特許第6647964号(P6647964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647964熱プレス用クッション材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647964
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】熱プレス用クッション材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/10 20060101AFI20200203BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20200203BHJP
   B30B 15/02 20060101ALI20200203BHJP
   B30B 15/34 20060101ALI20200203BHJP
   B29C 43/32 20060101ALN20200203BHJP
【FI】
   B32B25/10
   B32B5/24
   B30B15/02 E
   B30B15/34 A
   !B29C43/32
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-100035(P2016-100035)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2016-221960(P2016-221960A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107045(P2015-107045)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝口 元博
(72)【発明者】
【氏名】巖本 政博
(72)【発明者】
【氏名】山口 直一
(72)【発明者】
【氏名】河原 一智
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−344962(JP,A)
【文献】 特開2011−116034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B30B 15/02
B30B 15/34
B29C 43/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス盤とプレス対象物との間に介在させて用いる熱プレス用クッション材であって、
少なくとも2層のゴム層と、前記ゴム層同士の間に介在する多重織クロスからなる中間層と、が積層された積層体と、
耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなり、前記積層体の最外側の前記ゴム層の両側に積層された表面層と、を備え、
前記表面層は、前記糸の内部に含浸され、且つ、前記糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで前記織物または編物の表面に付着された耐熱性樹脂を有する熱プレス用クッション材の製造方法であって、
前記表面層は、前記耐熱性樹脂を含浸させた前記織物または編物を、360〜430℃の温度下において予め加熱処理を施して形成されることを特徴とする熱プレス用クッション材の製造方法
【請求項2】
プレス盤とプレス対象物との間に介在させて用いる熱プレス用クッション材であって、
少なくとも2層のゴム層と、前記ゴム層同士の間に介在する多重織クロスからなる中間層と、が積層された積層体と、
耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなり、前記積層体の最外側の前記ゴム層の両側に積層された表面層と、を備え、
前記表面層は、前記糸の内部に含浸され、且つ、前記糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで前記織物または編物の表面に付着された耐熱性樹脂を有し、更に、示差走査熱量計により窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、前記耐熱性樹脂の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、前記表面をX線回折法により測定される結晶化度が80%以上である、熱プレス用クッション材。
【請求項3】
前記表面層は、前記織物または編物の空隙率が、10〜80%であり、且つ、前記耐熱性樹脂の含浸量が100〜200g/m2である、請求項2に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項4】
前記織物の経糸及び緯糸の織り密度または前記編物の編み密度が、25〜100本/inであり、且つ、前記糸の径が、300〜600μmである、請求項3に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項5】
前記熱プレス用クッション材全体の通気度が1.0cm3/cm2・s以下である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項6】
前記熱プレス用クッション材のたわみ量が5〜150mmである、請求項2〜5のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項7】
前記表面層の表面粗さは、算術平均粗さRa20μm以上であり、且つ、Ra60μm以下、より好ましくはRa50μm以下である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項8】
前記耐熱性繊維部材がガラス繊維である、請求項2〜7のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項9】
前記耐熱性樹脂がフッ素樹脂である、請求項2〜8のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれか一項に記載の熱プレス用クッション材の製造方法であって、
前記表面層は、前記耐熱性樹脂を含浸させた前記織物または編物を、360〜430℃の温度下において予め加熱処理を施して形成されることを特徴とする熱プレス用クッション材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス盤とプレス対象物との間に介在させて用いる熱プレス用クッション材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、層積層板等のプリント基板、ICカード、セラミックス積層板、液晶表示板等、積層構造を持つ積層板の製造工程において、プレス成形又は熱圧着のために熱プレスが行われる。熱プレスを行う際には、プレス対象物に対して均一に熱と圧力を加えるため、プレス盤とプレス対象物との間に平板状の熱プレス用クッション材及びステンレス板からなる鏡面板が配置される。このような熱プレス用クッション材には、クッション性、熱伝導性、耐熱性及び耐久性が要求される。このような熱プレス用クッション材としては、フッ素ゴム等からなるゴム層と、ガラス繊維や芳香族ポリアミド繊維等の耐熱性繊維の多重織クロスからなる中間層と、ガラス繊維や芳香族ポリアミド繊維等の繊維部材からなる表面の表面層が積層されたものが一般的である。このような熱プレス用クッション材を製造する際には、通常、ゴム層となるゴムシートと中間層となる多重織クロスや表面層となる繊維部材を組み合わせて積層し、加硫により一体化させる。その後、所定のプレス盤に適合するサイズに切断する。
【0003】
そして、熱プレス用クッション材の表面層に用いられる部材には、自動積層装置等で吸引搬送される場合の気密性、熱プレス後のプレス盤や鏡面板との離型性等の特性が求められると共に、熱プレス用クッション材としての高いクッション性が求められる。ここで、離型性とは、プレス盤や鏡面板といった型からの取り外しやすさをいう。具体的は、離型性は、表面に粘着や焼き付きを起こさない性質を表し、非粘着性ともいう。このような熱プレス用クッション材としては、例えば、特許文献1には、中間層であるガラス繊維クロスの両面に、耐熱性良好なフッ素ゴムのゴム層を形成し、その上部にアラミド繊維等の耐熱性良好な全芳香族繊維からなる表面層が積層された熱プレス用クッション材が記載されている。また、特許文献2には、フッ素樹脂を含有した離型性塗膜を表面層に被覆させた熱プレス用クッション材の作製について記載されている。この熱プレス用クッション材は、図4(a)に示すように、離型性塗膜が表面層を構成する繊維を完全に被覆しているため、表面層の気密性が高く、吸引搬送が可能である。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の熱プレス用クッション材は、表面層の気密性が不十分であるため、自動積層装置などで吸引搬送する場合に落下するなどの不具合があり、更なる改善が求められていた。
【0005】
また、特許文献2に記載の熱プレス用クッション材は、表面層を構成する繊維部材の織り目などの凹凸が表面全体に亘って凹凸が現れた上で、表面のひけやへこみが発生しないように、塗布された離型性塗膜の量が調整されているが、表面層全体が完全に離型性塗膜で被覆されてしまっているため、表面層の表面粗さが小さくなるという問題がある。そして、表面粗さが小さい熱プレス用クッション材をプレスに使用すると、熱プレス用クッション材とプレス盤等との間に空気が入りにくいため、熱プレス用クッション材がプレス盤等に粘着してしまい、プレス盤等との離型性が悪くなるという問題がある。尚、プレス盤等とは、プレス盤や鏡面板の他、熱プレスの際に熱プレス用クッション材と密着させて用いられるものを含むものである。また、繰り返しプレスで使用した場合には、図4(b)に示すように、凹凸がつぶれて表面粗さがさらに小さくなるため、プレス盤等との真空密着により、離型できなくなるという問題がある。
【0006】
更に、表面層の表面粗さが小さい熱プレス用クッション材においては、熱プレス用クッション材の硬度が比較的高く、これらの硬度が高いクッション材を用いてプレス対象物をプレス成形すると、クッション材表面がプレス対象物に追随しにくく、圧力が均等にかかりにくいため、プレス対象物に反りが生じやすいという問題がある。特に、プレス対象物の厚みが小さい場合には、反りが目立って発生しやすいという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−305091号公報
【特許文献2】特開2004−344962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、吸引搬送が可能であり、プレス盤等との離型性が良好で、且つ、プレス対象物の反りを生じさせない熱プレス用クッション材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱プレス用クッション材は、プレス盤とプレス対象物との間に介在させて用いる熱プレス用クッション材であって、少なくとも2層のゴム層と、前記ゴム層同士の間に介在する嵩高性の多重織クロスからなる中間層と、が積層された積層体と、耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなり、前記積層体の最外側の前記ゴム層の両側に積層された表面層と、を備え、前記表面層は、前記糸の内部に含浸され、且つ、前記糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで前記織物または編物の表面に付着された耐熱性樹脂を有し、更に、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施される。
【0010】
本発明の熱プレス用クッション材によれば、表面層が、耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなる。また、表面層は、糸の内部に含浸され、且つ、糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで織物または編物の表面に付着した耐熱性樹脂を有する。尚、糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度に付着するとは、糸が交差する部分において、耐熱性樹脂が、糸の形状に沿って糸の表面に付着することを意味する。これにより、表面層に糸が交差して形成された隙間が耐熱性樹脂に被覆されずに存在しているため、表面層の表面粗さが大きくなり、プレス盤等との離型性を良好にすることができる。そして、熱プレス用クッション材を繰り返し使用した後でも、糸が交差して表面層の表面に形成された凹凸が消失しにくいため、プレス盤等との離型性を良好に維持することができる。また、表面層が、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施されている。これにより、従来と比較して高い温度で加熱処理を施すことで、表面層に耐熱性樹脂を含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができると共に、耐熱性樹脂の結晶化度を高くして、表面層の表面をより硬く形成することができ、プレス盤等との離型性をより良好に維持することができる。また、表面層の表面粗さが大きく、表面層に隙間が多く存在するが、表面層に含浸された耐熱性樹脂と表面層の内側に積層されているゴム層のアンカー効果により、ゴム層のゴムが表面層の隙間に滲入され、表面層の隙間が塞がれて通気が遮断され、気密性を高くすることができ、吸引搬送が可能となる。更に、織り密度が小さく、耐熱性樹脂の量が少ないため、熱プレス用クッション材の硬度が小さくなり、熱プレス用クッション材の柔軟性を備えて、プレス対象物に反りが生じるのを防止することができる。
【0011】
または、本発明に係る熱プレス用クッション材は、プレス盤とプレス対象物との間に介在させて用いる熱プレス用クッション材であって、少なくとも2層のゴム層と、前記ゴム層同士の間に介在する嵩高性の多重織クロスからなる中間層と、が積層された積層体と、耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなり、前記積層体の最外側の前記ゴム層の両側に積層された表面層と、を備え、前記表面層は、前記糸の内部に含浸され、且つ、前記糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで前記織物または編物の表面に付着する耐熱性樹脂を有し、更に、示差走査熱量計により窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、前記耐熱性樹脂の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、前記表面をX線回折法により測定される結晶化度が80%以上である。
【0012】
本発明の熱プレス用クッション材によれば、表面層が、耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物からなる。また、表面層は、糸の内部に含浸され、且つ、糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで織物または編物の表面に付着した耐熱性樹脂を有する。尚、糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度に付着するとは、糸が交差する部分において、耐熱性樹脂が、糸の形状に沿って糸の表面に付着することを意味する。これにより、表面層に糸が交差して形成された隙間が耐熱性樹脂に被覆されずに存在しているため、表面層の表面粗さが大きくなり、プレス盤等との離型性を良好にすることができる。そして、熱プレス用クッション材を繰り返し使用した後でも、糸が交差して表面層の表面に形成された凹凸が消失しにくいため、プレス盤等との離型性を良好に維持することができる。また、表面層が、耐熱性樹脂の融点付近に現れる溶融ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、表面をX線回折法により測定した結晶化度が80%以上である。これにより、耐熱性樹脂の融点付近に現れるピークの融解熱が高いため、表面層の表面に接着性の高い有機成分が残留せず除去されると共に、表面に付着した耐熱性樹脂の結晶化度が高いため、表層層の表面が硬くなる。従って、熱プレス用クッション材がプレス盤等へ貼り付かず、プレス盤等との離型性が更に向上する。また、表面層の表面粗さが大きく、表面層に隙間が多く存在するが、表面層に含浸された耐熱性樹脂と表面層の内側に積層されているゴム層のアンカー効果により、ゴム層のゴムが表面層の隙間に滲入され、表面層の隙間が塞がれて通気が遮断され、気密性を高くすることができ、吸引搬送が可能となる。更に、織り密度が小さく、耐熱性樹脂の量が少ないため、熱プレス用クッション材の硬度が小さくなり、熱プレス用クッション材の柔軟性を備えて、プレス対象物に反りが生じるのを防止することができる。
【0013】
上記熱プレス用クッション材において、前記表面層は、前記織物または編物の空隙率が、10〜80%であり、且つ、前記耐熱性樹脂の含浸量が100〜200g/m2であって良い。
表面層を構成する織物または編物の空隙率が、10〜80%であり、且つ、耐熱性樹脂の含浸量が100〜200g/m2であることにより、表面層を構成する耐熱性繊維部材からなる糸を有する織物または編物の空隙率を、表面に凹凸が形成される程度に調整すると共に、耐熱性樹脂の含浸量を、繊維部材の内部に含浸され、且つ、表面の凹凸を覆わない程度の薄さで織物または編物の表面に付着する程度に調整することができる。
ここで、空隙率とは、実体積と見かけの体積の差から算出される物質内にある空間の割合を意味する。
【0014】
上記熱プレス用クッション材において、前記織物の経糸及び緯糸の織り密度または前記編物の編み密度が、25〜100本/inであり、且つ、前記糸の経が、300〜600μmであって良い。
織物または編物の空隙率は、織物の織り密度または編物の編み密度、糸の径によって変化する。そのため、織物の経糸及び緯糸の織り密度または編物の編み密度を、25〜100本/inとし、且つ、糸の経を、300〜600μmとすることにより、表面層を構成する織物または編物の空隙率を、10〜80%に調整することができる。
【0015】
上記熱プレス用クッション材において、前記熱プレス用クッション材全体の通気度が1.0cm3/cm2・s以下であって良い。
熱プレス用クッション材全体の通気度を1.0cm3/cm2・s以下とすることにより、気密性を確保して吸引搬送を可能とすることができる。
【0016】
上記熱プレス用クッション材において、前記熱プレス用クッション材のたわみ量が5〜150mmであって良い。
たわみ量が5mm未満では、熱プレス用クッション材の柔軟性が低く、プレス対象物に追従しにくく、反りが生じる。一方、たわみ量が150mmを超えると、柔軟性が高すぎて、吸引搬送できない。即ち、熱プレス用クッション材が自重で垂れ下がり吸着パッドから落下する。そこで、熱プレス用クッション材のたわみ量が5〜150mmとすることにより、熱プレス用クッション材の柔軟性(プレス対象物の反り防止)と吸引搬送性とを両立させることができる。
【0017】
上記熱プレス用クッション材において、前記表面層の表面粗さは、算術平均粗さRa20μm以上であり、且つ、Ra60μm以下、より好ましくはRa50μm以下であって良い。
表面層の表面粗さを算術平均粗さRa20μm以上とすることにより、プレス盤等との離型性を良好にすることができる。そして、表面層の表面粗さをRa60μm、より好ましくはRa50μm以下とすることにより、吸引搬送性を確保することができる。従って、表面層の表面粗さをRa20以上であり、且つ、Ra60μm以下、より好ましくはRa50μm以下とすることにより、離型性と吸引搬送性とを両立させることができる。算術平均粗さRaは、JIS B 0031で規定されている。
【0018】
上記熱プレス用クッション材において、前記耐熱性繊維部材がガラス繊維であって良い。
耐熱性繊維部材がガラス繊維であることから、耐熱性が優れ、高強度、高弾性を有する表面層を構成することができる。
【0019】
上記熱プレス用クッション材において、前記耐熱性樹脂がフッ素樹脂であって良い。
耐熱性樹脂がフッ素樹脂であることから、耐熱性、低圧縮永久歪み性に優れた表面層を構成することができる。
【0020】
本発明の熱プレス用クッション材の製造方法は、上記熱プレス用クッション材の製造方法であって、前記表面層は、前記耐熱性樹脂を含浸させた前記織物または編物を、360〜430℃の温度下において予め加熱処理を施して形成されることを特徴とする。
表面層が、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施されている。これにより、従来と比較して高い温度で加熱処理を施すことで、表面層に耐熱性樹脂を含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができると共に、耐熱性樹脂の結晶化度を高くして、表面層の表面をより硬く形成することができ、プレス盤等との離型性をより良好に維持することができる。また、表面層の表面粗さが大きく、表面層に隙間が多く存在するが、表面層に含浸された耐熱性樹脂と表面層の内側に積層されているゴム層のアンカー効果により、ゴム層のゴムが表面層の隙間に滲入され、表面層の隙間が塞がれて通気が遮断され、気密性を高くすることができ、吸引搬送が可能となる。更に、織り密度が小さく、耐熱性樹脂の量が少ないため、熱プレス用クッション材の硬度が小さくなり、熱プレス用クッション材の柔軟性を備えて、プレス対象物に反りが生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、吸引搬送が可能であり、プレス盤等との離型性が良好で、且つ、プレス対象物の反りを生じさせない熱プレス用クッション材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る熱プレス用クッション材を用いた熱プレスを説明する模式図である。
図2】本実施形態に係る熱プレス用クッション材の断面を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る熱プレス用クッション材の表面層の断面を示す模式図であり、(a)がプレス前の状態を示し、(b)が繰り返しプレスに用いた後の状態を示す。
図4】従来技術に係る熱プレス用クッション材の表面層の断面を示す模式図であり、(a)がプレス前の状態を示し、(b)が繰り返しプレスに用いた後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る熱プレス用クッション材は、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、層積層板等のプリント基板、ICカード、セラミックス積層板、液晶表示板等、積層構造を持つ積層板の製造工程において、プレス成形又は熱圧着のための熱プレスに用いられる。
【0024】
[熱プレス]
まず、図1に基づいて、本実施形態に係る熱プレス用クッション材を用いた熱プレスについて説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る熱プレス用クッション材1を使用して、プレス対象物21をプレス盤20によってプレス成形する一例を示している。
【0026】
図1に示すように、2枚のプレス盤20の間に、平板状の2枚の熱プレス用クッション材1が配置され、さらに、その2枚の熱プレス用クッション材1の間にステンレス板22を介してプレス対象物21が配置される。即ち、2枚のプレス盤20とプレス対象物21との間に、それぞれ、熱プレス用クッション材1及びステンレス板22が介在する。この状態で、プレス盤20によって、熱と圧力が加えられる。プレス条件は、例えば、温度が常温〜260℃で、加圧力0.5〜100MPa、プレス時間1〜3時間である。熱プレス用クッション材1は、プレス対象物21に対して均一に圧力と熱を加える目的で用いられる。
【0027】
[熱プレス用クッション材]
次に、図2及び図3に基づいて、本実施形態に係る熱プレス用クッション材1について説明する。
【0028】
図2に示すように、熱プレス用クッション材1は、ゴム層4と中間層5と表面層6とが積層されて形成される。本実施形態に係る熱プレス用クッション材1は、積層体2と、表面層6とから構成される。積層体2は、3層のゴム層4及びゴム層4同士の間に介在する2層の中間層5が積層される。積層体2の最外側の両側には、ゴム層4が配置される。2層の表面層6は、積層体2の最外側のゴム層4の両側に積層される。
【0029】
即ち、熱プレス用クッション材1は、表面層6、ゴム層4、中間層5、ゴム層4、中間層5、ゴム層4、表面層6の順で図2に示す紙面の上下方向に積層されたものである。尚、中間層5及びゴム層4は、それぞれ、2層及び3層に限定されるものではない。例えば、中間層5を1層とし、2層のゴム層4同士の間に介在させて積層体2を構成してもよい。また、中間層5を3層とし、4層のゴム層4同士の間に介在させて積層体2を構成としてもよい。
【0030】
ゴム層4は、ゴム組成物から構成される。ゴム成分としては、耐熱性、低圧縮永久歪み性に優れた、フッ素ゴム又はシリコンゴムを用いることができる。圧縮永久歪み性が小さいと耐久性が向上する。また、ゴム組成物は未加硫状態で最低ムーニー粘度Vm値が25〜75であることが好ましい。最低ムーニー粘度は、ムーニー粘度計で測定する。ゴム層4に最低ムーニー粘度Vm値が25〜75の未加硫ゴム組成物を用い、ゴムの流動性をコントロールすることで、アンカー効果により、ゴムを中間層5の表面付近でせき止めて、中間層5の内部の空隙を確保することができ、クッション性を確保することができる。また、アンカー効果により、ゴム層4のゴムが表面層6の隙間に浸入しやすくなり、通気を遮断して気密性を確保することができる。つまり、ゴム層4に用いる未加硫ゴム組成物は、最低ムーニー粘度Vm値が25〜75の範囲であると、クッション性と気密性の両立が図れる。未加硫ゴム組成物とは、未加硫状態でのゴム組成物のことを意味する。尚、ゴム層4に用いる未加硫ゴム組成物は、最低ムーニー粘度Vm値が25未満の場合、ゴムの流動性が高くなる。そのため、ゴム層4のゴムが表面層6の糸が交差して形成された隙間に浸入しやすくなり、通気を遮断して気密性を確保することができる。その反面、ゴムを中間層5の表面付近でせき止めることができず、中間層5の内部の空隙を確保することができなくなり、クッション性が低くなる。また、ゴム層4に用いる未加硫ゴム組成物は、最低ムーニー粘度Vm値が75を超えると、ゴムの流動性が低くなる。そのため、ゴム層4のゴムを中間層5の微細な表面の凹凸に適度に浸入させて、アンカー効果により、ゴムを中間層5の表面付近でせき止めて、中間層5の内部の空隙を確保することができ、クッション性が高くなる。その反面、ゴム層4のゴムが表面層6の糸が交差して形成された隙間に浸入しにくくなり、通気を遮断できず気密性を確保することができなくなる。尚、表面層6の隙間とは、後述する織物60が有する織糸が交差して形成された隙間のことを意味する。また、フッ素ゴムの種類としては、含フッ素アクリレートの重合体、フッ化ビニリデンの共重合体、含フッ素珪素ゴム、含フッ素ポリエステルゴムなどが挙げられる。
ここで、最低ムーニー粘度Vm値は、JIS K6300(2013)の規格により測定した値である。
【0031】
また、ゴム層4にフッ素ゴム組成物を用いる場合、架橋剤としてジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアリルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2・5−ジメチル−2・5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン−3、1・3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、1・1−ジ−ブチルパーオキシ−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物系架橋剤、ヘキサメチレンカルバメート、N,N'−ジシアニルジエン−1、6−ヘキサジアミン、ビスフェノールAF、ベンジルトリフェニルホスフォニウムクロライド等のポリオール系架橋剤、およびトリエチレンテトラミン(TETA)、トリエチレンペンタミン(TEPA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)等のアミン系架橋剤といった、フッ素ゴムの架橋剤として公知のものを使用することができる。
【0032】
また、ゴム層4にシリコンゴム組成物を用いる場合、架橋剤として、公知の有機過酸化物系架橋剤を使用することができる。
【0033】
また、ゴム層4を構成するゴム組成物には、必要に応じて、充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが含有される。さらに、ゴム補強のために、ゴム組成物に短繊維を含ませてもよい。短繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、PBO(ポリベンゾビスオキサゾール)繊維等の耐熱性繊維を用いる。
【0034】
ここで、未加硫時の熱プレス用クッション材1において、ゴム層4の一層当たりの平均的な厚さ、即ち、加圧積層する前のゴム層4となるゴムシート1枚の平均厚さは、プレス用クッション材1全体の厚さの4〜10%であることが好ましい。4%を下回るとゴム層4と中間層5(または表面層6)との接着強度が低下する虞があるからである。また、10%を上回ると、材料コストが嵩むうえに、熱プレス用クッション材1の全厚が増した分だけ熱伝達性が低下する虞があるからである。
【0035】
中間層5は、多重織クロスから構成される。多重織クロスとしては、二重織クロス、三重織クロス又は四重織クロス等があり、捲縮加工糸で織られたもの、又は、クロス状態で嵩高加工したものを用いることができる。
【0036】
多重織クロスとは、複数組の緯糸及び経糸を用いた多層構造の織物である。例えば、二重織クロスは、上下2組の緯糸を、1組の経糸に絡ませた二重織りの構成になっている。多重織クロスの内部では空隙が多く存在する。また、構成糸を捲縮加工したり、クロス状態で嵩高加工したりすることにより、さらにクロス内部の空隙が多くなる。このように中間層5は、内部に空隙が多く存在する構造を備えるため、高いクッション性と、プレスを繰り返した際の変形を阻止する機能を有する。
【0037】
また、中間層5を構成する多重織クロスの構成糸としては、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス繊維、アラミド繊維、PBO(ポリベンゾビスオキサゾール)繊維等が用いられる。好ましくはガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス繊維等の無機繊維が挙げられる。これらは、耐熱性が優れ、高強度、高弾性を有する。そのため、ゴム組成物からなるゴム層4を補強することが可能となる。
【0038】
尚、中間層5を構成する多重織クロスの構成糸としてガラス繊維を用いる場合、多重織クロスの表面にシランカップリング剤による処理を施してもよい。シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなど、公知のものを用いることができる。多重織クロスの表面をシランカップリング剤で処理することにより、ゴム層4をフッ素ゴム組成物で構成した場合に、ゴム層4と中間層5の接着性が向上する。
【0039】
図3に示すように、表面層6は、耐熱性繊維部材からなる織糸(経糸61及び緯糸62)で製織された織物60で構成される。つまり、織物60は、経糸61及び緯糸62を有する。尚、本実施形態では、表面層6が織物60で構成されているが、それに限らず、表面層6が耐熱性繊維部材からなる糸で編まれた編物で構成されていてもよい。織物60は、平織や綾織、朱子織等の織物からなる。特に、綾織が、伸縮性、柔軟性の観点から好ましい。織物60は、表面層6の表面に凹凸が存在する程度に、所定の空隙率を備えるように製織される。尚、空隙率とは、実体積と見かけの体積の差から算出される物質内にある空間の割合を意味する。ここで、織物60の所定の空隙率は、小さすぎると、織糸(経糸61及び緯糸62)の間が密になりすぎる。織糸の間が密になりすぎると、表面層6の表面粗さが小さく、熱プレス用クッション材1の硬度が大きくなり、熱プレス用クッション材1の離型性及び柔軟性の観点から好ましくない。一方、織物60の所定の空隙率は、大きすぎると、織糸の間に大きな隙間ができてしまう。織糸の間に大きな隙間ができると、熱プレス用クッション材1の通気度が大きくなり、吸引搬送性の観点から好ましくない。そこで、所定の空隙率は、表面層6の表面に凹凸が存在する程度であって、織糸の間に隙間ができる空隙率よりも小さく、且つ、織糸の間が密になりすぎる空隙率よりも小さな織り密度となる。具体的には、所定の空隙率は、例えば、10〜80%である。
【0040】
そして、織物60の空隙率は、織糸の径と織り密度によって変化するため、織物60は、所定の空隙率を備えるように、所定の径を有する経糸61と緯糸62とが、所定の織り密度で製織される。ここで、織糸の径とは、フィラメントを束ねた状態の糸の径のことを意味する。織糸の径は、大きすぎると、織糸の間が密になりすぎて空隙率が小さくなり、小さすぎると、織糸の間に隙間ができて空隙率が大きくなる。また、織り密度は、大きすぎると、織糸の間が密になりすぎて空隙率が小さくなり、小さすぎると、織糸の間に隙間ができて空隙率が大きくなる。具体的には、所定の織糸の径は、300〜600μmである。また、所定の織り密度は、例えば、経糸61及び緯糸62ともに、25〜100本/inである。
【0041】
織糸(経糸61及び緯糸62)の基材となる耐熱性繊維部材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス繊維、アラミド繊維、PBO繊維、フッ素繊維等が用いられる。熱プレス用クッション材1の表面層6を、耐熱性繊維部材からなる織糸で製織された織物60で構成することにより、熱プレス用クッション材1の表面に傷が付きにくいため、均一にプレスすることができる。特に、耐熱性繊維部材として、耐熱性が優れ、高強度、高弾性を有するガラス繊維が好ましい。耐熱性繊維部材にガラス繊維を使用した場合、成形される熱プレス用クッション材1がある程度の硬度をもつため、数メートル×数メートルの大きさで熱プレス用クッション材1を成形しても、自重で垂れ下がることなく、吸引搬送装置から落下しない利点がある。また、ガラス繊維と耐熱性樹脂の接着力が、アラミド繊維等の他の耐熱性繊維を使用した場合のように弱くなく、高温でも接着力が強いため、260℃まで使用することができる(本発明では180〜240℃の範囲で使用することを想定)利点がある。また、高温の熱プレスにおいても繊維が劣化することなく、毛羽などが発生しないという利点がある。
【0042】
また、織物60には、耐熱性樹脂63が含浸される。耐熱性樹脂63としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の単体、ブレンド系または共重合体が挙げられる。中でも、耐熱性、低圧縮永久歪み性等が良好なフッ素樹脂が最も好ましい。
【0043】
表面層6は、示差走査熱量計(DSC)により窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、耐熱性樹脂63の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であるように構成される。また、表面層6は、X線回折法により測定されるその表面の結晶化度が80%以上であるように構成される。尚、結晶化度は、例えば、X線回折法のθ−2θ法を用いて、次式により算出する。
【0044】
結晶化度(%)=(結晶性散乱強度/全散乱強度)×100
ここで、全散乱強度=結晶性散乱強度+非晶性散乱強度
【0045】
耐熱性樹脂63は、織物60に、所定の含浸量で含浸させる。所定の含浸量とは、プレス前の図3(a)及び繰り返しプレスに用いた後の図3(b)に示すように、織物60を構成する織糸(経糸61,緯糸62)の内部に含浸され、且つ、経糸61と緯糸62とが交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度(凹凸を保持する程度)に薄く付着する量である。尚、経糸61と緯糸62とが交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度に付着するとは、経糸61と緯糸62とが交差する部分において、耐熱性樹脂63が、経糸61及び緯糸62の形状に沿って、経糸61及び緯糸62の表面に付着することをいう(図3参照)。ここで、耐熱性樹脂63の含浸量は、小さすぎると、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が不十分となり、表面層6の気密性が足りず、熱プレス用クッション材1の通気度が大きくなり、吸引搬送性の観点から好ましくなく、また、大きすぎると、経糸61と緯糸62とが交差して表面に形成された凹凸がつぶれてしまい(図4参照)、表面層6の表面の表面粗さが小さく、熱プレス用クッション材1の硬度が大きくなり、熱プレス用クッション材1の離型性及び柔軟性の観点から好ましくない。そこで、所定の含浸量は、織物60を構成する織糸(経糸61,緯糸62)の内部に含浸され、織物60の表面に形成された凹凸を覆わず、凹凸を保持する程度に薄く付着する量に調整される。具体的には、所定の含浸量は、例えば、100〜200g/m2である。
【0046】
また、織物60への耐熱性樹脂63の含浸は、ブレードコーティング、ナイフコーティング、キャストコーティング等の公知のコーティング・ディッピング技術を用いて行うことができる。ここで、耐熱性樹脂63は、粒子状の耐熱性樹脂を水中に分散させて液体状のディスパージョン(または、エマルジョン。以下、「ディスパージョン」と略する。)として含浸に用いられる。液体状のディスパージョンには、耐熱性樹脂の分散を高めるために、有機成分が分散剤(界面活性剤)として添加される。
【0047】
表面層6は、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施される。即ち、表面層6は、織物60へ耐熱性樹脂63の含浸された後に、360〜430℃の温度下において加熱処理が施される。具体的には、表面層6は、織物60の熱処理工程を行った後、織物60への耐熱性樹脂63の含浸工程、表面層6の水分を除去する乾燥工程、表面層6の有機成分を除去する熱処理工程、表面層6に含浸された耐熱性樹脂63同士を融着させる焼成工程、表面層6の冷却工程を繰り返すことにより形成されるが、この表面層6の熱処理工程において、360〜430℃の温度下において加熱処理が施される。
【0048】
[熱プレス用クッション材の製造方法]
次に、本実施形態に係る熱プレス用クッション材を製造する製造方法について説明する。
【0049】
まず、上述の通り、表面層6となる2枚の耐熱性樹脂63を含浸させた織物60は、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施して、形成される。
【0050】
そして、ゴム層4となる3枚の未加硫ゴムシートと、中間層5となる2枚の多重織クロスとを、ゴムシートが外側になるように交互に積層して積層体2を成形する。次に、この積層体2の表面の両側(つまり、最外側のゴムシートの両側)から、表面層6となる2枚の耐熱性樹脂を含浸させた織物60ではさんで積層する。そして、加熱下(温度150〜180℃)において、無圧状態で0.2〜15分間放置した後、ゴム層4の架橋反応が作用し始めた直後に、温度を維持した状態で面圧を0.1〜5.0MPaに加圧して、プレス時間10〜40分の条件でプレス加硫し、一体化させる。そして、所定のプレス盤に適合するサイズに切断して熱プレス用クッション材1を作製する。
【0051】
尚、圧縮永久歪み性を向上させるために、所定のサイズに切断する前の熱プレス用クッション材1に対して、アフターキュアを200〜250℃、30分〜4時間実施してもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る熱プレス用クッション材1によれば、表面層6が、耐熱性繊維部材からなる織糸(経糸61及び緯糸62)を有する織物または編物60からなる。表面層6は、耐熱性樹脂63が、織糸の内部に含浸され、且つ、織糸が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで織物または編物の表面に付着した耐熱性樹脂を有する(図3(a)参照)。これにより、表面層6に織糸が交差して形成された隙間が耐熱性樹脂63に被覆されずに存在しているため、表面層6の表面粗さが大きくなり、プレス盤等との離型性を良好にすることができる。そして、熱プレス用クッション材1を繰り返し使用した後でも、図3(b)に示すように、織糸が交差して表面層6の表面に形成された凹凸が消失しにくいため、プレス盤等との離型性を良好に維持することができる。
【0053】
また、表面層6が、360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施されている。これにより、従来と比較して高い温度で加熱処理を施すことで、表面層6に耐熱性樹脂63を含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができると共に、耐熱性樹脂63の結晶化度を高くして、表面層6の表面をより硬く形成することができ、プレス盤等との離型性をより良好に維持することができる。
【0054】
また、表面層6が、耐熱性樹脂63の融点付近に現れる溶融ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、表面をX線回折法により測定した結晶化度が80%以上である。これにより、耐熱性樹脂63の融点付近に現れるピークの融解熱が高いため、表面層6の表面に接着性の高い有機成分が残留せず除去されると共に、表面に付着した耐熱性樹脂63の結晶化度が高いため、表層層6の表面が硬くなる。従って、熱プレス用クッション材1がプレス盤へ貼り付かず、プレス盤との離型性が更に向上する。
【0055】
また、表面層6を構成する織物または編物60の空隙率が、10〜80%であり、且つ、耐熱性樹脂63の含浸量が100〜200g/m2である。これにより、表面層6を構成する耐熱性繊維部材からなる織糸(経糸61及び緯糸62)を有する織物または編物60の空隙率を、表面に凹凸が形成される程度に調整すると共に、耐熱性樹脂63の含浸量を、繊維部材の内部に含浸され、且つ、表面の凹凸を覆わない程度の薄さで織物または編物60の表面に付着する程度に調整することができる。
【0056】
また、表面層6の表面粗さが大きく、表面層6に隙間が多く存在するが、表面層6に含浸された耐熱性樹脂と表面層6の内側に積層されているゴム層4のアンカー効果により、ゴム層4のゴムが表面層6の隙間に滲入され、表面層6の隙間が塞がれて通気が遮断され、気密性を高くすることができ、吸引搬送が可能となる。更に、表面層6に用いる織物60の織り密度が小さく、耐熱性樹脂の量が少ないため、熱プレス用クッション材の硬度が小さくなり、表面層6が柔軟性を備えて、プレス対象物に反りが生じるのを防止することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0058】
本実施形態では、表面層6が織物60で構成されているが、それに限らない。表面層6が耐熱性繊維部材からなる糸で編まれた編物で構成されていてもよい。この場合、上記説明における「織糸」が「糸」に相当する。そして、表面層6を構成する編物は、糸の径が300〜600μmであり、編み密度が25〜100本/inであるように形成される。
【0059】
本実施形態では、熱プレスの際に、プレス盤20に密着させるように熱プレス用クッション材1を配置しているがそれに限らない。例えば、熱プレスの際に、プレス盤20と熱プレス用クッション材1の間に鏡面板等を配置してもよい。つまり、プレス盤20の間に介在する鏡面板等に密着させるように熱プレス用クッション材1を配置してもよい。
【実施例】
【0060】
[熱プレス用クッション材の材料]
実施例及び比較例では、図2に示す本実施形態に係る熱プレス用クッション材1として、3層のゴム層4と、ゴム層4同士の間に介在する2層の中間層5と、が積層された積層体2と、積層体2の表面に積層される2層の表面層6とから構成された熱プレス用クッション材1を用いた。
【0061】
ゴム層4で用いる未加硫ゴムシートとして、ポリオール架橋系のフッ素ゴム組成物(デュポン社製のバイトン(登録商標)V9006)による平均厚み0.2mmの未加硫ゴムシートを使用した。また、中間層5で用いる多重織クロスとして、捲縮加工した繊維からなる2重織りガラスクロス(日東紡製のKS4325)を使用した。また、表面層6で用いる耐熱性樹脂63を含浸させた織物60として、PTFE含浸ガラスクロス(朱子織)を使用した。ここで、PTFE含浸ガラスクロスとは、ガラス繊維を基材とする織糸(経糸61及び緯糸62)で製織した織布(クロス)にフッ素樹脂を含浸させたガラスクロスである。ガラス繊維のため、耐熱性に優れ、高強度、高弾性を有すると共に、フッ素樹脂が含浸されているため、耐熱性、低圧縮永久歪み性に優れた表面層6を構成することができる。本実施例では、織糸の径、織り密度、PTFEの含浸量の異なる複数種類のガラスクロスを表面層6として使用した。これらのゴム層4、中間層5及び表面層6を積層し、通常のプレス加硫装置に温度170℃で12分間、無圧状態で放置した後、そのままの温度で面圧を1.6MPaに高め、プレス時間12分間の条件でこれらをプレス加硫し、織り密度、PTFEの含浸量の異なる複数種類のガラスクロスを表面層6とした実施例及び比較例の熱プレス用クッション材1(2m×1m)を作製した。
【0062】
[表面層のガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験]
まず、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、表面層6のガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験を実施した。尚、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1は、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃とした。
【0063】
(表面層の測定試験)
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、表面層6に用いられるガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaを測定した。ここで、ガラスクロスの織糸の径は、ガラスクロス1枚からガラス繊維の写真を撮影し、短径と長径の平均値より、ガラス織糸1本の径を算出し、算出した10本の径から平均値を算出した。ガラスクロスの織り密度は、一辺5cmの試料の織り密度をJIS L 1096に準拠した方法により測定し、単位インチ(in)あたりの値を算出した。ガラスクロスのPTFE含浸量は、示差熱熱重量同時測定装置を用いて650℃昇温後の重量変化により測定した。表面層6の表面粗さは、表面性状測定機((株)ミツトヨ製SURF TEST500、標準スタイラス型番996133)を用いて、表面層を経糸方向に倣い速度2mm/sで40mmの範囲を計測し、表面粗さRa(JIS B 0031で規定された算術平均粗さ)を測定した。比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、表面層6に用いられるガラスクロスの織り密度、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaの測定結果を、表1に示す。
【0064】
(熱プレス用クッション材の測定試験)
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、PTFEの除いたガラスクロスの空隙率を求めた。比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、ガラスクロスの空隙率の計算結果を、表1に示す。尚、ガラスクロスの空隙率は、下記の手順に従って計算した。
・PTFE含浸ガラスクロスから一辺10cmの試料を切り出し、重量を測定する。
・測定した重量とPTFE含浸量の差より、ガラスクロスのみの重量を算出する。
・切り出した試料の面積に厚みを乗じて、ガラスクロスの体積を算出する。
・算出したガラスクロスの体積とガラス繊維の比重から、空隙率0%の場合の重量を算出する。
・算出したガラスクロスのみの重量と算出した空隙率0%の場合の重量からガラスクロスの占める割合を算出し、そこから空隙率を求める。
【0065】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の気密性(通気度)を測定した。ここで、熱プレス用クッション材1の通気度は、JIS R 3420(2006年)に準拠した方法でフラジール試験機により測定した。比較例の熱プレス用クッション材1について、通気度の測定結果を、表1に示す。
【0066】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の全厚を測定した。プレス用クッション材1の全厚は、任意に測定した5点より平均値を算出した。比較例の熱プレス用クッション材1についての全厚の測定結果を、表1に示す。
【0067】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1のたわみ量を測定した。たわみ量は、300mm×50mmの熱プレス用クッション材(試験片)を250mm突き出した状態で、押え板で固定し、突き出した自由端の垂れ量(たわみ量)を測定した。比較例の熱プレス用クッション材1についてのたわみ量の測定結果を、表1に示す。
【0068】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験)
次に、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性について評価を行う評価試験を実施した。
【0069】
吸引搬送性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。この評価では、吸着パッドを20個並列(熱プレス用クッション材1表面の端部(端から150mm程度)を除いて、等間隔に並列)して吸引した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0070】
プレス盤との離型性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を100サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1がプレス盤に貼り付かず離型できるかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(100サイクル)を評価した。離型性(100サイクル)の評価は3段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いても人手により離型することができれば△、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いて人手によっても離型することができなければ×とした。また、上記工程を200サイクル繰り返した際に熱プレス用クッション材1が貼り付かず離型するかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(200サイクル)を評価した。離型性(200サイクル)の評価は、2段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いたら×とした。
【0071】
柔軟性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1を使用した場合に、プレス対象物に反りが生じるかどうかに基づいて、プレス対象物の反りの有無を評価すると共に、プレス対象物の反りの程度に基づいて、柔軟性を評価した。柔軟性の評価は3段階であり、プレス対象物に反りが生じなければ○、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が小さければ△、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が大きければ×とした。
【0072】
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価結果を、表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の結果に基づいて、熱プレス用クッション材1の通気度、たわみ量及び表面粗さと、吸引搬送性との関係を検討した。その結果、通気性が1.0cm3/cm2・s以下とほとんどない比較例1〜6,9,11〜13,15の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送が可能であり、吸引搬送性が高いことが分かった。一方、通気性が1.0cm3/cm2・sより大きい比較例7,8,10,14の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送することができず、吸引搬送性が低いことが分かった。また、たわみ量が150mm以上である比較例7の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送できず、吸引搬送性が低いことが分かった。また、表面粗さRaが60μmより大きい比較例7,8,10,14の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送することができず、吸引搬送性が低いことが分かった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜6,9,11〜13,15の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上で、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m2以上であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、気密性に優れており、通気性がほとんどなくなっていることが想定される。尚、本明細書において、「織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切である」とは、耐熱性樹脂63が織糸(経糸61及び緯糸62)の内部に含浸され、且つ、織糸(経糸61及び緯糸62)が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで織物60の表面に付着していることを意味している。一方、比較例7,8の熱プレス用クッション材1は、空隙率が80%以下であるが、PTFE含浸量が100g/m2未満と小さく、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が不十分であると考えられ、気密性が低く、表面粗さRaも粗すぎて、通気性が高くなっていることが想定される。また、比較例10の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in未満と小さく、また、比較例14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織糸の径が300μm未満と小さく、共に、空隙率が80%より大きいため、織糸の間に大きな隙間ができていると考えられ、気密性が低く、表面粗さRaも粗すぎて、通気性が高くなっていることが想定される。更に、比較例7の熱プレス用クッション材1は、PTFE含浸量が0g/m2であるため、熱プレス用クッション材1のたわみ量が大きく、熱プレス用クッション材1が大きくたわんでしまい、自動積層装置で表面層6を吸引して保持できなかったことが想定される。
【0075】
また、表1の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaと、プレス盤との離型性(100サイクル)との関係について検討した。その結果、表面粗さRaが20μm以上の比較例1〜8,10,14の熱プレス用クッション材1は、100サイクル繰り返し使用した場合でもプレス盤に貼り付かず、プレス盤との離型性(100サイクル)が高いことが分かった。一方、表面粗さRaが10μm以上20μm未満の比較例11,12の熱プレス用クッション材1は、プレス盤に貼り付いていたが、力をかけて引っ張ると剥がすことができて△と評価され、プレス盤との離型性(100サイクル)が十分に高くないことが分かった。また、表面粗さRaが10μm未満の比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、プレス盤に完全に貼り付いてしまい、剥がすことができずに×と評価されプレス盤との離型性(100サイクル)が低いことが分かった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜8,10,14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの空隙率が10%以上(即ち、ガラスクロスの最大値の織糸の径が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下)で、且つ、PTFE含浸量が200g/m2以下であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、表面粗さRaが粗く、プレス盤との離型性(100サイクル)が高くなっていることが想定される。一方、比較例11,12の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/inより多く、また、空隙率が10%未満と小さいため、織糸の間が密になりすぎていると考えられ、表面粗さRaが密であり、プレス盤との離型性(100サイクル)が十分に高くなっていないことが想定される。また、比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスのPTFE含浸量が200g/m2より多く、織物60の表面に形成された凹凸がつぶれてしまっているからであると考えられ、表面粗さRaが密になりすぎ、プレス盤との離型性(100サイクル)が低くなっていることが想定される。
【0076】
また、表1の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaと、プレス盤との離型性(200サイクル)との関係について検討した。その結果、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、200サイクルもつことなく、プレス盤に貼り付いてしまった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、表面層6の表面粗さRaとは関係なく、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃としたためであると考えられる。即ち、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃であるため、表面層6に耐熱性樹脂を含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができなかったためであると考えられる。
【0077】
また、表1の結果に基づいて、熱プレス用クッション材1のたわみ量と、熱プレス用クッション材1の柔軟性との関係について検討した。その結果、たわみ量が5mm以上である比較例1〜8,10,11,14の熱プレス用クッション材1は、その熱プレス用クッション材1を使用してプレスを行っても、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことがわかった。一方、たわみ量が5mm未満である比較例9,12,13,15の熱プレス用クッション材1は、その熱プレス用クッション材1を使用してプレスを行った場合にはプレス対象物に反りが見られ、柔軟性が低いことがわかった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜8,10,11,14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの空隙率が10%以上(即ち、ガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下)で、且つ、PTFE含浸量が200g/m2以下であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、プレス時に適度にたわむため、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高くなっていることが想定される。一方、比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、PTFE含浸量が200g/m2より多く、織物60自体が耐熱性樹脂であるPTFEにより硬くなってしまうと考えられ、プレス時に適度にたわむことがないため、プレス対象物に反りは見られ、柔軟性が低くなっていることが想定される。また、比較例12の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が100本/inより多く、織糸の間が密になりすぎていると考えられ、プレス時に適度にたわむことがないため、プレス対象物に反りは見られ、柔軟性が低くなっていることが想定される。
【0078】
尚、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1の各試料を用いた場合、プレス対象物に反り以外で外観や物性などに変化がないか確認を行ったが、違いは見られなかった。
【0079】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験についての考察)
上述の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0080】
吸引搬送性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm3/cm2・s以下であり、たわみ量が150mm以下であり、且つ、表面粗さRaが60μm以下であれば、吸引搬送性に優れていることが確認できた。また、ガラスクロスの空隙率が80%を超えると、吸引搬送性を備えないことが確認できた。そのためには、熱プレス用のクッション材1のガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上、または、織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m2以上であればよいことが確認できた。
【0081】
また、プレス盤との離型性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1が表面層6の表面粗さRaが20μm以上であれば、プレス盤との離型性(100サイクル)に優れていることが確認できた。また、ガラスクロスの空隙率が10%未満であると、プレス盤との離型性(100サイクル)を満足しないことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m2以下であればよいことが確認できた。
【0082】
更に、柔軟性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5mm以上であれば、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m2以下であればよいことが確認できた。
【0083】
以上より、吸引搬送が可能であり、プレス盤等との離型性(100サイクル)が良好で、且つ、プレス対象物の反りを生じさせないためには、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm3/cm2・s以下であり、表面層6の表面粗さRaが20μm以上60μm以下であり、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5〜150mmであるように、熱プレス用クッション材1を形成すればよい。従って、ガラスクロスの空隙率が10〜80%(即ち、ガラスクロスの織糸の径が300〜600μmであり、且つ、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25〜100本/in)で、且つ、PTFE含浸量が100〜200g/m2となるように、熱プレス用クッション材1を形成すればよいことが明らかとなった。
【0084】
但し、表1に示す比較例1〜15の熱プレス用クッション材1では、表面粗さRaと吸引搬送性の相関関係が十分に検討されていないため、以下において、表面粗さRaを変化させて、吸引搬送性との相関関係を検討する。また、表1に示す比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1もプレス盤との離型性(200サイクル)は満足していないため、以下において、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証する。
【0085】
[表面層の表面粗さRaを変化させた場合の吸引搬送性の評価試験]
そして、比較例1及び比較例16〜19の熱プレス用クッション材1について、表面層6の表面粗さRaと吸引搬送性との相関関係を検証した。尚、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1については、まず、比較例1の表面層6として用いたものと同様のガラスクロスに対して、プレス盤に挟んで圧縮するプレス時間を変えて、表面粗さの異なる4種類のガラスクロスを作製した。この4種類のガラスクロスの表面粗さは、比較例1の熱プレス用クッション材1よりも表面層6の表面粗さRaが小さくなるように変量させた。その後、この4種類のガラスクロスを表面層6として、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1を、比較例1と同様に作製した。尚、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1の表面層6の表面粗さは、熱プレス用クッション材1の作製後に、表面性状測定機((株)ミツトヨ製SURF TEST500、標準スタイラス型番996133)を用いて、表面層6を経糸方向に倣い速度2mm/sで40mmの範囲を計測し、表面粗さRa(JIS B 0031で規定された算術平均粗さ)を測定した。
【0086】
(吸引搬送性の評価試験)
吸引搬送性を簡易的に評価するために、アスピレータ(アルバック製MDA−015)に吸引評価用の吸着パッド(型式PCG−30)を装着した簡易吸引装置を使用して、簡易吸引試験を行った。そして、先ず、吸引力の基準を明確にするため、この簡易吸引装置を表面粗さRaが5μm以下のステンレス製平板に吸着させて、真空計が0.02MPaになる様、簡易吸引装置の吸引力を調整した。続けて、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1の簡易吸引試験を実施し、真空計の値を記録し、吸引力の指標とした。
【0087】
そして、吸引搬送性の評価試験として、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0088】
(プレス盤との離型性の評価試験)
表面粗さRaと吸引搬送性の相関関係に加えて、表面粗さRaとプレス盤との離型性の相関関係についても評価した。プレス盤との離型性の評価試験では、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を100サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1がプレス盤に貼り付かず離型できるかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(100サイクル)を評価した。プレス盤との離型性(100サイクル)の評価は3段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いても人手により離型することができれば△、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いて人手によっても離型することができなければ×とした。
【0089】
比較例1及び比較例16〜19のクッション材1について、簡易吸引試験、吸引搬送性、プレス盤との離型性の評価結果を、表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の表面層6の表面粗さRaと吸引搬送性との相関関係を検討した。その結果、表面粗さRaが50μm以下となる比較例18、19が、表面粗さRaが50μm〜60μmである比較例1、16、17と比較して、吸引搬送性がより優れていた。
【0092】
また、表2の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の表面層6の表面粗さRaとプレス盤との離型性との相関関係を検討した。その結果、表面粗さRaが20μm以上である比較例16〜19は、比較例1と同様に、プレス盤との離型性に優れていた。
【0093】
(吸引搬送性とプレス盤との離型性の評価試験についての考察)
上述の表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の吸引搬送性とプレス盤との離型性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0094】
プレス盤との離型性の評価試験の結果より、上述の表1に示すプレス盤との離型性の評価試験の結果と同様に、表面層6の表面粗さRaを20μm以上とすると、プレス盤との離型性に問題ないことが確認できた。
【0095】
また、吸引搬送性の評価試験の結果より、表面層6の表面粗さRaが60μm以下であると、吸引搬送性を備えることが分かる。更に、表面層6の表面粗さRaを50μm以下に仕上げることにより、表面層と吸引搬送装置の吸着パッドとの間で高い気密性が十分に確保され、安定した吸引搬送が実現でき、優れた吸引搬送性を備えることがわかる。
【0096】
以上から、プレス盤との離型性と吸引搬送性とを両立させ得るためには表面層6の表面粗さRaが20〜60μm、特に、表面層6の表面粗さRaが20〜50μmであることがより好ましい範囲であることが明らかとなった。
【0097】
但し、表2に示す比較例16〜19の熱プレス用クッション材1では、プレス盤との離型性は100サイクルでしか評価試験を行っていないため、以下において、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証する。
【0098】
[表面層の加熱処理温度を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験]
更に、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、表面層6に耐熱性樹脂を含浸加工させた時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤等とのプレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証した。そこで、比較例1の熱プレス用クッション材1を基準として、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させた実施例1〜3の3種類の熱プレス用クッション材1を作製した。加熱処理温度は、実施例1の熱プレス用クッション材1が400℃、実施例2の熱プレス用クッション材1が380℃、実施例3の熱プレス用クッション材1が360℃とした。また、比較のために、比較例1の熱プレス用クッション材1も作製した。比較例1の熱プレス用クッション材1の加熱処理温度は上述の通りが350℃である。また、吸引搬送性及び柔軟性の評価試験も実施した。
【0099】
(表面層の測定試験)
実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6として用いるガラスクロスについて、示差走査熱量計(DSC)により、窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、耐熱性樹脂63の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量を測定した。また、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6として用いるガラスクロスについて、X線回折法により測定されるその表面の結晶化度を算出した。尚、算出方法は、上述の通り、例えばX線回折法のθ−2θ法を用いて算出する。実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1それぞれの、融解熱量と結晶化度の測定結果を、表3に示す。
【0100】
(熱プレス用クッション材の測定試験)
そして、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の表面硬度と、気密性(通気度)と、たわみ量とを測定した。尚、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6に用いられるガラスクロスの織糸の径、織り密度、空隙率、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaについては、上述の比較例1の熱プレス用クッション材1の測定結果と同様であり、その説明を省略した。実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の、熱プレス用クッション材1の通気度と、たわみ量の測定結果を、表3に示す。
【0101】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験)
次に、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、プレス盤との離型性について評価を行う評価試験を実施した。
【0102】
吸引搬送性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0103】
プレス盤との離型性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を200サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1が貼り付かず離型するかどうかに基づいて、プレス盤との離型性を評価した。プレス盤との離型性の評価は2段階であり、200サイクル繰り返す過程において、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に一度も貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に一度でも貼り付けば×とした。
【0104】
尚、このプレス盤との離型性の評価試験は、上述する表1に示す比較例1〜13に対して行ったプレス盤との離型性の評価試験(200回)と同じである。即ち、上述する表1に示す比較例1〜13に対して行った緩い条件で判定するプレス盤との離型性の評価試験(100回)では、比較例1〜8、比較例10〜12、14の熱プレス用クッション材1が○または△であったのに対して、厳しい条件で判定するプレス盤との離型性の評価試験(200回)では、これらの熱プレス用クッション材1が×になったことを検討するものである。従って、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃としたことが、プレス盤との離型性と関係があるかどうかを評価するために、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させた実施例1〜3の熱プレス用クッション材1に対してプレス盤との離型性の評価試験(200回)を行い、プレス盤との離型性を評価した。
【0105】
柔軟性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を使用した場合に、プレス対象物に反りが生じるかどうかに基づいて、プレス対象物の反りの有無を評価すると共に、プレス対象物の反りの程度に基づいて、柔軟性を評価した。柔軟性の評価は3段階であり、プレス対象物に反りが生じなければ○、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が小さければ△、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が大きければ×とした。
【0106】
実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価結果を、表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3に基づくと、PTFE含浸加工時の加熱処理温度と、結晶化度、融解熱量との間には相関が見られた。具体的には、加熱処理温度が400℃である実施例1の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度86%、融解熱エネルギー5.60mJ/mgと最も高くなった。また、加熱処理温度が380℃である実施例2の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度84%、融解熱エネルギー4.42mJ/mgとなった。また、加熱処理温度が360℃である実施例3の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度81%、融解熱エネルギー4.13mJ/mgとなった。これらの実施例1〜3の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性のいずれも良好であった。一方、加熱処理温度が350℃である比較例1の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度74%、融解熱エネルギー3.86mJ/mgと最も低くなった。比較例1の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送性は良好であるものの、プレス盤20への貼り付きによりプレス盤との離型性が不充分であった。
【0109】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験についての考察)
上述の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0110】
吸引搬送性の評価試験より、表面層の加熱処理温度を変化させた場合であっても、上述の通り、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm3/cm2・s以下であり、たわみ量が150mm以下であり、且つ、表面粗さRaが60μm以下であれば、吸引搬送性に優れていることが確認できた。そのためには、熱プレス用のクッション材1のガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上、または、織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m2以上であればよいことが確認できた。また、柔軟性の評価試験より、表面層の加熱処理温度を変化させた場合であっても、上述の通り、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5mm以上であれば、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m2以下であればよいことが確認できた。
【0111】
プレス盤との離型性の評価試験の結果より、PTFE含浸加工時に360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施されたガラスクロスを表面層6として用いた熱プレス用クッション材1が、プレス盤との離型性に優れていることが確認できた。これにより、従来(350℃)と比較して高い温度で加熱処理を施すことで、表面層6にPTFEを含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができると共に、PTFEの結晶化度を高くして、表面層6の表面をより硬く形成することができ、プレス盤等との離型性をより良好に維持することができていることがわかる。
【0112】
同様に、プレス盤との離型性の評価試験の結果より、示差走査熱量計により、窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、耐熱性樹脂の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、表面をX線回折法により測定される結晶化度が80%以上であるガラスクロスを表面層6として用いた熱プレス用クッション材1が、プレス盤との離型性に優れていることが確認できた。これにより、PTFEの融点付近に現れるピークの融解熱が高いため、表面層6の表面に接着性の高い有機成分が残留せず除去されると共に、表面に付着したPTFEの結晶化度が高いため、表層層6の表面が硬くなり、熱プレス用クッション材1がプレス盤へ貼り付かず、プレス盤との離型性が更に向上することがわかる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明を利用すれば、吸引搬送が可能であり、プレス盤等との離型性が良好で、且つ、プレス対象物の反りを生じさせない熱プレス用クッション材及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 熱プレス用クッション材
2 積層体
4 ゴム層
5 中間層
6 表面層
60 織物
61 経糸
62 緯糸
63 耐熱性樹脂
図1
図2
図3
図4