特許第6647986号(P6647986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647986二次電池の劣化判定装置、二次電池の劣化判定方法、及び二次電池の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647986
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】二次電池の劣化判定装置、二次電池の劣化判定方法、及び二次電池の制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20200203BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20200203BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20200203BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20200203BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20200203BHJP
【FI】
   G01R31/392
   H01M10/48 P
   H01M10/42 P
   H02J7/00 P
   H02J7/00 Y
   B60L3/00 S
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-153525(P2016-153525)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-21837(P2018-21837A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木庭 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中桐 康司
(72)【発明者】
【氏名】福間 保
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−81823(JP,A)
【文献】 特開2013−210340(JP,A)
【文献】 特開2012−58028(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0169975(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
H01M 10/42
H02J 7/00
B60L 3/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不定量の充放電が繰り返されるアルカリ二次電池の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置であって、
前記アルカリ二次電池の充電状態に生じた増加又は減少について、前記増加毎又は減少毎での充電状態の変化量を算出する変化量算出部と、
前記変化量と、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報とに基づいて前記アルカリ二次電池の劣化量を算出する劣化量算出部と、
前記算出した劣化量を累積する劣化量累積部と、
前記累積した劣化量に基づいて前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定部とを備え、
前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報として、充電状態の変化量が大きいほど前記アルカリ二次電池の劣化量が大きいことを示す情報が設定されている
ことを特徴とする二次電池の劣化判定装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、前記累積した劣化量が規定の判定値よりも大きいとき、前記アルカリ二次電池が劣化している旨を判定する
請求項1に記載の二次電池の劣化判定装置。
【請求項3】
前記劣化判定部はさらに、前記アルカリ二次電池の劣化を判定した結果を外部へ通知する通知部を備える
請求項1又は2に記載の二次電池の劣化判定装置。
【請求項4】
不定量の充放電が繰り返されるアルカリ二次電池の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置に用いられる方法であって、
前記アルカリ二次電池の充電状態に生じた増加又は減少について、前記増加毎又は減少毎での充電状態の変化量を算出する変化量算出工程と、
前記変化量と、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報とに基づいて前記アルカリ二次電池の劣化量を算出する劣化量算出工程と、
前記算出した劣化量を累積する劣化量累積工程と、
前記累積した劣化量に基づいて前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定工程とを有し、
前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報として、充電状態の変化量が大きいほど前記アルカリ二次電池の劣化量が大きいことを示す情報が設定されている
ことを特徴とする二次電池の劣化判定方法。
【請求項5】
駆動装置にモータを含んでいる車両に搭載され、前記モータの電源として用いられるアルカリ二次電池の充電及び放電を制御する二次電池の制御装置であって、
前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定装置と、
前記劣化判定装置の判定結果に応じて、前記アルカリ二次電池の充電状態が増加又は減少したときの充電状態の変化量が小さくなるように前記アルカリ二次電池の充電及び放電を制御する充放電制御部とを備え、
前記劣化判定装置は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二次電池の劣化判定装置である
ことを特徴とする二次電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置、及び該装置に用いられる二次電池の劣化判定方法、及び該装置を用いる二次電池の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等の車載用電源としては、エネルギー密度の高さからニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池が用いられている。これらの二次電池は通常、複数の単電池から構成される電池モジュールを複数組み合わせた組電池として電池パックを構成している。
【0003】
ところで二次電池は、電池の種類によって異なる充電特性及び放電特性に適した充電や放電が行われる。例えば、ニッケル水素二次電池等のアルカリ二次電池の充電特性として、急速充電すると、分極が大きくなって充電電圧が高くなり、二次電池の劣化を引き起こすことが知られている。よって、アルカリ二次電池の電池寿命を延ばすためには、充電による二次電池の劣化を低減することが重要である。例えば、ニッケル水素二次電池の充電時における劣化を低減しつつ、急速充電を可能にする技術が特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、ニッケル水素二次電池を間欠充電動作にて充電する技術である。間欠充電動作では、充電動作の休止時ごとに、ニッケル水素二次電池の端子電圧から求めたニッケル水素二次電池の充電状態を示すパラメータに応じて、充電電流が下げられる。ここで、充電状態を示すパラメータは分極電圧であり、分極電圧の経時的変化が初めて極小点を通過したことに応じて充電電流を下げてその後の充電を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−104139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、ニッケル水素二次電池の劣化を低減しつつ急速充電ができるようになる。
ところで、アルカリ二次電池は、上述した車載用電源等であるとすると、放電と充電とが不定期、かつ、不定間隔で短周期に繰り返されることも少なくないため、分極電圧の経時的変化から劣化の防止に必要な情報を得られないおそれがある。もし、劣化の防止に必要な情報が得られないこととなると、アルカリ二次電池の劣化を判定することもできない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、不定量の充放電が繰り返される場合でもアルカリ二次電池の劣化を判定することのできる二次電池の劣化判定装置、及び、該装置に用いられる二次電池の劣化判定方法、及び、該装置の用いられる二次電池の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する二次電池の劣化判定装置は、不定量の充放電が繰り返されるアルカリ二次電池の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置であって、前記アルカリ二次電池の充電状態に生じた増加又は減少について、前記増加毎又は減少毎での充電状態の変化量を算出する変化量算出部と、前記変化量と、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報とに基づいて前記アルカリ二次電池の劣化量を算出する劣化量算出部と、前記算出した劣化量を累積する劣化量累積部と、前記累積した劣化量に基づいて前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定部とを備え、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報として、充電状態の変化量が大きいほど前記アルカリ二次電池の劣化量が大きいことを示す情報が設定されていることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する二次電池の劣化判定方法は、不定量の充放電が繰り返されるアルカリ二次電池の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置に用いられる方法であって、前記アルカリ二次電池の充電状態に生じた増加又は減少について、前記増加毎又は減少毎での充電状態の変化量を算出する変化量算出工程と、前記変化量と、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報とに基づいて前記アルカリ二次電池の劣化量を算出する劣化量算出工程と、前記算出した劣化量を累積する劣化量累積工程と、前記累積した劣化量に基づいて前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定工程とを有し、前記変化量に対応するアルカリ二次電池の劣化量を示す情報として、充電状態の変化量が大きいほど前記アルカリ二次電池の劣化量が大きいことを示す情報が設定されていることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する二次電池の制御装置は、駆動装置にモータを含んでいる車両に搭載され、前記モータの電源として用いられるアルカリ二次電池の充電及び放電を制御する二次電池の制御装置であって、前記アルカリ二次電池の劣化を判定する劣化判定装置と、前記劣化判定装置の判定結果に応じて、前記アルカリ二次電池の充電状態が増加又は減少したときの充電状態の変化量が小さくなるように前記アルカリ二次電池の充電及び放電を制御する充放電制御部とを備え、前記劣化判定装置は、上記記載の二次電池の劣化判定装置であることを特徴とする。
【0011】
このような構成または方法によれば、使用中のアルカリ二次電池について、充電毎又は放電毎の劣化量を、充電された電力の残存量を示す充電状態(SOC:State Of Charge)の変化量に基づいて算出するとともに、これを累積する。よって、充放電が不定量で繰り返されたとしても、算出された劣化量に基づいてアルカリ二次電池の劣化が判定されるようになる。これにより、アルカリ二次電池の過充電や過放電が避けられ、管理が好適になされるようになる。
【0012】
また、アルカリ二次電池の使用中に劣化の判定ができることにより、アルカリ二次電池の劣化が小さい使用法を選択することができるようになる。よって、アルカリ二次電池の寿命を延ばすための情報を提示したり、充放電となるように制御したりすることができるようになりアルカリ二次電池の利用の利便性が向上する。
【0013】
好ましい構成として、前記劣化判定部は、前記累積した劣化量が規定の判定値よりも大きいとき、前記アルカリ二次電池が劣化している旨を判定する。
このような構成によれば、アルカリ二次電池の劣化が、累積した劣化量が規定の判定値よりも大きくなることで判定されるようになる。
【0014】
好ましい構成として、前記劣化判定部はさらに、前記アルカリ二次電池の劣化を判定した結果を外部へ通知する通知部を備える。
このような構成によれば、外部にアルカリ二次電池の劣化の判定結果が通知されるので、劣化が考慮されたアルカリ二次電池の利用がなされるようになる。
【発明の効果】
【0015】
この二次電池の劣化判定装置、二次電池の劣化判定方法、及び二次電池の制御装置によれば、不定量の充放電が繰り返される場合でもアルカリ二次電池の劣化を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】二次電池の劣化判定装置を具体化した一実施形態について、その概略構成を示すブロック図。
図2】同実施形態における充電毎及び放電毎において充電状態(SOC)が変化した変化量(dSOC)と絶縁抵抗の低下量との関係を示すグラフ。
図3】同実施形態における使用中の二次電池の充電状態(SOC)が変化の一例、及び、そのとき充電毎及び放電毎に変化した変化量(dSOC)の一例を示すグラフ。
図4】同実施形態における劣化量を計算する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図4に従って、二次電池の劣化判定装置を具体化した一実施形態について説明する。電池10は、アルカリ二次電池としてのニッケル水素二次電池である。ここで電池10は、例えば、複数の電池モジュールが接続された組電池として構成されている。電池モジュールは6個の単電池から構成される。単電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して複数枚積層された極板群とアルカリ電解液とから構成されている。
【0018】
図1に示すように、電池10は、電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載され、電動モータ12等に電力を供給する。電池10は、駆動装置11に電源として接続されている。駆動装置11は、走行に必要な量の電力を電池10に放電させ、この放電させた電力を使用して電動モータ12を駆動することで車両の駆動輪13を回転させる。また、駆動装置11は、駆動輪13の回転に従動する電動モータ12から出力される電力を回生して電池10に充電する。よって、電池10は、車両の走行状態に応じて不定量の電力の充放電が、不定期かつ不定間隔に、また変化が短周期であることも含めて繰り返される傾向にある。
【0019】
また、電池10には、電池10の端子間電圧を測定する電圧測定器21と、電池10の充放電電流を測定する電流測定器22と、電池10の劣化を判定する二次電池の劣化判定装置としての判定装置30が接続されている。
【0020】
電圧測定器21は、測定した電池10の端子間電圧に対応する電圧信号を判定装置30に出力する。
電流測定器22は、測定した電池10の放電電流及び充電電流に対応する電流信号を判定装置30に出力する。
【0021】
判定装置30は、電池10の劣化を判定するとともに、この判定の結果を表示させたり、外部に出力させたりすることができる。判定装置30は、電圧測定器21から入力される電圧信号から電池10の端子間電圧を取得し、電流測定器22から入力される電流信号から電池10の充放電電流を取得する。
【0022】
また、判定装置30は、電池10の劣化を判定する処理である劣化判定処理を行う処理部40と、電池10の劣化判定処理の算出に用いられるデータ等を保持する記憶部50とを備える。処理部40は、コンピュータを含み構成されており、演算装置、揮発性メモリ、不揮発性メモリなどを備える。また処理部40は、記憶部50との間でデータの授受が可能である。記憶部50は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置であり、各種データを保持する。
【0023】
記憶部50には、電池10の各種充電状態(SOC:State Of Charge)を含むSOC値51と、SOCの算出に要するSOC算出用データ52とが記憶されている。SOC値51には、電池10の初期のSOCや、現在のSOCなどの値が含まれている。SOC算出用データ52には、電池10に充電可能な電気量等のパラメータが記憶されている。
【0024】
また記憶部50には、電池10の充電毎及び放電毎におけるSOCの変化量(dSOC)を含むdSOC値53と、dSOCの算出に要するdSOC算出用データ54とが記憶されている。ここで、dSOCは、一回の充電や放電で変化したSOCの量であり、2つの放電の間に挟まれた一回の充電で増加したSOCの量や、2つの充電の間に挟まれた一回の放電で減少したSOCの量のことである。換言すると、dSOCは、電池10のSOCに生じた増加又は減少について、その増加又は減少でのSOCの変化量のことである。dSOC値53には、最新のdSOCや、必要に応じてそれより以前のdSOCが記憶されている。dSOC算出用データ54には、現在の電池10の絶縁抵抗値と、電池10の初期の絶縁抵抗値と、dSOCと絶縁抵抗低下量との関係を示す情報等が記憶されている。ここで、絶縁抵抗とは、電池10の正極と負極との間の絶縁抵抗であり、例えば、セパレータの絶縁抵抗のことであるが、その他の要因を含むかたちで検出される絶縁抵抗でもよい。
【0025】
ところで発明者らは、電池10の絶縁抵抗低下量がdSOCと相関性があることを見出した。
すなわち、図2に示すように、dSOCと絶縁抵抗低下量との関係を示す情報は、dSOCに対応する絶縁抵抗の低下量を右下がりのグラフL1として示すことのできるデータであることを見出した。なお同情報は、グラフL1を示す情報であれば、マッピングデータや関数式等からなる情報であってもよい。ここでグラフL1は、dSOCの大きさに応じて絶縁抵抗の低下量が増加、すなわち負に大きくなる関係を示している。絶縁抵抗の低下量は、例えば、経年劣化としてセパレータに生じる化学的微短の進行度合いを絶縁抵抗の低下として示すものであると考えられている。例えば、セパレータは、活物質から溶解した金属の析出等が生じることや、電極活物質が移動すること等で絶縁抵抗の低下が生じる。そして、こうした絶縁抵抗の低下が進行すると、電池10は微小短絡を生じるおそれが高まるものと考えられる。そこで、絶縁抵抗の低下量に基づいて電池10の劣化量を算出し、この算出した劣化量から劣化を判定することができることが見出された。逆に、図2に示す関係から、電池10の充放電の条件を好ましい範囲に限定することで、微小短絡を抑制し電池10の劣化を抑制することができることも見出された。
【0026】
図2のグラフL1は、例えば、dSOCが「0.1%」のときの絶縁抵抗低下量に比べて、dSOCが「1%」のときの絶縁抵抗低下量が2倍になり、同じく比べて、dSOCが「10%」のときの絶縁抵抗低下量が3倍になることを示している。グラフL1に、充放電の都度算出されるdSOCを適用することで、算出される都度のdSOCに起因する絶縁抵抗低下量、いわゆる充放電毎の劣化量が算出できる。そして充放電毎の劣化量を累積することで電池10の劣化量が得られる。なお、セパレータに関連する絶縁抵抗の低下であれば、セパレータの厚みを増したり、繊維の密度を上げたりすることでその絶縁抵抗の低下を抑制することもできるが、厚みの増加や繊維密度の増加はイオン伝導度の減少を招いたり、コスト増加を招くおそれがある。
【0027】
そこで、劣化判定処理を行う判定装置30について説明する。
図1に示すように、処理部40は、電圧測定器21から入力される電圧信号から電池10の端子間電圧を取得する電圧測定部41と、電流測定器22から入力される電流信号から電池10の充放電電流を取得する電流測定部42とを備える。
【0028】
また、処理部40は、電池10のSOCを算出するSOC算出部43と、SOCに増加又は減少が生じたとき増加又は減少でのSOCの変化量であるdSOCを算出する変化量算出部としてのdSOC算出部44とを備える。SOC算出部43は、電池10のSOCを、例えば、端子間電圧から算出したり、充放電量の累積から算出したり、複素インピーダンスから算出したり、その他の公知の方法で算出することができる。
【0029】
さらに、処理部40は、各dSOCに基づいて電池10の劣化量を算出する劣化量算出部45と、算出された劣化量の累積に基づいて電池10の劣化を判定するとともに、判定結果を出力する劣化累積部及び劣化判定部としての劣化判定出力部46とを備える。
【0030】
図3及び図4を参照して、本実施形態の劣化判定装置の動作について説明する。
図3は、車両の走行に応じて電池10に生じるSOCの変化の一例を示す。ここで、「1cyc」は、任意に区切られた時間区間であって、例えば、イグニッションを「ON」してから「OFF」するまでの時間区間である。「ΔSOC」は、「1cyc」の間に変化したSOCの最大幅であり、充電量が最大になったときと、充電量が最低になったときとの差である。なお、電池10がSOC「80%」以下、かつ「20%」以上の間で使用されるように制御されている場合、ΔSOCは、多くの場合「60%」以下の値になる。電池10は、「1cyc」の中での走行状況に応じて不定量の充放電が繰り返されるので、SOCは増減を繰り返し、SOCの変化が例えばグラフL21,L22のように示される。グラフL21は、電池10が充電される区間cd11,cd13,・・・,cd1nと、電池10が放電される区間cd12,cd14,・・・,cd1m(但し、m=n−1)とを有している。そして区間cd11〜cd1n毎のSOCの変化量が充電毎又は放電毎のdSOCである。例えば、区間cd11のdSOCは「ds11」であり、区間cd12のdSOCは「ds12」であり、区間cd13のdSOCは「ds13」である。同様に、区間cd1mのdSOCは「ds1m」であり、区間cd1nのdSOCは「ds1n」である。こうして算出された各区間のdSOCである「ds11」〜「ds1n」に基づいて、「1cyc」での劣化量が得られるとともに、電池10が初めて使用されてからの各「1cyc」における劣化量の累積が現時点での電池10の劣化量として得られる。また、次の「1cyc」でのSOCの変化を示すグラフL22は、電池10が充電される区間cd21,cd23,・・・,cd2nと、電池10が放電される区間cd22,cd24,・・・とを有している。この場合、例えば、区間cd21のdSOCは「ds21」として得られ、区間cd22のdSOCは「ds22」として得られる。
【0031】
図4は、電池10の劣化判定処理の処理手順を示す。劣化判定処理は、判定装置30の処理部40で車両のイグニッションがONされると開始されるものとする。
判定処理が開始されると、処理部40は、電流を測定する(ステップS10)。電流は、規定の測定期間における電流量であってもよい。例えば、電流は、充電と放電とでの向きの違いが「+/−」の極性の違いで示される。処理部40は、充電と放電とが切り替わったか否かを判定する(ステップS11)。充電と放電とが切り替わったことは、前回測定した電流の向きと今回測定した電流の向きとが相違することに基づいて判定される。電流量に基づく電流の向きを充放電の判定に用いれば、電流に生じる一時的な変動の影響が抑えられる。
【0032】
充電と放電とが切り替わっていないと判定した場合(ステップS11でNO)、処理部40は、終了条件が成立したか否かを判定し(ステップS18)、終了条件が成立していない場合(ステップS18でNO)、処理をステップS10に戻す一方、終了条件が成立した場合(ステップS18でYES)、劣化判定処理を終了する。終了条件が成立したことは、車両のイグニッションがOFFされたことや、駐停車が長時間に及んだこと等に基づいて判定される。
【0033】
逆に、充電と放電とが切り替わったと判定した場合(ステップS11でYES)、処理部40のdSOC算出部44は、切り替わったときのSOCである「現在SOC」を取得する(ステップS12)。現在SOCは、SOC算出部43で逐次算出されるSOCを取得してもよいし、このときSOC算出部43で算出してもよい。また、処理部40のdSOC算出部44は、dSOCを算出する(ステップS13:変化量算出工程)。dSOCは、dSOC算出部44で、前回の処理で設定された「開始SOC」と「現在SOC」との間の差として算出される。「開始SOC」は、記憶部50のdSOC値53に含まれて記憶されている。次に、処理部40のdSOC算出部44は、「開始SOC」に「現在SOC」を設定する開始SOC設定を行う(ステップS14)。なお、「開始SOC」が設定されていないことがステップS13で判明したとき、ステップS14を行った後、ステップS18に進むようにすれば、次回のdSOC算出処理(ステップS13)ではdSOCが算出できるようになる。
【0034】
続いて、処理部40は、劣化量算出部45で劣化量を算出する(ステップS15:劣化量算出工程)。本実施形態では、絶縁抵抗の低下量が劣化量として算出される。よって、絶縁抵抗の低下量は、算出した充電毎又は放電毎のdSOCをdSOCと絶縁抵抗の低下量との関係を示す情報、つまりグラフL1に適用することで算出される。なお、充電毎であれ、放電毎であれ、dSOCは、その絶対値がグラフL1に適用され、絶縁抵抗の低下量は、いつでも同符号の値、ここではいつでも負の値として算出される。そして、処理部40の劣化判定出力部46は、算出した劣化量で、累積の劣化量を更新する(ステップS16:劣化量累積工程)。本実施形態では、累積の劣化量は、充電毎であれ、放電毎であれ、負の値(絶対値)が大きくなる。電池10は、充放電のいずれにおいても劣化が進行することから、累積の劣化量が大きくなることは妥当である。
【0035】
累積の劣化量が更新されると、処理部40は、劣化判定出力部46で電池10の劣化を判定する(劣化判定工程)とともに、判定結果を出力する(ステップS17)。電池10の劣化は、規定の判定値よりも累積の劣化量が大きいこと、ここでは負の値が大きいことに基づいて判定する。つまり処理部40は、累積の劣化量が規定の判定値以下であれば、「劣化していない」との判定結果を出力し、逆に累積の劣化量が規定の判定値よりも大きければ、「劣化している」との判定結果を出力する。なお、規定の判定値は、予め定められた値が記憶部50等に記憶されている。そして、電池10の劣化が判定されると、劣化の判定結果が車載LANの通信装置等からなる通知部を介して車両の他の制御機器等に対して出力される。
【0036】
判定結果が出力されると、判定装置30は、終了条件が成立したか否かを判定し(ステップS18)、終了条件が成立していない場合(ステップS18でNO)、処理をステップS10に戻す一方、終了条件が成立した場合(ステップS18でYES)、劣化判定処理を終了する。
【0037】
そして、判定装置30から出力された判定結果が車両で利用される。
車両では、判定装置30から出力された電池10の「劣化している」との判定結果に基づいて、運転者に電池10の寿命を延ばすための情報として電池10の充放電の抑制を促す通知をしてもよい。
【0038】
また、車両では、判定装置30から出力された電池10の劣化の判定結果に基づいて、電池10の寿命を延ばすように電池10の充放電を制御してもよい。例えば、車両に二次電池の制御装置(図示略)を設け、該制御装置の充放電制御部(図示略)で駆動装置11における充放電を管理するようにしてもよい。充放電制御部は、「劣化している」との判定結果に基づいて、電池10の放電量や充電量が少なくなるように電動モータ12を制御させてもよい。例えば、放電量を減らすために出力を低下させたり、充電量を減らすために回生量を抑えたりすることができる。ハイブリッド車の場合、エンジン側の負荷を高くすることで電動モータ12への放電量を減らすこともできるし、エンジンによる発電量を減らすこと充電量を減らすこともできる。また、一回の充電又は放電における、充電量や放電量を制限するようにしてもよい。こうした制限は、電流量で規定してもよいし、簡便に時間で規定してもよい。時間が短く設定されれば、電流量が減ることになる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の二次電池の劣化判定装置によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)使用中の電池10について、充電毎又は放電毎の劣化量を、SOCの変化量に基づいて算出するとともに、これを累積する。よって、充放電が不定量で繰り返されたとしても、算出された劣化量に基づいて電池10の劣化が判定されるようになる。これにより、電池10の過充電や過放電が避けられ、管理が好適になされるようになる。
【0040】
また、電池10の使用中に劣化の判定ができることにより、電池10の劣化が小さい使用法を選択することができるようになる。よって、電池10の寿命を延ばすための情報を提示したり、充放電となるように制御したりすることができるようになり電池10の利用の利便性が向上する。
【0041】
(2)劣化量をセパレータの絶縁抵抗の低下とすることで、活物質から溶解した金属の析出等で生じるセパレータの絶縁抵抗の低下に基づいて電池10の劣化を判定することができる。
【0042】
(3)電池10の劣化が、累積した劣化量が規定の判定値よりも大きくなることで判定されるようになる。
(4)判定装置30の外部に電池10の劣化の判定結果が通知されるので、劣化が考慮された電池10の利用がなされるようになる。
【0043】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、処理部40の劣化判定出力部46が劣化の判定結果を出力する場合について例示した。しかしこれに限らず、劣化の判定結果を出力できるのであれば、劣化判定出力部は表示装置や音声出力装置等の出力部を介して劣化の判定結果を外部に出力してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、dSOCが、SOCに生じた増加又は減少について、その増加又は減少でのSOCの変化量である場合について例示した。しかしこれに限らず、途中で増加や減少が一時中断された場合、中断前後の増加や減少を、一の増加や減少として取り扱ってもよい。例えば、充放電の中断中に電池は自己放電するが、中断中の自己放電量によるSOCの変化が閾値「1%」以下である場合は、中断前後の増加や減少を、一の増加や減少として取り扱う。なお、閾値は時間や研究、理論に基づいて任意の適切な数値に変更してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、電池10はニッケル水素二次電池である場合について例示したが、これに限らず、ニッケルカドミウム電池等その他のアルカリ二次電池であってもよい。
・上記実施形態では、電池10が電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載される場合について例示したが、これに限らず、二次電池は、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両に搭載されてもよい。また二次電池は、移動体や固定設置の電源として用いられてもよい。例えば、電源の適用先としては、鉄道、船舶、航空機やロボット等の移動体や、情報処理装置等の電気製品等が挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
10…電池、11…駆動装置、12…電動モータ、13…駆動輪、21…電圧測定器、22…電流測定器、30…判定装置、40…処理部、41…電圧測定部、42…電流測定部、43…SOC算出部、44…dSOC算出部、45…劣化量算出部、46…劣化判定出力部、50…記憶部、51…SOC値、52…SOC算出用データ、53…dSOC値、54…dSOC算出用データ。
図1
図2
図3
図4