特許第6648901号(P6648901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648901
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】遅波回路
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/24 20060101AFI20200203BHJP
   H01J 25/38 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01J23/24
   H01J25/38
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-504560(P2018-504560)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2017009283
(87)【国際公開番号】WO2017154987
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-47258(P2016-47258)
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省、「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発−300GHz帯増幅器技術−」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(74)【代理人】
【識別番号】100119415
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 充
(74)【代理人】
【識別番号】100168310
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼橋 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 隆
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−161794(JP,A)
【文献】 LI Ke, et al.,"Dispersion Characteristics of Two-Beam Folded Waveguide for Terahertz Radiation",IEEE Transactions on Electron Devices,2013年12月,Volume 60, No. 12,Page 4252-4257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/24−23/30
H01J 25/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳み導波管と、
前記折り畳み導波管の幅方向における中央と端部の間に配置されたビームホールと、
を備え
電磁波は前記折り畳み導波管に導波され、かつ、電子ビームは前記ビームホールに導波されることで、前記電磁波を増幅する進行波管として動作するように構成され、
前記折り畳み導波管の幅方向は、前記ビームホールにおいて前記電子ビームが導波する方向に対して直角であり、かつ、前記折り畳み導波路において前記電磁波が導波する方向に対して直角であり、
前記折り畳み導波管の幅方向における中央に他のビームホールを有さない、遅波回路。
【請求項2】
前記ビームホールは、前記折り畳み導波管の幅方向における端部であって、前記折り畳み導波管からはみ出さない位置に配置される、請求項1に記載の遅波回路。
【請求項3】
前記ビームホールは、前記折り畳み導波管の幅方向における端部から所定の距離、離れた位置に配置される、請求項1又は2に記載の遅波回路。
【請求項4】
前記ビームホールは1つである、請求項1乃至3のいずれか一に記載の遅波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願についての記載)
本発明は、日本国特許出願:特願2016−047258号(2016年3月10日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、遅波回路に関する。特に、進行波管の遅波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波(マイクロ波)の送信源用増幅器として、進行波管が使用されることが多い。進行波管は、送信用の高周波(電磁波)を、増幅エネルギー源となる電子ビームと同一方向に進行させながら相互作用させることにより増幅する手段である。当該進行波管における増幅動作の際、高周波と電子ビームの進行方向の速度を同程度とするために速度の速い高周波を迂回させる必要がある。つまり、高周波を遅波する遅波回路が必要となる。
【0003】
高周波を遅波する(高周波を迂回させる)方法として、例えば、らせん状の導波路に高周波を伝搬させて、当該導波路の中央に電子ビームを通す方法が存在する(特許文献1参照)。このような高周波を迂回させるらせん状の導波路部分は、ヘリックス形遅波回路とよばれる。
【0004】
一方、現在、無線周波数の高周波化に対する強い要望がある。具体的には、テラヘルツ領域の無線装置の研究開発が進められている。マイクロ波からテラヘルツ波に高周波化が進むと、波長が小さくなるため(波長が短くなるため)、上記ヘリックス型遅波回路における「らせん状配線」も微細化されることとなり、当該回路の製造が困難となる。
【0005】
そこで、上記のような高周波帯域(例えば、テラヘルツ領域)においては、微細構造の実現が比較的容易な「折り畳み導波管」形状が有望視され、研究開発が進められている。当該折り畳み導波管では、高周波(電磁波)をミアンダライン状に曲がった導波管を通過させ遅波する。また、当該進行波管(導波管)は、その中央を電子ビームが進行する(電子ビームが貫く)ためのビームホールを備えた構成を有している。
【0006】
具体的には、折り畳み導波管は図8に示すような構造を有し、折り畳み導波管20の中央をビームホール10が貫く構成となっている。なお、折り畳み導波管を備えた進行波管の構成や後述するストップバンドの詳細は非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2010−519695号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Khanh T. Nguyen, etc、“Design Methodology and Experimental Verification of Serpentine/Folded-Waveguide TWTs”、IEEE Trans. on E.D.、Vol. 61、No. 6、JUNE 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
なお、上記先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。以下の分析は、本発明者らによってなされたものである。
【0010】
折り畳み導波管においても、無線周波数の高周波化に伴って構造の微細化(ミアンダライン状に曲がった導波管のサイズの縮小)が進められている。しかし、ビームホールに関しては、所定の電子ビームを通す必要があるため、導波路と比較して縮小が困難であり、導波管の全体構成に対するビームホールの比率が大きくなっていく。ビームホールの比率が大きくなるに従って、位相速度の周波数偏差が増加したり、ストップバンドが出現したりして、進行波管の帯域を広く確保することが困難となる。
【0011】
図9は、図8に示す構成において、光速cで規格化された位相速度Vp(Vp/c;Vpは位相速度、cは光速)の周波数特性を示す図である。図9では、ビームホールの有無による位相速度Vpの周波数特性の相違を示す。また、以降の説明において、単に位相速度Vp/cと表記した場合は、光速cで規格化された位相速度Vpを示すものとする。
【0012】
図9を参照すると、ビームホールが存在しない場合、300GHz付近では位相速度Vp/cの傾きが小さいが、ビームホールが存在する場合では、傾きが大きくなっていることが分かる。また、330GHz付近からストップバンドが出現していることも分かる。即ち、図9の例は、無線周波数が300GHz程度であり、且つ、導波路に対するビームホールが占める比率が上昇すると、Vp/c−f(f:周波数)の傾きが大きくなり、ストップバンドが現れることを示す。
【0013】
進行波管では、電子ビームの速度と高周波(電磁波)の位相速度Vpが同程度のとき相互作用が強くなり、高い増幅利得(ゲイン)が得られる。換言するならば、電子ビームの速度は一定なので、Vp/c−fの傾きが大きいと、両者の速度が同程度となる領域が減少し、ゲインの得られる帯域が減少してしまうことになる。
【0014】
本発明は、折り畳み導波管における広範囲な帯域を確保することに寄与する遅波回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一視点によれば、折り畳み導波管と、前記折り畳み導波管の幅方向における中央と端部の間に配置されたビームホールと、を備える、遅波回路が提供される。
前記一視点の変形として、折り畳み導波管と、前記折り畳み導波管の幅方向における中央と端部の間に配置されたビームホールと、を備え、電磁波は前記折り畳み導波管に導波され、かつ、電子ビームは前記ビームホールに導波されることで、前記電磁波を増幅する進行波管として動作するように構成され、前記折り畳み導波管の幅方向は、前記ビームホールにおいて前記電子ビームが導波する方向に対して直角であり、かつ、前記折り畳み導波路において前記電磁波が導波する方向に対して直角であり、前記折り畳み導波管の幅方向における中央に他のビームホールを有さない、遅波回路が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、折り畳み導波管における広範囲な帯域を確保することに寄与する遅波回路が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る遅波回路の端部の一構成例を示す斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る遅波回路の全体構成の一例を示す斜視図である。
図3】遅波回路における位相速度Vp/cの変化の一例を示す図である。
図4】高周波領域における遅波回路の位相速度Vp/cの変化の一例を示す図である。
図5】ビームホールを折り畳み導波管の中央から端部に移動させた場合のストップバンドの変化の一例を示す図である。
図6】電磁波の電界分布の一例を示す図である。
図7】折り畳み導波管(進行波管)のゲイン計算の結果の一例を示す図である。
図8】折り畳み導波管の構造の一例を示す斜視図である。
図9図8に示す構成において、光速cで規格化された位相速度Vpの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
初めに、一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。
【0019】
図1に示すように、一実施形態に係る遅波回路100は、折り畳み導波管20と、折り畳み導波管20の幅方向における中央と端部の間に配置されたビームホール10と、を備える。即ち、一実施形態に係る遅波回路100は、折り畳み導波管20の形状をした進行波管において、図8に示すように導波管の中央でなく、導波管の端部に形成されたビームホール10を備える。
【0020】
詳細については後述するが、上記構成により、進行波管の位相速度の周波数特性の使用帯域での傾きがフラットに近づき、且つ、ストップバンドを低減できる。また、上記構成により、広帯域の進行波管を実現できる、又は、目的に合わせた帯域設計の自由度を高めることができる。
【0021】
以下に具体的な実施の形態について、図面を参照してさらに詳しく説明する。なお、各実施形態において同一構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図面を用いてより詳細に説明する。
【0023】
図1は、第1の実施形態に係る遅波回路100の端部の一構成例を示す斜視図である。図1を参照すると、折り畳み導波管20の幅方向における端部にビームホール10が形成されている。また、折り畳み導波管20に対する高さ方向のビームホール10の配置に関しては、折り畳み導波管20の中央にビームホール10は配置される。
【0024】
折り畳み導波管20は高周波(電磁波)の通り道であり、ビームホール10は電子ビームの通り道である。即ち、第1の実施形態において、電磁波は折り畳み導波管20に導波され、電子ビームはビームホール10に導波されることで、遅波回路100は、電磁波を増幅する進行波管として動作する。なお、第1の実施形態では、1周期分の管路長2Lは6.64mm、1周期分の長さ2Pは1.48mmとしている。
【0025】
図1に示す構造が繰り返され、第1の実施形態に係る遅波回路100が形成される。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係る遅波回路100の全体構成の一例を示す斜視図である。図2において、点線の領域(ミアンダライン形状における1周期)を抜き出した図面が図1に相当する。図2に示す遅波回路100は、図1に示す構成を73段並べることで得られる。つまり、図1に示す構造を73段並べることで、1つの折り畳み導波管の進行波管(遅波回路)が形成される。
【0027】
なお、図1及び図2は、電磁界シミュレーションの入力図であって、空間の部分だけが表記されている。実際には、図1及び図2に示す境界の周りが銅(Cu)等の導体で覆われている構造を有する。
【0028】
なお、遅波回路100の製造方法としては、図2の形状を、ビームホール10を中心として左右に2分割して形成し、貼り合わせる方法(例えば、2分割された芯となるダミー形状を形成し、それぞれに金属膜を蒸着後、貼り合わせる方法)と、一気に形成する方法(例えば、外壁の金属を順次積層していく方法や、芯となるダミー形状を先に形成し金属膜を蒸着させ、その後芯のダミー形状を取り除く方法)が考えられる。あるいは、オンチップMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や3Dプリンタの利用も考えられる。
【0029】
図3は、遅波回路100における位相速度Vp/cの変化の一例を示す図である。図3において、ビームホール10を折り畳み導波管20の幅方向に移動(中央から端部に移動)させた場合の位相速度Vp/cの変化を示す。
【0030】
図3において、波形101は、ビームホール10が折り畳み導波管20の中央に位置する場合の位相速度Vp/cを示す。波形102は、折り畳み導波管20の中央から若干左にビームホール10を移動させた場合の波形を示し、波形103は、波形102の場合よりもさらに左にビームホール10を移動させた場合の波形を示す。波形104〜106は、ビームホール10を折り畳み導波管20の端部に配置した場合の波形を示し、波形とビームホール10の位置の対応関係は図3の点線により囲まれた領域に示すとおりとする。
【0031】
図3を参照すると、ビームホール10が端部に移動するに従い、位相速度Vp/cを示す波形は傾きが小さくなり、周波数偏差が改善していくことが分かる。
【0032】
また、波形104等から分かるように、ビームホール10が折り畳み導波管20から半分以上はみ出して配置されると、上記周波数特性の傾斜は再び大きくなり、偏差が悪化していくことが分かる。但し、実際には、ビームホール10が折り畳み導波管20からはみ出して配置されると、高周波(電磁波)と電子ビームの相互作用が正常に行われなくなり、ゲインが得られない(高周波を増幅できない)。そのため、ビームホール10が折り畳み導波管20からはみ出して配置されるような構造は除外される。
【0033】
以上のことから、ビームホール10は、折り畳み導波管20の幅方向における端部、且つ、ビームホール10が折り畳み導波管20からはみ出すことのない位置に配置されるのが望ましい。上記位置にビームホール10が配置されることにより、周波数偏差が最小となり進行波管の帯域は広くなる。但し、実際には、製造マージンを考慮する必要があるため、ビームホール10は折り畳み導波管20の端部から少し内側(即ち、端部から所定の距離、離れた位置)に配置されるのが望ましい。
【0034】
図4は、高周波領域における遅波回路100の位相速度Vp/cの変化の一例を示す図である。図4において、波形201は、ビームホール10が折り畳み導波管20の中央に位置する場合の位相速度Vp/cを示すものであり、リファレンスとなる波形である(図4において波形201を点線にて図示)。波形202は、ビームホール10が折り畳み導波管20の中央寄りの左側に位置する場合の位相速度Vp/cを示す。波形203及び204は、ビームホール10が折り畳み導波管20の端部に位置する場合の位相速度Vp/cを示す。
【0035】
なお、波形203は、導波管の幅を狭くしてカットオフ周波数を調整した後の波形である。カットオフ周波数を調整する理由は、ビームホール10を折り畳み導波管20の端部に移動させていくと、カットオフ周波数の低下が認められるので、導波管の幅を狭くし当該カットオフ周波数の低下を抑制するためである。
【0036】
図4を参照すると、ビームホール10を折り畳み導波管20の端部に移動させていくと、300GHz付近の傾きが改善すると共に、リファレンス水準(波形201)の330GHz付近から生じているストップバンドも改善されることが分かる。
【0037】
また、波形203及び204の比較において、カットオフ周波数を調整した場合であっても、上記改善効果が期待できることが分かる。
【0038】
図5は、ビームホール10を折り畳み導波管20の中央から端部に移動させた場合のストップバンドの変化の一例を示す図である。なお、ストップバンドの変化は、挿入損失を示すSパラメータであるSパラメータS21を計算することで求めている。即ち、ストップバンド付近の特性の計算は、Sパラメータを用いて計算することができる。
【0039】
図5において、波形301は、ビームホール10が折り畳み導波管20の中央に位置する場合のSパラメータS21(挿入損失)を示す。また、波形302〜305のそれぞれは、ビームホール10の位置を折り畳み導波管20の中央から左側に移動させた場合のSパラメータS21を示す。各波形と、ビームホール10の折り畳み導波管20に対する位置と、の関係は図5の点線により囲まれた領域に示すとおりである。
【0040】
図5を参照すると、ビームホール10が折り畳み導波管20の端部より若干中央よりに位置する場合(波形303の場合)に、最もストップバンドが小さいことが分かる。
【0041】
図6は、電磁波の電界分布の一例を示す図である。図6(a)は、第1の実施形態に係る遅波回路100のようにビームホール10を折り畳み導波管20の端部に配置した場合の電界分布を示す。図6(b)は、図8に示すようにビームホール10を折り畳み導波管20の中央に配置した場合の電界分布を示す。なお、図6において、色の濃さが電磁波の電界分布の強度を示す。
【0042】
ここで、導波管に対するビームホール10の比率が大きくなることによる、特性Vp/c−fの傾きの増大やストップバンドの出現は、折り畳み導波管(進行波管)を高周波(電磁波)が進行する際に、繰り返し現れるビームホール10間での共振が原因であると考えられる。つまり、図6(b)に示すように、ビームホール10が折り畳み導波管20の中央に位置する場合には、電磁波はビームホール10を避けるように迂回して伝搬する。その際に、位相速度の周波数分散が生じると考えられる。対して、図6(a)に示すように、ビームホール10が折り畳み導波管20の端部に位置すると、電磁波は直線的に伝搬し位相速度の周波数分散が生じずフラットとなる。
【0043】
ストップバンドの出現に関しては、電磁波がビームホール10で反射し、ビームホール10の間で共振することが原因と考えられ、ビームホール10を折り畳み導波管20の端部に配置するとビームホール10での反射が減少するため、ストップバンドも減少する。
【0044】
図7は、折り畳み導波管(進行波管)のゲイン計算の結果の一例を示す図である。図7(a)は、第1の実施形態に係る遅波回路100のようにビームホール10を折り畳み導波管20の端部に配置した場合のゲインを示す。図7(b)は、図8に示すようにビームホール10を折り畳み導波管20の中央に配置した場合のゲインを示す。
【0045】
図7に示す両図を参照すると、3dBダウンの帯域幅が図8の構成では10GHzであるのに対し、第1の実施形態に係る構成では30GHz程度と広く確保できている。このように、第1の実施形態に係る遅波回路100(折り畳み導波管;進行波管)による帯域の改善が認められる。
【0046】
なお、図8に示す構成のように、傾きの大きいVp/c−fでは帯域を広げることは原理的に不可能であると言える。また、本願開示において、ビームホール10を折り畳み導波管20の端部に移動させ、帯域を広く確保する方法の他に、ビームホール10を徐々に端へ向けて移動させ、必要な帯域がとれる程度に調整する方法も考えられる。また、第1の実施形態では、図1等を参照して、ビームホール10を折り畳み導波管20の中央から左側に移動する場合について説明したが、ビームホール10は中央から右側方向に移動させても良いことは勿論である。
【0047】
以上のように、第1の実施形態に係る遅波回路100(進行波管)は、折り畳み導波管20のビームホール10を導波管の中央でなく、その端部に形成する。その結果、進行波管の位相速度の周波数特性の使用帯域での傾きがフラットに近づき、且つ、ストップバンドが低減できる。そのため、広帯域の進行波管が提供出来る。また、ビームホール10の位置を微調整することで、進行波管の周波数特性が制御可能であり、目的に合わせた帯域設計の自由度を高めることができる。
【0048】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0049】
10 ビームホール
20 折り畳み導波管
100 遅波回路
101〜106、201〜204、301〜305 波形
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9