(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等の車両に搭載される自動変速機には、複数のプラネタリギヤセットにより形成される、入力部から出力部への複数の動力伝達経路を切り換えるために、クラッチ装置が用いられている。このクラッチ装置は、摩擦板が取り付けられるクラッチドラムを有し、このクラッチドラムは、例えば、或る1つのプラネタリギヤセットの或る1つの回転要素に連結される。このようなクラッチドラムは、通常、板材のプレス成形により成形される。
【0006】
ここで、自動変速機の構成やスペースの関係で、摩擦板の位置とクラッチドラムが連結される回転要素の位置とが離れていると、クラッチドラムがその軸方向に長くなる場合がある。この場合、クラッチドラムの製造を容易にするために、クラッチドラムを、その軸方向の一部を構成する第1筒状部材と、該軸方向の他の部分を構成する第2筒状部材とで構成することが考えられる。そして、第1筒状部材及び第2筒状部材をそれぞれ板材で成形して、該両筒状部材同士を接合する。また、第1筒状部材と第2筒状部材とを互いに異なる材料で構成すれば、クラッチドラムを軽量化できる可能性もある。
【0007】
このようにクラッチドラムを第1筒状部材と第2筒状部材とで構成する場合、第1筒状部材の外周面と第2筒状部材の内周面とを互いに圧入しかつ電気抵抗接合することが考えられる。そして、上記特許文献1のように、第1筒状部材又は第2筒状部材の一部を切り欠いたり凹ましたりすることでバリ収容空間部を形成して、バリ収容空間部内にバリを収容するようにする。
【0008】
しかし、上記特許文献1のようなバリ収容空間部は、プレス成形のみでは形成できない可能性があり、例えば切削加工が必要になる場合がある。また、上記特許文献1のバリ収容空間部は、一部が開放される場合があり、この場合、バリが剥がれると、そのバリがバリ収容空間部の外側に出てしまう可能性がある。バリ収容空間部の外側に出たバリは、プラネタリギヤセットにおける互いに噛み合うギヤの間に挟まったり、潤滑油が流れる油路に詰まったりする可能性がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、板材で成形された第1筒状部材の外周面と、板材で成形された第2筒状部材の内周面とを互いに圧入しかつ電気抵抗接合する場合に、バリ収容空間部を容易に形成できるようにするとともに、バリ収容空間部内のバリがバリ収容空間部の外側に出るのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明では、板材で成形された第1筒状部材と、該第1筒状部材の筒軸方向の一側において該第1筒状部材と同軸に配置され
かつ板材で成形された第2筒状部材とを備え、該第1筒状部材の外周面及び該第2筒状部材の内周面に、互いに圧入されかつ電気抵抗接合された接合部が周方向全周に亘ってそれぞれ設けられた電気抵抗圧入接合構造を対象として、上記第1筒状部材及び上記第2筒状部材は、該第1筒状部材の外周面と該第2筒状部材の内周面との間において上記接合部に対して上記筒軸方向の両
側に、該第1筒状部材及び該第2筒状部材の接合部から延出したバリを収容するバリ収容空間部を形成しかつ該バリ収容空間部の略全体を囲むように、折り曲げられて
おり、上記第1筒状部材は、上記接合部に対して上記筒軸方向の第2筒状部材とは反対側に隣接して設けられかつ外径が該接合部と略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部と、該軸方向延設部の反接合部側の端部から径方向外側に延びる径方向延設部と、該接合部に対して上記筒軸方向の第2筒状部材側に隣接して設けられた、外径が該接合部よりも小径の小径部とを有し、上記第2筒状部材は、上記接合部に対して上記筒軸方向の第1筒状部材側に隣接して設けられた、内径が該接合部よりも大径の大径部と、該接合部に対して上記筒軸方向の第1筒状部材とは反対側に隣接して設けられかつ内径が該接合部と略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部と、該軸方向延設部の反接合部側の端部から径方向内側に延びる径方向延設部とを有し、一方の上記バリ収容空間部は、上記第1筒状部材の軸方向延設部及び径方向延設部と、上記第2筒状部材の大径部とにより囲まれ、他方の上記バリ収容空間部は、上記第1筒状部材の小径部と、上記第2筒状部材の軸方向延設部及び径方向延設部とにより囲まれている、という構成とした。
【0011】
上記の構成により、バリ収容空間部が板材の折り曲げによって形成されるので、プレス成形のみでバリ収容空間部を容易に形成することができる。また、板材によってバリ収容空間部の略全体が囲まれるので、バリ収容空間部内のバリがバリ収容空間部の外側に出るのを抑制することができる。
【0012】
また、接合部の両側にバリが延出したしても、これら両側に延出したバリを、接合部の両側に位置するバリ収容空間部にそれぞれ収容することができる。また、その両側のバリ収容空間部を、板材の折り曲げによって容易に形成することができる。
【0013】
上記電気抵抗圧入接合構造の一実施形態では、上記第1筒状部材は、車両に搭載される自動変速機のクラッチ装置におけるクラッチドラムの軸方向の一部を構成し、上記第2筒状部材は、上記クラッチドラムの軸方向の他の部分を構成する。
【0014】
このことにより、クラッチドラムがその軸方向に長くなったとしても、クラッチドラムを容易に製造することができるとともに、バリによって自動変速機に不具合が生じるのを抑制することができる。また、第1筒状部材と第2筒状部材とを互いに異なる材料で構成することで、クラッチドラムの軽量化、延いては自動変速機の軽量化を図ることができる。
【0015】
上記電気抵抗圧入接合構造の別の実施形態では、上記第1筒状部材及び上記第2筒状部材は、融点が互いに異なる材料で構成されている。
【0016】
このことで、第1筒状部材及び第2筒状部材が同じ材料で構成されている場合に比べて、多くのバリが発生し易くなる。しかし、バリ収容空間部の容積を適切に設定しておくことで、そのバリは、バリ収容空間部に収容されるとともに、バリ収容空間部の外側に出ることが抑制される。
【0017】
上記電気抵抗圧入接合構造において、上記第1筒状部材は、上記小径部の反接合部側の端部から径方向内側に延びかつ上記第2筒状部材の径方向延設部に接触するフランジ部を更に有する、ことが好ましい。
【0018】
このようなフランジ部によって、第1筒状部材及び第2筒状部材の接合部を互いに圧入する際に、第1筒状部材の接合部及びその近傍部分が径方向内側に曲がるのを抑制することができる。よって、第1筒状部材及び第2筒状部材の接合部同士の接合を適切に行うことができて、該接合部の接合強度を確保し易くなる。
【0019】
上記電気抵抗圧入接合構造の更に別の実施形態では、上記第2筒状部材は、有底筒状部材であり、上記第2筒状部材の接合部は、該第2筒状部材の周壁部における底壁部との角部近傍に設けられている。
【0020】
このことで、第1筒状部材及び第2筒状部材の接合部を互いに圧入する際に、第2筒状部材の接合部及びその近傍部分が径方向内側に曲がるのを抑制することができる。よって、第1筒状部材及び第2筒状部材の接合部の接合強度を確保し易くなる
。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の電気抵抗圧入接合構
造によると、バリ収容空間部を板材の折り曲げによって形成して、プレス成形のみでバリ収容空間部を容易に形成することができるとともに、板材によってバリ収容空間部の略全体を囲むことで、バリ収容空間部内のバリがバリ収容空間部の外側に出るのを抑制することができる。
また、接合部の両側にバリが延出したしても、これら両側に延出したバリを、接合部の両側に位置するバリ収容空間部にそれぞれ収容することができる。よって、バリによって自動変速機に不具合が生じるのを容易に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る電気抵抗圧入接合構造が適用されたクラッチドラムを有するクラッチ装置を備えた自動変速機10を一例として示す。この自動変速機10は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0025】
自動変速機10は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
【0026】
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸上に配置されており、自動変速機10が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(
図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(
図1の右側)を後側という。
【0027】
変速機構14は、入力軸12の軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力
軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4は、入力軸12及び出力軸13と同一軸線上に配置されている。
【0028】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0029】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0030】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0031】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0032】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0033】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
【0034】
変速機構14はまた、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(第1クラッチ20、第2クラッチ21、第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24)を有している。
【0035】
第1クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第1クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の前側に配設されている。
【0036】
第2クラッチ21は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第2クラッチ21は、第1クラッチ20の前側に配設されている。
【0037】
第3クラッチ22は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第3クラッチ22は、第2クラッチ21の前側に配設されている。
【0038】
第1ブレーキ23は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第1ブレーキ23は、第3クラッチ22の前側における変速機ケース11の近傍に配置されている。
【0039】
第2ブレーキ24は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第2ブレーキ24は、第3ギヤセットPG3の径方向外側における変速機ケース11の近傍に配置されている。
【0040】
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。
図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速〜8速及び後退速が形成される。尚、
図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
【0041】
具体的には、第1クラッチ20、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、1速が形成される。第2クラッチ21、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、2速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第2ブレーキ24の締結により、3速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、4速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、5速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の締結により、6速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、7速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、8速が形成される。第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
【0042】
図3に、本発明の実施形態に係る電気抵抗圧入接合構造が適用されたクラッチドラムの例として、クラッチドラム5〜7を具体的に示す。尚、
図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)であり、クラッチドラム5〜7の中心軸(後述の第1筒状部材50,60,70及び第2筒状部材51,61,71の筒軸)でもある。クラッチドラム5〜7の軸方向は、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)と一致する。
【0043】
クラッチドラム5は、第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22(これらは、クラッチ装置に相当する)に共通のクラッチドラムであって、後側の端部で第3ギヤセットPG3の第3サンギヤS3(
図4では、記載を省略)に連結され、前側の端部で連結部材8に連結される。
【0044】
クラッチドラム6は、第2クラッチ21のクラッチドラムであって、クラッチドラム5の径方向内側に位置する。このクラッチドラム6は、その後側の端部で第1ギヤセットPG1の第1リングギヤR1に連結される。クラッチドラム6の前側の端部には、複数の摩擦板31が取り付けられている。これらの摩擦板31は、第2クラッチ21の締結時に、連結部材8において摩擦板31と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板35と係合する。
【0045】
クラッチドラム7は、第3クラッチ22のクラッチドラムであって、クラッチドラム5の径方向内側でかつクラッチドラム6の径方向外側に位置する。このクラッチドラム7は、その後側の端部で第2ギヤセットPG2の第2リングギヤR2に連結される。クラッチドラム7の前側の端部には、複数の摩擦板32が取り付けられている。これらの摩擦板32は、第3クラッチ22の締結時に、連結部材8において摩擦板32と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板36と係合する。
【0046】
クラッチドラム5は、金属板材で成形された第1筒状部材50と、該第1筒状部材50の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材50と同軸に配置された第2筒状部材51とを備える。すなわち、第1筒状部材50は、クラッチドラム5の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材51は、クラッチドラム5の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材51は、第1筒状部材50とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材50側(前側)が開口している。
【0047】
クラッチドラム6も、クラッチドラム5と同様に、金属板材で成形された第1筒状部材60と、該第1筒状部材60の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材60と同軸に配置された第2筒状部材61とを備える。すなわち、第1筒状部材60は、クラッチドラム6の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材61は、クラッチドラム6の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材61は、第1筒状部材60とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材60側(前側)が開口している。
【0048】
クラッチドラム7も、クラッチドラム5と同様に、金属板材で成形された第1筒状部材70と、該第1筒状部材70の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材70と同軸に配置された第2筒状部材71とを備える。すなわち、第1筒状部材70は、クラッチドラム7の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材71は、クラッチドラム7の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材71は、第1筒状部材70とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材70側(前側)が開口している。
【0049】
本実施形態では、第1筒状部材50,60,70の材料は、第2筒状部材51,61,71の材料よりも融点が低い材料である。具体的に、クラッチドラム5〜7の軽量化のために、第1筒状部材50,60,70の材料は、アルミニウム及びアルミニウム合金であり、トルク伝達のために強度が必要な第2筒状部材51,61,71の材料は、鋼である。尚、クラッチドラム5〜7の軽量化のために、第1筒状部材50,60,70の材料が、マグネシウム又はマグネシウム合金であってもよい。
【0050】
クラッチドラム5における第1筒状部材50の後側の端部及び第2筒状部材51の前側の端部は、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材50の外周面に設けられた接合部50aと第2筒状部材51の内周面に設けられた接合部51aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
【0051】
クラッチドラム6における第1筒状部材60の後側の端部及び第2筒状部材61の前側の端部も、クラッチドラム5と同様に、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材60の外周面に設けられた接合部60aと第2筒状部材61の内周面に設けられた接合部61aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
【0052】
クラッチドラム7における第1筒状部材70の後側の端部及び第2筒状部材71の前側の端部も、クラッチドラム5,6と同様に、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材70の外周面に設けられた接合部70aと第2筒状部材71の内周面に設けられた接合71aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
【0053】
以下、クラッチドラム6の電気抵抗圧入接合構造について、
図4により詳細に説明する。この説明において、第1筒状部材60の筒軸方向(第2筒状部材61の筒軸方向)を、単に筒軸方向という。クラッチドラム5,7の電気抵抗圧入接合構造も、クラッチドラム6の電気抵抗圧入接合構造と同様であるので、その説明は省略する。
【0054】
第1筒状部材60の外周面及び第2筒状部材61の内周面には、互いに圧入されかつ電気抵抗接合された接合部60a,61aが周方向全周に亘ってそれぞれ設けられている。第1筒状部材60の外周面における接合部60aの接合前は、接合部60aよりも僅かに大径の接合予定部60bとされている(
図4の二点鎖線及び
図5参照)。一方、第2筒状部材61の内周面における接合部61aの接合前は、接合部61aよりも僅かに小径の接合予定部61bとされている(
図4の二点鎖線及び
図5参照)。すなわち、接合予定部61bは、接合予定部60bよりも僅かに小径であるが、接合後における接合部60a,61aは同じ径になる。
【0055】
第1筒状部材60は、接合部60a(61a)に対して上記筒軸方向の第2筒状部材61とは反対側(前側)に隣接して設けられかつ外径が接合部60aと略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部60cを有している。この軸方向延設部60cの外径は、厳密には、接合予定部60bと同径であって、接合部60aよりも僅かに大径とされる(
図4及び
図5では、誇張して描いている)。
【0056】
また、第1筒状部材60は、軸方向延設部60cの反接合部60a側(前側)の端部から径方向外側に延びる径方向延設部60dと、接合部60a(61a)に対して上記筒軸方向の第2筒状部材61側(後側)に隣接して設けられた、外径が接合部60aよりも小径の小径部60eとを更に有する。本実施形態では、小径部60eは、後側に向かって徐々に小径となるテーパ状に形成されているが、接合部60aとの間に段差を有して、小径部60eの上記筒軸方向の全体が一定の径であってもよい。
【0057】
さらに、本実施形態では、第1筒状部材60は、小径部60eの反接合部60a側(後側)の端部から径方向内側に延びるフランジ部60fを更に有する。尚、このフランジ部60fは、必ずしも必要なものではなく、なくすことも可能である。
【0058】
第2筒状部材61は、接合部61a(60a)に対して上記筒軸方向の第1筒状部材60側(前側)に隣接して設けられた、内径が接合部61aよりも大径の大径部61cと、接合部61aに対して上記筒軸方向の第1筒状部材とは反対側(後側)に隣接して設けられかつ内径が接合部61aと略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部61dとを有している。本実施形態では、大径部61cは、前側に向かって徐々に大径となった後に一定の径で前側に延びているが、接合部61aとの間に段差を有して、大径部61cの上記筒軸方向の全体が一定の径であってもよい。軸方向延設部61dの内径は、厳密には、接合予定部61bと同径であって、接合部61aよりも僅かに小径とされる。また、第2筒状部材61は、軸方向延設部61dの反接合部61a側(後側)の端部から径方向内側に延びる径方向延設部61eを更に有する。
【0059】
第2筒状部材61の大径部61cの前側の端部は、第1筒状部材60の径方向延設部60dに接触している。これにより、第1筒状部材60の外周面と第2筒状部材61の内周面との間において接合部60a,60bに対して上記筒軸方向の第2筒状部材61とは反対側(前側)に、第1筒状部材60の軸方向延設部60c及び径方向延設部60dと第2筒状部材60の大径部61cとにより囲まれた第1バリ収容空間部91が形成される。この第1バリ収容空間部91は、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合部60a,60bから前側に延出したバリ95(
図4参照)を収容する。この収容されたバリ95が第1バリ収容空間部91から出ないように、第1筒状部材60の軸方向延設部60c及び径方向延設部60dと第2筒状部材61の大径部61cとによって、第1バリ収容空間部91の全体が囲まれている。尚、第2筒状部材61の大径部61cの前側の端部と第1筒状部材60の径方向延設部60dとの間に、第1バリ収容空間部91内のバリ95が第1バリ収容空間部91から出ないような量の隙間があいていてもよい。すなわち、第1バリ収容空間部91内のバリ95が第1バリ収容空間部91から出ない程度に、第1バリ収容空間部91の略全体が囲まれていてもよい。
【0060】
第1筒状部材60における小径部60eの後側の端部及びフランジ部60fは、第2筒状部材61の径方向延設部61eに接触している。これにより、第1筒状部材60の外周面と第2筒状部材61の内周面との間において接合部60a,61aに対して上記筒軸方向の第2筒状部材61側(後側)に、第1筒状部材60の小径部60eと第2筒状部材61の軸方向延設部61d及び径方向延設部61eとにより囲まれた第2バリ収容空間部92が形成される。この第2バリ収容空間部92は、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合部60a,61aから後側に延出したバリ95を収容する。この収容されたバリ95が第2バリ収容空間部92から出ないように、第1筒状部材60の小径部60eと第2筒状部材61の軸方向延設部61d及び径方向延設部61eとによって、第2バリ収容空間部92の全体が囲まれている。尚、第1バリ収容空間部91と同様に、第2バリ収容空間部92内のバリ95が第2バリ収容空間部92から出ない程度に、第2バリ収容空間部92の略全体が囲まれていてもよい。
【0061】
このように本実施形態では、第1筒状部材60及び第2筒状部材61は、第1筒状部材60の外周面と第2筒状部材61の内周面との間において接合部60a,61aに対して上記筒軸方向の両側に、接合部60a,61aから延出したバリ95を収容する第1及び第2バリ収容空間部91,92をそれぞれ形成しかつ該第1及び第2バリ収容空間部91,92の全体をそれぞれ囲むように、折り曲げられている。すなわち、第1及び第2バリ収容空間部91,92は、板材の折り曲げによって形成されている。
【0062】
本実施形態では、バリ95は、接合部60a,61aの前側に多く延出する。このため、第1バリ収容空間部91の容積が、第2バリ収容空間部92の容積よりも大きくされている。
【0063】
次に、クラッチドラム6の第1筒状部材60と第2筒状部材61との電気抵抗圧入接合方法について、
図5により説明する。尚、
図5に示すように、この電気抵抗圧入接合方法では、第1筒状部材60及び第2筒状部材61は、それらの筒軸(
図5では、右側のかなり離れた位置に位置するので、描かれていない)が上下方向に延びるように配置されるので、この電気抵抗圧入接合方法の説明では、車両に搭載された場合の後側を上側といい、車両に搭載された場合の前側を下側という。クラッチドラム5,7の電気抵抗圧入接合方法についても、クラッチドラム6の電気抵抗圧入接合方法と同様であるので、その説明は省略する。
【0064】
先ず、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材をプレス成形して第1筒状部材60を成形するとともに、鋼の板材をプレス成形して第2筒状部材61を成形する。これらの成形時において、第1筒状部材60の外周面及び第2筒状部材61の内周面に、互いに圧入されかつ電気抵抗接合される接合予定部60b,61bを周方向全周に亘ってそれぞれ設けるとともに、第1筒状部材60には、上述した、軸方向延設部60c、径方向延設部60d、小径部60e及びフランジ部60fを設け、第2筒状部材61には、上述した、大径部61c、軸方向延設部61d及び径方向延設部61eを設ける。
【0065】
上記成形後の第1筒状部材60の形状は、接合予定部60b以外は、上述した接合後の第1筒状部材60の形状と同じであり、上記成形後の第2筒状部材61の形状は、接合予定部61b以外は、上述した接合後の第2筒状部材61の形状と同じである。すなわち、上記成形時において、第1筒状部材60の外周面及び第2筒状部材61の内周面に、接合予定部60b,61bを周方向全周に亘ってそれぞれ設けるとともに、接合予定部60b,61b同士を接合したときに、第1筒状部材60の外周面と第2筒状部材61の内周面との間において接合予定部60b,61bに対して上記筒軸方向の両側に、接合予定部60b,61b(接合部60a,61a)から延出したバリ95を収容する第1及び第2バリ収容空間部91,92をそれぞれ形成しかつ第1及び第2バリ収容空間部91,92の全体をそれぞれ囲むように、第1筒状部材60及び第2筒状部材61を折り曲げておく。
【0066】
続いて、上記成形した第1筒状部材60の上側に、上記成形した第2筒状部材61を該第1筒状部材60と同軸に配置して、第1筒状部材60の外周面と第2筒状部材の内周面とを互いに圧入しかつ電気抵抗接合する。
【0067】
具体的には、リング状をなす銅製の下側電極97と、該下側電極97の上側に、下側電極97と同軸に配置された、リング状をなす銅製の上側電極98とを備えた加圧通電装置を用意する。下側電極97及び上側電極98は、加圧部材を兼用しており、上側電極98が下側電極97に向かって移動することで、下側電極97と上側電極98との間に配置された部材を加圧することが可能に構成されている。
【0068】
そして、下側電極97上に第1筒状部材60の径方向延設部60cが載るように、第1筒状部材60をセットする。このとき、第1筒状部材60の筒軸が、下側電極97の中心軸と略一致する。
【0069】
続いて、下側電極97上の第1筒状部材60の上部に、第2筒状部材61をセットする。このとき、第1筒状部材60の接合予定部60bの上端に第2筒状部材61の接合予定部61bの下端が当接するとともに、第2筒状部材61の筒軸が第1筒状部材60の筒軸と略一致している。
図5では、この当接した状態を示している。
【0070】
次いで、上側電極98を下側電極97に向けて移動させて、下側電極97及び上側電極98により第1及び第2筒状部材60,61を加圧することで、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合予定部60b,61bを互いに圧入する。このとき、下側電極97及び上側電極98を介して、第1及び第2筒状部材60,61間に通電する。このように、下側電極97及び上側電極98によって、接合予定部60b,61bを互いに圧入しかつ電気抵抗接合する。
【0071】
接合予定部60b,61bの接合時に、接合予定部60b,61bの表面が削られて、バリ95が生じる。本実施形態では、特に融点の低い側の筒状部材である第1筒状部材60の接合予定部60bの表面が多く削られ、接合予定部60bに対する接合予定部61bの下側への移動に伴って、多くのバリ95が、接合予定部60b,61b(接合部60a,61a)から下側に延出する。また、少量ではあるが、接合予定部60b,61b(接合部60a,61a)から上側に延出するバリ95も生じる。
【0072】
本実施形態では、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合予定部60b,61bの接合が完了したときには、第1及び第2バリ収容空間部91,92が完全に形成されるとともに、これら第1及び第2バリ収容空間部91,92に、下側及び上側に延出するバリ95がそれぞれ収容された状態となる。
【0073】
また、本実施形態では、第1筒状部材60が、第2筒状部材61の径方向延設部61eに接触するフランジ部60fを有するので、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合予定部60b,61b(接合部60a,61a)を互いに圧入する際に、第2筒状部材61の接合予定部61b(接合部61a)及びその近傍部分が径方向内側に曲がるのが抑制される。この結果、第1筒状部材60及び第2筒状部材61の接合部60a,61a同士の接合が適切に行われ、接合部60a,61aの接合強度を確保し易くなる。
【0074】
さらに、クラッチドラム5のように、第2筒状部材51の接合部51aを、第2筒状部材51の周壁部51bにおける底壁部51cとの角部近傍に設けることで(図
3参照)、第1筒状部材50及び第2筒状部材51の接合部50a,51a(接合予定部)を互いに圧入する際に、第2筒状部材51の接合部51a及びその近傍部分が径方向内側に曲がるのが抑制される。このことによっても、接合部50a,51aの接合強度を確保し易くなる。
【0075】
したがって、本実施形態では、第1及び第2バリ収容空間部91,92が板材の折り曲げによって形成されるので、プレス成形のみで第1及び第2バリ収容空間部91,92を容易に形成することができる。また、板材によって第1及び第2バリ収容空間部91,92の全体が囲まれるので、第1及び第2バリ収容空間部91,92内のバリ95が第1及び第2バリ収容空間部91,92の外側に出るのを抑制することができる。この結果、第1及び/又は第2バリ収容空間部91,92の外側に出たバリ95が、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4のうちの少なくとも1つのギヤセットにおける互いに噛み合うギヤの間に挟まったり、潤滑油が流れる油路に詰まったりするようなことはなくなる。よって、バリ95によって自動変速機に不具合が生じるのを容易に抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、クラッチドラム5〜7の軸方向の長さが長いので、各クラッチドラム5〜7の全体を鋼で一体成形する場合、各クラッチドラム5〜7の成形が難しくなるとともに、重量も増大する。しかし、本実施形態では、クラッチドラム5〜7の軸方向の長さが長くても、各クラッチドラム5〜7を容易に製造することができるとともに、各クラッチドラム5〜7の軽量化を図ることができる。
【0077】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態では
、クラッチドラム5〜7の第1筒状部材50,60,70の材料と第2筒状部材51,61,71の材料とが互いに異なっている(融点も異なっている)が、第1筒状部材50,60,70と第2筒状部材51,61,71とが、同じ材料で構成されていてもよい。この場合も、軸方向に長いクラッチドラム5〜7を容易に製造することができる。
【0079】
さらに、上記実施形態では、本発明を自動変速機10のクラッチドラム5〜7に適用した例を示したが、第1筒状部材と第2筒状部材とに2分割できる筒状部材であれば、どのようなものにも適用することができる。この筒状部材に要求される特性に応じて、第1筒状部材及び第2筒状部材の材料を任意に設定することができる。
【0080】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。