特許第6648907号(P6648907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6648907表面保護シート用基材及び表面保護シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648907
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】表面保護シート用基材及び表面保護シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20200203BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20200203BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20200203BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200203BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20200203BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200203BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   B32B27/18 D
   B32B27/20 Z
   B32B27/26
   B32B27/30 A
   B32B27/40
   B32B27/00 M
   H01L21/68 N
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-555209(P2016-555209)
(86)(22)【出願日】2015年10月19日
(86)【国際出願番号】JP2015079425
(87)【国際公開番号】WO2016063827
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-214074(P2014-214074)
(32)【優先日】2014年10月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】布施 啓示
(72)【発明者】
【氏名】田村 和幸
(72)【発明者】
【氏名】奥地 茂人
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0171444(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0081852(US,A1)
【文献】 特開2010−177542(JP,A)
【文献】 特開2009−035680(JP,A)
【文献】 特開2008−050480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/18
B32B 27/00
B32B 27/20
B32B 27/26
B32B 27/30
B32B 27/40
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持フィルムと、該支持フィルムの一方の面に設けられる帯電防止層とを備える表面保護シート用基材であって、
前記表面保護シート用基材の下記測定方法により測定される応力緩和率が60%以上であり、
前記帯電防止層が硬化性成分及び金属フィラーを含有する帯電防止層形成用組成物を、硬化させて形成されたものであり、
前記金属フィラーが、前記硬化性成分と金属フィラーの合計質量に対して55質量%以上であり、かつ前記硬化性成分がウレタンアクリレートオリゴマーを含む表面保護シート用基材。
<応力緩和率の測定方法>
幅15mmの短冊状に切り出した表面保護シート用基材の試験片を、株式会社オリエンテック製テンシロンRTA−100を用いて測定した。具体的には、試験片を、チャック間の長さが100mmとなるように両端をチャックで挟んで、室温(23℃)にて速度200mm/分で引っ張り、10%伸張時の応力Aと、伸張停止の1分後の応力Bとから、応力緩和率=(A−B)/A×100(%)で算出した。
【請求項2】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーが、ポリエステル骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマー及びポリエーテル骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマーから選択される請求項1に記載の表面保護シート用基材。
【請求項3】
前記支持フィルムが、含ウレタン硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化ウレタンフィルムである請求項1又は2に記載の表面保護シート用基材。
【請求項4】
前記支持フィルムを形成するための含ウレタン硬化性樹脂組成物が、ウレタンアクリレートオリゴマーを含有する請求項3に記載の表面保護シート用基材。
【請求項5】
前記金属フィラーが、金属酸化物フィラーである請求項1〜4のいずれかに記載の表面保護シート用基材。
【請求項6】
前記金属酸化物フィラーが、リンドープ酸化スズの粒子である請求項5に記載の表面保護シート用基材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の表面保護シート用基材の表面に粘着部を設けてなる表面保護シート。
【請求項8】
前記粘着部が、前記表面保護シート用基材の帯電防止層が設けられた側の面に設けられる請求項7に記載の表面保護シート。
【請求項9】
前記粘着部は、粘着部が設けられた領域が、粘着部が設けられない領域を囲繞するように、前記表面保護シート用基材上に部分的に設けられる請求項7又は8に記載の表面保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体表面に貼付されて被着体表面を保護する表面保護シート及びその基材に関し、特にウエハ表面に形成された回路等を保護するために、ウエハ表面に貼付されて使用される半導体ウエハ用表面保護シート及びその基材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは、表面に回路が形成された後、ウエハ厚さを調整するためにウエハ裏面側に研削加工が施されるのが一般的である。ウエハ裏面が研削加工される際には、ウエハ表面に、回路を保護するためのバックグラインドテープと呼ばれる表面保護シートが貼付される。
近年、半導体製品の高度化、複雑化に伴い、ウエハ表面に形成された回路は、静電気による影響を受け易くなってきている。そのため、バックグラインドテープには、剥離する際の剥離帯電等を防止するために、帯電防止性能が求められるようになってきている。また、近年のウエハの極薄化に伴い、バックグラインドテープには、研削後のウエハ反り等を防止するために、高い応力緩和特性が求められている。
【0003】
そこで、従来、特許文献1に開示されるように、支持フィルムをウレタン系オリゴマーから形成するとともに、その支持フィルムに金属塩帯電防止剤を配合することにより、粘着テープに、帯電防止性能と高い応力緩和特性を持たせることが行われている。
しかし、特許文献1の粘着テープでは、金属塩帯電防止剤の添加量を増やすと、フィルム剛性が低下する等、物理特性が変化したり、帯電防止剤に由来する金属イオンが、粘着剤、さらには被着体である半導体ウエハの表面回路に移行したりして不具合の原因となるおそれがある。そのため、特許文献1に開示された粘着テープでは、高い帯電防止性能を付与しにくいという問題がある。
【0004】
また、特許文献2、3には、半導体加工用粘着テープの基材に、支持フィルムとは別の層として、導電性高分子や4級アミン塩単量体等の帯電防止剤を配合した帯電防止層を設ける点が開示されている。しかし、これら導電性高分子や4級アミン塩単量体を用いたものは、特許文献1と同様に、高い帯電防止性能を付与しにくいという問題がある。
一方で、特許文献4には、優れた導電性を有する導電性酸化スズ粉末を帯電防止剤として利用できることが記載されている。特許文献4に開示された金属フィラーを、例えば特許文献2、3に開示された帯電防止剤に代えて使用すると、バックグランドテープの帯電防止性能が向上することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−177542号公報
【特許文献2】特開2007−099984号公報
【特許文献3】特開2011−210944号公報
【特許文献4】特開2012−041245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2、3で開示される帯電防止層に特許文献4の金属フィラーを使用すると、基材が高い応力緩和特性を有する場合、帯電防止層にクラックが発生しやすくなる。クラックの発生は、外観不良の原因となるのみならず、クラックにおいて電荷の移動が遮断されるため、目に見えないクラックであっても帯電防止性能の低下を惹起する。しかし、従来、金属フィラーを使用し、かつ基材に高い応力緩和特性を持たせた場合には、クラックの発生を十分に抑制できるような帯電防止層は見出されていない。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、帯電防止層に金属フィラーを配合した場合において、クラック発生を防止して高い帯電防止性能を付与しつつも、基材に高い応力緩和特性を付与してウエハの反りも防止できる表面保護シート用基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高い帯電防止性能を付与するために所定量以上の金属フィラーを用い、かつ応力緩和特性が高い基材を用いた場合であっても、帯電防止層形成用組成物の硬化性成分としてウレタンアクリレートオリゴマーを用いることにより、帯電防止層へのクラックの発生を防止できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供するものである。
(1)支持フィルムと、該支持フィルムの一方の面に設けられる帯電防止層とを備える表面保護シート用基材であって、
前記表面保護シート用基材の応力緩和率が60%以上であり、
前記帯電防止層が硬化性成分及び金属フィラーを含有する帯電防止層形成用組成物を、硬化させて形成されたものであり、
前記金属フィラーが、前記硬化性成分と金属フィラーの合計質量に対して55質量%以上であり、かつ前記硬化性成分がウレタンアクリレートオリゴマーを含む表面保護シート用基材。
(2)前記ウレタンアクリレートオリゴマーが、ポリエステル骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマー及びポリエーテル骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマーから選択される上記(1)に記載の表面保護シート用基材。
(3)前記支持フィルムが、含ウレタン硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化ウレタンフィルムである上記(1)又は(2)に記載の表面保護シート用基材。
(4)前記支持フィルムを形成するための含ウレタン硬化性樹脂組成物が、ウレタンアクリレートオリゴマーを含有する上記(3)に記載の表面保護シート用基材。
(5)前記金属フィラーが、金属酸化物フィラーである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面保護シート用基材。
(6)前記金属酸化物フィラーが、リンドープ酸化スズの粒子である上記(5)に記載の表面保護シート用基材。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の表面保護シート用基材の表面に粘着部を設けてなる表面保護シート。
(8)前記粘着部が、前記表面保護シート用基材の帯電防止層が設けられた側の面に設けられる上記(7)に記載の表面保護シート。
(9)前記粘着部は、粘着部が設けられた領域が、粘着部が設けられない領域を囲繞するように、前記表面保護シート用基材上に部分的に設けられる上記(7)又は(8)に記載の表面保護シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、帯電防止層に金属フィラーを配合した場合において、クラック発生を防止して高い帯電防止性能を付与しつつも、基材に高い応力緩和特性を付与してウエハの反りも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の表面保護シートの一実施形態を示す。
図2】本発明の表面保護シートの他の実施形態を示す。
図3】本発明の表面保護シート及びその使用方法の一例を示すための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を用いてさらに詳細に説明する。
(表面保護シート用基材)
本発明の表面保護シート用基材は、支持フィルムと、該支持フィルムの一方の面に設けられる帯電防止層とを備えるものである。以下、本発明の表面保護シート用基材の各部材についてより詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」の一方もしくは双方を意味する用語として使用する。また、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」の一方もしくは双方を意味する用語として使用し、他の類似用語もこれらと同様である。
【0012】
[帯電防止層]
本発明の帯電防止層は、硬化性成分および金属フィラーを含有する帯電防止層形成用組成物を、硬化させて形成されたものである。
<硬化性成分>
硬化性成分は、エネルギー線等により重合硬化して、金属フィラーを保持しつつ支持フィルム上に皮膜を形成する成分であり、ウレタンアクリレートオリゴマーを主成分として含むものが用いられる。
本発明では、後述するように、表面保護シート用基材がその応力緩和性能が高く伸張しやすいとともに、帯電防止層における金属フィラーの含有量が多いため、帯電防止層にはクラックが発生しやすい。本発明の帯電防止層は、硬化性成分としてウレタンアクリレートオリゴマーを含有することにより、十分な柔軟性が付与され、それにより、帯電防止層のクラックの発生を抑制できる。
ウレタンアクリレートオリゴマーは、エネルギー線重合性であり、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有し、紫外線、電子線等のエネルギー線照射により重合硬化して皮膜を形成するものであり、具体的には(メタ)アクリロイル基とウレタン結合を有する化合物である。
【0013】
該ウレタンアクリレートオリゴマーは、例えば、ポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物を反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートなどを反応させて得られるものである。
本発明のウレタンアクリレートオリゴマーとしては、上記ポリオール化合物が、ポリエーテル系ポリール、又はポリエステル系ポリオールであり、それにより、ポリエーテル骨格又はポリエステル骨格を有するものが好ましく使用される。本発明では、ポリエーテル骨格又はポリエステル骨格を有することで、帯電防止層の柔軟性が発現しやすくなる。
上記多価イソシアナート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネートなどが挙げられる。また、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが用いられる。
ウレタンアクリレートオリゴマーは、これら化合物を複数組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ウレタンアクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは800〜5000である。ウレタンアクリレートオリゴマーは、重量平均分子量が5000以下となることで、架橋密度を高くすることができ、帯電防止層の強度を向上させ、クラックの発生を防止しやすくなる。また、重量平均分子量が800以上となることで、帯電防止層の架橋密度が高くなりすぎることが防止され、コート層の柔軟性が失われにくくなる。また、そのような観点から、重量平均分子量はより好ましくは1000〜3000の範囲内にある。
なお、本明細書において重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0015】
硬化性成分は、ウレタンアクリレートオリゴマー以外の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでもよい。そのような硬化性成分としては、エポキシアクリレートオリゴマー、低分子アクリレート等が挙げられる。
硬化性成分中におけるウレタンアクリレートオリゴマーの割合は、通常60〜100質量%、好ましくは80〜100質量%であるが、硬化性成分はウレタンアクリレートオリゴマーのみからなってもよい。
また、帯電防止層形成用組成物は、アクリル系モノマー等の重合性モノマーを含有しないことが好ましい。重合性モノマーを含有しないことで、帯電防止層の強度を向上させて、クラックの発生を防止しやすくなる。
【0016】
<金属フィラー>
本発明において金属フィラーは、表面保護シート用基材に帯電防止性能を付与するものである。本発明において金属フィラーは、金属単体又は合金のフィラー、又は導電性を有する金属酸化物フィラーを意味し、金属酸化物フィラーであることが好ましい。金属フィラーの形状は特に限定されないが、粒子であることが好ましい。その平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.005〜5μm、好ましくは0.01〜1μmである。平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックUPA−150)により測定した値である。
金属酸化物としては、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、タンタルドープ酸化スズ(TaTO)、ニオブドープ酸化スズ(NbTO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、リンドープ酸化スズ(PTO)等の酸化スズ系化合物;スズドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の酸化スズ系化合物以外の金属酸化物が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
金属フィラーとしては酸化スズ系化合物を使用することが好ましく、その中でも、環境負荷が小さく帯電防止性能が高いことから、リンドープ酸化スズを使用することがより好ましい。
【0017】
金属フィラーは、硬化性成分と金属フィラーの合計質量に対して55質量%以上配合されるものである。本発明において、金属フィラーの配合量が55質量%を下回ると、表面保護シート用基材が十分な帯電防止性能を有することができない。金属フィラーの上記配合量は、より高い帯電防止性能を得るためには、65質量%以上であることが好ましい。また、金属フィラーの配合量の上限値としては、金属フィラーが硬化性成分によって適切に保持されて、表面保護シート用基材がシート形状を維持しやすくするために、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
<光重合開始剤>
帯電防止層形成用組成物は、さらに光重合開始剤を含有していてもよい。光重合開始剤を含有することにより、帯電防止層形成用組成物の重合硬化に必要なエネルギー線の照射量、照射時間を少なくすることができる。
光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、2−クロールアンスラキノン、あるいは2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。光重合開始剤は、硬化性成分100質量部に対して、好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部の割合で用いられる。
【0019】
本発明の帯電防止層形成用組成物には、さらに必要に応じてその他の添加剤が配合されてもよい。また、帯電防止層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.2〜20μm、より好ましくは0.5〜10μmである。
帯電防止層形成用組成物は、通常、上記硬化性成分と、金属フィラーを主成分とするものであり、これら合計量は、帯電防止層形成用組成物全量に対して、通常、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上となるものである。また、これら合計量は、組成物全量に対して、100質量%以下であればよいが、例えば光重合開始剤を含有する場合等には、99.9質量%以下となることが好ましい。なお、帯電防止層形成用組成物全量とは、その製造過程で揮発させられる溶媒等により組成物が希釈される場合には、その希釈溶媒等を除いた量である。後述する含ウレタン硬化性樹脂組成物全量も同様である。
【0020】
[支持フィルム]
本発明の支持フィルムは、後述するように、表面保護シート用基材の応力緩和率を60%以上にできるものが選択されればよいが、通常、硬化性樹脂組成物を硬化させて得られ、好ましくは、含ウレタン硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化ウレタンフィルムである。含ウレタン硬化性樹脂組成物は、ウレタン結合を有する樹脂成分を含むものであって、以下で詳述するウレタンアクリレートオリゴマー又は非反応性ウレタンポリマーを含有するものが好ましく、ウレタンアクリレートオリゴマーを含有することがより好ましい。支持フィルムにウレタンアクリレートオリゴマーを使用することで、オリゴマーの分子量調整によって支持フィルムの架橋密度を調整することが容易になる。また、該オリゴマーを使用したことで支持フィルムの架橋密度が比較的高くなり、支持フィルムに帯電防止剤を配合しても帯電防止性能が向上しにくいが、本発明では、帯電防止層を設けたため、帯電防止性能を十分に向上させることができる。
【0021】
<ウレタンアクリレートオリゴマー>
含ウレタン硬化性樹脂組成物に含有されるウレタンアクリレートオリゴマーは、上記した帯電防止層を形成するためのウレタンアクリレートオリゴマーとして例示したものから選択して使用することが好ましい。ただし、その重量平均分子量は、高い応力緩和特性を確保するために、通常、帯電防止層を形成するためのウレタンアクリレートオリゴマーよりも高いものが使用される。具体的には、支持フィルムを形成するためのウレタンアクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは1000〜50000、より好ましくは5000〜30000である。また、ウレタンアクリレートオリゴマーは、上記の中では、ポリエーテル骨格又はポリエステル骨格を有するものが好ましく使用されるが、ポリエステル骨格を有するものがより好ましい。
【0022】
含ウレタン硬化性樹脂組成物が、ウレタンアクリレートオリゴマーを含有する場合、さらにエネルギー線重合性モノマーを含有することが好ましい。含ウレタン硬化性樹脂組成物は、ウレタンアクリレートオリゴマーを含有するのみでは、成膜が困難なことがあるが、エネルギー線重合性モノマーで希釈されることで成膜性が良好になりやすい。また、柔軟性等の各種物性も良好にしやすくなる。エネルギー線重合性モノマーとしては、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有するものである。
含ウレタン硬化性樹脂組成物は、エネルギー線重合性モノマーと、エネルギー線重合性のウレタンアクリレートオリゴマーの混合物を主成分として含有することが好ましく、エネルギー線の照射によって硬化されるものとなる。
【0023】
エネルギー線重合性モノマーの具体例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、p−クレゾールエチレンオキシド変性(メタ)アクリレート、o−クレゾールエチレンオキシド変性(メタ)アクリレート、m−クレゾールエチレンオキシド変性(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変性(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどの芳香族化合物、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレートなどの脂環式化合物、もしくはテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリンアクリレート、N−ビニルピロリドンまたはN−ビニルカプロラクタムなどの複素環式化合物が挙げられる。
エネルギー線重合性モノマーは、後述する応力緩和性を高めるために、比較的嵩高い基を有する(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、上記の中ではイソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等を使用することがより好ましい。また、エネルギー線重合性モノマーとして、必要に応じて多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。
エネルギー線重合性モノマーは、ウレタンアクリレートオリゴマー100質量部に対して、好ましくは5〜900質量部、さらに好ましくは10〜500質量部、特に好ましくは30〜200質量部の割合で用いられる。
【0024】
ウレタンアクリレートオリゴマーを含有する含ウレタン硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤をさらに含有していてもよい。光重合開始剤を含有することにより、含ウレタン硬化性樹脂組成物の重合硬化に必要なエネルギー線の照射量、照射時間を少なくすることができる。光重合開始剤としては、上記した帯電防止層形成用組成物に配合される光重合開始剤として列挙されたものを適宜選択して使用することが好ましい。光重合開始剤は、ウレタンアクリレートオリゴマーとエネルギー線重合性モノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部の割合で用いられる。
【0025】
<非反応性ウレタンポリマー>
含ウレタン硬化性樹脂組成物は、非反応性ウレタンポリマーを含有する場合、エネルギー線重合性モノマーを希釈剤として含有する。該含ウレタン硬化性樹脂組成物は、これら非反応性ウレタンポリマーとエネルギー線重合性モノマーの混合物を主成分とするものであり、エネルギー線の照射によって硬化されて成膜されるものである。非反応性ウレタンポリマーは、エネルギー線重合性モノマーと反応しないものを意味する。非反応性ウレタンポリマーは、例えば、エネルギー線重合性モノマー中でポリオール化合物とポリイソシアネートとを反応させて得られものである。ポリオール化合物の水酸基とポリイソシアネートとの反応には、ジブチルスズジラウレート等の触媒を用いてもよい。
非反応性ウレタンポリマーに使用可能なポリオール化合物としては、1分子中に2個またはそれ以上の水酸基を有するものが望ましく、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールが好ましい。
非反応性ウレタンポリマーに使用可能なポリイソシアネートとしては芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネート、これらのジイソシアネートの二量体、三量体等が挙げられる。芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの二量体、三量体や、ポリフェニルメタンポリイソシアネートも用いられる。これらのポリイソシアネート類は単独あるいは2種以上併用して使用することができる。
【0026】
また、非反応性ウレタンポリマーとともに使用されるエネルギー線重合性モノマーとしては、エネルギー線照射により重合可能な不飽和二重結合を有するものが使用される。反応性の点からは、アクリル系モノマーを使用することが好ましい。好ましく用いられるアクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜12程度の各種(メタ)アクリル酸アルキルエステル;イソボルニル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート挙げられる。これらアクリル系モノマーと共に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸のモノ又はジエステル、スチレン及びその誘導体、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、イミドアクリレート、N−ビニルピロリドン、オリゴエステルアクリレート、ε−カプロラクトンアクリレート等の単量体を用いてもよい。また、必要に応じて、多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。
非反応性ウレタンポリマーを使用する場合にも、含ウレタン硬化性樹脂組成物は光重合開始剤を含有してもよい。光重合開始剤には、帯電防止層形成用組成物に配合可能なものとして例示したものを適宜選択して使用してもよいし、その他の従来公知の光重合開始剤を使用してもよい。
【0027】
<その他の添加剤>
また、支持フィルム形成用の硬化性樹脂組成物には、その他の添加剤が配合されていてもよく、例えば表面保護シート用基材の帯電防止性能をより良好とするために、金属塩帯電防止剤等の帯電防止剤が配合されていてもよい。金属塩帯電防止剤としては、リチウム塩系帯電防止剤を使用することが好ましい。
また、支持フィルムの厚さは、表面保護シート用基材に要求される性能等に応じて調整され、好ましくは20〜300μmであり、より好ましくは50〜200μmである。
なお、含ウレタン硬化性樹脂組成物は、上記のように、エネルギー線重合性のウレタンアクリレートオリゴマー及び非反応性ウレタンポリマーの少なくともいずれかと、必要に応じて配合されるエネルギー線重合性モノマーを主成分となることが好ましいが、これらの合計量は、含ウレタン硬化性樹脂組成物全量に対して、通常、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上となるものである。また、これら合計量は、組成物全量に対して、100質量%以下であればよいが、例えば光重合開始剤を含有する場合等には、99.9質量%以下となることが好ましい。
【0028】
[表面保護シート用基材の応力緩和率]
本発明の表面保護シート用基材の応力緩和率は60%以上となるものである。応力緩和率が60%未満となると、ウエハの裏面を研削して薄くしたときにウエハに反りや割れ等を発生するおそれがある。本発明の表面保護シート用基材の応力緩和率は、ウエハの反りや割れをより防止する観点から70〜100%が好ましく、75〜95%がより好ましい。
本発明では、特に限定されるわけではないが、上記したように、支持フィルムが硬化ウレタンフィルムであることにより、応力緩和率を上記範囲内にすることができる。なお、本発明において応力緩和率とは、基材を10%伸張させたときの1分後の応力緩和率のことをいい、後述する測定方法で測定されるものである。
【0029】
[表面保護シート用基材のヤング率]
また、表面保護シート用基材のヤング率は、好ましくは10〜1000MPaの範囲内にあり、より好ましくは40〜200MPaの範囲内にある。このような範囲内になることで、表面保護シート用基材の支持性能を良好なものとすることができる。また、表面保護シート用基材のヤング率は、100MPa以下であることが特に好ましい。ヤング率を100MPa以下とすることで反り防止効果が高く維持されやすくなる。
【0030】
[表面保護シート用基材の製造方法]
本発明の表面保護シート用基材は、特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造される。
まず、剥離フィルム上に支持フィルム形成用組成物(例えば、含ウレタン硬化性樹脂組成物)をキャスト法等により塗布した後、支持フィルム形成用組成物を半硬化させ、剥離フィルム上に支持フィルム中間材料を形成する。また、別途、剥離フィルム上に必要に応じて有機溶剤等で希釈した帯電防止層形成用組成物を塗布し、これを必要に応じて乾燥して、剥離フィルム上に帯電防止層用膜を形成する。
次いで、剥離フィルム上に形成された帯電防止層用膜と、剥離フィルム上に形成された支持フィルム中間材料とを重ね合わせた後、帯電防止層用膜と支持フィルム中間材料とを硬化させ、支持フィルムの一方の面上に帯電防止層が設けられた表面保護シート用基材を得ることができる。2枚の剥離フィルムは必要に応じて適宜剥離する。
本発明では、支持フィルム形成用組成物及び帯電防止層形成用組成物は、上記したようにエネルギー線により硬化可能なものであることが好ましく、その場合、支持フィルム及び帯電防止層の硬化は、紫外線、電子線等のエネルギー線で行われる。
【0031】
(表面保護シート)
次に、本発明の表面保護シートについて図1〜3を参照しつつ説明する。
図1、2に示すように、表面保護シート10は、上記した支持フィルム1と支持フィルム1上に設けられた帯電防止層2とを備える表面保護シート用基材5と、表面保護シート用基材5のいずれか一方の面に設けられた粘着部3とからなるものである。粘着部3は、単層の粘着剤層からなるものが好ましいが、芯材フィルムの両面に粘着剤層が形成されてなる両面粘着テープ等、表面保護シート10を被着体に貼付するものであればよい。
ここで、粘着部3は、図1、2に示すように、表面保護シート用基材5の帯電防止層2が設けられた面上に設けられることが好ましい。これにより、帯電防止層2は、表面保護シート10が被着体(例えば、半導体ウエハ11)に貼付される際に、支持フィルム1よりも被着体側に配置されることになるので、表面保護シート10を被着体から剥離する際の剥離帯電を有効に防止できる。ただし、粘着部3は、帯電防止層2が設けられた面とは反対側の面に設けられてもよい。本発明の粘着部3は、図1に示すように、表面保護シート用基材5の全面に設けられてもよいが、図2に示すように一部に設けられてもよい。
【0032】
本発明の表面保護シート10は、例えば所定の加工が施される被加工物を被着体とし、その被着体表面に粘着部3を介して貼付されるものであり、被着体表面を保護するものである。より具体的には、本発明の表面保護シート10は、半導体ウエハ11の表面に貼付され、半導体ウエハ11の表面に設けられた回路12等を保護するものである。
表面保護シート10は、好ましくは、図3に示すように、例えば、半導体ウエハ11の裏面が、グラインダー20によって研削される際に半導体ウエハの表面を保護するバックグラインドテープとして使用されるものであるが、他の用途に使用されてもよい。裏面研削後の半導体ウエハの厚さは、特に限定されないものの、例えば1〜300μm、好ましくは10〜100μm程度である。
例えば裏面研削後のウエハ表面から表面保護シート10を剥離するとき、従来の表面保護シートは、剥離帯電によってウエハに悪影響を及ぼす可能性があるが、本発明では、帯電防止性能が良好な表面保護シート用基材5を用いることで、帯電を適切に防止することができる。また、本発明の表面保護シート10は、表面保護シート用基材5の応力緩和率が上記したように高いものであるため、ウエハ11が裏面研削により極薄化されてもウエハ11に反りや割れ等を生じさせることはない。
なお、図3には、粘着部3が表面保護シート10の一部に形成される例を示すが、粘着部3が表面保護シート10の全面に設けられる場合も同様である。
【0033】
粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が挙げられる。例えば粘着部が単層の粘着剤層からなる場合、粘着剤層は、公知の方法で、粘着剤を表面保護シート用基材5上に積層することで形成できる。
粘着剤としては、エネルギー線硬化型、加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤を用いることができるが、これらの中ではエネルギー線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。また、エネルギー線硬化型粘着剤としては、紫外線硬化型、電子線硬化型のものが挙げられるが、特に紫外線硬化型粘着剤が好ましい。表面保護シートは、エネルギー線硬化型粘着剤が用いられることで、高い粘着力で半導体ウエハに貼着されつつ、半導体ウエハから剥離される際には、エネルギー線を照射することで粘着力を低下させることができる。そのため、半導体ウエハの回路等を適切に保護しつつ、表面保護シートを剥離する際、半導体ウエハ表面の回路を破壊したり、粘着剤を半導体ウエハ上に転着したりすることが防止される。
【0034】
粘着部3の厚さは、表面保護シートが貼付される半導体ウエハ上に設けられた回路の高さ等に応じて適宜調整すればよいが、単層の粘着剤層で形成される場合、好ましくは3〜100μm、さらに好ましくは5〜50μm、より好ましくは7〜30μm程度である。粘着部3の厚みをこれら下限値以上とすることで、粘着力が得られやすく、保護機能を確保できる。また、上限値以下とすることで、単層の粘着剤層で容易に形成される。
また、芯材フィルムの両面に粘着剤層が形成されてなる両面粘着テープを用いてもよい。両面粘着テープの厚さは、好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜200μm程度である。
また、本発明では、粘着部3の厚さが、30μm以下である場合に特に好適である。厚さが30μm以下となると、表面保護用シートを半導体ウエハに貼付した場合に、表面保護シート用基材と、半導体ウエハ表面が接近することになる。このように接近すると表面保護シートの剥離帯電が発生しやすいが、本発明では、表面保護シート用基材が高い帯電防止性能を有するため、剥離帯電の発生を十分に抑制できる。
【0035】
本発明の粘着部3が、表面保護シート用基材5の一部に設けられる場合、例えば、表面保護シートが、被着体となる被加工物と略同形状(半導体ウエハであれば円形)に設計され、その外周部分のみに粘着部を設けて粘着部領域とする一方で、その粘着部領域に囲撓される領域を粘着部を設けない領域(非粘着部領域)としてもよい。それにより、表面保護シート10が、例えば図3に示すように半導体ウエハ11に貼付される際、非粘着部領域が、半導体ウエハ11中央の回路12が形成される領域(回路形成領域)に対向し、粘着部領域が半導体ウエハ11の回路12が形成されない外周に接着される。非粘着部領域は、ウエハ11の形状に対応した形状を呈し、通常、円形に形成されるとともに、粘着部領域が円環状に形成される。
【0036】
表面保護シート10は、粘着部が表面の一部に設けられ、非粘着部領域が設けられることにより、金属フィラーが配合された帯電防止層2が外部に露出することになり、その露出した帯電防止層2は被着体表面に対向する。そのため、帯電防止層2の帯電防止効果は、粘着部3の存在により減殺されず、表面保護シート10を被着体から剥離するときに発生する剥離帯電を効果的に低減させる。また、非粘着部領域が設けられることで、ウエハ中央の回路形成領域に粘着部3が接着されることが防止されるので、粘着剤の回路12への転着に起因した不具合が生じにくくなる。
【0037】
粘着部3が部分的に設けられる場合、粘着部3は、表面保護シート用基材に積層される前に打ち抜き等の加工が行われて形成されることが好ましい。打ち抜き加工は、例えば、まず、粘着部の両面に剥離フィルムが積層された積層体が用意され、粘着部と一方の剥離フィルムが非粘着部領域と一致する形状に打ち抜かれるようにして行われる。そして、粘着部の打ち抜かれた部分と、一方の剥離フィルムが剥離された後、粘着部が表面保護シート用基材に貼り合わされて表面保護シートが形成される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0039】
本発明における評価方法及び物性の測定方法は、以下のとおりである。
<応力緩和率>
幅15mmの短冊状に切り出した表面保護シート用基材の試験片を、株式会社オリエンテック製テンシロンRTA−100を用いて測定した。具体的には、試験片を、チャック間の長さが100mmとなるように両端をチャックで挟んで、室温(23℃)にて速度200mm/分で引っ張り、10%伸張時の応力Aと、伸張停止の1分後の応力Bとから、応力緩和率=(A−B)/A×100(%)で算出した。
<ヤング率>
表面保護シート用基材のヤング率は、万能引張試験機(オリエンテック社製テンシロンRTA−T−2M)を用いて、JIS K7161:1994に準拠して、23℃、湿度50%の環境下において引張速度200mm/分で測定した。
<重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを測定した。
測定装置:東ソー株式会社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSKguard column HXL−H」、「TSKGel GMHXL」、「TSK GelG2000 HXL」(以上、全て東ソー株式会社製)をこの順序で連結して測定した。
カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分、検出器:示差屈折率計
【0040】
<剥離帯電>
ウエハ回路面に、実施例又は比較例で得た表面保護シートを貼付し、ウエハと表面保護シートの積層体を作製し、その積層体を30日間、温度23℃、湿度50%RHの環境下に放置した。次いで、リンテック株式会社製、Adwill RAD−2700を用い、付属のUV照射装置により表面保護シートに対して照度230mW、光量1000mJの条件でUV照射を行い、その後、表面保護シートをウエハから500mm/分で剥離した。このとき、表面保護シートに帯電した帯電電位を、ウエハ表面から50mmの距離において集電式電位測定機(春日電機株式会社製 KSD−6110)により23℃、湿度50%RHの環境下で測定した(測定下限値0.1kV)。
<帯電防止層のクラック>
実施例又は比較例で作製した表面保護シートを、テープマウンター(リンテック株式会社製Adwill RAD−3510)を用いて、厚さ750μmの12インチシリコンウエハの回路形成面に貼付した。ウエハを研削装置(株式会社ディスコ製 DGP−8760)で50μmまで研削した後、表面保護シートをウエハより剥離し、帯電防止層面をデジタル顕微鏡にて観察し、帯電防止層のクラックの有無を確認した。
<研削後のウエハの反り>
実施例または比較例で作製した表面保護シートをシリコンウエハ(300mmφ、厚み750μm)に、テープマウンター(リンテック株式会社製Adwill RAD−3500)を用いて貼付した。その後、研削装置(株式会社ディスコ製 DFD−840)を用いてシリコンウエハの厚みが150μmとなるように研削した。研削後、表面保護シートを除去せずに、ウエハをJIS B 7513;1992に準拠した平面度1級の精密検査用の定盤上に、表面保護シートが上側となるように載置した。
測定は、定盤をゼロ地点とし17ヵ所の測定ポイントを求め、最大値を反り量とした。反り量が5mm以上を反り“有り”とし、反り量が5mm未満を反り“無し”とした。
【0041】
〔実施例1〕
(支持フィルム中間材料の作製)
分子量2000のポリエステル系ポリオールとイソホロンジイソシアネートから合成されたウレタンオリゴマーの末端に2−ヒドロキシエチルアクリレートを付加して得た二官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量12000)50質量部、エネルギー線重合性モノマーとしてのイソボルニルアクリレート25質量部と2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート25質量部の混合物、及び光重合開始剤(ダロキュア1173、BASF社製)1質量部からなる含ウレタン硬化性樹脂組成物を剥離フィルム上に塗布展延し、紫外線照射(230mW、1000mJ)により予備硬化して、剥離フィルム上に厚さ100μmの支持フィルム中間材料を形成した。
【0042】
(帯電防止層用膜の作製)
ポリエステル骨格を有するウレタンアクリレートオリゴマー(重合平均分子量2000)からなる硬化性成分100質量部(固形分換算、以下同じ)を有機溶剤に溶解させた溶液と、平均粒子径0.1μmのリンドープ酸化スズ230質量部を有機溶剤に分散させた分散液とを混合し、さらに光重合開始剤(BASF社製イルガキュア184)を2質量部配合し、メチルエチルケトンで全体の固形分の質量割合が20%となるまで希釈し、帯電防止層形成用組成物を得た。この帯電防止層形成用組成物を、新たに用意した剥離フィルムの片面に塗布し、100℃で1分間乾燥し、剥離フィルム上に厚みが2μmの帯電防止層用膜を形成した。
【0043】
(表面保護シート用基材の作製)
剥離フィルム上に形成した帯電防止層用膜と、別の剥離フィルム上に形成した支持フィルム中間材料とを、これらが互いに密着するように貼り合わせて、230mW、1000mJの条件により紫外線を照射して帯電防止層用膜を硬化させるとともに、支持フィルム中間材料をさらに硬化させ、その後、帯電防止層側の剥離フィルムを剥離することにより剥離フィルム付きの表面保護シート用基材を得た。表面保護シート用基材の評価結果を表1に示す。なお、各評価は、剥離フィルムを剥離して行ったものである。
【0044】
(表面保護シートの作製)
表面保護シート用基材の帯電防止層を設けた面に、紫外線硬化型粘着剤を20μmの厚さになるように部分的に積層して粘着剤層を形成し、その後、支持フィルム中間材料側の剥離シートを剥離して表面保護シートを作製した。ここで、粘着剤層は、外径が300mmの円形で、かつその外周から5mmの範囲にのみに形成され円環状の粘着部領域を形成し、非粘着部領域が円形となるものであった。表面保護シートの各評価結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例2〕
帯電防止層形成用組成物に配合されるウレタンアクリレートオリゴマーを、ポリエーテル系ポリオールとイソホロンジイソシアネートから合成されたウレタンオリゴマーを骨格とする二官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重合平均分子量2000)に変更した点を除き実施例1と同様に実施した。
【0046】
〔実施例3〕
硬化性成分100質量部に対して、リンドープ酸化スズの配合量を150質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0047】
〔比較例1〕
硬化性成分100質量部に対して、リンドープ酸化スズの配合量を100質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0048】
〔比較例2〕
帯電防止層形成用組成物中のウレタンアクリレートオリゴマーを、エポキシアクリレートオリゴマー(重合平均分子量2,000)に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0049】
〔比較例3〕
帯電防止層形成用組成物中のウレタンアクリレートオリゴマーを、エポキシアクリレートオリゴマー(重合平均分子量2,000)に変更した。また、支持フィルムを以下のものに変更し、帯電防止層形成用組成物を直接支持フィルムに塗布し、100℃で1分間乾燥を行って表面保護シート用基材を得た点を除いて実施例1と同様に実施した。
支持フィルム:60μmのポリプロピレンからなる中間層の両面に、10μmの低密度ポリエチレンからなる表層を設けたポリオレフィン系フィルム
【0050】
【表1】

※表1において、フィラーの質量%は、硬化性成分と金属フィラーの合計に対する金属フィラーの質量%を示す。
※表1における硬化性成分は以下の通りである。
UA(ES):ポリエステル系ウレタンアクリレートオリゴマー
UA(ET):ポリエーテル系ウレタンアクリレートオリゴマー
EA :エポキシアクリレートオリゴマー
【0051】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3では、帯電防止層の硬化性成分をウレタンアクリレートオリゴマーとして、表面保護シート用基材の応力緩和率を60%以上とすることで、金属フィラーを比較的大量に使用した場合であっても帯電防止層におけるクラックの発生を防止して剥離帯電を低減でき、かつウエハに反りが発生するのを防止することができた。
それに対して、比較例1では、金属フィラーの使用量が少なかったため、剥離帯電を十分に低減させることができなかった。また、比較例2では、金属フィラーを大量に使用したが、硬化性成分にウレタンアクリレートオリゴマーを使用しなかったため、帯電防止層にクラックが発生して、剥離帯電を十分に低減させることができなかった。また、比較例3では、表面保護シート用基材の応力緩和率が低かったため、表面保護シートが貼付されたウエハに反りが発生した。
【符号の説明】
【0052】
1 支持フィルム
2 帯電防止層
3 粘着部
5 表面保護シート用基材
10 表面保護シート
11 半導体ウエハ
12 回路
20 グラインダー
図1
図2
図3