(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱出力装置により熱を与えたときの、熱量及び使用者による温冷感の申告値と、表皮層の熱伝導率及び厚みの比と、皮膚表面温度と、に基づいて、前記表皮層より内側の人体内部の温度に対する知覚感度を推定する知覚感度推定部を更に含み、
前記内部状態推定部は、皮膚表面温度と、前記推定された前記知覚感度と、指定された温冷感とに基づいて、前記温度受容器周辺の状態を推定し、
前記熱制御部は、前記推定された前記知覚感度と、前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する請求項3記載の熱出力制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
(熱出力制御システム)
まず、熱出力制御システムの構成について説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る熱出力制御システム10の構成の一例を示す概略図である。
図1に示すように、熱出力制御システム10は、入力装置12と、熱出力装置14と、センサ16と、温度感受性推定装置18と、制御装置20とを備えている。
【0019】
入力装置12は、使用者から、温冷感の申告値を受け付けたり、希望する温冷感の指令値を受け付けたりする。
【0020】
熱出力装置14は、使用者の皮膚表面に対して、制御装置20から指定された熱量の熱を与える。
【0021】
例えば、熱出力装置14は、電熱線を透明フィルムの面状に配置した装置あるいはペルチェ素子を用いて,1cm以上の四辺を有する面状の熱出力デバイスを皮膚接触可能な位置にアレイ状に配置した装置である。
【0022】
衣服に熱出力装置14を取り付けている場合は、電源とともに衣服の内側面にアレイ状に熱出力デバイスを配置してもよい。また、アレイ状に配置された熱出力デバイスに接触センサ(マルチタッチセンシング装置など)を具備し、接触している箇所の点数から接触面積を推定し、温度感受性推定装置18に送信する。
【0023】
センサ16は、熱出力装置14により熱を与えられた箇所における皮膚表面温度を検出する。
【0024】
(温度感受性推定装置18)
温度感受性推定装置18は、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータで構成されており、機能的には、
図2に示すように、データ取得部30と、係数推定部32と、申告値取得部34と、知覚感度推定部36とを備えている。なお、係数推定部32が、表皮層推定部の一例である。
【0025】
データ取得部30は、皮膚に接触した熱出力装置14により熱を与えたときの熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度を取得する。
【0026】
係数推定部32は、皮膚に接触した熱出力装置14により熱を与えたときの熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度に基づいて、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定する。
【0027】
具体的には、皮膚に接触した熱出力装置14により接触面積Aから皮膚内へ流入した熱量をQとする。その時のセンサ16によって検出された皮膚表面の温度をt
sとし、表皮層直下の温度をt
lとすると式(1)が導かれる。
【0029】
ここで、係数Cは、表皮層の熱伝導率λを表皮層の厚みdで除した比である。
【0030】
係数Cを定数として、式(1)を時間微分すると式(2)となる。
【0032】
流入した熱量Qが微小で表皮層直下の温度t
lの時間変化
が無視できるほど小さな場合、式(3)となる。
【0034】
その場合、係数Cを式(4)の様に求めることができる。
【0036】
係数推定部32は、複数回の条件で式(4)により係数Cを求め、求めた係数Cの平均値C’を決定する。その値から表皮層直下の温度t
lが式(5)で推定される。
【0037】
【数5】
なお、温度感受性推定装置18以外の計測器、あるいはデータベースを用いて熱伝導率λと表皮層の厚みdとを求め、係数Cを求めてもよい。例えば、非特許文献4に従う方法や超音波計測装置等を用いてもよい。
【0038】
[非特許文献4]R. Webb, R. Pielak, P. Bastien, et al: Thermal transport characteristics of human skin measured in vivo using ultrathin conformal arrays of thermal sensors and actuators, PLOS ONE, vol.10(2), e0118131, 2015
【0039】
申告値取得部34は、入力装置12によって使用者から受け付けた温冷感の申告値を取得する。
【0040】
知覚感度推定部36は、熱出力装置14により熱を与えたときの、使用者による温冷感の申告値に基づいて、表皮層直下の温度t
lに対する知覚感度を推定する。
【0041】
具体的には、熱出力装置14により面積Aの接触面から皮膚内へ流入する熱量Qを変動させ、使用者に温冷感の申告を実施させた際の計測データを用いて知覚感度を推定する。 推定には式(5)、式(6)、及び式(7)を用いる
【0043】
温冷感として、ASHRAE7段階温冷感申告尺度のスケール(非特許文献5参照)を用い、各スケールに対して複数の申告値S(n回)が得られたのちに、下記の式(7)をもとに最小二乗法にて係数α、β、γ、δを決定する。
【0045】
ただし、申告値S
(n)は、n回目の申告値であり、t
s(n)は、n回目においてセンサ16によって検出された皮膚表面の温度であり、t
l(n)は、上記式(5)で推定された表皮層直下の温度t
lであり、
は、n回目における表皮層直下の温度t
lの時間変化である。
【0046】
[非特許文献5]田辺新一,「住宅における温熱快適性の評価」,住宅総合研究財団,研究年報No.23,1996
【0047】
温度感受性推定装置18は、上記式(7)により決定された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度t
s、接触面積A、係数C’を制御装置20へ送信する
【0048】
なお、制御装置20へ送信するデータを、通信を用いて制御装置20以外のデータベースに蓄積し、次回以降そのデータベースからデータを取得するようにしてもよい。
【0049】
(制御装置20)
制御装置20は、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータで構成されており、機能的には、
図3に示すように、設定パラメータ取得部40と、温冷感設定部42と、内部温度計算部44と、熱量目標値計算部46と、皮膚内温度変化計算部48と、温冷感予測値算出部50と、熱量目標値判定部52と、熱量制御部54とを備えている。なお、内部温度計算部44は、内部状態推定部の一例であり、熱量目標値計算部46、皮膚内温度変化計算部48、温冷感予測値算出部50、熱量目標値判定部52、及び熱量制御部54は、熱制御部の一例である。
【0050】
設定パラメータ取得部40は、温度感受性推定装置18から送信された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度t
s、接触面積A、係数C’を取得する。
【0051】
温冷感設定部42は、入力装置12によって使用者から受け付けた、希望する温冷感の指令値S’を設定する。
【0052】
内部温度計算部44は、係数α,β,γ,δと、指定された温冷感S’と、皮膚表面温度t
sと、接触面積Aと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’とに基づいて、予め設定された、表皮層直下の温度t
lの勾配の各々に対し、熱出力装置14により熱を与えたときの熱入力位置における温度受容器周辺の状態として、表皮層直下の温度t
lを推定する。
【0053】
具体的には、まず、表皮層直下の温度t
lの勾配
の各々を設定したベクトル
を用いて、式(8)により、表皮層直下の温度t
lを要素としたベクトル
を計算する。
【0055】
熱量目標値計算部46は、計算された表皮層直下の温度t
lのベクトルと、皮膚表面温度t
sと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’と、接触面積Aとに基づいて、表皮層直下の温度t
lの勾配の各々に対し、熱量目標値を算出する。
【0056】
具体的には、皮膚表面の温度t
sより流入させる熱量目標値のベクトルを式(9)で算出する。
【0058】
皮膚内温度変化計算部48は、熱量目標値のベクトルから選択された熱量目標値qの熱を与えたときの、表皮層直下の温度t
lの変化を計算する。
【0059】
具体的には、熱量目標値のベクトルから熱量qを順に選択し、非特許文献6に紹介されている生体伝熱方程式を用いて熱量qに対する皮膚内温度変化を計算する。計算に用いるパラメータは文献値を使用してもよい。例えば、非特許文献6で示されている式(10)の解析解を、熱量qに対する皮膚内温度変化として計算する。
【0061】
ただし、T(x,t)は、表皮からの深さx、時間tの時の温度であり、T
aは、体内深部の温度であり、例えば36.5℃である。кは、皮膚の熱伝導率λと等価であり、上記非特許文献6では0.23である。c
bは、血液の比熱であり、上記非特許文献6では3770J/(kg・℃)である。W
bは、皮膚内の血液質量流量であり、上記非特許文献6では0.5kg/(s・m
3)である。c
tは、皮膚の比熱であり、非特許文献6では3590J/(kg・℃)である。ρ
tは、皮膚の密度であり、非特許文献6では1200kg/m
3 である。erfcは、相補誤差関数であり、 数学におけるシグモイド形状の特殊関数(非初等関数)の一種である。qは、流入する熱量J/(s・m
3 )を表す。
【0062】
皮膚内温度変化計算部48では、x=d(表皮層の厚みd)として時刻tごとのT(x,t)をを計算し、表皮層直下の温度t
lの変化とすればよい。
【0063】
また事前にモデル化した対象に対して有限要素法を実施し、熱量qに対する表皮層直下の温度t
lの変化を算定してもよい。例えば、
図4に示す。
【0064】
[非特許文献6] Ferras, L. L., Ford, N. J., Morgado, M. L., Nobrega, J. M., & Rebelo, M. S. (2015). Fractional Pennes’ Bioheat Equation: Theoretical and Numerical Studies. Fractional Calculus and Applied Analysis, 18(4), 1080-1106
【0065】
温冷感予測値算出部50は、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対して、計算された、当該熱量qに対する表皮層直下の温度t
lの変化に基づいて、温冷感予測値を算出する。
【0066】
具体的には、計算された、当該熱量qに対する表皮層直下(深さd)の温度t
l、およびその時間変化率と、皮膚表面温度t
sとを用いて、式(11)にて温冷感予測値SPを算出する。算出時の時間T1,T2は例えば加温開始からの2秒後から10秒後とすればよい。
【0068】
熱量目標値判定部52は、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対する温冷感予測値SPと、指定された温冷感S’とに基づいて、熱量目標値のベクトルから、熱出力装置14による熱量を決定する。
【0069】
具体的には、目標値S’とSPの絶対値差(DSP,式(12))を、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対して計算する。
【0071】
そして、絶対値差DSPが最も小さくなる熱量qであって、絶対値差DSPが閾値(が例えば0.2)以下となる熱量qを、熱出力装置14による熱量として決定し、決定した熱量qを、熱量制御部54へ出力する。なお、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qのすべてにおいて、絶対値差DSPが閾値以下にならなかった場合はエラーメッセージ出力要請信号と、熱量q=0とを、熱量制御部54を介して熱出力装置14へ出力する。
【0072】
熱量制御部54は、決定された熱量qに基づいて、熱出力装置14による熱を制御する。
【0073】
ここで、熱出力装置14が、可変面積および可変時間で温度刺激出力を制御する機能を有する場合、熱量制御部54により指定された熱量qを与えるように、熱出力装置14において電源を供給する面積及び時間を制御する。
【0074】
(温度感受性推定処理)
次に、「温度感受性推定処理」の手順について説明する。
【0075】
図5は温度感受性推定装置18で実行される「温度感受性推定処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
まず、ステップS100で、複数回の条件で熱を出力したときの、熱出力装置14により与えた熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度を取得する。
【0077】
ステップS102では、上記ステップS100で取得したデータに基づいて、複数回の条件の各々について、式(4)で係数Cを求め、係数Cの平均値C’を算出する。
【0078】
ステップS104では、熱出力装置14により面積Aの接触面から皮膚内へ流入する熱量Qを変動させ、使用者に温冷感の申告を実施させた際の計測データを取得する。
【0079】
ステップS106では、上記ステップS104で取得した計測データに基づいて、式(7)をもとに最小二乗法にて係数α、β、γ、δを推定する。
【0080】
そして、上記で得られた係数α,β,γ,δ、皮膚表面温度t
s、接触面積A、係数C’を制御装置20へ送信し、温度感受性推定処理を終了する。
【0081】
(熱量制御処理)
次に、「熱量制御処理」の手順について説明する。
【0082】
まず、制御装置20は、温度感受性推定装置18から送信された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度t
s、接触面積A、係数C’を取得する。また、制御装置20は、希望する温冷感S’の指定を受け付ける。
【0083】
図6は制御装置20で実行される「熱量制御処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS120において、係数α,β,γ,δと、指定された温冷感S’と、皮膚表面温度t
sと、接触面積Aと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’とに基づいて、予め設定された、表皮層直下の温度t
lの勾配の各々に対し、表皮層直下の温度t
lを推定する。
【0085】
ステップS122において、上記ステップS120で計算された表皮層直下の温度t
lのベクトルと、皮膚表面温度t
sと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’と、接触面積Aとに基づいて、表皮層直下の温度t
lの勾配の各々に対し、熱量目標値を算出する。
【0086】
ステップS124において、上記ステップS122で算出された熱量目標値qのいずれか一つを選択する。
【0087】
ステップS126において、上記ステップS124で選択された熱量目標値qの熱を与えたときの、表皮層直下(深さd)の温度t
lの変化を計算する。
【0088】
ステップS128において、上記ステップS126で計算された表皮層直下(深さd)の温度t
lの変化に基づいて、算出時の時間T1,T2における、当該熱量目標値qに対する表皮層直下(深さd)の温度t
l、およびその時間変化率と、皮膚表面温度t
sとから、温冷感予測値SPを算出する。
【0089】
ステップS130では、全ての熱量目標値について、上記ステップS124〜ステップS128の処理を実行したか否かを判定する。
【0090】
ステップS132では、指定された温冷感S’と温冷感予測値SPとの絶対値差DSPを、順に選択された熱量目標値qの各々に対して計算し、指定された温冷感S’との絶対値差DSPが一番小さくなるときの熱量目標値qを選択する。
【0091】
ステップS134において、上記ステップS132で選択された熱量目標値qを与えるように熱出力装置14を制御し、熱量制御処理を終了する。
【0092】
以上の通り、本発明の実施の形態に係る熱出力制御システムよれば、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における表皮層直下の温度を推定することにより、精度良く温冷感制御を行うことができる。
【0093】
また、人体の皮膚表面でなく、皮膚内の温度受容器付近の温度および温度勾配を制御目標値として用いる。また、部位間、個人間の皮膚特性を考慮した熱出力装置の制御が実施される。これにより、個人の特性、暴露環境、および皮膚特性に基づいた熱出力制御を行うことができ、精度の高い温冷感制御が達成可能となる。
【0094】
例えば、
図7のようにブレスレット型の装置に、上記実施の形態で説明した熱出力制御システムを適用することにより、ブレスレット型の装置を装着した使用者に対して、希望した温冷感を与えることができる。
【0095】
また、
図8のように、ディスプレイ部分に、上記実施の形態で説明した熱出力制御システムを適用することにより、ディスプレイに触れた使用者に対して、希望した温冷感を与えることができる。
【0096】
なお、上記各実施の形態で説明した熱出力制御システムの構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内においてその構成を変更してもよいことは言うまでもない。
【0097】
例えば、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、表皮層の熱伝導率及び厚みをそれぞれ推定した上で、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定してもよい。また、熱出力装置からの出力結果をもとに、表皮層の熱伝導率及び厚みの推定結果を補正するようにしてもよい。
【0098】
また、知覚感度である係数を、事前に推定してもよいし、知覚感度である係数を、データベースから取得するようにしてもよい。
【0099】
また、指定された温冷感を与えるための熱量目標値を、クラウドサーバー等へ送信して、データベースを作成し、熱力学計算あるいはニューラルネットなどの手法を用いた熱量目標値の学習を行うようにしてもよい。