【文献】
Journal of the American Chemical Society,1981年,103(18),p.5599-5600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
〔アルカリ金属塩〕
本実施形態のアルカリ金属塩は、下記式(1)で示される。なお、本願明細書において、本実施形態のアルカリ金属塩を「HOPアルカリ金属塩」ともいい、M
1、M
2、及びM
3の全てが水素原子である化合物を「HOPフリー体」ともいう。
【化3】
(上記式(1)中、M
1、M
2、及びM
3は、各々独立して、水素又はアルカリ金属を示し、M
1、M
2、及びM
3の1つ以上が、アルカリ金属である。)
【0015】
M
1、M
2、及びM
3のうち1つ以上は、アルカリ金属であり、M
1、M
2、及びM
3のうち2つ以上又は3つが、アルカリ金属であることが好ましい。M
1、M
2、及びM
3の1つ以上がアルカリ金属であることにより、HOPアルカリ金属塩の水に対する溶解度がより向上する。具体的には、アルカリ金属の置換数が増加するに従い、pHはアルカリ側になり、溶解度は上昇する傾向にあり、アルカリ金属数が3の場合に最も溶解度が高くなる。HOPアルカリ金属塩のアルカリ金属の置換数は溶媒における結晶化の際のpHによって変わると考えられ、酸性からアルカリ性になるに従い置換数が上昇する。また、被混合物への着色をより抑制することができる。そのため、本実施形態のHOPアルカリ金属塩は、より使用用途の制限がされにくいものとなる。
【0016】
なお、本実施形態のHOPアルカリ金属塩は、M
1、M
2、及びM
3のうち1つ以上がアルカリ金属であれば、例えば、M
1のみがアルカリ金属である単一の化合物であっても、M
1のみがアルカリ金属である化合物と、M
2のみがアルカリ金属である化合物等の2種以上の化合物を含む混合物であっても、M
1のみがアルカリ金属である化合物と、M
2、及びM
3がアルカリ金属である化合物等の2種以上の化合物を含む混合物であってもよい。本実施形態のHOPアルカリ金属塩が混合物である場合には、混合物全体のHOPアルカリ金属塩1モル当たりに含まれるアルカリ金属のモル数は、好ましくは1モル以上であり、より好ましくは2〜3モルであり、さらに好ましくは2.5〜2.9モルである。HOPアルカリ金属塩1モルに含まれるアルカリ金属のモル数が上記範囲内であることにより、溶解度がより高く、かつ、変色がより抑制される傾向にある。
【0017】
アルカリ金属としては、特に限定されないが、好ましくはLi,Na,及びKであり、より好ましくはNa及びKであり、さらに好ましくはNaである。このようなアルカリ金属を用いることにより、HOPアルカリ金属塩の水に対する溶解度がより向上する傾向にある。特に、Na及びKは、生体内に常態的に存在するイオンであるため、Na及び/又はKを含むHOPアルカリ金属塩は、ヒト用又は動物用の、食品、飼料、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等の有効成分としてより安全に用いることができる。
【0018】
特に、HOPアルカリ金属塩のなかでも、HOPトリナトリウム塩、HOPトリカリウム塩、HOPジナトリウム塩、及びHOPジカリウム塩が好ましい。このようなHOPアルカリ金属塩は、水に対する溶解度が高いだけでなく、ヒト用又は動物用の、食品、飼料、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等の有効成分としてより安全に用いることができる。
【0019】
HOPアルカリ金属塩は、−COOM
1基、−COOM
2基、−COOM
3基、及び−OH基を有し、M
1、M
2、及びM
3のうち1つ以上はアルカリ金属であるため、水素イオンが脱離可能な官能基を最大で3つ有する。これら官能基のうち、いずれかの官能基の水素イオンが脱離して、−COO
−基又は−O
−基となっていてもよい。なお、水素イオンの脱離状態は、HOPアルカリ金属塩の結晶状態によっても変化する可能性がある。
【0020】
また、本実施形態のHOPアルカリ金属塩は、1又は2以上の水分子が水和した含水塩、1又は2以上の溶媒分子が溶媒和した含溶媒塩であってもよい。
【0021】
〔共結晶〕
本実施形態の共結晶(以下、「HOP共結晶」ともいう。)は、上記HOPアルカリ金属塩と、アルカリ金属炭酸水素塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩と、を含む。HOP共結晶は、水に対する溶解度が高く、かつ、HOPアルカリ金属塩と比較して、安定性がより高く、より変色しにくい。そのため、ヒト用又は動物用の、食品、飼料、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等の用途において、好適に用いることができる。
【0022】
アルカリ金属炭酸水素塩及びアルカリ金属炭酸塩に含まれるアルカリ金属としては、好ましくはLi,Na,及びKであり、より好ましくはNa及びKであり、さらに好ましくはNaである。このようなアルカリ金属を用いることにより、HOP共結晶の水に対する溶解度がより向上する傾向にある。特に、Na及びKは、生体内に常態的に存在するイオンであるため、Na及び/又はKを含むHOP共結晶は、ヒト用又は動物用の、食品、飼料、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等の有効成分としてより安全に用いることができる。
【0023】
HOP共結晶中のアルカリ金属炭酸水素塩の含有量は、HOPアルカリ金属塩1モルに対し、好ましくは1〜4モルであり、より好ましくは2〜3モルである。また、HOP共結晶中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、HOPアルカリ金属塩1モルに対し、好ましくは1〜3モルであり、より好ましくは1〜2モルであり、さらに好ましくは1〜1.5モルである。
【0024】
HOPトリアルカリ金属塩に比べ、HOPトリアルカリ金属炭酸水素共結晶は安定で、変色しにくい。そのため、溶解度を高く保ち安定な物質である利点を有している。なお、このHOP共結晶は固体状態では存在するが、水に溶かした場合、炭酸および炭酸水素は炭酸ガスとして抜け、上記HOPアルカリ金属塩とほぼ同じ様に取り扱うことができる。共結晶は水と接触した際に炭酸ガスの発泡が生じ、粉末の液への溶解が促進される点において、炭酸ガスによる生理活性の付与が利点として挙げられる。
【0025】
〔HOPアルカリ金属塩の製造方法〕
本実施形態のHOPアルカリ金属塩の製造方法は、5−ヒドロキシ−4−オキソ−5−(2−オキソプロピル)−4,5−ジハイドロ−1H−ピロロ[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸と、アルカリ金属炭酸水素塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩と、を溶媒中で混合する混合工程を有する方法であれば、特に限定されない。
【0026】
〔HOPフリー体の製造工程〕
上記工程の説明の前に、HOPフリー体の製造工程について説明する。HOPフリー体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ピロロキノリンキノン又はその塩をアセトンと混合してアルドール反応させる方法が挙げられる。該アルドール反応は、溶液下、懸濁状態、又はゲル状態のいずれで行ってよいが、水中で行うことが好ましい。
【0027】
反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは5〜130℃である。反応温度が0℃以上であることにより、反応速度がより向上するため、工業的に好ましい。また、反応温度が180℃以下であることにより、必要とされる反応容器の耐圧性が低下し、高耐圧性の高価な加圧容器の使用を省くことができるため、工業的に好ましい。
【0028】
反応系中のピロロキノリンキノンの濃度は、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。また、反応系中のアセトンの使用量は、ピロロキノリンキノン1質量部に対して、好ましくは0.3〜50質量部であり、より好ましくは0.5〜45質量部であり、さらに好ましくは1〜40質量部である。
【0029】
上記アルドール反応は、系中のpHを7超過のアルカリ性にすることにより開始し、3日〜1週間後に、系中のpHを1〜4の酸性にすることでHOPフリー体を析出させつつ、反応を停止することができる。その後、析出したHOPフリー体を濾別することでHOPフリー体を得ることができる。アルカリ性にするための塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。また、酸性にするための酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸等使用できる。
【0030】
上記アルドール反応の進行は系中の色の変化で判定することができる。例えば、当初、赤系の色であった溶液が、無色又は黄色に変化することでアルドール反応が進行していることが確認できる。その他、より定量的な方法として、液体クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィー等の一般的な分析手法も使用できる。
【0031】
また、上記のようにして得られたHOPフリー体は、さらに再結晶やクロマトグラフィー等の通常の方法を用いて精製してもよい。また、上記反応により得られたHOPフリー体を含む水溶液に対して酸を加えてpHを2以下にすることで、より高純度のHOPフリー体を得ることができる。この際使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸等使用できる。得られるHOPフリー体はアルカリ金属を含んでおらず、HOP塩の原料として使用できる。
【0032】
〔混合工程〕
本実施形態のHOPアルカリ金属塩は、HOPフリー体と、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩と、を溶媒中で混合した後に、精製して製造することができる。混合温度は、好ましくは0〜50℃であり、より好ましくは5〜45℃であり、さらに好ましくは10〜40℃である。なお、混合工程で用いるHOPフリー体としては、HOPフリー体の製造工程において純度が90%以上となるまで精製したHOPのフリー体を使用することが好ましい。
【0033】
HOPアルカリ金属塩は、酸性条件下で溶媒が十分な際には変色し難い傾向にある。そのため、補助的にアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシドも併せて混合することができる。
【0034】
混合工程において使用する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合溶媒が挙げられる。溶媒が水を含むことにより、HOPアルカリ金属塩の収率がより向上する傾向にある。また、溶媒が有機溶媒を含むことにより、後述するHOP共結晶の収率がより向上する傾向にある。HOPアルカリ金属塩の製造方法においては、溶媒に含まれる水の含有量は、溶媒100質量%に対して、90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0035】
なお、有機溶媒としては、水溶性有機溶媒が好ましい。水溶性有機溶媒としては、具体的には、アセトン;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−プロパノール等のアルコール類;アセトニトリル;プロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン等が挙げられる。
【0036】
アルカリ金属塩の置換数は、HOPフリー体とアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩のモル比で制御することができる。例えば、HOPフリー体1モルとアルカリ金属炭酸水素塩2モルを溶媒中で混合し、減圧して水を除去することで、M
1、M
2、及びM
3の2つがアルカリ金属であるHOPアルカリ金属塩を容易に得ることができる。
【0037】
反応後の精製方法としては、特に限定されないが、例えば、溶媒の除去又は再結晶が挙げられる。塩析や水溶性有機溶媒を加え、塩を析出させることもできる。例えば、M
1、M
2、及びM
3の3つがアルカリ金属であるHOPアルカリ金属塩の場合、変色しやすいために、低温で精製処理することが好ましい。この場合の精製処理温度は、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは20℃以下である。
【0038】
また、溶媒除去で析出させる際には、HOPアルカリ金属塩又はHOP共結晶の変色を抑える為に、短時間で行うことが好ましい。
【0039】
さらに、変色を防止する観点から、混合工程を水溶媒中行った後、有機溶媒を加え迅速にHOPアルカリ金属塩を析出させることが好ましい。
【0040】
HOPアルカリ金属塩の製造方法において、水中でHOPフリー体とアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩を反応させ、水分を除去する場合、混合工程で使用するアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩のモル数は、HOPフリー体1モルに対して、好ましくは1〜3モルであり、より好ましくは2〜3モルであり、さらに好ましくは2〜2.9モルである。アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩のモル数が上記範囲内であることにより、得られるHOPアルカリ金属塩の変色がより抑制され、水に対する溶解度がより向上する傾向にある。
【0041】
また、HOPアルカリ金属塩の製造方法において、水中でHOPフリー体とアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩を反応させ、有機溶媒を添加して析出させる場合、混合工程で使用するアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩のモル数は、HOPフリー体1モルに対して、好ましくは1〜3モルであり、低温で処理することを考慮すると2.7〜3モルがより好ましい。
【0042】
〔共結晶の製造方法〕
本実施形態の共結晶は、上記HOPアルカリ金属塩の製法において、少なくとも有機溶媒を含む溶媒中で行った場合に得ることができる。有機溶媒としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0043】
溶媒には目的とする共結晶に合わせて水が含まれていてもよい。溶媒に含まれる水の含有量は、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩が溶媒中に完全には溶解せず残るような量であることが好ましく、原料の仕込み量によって最適値は異なる。例えば、溶媒に含まれる水の含有量は、溶媒100質量%に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。水分量が上記範囲内であることにより、共結晶の収率がより向上し、再現性よく、共結晶が得られる傾向にある。
【0044】
以下、具体的な共結晶の製造方法の例を記載する。HOPフリー体、アルカリ金属化合物を、少なくとも有機溶媒を含む溶媒で混合する。HOPフリー体は水に溶解しないが、アルカリ金属化合物を混合することで溶解度が上がり、水に溶解しやすくなる。この時の温度は0〜120℃が使用できるが、好ましくは0−50℃である。一般的には温度を上げるほうが溶けやすいが、変質しやすいため低温で混合することが好ましい。混合は攪拌を行う方が均一性の面から好ましい。混合物が完全に溶解することが好ましい。混合物は0.01〜96時間に置いた後に、水を除去する。除去は減圧乾燥、スプレードライ、凍結乾燥等使用できる。乾燥した粉末としてHOPの塩を得ることができる。
【0045】
〔用途〕
本実施形態のHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は、細胞の増殖促進作用を有している。また、ピロロキノリンキノンの発生剤として使用することができる。そのため、本実施形態のHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は、ピロロキノリンキノンの機能の抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギー作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラーゼI阻害作用−制癌作用、神経線維再生など多く薬理効果を有する。
【0046】
したがって、本実施形態のHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は、医薬または機能性食品の有効成分とすることができる。即ち、皮膚外用剤、注射剤、経口剤、坐剤等の形態、あるいは、日常食する飲食物、栄養補強食、各種病院食等の形態で提供可能である。なお、これらの形態に適するよう調製する際に使用される添加剤としては、特に限定されない。例えば、液剤としては、特に限定されないが、例えば、水、果糖、ブドウ糖等の糖類、落下生油、大豆油、オリーブ油等の油類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類を用いることができる。また、錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの固形剤の賦型剤としては、特に限定されないが、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット等の糖類が挙げられる。さらに、滑沢剤としては、特に限定されないが、例えば、カオリン、タルク、ステアリン酸マグネシウム等、崩壊剤としてデンプン、アルギン酸ナトリウム、結合剤としてポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン等が挙げられる。また、界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸エステル等が挙げられる。さらに、可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン等が挙げられる。また、必要に応じて溶解促進剤、充填剤等を加えてもよい。
【0047】
本実施形態のHOPアルカリ金属塩および共結晶は、単独で用いてもよいし、他の素材と組み合わせて用いてもよい。組み合わせ可能な他の素材としては、ビタミンB群、ビタミンCおよびビタミンE等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α−カロテン、β−カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本実施形態のHOPアルカリ金属塩は、溶解性が高く、保存安定性に優れたものなので長期貯蔵可能で、医薬や機能性食品の有効成分として好適に使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例及び比較例を用いて本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態はこれら実施例および比較例のみに限定されるものではない。
【0050】
本実施例は特に断りがない限り、和光純薬製の試薬を用いた。吸光度測定にはUVスペクトルメーター島津製UV1800を使用した。
【0051】
LC条件:吸光度検出器で259nmを検出波長とした。 40℃、YMC−Pack ODS−A (150mm, 4.6mm)カラムを使用し, 30mM酢酸−70mM酢酸アンモニウムを展開液として1mL/minの流速で分析した。装置はLC2010(島津製作所社製)を使用した。
【0052】
〔参考例1 原料となるHOPフリー体の製造〕
PQQジナトリウム(三菱瓦斯化学製BioPQQ)11.2gを水1Lに加え水溶液を調製し、得られた水溶液にNaOHを加え、水溶液のpHを9にした。この水溶液にアセトン200g加えると20分で赤から薄い黄色に変色した。次いで、水溶液に塩酸を加え、水溶液のpHを2.5にした。その後、水溶液中に水分をエバポレートして、水溶液の総量が400gとなるまで濃縮した。濃縮後の水溶液中には黄色い固体が析出していた。これを、さらに減圧乾燥して8.01gの固体を得た。
【0053】
(アルカリ金属分析)
上記のようにして得られた固体1mgを1%コリン水1gに溶解させて試験液を得た。得られた試験液をホリバ製ナトリウム電極を使用して室温(25℃)で分析した結果、アルカリ金属イオンは検出されなかった。このことから、得られた固体が、HOPフリー体であることが確認された。
【0054】
〔実施例1 HOPジナトリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水20gと炭酸水素ナトリウム0.16gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。pH4であった。この混合溶液を23℃で5時間攪拌した後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して白色の結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPジナトリウム塩が0.47g得られたことが確認された。
【0055】
〔実施例2 HOPトリナトリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水2gと炭酸水素ナトリウム0.25gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を超音波に5分かけたところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。pH7であった。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して淡黄色の結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPトリナトリウムが0.50g得られたことが確認された。
【0056】
〔実施例3 HOP2.5ナトリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.78gと水4gと炭酸水素ナトリウム0.42gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌したところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。pH7であった。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、で水を除去して淡黄色の結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOP2.5ナトリウムが1.00g得られたことが確認された。
【0057】
〔実施例4 HOP2.9ナトリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.78gと水4gと炭酸水素ナトリウム0.49gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌したところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。pH7であった。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して淡黄色の結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOP2.9ナトリウムが0.95g得られたことが確認された。
【0058】
〔実施例5 有機溶媒沈殿法によるHOPトリナトリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.78gと水4gと炭酸水素ナトリウム0.50gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を超音波に5分かけたところ混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。メタノール36mL加え、冷温庫(4℃)に一晩保存すると固体が析出した。固体を遠心分離して取り出し、白色の結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPトリナトリウムが0.41g得られたことが確認された。
【0059】
〔実施例6 HOPトリカリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水2gと炭酸水素カリウム0.30gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌したところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去してグレーの結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPトリカリウムが0.55g得られたことが確認された。
【0060】
〔実施例7 HOPジカリウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水10gと炭酸水素カリウム0.20gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌したところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して薄い黄色結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPジカリウムが0.51g得られたことが確認された。
【0061】
〔実施例8 HOPトリリチウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水2gと炭酸リチウム0.11gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌したところ、混合溶液中の固体成分がすべて溶けた。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して薄い黄色結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPトリカリウムが0.39g得られたことが確認された。
【0062】
〔実施例9 HOPジリチウム製造〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gと水2gと炭酸リチウム0.074gを混合したところ、混合溶液からの発泡が観察された。この混合溶液を23℃で1時間攪拌した。その後、35℃の水浴にフラスコをつけエバポレーターで200mbarから徐々に圧力を30mbarまで下げ、水を除去して薄い黄色結晶を得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、HOPジリチウムが0.43g得られたことが確認された。
【0063】
〔実施例10 HOP炭酸水素トリナトリウム共結晶〕
HOPフリー体0.78gと炭酸水素ナトリウム0.50gをエタノール20mL混合したところ、混合溶液からの発泡は観察されなかった。この混合溶液を23℃で20時間撹拌した。その後、混合溶液中の固体を濾過して白色の結晶1.08gを得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、ナトリウム/HOPは3であることが確認された。この固体を水に加えると発泡したため、炭酸水素塩が残留していることがわかった。
【0064】
〔実施例11 HOP炭酸水素ジナトリウム共結晶〕
フラスコ内でHOPフリー体0.78gと炭酸水素ナトリウム0.33gをエタノール20mL混合したところ、混合溶液からの発泡は観察されなかった。この混合溶液を23℃で20時間攪拌した。その後、混合溶液中の固体を濾過して白色の結晶0.91gを得た。さらに、得られた結晶を真空乾燥機で一晩乾燥した。ホリバ製ナトリウム電極を用いたアルカリ金属分析、LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、ナトリウム/HOPは2であることが確認された。この固体を水に加えると発泡したため、炭酸水素塩が残留していることがわかった。
【0065】
〔比較例1 HOPの水酸化ナトリウムでの中和〕
フラスコ内でHOPフリー体0.39gを水20mLと混合した。さらに、Naの添加モル数がHOPフリー体のモル数の3倍となるよう、25%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。すると、フラスコ内の混合溶液は、すぐに褐色に変化した。pH7であった。この混合溶液の水分をエバポレーターで除去すると黒色の固体が得られた。LC2010(島津製作所社製)を用いた液体クロマトグラフ分析(LC分析)から、固体100質量%中に含まれるHOPの含有量は80質量%に減少しており、分解が進んでいることがわかった。この結果より、水酸化ナトリウムを使用した場合では、変色や分解が進行しやすく、HOPの塩が適切に得られていないことが分かった。
【0066】
〔比較例2 HOPと炭酸水素ナトリウムの乳鉢での混合〕
フラスコ内でHOPフリー体0.78gと炭酸水素ナトリウム0.50gをマグネチックスタラー駆動乳鉢を用いて18時間粉砕混合し、薄い黄色の粉末を得た。この粉末はHOPと炭酸水素ナトリウムの混合物であり、アルカリ金属塩ではなかった。
【0067】
〔HOPアルカリ金属塩の水溶解度測定(30℃)〕
各実施例で作製したHOPアルカリ金属塩100mgに対し、HOPアルカリ金属塩が溶け残る量の水を加えた。その溶液を、30℃で1時間以上静置した。次いで、遠心分離により、上澄み液と溶け残ったHOPアルカリ金属塩を分離した後、上澄みを希釈して360nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から溶解度を算出した。その結果を以下の表1に示す。なお、参考例2−1,3−1,4−1として、PQQフリー体、PQQトリナトリウム、及びPQQジナトリウムの飽和溶解度のデータも併記する。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1の結果から、参考例1−1と各実施例との対比より、HOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は水への溶解度がHOPフリー体と比較して非常に大きいことが分かった。特に、実施例3−1,4−1より、HOPアルカリ金属塩の全体を1モルとしてみた場合に含まれるアルカリ金属のモル数が2.5以上である場合、水への溶解度が高いことがわかった。また、実施例10−1,11−1より、炭酸根を有する共結晶もHOPアルカリ金属塩と同様に水への溶解度が高いことが分かった。また、炭酸根を有する実施例10−1、11−1の共結晶は水を加えた際に発泡が確認されたことから、共結晶内に炭酸根が残留していることも確認された。
【0070】
さらに、参考例2−1,3−1,4−1によれば、HOPと構造が類似するPQQでは、HOPに匹敵するような100倍以上の溶解度の向上は認められず、HOPの溶解度の向上効果は、HOP特有のものと認められる。
【0071】
〔保存安定性〕
各実施例で作製したHOPアルカリ金属塩を、固体の状態で、冷温保存(4℃)および室温保存(23℃)し、1ヶ月経過した後の変化を目視で確認した。その結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
上記表2の結果から、HOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶はすべて冷温保存で安定に取り扱うことが可能であることが分かった。また、ジアルカリ金属塩は、冷温保存及び室温保存の双方で安定であることもわかった。さらに、実施例2−2、4−2より、HOPアルカリ金属塩の全体を1モルとしてみた場合に含まれるアルカリ金属のモル数が2.9以下であることにより、室温保存における安定がより向上することが分かった。特に、実施例4−2より、HOPアルカリ金属塩の全体を1モルとしてみた場合に含まれるアルカリ金属のモル数が2.9であるHOPアルカリ金属塩は、溶解度も高いため、多種の用途に使用しやすいことが分かった。また、実施例10−2,11−2より、共結晶は冷温保存及び室温保存の双方で非常に安定であった。実施例2−2と、実施例10−2,11−2との対比から、HOPアルカリ金属塩の全体を1モルとしてみた場合に含まれるアルカリ金属のモル数が3であるHOPアルカリ金属塩に比べ、HOPアルカリ金属塩の全体を1モルとしてみた場合に含まれるアルカリ金属のモル数が3であるHOP共結晶の方が室温保存における安定性に優れており、多種の用途に使用しやすいことが分かった。
【0074】
〔細胞活性試験〕
ヒト子宮がん細胞HeLa細胞を、96ウェルに1000個/ウェルなるように撒き、DMEM(インビトロジェン社)+10%FBS培地中で、5%CO
2濃度、37℃の条件で、インキュベーターで1晩培養した。その後、各実施例で作製したHOPアルカリ金属塩の濃度が4.9mg/L、19.5mg/Lになるように、HOPアルカリ金属塩を培地に加えた。さらに2日間培養を継続した後、ウェルから培地を取り除き、ウェル内を洗い、同仁化学製cell Counting kit 8を使用してウェル内の細胞数を測定した。HOPアルカリ金属塩を培地に加えていないときの細胞数を100とした場合の結果を以下の表に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
上記表3の結果から、本実施形態のHOPアルカリ金属塩は細胞の増殖活性が高いことがわかった。また、HOPの分解・変色が進行し、適切に塩が得られない条件下で調整したものは増殖活性が低い。また、溶解した状態でHOPアルカリ金属塩と同挙動を示すと考えられるHOP共結晶においてもHOPアルカリ金属塩と同様の結果が得られると推定される。
【0077】
〔粉末X線回折〕
株式会社理学の粉末X線装置を使用し、Cu−Kα40kV100mAで測定を行った。その結果を表4、
図1、2,3に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
図1、2,3の結果より、HOPと炭酸水素ナトリウムはアルコール中で混合することで結晶を形成していることがわかった。また、比較例2より、乳鉢で混合したサンプルは一部実施例10と重複するピークが認められるものの他のピークは認められず、全体にブロードなシグナルを示しており、アモルファスを主成分とする物質であった。これら結果より、物理的に混合した場合と異なり、本実施形態のように有機溶媒中で混合することで結晶形成が生じていることが確認された。
【0080】
〔化学的安定性〕
実施例1で作成したHOPジナトリウムとピロロキノリンキノンジナトリウムを試験した。サンプル10mgをテストチューブにいれ、10質量%アスコルビン酸水溶液を200μL混合した。その結果、HOPジナトリウムでは色の大きな変化は認められなかった。一方、ピロロキノリンキノンジナトリウムは黒く変色した。この結果から、HOPアルカリ金属塩はピロロキノリンキノン塩と比べて耐変色性に優れることが分かった。また、溶解した状態でHOPアルカリ金属塩と同挙動を示すと考えられるHOP共結晶においてもHOPアルカリ金属塩と同様の結果が得られると推定される。
【0081】
〔錠剤成形〕
実施例1〜11で作製したHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶10mgをコメ粉で方いっぱいになるようにつめ、市橋精機株式会社HANDTAB−100(R) 8mM錠剤形を使用して10kNの力をかけることにより、タブレットを作ることができた。このようにHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は、錠剤成形性に優れ、経口摂取等の用途に好適に用いることができる。
【0082】
〔油との混合〕
実施例1〜11で作製したHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶1mgを中佐脂肪酸オイル10mLに混合した。その後、30℃で1日放置したが色などの変化は認められなかった。このようにHOPアルカリ金属塩及びHOP共結晶は、油中での安定性に優れ、化粧品やソフトカプセルに使用する用途の基材等の用途に好適に用いることができる。
【0083】
本出願は、2015年1月19日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2015−007414)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。