位置を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡を模式的に示す図。
図2】第1実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃を模式的に示す図。
図3】参考例に係る電子銃を模式的に示す図。
図4】第1変形例に係る電子顕微鏡の電子銃を模式的に示す図。
図5】第2変形例に係る電子顕微鏡の電子銃を模式的に示す図。
図6】第2実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃を模式的に示す図。
図7】参考例に係る電子銃の一例を模式的に示す図。
図8】参考例に係る電子銃の一例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0043】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡の構成
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100を模式的に示す図である。
【0044】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子銃101と、集束レンズ102と、試料ステージ103と、試料ホルダー104と、対物レンズ105と、中間レンズ106と、投影レンズ107と、撮像装置108と、電源部109aと、制御部109bと、を含んで構成されている。
【0045】
電子銃101は、電子線を放出する。電子銃101には、モノクロメーターが内蔵されている。電子銃101の詳細については後述する。
【0046】
集束レンズ102は、電子銃101から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。
【0047】
試料ステージ103は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ103は、試料ホルダー104を介して、試料Sを保持している。試料ステージ103によって、試料Sの位置決めを行うことができる。
【0048】
対物レンズ105は、試料Sを透過した電子線で透過電子顕微鏡像(以下「TEM像」ともいう)を結像するための初段のレンズである。中間レンズ106および投影レンズ107は、対物レンズ105によって結像された像をさらに拡大し、撮像装置108に結像する。対物レンズ105、中間レンズ106、および投影レンズ107は、電子顕微鏡100の結像系を構成している。
【0049】
撮像装置108は、結像系によって結像されたTEM像を撮影する。撮像装置108は
、例えば、CCDカメラ等のデジタルカメラである。
【0050】
電源部109aは、電子銃101に電圧および電流を供給する電源である。なお、電源部109aの詳細については後述する。
【0051】
制御部109bは、電源部109aを制御する。制御部109bの機能は、専用回路によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access
Memory)等の記憶装置に記憶された制御プログラムを実行することによって実現してもよい。制御部109bの詳細については後述する。
【0052】
図2は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の電子銃101を模式的に示す図である。
【0053】
電子銃101は、図2に示すように、電子源110と、引出電極120と、モノクロメーター140の入口側に配置されている入射側電極130と、モノクロメーター140と、モノクロメーター140の出口側に配置されている出射側電極150と、加速管170の前段(電子線の流れの上流側)に配置されている入口電極160(第1電極)と、加速管170と、を含んで構成されている。
【0054】
電子源110は、電子線を放出する。電子源110は、陰極(フィラメント)を備えており、当該陰極はフィラメント電源114に接続されている。
【0055】
引出電極120は、電子源110から電子線を引き出すための電極である。引出電極120は、引出電極用電源122に接続されている。引出電極120には、電子源110(陰極)に対して、数kV程度の引出電圧が印加される。
【0056】
入射側電極130は、引出電極120の後段(電子線の流れの下流側)に配置されている。入射側電極130は、モノクロメーター140との間でレンズ作用を生じさせる。図2に示す例では、入射側電極130とモノクロメーター140とは、静電レンズEL10を発生させる。入射側電極130は、入射側電極用電源132に接続されている。
【0057】
静電レンズEL10は、電子源110から放出された電子線の軌道を調整する。静電レンズEL10は、例えば電子線を平行化して、モノクロメーター140に入射させる。
【0058】
モノクロメーター140は、電子線を単色化する。モノクロメーター140は、電子線の分光部であるエネルギーフィルターと、エネルギー選択スリットと、エネルギーフィルターおよびエネルギー選択スリットを収容する筐体141と、を含んで構成されている。
【0059】
エネルギーフィルターは、複数の電極および複数の磁極コイルで構成されており、これらの電極および磁極コイルが発生させる電磁場によって電子線が分光される。エネルギー選択スリットは、スリット幅に相当する特定のエネルギー幅の電子線を取り出す。筐体141は、エネルギーフィルターおよびエネルギー選択スリットを通過する電子線の電位を安定させる。これにより、エネルギーフィルターの動作を安定させることができる。
【0060】
エネルギーフィルターの複数の電極は、エネルギーフィルター電極用電源142cに接続され、エネルギーフィルターの複数の磁極コイルは、エネルギーフィルターコイル用電源142bに接続されている。また、モノクロメーター140の筐体141は、モノクロメーター用電源142aに接続されている。
【0061】
出射側電極150は、モノクロメーター140の後段に配置されている。出射側電極150は、モノクロメーター140との間でレンズ作用を生じさせる。図2に示す例では、出射側電極150とモノクロメーター140とは、静電レンズEL20を発生させる。静電レンズEL20は、電子線を集束して、出射側電極150と入口電極160との間に、クロスオーバーCO1を形成する。出射側電極150は、出射側電極用電源152に接続されている。
【0062】
入口電極160は、出射側電極150の後段に配置されている。入口電極160は、加速管170の最上段の加速電極170aとの間でレンズ作用を生じさせる。図2に示す例では、入口電極160と最上段の加速電極170aとは、静電レンズEL30を発生させる。静電レンズEL30は、電子線を集束して、加速管170の出口にクロスオーバーCO2を形成する。入口電極160は、入口電極用電源162(第1電極用電源部)に接続されている。
【0063】
加速管170は、入口電極160の後段に配置されている。加速管170は、複数段(図示の例では6段)に積み重ねられている加速電極170a〜170fを有している。加速管170には、加速用電源112に接続されている。加速用電源112から印加された加速電圧は、分圧回路171によって分圧されて、各加速電極170a〜170fに印加される。複数段に積み重ねられた加速電極170a〜170fによって、電子線を、所望の電圧まで、順次、加速することができる。
【0064】
複数段に積み重ねられた加速電極170a〜170fのうちの最上段の加速電極170a(初段の加速電極)は、上述したように、入口電極160との間で、レンズ作用(静電レンズEL30)を生じさせる。
【0065】
電源部109aは、加速用電源112と、フィラメント電源114と、引出電極用電源122と、入射側電極用電源132と、モノクロメーター用電源142aと、エネルギーフィルターコイル用電源142bと、エネルギーフィルター電極用電源142cと、出射側電極用電源152と、および入口電極用電源162と、を含んで構成されている。
【0066】
加速用電源112は、電子源110で発生した電子線を加速するための加速電圧を供給する。加速電圧は、電子源110(陰極)と加速管170との間に印加される。
【0067】
フィラメント電源114は、電子源110(陰極)にフィラメント電流を供給する。
【0068】
引出電極用電源122は、引出電極120に引出電圧を供給する。引出電圧は、電子源110から電子線を引き出すために引出電極120に印加される電圧である。
【0069】
入射側電極用電源132は、入射側電極130に電圧を供給する。
【0070】
モノクロメーター用電源142aは、モノクロメーター140の筐体141に、筐体電圧を供給する。筐体電圧がモノクロメーター140の筐体141に印加されることにより、筐体141を電気的に安定させることができる。
【0071】
エネルギーフィルターコイル用電源142bは、モノクロメーター140のエネルギーフィルターに用いられている磁極コイルに電流を供給する。エネルギーフィルターコイル用電源142bは、モノクロメーター用電源142aの出力電圧(筐体電圧)を接地電位(基準電位)としている。エネルギーフィルター電極用電源142cは、モノクロメーター140のエネルギーフィルターに用いられている電極に電圧を供給する。
【0072】
出射側電極用電源152は、出射側電極150に電圧を供給する。
【0073】
入口電極用電源162は、入口電極160に電圧を供給する。
【0074】
引出電極用電源122、入射側電極用電源132、モノクロメーター用電源142a、エネルギーフィルター電極用電源142c、出射側電極用電源152、および入口電極用電源162は、加速用電源112の出力電圧を接地電位(基準電位)としている。
【0075】
引出電極用電源122、入射側電極用電源132、モノクロメーター用電源142a、エネルギーフィルター電極用電源142c、出射側電極用電源152、および入口電極用電源162は、すべて互いに独立に出力電圧を制御可能である。さらに、引出電極用電源122、入射側電極用電源132、モノクロメーター用電源142a、エネルギーフィルター電極用電源142c、出射側電極用電源152、および入口電極用電源162の出力は、加速電圧に重畳されたものであるため、これらの電源では、加速電圧に依存しない独立した出力制御が可能である。
【0076】
エネルギーフィルターコイル用電源142bの出力は、エネルギーフィルターに組み込まれた磁極コイルの耐電圧を考慮し、モノクロメーター140に対する電位差が最小となるようにモノクロメーター用電源142aの出力に重畳されている。
【0077】
制御部109bは、入口電極用電源162を制御する。制御部109bは、加速電圧が変更された場合に、入口電極160に印加される電圧(印加電圧)と、加速電極170aに印加される電圧(印加電圧)と、の比が一定になるように、入口電極用電源162を制御する。
【0078】
1.2. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。
【0079】
引出電極120で電子源110から引き出された電子線は、入射側電極130とモノクロメーター140の間に発生する静電レンズEL10により平行な軌道になり、モノクロメーター140に入射する。
【0080】
モノクロメーター140では、エネルギーフィルターで電子線の光路中に偏向場を発生させ、偏向場中における電子の速度の違いによって生じる軌道の違いを利用して電子線を分光し、エネルギー選択スリット上に電子源110から放出された電子線のエネルギー分布に対応するスペクトルを投影する。エネルギーフィルターの分解能は、10μm/eV程度であり、数ミクロンからサブミクロン幅のスリットを通過させることにより、電子線はスリット幅に応じたエネルギー分布を持つこととなり、結果として電子線は単色化される。
【0081】
モノクロメーター140の出射位置で再び平行となった電子線は、モノクロメーター140と出射側電極150との間に発生する静電レンズEL20により集束されて、出射側電極150と入口電極160との間にクロスオーバーCO1を形成する。
【0082】
静電レンズEL20でレンズ作用を受けた電子線は、入口電極160と最上段の加速電極170aとの間に発生する静電レンズEL30により集束されて、加速管170に入射する。加速管170に入射した電子線は、加速管170によって加速される。加速管170によって加速された電子線は、静電レンズEL30のレンズ作用によって、加速管170の出口でクロスオーバーCO2を形成する。
【0083】
このようにして、電子銃101から電子線が放出される。
【0084】
電子銃101から放出された電子線は、集束レンズ102によって集束され、試料Sに照射される。試料Sを透過した電子線は、対物レンズ105、中間レンズ106、および投影レンズ107を通過する。このとき、対物レンズ105、中間レンズ106、および投影レンズ107によって、TEM像が結像される。このようにして得られたTEM像は、撮像装置108で撮影される。
【0085】
次に、加速電圧が変更された場合の電子顕微鏡100の動作について説明する。
【0086】
電子銃101では、電子源110、引出電極120、入射側電極130、モノクロメーター140(エネルギーフィルターの電極および磁極コイル)、および出射側電極150の光学設定は、加速電圧によらず一定である。
【0087】
ここで、例えば、加速電圧を低下させた場合(例えば、加速電圧を200kVから100kVに変更した場合)、最上段の加速電極170aに印加される電圧が低下する。このとき、仮に、入口電極160に印加される電圧が加速電圧によらず一定である場合、静電レンズEL30の強度が低下し、クロスオーバーCO2の位置が加速電圧を変更する前の位置から変動してしまう。
【0088】
そのため、本実施形態では、制御部109bは、入口電極160に印加される電圧と最上段の加速電極170aに印加される電圧との比が一定になるように、入口電極用電源162を制御する。具体的には、制御部109bは、入口電極160に印加される電圧が、加速電圧に比例するように、入口電極用電源162を制御する。これにより、加速電圧を変更しても、入口電極160に印加される電圧と最上段の加速電極170aに印加される電圧との比が一定となり、静電レンズEL30によるレンズ作用も一定となる。その結果、電子顕微鏡100では、加速電圧を変更しても、クロスオーバーCO2の位置が変わらない。
【0089】
加速電圧が変更された場合の電子顕微鏡100の電子銃101以外の光学系の動作は、上述した通りであり、その説明を省略する。
【0090】
本実施形態に係る電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0091】
電子顕微鏡100では、入口電極160が、加速管170の前段に配置され、最上段の加速電極170aとの間でレンズ作用を生じさせる。当該レンズ作用によって、電子線は、クロスオーバーCO2を形成する。そして、制御部109bが、加速電圧が変更された場合に、入口電極160に印加される電圧と最上段の加速電極170aに印加される電圧との比が一定となるように、入口電極用電源162を制御する。これにより、加速電圧が変更された場合であっても、静電レンズEL30のレンズ作用を一定にできる。そのため、電子顕微鏡100では、加速電圧が変更された場合であっても、電子線のクロスオーバーCO2の位置を一定に保つことができる。このように、電子顕微鏡100では、加速電圧が変更された場合であっても、電子線のクロスオーバーCO2の位置が変わらないため、加速電圧が変更された場合であっても、像観察に必要な電子線の輝度を得ることができる。
【0092】
図3は、参考例に係る電子銃1Cを模式的に示す図である。なお、図3に示す電子銃1Cおいて、図7に示す電子銃1Aの構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付している。以下、図3に示す参考例に係る電子銃1Cと本実施形態に係る電子顕微鏡100の電子銃101とを対比することで、電子顕微鏡100の効果を説明する。
【0093】
例えば、加速電圧を低下させた場合(例えば、加速電圧を200kVから100kVに変更した場合)、電子銃1Cでは、図3に示すように、加速管6の中段をスイッチ(ショートスイッチ、Short Switch)を用いて接地電位に短絡させることで、最上段の加速電極6aに印加される電圧を上げることができる。これにより、加速電圧を低下させた場合であっても、静電レンズEL3のレンズ作用を一定にでき、クロスオーバーの位置を変えないことができる。
【0094】
しかしながら、加速管6の中段を短絡させるためには、放電を起こさせないために、電子源1のエミッションを停止させて、加速電圧を接地電位にしなければならない。そのため、加速電圧を変えるたびに、装置を停止させなければならず使い勝手が悪い。また、加速管6の中段を短絡させた後、再び、電子銃1Cを立ち上げる必要があり、処理能力が低下してしまう。例えば、電子源1がショットキーエミッタの場合には、電子銃1Cを立ち上げてから安定して動作するまでに、数時間程度の時間がかかってしまう。
【0095】
これに対して、本実施形態に係る電子顕微鏡100では、上述したように、加速電圧が変更された場合であっても、制御部109bが入口電極用電源162を制御することで、クロスオーバーCO2の位置を変えないことができるため、装置を停止させる必要がない。したがって、電子顕微鏡100によれば、参考例に係る電子銃1Cを搭載した電子顕微鏡と比べて、加速電圧の切り換えを迅速に行うことができ、処理能力を高めることができる。
【0096】
本実施形態に係る電子顕微鏡100は、電子線を単色化するためのモノクロメーター140を含むため、高エネルギー分解能での電子エネルギー損失分光法や、高空間分解能での透過電子顕微鏡像観察等が可能である。
【0097】
1.3. 変形例
次に、本実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について説明する。
【0098】
(1)第1変形例
まず、第1変形例に係る電子顕微鏡の構成について説明する。図4は、第1変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101を模式的に示す図である。以下、第1変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101において、図2に示す電子銃101の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0099】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、図4に示すように、電子銃101は偏向器180を含んで構成されており、電源部109a(図1参照)は偏向器用電源182を含んで構成されている点で、電子顕微鏡100と異なっている。
【0100】
なお、第1変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101および電源部109a以外の構成は、図1に示す電子顕微鏡100の構成と同様であり、その図示および説明を省略する。
【0101】
偏向器180は、出射側電極150と入口電極160との間に配置されている。偏向器180は、電子線を偏向させることができる。偏向器180は、例えば、磁場を発生させて電子線を偏向させる偏向コイルである。偏向器180を配置することにより、入口電極160に印加される電圧を変化させた際に生じる電子線の軸ずれを補正することができる。
【0102】
偏向器180は、例えば、モノクロメーター140と出射側電極150との間に生じるレンズ作用(静電レンズEL20)によって形成される電子線のクロスオーバーCO1の
位置に配置される。偏向器180をクロスオーバーCO1の位置に配置することにより、電子線の光学系に対する入射角度のみを調整することができる。すなわち、偏向器180によって電子線を偏向することにより、クロスオーバーCO2の位置を変えることなく、クロスオーバーCO2における電子線の入射角度のみを変更できる。
【0103】
偏向器用電源182は、偏向器180に電流を供給する。偏向器用電源182は、加速用電源112の出力電圧を接地電位(基準電位)としている。偏向器用電源182の出力は、加速電圧に重畳されたものとなるため、偏向器用電源182では、加速電圧に依存しない独立した出力制御が可能である。
【0104】
次に、第1変形例に係る電子顕微鏡の動作について説明する。以下、上述した電子顕微鏡100の動作例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0105】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、加速電圧が変更された場合の動作が上述した電子顕微鏡100の動作と異なる。
【0106】
第1変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101では、電子源110、引出電極120、入射側電極130、モノクロメーター140、および出射側電極150の光学設定は、加速電圧によらず一定である。
【0107】
制御部109bは、加速電圧が変更された場合に、入口電極160に印加される電圧と最上段の加速電極170aに印加される電圧との比が一定になるように、入口電極用電源162を制御する。これにより、加速電圧を変更しても、静電レンズEL30によるレンズ作用は一定となる。その結果、第1変形例に係る電子顕微鏡では、加速電圧を変更しても、クロスオーバーCO2の位置が変わらない。
【0108】
また、上述したように、電子源110、引出電極120、入射側電極130、モノクロメーター140、および出射側電極150の光学設定は、加速電圧によらず一定であるため、加速電圧が変更された場合であっても、出射側電極150と入口電極160との間にクロスオーバーCO1が形成される。第1変形例では、クロスオーバーCO1が形成される位置に配置された偏向器180によって、電子線が入口電極160と最上段の加速電極170aとが形成する静電レンズEL30の中心を通るように調整することができる。これにより、入口電極160に印加される電圧を変化させた際に生じる電子線の軸ずれを補正することができる。
【0109】
第1変形例に係る電子顕微鏡は、例えば、以下の特徴を有する。
【0110】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、上述した電子顕微鏡100と同様に、加速電圧が変更された場合であっても、制御部109bが入口電極用電源162を制御することで、クロスオーバーCO2の位置を変えないことができる。
【0111】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、電子銃101が出射側電極150と入口電極160との間に配置されている偏向器180を含むため、入口電極160に印加される電圧を変化させた際に生じる電子線の軸ずれを補正することができる。したがって、電子線の軸ずれに起因する収差を低減することができる。
【0112】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、偏向器180は、モノクロメーター140と出射側電極150との間に生じるレンズ作用によって形成される電子線のクロスオーバーCO1の位置に配置されている。そのため、偏向器180によって電子線の光学系に対する入射角度のみを調整することができる。したがって、偏向器180によって、例えば、電子線
を見失う原因となるような無用な電子線の位置の変更を生じさせないことができる。
【0113】
(2)第2変形例
次に、第2変形例に係る電子顕微鏡の構成について説明する。図5は、第2変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101を模式的に示す図である。以下、第2変形例に係る電子顕微鏡の電子銃101において、図2に示す電子銃101および図4に示す電子銃101の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0114】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、図4に示すように、偏向器用電源182は、加速用電源112の出力電圧を接地電位(基準電位)としている。
【0115】
これに対して、第2変形例に係る電子顕微鏡では、図5に示すように、偏向器用電源182は、モノクロメーター用電源142aの出力電圧(筐体電圧)を接地電位(基準電位)としている。
【0116】
偏向器用電源182の出力は、偏向器180(偏向コイル)の耐電圧を考慮し、モノクロメーター140に対する電位差が最小となるようにモノクロメーター用電源142aの出力に重畳されている。これにより、偏向器180とモノクロメーター140との間で放電が起こることを防止することができ、偏向器180(偏向コイル)や、偏向器用電源182の破損を防ぐことができる。
【0117】
なお、第2変形例に係る電子顕微鏡の動作は、第1変形例に係る電子顕微鏡の動作と同じであり、その説明を省略する。
【0118】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡の構成
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃101を模式的に示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃101において、図2に示す電子銃101の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0119】
第1実施形態に係る電子顕微鏡100では、図2に示すように、電子銃101は、モノクロメーター140を含んで構成されていた。
【0120】
これに対して、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、図6に示すように、電子銃101は、モノクロメーターを備えていない。
【0121】
なお、第2実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃101および電源部109a以外の構成は、図1に示す電子顕微鏡100の構成と同様であり、その図示および説明を省略する。
【0122】
本実施形態では、電子銃101は、図6に示すように、電子源110と、引出電極120と、電極220(第2電極)と、入口電極160と、加速管170と、を含んで構成されている。また、電源部109aは、加速用電源112と、フィラメント電源114と、引出電極用電源122と、電極用電源222(第2電極用電源部)と、入口電極用電源162と、を含んで構成されている。
【0123】
電極220は、引出電極120の後段に配置されている。電極220は、引出電極120と入口電極160との間に配置されている。電極220は、引出電極120との間で、レンズ作用を生じさせる。図6に示す例では、電極220と引出電極120とは、静電レ
ンズEL210を発生させる。静電レンズEL210は、電子源110から放出された電子線の軌道を調整する。電極220は、電極用電源222に接続されている。
【0124】
本実施形態では、入口電極160は、電極220の後段に配置されている。
【0125】
電極用電源222は、電極220に電圧を供給する。電極用電源222は、加速用電源112の出力電圧を接地電位(基準電位)としている。電極用電源222の出力は、加速電圧に重畳されたものとなるため、電極用電源222では、加速電圧に依存しない独立した出力制御が可能である。
【0126】
制御部109b(図1参照)は、電子顕微鏡100の例と同様に、入口電極用電源162を制御する。具体的には、制御部109bは、加速電圧が変更された場合に、入口電極160に印加される電圧と、最上段の加速電極170aに印加される電圧と、の比が一定になるように、入口電極用電源162を制御する。
【0127】
また、本実施形態では、制御部109bは、引出電極120に印加される引出電圧が変更された場合に、電極220に印加される電圧と、引出電極120に印加される電圧(引出電圧)と、の比が一定になるように、電極用電源222を制御する。
【0128】
2.2. 電子顕微鏡の動作
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。以下、上述した電子顕微鏡100の動作例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0129】
(1)加速電圧が変更された場合の動作
第2実施形態に係る電子顕微鏡の電子銃101では、電子源110、引出電極120、および、電極220の光学設定は、加速電圧によらず一定である。
【0130】
制御部109bは、加速電圧が変更された場合に、入口電極160に印加される電圧と最上段の加速電極170aに印加される電圧との比が一定になるように、入口電極用電源162を制御する。これにより、加速電圧を変更しても、静電レンズEL30によるレンズ作用は一定となる。その結果、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、加速電圧を変更しても、クロスオーバーCO2の位置が変わらない。
【0131】
(2)引出電圧が変更された場合の動作
第2実施形態に係る電子顕微鏡では、電子源110から放出される電子線の量を調整するために、引出電極120に印加される引出電圧が変更される。このとき、仮に、電極220に印加される電圧が引出電圧によらず一定で有る場合、静電レンズEL210の強度が変化してしまい、電子線の軌道がずれてしまう。
【0132】
そのため、本実施形態では、制御部109bは、引出電極120に印加される引出電圧と、電極220に印加される電圧と、の比が一定になるように、電極用電源222を制御する。具体的には、制御部109bは、電極220に印加される電圧が引出電圧に比例するように、電極用電源222を制御する。これにより、引出電圧を変更しても、引出電極120に印加される引出電圧と、電極220に印加される電圧と、の比が一定となり、静電レンズEL210によるレンズ作用も一定となる。その結果、本実施形態に係る電子顕微鏡では、引出電圧を変更しても、電子線の軌道を一定にすることができる。
【0133】
第2実施形態に係る電子顕微鏡は、例えば、以下の特徴を有する。
【0134】
第2実施形態に係る電子顕微鏡では、上述した電子顕微鏡100と同様に、加速電圧が
変更された場合であっても、制御部109bが入口電極用電源162を制御することで、クロスオーバーCO2の位置を変えないことができる。
【0135】
また、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、制御部109bは、引出電圧が変更された場合に、引出電極120に印加される引出電圧と電極220に印加される電圧との比が一定となるように、電極用電源222を制御する。これにより、引出電圧が変更された場合であっても、静電レンズEL210のレンズ作用を一定にできる。したがって、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、引出電圧が変更された場合であっても、静電レンズEL210のレンズ作用による電子線の軌道は変わらない。
【0136】
さらに、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、電子銃101は、入口電極160を有しているため、引出電圧を変更しても、入口電極160と最上段の加速電極170aとの間に形成される静電レンズEL30は影響を受けない。したがって、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、引出電圧が変更されても、クロスオーバーCO2の位置を一定に保つことができる。
【0137】
なお、上記では、第2実施形態に係る電子顕微鏡において、制御部109bが入口電極用電源162および電極用電源222の両方を制御する場合について説明したが、制御部109bは、入口用電源162のみを制御してもよいし、電極用電源222のみを制御してもよい。
【0138】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0139】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0140】
1…電子源、1A…電子銃、1B…電子銃、1C…電子銃、2…引出電極、3…入射側電極、4…モノクロメーター、5…出射側電極、6…加速管、6a…加速電極、6b…加速電極、6c…加速電極、6d…加速電極、6e…加速電極、6f…加速電極、7…電極、10…加速用電源、11…フィラメント電源、12…引出電極用電源、13…入射側電極用電源、14a…モノクロメーター用電源、14b…磁極コイル用電流制御電源、14c…電極用電圧制御電源、15…出射側電極用電源、17…電源、100…電子顕微鏡、101…電子銃、102…集束レンズ、103…試料ステージ、104…試料ホルダー、105…対物レンズ、106…中間レンズ、107…投影レンズ、108…撮像装置、109a…電源部、109b…制御部、110…電子源、112…加速用電源、114…フィラメント電源、120…引出電極、122…引出電極用電源、130…入射側電極、132…入射側電極用電源、140…モノクロメーター、141…筐体、142a…モノクロメーター用電源、142b…エネルギーフィルターコイル用電源、142c…エネルギーフィルター電極用電源、150…出射側電極、152…出射側電極用電源、160…入口電極、162…入口電極用電源、170…加速管、170a…加速電極、170b…加速電極、170c…加速電極、170d…加速電極、170e…加速電極、170f…加速電極、171…分圧回路、180…偏向器、182…偏向器用電源、220…電極、222…電極用電源
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