(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648613
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20200203BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-75513(P2016-75513)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-188996(P2017-188996A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 誉人
【審査官】
柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−067084(JP,A)
【文献】
特開2003−134823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子のスイッチング動作により直流電源と交流機器との間の電力変換を行うインバータ装置であって、
前記直流電源の正極側に設けられた板状の正極側導体と、
前記直流電源の負極側に設けられた板状の負極側導体と、
前記正極側導体と前記負極側導体との間に直列に接続された第1正極側半導体素子及び第1負極側半導体素子と、
前記正極側導体と前記負極側導体との間に直列に接続された第2正極側半導体素子及び第2負極側半導体素子と、
前記正極側導体と前記負極側導体との間に設けられる絶縁板と、
前記絶縁板の前記正極側導体が設けられた側の板面に対して立設される板状の第1ヒートシンクと、
前記絶縁板の前記負極側導体が設けられた側の板面に対して立設される板状の第2ヒートシンクと、を備え、
前記正極側導体と前記負極側導体は、前記絶縁板を挟んで対向配置され、
前記第1ヒートシンクの一方の面に前記第1正極側半導体素子が設けられ、前記第1ヒートシンクの他方の面に前記第2正極側半導体素子が設けられ、
前記第2ヒートシンクの一方の面に前記第1負極側半導体素子が設けられ、前記第2ヒートシンクの他方の面に前記第2負極側半導体素子が設けられた
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記正極側導体と前記負極側導体は、前記絶縁板を介して平行平板状に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記第1ヒートシンク及び前記第2ヒートシンクは、水冷または沸騰冷却を含む液冷式のヒートシンクである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記第1正極側半導体素子のエミッタに接続される板状の第1導体と、前記第1負極側半導体素子のコレクタに接続される板状の第2導体が、前記絶縁板上に重ねた状態で設けられ、
前記第2正極側半導体素子のエミッタに接続される板状の第3導体と、前記第2負極側半導体素子のコレクタに接続される板状の第4導体が、前記絶縁板上に重ねた状態で設けられた
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関する。特に、単相インバータ装置の回路インダクタンスを低減させる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に一般的な単相インバータの回路図を示す。単相インバータは、アームを構成するスイッチング素子のペア(IGBT
1とIGBT
2またはIGBT
3とIGBT
4)がP側導体とN側導体の間に直列に接続されている。
【0003】
図5に示すように、従来技術に係る単相インバータ18は、ヒートシンク19上に半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)が配置される。そして、P側導体20とN側導体21が絶縁板22を介して積層されて、この積層部に平滑コンデンサ10が設けられる。また、P側導体20とN側導体21の積層部の一端部からP側導体20が延在し、この延在部がヒートシンク19上に配置されたIGBT
27のコレクタ端子及びIGBT
49のコレクタ端子に接続される。また、P側導体20とN側導体21の積層部の端部からN側導体21が延在し、この延在部がヒートシンク19上に配置されたIGBT
16のエミッタ端子及びIGBT
38のエミッタ端子に接続される。さらに、IGBT
16のコレクタ端子とIGBT
27のエミッタ端子には交流出力Uの導体23が設けられ、IGBT
38のコレクタ端子とIGBT
49エミッタ端子には交流出力Vの導体24が設けられる。この導体23と導体24との間には、絶縁板25が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−31165号公報
【特許文献2】特開2014−11819号公報
【特許文献3】特開平8−294266号公報
【特許文献4】特開2011−18847号公報
【特許文献5】特開2014−54103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半導体パワーモジュールの端子部周辺では、平滑コンデンサからの電流の導通経路が平面方向に広がるため、回路ループが大きくなり回路のインダクタンスが大きくなるおそれがある。
【0006】
また、流れる電流の向きがお互いに逆向きとなるように導体を沿わせて配置することにより回路インダクタンスを打ち消すことができるが(例えば、特許文献5)、P側導体では、IGBT
2のコレクタ側の導体とIGBT
4のコレクタ側の導体とが分岐しており、N側導体では、IGBT
1のエミッタ側の導体とIGBT
3のエミッタ側の導体とが分岐しており、半導体パワーモジュールの端子部周辺では、流れる電流の向きがお互いに逆向きとなるように導体を沿わせて配置することが困難である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インバータ装置の回路インダクタンス低減に貢献する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のインバータ装置の一態様は、半導体素子のスイッチング動作により直流電源と交流機器との間の電力変換を行うインバータ装置であって、前記直流電源の正極側に設けられた板状の正極側導体と、前記直流電源の負極側に設けられた板状の負極側導体と、前記正極側導体と前記負極側導体との間に直列に接続された第1正極側半導体素子及び第1負極側半導体素子と、前記正極側導体と前記負極側導体との間に直列に接続された第2正極側半導体素子及び第2負極側半導体素子と、前記正極側導体と前記負極側導体との間に設けられる絶縁板と、前記絶縁板の前記正極側導体が設けられた側の板面に対して立設される板状の第1ヒートシンクと、前記絶縁板の前記負極側導体が設けられた側の板面に対して立設される板状の第2ヒートシンクと、を備え、前記正極側導体と前記負極側導体は、前記絶縁板を挟んで対向配置され、前記第1ヒートシンクの一方の面に前記第1正極側半導体素子が設けられ、前記第1ヒートシンクの他方の面に前記第2正極側半導体素子が設けられ、前記第2ヒートシンクの一方の面に前記第1負極側半導体素子が設けられ、前記第2ヒートシンクの他方の面に前記第2負極側半導体素子が設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上の発明によれば、インバータ装置の回路インダクタンスを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)本発明の実施形態に係るインバータ装置の正面図、(b)同インバータ装置の平面図、(c)同インバータ装置の左側面図、(d)同インバータ装置の右側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るインバータ装置の正面方向から見た斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るインバータ装置の背面方向から見た斜視図である。
【
図5】(a)従来技術に係るインバータ装置の正面図、(b)同インバータ装置の平面図、(c)同インバータ装置の左側面図、(d)同インバータ装置の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態にインバータ装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明のインバータ装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1に、本発明の実施形態に係るインバータ装置1を示す。また、
図2,3にインバータ装置1の斜視図を示す。インバータ装置1の回路図は、
図4に示した回路図と同じである。また、
図2,3では、説明の便宜上、絶縁板11を透明な板として、絶縁板11に隠れた部分が見えるように表示している。
【0013】
図2,3に示すように、インバータ装置1は、P側導体2及びN側導体3と、ヒートシンク4,5と、半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)と、平滑コンデンサ10と、を備える。
【0014】
P側導体2及びN側導体3は板状の導体であり、直流電源(図示せず)の正極及び負極に接続される。P側導体2とN側導体3とは絶縁板11を介して電流の向きが反対となるように沿わせて配置される。つまり、P側導体2とN側導体3とは絶縁板11を介した平行平板状に設けられる。このP側導体2とN側導体3の積層部に平滑コンデンサ10が設けられる。P側導体2の一端には直流電源に接続される端子部2aが絶縁板11から立設した状態で形成される。また、P側導体2の他端側の側部には一対の接続部2b,2cが絶縁板11から立設した状態で形成される。この接続部2bはIGBT
27のコレクタ端子に接続され、接続部2cはIGBT
49のコレクタ端子に接続される。同様に、N側導体3の一端には直流電源に接続される端子部3aが絶縁板11から立設した状態で形成され、N側導体3の他端側の側部には一対の接続部3b,3cが絶縁板11から立設した状態で形成される。この接続部3bにIGBT
16のエミッタ端子に接続され、接続部3cはIGBT
38のエミッタ端子に接続される。
【0015】
ヒートシンク4は、薄い板状に形成されたものであり、P側導体2の主面に対して立設して設けられる。ヒートシンク4(及びヒートシンク5)として、例えば、ヒートシンク内部に水が流通する流路が形成された水冷式のヒートシンクや、ヒートシンク内部にヒートパイプが設けられた沸騰冷却式のヒートシンクが用いられる。ヒートシンク4の一方の面にはIGBT
27が設けられ、ヒートシンク4の他方の面にはIGBT
49が設けられる。
【0016】
ヒートシンク5は、薄い板状に形成されたものであり、N側導体3の主面に対して立設して設けられる。ヒートシンク5の一方の面にはIGBT
16が設けられ、ヒートシンク5の他方の面にはIGBT
38が設けられる。
【0017】
半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)は、スイッチング素子(IGBT)とこのスイッチング素子に逆並列に接続される還流ダイオード(図示せず)とがパッケージ化されたモジュールである。なお、スイッチング素子は、IGBTに限定されるものではなく、例えば、MOSFETなどのスイッチング素子でもよい。
【0018】
図2に示すように、IGBT
16のエミッタ端子は接続部3bを介してN側導体3と接続される。IGBT
16のコレクタ端子は交流出力UのU
1導体12に接続される。U
1導体12は板状の導体であり、絶縁板11上に設けられる。また、IGBT
27のコレクタ端子は接続部2bを介してP側導体2と接続される。IGBT
27のエミッタ端子は交流出力UのU
2導体13に接続される。U
2導体13は板状の導体であり、絶縁板11上に設けられる。つまり、U
1導体12とU
2導体13とは接触した状態で積重され絶縁板11上に配置される。以後、U
1導体12とU
2導体13とを重ねた導体をU導体14という。
【0019】
図3に示すように、IGBT
38のエミッタ端子は接続部3cを介してN側導体3と接続される。IGBT
38のコレクタ端子は交流出力VのV
1導体15に接続される。V
1導体15は板状の導体であり、絶縁板11上に設けられる。また、IGBT
49のコレクタ端子は接続部2cを介してP側導体2と接続される。IGBT
49のエミッタ端子は交流出力VのV
2導体16に接続される。V
2導体16は板状の導体であり、絶縁板11上に設けられる。つまり、V
1導体15とV
2導体16とは接触した状態で積重され絶縁板11上に配置される。以後、V
1導体15とV
2導体16とを重ねた導体をV導体17という。なお、U導体14とV導体17は、絶縁板11を挟んで沿った状態で出力側に伸びている。
【0020】
上記のようにインバータ装置1は、直流電流の流れるP側導体2とN側導体3、交流電流が流れるU導体14及びV導体17を備えている。そして、インバータ装置1では、入力及び平滑コンデンサ10側からP側導体2とN側導体3は沿った状態で半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)の端子部まで伸び、半導体パワーモジュールの端子部周辺で一度上下に分かれて接続される。上下に分かれた半導体パワーモジュールの端子部(IGBT
27とIGBT
49ではエミッタ端子、IGBT
16とIGBT
38ではコレクタ端子)からU導体14とV導体17が沿った状態で出力側に伸びている。このように、入力側から出力側までの電流経路において、導通経路の広がりを最小限に抑え、対向する電流方向の導体が極力沿わせて配置されている。
【0021】
以上のような本発明の実施形態に係るインバータ装置1によれば、2枚の薄いヒートシンク4,5に半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)を設け、ヒートシンク4,5の間に導体(具体的には、P側導体2とN側導体3)を設け、さらに電流の向きが反対の導体を沿わせることで、回路の相互インダクタンスを低減させることができる。
【0022】
つまり、ヒートシンク4の一方の面にIGBT
27を配置し、ヒートシンク4の他方の面にIGBT
49を配置することで、P側導体2に接続される半導体パワーモジュール(IGBT
27、IGBT
49)のコレクタ端子同士を近接させてIGBT
27及びIGBT
49を配置することができる。同様に、ヒートシンク5の一方の面にIGBT
16を配置し、ヒートシンク5の他方の面にIGBT
38を配置することで、N側導体3に接続される半導体パワーモジュール(IGBT
16、IGBT
38)のエミッタ端子同士を近接させてIGBT
16及びIGBT
38を配置することができる。その結果、P側導体2及びN側導体3の幅(ヒートシンク4,5の半導体パワーモジュールの配置面に対して垂直方向の幅)が短くなり、電流の導通経路の広がりが改善され、回路ループが小さくなる。このように、回路ループが小さくなることで、インバータ装置1の直流側の回路インダクタンスが低減し、素子ターンオフ時のサージ電圧が抑制される。また、P側導体2及びN側導体3を絶縁板11を介した平行平面導体とし、電流の向きが反対となるように沿わせて配置することで、回路インダクタンスを打ち消す効果を生じさせることができる。特に、半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)の端子部近傍までP側導体2とN側導体3とを沿わせて配置することができるので、回路インダクタンスが低減し、素子ターンオフ時のサージ電圧を抑制することができる。
【0023】
また、半導体パワーモジュール(IGBT
16〜IGBT
49)をヒートシンク4,5に両面実装し、導体(P側導体2(及びN側導体3)とU導体14(及びV導体17))は屈折が少ないため、インバータ装置1を小型化することができる。具体的には、接触回避のための加工部で、U導体14(及びV導体17)の素子付近の加工におけるU導体14(及びV導体17)の屈折が少ないため、インバータ装置1を小型化することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…インバータ装置
2…P側導体(正極側導体)
2a…端子部、2b,2c…接続部
3…N側導体(負極側導体)
3a…端子部、3b,3c…接続部
4,5…ヒートシンク
6〜9…半導体パワーモジュール(IGBT
1〜IGBT
4)
10…平滑コンデンサ
11…絶縁板
12…U
1導体、13…U
2導体、14…U導体
15…V
1導体、16…V
2導体、17…V導体