【実施例】
【0060】
[熱プレス用クッション材の材料]
実施例及び比較例では、
図2に示す本実施形態に係る熱プレス用クッション材1として、3層のゴム層4と、ゴム層4同士の間に介在する2層の中間層5と、が積層された積層体2と、積層体2の表面に積層される2層の表面層6とから構成された熱プレス用クッション材1を用いた。
【0061】
ゴム層4で用いる未加硫ゴムシートとして、ポリオール架橋系のフッ素ゴム組成物(デュポン社製のバイトン(登録商標)V9006)による平均厚み0.2mmの未加硫ゴムシートを使用した。また、中間層5で用いる多重織クロスとして、捲縮加工した繊維からなる2重織りガラスクロス(日東紡製のKS4325)を使用した。また、表面層6で用いる耐熱性樹脂63を含浸させた織物60として、PTFE含浸ガラスクロス(朱子織)を使用した。ここで、PTFE含浸ガラスクロスとは、ガラス繊維を基材とする織糸(経糸61及び緯糸62)で製織した織布(クロス)にフッ素樹脂を含浸させたガラスクロスである。ガラス繊維のため、耐熱性に優れ、高強度、高弾性を有すると共に、フッ素樹脂が含浸されているため、耐熱性、低圧縮永久歪み性に優れた表面層6を構成することができる。本実施例では、織糸の径、織り密度、PTFEの含浸量の異なる複数種類のガラスクロスを表面層6として使用した。これらのゴム層4、中間層5及び表面層6を積層し、通常のプレス加硫装置に温度170℃で12分間、無圧状態で放置した後、そのままの温度で面圧を1.6MPaに高め、プレス時間12分間の条件でこれらをプレス加硫し、織り密度、PTFEの含浸量の異なる複数種類のガラスクロスを表面層6とした実施例及び比較例の熱プレス用クッション材1(2m×1m)を作製した。
【0062】
[表面層のガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験]
まず、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、表面層6のガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験を実施した。尚、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1は、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃とした。
【0063】
(表面層の測定試験)
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、表面層6に用いられるガラスクロスの織糸の径、織り密度、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaを測定した。ここで、ガラスクロスの織糸の径は、ガラスクロス1枚からガラス繊維の写真を撮影し、短径と長径の平均値より、ガラス織糸1本の径を算出し、算出した10本の径から平均値を算出した。ガラスクロスの織り密度は、一辺5cmの試料の織り密度をJIS L 1096に準拠した方法により測定し、単位インチ(in)あたりの値を算出した。ガラスクロスのPTFE含浸量は、示差熱熱重量同時測定装置を用いて650℃昇温後の重量変化により測定した。表面層6の表面粗さは、表面性状測定機((株)ミツトヨ製SURF TEST500、標準スタイラス型番996133)を用いて、表面層を経糸方向に倣い速度2mm/sで40mmの範囲を計測し、表面粗さRa(JIS B 0031で規定された算術平均粗さ)を測定した。比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、表面層6に用いられるガラスクロスの織り密度、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaの測定結果を、表1に示す。
【0064】
(熱プレス用クッション材の測定試験)
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、PTFEの除いたガラスクロスの空隙率を求めた。比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、ガラスクロスの空隙率の計算結果を、表1に示す。尚、ガラスクロスの空隙率は、下記の手順に従って計算した。
・PTFE含浸ガラスクロスから一辺10cmの試料を切り出し、重量を測定する。
・測定した重量とPTFE含浸量の差より、ガラスクロスのみの重量を算出する。
・切り出した試料の面積に厚みを乗じて、ガラスクロスの体積を算出する。
・算出したガラスクロスの体積とガラス繊維の比重から、空隙率0%の場合の重量を算出する。
・算出したガラスクロスのみの重量と算出した空隙率0%の場合の重量からガラスクロスの占める割合を算出し、そこから空隙率を求める。
【0065】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の気密性(通気度)を測定した。ここで、熱プレス用クッション材1の通気度は、JIS R 3420(2006年)に準拠した方法でフラジール試験機により測定した。比較例の熱プレス用クッション材1について、通気度の測定結果を、表1に示す。
【0066】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の全厚を測定した。プレス用クッション材1の全厚は、任意に測定した5点より平均値を算出した。比較例の熱プレス用クッション材1についての全厚の測定結果を、表1に示す。
【0067】
また、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1のたわみ量を測定した。たわみ量は、300mm×50mmの熱プレス用クッション材(試験片)を250mm突き出した状態で、押え板で固定し、突き出した自由端の垂れ量(たわみ量)を測定した。比較例の熱プレス用クッション材1についてのたわみ量の測定結果を、表1に示す。
【0068】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験)
次に、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性について評価を行う評価試験を実施した。
【0069】
吸引搬送性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。この評価では、吸着パッドを20個並列(熱プレス用クッション材1表面の端部(端から150mm程度)を除いて、等間隔に並列)して吸引した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0070】
プレス盤との離型性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を100サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1がプレス盤に貼り付かず離型できるかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(100サイクル)を評価した。離型性(100サイクル)の評価は3段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いても人手により離型することができれば△、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いて人手によっても離型することができなければ×とした。また、上記工程を200サイクル繰り返した際に熱プレス用クッション材1が貼り付かず離型するかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(200サイクル)を評価した。離型性(200サイクル)の評価は、2段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いたら×とした。
【0071】
柔軟性の評価試験では、比較例1〜15の各熱プレス用クッション材1を使用した場合に、プレス対象物に反りが生じるかどうかに基づいて、プレス対象物の反りの有無を評価すると共に、プレス対象物の反りの程度に基づいて、柔軟性を評価した。柔軟性の評価は3段階であり、プレス対象物に反りが生じなければ○、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が小さければ△、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が大きければ×とした。
【0072】
比較例1〜15の熱プレス用クッション材1について、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価結果を、表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の結果に基づいて、熱プレス用クッション材1の通気度、たわみ量及び表面粗さと、吸引搬送性との関係を検討した。その結果、通気性が1.0cm
3/cm
2・s以下とほとんどない比較例1〜6,9,11〜13,15の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送が可能であり、吸引搬送性が高いことが分かった。一方、通気性が1.0cm
3/cm
2・sより大きい比較例7,8,10,14の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送することができず、吸引搬送性が低いことが分かった。また、たわみ量が150mm以上である比較例7の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送できず、吸引搬送性が低いことが分かった。また、表面粗さRaが60μmより大きい比較例7,8,10,14の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送することができず、吸引搬送性が低いことが分かった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜6,9,11〜13,15の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上で、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m
2以上であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、気密性に優れており、通気性がほとんどなくなっていることが想定される。尚、本明細書において、「織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切である」とは、耐熱性樹脂63が織糸(経糸61及び緯糸62)の内部に含浸され、且つ、織糸(経糸61及び緯糸62)が交差して表面に形成された凹凸を覆わない程度の薄さで織物60の表面に付着していることを意味している。一方、比較例7,8の熱プレス用クッション材1は、空隙率が80%以下であるが、PTFE含浸量が100g/m
2未満と小さく、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が不十分であると考えられ、気密性が低く、表面粗さRaも粗すぎて、通気性が高くなっていることが想定される。また、比較例10の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in未満と小さく、また、比較例14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織糸の径が300μm未満と小さく、共に、空隙率が80%より大きいため、織糸の間に大きな隙間ができていると考えられ、気密性が低く、表面粗さRaも粗すぎて、通気性が高くなっていることが想定される。更に、比較例7の熱プレス用クッション材1は、PTFE含浸量が0g/m
2であるため、熱プレス用クッション材1のたわみ量が大きく、熱プレス用クッション材1が大きくたわんでしまい、自動積層装置で表面層6を吸引して保持できなかったことが想定される。
【0075】
また、表1の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaと、プレス盤との離型性(100サイクル)との関係について検討した。その結果、表面粗さRaが20μm以上の比較例1〜8,10,14の熱プレス用クッション材1は、100サイクル繰り返し使用した場合でもプレス盤に貼り付かず、プレス盤との離型性(100サイクル)が高いことが分かった。一方、表面粗さRaが10μm以上20μm未満の比較例11,12の熱プレス用クッション材1は、プレス盤に貼り付いていたが、力をかけて引っ張ると剥がすことができて△と評価され、プレス盤との離型性(100サイクル)が十分に高くないことが分かった。また、表面粗さRaが10μm未満の比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、プレス盤に完全に貼り付いてしまい、剥がすことができずに×と評価されプレス盤との離型性(100サイクル)が低いことが分かった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜8,10,14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの空隙率が10%以上(即ち、ガラスクロスの最大値の織糸の径が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下)で、且つ、PTFE含浸量が200g/m
2以下であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、表面粗さRaが粗く、プレス盤との離型性(100サイクル)が高くなっていることが想定される。一方、比較例11,12の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/inより多く、また、空隙率が10%未満と小さいため、織糸の間が密になりすぎていると考えられ、表面粗さRaが密であり、プレス盤との離型性(100サイクル)が十分に高くなっていないことが想定される。また、比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスのPTFE含浸量が200g/m
2より多く、織物60の表面に形成された凹凸がつぶれてしまっているからであると考えられ、表面粗さRaが密になりすぎ、プレス盤との離型性(100サイクル)が低くなっていることが想定される。
【0076】
また、表1の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaと、プレス盤との離型性(200サイクル)との関係について検討した。その結果、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、200サイクルもつことなく、プレス盤に貼り付いてしまった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、表面層6の表面粗さRaとは関係なく、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃としたためであると考えられる。即ち、比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1も、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃であるため、表面層6に耐熱性樹脂を含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができなかったためであると考えられる。
【0077】
また、表1の結果に基づいて、熱プレス用クッション材1のたわみ量と、熱プレス用クッション材1の柔軟性との関係について検討した。その結果、たわみ量が5mm以上である比較例1〜8,10,11,14の熱プレス用クッション材1は、その熱プレス用クッション材1を使用してプレスを行っても、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことがわかった。一方、たわみ量が5mm未満である比較例9,12,13,15の熱プレス用クッション材1は、その熱プレス用クッション材1を使用してプレスを行った場合にはプレス対象物に反りが見られ、柔軟性が低いことがわかった。この結果に基づいて、比較例1〜15それぞれの熱プレス用クッション材1を検証してみた。すると、比較例1〜8,10,11,14の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの空隙率が10%以上(即ち、ガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下)で、且つ、PTFE含浸量が200g/m
2以下であり、織糸の内部への含浸及び織物の表面の付着が適切であると考えられ、プレス時に適度にたわむため、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高くなっていることが想定される。一方、比較例9,13,15の熱プレス用クッション材1は、PTFE含浸量が200g/m
2より多く、織物60自体が耐熱性樹脂であるPTFEにより硬くなってしまうと考えられ、プレス時に適度にたわむことがないため、プレス対象物に反りは見られ、柔軟性が低くなっていることが想定される。また、比較例12の熱プレス用クッション材1は、ガラスクロスの織り密度が100本/inより多く、織糸の間が密になりすぎていると考えられ、プレス時に適度にたわむことがないため、プレス対象物に反りは見られ、柔軟性が低くなっていることが想定される。
【0078】
尚、比較例1〜15の熱プレス用クッション材1の各試料を用いた場合、プレス対象物に反り以外で外観や物性などに変化がないか確認を行ったが、違いは見られなかった。
【0079】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験についての考察)
上述の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0080】
吸引搬送性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm
3/cm
2・s以下であり、たわみ量が150mm以下であり、且つ、表面粗さRaが60μm以下であれば、吸引搬送性に優れていることが確認できた。また、ガラスクロスの空隙率が80%を超えると、吸引搬送性を備えないことが確認できた。そのためには、熱プレス用のクッション材1のガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上、または、織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m
2以上であればよいことが確認できた。
【0081】
また、プレス盤との離型性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1が表面層6の表面粗さRaが20μm以上であれば、プレス盤との離型性(100サイクル)に優れていることが確認できた。また、ガラスクロスの空隙率が10%未満であると、プレス盤との離型性(100サイクル)を満足しないことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m
2以下であればよいことが確認できた。
【0082】
更に、柔軟性の評価試験の結果より、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5mm以上であれば、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m
2以下であればよいことが確認できた。
【0083】
以上より、吸引搬送が可能であり、プレス盤等との離型性(100サイクル)が良好で、且つ、プレス対象物の反りを生じさせないためには、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm
3/cm
2・s以下であり、表面層6の表面粗さRaが20μm以上60μm以下であり、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5〜150mmであるように、熱プレス用クッション材1を形成すればよい。従って、ガラスクロスの空隙率が10〜80%(即ち、ガラスクロスの織糸の径が300〜600μmであり、且つ、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に25〜100本/in)で、且つ、PTFE含浸量が100〜200g/m
2となるように、熱プレス用クッション材1を形成すればよいことが明らかとなった。
【0084】
但し、表1に示す比較例1〜15の熱プレス用クッション材1では、表面粗さRaと吸引搬送性の相関関係が十分に検討されていないため、以下において、表面粗さRaを変化させて、吸引搬送性との相関関係を検討する。また、表1に示す比較例1〜15のいずれの熱プレス用クッション材1もプレス盤との離型性(200サイクル)は満足していないため、以下において、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証する。
【0085】
[表面層の表面粗さRaを変化させた場合の吸引搬送性の評価試験]
そして、比較例1及び比較例16〜19の熱プレス用クッション材1について、表面層6の表面粗さRaと吸引搬送性との相関関係を検証した。尚、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1については、まず、比較例1の表面層6として用いたものと同様のガラスクロスに対して、プレス盤に挟んで圧縮するプレス時間を変えて、表面粗さの異なる4種類のガラスクロスを作製した。この4種類のガラスクロスの表面粗さは、比較例1の熱プレス用クッション材1よりも表面層6の表面粗さRaが小さくなるように変量させた。その後、この4種類のガラスクロスを表面層6として、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1を、比較例1と同様に作製した。尚、比較例16〜19の熱プレス用クッション材1の表面層6の表面粗さは、熱プレス用クッション材1の作製後に、表面性状測定機((株)ミツトヨ製SURF TEST500、標準スタイラス型番996133)を用いて、表面層6を経糸方向に倣い速度2mm/sで40mmの範囲を計測し、表面粗さRa(JIS B 0031で規定された算術平均粗さ)を測定した。
【0086】
(吸引搬送性の評価試験)
吸引搬送性を簡易的に評価するために、アスピレータ(アルバック製MDA−015)に吸引評価用の吸着パッド(型式PCG−30)を装着した簡易吸引装置を使用して、簡易吸引試験を行った。そして、先ず、吸引力の基準を明確にするため、この簡易吸引装置を表面粗さRaが5μm以下のステンレス製平板に吸着させて、真空計が0.02MPaになる様、簡易吸引装置の吸引力を調整した。続けて、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1の簡易吸引試験を実施し、真空計の値を記録し、吸引力の指標とした。
【0087】
そして、吸引搬送性の評価試験として、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0088】
(プレス盤との離型性の評価試験)
表面粗さRaと吸引搬送性の相関関係に加えて、表面粗さRaとプレス盤との離型性の相関関係についても評価した。プレス盤との離型性の評価試験では、比較例1及び比較例16〜19の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を100サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1がプレス盤に貼り付かず離型できるかどうかに基づいて、プレス盤との離型性(100サイクル)を評価した。プレス盤との離型性(100サイクル)の評価は3段階であり、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いても人手により離型することができれば△、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に貼り付いて人手によっても離型することができなければ×とした。
【0089】
比較例1及び比較例16〜19のクッション材1について、簡易吸引試験、吸引搬送性、プレス盤との離型性の評価結果を、表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の表面層6の表面粗さRaと吸引搬送性との相関関係を検討した。その結果、表面粗さRaが50μm以下となる比較例18、19が、表面粗さRaが50μm〜60μmである比較例1、16、17と比較して、吸引搬送性がより優れていた。
【0092】
また、表2の結果に基づいて、表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の表面層6の表面粗さRaとプレス盤との離型性との相関関係を検討した。その結果、表面粗さRaが20μm以上である比較例16〜19は、比較例1と同様に、プレス盤との離型性に優れていた。
【0093】
(吸引搬送性とプレス盤との離型性の評価試験についての考察)
上述の表面層6の表面粗さRaを変化させた場合の吸引搬送性とプレス盤との離型性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0094】
プレス盤との離型性の評価試験の結果より、上述の表1に示すプレス盤との離型性の評価試験の結果と同様に、表面層6の表面粗さRaを20μm以上とすると、プレス盤との離型性に問題ないことが確認できた。
【0095】
また、吸引搬送性の評価試験の結果より、表面層6の表面粗さRaが60μm以下であると、吸引搬送性を備えることが分かる。更に、表面層6の表面粗さRaを50μm以下に仕上げることにより、表面層と吸引搬送装置の吸着パッドとの間で高い気密性が十分に確保され、安定した吸引搬送が実現でき、優れた吸引搬送性を備えることがわかる。
【0096】
以上から、プレス盤との離型性と吸引搬送性とを両立させ得るためには表面層6の表面粗さRaが20〜60μm、特に、表面層6の表面粗さRaが20〜50μmであることがより好ましい範囲であることが明らかとなった。
【0097】
但し、表2に示す比較例16〜19の熱プレス用クッション材1では、プレス盤との離型性は100サイクルでしか評価試験を行っていないため、以下において、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証する。
【0098】
[表面層の加熱処理温度を変化させた場合の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験]
更に、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、表面層6に耐熱性樹脂を含浸加工させた時の加熱処理温度を変化させて、プレス盤等とのプレス盤との離型性(200サイクル)との相関関係を検証した。そこで、比較例1の熱プレス用クッション材1を基準として、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させた実施例1〜3の3種類の熱プレス用クッション材1を作製した。加熱処理温度は、実施例1の熱プレス用クッション材1が400℃、実施例2の熱プレス用クッション材1が380℃、実施例3の熱プレス用クッション材1が360℃とした。また、比較のために、比較例1の熱プレス用クッション材1も作製した。比較例1の熱プレス用クッション材1の加熱処理温度は上述の通りが350℃である。また、吸引搬送性及び柔軟性の評価試験も実施した。
【0099】
(表面層の測定試験)
実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6として用いるガラスクロスについて、示差走査熱量計(DSC)により、窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、耐熱性樹脂63の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量を測定した。また、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6として用いるガラスクロスについて、X線回折法により測定されるその表面の結晶化度を算出した。尚、算出方法は、上述の通り、例えばX線回折法のθ−2θ法を用いて算出する。実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1それぞれの、融解熱量と結晶化度の測定結果を、表3に示す。
【0100】
(熱プレス用クッション材の測定試験)
そして、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、熱プレス用クッション材1の表面硬度と、気密性(通気度)と、たわみ量とを測定した。尚、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の表面層6に用いられるガラスクロスの織糸の径、織り密度、空隙率、PTFE含浸量、表面層6の表面粗さRaについては、上述の比較例1の熱プレス用クッション材1の測定結果と同様であり、その説明を省略した。実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1の、熱プレス用クッション材1の通気度と、たわみ量の測定結果を、表3に示す。
【0101】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験)
次に、実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、それぞれ、プレス盤との離型性について評価を行う評価試験を実施した。
【0102】
吸引搬送性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を、自動積層装置(熱プレス用クッション材を吸着パッドで吸引して搬送し、積層する装置)などで吸引搬送して、熱プレス用クッション材1が落下しないかどうかに基づいて、吸引搬送性を評価した。吸引搬送性の評価は各熱プレス用クッション材について5回ずつ行い、吸引搬送した際に、5回全て搬送できた場合は◎、5回の内に搬送できたりできなかったりした場合には○、5回の内に1回も搬送できなかった場合は×の3段階で判定した。
【0103】
プレス盤との離型性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1について、250mm×250mmの試験片を真空プレス試験機のプレス盤の間に挟み、4MPaまで加圧した後、1時間かけて230℃まで昇温して、230℃で1時間保持し、30分間かけて50℃まで冷却後、0MPaに減圧するという工程を1サイクルとして、この工程を200サイクル繰り返したときに、熱プレス用クッション材1が貼り付かず離型するかどうかに基づいて、プレス盤との離型性を評価した。プレス盤との離型性の評価は2段階であり、200サイクル繰り返す過程において、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に一度も貼り付かなければ○、熱プレス用クッション材1がプレス盤20に一度でも貼り付けば×とした。
【0104】
尚、このプレス盤との離型性の評価試験は、上述する表1に示す比較例1〜13に対して行ったプレス盤との離型性の評価試験(200回)と同じである。即ち、上述する表1に示す比較例1〜13に対して行った緩い条件で判定するプレス盤との離型性の評価試験(100回)では、比較例1〜8、比較例10〜12、14の熱プレス用クッション材1が○または△であったのに対して、厳しい条件で判定するプレス盤との離型性の評価試験(200回)では、これらの熱プレス用クッション材1が×になったことを検討するものである。従って、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を350℃としたことが、プレス盤との離型性と関係があるかどうかを評価するために、表面層6として用いるPTFE含浸ガラスクロスのPTFE含浸加工時の加熱処理温度を変化させた実施例1〜3の熱プレス用クッション材1に対してプレス盤との離型性の評価試験(200回)を行い、プレス盤との離型性を評価した。
【0105】
柔軟性の評価試験では、実施例及び比較例の各熱プレス用クッション材1(2m×1m)を使用した場合に、プレス対象物に反りが生じるかどうかに基づいて、プレス対象物の反りの有無を評価すると共に、プレス対象物の反りの程度に基づいて、柔軟性を評価した。柔軟性の評価は3段階であり、プレス対象物に反りが生じなければ○、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が小さければ△、プレス対象物に反りが生じており、反りの程度が大きければ×とした。
【0106】
実施例1〜3及び比較例1の熱プレス用クッション材1について、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価結果を、表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3に基づくと、PTFE含浸加工時の加熱処理温度と、結晶化度、融解熱量との間には相関が見られた。具体的には、加熱処理温度が400℃である実施例1の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度86%、融解熱エネルギー5.60mJ/mgと最も高くなった。また、加熱処理温度が380℃である実施例2の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度84%、融解熱エネルギー4.42mJ/mgとなった。また、加熱処理温度が360℃である実施例3の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度81%、融解熱エネルギー4.13mJ/mgとなった。これらの実施例1〜3の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性のいずれも良好であった。一方、加熱処理温度が350℃である比較例1の熱プレス用クッション材1のガラスクロスは、結晶化度74%、融解熱エネルギー3.86mJ/mgと最も低くなった。比較例1の熱プレス用クッション材1は、吸引搬送性は良好であるものの、プレス盤20への貼り付きによりプレス盤との離型性が不充分であった。
【0109】
(吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験についての考察)
上述の吸引搬送性、プレス盤との離型性、柔軟性の評価試験より、以下のことが明らかになった。
【0110】
吸引搬送性の評価試験より、表面層の加熱処理温度を変化させた場合であっても、上述の通り、熱プレス用クッション材1の通気度が1.0cm
3/cm
2・s以下であり、たわみ量が150mm以下であり、且つ、表面粗さRaが60μm以下であれば、吸引搬送性に優れていることが確認できた。そのためには、熱プレス用のクッション材1のガラスクロスの織糸の径の最小値が300μm以上、または、織り密度が経糸及び緯糸共に25本/in以上で、且つ、PTFE含浸量が100g/m
2以上であればよいことが確認できた。また、柔軟性の評価試験より、表面層の加熱処理温度を変化させた場合であっても、上述の通り、熱プレス用クッション材1のたわみ量が5mm以上であれば、プレス対象物に反りは見られず、柔軟性が高いことが確認できた。そのためには、熱プレス用クッション材1のガラスクロスの織糸の径の最大値が600μm以下、または、ガラスクロスの織り密度が経糸及び緯糸共に100本/in以下で、且つ、PTFE含浸量が200g/m
2以下であればよいことが確認できた。
【0111】
プレス盤との離型性の評価試験の結果より、PTFE含浸加工時に360〜430℃の温度下において予め加熱処理が施されたガラスクロスを表面層6として用いた熱プレス用クッション材1が、プレス盤との離型性に優れていることが確認できた。これにより、従来(350℃)と比較して高い温度で加熱処理を施すことで、表面層6にPTFEを含浸する際に添加される分散剤等の接着性の高い有機成分を十分に除去することができると共に、PTFEの結晶化度を高くして、表面層6の表面をより硬く形成することができ、プレス盤等との離型性をより良好に維持することができていることがわかる。
【0112】
同様に、プレス盤との離型性の評価試験の結果より、示差走査熱量計により、窒素雰囲気下で加熱速度10℃/minで40℃から420℃までの温度範囲で測定される融解曲線において、耐熱性樹脂の融点付近に現れる融解ピーク温度から算出される融解熱量が4.0mJ/mg以上であり、且つ、表面をX線回折法により測定される結晶化度が80%以上であるガラスクロスを表面層6として用いた熱プレス用クッション材1が、プレス盤との離型性に優れていることが確認できた。これにより、PTFEの融点付近に現れるピークの融解熱が高いため、表面層6の表面に接着性の高い有機成分が残留せず除去されると共に、表面に付着したPTFEの結晶化度が高いため、表層層6の表面が硬くなり、熱プレス用クッション材1がプレス盤へ貼り付かず、プレス盤との離型性が更に向上することがわかる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。