(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉛直方向に立設する円形断面の直柱の上に、全高の上半分の少なくとも一部を含み、前記直柱の1/3以上の長さであり、円形断面が上方に向かって徐々に縮径するテーパ柱を、下端部が前記直柱と同径でかつ前記直柱と同軸で設け、
前記直柱の長さ/前記テーパ柱の長さで示される長さ比を1/3〜1/1とし、
且つ前記テーパ柱のテーパ比を1.0/100〜1.5/100とし、
前記直柱と前記テーパ柱との接合部が連続的に形成されている塔状構造物を構成し、
前記直柱の円柱面と前記テーパ柱のテーパ面とによって渦の発生を抑制することを特徴とする渦励振抑制方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる塔状構造物の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態である鉄塔(塔状構造物)10を示す側面図である。鉄塔10は頂部からのガス放散機能と電波送受信機能とを備える鉄塔であり、放散塔と無線塔とを兼ねている。
【0024】
鉄塔10は、地面GLから鉛直方向に立設する円形断面の直管(直柱)12と、直管12の上に同軸で設けられるテーパ管(テーパ柱)14と、基礎部16とを有する。テーパ管14は、円形断面が上方に向かって徐々に縮径している。基礎部16はほとんどが地面GLより下に埋設されており、低い円形台座部16aだけが地上に突出している。直管12の下端は基礎部16に支持されており、その一部は地面GLよりも下側まで入り込んでいる。実質的には、直管12は鉄塔10の全体としての下端部を含んでいる。
【0025】
直管12の長さH1は45mであり、テーパ管14の長さは44mである。鉄塔10の全体としての全高Hは、H1+H2=89mである。つまり、テーパ管14の上端が全体としての頂部であり、直管12の長さH1とテーパ管14の長さH2との長さ比R
H(=H1/H2)はほぼ1/1である。
【0026】
図2(a)に示すように、直管12とテーパ管14との接合部18は例えば溶接により接合されており、凹凸なく連続的に形成されている。または、
図2(b)に示すように、接合部18において直管12とテーパ管14とは、間にダイヤプレート(ダイヤPL)19と呼ばれる円環状の板が介在した状態で、例えば溶接より接続されている。ここで溶接ビードによる微小凹凸や、直管12およびテーパ管14からのダイヤPL19の突出量L(
図2(c)参照)は、鉄塔10の全体からみて無視できるものであり、接合部18は連続的に形成されていると言える。例えば、直管12の外径Dは3.4mであり、突出量Lは高々25mm程度である。接合部18は、仮想線で示すような接合のための補助具20がないため、直管12とテーパ管14との間の空気の流れが乱されることがない。
【0027】
図1に戻り、直管12の外径Dは高さによらず3.4mである。テーパ管14の下端部は直管12と同径で3.4mであり、上端部の外径dは2.0mである。したがって、テーパ管14のテーパ比R
Tは、R
T=(D−d)/(2×H2)=(3.4−2.0)/(2×45)≒0.01556である。ここから有効桁数を2桁とするために小数第4位以下を切り捨てると、R
T≒0.015=1.5/100である。なお、本明細書では、テーパ側の一端部の直径が他端部の直径よりも大きいとした場合のテーパ管のテーパ比R
Tを、[(テーパ管の一端部の直径)−(テーパ管の他端部の直径)]/[2×(テーパ管の長さ)]と規定する。これは、テーパ管14の側面視で、傾斜面の左右いずれか一方の輪郭線の傾斜に相当する。
【0028】
直管12およびテーパ管14の板厚は上方へ向かって数段階で薄くなるように構成されており、直管12の下端部で例えば40〜50mm程度であり、テーパ管14の上端部で例えば10〜20mm程度である。
【0029】
なお、鉄塔10を建造する場合には、まず工場で該鉄塔10を高さ方向に分割した複数の管体を製造し、該管体を鉄塔10の建造現場に運搬して接合する。したがって、工場で製造する管体は、車両に搭載可能であり、路上の運搬に支障がない寸法にするという制約がある。車両サイズ、道幅、信号機などの路上構造物などを考慮すると、管体の直径は3.5m程度が限度である。これは、全世界的にほぼ共通と考えられる。本実施形態にかかる鉄塔10では直管12の外径Dを3.5mよりも多少の余裕をみて3.4mとしており、妥当である。
【0030】
鉄塔10にはいくつかの付属物が設けられている。まず、鉄塔10の上部には3つのデッキ22a、22bおよび22cが設けられ、さらにこれらのデッキ22a〜22cには複数のアンテナ24が設けられている。アンテナ24は、例えばパラボラアンテナである。
【0031】
デッキ22aは上端から4m下に設けられ、デッキ22bは上端から9m下に設けられ、デッキ22cは上端から16m下に設けられており、それぞれ上下の円盤26に挟まれるように構成されている。デッキ22a〜22cはすべてテーパ管14に設けられている。テーパ管14は上方が細径となるテーパ形状であることから、スペース的にデッキ22a〜22cを設けることが容易である。
【0032】
図3および
図4に示すように、デッキ22aおよびデッキ22bには5基ずつのアンテナ24が設けられ、それぞれ電波の送受信先を指向している。
図5に示すように、デッキ22cには1基のアンテナ24が設けられ、電波の送受信先を指向している。アンテナ24は合計11基設けられている。
【0033】
また、図示を省略するが、鉄塔10の内部にはパイプライン内のガスを必要に応じて放散するための機器が設けられている。
【0034】
本実施の形態にかかる鉄塔10は以上のような構成である。本願発明者は鉄塔10の空力振動を調べるために、鉄塔10の縮小モデルおよびその比較モデルによる第1の風洞実験および第2の風洞実験を行った。まず、第1の風洞実験について説明する。
【0035】
図6は第1の風洞実験で用いた4つのモデルM
11〜M
14を示しており、(d)で示すモデルM
14が鉄塔10を模しており、それ以外の(a)〜(c)のモデルM
11〜M
13は比較モデルである。また、(a)のモデルM
11は従来例にかかる塔状構造物に相当し、それ以外の(b)〜(d)のモデルM
12〜M
14が本実施の形態にかかる塔状構造物に相当する。理解を容易にするために各モデルM
11〜M
14において鉄塔10に対応する部分には同符号を付す。各モデルM
11〜M
14の鉄塔10に対する幾何学的縮尺は1/100である。各モデルM
11〜M
14には図示しない動的風力天秤に取り付けられて減衰定数が調整される。後述するモデルM
21〜M
26についても同様である。
【0036】
鉄塔10を模した
図6(d)のモデルM
14から先に説明する。モデルM
14は、鉄塔10の縮小モデルであって、直管12、テーパ管14、基礎部16、デッキ22a〜22cおよび11基のアンテナ24が相似状に形成されている。幾何学的縮尺は1/100であるから、モデルM
14における全高Hは890mm、底部の外径D=34mm、地面相当部から450mm高さの接合部18からテーパがつき、頂部の外径d=20mmとなっている。減衰定数は0.3%とした。固有振動数は10.99Hzである。
【0037】
図6(c)のモデルM
13は、モデルM
14から11基のアンテナ24を取り除いたものである。減衰定数は0.3%とした。固有振動数は13.36Hzである。
図6(b)のモデルM
12は、モデルM
14から11基のアンテナ24およびデッキ22a〜22cを取り除き、直管12、テーパ管14および基礎部16だけにしたものである。減衰定数は0.2%とした。固有振動数は15.20Hzである。
図6(a)のモデルM
11は、テーパ管14がなく1本の長い直管12で構成されたものである。モデルM
11での直管12の高さは直管12の長さとテーパ管14の長さとの和に等しく890mmである。モデルM
11の減衰定数は0.2%とした。固有振動数は16.60Hzである。実際の鉄塔10における減衰定数は0.5%程度であるが、この第1の風洞実験におけるモデルM
11〜M
14では研究目的として敢えて厳しい条件である減衰定数0.2〜0.3%としている。一般的に実際の塔状構造物の設計では減衰定数を0.2〜0.3%とすることはない。
【0038】
図7は実験気流の鉛直分布を示すグラフである。
図7に示すように、実験気流はべき指数α=0.2の境界層流を模した。それぞれの風向角で、0〜15m/sの間で平均風速を徐々に上げていき実時間10分相当のデータを計測した。
図7における高さ900mmを示す太線はモデルM
11〜M
14の高さの目安である。風向角は0°である。設計風速は51.7m/sである。
【0039】
図8は第1の風洞実験における空力振動実験の結果を示すグラフであり、(a)は風方向であるX方向に関して無次元風速と変動転倒角との関係を示し、(b)はX方向に直交するY方向に関して無次元風速と変動転倒角との関係を示す。グラフG
11はモデルM
11、グラフG
12はモデルM
12、グラフG
13はモデルM
13、グラフG
14はモデルM
14による空力振動実験の結果でそれぞれの変動転倒角を示している。
図8の無次元風速30V/fB近くを示す太線は設計風速(51.7m/s)に相当する。ここで、変動転倒角とは、頂部水平変位(変動値)/全高Hである。また、後述する最大転倒角とは、頂部水平変位(最大値)/全高Hである。
【0040】
図8から分かるように、モデルM
11によるグラフG
11では、無次元風速7V/fB付近で著しい増加が認められ、一旦元の数値近くにまで減少した後に再びなだらかに増加する傾向がみられる。これに対してモデルM
12〜M
14によるグラフG
12〜G
14では、風速の増加にともなって転倒角もなだらかに増大する傾向が認められるものの、グラフG
11のような所定風速における著しい増加は認められない。また、無次元風速7V/fB以外の範囲では、グラフG
11はグラフG
12〜G
14と比較してある程度大きい値を示すものの著しい違いはない。
【0041】
この第1の風洞実験の結果から、グラフG
11が無次元風速7V/fB付近で示す著しい変化は渦励振による共振現象であると判断できる。一方グラフG
12〜G
14では実験した全ての風速範囲でこのような共振現象は認められなかった。グラフG
11(つまりモデルM
11)とグラフG
12(つまりモデルM
12)との違いは、前者が長い直管12だけで構成されているのに対して、後者は直管12とテーパ管14とから構成されていることである。したがって、直管12とテーパ管14との組み合わせ形状が渦励振に対する抑制効果があり、共振現象を発生させなかったものと考えられる。また、グラフG
12〜G
14には特筆するべき差はなく、それぞれよく似た傾向を示していることから、付属物であるデッキ22およびアンテナ24の有無についての影響はあまり大きくないと考えられる。
【0042】
この第1の風洞実験から、鉄塔10について、直管12と、該直管12の上に同軸で設けられたテーパ管14との簡便かつ廉価な構成で渦励振を抑制できることが確認された。また、複雑、高価、調整困難なTMDは、鉄塔10において渦励振を抑制のために必ずしも必要ではないことが分かった。頂部に配置されるべきTMDが不要となることから、その分だけの構造物全体の剛性を下げることができるとともに、デッキ22a〜22cおよびアンテナ24をそれだけ高い位置に配置することができ、鉄塔10は電波塔に適する。また、テーパ管14は全高Hの半分程度であることからコストを抑えることができる。テーパ管14は上半分だけで下部は直管12で構成されることから、底部面積が抑えられる。下半分は直管12で構成されていて縮径していないことからこの部分における内部空間容積が適度に広く確保され、例えばガス放出のための機器を配置するのに好適であって、鉄塔10は放散塔に適する。
【0043】
第1の風洞実験の結果については以下のように考察された。まず、上記の例ではテーパ管14の長さは鉄塔10の全高Hに対して約1/2であるが、ある程度長さ比を変えても渦励振の抑制効果はあると考えられるのが当然である。塔状構造物では上部の1/3の構造が風による振動の影響が大きいと言われており、テーパ管14の長さ比も全高Hの1/3としても十分な効果があると考えられる。テーパ管14の長さH2はこれよりも多少短くして、全高Hの1/4(つまり、R
H=H1/H2=1/3)としても相応の効果があると考えられる。また、鉄塔10ではテーパ管14の長さH2を全高Hに対して約1/2とすることにより十分な効果が得られたことから、これよりも多少長くして、全高Hの2/3としても相応の効果があると考えられる。さらに、テーパ管14の全高Hに対する長さ比は1/2を基準として、一般的な物理現象として少なくとも±10%の変化の範囲であればほとんど同様の効果があると考えられる。
【0044】
次に、上記の例ではテーパ管14のテーパ比R
TはR
T≒1.5/100であり、十分な渦励振抑制効果が認められたが、ある程度テーパ比R
Tを変えてもその効果はあると考えられるのが当然である。テーパ比R
T=0に相当する上記のモデルM
11では渦励振の抑制効果は認められない。したがって、その中間(0.75/100)よりも多少1.5/100に側に振ったR
T=1/100としても相応の効果があると考えられる。
【0045】
本願発明者は上記の第1の風洞実験の結果と考察とをふまえ、鉄塔10の特性をさらに詳細に調べるために、長さ比R
H(=H1/H2)、およびテーパ比R
Tを種々の異なる条件とした第2の風洞実験を行った。以下、その第2の風洞実験について説明する。なお、上記の第1の風洞実験も含めて風洞実験は多くの費用と時間とを要するものであるが、鉄塔10の特性をできるだけ無駄なく効率的に調べることができるように、次に示す6つのモデルM
21〜M
26に絞って第2の風洞実験を行った。
【0046】
図9は、第2の風洞実験で用いた6つのモデルM
21〜M
26を示している。各モデルM
21〜M
26は、上記のモデルM
11〜M
14と全高H(890mm)および底部の外径D(34mm)が等しくなっている。つまりモデルM
21〜M
26の鉄塔10に対する幾何学的縮尺は1/100である。一方、減衰定数は実際の鉄塔10で一般的な0.5%とした。
【0047】
図9(a)のモデルM
21は従来例にかかる塔状構造物に相当し、減衰定数以外は上記のモデルM
11と同じものである。
【0048】
図9(b)モデルM
22は、減衰定数以外が上記のモデルM
12と同じものであり、上記の通り長さ比R
H=1/1であり、テーパ比R
T≒1.5/100であり、上端部の外径d=d
α=20mmである。
図9では(b),(d),(e),(f)でd
α=20mmとしている。
【0049】
図9(c)のモデルM
23は、R
H=1/1であり、上端部の外径dは、d=d
β=27mmである。テーパ比R
Tは、R
T=≒0.0078である。ここから小数点第4位以下を切り捨てると、R
T≒0.007=0.7/100である。
【0050】
図9(d)のモデルM
24は、テーパ管14のみで直管12がなく、H2=H、H1=0のタイプである。つまり、R
H=0/1である。上端部の外径dは、d=d
α=20mmである。テーパ比R
Tは、R
T=≒0.0078である。ここから小数点第4位以下を切り捨てると、R
T≒0.007=0.7/100である。
【0051】
図9(e)のモデルM
25は、テーパ管14が比較的短く直管12が比較的長いタイプであり、R
H=3/1である。上端部の外径dは、d=d
α=20mmである。テーパ比R
Tは、R
T=≒0.0318である。ここから小数点第4位以下を切り捨てると、R
T≒0.031=3.1/100である。
【0052】
図9(f)のモデルM
26は、テーパ管14が比較的長く直管12が比較的短いタイプであり、R
H=1/3である。上端部の外径dは、d=d
α=20mmである。テーパ比R
Tは、R
T=≒0.0106である。ここから小数点第4位以下を切り捨てると、R
T≒0.010=1.0/100である。
【0053】
第2の風洞実験における各実験気流は第1の風洞実験と同じにした(
図7参照)。風向角(0°)、設計風速(51.7m/s)も第1の風洞実験と同じにした。
【0054】
図10および
図11は第2の風洞実験における空力振動実験の結果を示すグラフであり、
図10(a)は風方向であるX方向に関して無次元風速と変動転倒角との関係を示し、
図10(b)はX方向に直交するY方向に関して無次元風速と変動転倒角との関係を示す。
図10(a)、(b)は第1の風洞実験における結果を示す
図8(a)、(b)に相当している。
図11(a)は風方向であるX方向に関して無次元風速と最大転倒角との関係を示し、
図11(b)はX方向に直交するY方向に関して無次元風速と最大転倒角との関係を示す。
図10および
図11でグラフG
21はモデルM
21、グラフG
22はモデルM
22、グラフG
23はモデルM
23、グラフG
24はモデルM
24、グラフG
25はモデルM
25、グラフG
26はモデルM
26による空力振動実験の結果でそれぞれの変動転倒角または最大転倒角を示している。
【0055】
この第2の風洞実験の結果から、モデルM
21によるグラフG
21は上記のグラフG
11(
図8参照)と同様に無次元風速7V/fB付近で共振現象を発生していることが改めて確認された。ただし減衰定数の違いから、第2の風洞実験におけるグラフG
21は、第1の風洞実験におけるグラフG
21よりもピーク値が低くなっている。また、モデルM
22によるグラフG
22は上記のグラフG
12と同様に実験した全ての風速範囲で共振現象が発生していないことが改めて確認された。以下、モデルM
22を基準としてモデルM
23〜M
26について比較考察する。
【0056】
モデルM
23によるグラフG
23は
図10(b)に示す風直交方向についての変動転倒角が無次元風速7V/fB付近で0.3×10
−3程度の小さなピークを示している。これは、モデルM
22はテーパ比R
TがR
T≒1.5/100であるのに対してモデルM
23はテーパ比R
TがR
T≒0.7/100と傾斜が小さくなっている影響であり、テーパ比R
Tがさらに小さくなれば(つまりモデルM
21の形状に近づけば)ピークも増大すると考えられる。グラフG
23は
図10(b)以外については共振現象は見られない。
【0057】
モデルM
24によるグラフG
24は
図10(b)に示す風直交方向についての変動転倒角が無次元風速7V/fB付近で0.7×10
−3程度のピークを示しており、
図10(a)に示す風方向についての変動転倒角および
図11(b)に示す風直交方向についての最大転倒角についても多少のピークが認められる。これは、モデルM
22が適度な長さの直管12を備えているのに対してモデルM
24はテーパ管14だけで直管12がないためであると考えられる。
【0058】
モデルM
25によるグラフG
25は
図10(b)に示す風直交方向についての変動転倒角が無次元風速7V/fB付近で0.3×10
−3程度の小さなピークを示している。これは、モデルM
25はテーパ比R
TがR
T≒3.1/100と大きく設定されているものの、モデルM
22は長さ比R
HがR
H≒1/1であるのに対してモデルM
25は長さ比R
HがR
H≒3/1となっておりテーパ管14の相対長さが不足しているためであり、テーパ管14の相対長さがさらに小さくなれば(長さ比R
Hがさらに大きくなってモデルM
21の形状に近づけば)ピークも増大すると考えられる。
【0059】
モデルM
26によるグラフG
26は実験した全ての風速範囲で共振現象が発生していない。モデルM
22がテーパ比R
T≒1.5/100で長さ比R
H≒1/1であるのに対してモデルM
26がテーパ比R
T≒1.0/100で長さ比R
H≒1/3となっている。つまり、長さ比R
Hが1/3〜1/1であり、且つテーパ比R
Tが1.0/100〜1.5/100である範囲では共振現象は発生しないと考えられる。
【0060】
次に、
図10および
図11で示されたグラフG
21〜G
22についての評価基準について考察する。共振現象の認められないグラフG
22,G
26に基づくモデルM
22,M
26ついては実機の鉄塔10に適用可能であることは勿論である。
【0061】
一方、モデルM
21,M
23,M
24,M
25による実験結果であるグラフG
21,G
23,G
24,G
25については次の通り考察する。
【0062】
まず、鉄塔10に許容される最大風速は台風を基準に判断することが妥当である。台風は日本はもちろん全世界的にみても十分に勢力が強いものであり、台風以上の強風が発生することはほとんどあり得ないためである。
【0063】
なお、本願では「台風」は日本国気象庁で定義されているものとし、世界気象機関(WMO
)で「Typhoon」と呼ばれるものとは区別する。日本国気象庁では過去に多くの観測が蓄積されており、それに基づく分析・分類も進んでいる一方、世界気象機関による分類は荒いためである。
【0064】
日本国気象庁では、台風を4段階に区分している。すなわち風速18〜32m/sの「台風」と、風速33〜43m/sの「強い台風」と、風速44〜53m/sの「非常に強い台風」と、風速54m/s以上の「猛烈な台風」である。ここでいう風速とは10分間の平均風速である。
【0065】
「猛烈な台風」は海上で発生することはあっても陸地に上陸することはほとんどなく、鉄塔10はこの「猛烈な台風」の風速54m/sを基準にすれば十分に合理的かつ実用的であると判断される。また、これは設計風速(51.7m/s)より若干大きい程度であって、基準値として適切である。
【0066】
この風速54m/sを無次元風速にするには鉄塔10の固有振動数fと外径Dで除算すればよい。固有振動数fは、鉄塔10の固有周期Tc=2.1秒に基づき、f=1/Tc=1/2.1=0.47Hzとなる。したがって、この場合の無次元風速は、54/(0.47×3.4)=33.8となる。単位はない。この無次元風速33.8を
図10および
図11の各グラフにおいて縦線L1として示す。
【0067】
ここで考察の対象としているグラフG
21,G
23,G
24,G
25で共振現象によるピークが最も顕著に表れているのは
図10(b)である。
図10(b)における縦線L1上で、グラフG
21,G
23,G
24,G
25との交点のうち、厳しい基準で判断するため十分に低い箇所の交点P1を選択すると、交点P1の変動転倒角(σy/H)は横線L2で示すように約0.6×10
−3となる。したがって、共振現象によるピーク値がこの横線L2よりも低いグラフG
23,G
25については、対応するモデルM
23,M
25が鉄塔10に適用可能であると言える。共振現象の発生による転動角は猛烈な台風による転倒角よりも小さく抑えられるためである。
【0068】
一方、共振現象によるピーク値がこの横線L2よりも高くなっているグラフG
21,G
24については、対応するモデルM
21,M
24を鉄塔10に適用することは必ずしも適切とはいえない。共振現象の発生による転動角が猛烈な台風による転倒角を超えるためである。なお詳細な数値説明は省略するが、
図11(b)においても、グラフG
23,G
25については横線L2よりも低く、グラフG
21,G
24については横線L2よりも高くなっている。
図10(a)および
図11(a)についてはグラフG
21以外には目立ったピークがないため特段に考慮しなくてもよいであろう。
【0069】
図12は、第2の風洞実験の結果から各モデルM
21〜M
26についての適否評価をまとめた表である。
図12に示すように、モデルM
22,M
23,M
25およびM
26は適正であり(
図12では○で示す)、モデルM
21およびM
24は好適ではない(
図12では×で示す)。なお、例えばM
24についても建造場所の条件などによっては必ずしも不適でない場合もあり得る。なお、
図12におけるモデルM
21の行は長さ比R
Hを「1/0」と示しているが、これはテーパ柱12の長さが0であることを分かりやすく示したものであり、数学的な0除算でないことは勿論である。
【0070】
モデルM
23およびモデルM
26が適正であることから、長さ比R
Hが1/3〜1/1であり、且つテーパ比R
Tが0.7/100〜1.0/100である範囲は適正であると考えるのが合理的である。また、上記の通り、長さ比R
Hが1/3〜1/1であり、且つテーパ比R
Tが1.0/100〜1.5/100である範囲では共振現象が発生していない。結局、枠40で示すように、長さ比R
Hが1/3〜1/1であり、且つテーパ比R
Tが0.7/100〜1.5/100である範囲は適正であると考えられる。
【0071】
また、モデルM
22およびモデルM
25が適正であることから、二重枠42で示すように、長さ比R
Hが1/1〜3/1であり、且つテーパ比R
Tが1.5/100〜3.1/100である範囲は適正であると考えるのが合理的である。なお、例えば、長さ比R
Hが1/3でテーパ比R
Tが3.1
/100の条件でも共振現象はほぼ発生し得ないと考えられる。テーパ管14が適度に長く、その傾斜が十分に大きいためである。
【0072】
ところで、
図12に示す枠40および二重枠42の範囲内のモデルM
22,M
23,M
25,M
26(
図9参照)は鉄塔10に対する幾何学的縮尺が1/100であるが、実際には適用される鉄塔10のサイズはモデルM
22,M
23,M
25およびM
26の100倍に限られず、相似形の異なるサイズでも十分に適用可能である。これは、風洞実験で相似則の成立する縮小モデルが許容されていることから明らかである。したがって、例えば鉄塔10はモデルM
22,M
23,M
25またはM
26と相似形で全高Hを60m程度にしてもよい。また、底部の外径Dは全高Hとの比(以下、外径比R
Dという)で表せば、外径比R
D=D/H=34/890≒0.0382≒3.8/100(小数第4位以下切り捨て)とすればよい。
【0073】
さらに、モデルM
22,M
23,M
25およびM
26は底部の外径比R
Dが3.8/100となっているが、外径比R
Dは3.8/100を基準に多少増減しても問題なく、例えば径を20%減少しても、板厚を厚くして同一の重量分布とすれば回転慣性モーメントは同一となり、転倒角は上記の基準を満たすと判断できる。これは、風洞実験において同一の慣性モーメントであれば塔状構造物の振動性状は同一となるためである。
【0074】
また、外径比R
Dを増大させる場合には高強度になって振動は減少するものと考えられるが、上記のとおり外径Dは実用上3.5mに制限される。
【0075】
したがって外径Dについて、下限については相対値として外径比R
Dは3.8/100×0.8=3.04/100≒3.0/100(小数第4位以下切り捨て)となり、上限については絶対値として3.5mまでの範囲で適用可能となる。
【0076】
また、少なくとも実用的な外径比R
D≒3.8
/100の場合には、直管12の上にテーパ管14が組み合わされたモデルM
22,M
23,M
25およびM
26が適正であると言える(
図12参照)。さらに、モデルM
25によるグラフG
25は
図10(b)である程度の共振現象が認められることから、共振のピークをこの程度に抑制するためには、長さ比R
HをモデルM
25の場合の3/1よりも小さくしておくことが好ましいと言える。
【0077】
さらに、鉄塔10において渦励振抑制効果を発揮しているのはテーパ管14のテーパ面の存在であることは明らかだが、一般的に塔状構造物では上方ほど風の影響を受けやすいことから、テーパ管14は、全高Hの上半分のうちの少なくとも一部を含んでいる必要があると考えられる。これらのことを換言すれば、テーパ管14は、全高Hの上半分の少なくとも一部を含み、直柱12の1/3以上の長さ(H2≧H1÷3)であることが望ましい。
【0078】
図13は、本実施の形態の変形例にかかる鉄塔10aである。鉄塔10aにおいて上記の鉄塔10と同様の構成要素には同符号を付してその詳細な説明を省略する。鉄塔10aは下部から順に基礎部16と、直管12と、テーパ管14とを有し、テーパ管14の上にさらに頂部円管(頂部円柱)32を有する。頂部円管32は、円形断面であって下端部がテーパ管14の上端部と同径の外径dであり、テーパ管14の上に同軸で設けられている。頂部円管32とテーパ管14との接合部34は連続的に形成されている。鉄塔10aの全高Hは、直管12の長さH1とテーパ管14の長さH2と頂部円管32の長さH3との和つまり、H=H1+H2+H3となる。このような鉄塔10aはH3=0の場合には鉄塔10と同じ形状となることから、該鉄塔10を拡張した一般形式ということができる。
【0079】
一様な円形断面である頂部円管32は、例えばデッキ22a〜22cと同様の付属物を設ける部分として好適であり、またはガスの排出口として好適である。また、全高Hが上記の鉄塔10と同じあればそれだけテーパ管14の長さH2を短くすることができ、コスト上で好適である。
【0080】
鉄塔10aは、上記の鉄塔10に対して頂部円管32が付加されたものといえる。したがって鉄塔10aでは、頂部円管32の長さH3が短い範囲であれば鉄塔10と同様の渦励振抑制効果が得られると考えられるのが当然である。頂部円管32の長さH3はテーパ管14の長さH2に対して1/4以下であればテーパ管14による渦励振抑制効果をあまり妨げることがなく、相応の効果が得られると考えるのが合理的である。
【0081】
また、上記の結果から鉄塔10においては、テーパ管14の長さH2が全高Hに対して1/4〜3/4の範囲で効果があると考えられる。この場合、直管12の長さH1は全高Hに対して1/4〜3/4ということになる。このような条件による効果は、鉄塔10aにおけるH=H1+H2+H3という構成の下でも同様に得られると考えるのが合理的である。
【0082】
さらに、頂部円管32の長さH3は、テーパ管14の長さH2を基準として、一般的な物理現象として少なくとも10%以内の範囲であればほとんど同様の効果があると考えられる。このように、鉄塔10aでは、ある程度短い頂部円管32が設けられていても、鉄塔10と同様の渦励振抑制効果が得られる。
【0083】
なお、鉄塔10および鉄塔10aのような塔状構造物を用いることによって、テーパ管14のテーパ面によって渦の発生を抑制する渦励振抑制方法が実現される。
【0084】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。