特許第6648720号(P6648720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648720
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】熱出力制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/03 20060101AFI20200203BHJP
   A61F 7/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A61F7/08 333
   A61F7/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-37104(P2017-37104)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140048(P2018-140048A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】金田 謙治
(72)【発明者】
【氏名】依田 拓
(72)【発明者】
【氏名】澤井 浩子
(72)【発明者】
【氏名】星野 博之
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 哲郎
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−128694(JP,A)
【文献】 特開2006−194540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/03
A61F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態を推定する内部状態推定部と、
前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する熱制御部と、
を含み、
前記内部状態推定部は、皮膚表面温度と、表皮層の熱伝導率と、厚みと、予め推定された、表皮層より内側の人体内部の温度に対する知覚感度と、指定された温冷感とに基づいて、予め設定された、前記人体内部の温度の勾配の各々に対し、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態として、前記表皮層より内側の人体内部の温度を推定し、
前記熱制御部は、前記推定された状態と、皮膚表面温度と、表皮層の熱伝導率、及び厚みとに基づいて、予め設定された、前記人体内部の温度の勾配の各々に対し、熱量目標値を算出し、前記熱量目標値の熱を与えたときの、前記表皮層より内側の人体内部の温度変化を計算し、前記計算された温度変化に基づいて、温冷感予測値を算出し、
前記人体内部の温度の勾配の各々に対する前記温冷感予測値と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱量目標値から、前記熱出力装置による熱量を決定し、
前記決定された熱量に基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する
熱出力制御装置。
【請求項2】
前記熱出力装置により熱を与えたときの、使用者による温冷感の申告値に基づいて、表皮層より内側の人体内部の温度に対する知覚感度を推定する知覚感度推定部を更に含請求項記載の熱出力制御装置。
【請求項3】
熱出力装置により熱を与えたときの熱量及び皮膚表面温度に基づいて、表皮層の熱伝導率及び厚みの比を推定する表皮層推定部を更に含み、
前記熱制御部は、皮膚表面温度と、表皮層の熱伝導率及び厚みの比と、前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する請求項1又は請求項記載の熱出力制御装置。
【請求項4】
前記熱出力装置により熱を与えたときの、熱量及び使用者による温冷感の申告値と、表皮層の熱伝導率及び厚みの比と、皮膚表面温度と、に基づいて、前記表皮層より内側の人体内部の温度に対する知覚感度を推定する知覚感度推定部を更に含み、
前記内部状態推定部は、皮膚表面温度と、前記推定された前記知覚感度と、指定された温冷感とに基づいて、前記温度受容器周辺の状態を推定し、
前記熱制御部は、前記推定された前記知覚感度と、前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する請求項記載の熱出力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮膚表面の温度制御を周期状にすることにより温冷感覚を制御する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、短時間で実験参加者に対して効果的な温熱刺激を与えることのできるシートヒータ装置が知られている(特許文献2)。このシートヒータ装置では、基準温度T0から下限許容温度Tbを減算した温度と、上限許容温度Taを加算した温度との間の範囲となる温度振幅を設定する。そして、この温度振幅でヒータエレメントの温度が変化するように制御する。その結果、実験参加者の患部に周期的に温度が変化する効果的な温熱刺激を与えることができ、従来と対比して治療効果を高めることができる。
【0004】
また、温感覚の従来モデルの知見から、温冷感は部位ごとの皮膚温、深部温、それぞれの温度変化率が重要な因子であることが知られている(非特許文献1)。近年では温度受容器が表皮直下に存在すること(非特許文献2)、長期に暴露された温度によって、受容器の応答温度が変化する現象(非特許文献3)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0101788号明細書
【特許文献2】特開2015−47380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhang,Human Thermal Sensation and Comfort in Transient and Non-Uniform Thermal Environments ,PhD.,2003
【非特許文献2】富永真琴,「生体はいかに温度をセンスするか : TRPチャネル温度受容体」,日本生理学雜誌 65(4), 130-137, 2003-04-01
【非特許文献3】マンダム、「冷たいと感じる温度が変化するメカニズムを解明」、インターネット<URL:http://www.mandom.co.jp/release/2012/src/2012101801.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、皮膚表面温度にて温冷感の評価が実施されている。それによって過渡的な温度変化に対しては、精度が低下するという課題が存在する。その原因としては、前述の様に、温度を感じる受容器が皮膚表面でなく表皮直下に存在するため、過渡時にはその温度に差異が生じること、さらに暴露温度の馴化特性が考慮されていないこととが考えられる。
【0008】
また、特許文献1、2では皮膚表面に温度変化を周期的に加えることによって温冷感を制御できると主張しているが、設置部位の差異や個人差による皮膚の熱的特性の考慮がなされていないため効果的に温冷感を制御することが難しい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、精度良く温冷感制御を行うことができる熱出力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱出力制御装置は、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態を推定する内部状態推定部と、前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する熱制御部と、を含んで構成されている。
【0011】
本発明の熱出力制御装置によれば、内部状態推定部によって、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態を推定する。そして、熱制御部によって、前記推定された状態と、指定された温冷感とに基づいて、前記熱出力装置による熱を制御する。
【0012】
このように、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態を推定することにより、精度良く温冷感制御を行うことができる。
【0013】
本発明に係る内部状態推定部は、皮膚表面温度、表皮層の熱伝導率、及び厚みに基づいて、前記温度受容器周辺の状態として、前記表皮層より内側の人体内部の温度を推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱出力制御装置によれば、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における人体皮膚内部の温度受容器周辺の状態を推定することにより、精度良く温冷感制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る熱出力制御システムの構成の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る温度感受性推定装置の構成の一例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る制御装置の構成の一例を示す概略図である。
図4】皮膚内温度変化の計算例を示す図である。
図5】温度感受性推定装置で実行される「温度感受性推定処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】制御装置で実行される「熱量制御処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
図7】熱出力制御システムの適用例を示す図である。
図8】熱出力制御システムの適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
(熱出力制御システム)
まず、熱出力制御システムの構成について説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る熱出力制御システム10の構成の一例を示す概略図である。図1に示すように、熱出力制御システム10は、入力装置12と、熱出力装置14と、センサ16と、温度感受性推定装置18と、制御装置20とを備えている。
【0019】
入力装置12は、使用者から、温冷感の申告値を受け付けたり、希望する温冷感の指令値を受け付けたりする。
【0020】
熱出力装置14は、使用者の皮膚表面に対して、制御装置20から指定された熱量の熱を与える。
【0021】
例えば、熱出力装置14は、電熱線を透明フィルムの面状に配置した装置あるいはペルチェ素子を用いて,1cm以上の四辺を有する面状の熱出力デバイスを皮膚接触可能な位置にアレイ状に配置した装置である。
【0022】
衣服に熱出力装置14を取り付けている場合は、電源とともに衣服の内側面にアレイ状に熱出力デバイスを配置してもよい。また、アレイ状に配置された熱出力デバイスに接触センサ(マルチタッチセンシング装置など)を具備し、接触している箇所の点数から接触面積を推定し、温度感受性推定装置18に送信する。
【0023】
センサ16は、熱出力装置14により熱を与えられた箇所における皮膚表面温度を検出する。
【0024】
(温度感受性推定装置18)
温度感受性推定装置18は、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータで構成されており、機能的には、図2に示すように、データ取得部30と、係数推定部32と、申告値取得部34と、知覚感度推定部36とを備えている。なお、係数推定部32が、表皮層推定部の一例である。
【0025】
データ取得部30は、皮膚に接触した熱出力装置14により熱を与えたときの熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度を取得する。
【0026】
係数推定部32は、皮膚に接触した熱出力装置14により熱を与えたときの熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度に基づいて、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定する。
【0027】
具体的には、皮膚に接触した熱出力装置14により接触面積Aから皮膚内へ流入した熱量をQとする。その時のセンサ16によって検出された皮膚表面の温度をtsとし、表皮層直下の温度をtlとすると式(1)が導かれる。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、係数Cは、表皮層の熱伝導率λを表皮層の厚みdで除した比である。
【0030】
係数Cを定数として、式(1)を時間微分すると式(2)となる。
【0031】
【数2】
【0032】
流入した熱量Qが微小で表皮層直下の温度tlの時間変化

が無視できるほど小さな場合、式(3)となる。
【0033】
【数3】
【0034】
その場合、係数Cを式(4)の様に求めることができる。
【0035】
【数4】
【0036】
係数推定部32は、複数回の条件で式(4)により係数Cを求め、求めた係数Cの平均値C’を決定する。その値から表皮層直下の温度tlが式(5)で推定される。
【0037】
【数5】

なお、温度感受性推定装置18以外の計測器、あるいはデータベースを用いて熱伝導率λと表皮層の厚みdとを求め、係数Cを求めてもよい。例えば、非特許文献4に従う方法や超音波計測装置等を用いてもよい。
【0038】
[非特許文献4]R. Webb, R. Pielak, P. Bastien, et al: Thermal transport characteristics of human skin measured in vivo using ultrathin conformal arrays of thermal sensors and actuators, PLOS ONE, vol.10(2), e0118131, 2015
【0039】
申告値取得部34は、入力装置12によって使用者から受け付けた温冷感の申告値を取得する。
【0040】
知覚感度推定部36は、熱出力装置14により熱を与えたときの、使用者による温冷感の申告値に基づいて、表皮層直下の温度tlに対する知覚感度を推定する。
【0041】
具体的には、熱出力装置14により面積Aの接触面から皮膚内へ流入する熱量Qを変動させ、使用者に温冷感の申告を実施させた際の計測データを用いて知覚感度を推定する。 推定には式(5)、式(6)、及び式(7)を用いる
【0042】
【数6】
【0043】
温冷感として、ASHRAE7段階温冷感申告尺度のスケール(非特許文献5参照)を用い、各スケールに対して複数の申告値S(n回)が得られたのちに、下記の式(7)をもとに最小二乗法にて係数α、β、γ、δを決定する。
【0044】
【数7】
【0045】
ただし、申告値S(n)は、n回目の申告値であり、ts(n)は、n回目においてセンサ16によって検出された皮膚表面の温度であり、tl(n)は、上記式(5)で推定された表皮層直下の温度tlであり、

は、n回目における表皮層直下の温度tlの時間変化である。
【0046】
[非特許文献5]田辺新一,「住宅における温熱快適性の評価」,住宅総合研究財団,研究年報No.23,1996
【0047】
温度感受性推定装置18は、上記式(7)により決定された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度ts、接触面積A、係数C’を制御装置20へ送信する
【0048】
なお、制御装置20へ送信するデータを、通信を用いて制御装置20以外のデータベースに蓄積し、次回以降そのデータベースからデータを取得するようにしてもよい。
【0049】
(制御装置20)
制御装置20は、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータで構成されており、機能的には、図3に示すように、設定パラメータ取得部40と、温冷感設定部42と、内部温度計算部44と、熱量目標値計算部46と、皮膚内温度変化計算部48と、温冷感予測値算出部50と、熱量目標値判定部52と、熱量制御部54とを備えている。なお、内部温度計算部44は、内部状態推定部の一例であり、熱量目標値計算部46、皮膚内温度変化計算部48、温冷感予測値算出部50、熱量目標値判定部52、及び熱量制御部54は、熱制御部の一例である。
【0050】
設定パラメータ取得部40は、温度感受性推定装置18から送信された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度ts、接触面積A、係数C’を取得する。
【0051】
温冷感設定部42は、入力装置12によって使用者から受け付けた、希望する温冷感の指令値S’を設定する。
【0052】
内部温度計算部44は、係数α,β,γ,δと、指定された温冷感S’と、皮膚表面温度tsと、接触面積Aと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’とに基づいて、予め設定された、表皮層直下の温度tlの勾配の各々に対し、熱出力装置14により熱を与えたときの熱入力位置における温度受容器周辺の状態として、表皮層直下の温度tlを推定する。
【0053】
具体的には、まず、表皮層直下の温度tlの勾配

の各々を設定したベクトル

を用いて、式(8)により、表皮層直下の温度tlを要素としたベクトル

を計算する。
【0054】
【数8】
【0055】
熱量目標値計算部46は、計算された表皮層直下の温度tlのベクトルと、皮膚表面温度tsと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’と、接触面積Aとに基づいて、表皮層直下の温度tlの勾配の各々に対し、熱量目標値を算出する。
【0056】
具体的には、皮膚表面の温度tsより流入させる熱量目標値のベクトルを式(9)で算出する。
【0057】
【数9】
【0058】
皮膚内温度変化計算部48は、熱量目標値のベクトルから選択された熱量目標値qの熱を与えたときの、表皮層直下の温度tlの変化を計算する。
【0059】
具体的には、熱量目標値のベクトルから熱量qを順に選択し、非特許文献6に紹介されている生体伝熱方程式を用いて熱量qに対する皮膚内温度変化を計算する。計算に用いるパラメータは文献値を使用してもよい。例えば、非特許文献6で示されている式(10)の解析解を、熱量qに対する皮膚内温度変化として計算する。
【0060】
【数10】
【0061】
ただし、T(x,t)は、表皮からの深さx、時間tの時の温度であり、Taは、体内深部の温度であり、例えば36.5℃である。кは、皮膚の熱伝導率λと等価であり、上記非特許文献6では0.23である。cbは、血液の比熱であり、上記非特許文献6では3770J/(kg・℃)である。Wbは、皮膚内の血液質量流量であり、上記非特許文献6では0.5kg/(s・m3)である。ctは、皮膚の比熱であり、非特許文献6では3590J/(kg・℃)である。ρtは、皮膚の密度であり、非特許文献6では1200kg/m3 である。erfcは、相補誤差関数であり、 数学におけるシグモイド形状の特殊関数(非初等関数)の一種である。qは、流入する熱量J/(s・m3 )を表す。
【0062】
皮膚内温度変化計算部48では、x=d(表皮層の厚みd)として時刻tごとのT(x,t)をを計算し、表皮層直下の温度tlの変化とすればよい。
【0063】
また事前にモデル化した対象に対して有限要素法を実施し、熱量qに対する表皮層直下の温度tlの変化を算定してもよい。例えば、図4に示す。
【0064】
[非特許文献6] Ferras, L. L., Ford, N. J., Morgado, M. L., Nobrega, J. M., & Rebelo, M. S. (2015). Fractional Pennes’ Bioheat Equation: Theoretical and Numerical Studies. Fractional Calculus and Applied Analysis, 18(4), 1080-1106
【0065】
温冷感予測値算出部50は、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対して、計算された、当該熱量qに対する表皮層直下の温度tlの変化に基づいて、温冷感予測値を算出する。
【0066】
具体的には、計算された、当該熱量qに対する表皮層直下(深さd)の温度tl、およびその時間変化率と、皮膚表面温度tsとを用いて、式(11)にて温冷感予測値SPを算出する。算出時の時間T1,T2は例えば加温開始からの2秒後から10秒後とすればよい。
【0067】
【数11】
【0068】
熱量目標値判定部52は、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対する温冷感予測値SPと、指定された温冷感S’とに基づいて、熱量目標値のベクトルから、熱出力装置14による熱量を決定する。
【0069】
具体的には、目標値S’とSPの絶対値差(DSP,式(12))を、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qの各々に対して計算する。
【0070】
【数12】
【0071】
そして、絶対値差DSPが最も小さくなる熱量qであって、絶対値差DSPが閾値(が例えば0.2)以下となる熱量qを、熱出力装置14による熱量として決定し、決定した熱量qを、熱量制御部54へ出力する。なお、熱量目標値のベクトルから順に選択された熱量qのすべてにおいて、絶対値差DSPが閾値以下にならなかった場合はエラーメッセージ出力要請信号と、熱量q=0とを、熱量制御部54を介して熱出力装置14へ出力する。
【0072】
熱量制御部54は、決定された熱量qに基づいて、熱出力装置14による熱を制御する。
【0073】
ここで、熱出力装置14が、可変面積および可変時間で温度刺激出力を制御する機能を有する場合、熱量制御部54により指定された熱量qを与えるように、熱出力装置14において電源を供給する面積及び時間を制御する。
【0074】
(温度感受性推定処理)
次に、「温度感受性推定処理」の手順について説明する。
【0075】
図5は温度感受性推定装置18で実行される「温度感受性推定処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
まず、ステップS100で、複数回の条件で熱を出力したときの、熱出力装置14により与えた熱量、接触面積、及びセンサ16によって検出された皮膚表面温度を取得する。
【0077】
ステップS102では、上記ステップS100で取得したデータに基づいて、複数回の条件の各々について、式(4)で係数Cを求め、係数Cの平均値C’を算出する。
【0078】
ステップS104では、熱出力装置14により面積Aの接触面から皮膚内へ流入する熱量Qを変動させ、使用者に温冷感の申告を実施させた際の計測データを取得する。
【0079】
ステップS106では、上記ステップS104で取得した計測データに基づいて、式(7)をもとに最小二乗法にて係数α、β、γ、δを推定する。
【0080】
そして、上記で得られた係数α,β,γ,δ、皮膚表面温度ts、接触面積A、係数C’を制御装置20へ送信し、温度感受性推定処理を終了する。
【0081】
(熱量制御処理)
次に、「熱量制御処理」の手順について説明する。
【0082】
まず、制御装置20は、温度感受性推定装置18から送信された係数α,β,γ,δ、皮膚表面の温度ts、接触面積A、係数C’を取得する。また、制御装置20は、希望する温冷感S’の指定を受け付ける。
【0083】
図6は制御装置20で実行される「熱量制御処理」の手順の一例を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS120において、係数α,β,γ,δと、指定された温冷感S’と、皮膚表面温度tsと、接触面積Aと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’とに基づいて、予め設定された、表皮層直下の温度tlの勾配の各々に対し、表皮層直下の温度tlを推定する。
【0085】
ステップS122において、上記ステップS120で計算された表皮層直下の温度tlのベクトルと、皮膚表面温度tsと、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数C’と、接触面積Aとに基づいて、表皮層直下の温度tlの勾配の各々に対し、熱量目標値を算出する。
【0086】
ステップS124において、上記ステップS122で算出された熱量目標値qのいずれか一つを選択する。
【0087】
ステップS126において、上記ステップS124で選択された熱量目標値qの熱を与えたときの、表皮層直下(深さd)の温度tlの変化を計算する。
【0088】
ステップS128において、上記ステップS126で計算された表皮層直下(深さd)の温度tlの変化に基づいて、算出時の時間T1,T2における、当該熱量目標値qに対する表皮層直下(深さd)の温度tl、およびその時間変化率と、皮膚表面温度tsとから、温冷感予測値SPを算出する。
【0089】
ステップS130では、全ての熱量目標値について、上記ステップS124〜ステップS128の処理を実行したか否かを判定する。
【0090】
ステップS132では、指定された温冷感S’と温冷感予測値SPとの絶対値差DSPを、順に選択された熱量目標値qの各々に対して計算し、指定された温冷感S’との絶対値差DSPが一番小さくなるときの熱量目標値qを選択する。
【0091】
ステップS134において、上記ステップS132で選択された熱量目標値qを与えるように熱出力装置14を制御し、熱量制御処理を終了する。
【0092】
以上の通り、本発明の実施の形態に係る熱出力制御システムよれば、熱出力装置により熱を与えたときの熱入力位置における表皮層直下の温度を推定することにより、精度良く温冷感制御を行うことができる。
【0093】
また、人体の皮膚表面でなく、皮膚内の温度受容器付近の温度および温度勾配を制御目標値として用いる。また、部位間、個人間の皮膚特性を考慮した熱出力装置の制御が実施される。これにより、個人の特性、暴露環境、および皮膚特性に基づいた熱出力制御を行うことができ、精度の高い温冷感制御が達成可能となる。
【0094】
例えば、図7のようにブレスレット型の装置に、上記実施の形態で説明した熱出力制御システムを適用することにより、ブレスレット型の装置を装着した使用者に対して、希望した温冷感を与えることができる。
【0095】
また、図8のように、ディスプレイ部分に、上記実施の形態で説明した熱出力制御システムを適用することにより、ディスプレイに触れた使用者に対して、希望した温冷感を与えることができる。
【0096】
なお、上記各実施の形態で説明した熱出力制御システムの構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内においてその構成を変更してもよいことは言うまでもない。
【0097】
例えば、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、表皮層の熱伝導率及び厚みをそれぞれ推定した上で、表皮層の熱伝導率及び厚みの比である係数を推定してもよい。また、熱出力装置からの出力結果をもとに、表皮層の熱伝導率及び厚みの推定結果を補正するようにしてもよい。
【0098】
また、知覚感度である係数を、事前に推定してもよいし、知覚感度である係数を、データベースから取得するようにしてもよい。
【0099】
また、指定された温冷感を与えるための熱量目標値を、クラウドサーバー等へ送信して、データベースを作成し、熱力学計算あるいはニューラルネットなどの手法を用いた熱量目標値の学習を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0100】
10 熱出力制御システム
12 入力装置
14 熱出力装置
16 センサ
18 温度感受性推定装置
20 制御装置
30 データ取得部
32 係数推定部
34 申告値取得部
36 知覚感度推定部
40 設定パラメータ取得部
42 温冷感設定部
44 内部温度計算部
46 熱量目標値計算部
48 皮膚内温度変化計算部
50 温冷感予測値算出部
52 熱量目標値判定部
54 熱量制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8