(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性ポリマーが、水溶性セルロース誘導体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリスルホン酸、これらの塩、及びアルギン酸塩からなる群より選択される、請求項1に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
前記ポリアミック酸と前記水溶性ポリマーの質量比率(ポリアミック酸:水溶性ポリマー)が、10:90〜90:10の範囲内である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
前記電極活物質が、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、ケイ素若しくはスズの酸化物粉末、又はケイ素若しくはスズを含む合金粉末である、請求項10又は11に記載の電極。
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電極用バインダー樹脂組成物と、電極活物質とを含む電極合剤ペーストを集電体に塗布し、次いで前記電極合剤ペーストを200℃以下の温度で加熱処理して前記溶媒を除去するとともに前記ポリアミック酸のイミド化反応を行う、電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物はポリアミック酸を含む。ポリアミック酸は特には限定されず、電極バインダーに用いられる公知のポリアミック酸を使用してよい。
【0017】
例えば、上記化学式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が好ましい。この中でも、上記化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が特に好ましい。化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸を用いることにより、環境適応性が良好である水を溶媒として使用することができる。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを反応させて得られ、テトラカルボン酸成分が、テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基を形成し、ジアミン成分がジアミンからアミノ基を除いた2価の基を形成する。即ち、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる群から選択される1種以上をテトラカルボン酸成分に用いて、化学式(I)又は化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸を調製できる。
【0018】
フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物は、好ましくは2〜3個の芳香族環を有する。フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。
【0019】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましく、例えば、脂環式基に直接4つのカルボキシル基が結合したテトラカルボン酸の二無水物が好ましい。具体的な脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3;5,6−テトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。
【0020】
フッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’−[2,2,2−トリフルオロ−1−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’−[2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−(トリフルオロメチル)プロピリデン]ジフタル酸無水物、1H−ジフロ[3,4−b:3’,4’−i]キサンテン−1,3,7,9(11H)−テトロン、5,5’−オキシビス[4,6,7−トリフルオロ−ピロメリット酸無水物]、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4−(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4−ジフルオロピロメリット酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物などを好適に挙げることができる。
【0021】
フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物はそれぞれ1種である必要はなく、複数種の混合物であってもよい。
【0022】
一実施形態(特には、溶媒が水を含む場合、例えば50質量%以上の量で溶媒が水を含む場合)において、フッ素基を含有しない芳香族ジアミンとしては、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のものが好ましく、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンがより好ましい。25℃の水に対する溶解度が0.1g/L未満の芳香族ジアミンを用いた場合には、水を溶媒とする場合に均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなる場合がある。また、芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L未満になる場合があり、その結果、水を溶媒とする場合に均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなる場合がある。
【0023】
一実施形態(特には、溶媒が水を含む場合、例えば50質量%以上の量で溶媒が水を含む場合)において、脂肪族ジアミンとしては、分子量(モノマーの場合は分子量、ポリマーの場合は重量平均分子量を示す)が500以下のものが好ましく、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上である脂肪族ジアミン、又は、1〜2個の脂環を有する脂環式ジアミンがより好ましい。分子量が500を超える脂肪族ジアミンを用いた場合には、水を溶媒とする場合に均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなる場合がある。
【0024】
フッ素基を含有する芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、1〜2個の芳香族環を有するフッ素基を含有する芳香族ジアミンが好ましい。フッ素基を含有する芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、水を溶媒とした場合に均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなる場合がある。
【0025】
好ましいフッ素基を含有しない芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度は120g/L、以下同様)、m−フェニレンジアミン(77g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.24g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.54g/L)、2,4−トルエンジアミン(62g/L)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)、2,4−ジアミノトルエン(62g/L)などを例示できる。水溶性が高く、得られるポリイミドが優れた特性を有するので、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物が好ましく、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物がより好ましい。
【0026】
好ましい脂肪族ジアミンとしては、trans−1,4−ジアミノシクロへキサン(1000g/L、分子量:114)、cis−1,4−ジアミノシクロへキサン(1000g/L、分子量:114)、1,6−ヘキサメチレンジアミン(1000g/L、分子量:116)、1,10−デカメチレンジアミン(1000g/L、分子量:172)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1000g/L、分子量:142)、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(999g/L、分子量:142)、重量平均分子量が500以下のポリオキシプロピレンジアミンなどを挙げることができる。
【0027】
フッ素基を含有する芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’−ジフルオロ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、2,2’,6,6’−テトラフルオロ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−オキシビス(2,3,5,6−テトラフルオロアニリン)などを好適に挙げることができる。
【0028】
フッ素基を含有しない芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンはそれぞれ1種である必要はなく、複数種の混合物であってもよい。フッ素基を含有しない芳香族ジアミンについては、水に対する溶解度が高いジアミンと他のジアミンとを組み合わせて、フッ素基を含有しない芳香族ジアミン全体として25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上になるようにして用いることもできる。
【0029】
なお、25℃における水に対する溶解度(25℃の水に対する溶解度)が0.1g/L以上のジアミンとは、当該ジアミンが25℃の水1L(1000ml)に0.1g以上溶解することを意味する。25℃における水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのデータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0030】
得られるポリイミドの特性から、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位である前記化学式(II)のAが、下記化学式(II−2)〜(II−7)のいずれか1種以上であることが好ましく、主として下記化学式(II−2)、(II−3)及び(II−5)のいずれか1種以上であることが特に好ましく、下記化学式(II−2)〜(II−3)のいずれか1種以上であることがさらに好ましい。
【0032】
得られるポリイミドの特性から、フッ素基を含有しない芳香族ジアミンに由来する構成単位である前記化学式(II)のBが、下記化学式(II−8)〜(II−9)のいずれか1種以上であることが好ましい。
【0034】
化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の中でも、下記化学式(II−a)〜(II−c)のいずれかで表される繰返し単位からなるポリアミック酸が特に好ましい。
【0035】
【化8】
化学式(II−a)において、
Aは、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基からなる群から選択される1種以上であり、
Bは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基からなる群から選択される1種以上であり、
ただし、
Aの50モル%以上が、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、50モル%以下が、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、及び/又は
Bの50モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であり、50モル%以下が、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。
【0036】
【化9】
化学式(II−b)において、
Aは、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基からなる群から選択される1種以上であり、
Bは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基からなる群から選択される1種以上であり、
ただし、Aの50モル%超が、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、50モル%未満が、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、
Bの50モル%超が、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であり、50モル%未満が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であり、
芳香族テトラカルボン酸及び芳香族ジアミンの単独の組み合わせは除く。
【0037】
【化10】
化学式(II−c)において、
Aは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、
Bは25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上である芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。
【0038】
化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを反応させて得られる。
【0039】
化学式(II−a)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の調製においては、以下に記載されるテトラカルボン酸成分(A)及びジアミン成分(B)の少なくとも一方を用いる。
(A)50モル%以下が、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、50モル%以上が、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物であるテトラカルボン酸成分。
(B)50モル%以下が、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンであり、50モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミン及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンであるジアミン成分。
【0040】
テトラカルボン酸成分(A)中のフッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物の量は、50モル%以下であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から10モル%以上、40モル%以下がより好ましい。テトラカルボン酸成分(A)中のフッ素基を含有しない脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の量は、50モル%以上であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から60モル%以上、90モル%以下がより好ましい。ジアミン成分(B)中の25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンの量は、50モル%以下であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から10モル%以上、40モル%以下がより好ましい。ジアミン成分(B)中の分子量が500以下である脂肪族ジアミン及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンの量は、50モル%以上であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から60モル%以上、90モル%以下がより好ましい。
【0041】
化学式(II−b)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の調製においては、以下に記載されるテトラカルボン酸成分(A)及びジアミン成分(B)を用いる。
(A)50モル%超が、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、50モル%未満が、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物であるテトラカルボン酸成分。
(B)50モル%超が、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンであり、50モル%未満が、分子量が500以下である脂肪族ジアミン及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンであるジアミン成分。
【0042】
芳香族テトラカルボン酸及び芳香族ジアミンの単独の組み合わせを除くように、化学式(II−b)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の調製においては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸成分(A)及び分子量が500以下である脂肪族ジアミン及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンを含むジアミン成分(B)の少なくとも一方を用いる。
【0043】
テトラカルボン酸成分(A)中のフッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物の量は、50モル%を超えていれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から50モル%超、80モル%以下がより好ましい。テトラカルボン酸成分(A)中の脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び/又はフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の量は、50モル%未満であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から20モル%以上、50モル%未満がより好ましい。ジアミン成分(B)中の25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンの量は、50モル%を超えていれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から60モル%以上、90モル%以下がより好ましい。ジアミン成分(B)中の分子量が500以下である脂肪族ジアミン及び/又はフッ素基を含有する芳香族ジアミンの量は、50モル%未満であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から10モル%以上、40モル%以下がより好ましい。
【0044】
化学式(II−c)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の調製においては、テトラカルボン酸成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン成分は、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンである。
【0045】
また、上記化学式(III)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸も好ましい。
【0046】
化学式(III)のAは、好ましくは10〜100モル%が上記化学式(III−2)で示される4価の基である。化学式(III)のAは、好ましくは90〜0モル%が上記化学式(III−3)及び/又は上記化学式(III−4)で示される4価の基である。
【0047】
化学式(III)のBは、好ましくは下記化学式(III−5)、下記化学式(III−6)、下記化学式(III−7)、及び下記化学式(III−8)からなる群から選択される。
【0048】
【化11】
ただし、前記化学式(III−7)において、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルホキシル基、スルホン基、1,1’−エチリデン基、1,2−エチリデン基、2,2’−イソプロピリデン基、2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニレン基、1,3−フェニレンジメチレン基、1,4−フェニレンジメチレン基、1,3−フェニレンジエチリデン基、1,4−フェニレンジエチリデン基、1,3−フェニレンジプロピリデン基、1,4−フェニレンジプロピリデン基、1,3−フェニレンジオキシ基、1,4−フェニレンジオキシ基、ビフェニレンジオキシ基、メチレンジフェノキシ基、エチリデンジフェノキシ基、プロピリデンジフェノキシ基、ヘキサフルオロプロピリデンジフェノキシ基、オキシジフェノキシ基、チオジフェノキシ基、スルホンジフェノキシ基のいずれかである。
【0049】
化学式(III)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを反応させて得られる。
【0050】
テトラカルボン酸成分は、全テトラカルボン酸成分100モル%中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは10〜90モル%、より好ましくは15〜70モル%、さらに好ましくは20〜50モル%の4,4’−オキシジフタル酸類、及び好ましくは90〜0モル%、さらに好ましくは90〜10モル%、より好ましくは85〜30モル%、より好ましくは80〜50モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類及び/又はピロメリット酸類からなる。
【0051】
ジアミン成分は、1〜4個の芳香族環を有する芳香族ジアミン類であって、具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの1個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテルなどの2個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼンなどの3個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルなどの4個の芳香族環を有する芳香族ジアミン、或いはそれらに対応する1〜4個の芳香族環を有する芳香族ジイソシアネートを好適に挙げることができる。
【0052】
また、4個の芳香族環を有する芳香族ジアミン類としては、下記化学式で表される芳香族ジアミンも好適に挙げることができる。
【0053】
【化12】
ただし、式中、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルホキシル基、スルホン基、1,1’−エチリデン基、1,2−エチリデン基、2,2’−イソプロピリデン基、2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニレン基、1,3−フェニレンジメチレン基、1,4−フェニレンジメチレン基、1,3−フェニレンジエチリデン基、1,4−フェニレンジエチリデン基、1,3−フェニレンジプロピリデン基、1,4−フェニレンジプロピリデン基、1,3−フェニレンジオキシ基、1,4−フェニレンジオキシ基、ビフェニレンジオキシ基、メチレンジフェノキシ基、エチリデンジフェノキシ基、プロピリデンジフェノキシ基、ヘキサフルオロプロピリデンジフェノキシ基、オキシジフェノキシ基、チオジフェノキシ基、スルホンジフェノキシ基のいずれかである。
【0054】
ジアミン成分は、これらの中で、特にp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル或いはこれらジアミンに対応するジイソシアネートが好適である。
【0055】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、ポリアミック酸に加えて水溶性ポリマーを含む。本発明の電極用バインダー樹脂組成物においてポリアミック酸と水溶性ポリマーを組み合わせることにより、得られる電池のサイクル特性を改善できる。
【0056】
水溶性ポリマーとしては特に限定されないが、例えば、アニオン系ポリマー、カチオン系ポリマー及び非イオン性ポリマーが挙げられ、この中でもアニオン系ポリマーが特に好ましい。アニオン系ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスルホン酸、及びこれらの塩などが挙げられる。その他にもカルボキシアルキルセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)などの水溶性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、これらの塩、及びアルギン酸塩などを用いることができる。
【0057】
電極用バインダー樹脂組成物におけるポリアミック酸及び水溶性ポリマーの含有量は、特に限定されない。ポリアミック酸及び水溶性ポリマーの合計含有量は、電極用バインダー樹脂組成物の総量に対して、好ましくは5質量%超〜45質量%、より好ましくは10質量%超〜40質量%、さらに好ましくは15質量%超〜30質量%である。固形分濃度が5質量%より低いと溶液の粘度が低くなりすぎ、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。また溶液粘度は、30℃における溶液粘度が、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、さらに好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは3〜200Pa・secである。溶液粘度が1000Pa・secを超えると、電極活物質粉末の混合や集電体上への均一な塗布が困難となり、また、0.5Pa・secよりも低いと、電極活物質粉末の混合や集電体上への塗布時にたれなどが生じ、バインダーの靭性が低くなる恐れがある。
【0058】
ポリアミック酸と水溶性ポリマーの比率は特には限定されない。電極用バインダー樹脂組成物におけるポリアミック酸と水溶性ポリマーの質量比率(ポリアミック酸:水溶性ポリマー)は、好ましくは1:99〜99:1であり、より好ましくは10:90〜90:10であり、さらに好ましくは20:80〜80:20である。ポリアミック酸と水溶性ポリマーの質量比率がこのような範囲内であれば、得られる電池がより高いサイクル特性を有する。
【0059】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は溶媒を含む。溶媒は、特に限定されないが、少なくとも一部のポリアミック酸及び/又は水溶性ポリマーを溶解するものが好ましい。電極用バインダー樹脂組成物は、スラリーであっても、溶液であってもよい。例えば、水、有機溶媒、又はこれらの混合物を電極用バインダー樹脂組成物の溶媒として用いることができる。特に、溶媒が、環境適応性が良好である水を含むことが好ましい。溶媒中、水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0060】
電極用バインダー樹脂組成物の溶媒は、公知のポリアミック酸の溶媒、公知の水溶性ポリマーの溶媒、又はこれらの混合物であってよい。
【0061】
ポリアミック酸の溶媒としては、例えば、ポリアミック酸の調製に用いられる溶媒が挙げられる。以降ポリアミック酸の調製方法を交えて、ポリアミック酸の調製に用いられる溶媒について説明する。
【0062】
ポリアミック酸、特には化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、イミダゾール類の存在下で水を溶媒として反応させることで容易に調製することができる。この場合、水以外の有機溶媒を全溶媒中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下の割合で用いてもよい。
【0063】
水とともに用いる有機溶媒としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0064】
前記イミダゾール類(化合物)としては、下記化学式(10)の化合物を好適に挙げることができる。
【0065】
【化13】
化学式(10)において、X
1〜X
4は、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基である。
【0066】
本発明で用いるイミダゾール類としては、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上、特に1g/L以上であることが好ましい。
【0067】
さらに、化学式(10)のイミダゾール類においては、X
1〜X
4が、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基であって、X
1〜X
4のうち少なくとも2個が、炭素数が1〜5のアルキル基であるイミダゾール類、すなわち置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類がより好ましい。
【0068】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類は水に対する溶解性が高いので、それらを用いることによって、ポリイミド前駆体水溶液組成物を容易に製造することができる。これらのイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール(25℃における水に対する溶解度は239g/L、以下同様)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(1000g/L)、4−エチル−2−メチルイミダゾール(1000g/L)、及び1−メチル−4−エチルイミダゾール(54g/L)などが好適である。
【0069】
なお、25℃における水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのデータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0070】
なお、用いるイミダゾール類は1種であっても、複数種の混合物であってもよい。
【0071】
本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、ポリアミック酸のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上、より好ましくは1.0倍当量以上、さらに好ましくは1.2倍当量以上である。イミダゾール類の使用量がポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量未満では、均一に溶解したポリアミック酸を得るのが容易でなくなる場合がある。また、イミダゾール類の使用量の上限は、特に限定されないが、通常は10倍当量未満、好ましくは5倍当量未満、より好ましくは3倍当量未満である。イミダゾール類の使用量が多過ぎると、非経済的になるし、且つポリアミック酸及び電極用バインダー樹脂組成物の保存安定性が悪くなることがある。
【0072】
本発明において、イミダゾール類の量を規定するポリアミック酸のカルボキシル基に対する倍当量とは、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基1個に対して何個(何分子)の割合でイミダゾール類を用いるかを表す。なお、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基の数は、原料のテトラカルボン酸成分1分子当たり2個のカルボキシル基を形成するものとして計算される。
【0073】
したがって、イミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物に対して(ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して)、好ましくは0.8倍モル以上、より好ましくは1.6倍モル以上、さらに好ましくは2.0倍モル以上、特に好ましくは2.4倍モル以上である。
【0074】
イミダゾール類は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のカルボキシル基と塩を形成して水に対する溶解性を高めるだけでなく、さらにポリイミド前駆体をイミド化(脱水閉環)してポリイミドにする際に、極めて高い触媒的な作用を有する。イミダゾール類を含む電極用バインダー樹脂組成物を用いると、例えばより低温且つ短時間の加熱処理によっても、極めて高い物性を有するバインダーを得ることが可能になる。
【0075】
前述の通り、水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、好ましくは置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることによって、ポリアミック酸を極めて簡便に製造することが可能である。
【0076】
この反応は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを略等モル用い、イミド化反応を抑制するために100℃以下、好ましくは80℃以下の比較的低温で行なわれる。限定するものではないが、通常、反応温度は25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度であることが好ましい。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量のポリイミド前駆体水溶液組成物を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気下でも行うことができるが、通常は不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。
【0077】
また、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0078】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを有機溶媒中で反応させることでも調製することができる。例えば、ジアミン成分を有機溶媒に溶解した溶液にテトラカルボン酸成分を一度に、或いは多段階で添加し、重合反応を行うことができる。反応温度は10℃〜60℃が好ましく、15℃〜55℃がさらに好ましく、15℃〜50℃が特に好ましい。反応温度が10℃より低いと反応が遅くなることから好ましくなく、60℃より高いと溶液の粘度が低くなることがあり好ましくない。反応時間は、0.5時間〜72時間の範囲が好ましく、1時間〜60時間がさらに好ましく、1.5時間〜48時間が特に好ましい。反応時間が0.5時間より短いと反応が十分進行せず、合成されたポリアミック酸溶液の粘度が不安定になることがある。一方、72時間以上の時間をかけるのは生産性の面から好ましくない。
【0079】
有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独又は2種以上混合して使用しても差し支えない。これらのうち、ポリアミック酸の溶解性、及び安全性から、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトンが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンが特に好ましい。
【0080】
有機溶媒は、ピリジン類化合物を含有することが好ましい。これにより、得られるポリイミド樹脂の電解液に対する膨潤度をより小さくし、破断伸度及び破断エネルギーをより大きくすることができる。また、電極を得るための加熱処理温度を低く抑えることができる。
【0081】
ピリジン類化合物は、化学構造中にピリジン骨格を有する化合物のことであり、例えばピリジン、3−ピリジノール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、6−tert−ブチルキノリン、アクリジン、6−キノリンカルボン酸、3,4−ルチジン、ピリダジン、などを好適に挙げることができる。これらのピリジン類化合物は、単独又は2種以上併用して使用しても差し支えない。
【0082】
ピリジン類化合物の添加量は、限定するものではないが、ポリアミック酸のアミック酸構造に対して(アミック酸構造1モル当たり)、好ましくは0.05〜2.0モル当量、より好ましくは0.1〜1.0モル当量である。添加量がこの範囲外では、電解液に対するバインダーの膨潤度をより小さくし、得られるポリイミド樹脂の破断伸度及び破断エネルギーをより大きくし、さらに電極を得るための加熱処理温度を低く抑えるというピリジン類化合物の添加効果を得ることが難しい場合がある。
【0083】
上記の様にして調製したポリアミック酸は溶液として得られる。得られたポリアミック酸溶液を電極用バインダー樹脂組成物に用いてよい。得られたポリアミック酸溶液を更に希釈し、電極用バインダー樹脂組成物に用いてもよい。また、例えば貧溶媒に投入して析出させる方法などによりポリアミック酸を単離してもよい。単離したポリアミック酸を再度溶媒と混合し、電極用バインダー樹脂組成物に用いてもよい。生産性、コストの点から、得られたポリアミック酸溶液を単離することなくそのまま使用することが好ましい。
【0084】
ポリアミック酸の種類に応じて適切な溶媒を使用することが好ましい。例えば、上記化学式(II)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の場合、溶媒は有機溶媒であっても水系溶媒(水又は水を含む溶媒)であってもよいが、環境適応性が良好な水系溶媒が好ましい。例えば、上記化学式(III)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の場合、溶媒は有機溶媒が好ましい。
【0085】
水溶性ポリマーの溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0086】
電極用バインダー樹脂組成物における溶媒の含有量は、特に限定されず、適宜調整してよい。本発明の一実施形態において、電極用バインダー樹脂組成物が、少なくとも一部(例えば、30質量%以上)のポリアミック酸及び/又は水溶性ポリマーを溶解する量で、溶媒を含むことが好ましい。特に、電極用バインダー樹脂組成物が、ポリアミック酸及び水溶性ポリマーの全量を溶解する量で、溶媒を含むことが好ましい。溶媒の含有量は、電極用バインダー樹脂組成物の総量に対して、好ましくは55質量%〜95質量%、より好ましくは60質量%〜90質量%、さらに好ましくは70質量%〜90質量%である。
【0087】
電極用バインダー樹脂組成物は、溶媒の存在下、ポリアミック酸と水溶性ポリマーとを混合することによって調製できる。ポリアミック酸溶液と水溶性ポリマー溶液を混合して電極用バインダー樹脂組成物としてよい。ポリアミック酸溶液に、単離した水溶性ポリマーを添加して電極用バインダー樹脂組成物としてもよい。水溶性ポリマー溶液に、単離したポリアミック酸を添加して電極用バインダー樹脂組成物としてもよい。
【0088】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物に、電極活物質を、限定するものではないが、好ましくは10℃〜60℃の温度範囲で混合することにより、電極合剤ペーストを好適に調製することができる。電極活物質は公知のものを好適に用いることができるが、リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、ケイ素若しくはスズの酸化物粉末、又はケイ素若しくはスズを含む合金粉末が好ましい。電極合剤ペースト中の電極活物質の量は、限定されないが、通常、ポリアミック酸及び水溶性ポリマーに起因する固形分質量に対して、0.1〜1000倍、好ましくは1〜1000倍、より好ましくは5〜1000倍、さらに好ましくは10〜1000倍である。活物質量が少なすぎると、集電体に形成された活物質層に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。また、活物質量が多すぎると活物質が集電体に十分に結着されずに脱落しやくなる。なお、電極合剤ペースト中には、必要に応じて界面活性剤や粘度調整剤や導電剤などの添加剤を加えることができる。また、ポリアミック酸及び水溶性ポリマーが電極合剤ペーストの全固形分中の1〜15質量%となるよう混合することが好ましい。この範囲では、より好適な電池性能が得られる。
【0089】
一実施形態において、電極合剤ペーストを集電体に塗布し、溶媒を除去するとともにポリアミック酸をポリイミドへと転換することにより電極を得ることができる。この電極は、ポリイミド、水溶性ポリマー、及び電極活物質を含む活物質層と、集電体とを含む。この電極を用いる電池は、初期充放電効率や容量維持率などサイクル特性に優れる。ポリアミック酸は、加熱処理或いはイミド化剤などの化学的処理によって、容易にポリイミドになる。
【0090】
加熱処理では、一般的には、電極合剤ペーストを集電体上に塗布して50℃〜180℃の範囲で乾燥後、さらに200℃〜400℃で5分〜10時間加熱することによりポリアミック酸をポリイミドへと転換できる。また、イミダゾール類やピリジン類化合物を含む場合、比較的低温(例えば120℃〜300℃、好ましくは150℃〜250℃)でポリアミック酸をポリイミドへと転換できる。
【0091】
本実施形態の一態様においては、加熱処理における加熱温度を200℃以下とすることが好ましい。加熱温度を200℃以下とすることで、集電体の劣化を抑制できる。化学式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸、特には化学式(III)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸は、この程度の低温の加熱処理によって、優れた特性を有するポリイミドへと転換できる。また、上述した通り、イミダゾール類又はピリジン類化合物の存在下では、ポリアミック酸は、この程度の低温の加熱処理によっても優れた特性を有するポリイミドへと転換できる。加熱温度は、好ましくは80℃〜200℃、好ましくは90℃〜180℃、より好ましくは100℃〜150℃である。加熱温度が80℃未満の場合、イミド化反応が十分に進行しなかったり、電極成形体の物性が低下したりすることがある。また、加熱温度が200℃を超えると集電体が劣化する恐れがある。加熱処理は発泡や粉末化を防ぐために多段で段階的に昇温させる方法で行ってもよい。
【0092】
加熱処理時間は10分〜48時間の範囲が好ましい。48時間以上は生産性の点から好ましくなく、10分よりも短いとイミド化反応や溶媒の除去が不十分となることがある。この間に、ほとんどの溶媒が除かれ、且つポリアミック酸はイミド化反応によって実質的にポリイミドになる。加熱処理は、効率よく溶媒を除くために、減圧下条件下や不活性ガス流条件下で好適に行うことができる。
【0093】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物が用いられる電極は正極であってよい。正極には、充放電により可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できる例えばリチウム含有金属複合酸化物のような電極活物質を用いることができる。調製した電極合剤ペーストを、アルミニウムなどの導電性の集電体上に流延或いは塗布する。その後、集電体及び電極合剤ペーストを加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより正極を得ることができる。
【0094】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物が用いられる電極は負極であってよい。負極には、充放電により可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できる例えば黒鉛などの炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、ケイ素若しくはスズの酸化物粉末、又はケイ素若しくはスズを含む合金粉末のような電極活物質を用いることができる。調製した電極合剤ペーストを、銅などの導電性の集電体上に流延或いは塗布する。その後、集電体及び電極合剤ペーストを加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより負極を得ることができる。
【0095】
得られた電極は、公知の方法にしたがって、好適に電池とすることができる。例えば、得られた正極及び負極を、ポリオレフィン多孔質体などのセパレータを挟み込みながら、円筒状に巻き取り、この円筒状の電極体を、円筒状のままで或いは押しつぶして扁平状にして、この電極体と非水電解液とを外装体内に挿入することによって、好適に電池を得ることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0097】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
UPIA−LB−2001:宇部興産社製ポリアミック酸ワニス(溶媒:水)
PAANa:ポリアクリル酸ナトリウム
SBR:スチレン・ブタジエンゴム
CMC:カルボキシメチルセルロース
PMDA:ピロメリット酸無水物、
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、
【0098】
〔実施例1〕
負極活物質として、容量が400mAh/gになるようにケイ素単体(Si)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA−LB−2001及びPAANa(ポリアミック酸質量:PAANa質量=20:80)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0099】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、50サイクル後の容量維持率が97%であった。また、初期充放電効率は90%であった。
【0100】
〔実施例2〕
負極活物質として、容量が400mAh/gになるようにケイ素酸化物(SiO)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA−LB−2001及びPAANa(ポリアミック酸質量:PAANa質量=20:80)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0101】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、50サイクル後の容量維持率が95%であった。また、初期充放電効率は81%であった。
【0102】
〔実施例3〕
負極活物質として、容量が600mAh/gになるようにケイ素単体(Si)、ケイ素酸化物(SiO)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA−LB−2001及びPAANa(ポリアミック酸質量:PAANa質量=20:80)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0103】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、20サイクル後の容量維持率が100%であった。また、初期充放電効率は84%であった。
【0104】
〔実施例4〕
負極活物質として、容量が800mAh/gになるようにケイ素単体(Si)、ケイ素酸化物(SiO)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA−LB−2001及びPAANa(ポリアミック酸質量:PAANa質量=20:80)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0105】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、20サイクル後の容量維持率が100%であった。また、初期充放電効率は83%であった。
【0106】
〔実施例5〕
負極活物質として、容量が400mAh/gになるようにケイ素酸化物(SiO)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてUPIA−LB−2001及びCMC(ポリアミック酸質量:CMC質量=20:80)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0107】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、20サイクル後の容量維持率が100%であった。また、初期充放電効率は82%であった。
【0108】
〔比較例1〕
窒素ガスで置換した反応容器中に、ODA及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を仕込み、60分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、PMDAを加え、さらに4時間撹拌し、電極用バインダー樹脂組成物を得た。
【0109】
この電極用バインダー樹脂組成物と、容量が400mAh/gになるようにケイ素単体(Si)及び人造黒鉛を配合した負極活物質を5:95(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0110】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、20サイクル後の容量維持率は100%と良好であったが、初期充放電効率は74%であり、非常に悪い結果であった。
【0111】
〔比較例2〕
負極活物質として、容量が400mAh/gになるようにケイ素単体(Si)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてPAANaを95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0112】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池の充放電サイクル特性を確認したところ、50サイクル後の容量維持率は90%、初期充放電効率は75%であり、いずれも非常に悪い結果であった。
【0113】
〔比較例3〕
負極活物質として、容量が400mAh/gになるようにケイ素単体(Si)及び人造黒鉛を配合した。負極活物質と電極用バインダー樹脂組成物としてSBR及びCMC(SBR質量:CMC質量=25:75)を95:5(質量%)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるように水を加え、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔上に塗布し、真空乾燥機に入れて、150℃で7時間加熱処理して、容量密度が2mAh/cm
2の電極を作製した。
【0114】
対電極にリチウム箔を用いて電池を作製し、この電池のサイクル特性を確認したところ、初期充放電効率は82%と良好であったが、50サイクル後の容量維持率は87%であり、非常に悪い結果であった。