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特許6648070結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造およびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648070
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0236 20060101AFI20200203BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01L31/04 280
   H01L21/306 B
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-122784(P2017-122784)
(22)【出願日】2017年6月23日
(65)【公開番号】特開2018-6744(P2018-6744A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年6月23日
(31)【優先権主張番号】201610480361.X
(32)【優先日】2016年6月27日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】511138504
【氏名又は名称】▲蘇▼州阿特斯▲陽▼光▲電▼力科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼ ▲師▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲栩▼生
(72)【発明者】
【氏名】▲ケイ▼ 国▲強▼
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−225552(JP,A)
【文献】 特開2007−194485(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054076(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157179(WO,A1)
【文献】 特開2013−089832(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105070792(CN,A)
【文献】 国際公開第2012/150669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法であって、
(1)シリコンウエハーの表面に多孔質層構造を形成する工程と、
(2)その後、アルカリ性薬液で洗浄する工程と、
(3)その後、残留した金属粒子を第1洗浄液で除去する工程と、
(4)その後、第1化学エッチング液で表面エッチングを行って結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得る工程と、
を含むことを特徴とする結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項2】
第1化学エッチング液はフッ化水素酸と酸化剤との混合溶液であることを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、シリコンウエハーを、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液に投入して多孔質層構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項4】
前記工程(1)において、
先ずシリコンウエハーを金属イオンを含む溶液に浸漬してシリコンウエハーの表面に一層の金属ナノ粒子をコーティングし、
次にフッ化水素酸と酸化剤との混合溶液である化学エッチング液でシリコンウエハーの表面をエッチングして多孔質層構造を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項5】
前記工程(1)と前記工程(2)の間と、前記工程(2)と前記工程(3)の間と、前記工程(3)と前記工程(4)の間と、に、それぞれ水洗工程を有することを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、
洗浄時間は5〜250秒であり、
前記アルカリ性薬液において、アルカリ性物質の体積濃度が0.1〜30%、温度が20〜80℃であり、
前記アルカリ性薬液は水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種である
ことを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項7】
前記工程(3)において、
前記第1洗浄液は、塩酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、硝酸、アンモニア水、の4種の溶液から選ばれる1種であり、
前記硝酸の体積濃度は5〜69%、前記アンモニア水の体積濃度は1〜30%であり、
前記第1洗浄液の温度は20〜80℃である
ことを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項8】
前記工程(4)において、
前記第1化学エッチング液はフッ化水素酸と硝酸の混合液であり、
前記混合液中における各成分の濃度は、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、硝酸が1〜15mol/Lである
ことを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項9】
前記工程(4)の後に、さらに、
(5)上記シリコンウエハーを水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、または、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種であるアルカリ溶液である第2化学エッチング液に浸漬する工程と、
(6)上記シリコンウエハーを、塩酸と過酸化水素水との混合液、または、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、のうちのいずれか1種の混合液である第2洗浄液に投入して洗浄する工程と、
(7)上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項10】
前記工程(5)〜(7)の各工程の前、および、工程(7)の後、に、それぞれ水洗工程を有することを特徴とする請求項9に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項11】
結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法であって、
(1)シリコンウエハーの表面に多孔質層構造を形成する工程と、
(2)アルカリ性薬液で洗浄して孔底に残留した金属粒子を除去する工程と、
(3)第1化学エッチング液で表面エッチングを行って結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得る工程と、
(4)上記シリコンウエハーをアルカリ溶液である第2化学エッチング液に浸漬する工程と、
を含むことを特徴とする結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項12】
第1化学エッチング液はフッ化水素酸と酸化剤との混合溶液である請求項11に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項13】
前記工程(1)と前記工程(2)の間、および、前記工程(2)と前記工程(3)の間、には、それぞれ水洗工程を有することを特徴とする請求項11に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項14】
前記工程(2)において、
洗浄時間は5〜250秒であり、
前記アルカリ性薬液において、アルカリ性物質は体積濃度が0.1〜30%、温度が20〜80℃であり、
前記アルカリ性薬液はアンモニア水、または、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、のうちいずれか1種である
ことを特徴とする請求項11に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項15】
前記工程(3)において、
前記第1化学エッチング液はフッ化水素酸と硝酸の混合液であり、
前記混合液中における各成分の濃度は、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、硝酸が1〜15mol/Lである
ことを特徴とする請求項11に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項16】
前記工程(4)におけるアルカリ溶液は水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、または、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種であり、
前記工程(4)の後に、さらに、
(5)上記シリコンウエハーを、塩酸と過酸化水素水との混合液、または、アンモニア水と過酸化水素水の混合液、のうちのいずれか1種の混合液である洗浄液に投入して洗浄する工程と、
(6)上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬する工程と、
を含むことを特徴とする請求項11に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【請求項17】
前記工程(4)〜(6)の各工程の前、および、前記工程(6)の後、に、それぞれ水洗工程を有することを特徴とする請求項16に記載の結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法に関し、太陽電池の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池アセンブリの用途拡大に伴って、新エネルギーにおいて太陽光発電が占める比率が大きくなり、急速な発展を遂げている。これまでに商業化された太陽電池製品のうち、結晶シリコン(単結晶および多結晶)太陽電池の市場占有率が最大であり、85%以上の市場占有率を有している。
【0003】
太陽電池の生産プロセスにおいて、シリコンウエハー表面にテクスチャー構造を形成し太陽電池の表面反射率を効果的に低減することは、太陽電池の光電変換効率を高めるために重要な要素の一つである。結晶シリコン太陽電池の表面に良好なテクスチャー構造を形成して良好な反射防止効果を得るために多種の方法が検討されており、機械的チャネリング法、レーザエッチング法、反応イオンエッチング法(RIE法)、化学エッチング法(すなわち湿式エッチング法)などが一般的である。
その中でも、機械的チャネリング法は低い表面反射率を実現する。しかし、当該方法によるシリコンウエハー表面での機械的損傷が比較的深刻であり、かつ、その歩留まりが比較的低いため、工業的生産に使用されることは少ない。
レーザエッチング法は、レーザを用いて様々なチャネリングパターンを形成する手法であり、縞状や逆ピラミッド状の表面が既に製造されている。その反射率は8.3%と低いが、調製された太陽電池の効率がいずれも比較的低いため生産用には不適である。
RIE法は異なるテンプレートを用いてエッチングでき、エッチングとして一般的に乾式エッチングが使用される。シリコンウエハーの表面にいわゆる「ブラックシリコン」構造を形成でき、その反射率を7.9%、さらには4%と低くすることができるが、機器が高価で生産コストが高いため、工業的生産に使用されることは少ない。
これに対し、化学エッチング法は工程が単純で、安価で品質が高く、従来のプロセスと適合性がある等の特徴を有することから、工業的に使用される例が最も多い方法となっている。
【0004】
従来、湿式エッチング法による結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造は一般的にミクロンスケールである。通常使用される手法は、表面低下率を更に低減させることには成功しているが、工業的生産に適用するためには依然として課題を有している。特許文献1には、アニールによってナノテクスチャー形態を制御する結晶シリコンナノテクスチャーの調製方法が開示されているが、該方法は工程が複雑で、工業的生産には不適である。
【0005】
上記課題の解決策となる従来技術としては、金属イオンエッチング法が挙げられる。例えば特許文献2は、下記の工程を含む方法を具体的に開示している。
(1)シリコンウエハーを、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液に投入して、多孔質層構造を形成する工程;
(2)フッ化水素酸と硝酸との混合溶液である第1化学エッチング液で、表面エッチングを行う工程;
(3)上記シリコンウエハーを、アルカリ溶液である第2化学エッチング液に投入して浸漬し、テクスチャー構造を形成する工程。
【0006】
しかし、実際に使用したところ、上記の方法は下記の課題を有することが明らかになった。
(一)上記方法の工程(2)では、第1化学エッチング液は主に、金属触媒により形成された多孔質シリコン層をエッチングする作用と、シリコンウエハーの表面に残留した金属粒子を洗浄する作用と、の二つの作用を果たす。シリコンウエハーの処理量の増加に伴って、工程(2)の第1化学エッチング液(すなわちフッ化水素酸/硝酸の混合溶液)中のAgイオンが増加し、Agイオン濃度の高いフッ化水素酸/硝酸混合溶液になる。このとき、第1化学エッチング液中のAgイオンの作用により、意図しない化学エッチング反応が起きてしまう。これにより、テクスチャー構造の安定性や均一性が低下し、太陽電池の特性に悪影響を与えてしまう。
(二)シリコンウエハーの処理量の増加に伴って、上記方法の工程(2)の第1化学エッチング液中のAgイオンが増加するため、工程(2)においてAgイオンがシリコンウエハーに再付着する。このため、シリコンウエハーに付着したAg粒子の洗浄が困難になる。よって、フッ化水素酸/硝酸混合溶液の寿命が短くなり、更にコストが増加する。
【0007】
従って、テクスチャー構造の安定性や均一性、および、太陽電池の特性の安定性、を確保するとともに、フッ化水素酸/硝酸混合溶液の寿命をより延長するために、結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の新しい調製方法の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2014/120830号
【特許文献2】中国特許第101573801号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は下記の実施形態を採用する。結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法であって、
(1)シリコンウエハーの表面に多孔質層構造を形成する工程と、
(2)アルカリ性薬液で洗浄する工程と、
(3)残留した金属粒子を第1洗浄液で除去する工程と、
(4)フッ化水素酸と酸化剤との混合溶液である第1化学エッチング液で表面エッチングを行って結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得る工程と、を含む。
【0011】
上記では、前記多孔質層構造は従来技術に属し、多孔質シリコン構造、ナノワイヤ構造などを含む。
【0012】
前記工程(4)における酸化剤は、硝酸、過酸化水素水、クロム酸、または、過マンガン酸カリウム水溶液、であってもよい。
【0013】
第一の実施形態では、前記工程(1)において、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液にシリコンウエハーを投入して多孔質層構造を形成する。このとき、温度は25〜90℃、時間は10〜1000秒である。
【0014】
好ましくは、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液において、
金属イオンの濃度が1×10−3mol/L以下、または、
金属イオンの濃度が1×10−3mol/Lより大きいと同時にフッ化水素酸の濃度が1×10−2mol/L以下、である。
【0015】
或いは、前記工程(1)において、先ずシリコンウエハーを、金属イオンを含んで且つ金属イオンの濃度が1×10−3mol/L以下、または、金属イオンの濃度が1×10−3mol/Lより大きいと同時にフッ化水素酸の濃度が1×10−2mol/L以下、である溶液に浸漬して、シリコンウエハーの表面に一層の金属ナノ粒子をコーティングする。
【0016】
次に、シリコンウエハーの表面を化学エッチング液で、温度25〜90℃、時間30〜300秒の条件でエッチングして、多孔質層構造を形成する。ここで、前記化学エッチング液はフッ化水素酸と酸化剤との混合溶液であり、ここで、混合液中における各成分の濃度が、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、酸化剤が1〜15mol/Lである。
【0017】
前記工程(1)と工程(2)の間、工程(2)と工程(3)の間、工程(3)と工程(4)の間には、それぞれ水洗工程を有する。
【0018】
第一の実施形態では、前記工程(2)において、洗浄時間は5〜250秒である。前記アルカリ性薬液において、アルカリ性物質の体積濃度は0.1〜30%、温度は20〜80℃である。前記アルカリ性薬液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種である。
【0019】
前記工程(2)において洗浄時間は、好ましくは5〜100秒、より好ましくは5〜50秒、更に好ましくは5〜30秒である。洗浄時間を10秒、20秒、40秒、または、60秒、に設定してもよい。
【0020】
前記アルカリ性薬液においてアルカリ性物質の体積濃度は、好ましくは0.5〜30%、より好ましくは1〜25%、更に好ましくは1〜20%である。
【0021】
前記アルカリ性薬液の温度は、好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜70℃、更に好ましくは25〜50℃である。
【0022】
第一の実施形態では、前記工程(3)において前記第1洗浄液は、塩酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、硝酸、アンモニア水、の4種から選ばれる1種である。前記硝酸の体積濃度は5〜69%、前記アンモニア水の体積濃度は1〜30%である。前記第1洗浄液の温度は20〜80℃、好ましくは20〜70℃、より好ましくは20〜50℃である。
【0023】
第一の実施形態では、前記工程(4)において、前記第1化学エッチング液はフッ化水素酸と硝酸の混合液であり、ここで、混合液中における各成分の濃度は、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、硝酸が1〜15mol/Lである。
【0024】
第一の実施形態では、前記工程(4)の後に、さらに、
(5)水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、または、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種であり、濃度が0.05〜0.5mol/Lのアルカリ溶液である第2化学エッチング液に上記シリコンウエハーを投入して、5〜250秒間浸漬する工程と、
(6)上記シリコンウエハーを、塩酸と過酸化水素水との混合液、または、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、のうちのいずれか1種の混合液である第2洗浄液に投入して、20〜80℃の温度で60〜300秒間洗浄する工程と、
(7)上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬する工程と、を含む。
【0025】
第一の実施形態では、工程(5)は、表面上の多孔質シリコンを除去する作用を果たす。工程(6)は、残留した金属粒子を除去する作用を果たす。工程(7)は、表層での酸化ケイ素層を除去する作用を果たす。実際の実施形態では、具体的なニーズに応じて選択してもよく、具体的には、
工程(5)のみ;
工程(5)と工程(6)との二つの工程の組み合わせ;
工程(5)、工程(6)および、工程(7)の三つの工程の組み合わせ;
のいずれかの組み合わせを採用することができる。
【0026】
第一の実施形態では、前記工程(5)〜(7)の各工程の前、および、前記工程(7)の後に、それぞれ水洗工程を有する。
【0027】
本発明はさらに、上記方法で調製された結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の保護を含む。好ましくは、前記テクスチャー構造は主に複数の略逆ピラミッド状の微細構造で構成される。
前記略逆ピラミッド状の微細構造は、
下部が逆角錐状構造、上部が逆円錐台構造であり、
最上部が円形、楕円形、または、複数本の曲線により囲まれた閉じた図形、からなる群から選ばれる1種または複数種であり、
寸法が100〜900nmである。
前記テクスチャー構造はさらに、複数のピラミッド状の微細構造を有する。
【0028】
上記では、前記略逆ピラミッド状の微細構造の最上部は円形、楕円形、または、複数本の曲線により囲まれた閉じた図形、からなる群から選ばれる1種または複数種である。前記複数本の曲線により囲まれた閉じた図形は、少なくとも3本の曲線を含むが、より多くの曲線により囲まれていてもよく、好ましくは5〜8本の曲線により囲まれていてもよい。前記逆円錐構造は最上部が円錐体の底面であり、円錐体がその底部を上に、頂部を下にした逆立ち状の配置を取るため、円錐体の底面が微細構造の最上部に位置している。
【0029】
前記テクスチャー構造は複数の略逆ピラミッド状の微細構造を有する。これらの略逆ピラミッド状の構造は、独立してシリコンウエハーの表面に分布していても、一部が重なっていても、または、複数の逆円錐構造同士が部分的に重なっていてもよい。前記略逆ピラミッド状の微細構造の深さは100〜900nmである。前記テクスチャー構造の平均反射率は2〜20%、好ましくは5〜15%である。
【0030】
本発明のメカニズムは、工程(2)において、アルカリ性薬液により表面の多孔質シリコン構造を除去して下層のナノテクスチャー構造を露出させると同時に、多孔質シリコン中の大量の金属粒子を剥離することである。次に、工程(3)において、第1洗浄液によりナノ構造の孔底に残留した金属を徹底的に除去するため、シリコンウエハーを第1化学エッチング液に投入する際に金属粒子がエッチング液に混入することがない。これにより、第1化学エッチング液中において、混入した金属触媒による意図しない酸化還元反応を起こすことがなく、テクスチャー構造の安定性や均一性に悪影響を与えることを回避できる。
【0031】
さらに、第1化学エッチング液で処理する前にシリコンウエハーから金属粒子を除去することにより、第1化学エッチング液中に金属粒子が蓄積することも回避できる。これにより、金属粒子シリコンウエハーの表面に再付着することによる洗浄不良を回避できるため、エッチング液の寿命が長くなる。また、太陽電池の光電変換効率を大幅に低下させる悪影響を防ぐことができる。
【0032】
本発明に係るの他の態様において、結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の調製方法は、
(1)シリコンウエハーの表面に多孔質層構造を形成する工程と、
(2)アルカリ性薬液で洗浄して、残留した金属粒子を除去する工程と、
(3)フッ化水素酸と酸化剤との混合溶液である第1化学エッチング液で表面エッチングを行って、結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得る工程と、を含む。
【0033】
つまり、第一の実施形態の工程(2)と工程(3)とは同じ種類の薬液を使用することから、これらの二つの工程を合併することができる。二つの工程で、同じ種類の薬液を選択することは極めて特別なことである。これにより、表面の多孔質シリコン構造を除去して、その下のナノテクスチャー構造を露出できるだけでなく、多孔質シリコン中の大量の金属粒子を剥離することもできる。また、ナノ構造の孔底に残留した金属を徹底的に除去することができる。
【0034】
第二の実施形態では、前記工程(1)において、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液にシリコンウエハーを投入して多孔質層構造を形成する。このとき、温度は25〜90℃、時間は10〜1000秒である。
【0035】
好ましくは、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液において、
金属イオンの濃度が1×10−3mol/L以下、または、
溶液における金属イオンの濃度が1×10−3mol/Lより大きいと同時にフッ化水素酸の濃度が1×10−2mol/L以下である。
【0036】
或いは、前記工程(1)において、先ずシリコンウエハーを、金属イオンを含んで且つ金属イオンの濃度が1×10−3mol/L以下、または、金属イオンの濃度が1×10−3mol/Lより大きいと同時にフッ化水素酸の濃度が1×10−2mol/L以下、である溶液に浸漬して、シリコンウエハーの表面に一層の金属ナノ粒子をコーティングする。
【0037】
次に、シリコンウエハーの表面を、化学エッチング液で、温度25〜90℃、時間30〜300秒の条件でエッチングして、多孔質層構造を形成する。ここで、前記化学エッチング液はフッ化水素酸と酸化剤との混合溶液であり、ここで、混合液中における各成分の濃度は、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、酸化剤が濃度1〜15mol/Lである。
【0038】
第二の実施形態では、前記工程(1)と工程(2)の間、工程(2)と工程(3)の間には、それぞれ水洗工程を有する。
【0039】
第二の実施形態では、前記工程(2)において、洗浄時間は5〜250秒である。前記アルカリ性薬液において、アルカリ性物質の体積濃度は0.1〜30%、温度は20〜80℃である。前記アルカリ性薬液はアンモニア水、または、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、のうちいずれか1種である。
【0040】
前記工程(2)において洗浄時間は、好ましくは5〜100秒、より好ましくは5〜50秒、更に好ましくは5〜30秒である。洗浄時間を10秒、20秒、40秒、または、60秒、に設定してもよい。
【0041】
前記アルカリ性薬液においてアルカリ性物質の体積濃度は、好ましくは0.5〜30%、より好ましくは1〜25%、更に好ましくは1〜15%である。
【0042】
前記アルカリ性薬液の温度は、好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜70℃、更に好ましくは25〜50℃である。
【0043】
第二の実施形態では、前記工程(3)において、前記第1化学エッチング液はフッ化水素酸と硝酸の混合液であり、ここで、混合液中における各成分の濃度は、フッ化水素酸が0.05〜0.5mol/Lであり、硝酸が1〜15mol/Lである。
【0044】
第二の実施形態では、前記工程(3)の後に、さらに、
(4)水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、または、水酸化テトラメチルアンモニウム、からなる群から選ばれるいずれか1種または複数種であるアルカリ溶液である第2化学エッチング液に上記シリコンウエハーを投入して浸漬する工程と、
(5)上記シリコンウエハーを、塩酸と過酸化水素水との混合液、または、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、のうちのいずれか1種の混合液である洗浄液に投入して洗浄する工程と、
(6)上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬する工程と、を含む。
【0045】
第二の実施形態では、前記工程(4)〜(6)の各工程の前、および、前記工程(6)の後に、それぞれ水洗工程を有する。
【0046】
本発明はさらに、上記方法で調製された結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造の保護を含む。好ましくは、前記テクスチャー構造は主に複数の略逆ピラミッド状の微細構造で構成される。
前記略逆ピラミッド状の微細構造は、
下部が逆角錐状構造、上部が倒円錐台構造であり、
最上部が円形、楕円形、または、複数本の曲線により囲まれた閉じた図形、からなる群から選ばれる1種または複数種であり、
寸法が100〜900nmである。
前記テクスチャー構造はさらに複数のピラミッド状の微細構造を有する。
【0047】
上記では、前記略逆ピラミッド状の微細構造の最上部は円形、楕円形、または、複数本の曲線により囲まれた閉じた図形、からなる群から選ばれる1種または複数種である。前記複数本の曲線により囲まれた閉じた図形は、少なくとも3本の曲線を含むが、より多くの曲線により囲まれていてもよく、好ましくは5〜8本の曲線により囲まれていてもよい。前記逆円錐構造は最上部が円錐体の底面であり、円錐体がその底部を上に、頂部を下にした逆立ち状の配置を取るため、円錐体の底面が微細構造の最上部に位置している。
【0048】
前記テクスチャー構造は複数の略逆ピラミッド状の微細構造を有する。これらの略逆ピラミッド状の構造は、独立してシリコンウエハーの表面に分布していても、一部が重なっていても、または、複数の逆円錐構造同士が部分的に重なっていてもよい。前記略逆ピラミッド状の微細構造の深さは100〜900nmである。前記テクスチャー構造の平均反射率は2〜20%、好ましくは5〜15%である。
【発明の効果】
【0049】
上記の実施形態を使用することで、本発明は、従来技術に比べて下記の利点を有する。
【0050】
1、本発明では、アルカリ性薬液で洗浄する工程を追加することで、Ag粒子を豊富に含む多孔質シリコン層を迅速にエッチングして除去することができる。これにより、フッ化水素酸と酸化剤との混合液での洗浄処理において前記混合液に溶解するAgが大幅に減少するため、前記混合液の寿命を大幅に延長できるとともに、テクスチャー構造の安定性と均一性を高めることができる。実験によれば、アルカリ性薬液で洗浄する工程を採用しない従来の方法においては前記混合液が寿命を迎えるまでのシリコンウエハー処理枚数は2000枚だったが、本願の方法では前記処理枚数が80000枚に向上した。
【0051】
2、本発明では、第1洗浄液で洗浄する工程を追加することで、金属銀粒子除去を確実にできる。シリコンウエハーに残留したAgの完全な除去を確実にできることから、太陽電池の電気特性の安定性が向上する。実験によれば、洗浄液で洗浄する工程を採用しない従来の方法に比べて、本願の方法によれば、開放電圧および短絡電流が著しく向上し、光電変換効率は0.3%以上向上した。
【0052】
3、本発明では、化学エッチング法によりナノテクスチャーを形成するため、マスクエッチングを必要としない。操作工程が単純であり、従来の工業的生産工程との適合性が良好であることから、工業的生産に迅速に移行でき、普及に適する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】実施例1によりテクスチャー構造を形成したシリコンウエハーのテクスチャー図。
図2】実施例2によりテクスチャー構造を形成したシリコンウエハーのテクスチャー図。
図3】比較例1によりテクスチャー構造を形成したシリコンウエハーのテクスチャー図。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例によって本発明を更に説明する。
【0055】
実施例1:
(1)シリコンウエハーを、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液に投入して、多孔質層構造を形成した。ここで、温度は50℃、時間は10〜1000秒とした。
(2)工程(1)のシリコンウエハーを水洗したのち、体積濃度が10%、温度が50℃の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性薬液)で5〜250秒間洗浄した。
(3)工程(2)のシリコンウエハーを水洗したのち、残留した金属粒子を、硝酸、アンモニア水、塩酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、からなる群から選ばれるいずれか1種の混合液である第1洗浄液で除去した。
(4)工程(3)のシリコンウエハーを水洗したのち、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液である第1化学エッチング液を用いて、温度40℃、時間5〜25秒の条件で表面エッチングを行なった。
(5)工程(4)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーを、濃度0.05〜0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液(アルカリ性薬液)である第2化学エッチング液に5〜250秒間浸漬して、テクスチャー構造を形成した。
(6)工程(5)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーを、体積濃度10%のアンモニア水と体積濃度10%の過酸化水素水との混合液である第2洗浄液に投入して温度30℃の条件で洗浄し、残留した金属粒子を除去した。
(7)工程(6)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬し、これを水洗して結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得た。
【0056】
実施例2:
(1)シリコンウエハーを、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液に投入して、多孔質層構造を形成した。ここで、温度は50℃、時間は10〜1000秒とした。
(2)工程(1)のシリコンウエハーを水洗したのち、体積濃度が10%、温度が50℃の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性薬液)で5〜250秒間洗浄した。
(3)工程(2)のシリコンウエハーを水洗したのち、残留した金属粒子を、硝酸、アンモニア水、塩酸と過酸化水素水との混合液、アンモニア水と過酸化水素水との混合液、からなる群から選ばれるいずれか1種の混合液である第1洗浄液で除去した。
(4)工程(3)のシリコンウエハーを水洗したのち、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液である第1化学エッチング液を用いて、温度40℃、時間5〜250秒の条件で表面エッチングを行い、これを水洗して結晶シリコン太陽電池のテクスチャー構造を得た。
【0057】
比較例1:
(1)シリコンウエハーを、酸化剤および金属塩を含むフッ化水素酸溶液に投入して、多孔質層構造を形成した。ここで、温度は50℃、時間は10〜1000秒とした。
(2)工程(1)のシリコンウエハーを水洗したのち、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液である第1化学エッチング液を用いて、温度40℃、時間5〜250秒の条件で表面エッチングを行った。
(3)工程(2)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーを、濃度0.05〜0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液(アルカリ性薬液)である第2化学エッチング液に5〜250秒間浸漬して、テクスチャー構造を形成した。
(4)工程(3)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーを第2洗浄液により洗浄して、残留した金属粒子を除去した。
(5)工程(4)のシリコンウエハーを水洗したのち、上記シリコンウエハーをフッ化水素酸溶液に浸漬し、水洗した。
【0058】
(一)実施例と比較例における、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液の使用寿命を比較した。図1は、実施例で2500枚のシリコンウエハーを処理した場合の、シリコンウエハー表面のテクスチャー図である。図3は、比較例で2500枚のシリコンウエハーを処理した場合の、シリコンウエハー表面のテクスチャー図である。図3のテクスチャー構造は不均一であり、フッ化水素酸と硝酸との混合溶液が寿命を迎えていることがわかった。また、実験によれば、本願の方法において、フッ化水素酸と硝酸との混合液の寿命を迎えるまでに80000枚のシリコンウエハーの処理を達成できることが証明された。
【0059】
(二)実施例と比較例とで量産した80000枚の太陽電池セルの電気特性パラメータを比較した。比較結果は表1の通りである。
【表1】
【0060】
以上から分かるように、本願による太陽電池セルは、開放電圧(Voc)、短絡電流(Isc)のいずれについても比較例より著しく向上した。また、光電変換効率(EFF)は0.31%向上した。
図1
図2
図3