特許第6648885号(P6648885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6648885めっき用治具の皮膜形成用組成物、めっき用治具及びめっき処理方法
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  • 特許6648885-めっき用治具の皮膜形成用組成物、めっき用治具及びめっき処理方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648885
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】めっき用治具の皮膜形成用組成物、めっき用治具及びめっき処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/06 20060101AFI20200203BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200203BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20200203BHJP
   C23C 18/24 20060101ALI20200203BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20200203BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C09D127/06
   C09D7/63
   C23C18/31 E
   C23C18/24
   C25D5/56 Z
   C25D17/06 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-176474(P2015-176474)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-52844(P2017-52844A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村橋 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】北 晃治
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−033971(JP,A)
【文献】 特開2006−348315(JP,A)
【文献】 特公昭46−013627(JP,B1)
【文献】 特開2016−104904(JP,A)
【文献】 特表2017−511843(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0007460(US,A1)
【文献】 特開昭49−101496(JP,A)
【文献】 特開昭61−261498(JP,A)
【文献】 特開昭53−088877(JP,A)
【文献】 特開昭54−070346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C23C 18/24
C23C 18/31
C25D 5/56
C25D 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含むめっき用治具の皮膜形成用組成物であって、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられるめっき用治具の形成に用いられ、
前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、前記可塑剤の含有量が10〜60重量部であり、前記安定剤の含有量が1〜10重量部である、皮膜形成用組成物。
【請求項2】
前記可塑剤は、フタル酸エステル及びトリメリット酸エステルから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の皮膜形成用組成物。
【請求項3】
前記安定剤は、バリウム−亜鉛系安定剤、及びカルシウム−亜鉛系安定剤から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の皮膜形成用組成物。
【請求項4】
樹脂成形体のめっき処理に用いるめっき用治具であって、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられ、
該めっき用治具の絶縁被覆部の全体又は絶縁被覆部の表面部分の少なくとも一部が塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含む塩化ビニル系樹脂皮膜によって形成されており、
前記塩化ビニル系樹脂皮膜が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、可塑剤を10〜60重量部、安定剤を1〜10重量部含む、ことを特徴とするめっき用治具。
【請求項5】
前記可塑剤は、フタル酸エステル及びトリメリット酸エステルから選択される少なくとも1種である、請求項に記載のめっき用治具。
【請求項6】
前記安定剤は、バリウム−亜鉛系安定剤、及びカルシウム−亜鉛系安定剤から選択される少なくとも1種である、請求項又はに記載のめっき用治具。
【請求項7】
被めっき物を、請求項のいずれかに記載のめっき用治具に固定し、過マンガン酸塩を含むエッチング液に浸漬するエッチング処理工程を含む、めっき処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき用治具の皮膜形成用組成物、めっき用治具及びめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体に電気めっき皮膜を形成する方法としては、脱脂及びエッチングを行った後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後必要に応じて活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が一般的に行われている。
【0003】
この場合、エッチング処理液としては、三酸化クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸混液が広く用いられている。しかしながら、クロム酸混液は、有毒な6価クロムを含むために作業環境に悪影響があり、しかも廃水を安全に処理するためには、6価クロムを3価クロムイオンに還元した後、中和沈殿させることが必要であり、廃水処理のために煩雑な処理が要求される。このため、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム酸を含まないエッチング処理液の使用が望まれる。
【0004】
クロム酸混液に替わり得るエッチング液としては、過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液が知られている。この様なエッチング液としては、過マンガン酸塩とアルカリ金属水酸化物を含むアルカリ性のエッチング液、過マンガン酸塩と無機酸を含む酸性のエッチング液等が知られている。しかしながら、過マンガン酸塩を含むエッチング液を用いる場合には、被めっき物を固定するめっき用治具に対して無電解めっきが析出し易いという問題点がある。めっき用治具に対して無電解めっきが析出し易いと、近年価格が高騰しているパラジウムの使用量が増大するという問題がある。
【0005】
従来用いられているクロム酸混液をエッチング処理液として用いる場合には、エッチング処理工程においてめっき用治具の絶縁コーティング部分に6価クロムが少量残存し、これが触媒毒となって、無電解めっき用触媒がめっき用治具の絶縁コーティング部分に残留した場合であっても、めっき用治具への無電解めっきの析出が防止される。このため、引き続いて電気めっきを行った場合にも、めっき用治具に対して電気めっきが析出することがなく、無電解めっきと電気めっきを連続して行うことが可能である。
【0006】
一方、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング処理液を用いる場合には、エッチング処理液中に触媒毒となる成分が含まれていないために、めっき用治具の絶縁コーティング部分に無電解めっき用触媒が付着すると、この部分に無電解めっきが析出する。このため、引き続き電気めっきを行う場合には、めっき用治具の交換が必要となり、処理工程が非常に煩雑になる。
【0007】
このため、めっき用治具への無電解めっきの析出を防止する対策として、通電部分を残してフッ素樹脂皮膜を形成する組成物により、フッ素樹脂コーティングを行った冶具(特許文献1参照)、めっき冶具の被めっき物が接触しない部分にフッ素樹脂等の絶縁被覆を形成する組成物により、絶縁被覆を形成した冶具(特許文献2参照)等が提案されている。しかしながら、これらの冶具は、めっき用治具のほぼ全面を高価なフッ素樹脂等でコーティングする必要があり、コストが高いために実用的ではない。
【0008】
また、めっき処理は高温環境下で行われることがあるため、上述のようなめっき用治具の絶縁コーティング部分には耐熱性が要求される。
【0009】
更に、めっき用治具を用いて被処理物を固定する際に、例えば被処理物を挟持して保持する保持部を有するめっき用治具を用いる場合がある。このような場合、被処理物を固定する際に、保持部を形成する金属等を若干曲げて、当該金属等の応力により被処理物を固定することとなる。このため、めっき用治具の絶縁コーティング部分を形成する皮膜も変形されることとなり、当該皮膜には可撓性が要求される。十分な可撓性を示さない皮膜にりよりめっき用治具に絶縁コーティング部分が形成されている場合、被処理物を固定し難く、作業性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−148692号公報
【特許文献2】特開平6−10197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、樹脂成形体のめっき処理に用いるめっき用治具を形成するための皮膜形成用組成物であって、当該皮膜形成用組成物を用いて形成された皮膜を有するめっき用治具が、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング液によるエッチング処理を行う場合であってもめっき用治具への無電解めっきの析出を抑制でき、且つ、可撓性を示し、優れた耐熱性を示す皮膜を形成することができる、新規なめっき用治具の皮膜形成用組成物を提供することである。
【0012】
本発明は、また、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング液によるエッチング処理を行う場合であってもめっき用治具への無電解めっきの析出を抑制でき、皮膜が十分な耐熱性を示し、且つ、可撓性を示すので、被処理物の固定がし易く、作業性に優れためっき用治具を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、また、めっき処理の際にめっき用治具の交換を必要とせず、効率に優れためっき処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含むめっき用治具の皮膜形成用組成物であって、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、上記可塑剤の含有量が10〜60重量部であり、上記安定剤の含有量が1〜10重量部である皮膜形成用組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記の皮膜形成用組成物に関する。
1.塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含むめっき用治具の皮膜形成用組成物であって、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、前記可塑剤の含有量が10〜60重量部であり、前記安定剤の含有量が1〜10重量部である、皮膜形成用組成物。
2.前記可塑剤は、フタル酸エステル及びトリメリット酸エステルから選択される少なくとも1種である、項1に記載の皮膜形成用組成物。
3.前記安定剤は、バリウム−亜鉛系安定剤、及びカルシウム−亜鉛系安定剤から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の皮膜形成用組成物。
4.過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられるめっき用治具の形成に用いられる、項1〜3のいずれかに記載の皮膜形成用組成物。
5.樹脂成形体のめっき処理に用いるめっき用治具であって、該めっき用治具の絶縁被覆部の全体又は絶縁被覆部の表面部分の少なくとも一部が塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含む塩化ビニル系樹脂皮膜によって形成されており、
前記塩化ビニル系樹脂皮膜が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、可塑剤を10〜60重量部、安定剤を1〜10重量部含む、ことを特徴とするめっき用治具。
6.前記可塑剤は、フタル酸エステル及びトリメリット酸エステルから選択される少なくとも1種である、項5に記載のめっき用治具。
7.前記安定剤は、バリウム−亜鉛系安定剤、及びカルシウム−亜鉛系安定剤から選択される少なくとも1種である、項5又は6に記載のめっき用治具。
8.過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられる、項5〜7のいずれかに記載のめっき用治具。
9.被めっき物を、項5〜9のいずれかに記載のめっき用治具に固定し、過マンガン酸塩を含むエッチング液に浸漬するエッチング処理工程を含む、めっき処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のめっき用治具の皮膜形成用組成物によれば、当該皮膜形成用組成物を用いて形成された皮膜を有するめっき用治具が、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング液によるエッチング処理を行う場合であってもめっき用治具への無電解めっきの析出を抑制でき、且つ、可撓性を示し、優れた耐熱性を示す皮膜を形成することができる。
【0017】
また、本発明のめっき用治具は、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング液によるエッチング処理を行う場合であってもめっき用治具への無電解めっきの析出を抑制でき、皮膜が十分な耐熱性を示し、且つ、可撓性を示すので、被処理物の固定がし易く、作業性に優れている。
【0018】
更に、本発明のめっき処理方法は、めっき処理の際にめっき用治具の交換を必要とせず、めっき処理の効率に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のめっき用治具を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
1.皮膜形成用組成物
本発明の皮膜形成用組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含むめっき用治具の皮膜形成用組成物であって、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、上記可塑剤の含有量が10〜60重量部であり、上記安定剤の含有量が1〜10重量部である。
【0022】
塩化ビニル系樹脂としては特に限定されず、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する共重合モノマーとの共重合体等が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する共重合モノマーとしては特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類等が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上が併用されてもよい。
【0024】
本発明の皮膜形成用組成物中の塩化ビニル系樹脂の含有量は、皮膜形成用組成物を100重量%として、40〜80重量%が好ましく、50〜70重量%がより好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の皮膜形成用組成物を用いて形成された塩化ビニル系樹脂皮膜を有するめっき用治具への無電解めっきの析出をより抑制でき、且つ、塩化ビニル系樹脂皮膜が、より優れた可撓性及び耐熱性を示すことができる。
【0025】
本発明の皮膜形成用組成物において、可塑剤はゾル化剤として作用する。好ましい可塑剤としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジ−n− オクチルフタレート(n−DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル;トリメリット酸エステル;リン酸トリクレジル(TCP);ジオクチルアジペート(DOA);ジ−2−エチルヘキシルセバケート(DOS);2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート;ポリエステル可塑剤;エポキシ可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルが好ましい。これらの可塑剤は、単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0026】
可塑剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、10〜60重量部である。可塑剤の含有量が10重量部未満であると、めっき用治具の絶縁被覆部を形成する塩化ビニル系樹脂皮膜の可撓性が十分でなく、作業性に劣り、また、可塑化が不十分で均一な塗膜が得られない。可塑剤の含有量が60重量部を超えると、めっき用治具の塩化ビニル系樹脂皮膜の耐熱性が劣り、めっき用治具への無電解めっきの析出を十分に抑制できない。上記可塑剤の含有量は、20〜60重量部が好ましく、30〜50重量部がより好ましい。
【0027】
本発明の皮膜形成用組成物は、安定剤を含む。安定剤を含むことにより、皮膜形成用組成物中で塩化ビニル系樹脂及び可塑剤が均一に分散し、且つ、紫外線や熱による塩化ビニル系樹脂の分解を抑制することができる。安定剤としては、有機錫系化合物類(例えば、ジブチル錫のラウレート、マレエート、メルタプタイド等)、金属石鹸類(例えば、鉛、カドミウム、バリウム、亜鉛、カルシウムのステアレート、ラウレート、ナフテネート、2−エチルヘキソエート等)、鉛塩類(例えば、塩基性炭酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、ケイ酸鉛等)が挙げられる。これらの中でも、金属石鹸類が好ましく、有機酸金属塩がより好ましく、バリウム−亜鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤等の有機酸複合金属塩が更に好ましい。これらの安定剤は単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0028】
安定剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、1〜10重量部である。可塑剤の含有量が1重量部未満であると、皮膜形成用組成物の安定性が不十分となり均一な皮膜が得られず、めっき用治具の塩化ビニル系樹脂皮膜の耐熱性が劣り、可撓性が十分でないため作業性に劣り、めっき用治具への無電解めっきの析出を十分に抑制できない。上記安定剤の含有量は、3〜10重量部が好ましく、3〜5重量部がより好ましい。
【0029】
本発明の皮膜形成用組成物は、上記塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤の他に、更に溶剤を含んでいてもよい。このような溶剤としては、上記塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を分散させることができれば特に限定されず、従来公知の有機溶剤を用いることができる。上記溶剤としては、例えば、ソルベントナフサ、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、テルペン系溶剤等が挙げられる。
【0030】
溶剤の含有量は特に限定されず、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して5〜20重量部が好ましく、5〜10重量部がより好ましい。
【0031】
本発明の皮膜形成用組成物は、他の添加剤を含んでいてもよい。上記他の添加剤としては、顔料、顔料分散剤、消泡剤等が挙げられる。
【0032】
上記顔料としては特に限定されず、従来公知の顔料を用いることができる。上記顔料としては、例えば、カーボンブラック(ブラック)、銅フタロシアニン(シアン)、ジメチルキナクリドン(マゼンタ)、ピグメント・イエロー(イエロー)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ニッケル化合物等の無機顔料が挙げられる。
【0033】
顔料の含有量は特に限定されず、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して5〜30重量部が好ましく、10〜20重量部がより好ましい。
【0034】
上記顔料分散剤としては特に限定されず、従来公知の顔料分散剤を用いることができる。上記顔料分散剤としては、例えば、アニオン化合物、ノニオン化合物、高分子化合物等が挙げられる。
【0035】
上記消泡剤としては特に限定されず、従来公知の消泡剤を用いることができる。上記消泡剤としては、例えば、アクリル系消泡剤、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の皮膜形成用組成物は、めっき用治具の形成に用いられる皮膜形成用組成物である。本発明の皮膜形成用組成物は、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられるめっき用治具の形成に用いられることが好ましい。一般に、クロム酸混液の代替えとして過マンガン酸塩を含むエッチング液を用いた場合には、被めっき物を固定するめっき用治具に対して無電解めっきが析出し易いという問題があるところ、本発明の皮膜形成用組成物を用いて形成しためっき用治具を、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いると、めっき用治具への無電解めっきの析出を抑制することができる。
【0037】
2.めっき用治具
本発明のめっき用治具は、樹脂成形体のめっき処理に用いられ、該めっき用治具の絶縁被覆部の全体又は絶縁被覆部の表面部分の少なくとも一部が塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含む塩化ビニル系樹脂皮膜によって形成されており、上記塩化ビニル系樹脂皮膜が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、可塑剤を10〜60重量部、安定剤を1〜10重量部含む。
【0038】
この様な構成のめっき用治具は、樹脂成形体を被めっき物とする場合に有効に使用できるものであり、無電解めっき工程において、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を含む塩化ビニル系樹脂皮膜への無電解めっきの析出を抑制できる。その結果、無電解めっき処理後に電気めっきを行う場合であっても、治具を交換することなく、連続してめっき処理を行うことが可能である。
【0039】
図1は、本発明のめっき用治具を模式的に示す図面である。図1において、1は治具本体、2は被めっき物との接触部、3は絶縁被覆部、4は給電部である。
【0040】
図1に示すめっき用治具1では、被めっき物は、接触部2において治具に固定され、この部分から通電される。接触部2の形状は、被めっき物の形状に応じて適宜決めることができ、被めっき物を安定に固定でき、且つ被めっき物に対する通電を確保できる形状であればよい。該接触部2は、被めっき物に対する通電を可能にするように導電性材料が露出した状態である。導電性材料は、本発明のめっき用治具の骨格を形成するものであり、例えば、ステンレス、銅、チタン等を使用できる。
【0041】
絶縁被覆部3は、治具1の表面において、めっき液中に浸漬される部分に形成される。これにより、電気めっき処理を行う際に、治具の腐食を防止すると共に、治具へのめっきの析出を抑制できる。
【0042】
本発明のめっき用治具は、絶縁被覆部3の全体又は絶縁被覆部3の表面部分の少なくとも一部が塩化ビニル樹脂、可塑剤及び安定剤を含む塩化ビニル樹脂系皮膜によって形成されている。本発明のめっき用治具は、樹脂成形体に対してめっき皮膜を形成する際に使用されるものであり、樹脂成形体へのめっき工程では、被めっき物である樹脂成形体の表面に無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっき皮膜を形成して樹脂成形体表面に導電性を付与した後、電気めっき処理が行われる。本発明のめっき用治具を用いる場合には、上記ポリ塩化ビニル系樹脂皮膜を形成した部分については、無電解めっきの析出をほぼ完全に抑制することができる。このため、無電解めっきに引き続いて電気めっき処理を行う場合に、塩化ビニル樹脂系皮膜部分が絶縁部分となって、治具表面の全体に電気めっきが析出することを防止できる。
【0043】
ポリ塩化ビニル系樹脂皮膜は、めっき用治具1の絶縁被覆部3の全体に形成してもよく、絶縁被覆部3の表面の一部に形成してもよい。但し、各接触部2と給電部4との間には、少なくとも一カ所、ポリ塩化ビニル系樹脂皮膜が存在することが必要である。
【0044】
上記塩化ビニル系樹脂皮膜に含まれる塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤は、上述の皮膜形成用組成物において説明したものと同一のものを用いることができる。また、上記塩化ビニル系樹脂皮膜は、上記塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤以外の他の添加剤を含んでいてもよく、当該他の添加剤としては、上述の皮膜形成用組成物において説明したものと同一のものを用いることができる。更に、それらの含有量も、上述の皮膜形成用組成物において説明した含有量と同一である。
【0045】
本発明のめっき用治具は、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いられることが好ましい。一般に、クロム酸混液の代替えとして過マンガン酸塩を含むエッチング液を用いた場合には、被めっき物を固定するめっき用治具に対して無電解めっきが析出し易いという問題があるところ、本発明のめっき用治具を、過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程を含むめっき処理方法で用いると、めっき用治具への無電解めっきの析出を抑制することができる。
【0046】
塩化ビニル樹脂系皮膜の形成方法については、特に限定はなく、使用する塩化ビニル系樹脂の種類に応じて公知の方法で皮膜を形成すればよい。皮膜の形成方法としては、例えば、上記皮膜形成用組成物を用いて浸漬法、塗布法、スプレー法などを適宜適用でき、必要に応じて、加硫、焼き付け等の処理を行えばよい。これらの処理条件については、使用する樹脂の種類に応じて、めっき液中において十分な耐久性を有する皮膜を形成できるように適宜決定すればよい。
【0047】
上記焼き付けにより処理を行い塩化ビニル樹脂系皮膜を形成する場合、焼き付け温度は、180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましい。上記焼き付け温度の下限を上述の温度とすることにより、めっき用治具が過マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理工程に用いられる場合であっても、塩化ビニル系樹脂皮膜がより優れた耐久性を示すことができる。また、上記焼き付け温度は、220℃以下が好ましく、210℃以下がより好ましい。上記焼き付け温度の上限を上述の温度とすることにより、形成される塩化ビニル樹脂系皮膜の可撓性の低下が抑制され、且つ、焼き付けの際の塩素ガスの発生が抑制される。
【0048】
形成される塩化ビニル樹脂系皮膜の厚さについては特に限定的ではなく、十分な絶縁性を確保でき、且つめっき処理工程において破損が生じない程度の厚さとすればよい。通常、0.1mm程度以上とすればよく、0.1〜20mm程度とすることが好ましい。
【0049】
本発明のめっき用治具は、樹脂成形体のめっき処理に使用するものである。樹脂成形体を形成する樹脂の種類については、特に限定的ではなく、特に、従来から無電解めっき処理が行われている各種の樹脂からなる成形体を被めっき物とすることができる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン−プロピレンゴム成分に置き換わった樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS),ポリスチレン樹脂(PS)等のスチレン系樹脂を処理対象物とすることができる。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30〜70重量%程度のアロイ樹脂)等も使用できる。更に、ポリアクリロニトリル樹脂(PAN)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、耐熱性、物性に優れたノニル、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂なども同様に使用可能である。樹脂成形体の形状、大きさなどについては特に限定はない。
【0050】
3.めっき処理方法
本発明のめっき用治具を用いる場合のめっき処理方法については特に限定はなく、無電解めっき処理と電気めっき処理を行う工程を含むめっき処理方法において、有効に用いることができる。中でも、被めっき物を、本発明のめっき用治具に固定し、過マンガン酸塩を含むエッチング液に浸漬するエッチング処理工程を含むめっき処理方法であることが好ましい。このようなめっき処理方法も、本発明の一つである。このようなめっき処理方法に本発明のめっき用治具を用いることにより、過マンガン酸塩を有効成分とするエッチング液によるエッチング処理を行う場合であってもめっき用治具への無電解めっきの析出を抑制でき、皮膜が十分な耐熱性を示し、且つ、可撓性を示すので、被処理物の固定がし易く、作業性に優れるとの効果が顕著となる。
【0051】
上記めっき処理方法は、通常、エッチング処理、触媒付与処理、無電解めっき処理、及び電気めっき処理の各工程を含むものであり、必要に応じて、中和処理、コンディショニング処理等が行われる。以下、各処理工程について簡単に説明するが、本発明のめっき用治具は、下記の処理工程での使用に限定されるものではない。
【0052】
(1)エッチング処理
エッチング処理としては、樹脂成形体に対するエッチング処理方法として公知の方法を適用できる。
特に、本発明のめっき用治具は、過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング処理液を用いるエッチング処理工程を含むめっき処理方法において有効に用いることができる。過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング処理液は、有害な6価クロムを含んでおらず、安全性が高い処理液であるが、無電解めっきに対する触媒毒となる成分を含まないために、めっき用治具の絶縁被覆部に無電解めっきが析出しやすいという問題点がある。本発明のめっき用治具を用いる場合には、過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング処理液を用いてエッチング処理を行う場合であっても、治具表面への無電解めっきの析出をほぼ完全に抑制できる。その結果、安全性の高い過マンガン酸塩を含むエッチング処理液を用いるめっき処理工程において、治具を交換することなく、無電解めっきと電気めっきを連続して行うことが可能となる。しかも、治具表面に形成される塩化ビニル樹脂と可塑剤と安定剤を特定の配合量で含む塩化ビニル系樹脂皮膜は、過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング処理液によって殆ど侵されることがなく、長期間安定に利用できる。
【0053】
過マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液としては、過マンガン酸塩とアルカリ金属水酸化物を有効成分として含むアルカリ性のエッチング液、過マンガン酸塩と無機酸を有効成分として含む酸性のエッチング液等が知られており、これらのエッチング液をいずれも用いることができる。
【0054】
例えば、アルカリ性エッチング液としては、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩を40〜70g/L程度と水酸化ナトリウムを10〜30g/L程度含む水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0055】
また、酸性エッチング液としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩を0.1〜50g/L程度と硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸等の無機酸またはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等の炭素数1〜5程度の脂肪族スルホン酸;トルエンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸などの有機スルホン酸を100〜1200g/L程度含む水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。これらの無機酸または有機スルホン酸は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。
【0056】
上記したエッチング液を用いてエッチング処理を行うには、処理対象物である樹脂成形体の被処理面を該エッチング液に接触させればよい。具体的な方法については、特に限定はなく、被処理面の表面を該エッチング液に充分接触させることができる方法であればよい。例えば、該エッチング液を被処理物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、該エッチング液中に被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0057】
エッチング処理条件については、特に限定的ではなく、目的とするエッチング処理の程度に応じて適宣決めればよい。例えば、エッチング液中に被処理物を浸漬してエッチング処理を行う場合には、エッチング液の液温を30℃〜70℃程度とし、浸漬時間を3〜30分程度とすればよい。
【0058】
尚、被処理物である樹脂成形体の表面の汚れがひどい場合には、エッチング処理に先立って、常法に従って脱脂処理を行えばよい。
【0059】
(2)中和処理及びコンディショニング
エッチング処理を行った後、必要に応じて、中和処理を行うことができる。この処理によって、エッチング処理後に残存する成分を除去でき、触媒液中への不要な成分の持ち込みを抑制できる。
【0060】
中和処理に用いる処理液としては、還元性化合物等を用いることができるが、更に、無機酸等が含まれていてもよい。中和処理の方法については特に限定はなく、常法に従えばよい。
【0061】
コンディショニング処理についても常法に従えばよい。コンディショニング処理を行うことによって、触媒付着量を増加させることが可能である。
【0062】
(3)触媒付与工程
無電解めっき用触媒の付与方法については、特に限定はなく、パラジウム、銀、ルテニウム等の無電解めっき用触媒を公知の方法に従って付与すればよい。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、いわゆる、キャタリスト−アクセレーター法、センシタイザー−アクチベーティング法、アルカリキャタリスト法などの公知の方法を採用することができる。
【0063】
(4)無電解めっき工程
上記した方法で触媒を付与した後、無電解めっきを行うことによって、樹脂成形体の表面に、無電解めっき皮膜を形成する。本発明のめっき用治具を用いる場合には、治具表面に形成されたポリ塩化ビニル樹脂系皮膜上には無電解めっき皮膜が殆ど析出することがない。このため、治具を交換することなく、引き続き電気めっきを行うことができる。
【0064】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。この無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0065】
無電解めっきの条件についても、公知の方法と同様にすれば良い。また、必要に応じて、無電解めっき皮膜を二層以上形成しても良い。
【0066】
(5)電気めっき工程
無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行う。本発明のめっき用治具を用いることにより、塩化ビニル系樹脂皮膜をコーティングした部分への無電解めっきの析出を抑制できるので、無電解めっき後、治具を交換することなく、連続して電気めっき処理を行うことができる。
【0067】
電気めっき液の種類についても特に限定はなく、公知の電気めっきから目的に応じて適宣選択すればよい。
【実施例】
【0068】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0069】
(めっき用治具の皮膜形成用組成物の調製)
下記の原料を用いて、表2及び3に示す配合により各成分を混合し、実施例及び比較例の皮膜形成用組成物を調製した。
・ポリ塩化ビニル樹脂粉末:新第一塩ビ(株)製ZEST2000Z(平均重合度2000、平均粒子径125μm)
・可塑剤A:フタル酸ジイソノニル(DINP)
・可塑剤B:DIC(株)製W-750(トリメリット酸系可塑剤)
・安定剤:日辰貿易(株)製グレックMP-655
・顔料:三菱化学(株)製カーボンブラック#45(粒子径:24nm)
・溶剤:ソルベントナフサ
【0070】
(めっき用治具の作製)
直径3mmのステンレス線を導電性材料として、図1に示す形状のめっき用治具を作製した。該めっき用治具は、ステンレス線を所定の形状に加工し、その上に表2及び3に示す配合割合で調製した皮膜形成用組成物を塗装し、180℃、10分の条件で焼き付けることにより作製した。
【0071】
上記実施例及び比較例で調製された皮膜形成用組成物を用いて作製されためっき用治具について、下記評価を行った。
【0072】
耐熱性試験
実施例及び比較例で作製されためっき用冶具に、200℃、10分条件で熱処理を行った。上記した熱処理後の皮膜を目視で観察し、皮膜の色が変化していない場合を○、一部着色した場合を△、全体が着色した場合を×として評価した。結果を表2及び3に示す。
【0073】
作業性試験
実施例及び比較例で作製されためっき用冶具に、被めっき物として ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:サイコラック3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm)を固定する際の作業のしやすさを試験した。
評価は、比較例1で作製されためっき用治具を基準として行い、比較例1で作製されためっき治具と比較して、被めっき物の固定し易さが同等以上であれば○、固定し難ければ×として評価した。結果を表2及び3に示す。
【0074】
上記実施例及び比較例で調製された皮膜形成用組成物を用いて作製されためっき用治具を用い、下記評価を行った。
【0075】
めっき試験
被めっき物として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:サイコラック3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm)を用い、上記しためっき用冶具に被めっき物を固定して、下記表1に記載されている処理工程に従って無電解銅めっき(奥野製薬工業(株)製 CRPセレクター)および電気銅めっきを行った。尚、各工程の間には、水洗を行った。
【0076】
【表1】
【0077】
上記した処理工程に従って最大5分間の電気銅めっきを行い、各めっき用冶具の絶縁被覆部における電気銅めっきの析出性、及び、被めっき物における電気銅めっき皮膜の析出性を目視で観察した。絶縁被覆部における電気銅めっきの析出性は、電気銅めっきが全く析出しない場合を○、一部析出した場合を△、全面析出した場合を×として評価した。また、被めっき物における電気銅めっき皮膜の析出性は、全面に均一な銅めっき皮膜が形成されている場合を○として評価した。結果を表2及び3に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
以上の結果から明らかなように、めっき用治具の絶縁被覆部の表面が、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及び安定剤を特定の配合量で含むめっき用治具の皮膜形成用組成物により形成された皮膜に被覆されためっき用治具を用いた実施例1〜5では、無電解めっき後に引き続き電気めっきを行った場合であっても、めっき用治具への無電解めっきの析出を抑制できており、めっき用治具を交換することなく、無電解めっきと電気めっきを連続して行うことが可能となり、めっき処理が大きく効率化されることが分かった。
【0081】
これに対して、可塑剤の含有量が多い皮膜形成用組成物により形成された皮膜に被覆されためっき用治具を用いた比較例1では、耐熱性に劣り、且つ、無電解めっき後に引き続いて電気めっきを行うと、めっき用治具の絶縁被覆部に電気めっきが析出することが分かった。
【0082】
また、可塑剤を含有しない皮膜形成用組成物により形成された皮膜に被覆されためっき用治具を用いた比較例2では、皮膜が十分な可撓性を示さず、作業性に劣ることが分かった。
【0083】
更に、可塑剤及び安定剤を含有しない皮膜形成用組成物により形成された皮膜に被覆されためっき用治具を用いた比較例3では、耐熱性、作業性に劣り、且つ、無電解めっき後に引き続いて電気めっきを行うと、めっき用治具の絶縁被覆部に電気めっきが析出することが分かった。
【符号の説明】
【0084】
1.治具本体
2.被めっき物との接触部
3.絶縁被覆部
4.給電部
図1