【実施例】
【0064】
[実施例1]
実施例1では、以下の材料及び方法を用いた。
<植物由来β−グルカン含有シロップの調製>
大麦の粉砕物が30%となるよう純水で分散させたのち、恒温槽で50℃まで加温しながら大麦粉砕物の塊がなくなり完全に純水中に分散するまで攪拌した。その後、10%水酸化カルシウム溶液を加えて、大麦粉砕物溶液のpHを5.6に調整した。次いで、大麦粉砕物溶液に、タンパク質分解酵素(EC3.4.22.2)として商品名「スミチームP」(新日本化学工業社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.05%、液化酵素であるα−アミラーゼ(EC3.2.1.1)として商品名「クライスターゼT10S」(天野エンザイム社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.4%の濃度で添加し、50℃で1時間反応させた。
【0065】
次に、沸騰湯浴中に上記反応液をいれ90℃以上に加温し、1時間液化反応をさせた。そして、液化反応後、120℃で15分間オートクレーブをかけて添加した液化酵素を失活させた。
【0066】
次に、上記反応液を恒温槽中で60℃まで冷却し、糖化酵素としてβ−アミラーゼ(EC3.2.1.2)である商品名「β−アミラーゼ#1500S」(ナガセケムテックス社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.52%の濃度で、プルラナーゼ(EC3.2.1.41)である商品名「プルラナーゼアマノ3」(天野エンザイム社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.26%の濃度で、グルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)である商品名「ダイザイムGPS」(天野エンザイム社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.26%の濃度で、β−グルカン分解酵素(EC3.2.1.73)である商品名「Finizym(登録商標)250L」(Novozymes社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.0052%の濃度で、上記反応液中に添加した。その後、60℃で2時間糖化反応を行ったのち、90℃まで加温して酵素を失活させた。
【0067】
次に、珪藻土(商品名「ラヂオライト#500S」:昭和化学工業社製)で被覆した濾紙(商品名「定性濾紙No.2」:ADVANTEC社製)を張ったヌッチェに、80℃〜85℃に保持した上記反応液を通液させた。この濾過液を細孔サイズ0.8μmのメンブレンフィルター(商品名「Mixed Cellulose Esters(MCE) Membrane Filters」:ADVANTEC社製)を張ったヌッチェに、70℃〜75℃に保持した上記濾過液を通液した。得られた濾過液はエバポレータによって固着しない程度まで濃縮した。なお、ここでの固着とは、濃縮中、フラスコ底面のシロップの一部が流動性を失い、フラスコに付着した状態のことを言う。
【0068】
<β−グルカンの定量方法>
上記方法により調製された植物由来β−グルカン含有シロップ中のβ−グルカンの定量は、β−グルカン測定キット(商品名「MIXED LINKAGE BETA−GLUCAN ASSAY KIT:Megazyme社製)を用いて、McCleary法(酵素法)により行った。すなわち、Brix10%に調整した植物由来β−グルカン含有シロップを15mlチューブに5ml入れ、細かく粉砕した硫酸アンモニウム2.5gを加え、溶解した。4℃、20時間静置した後、4℃、3,000rpmで、10分遠心し、上清を除去した。残ったペレットに50%(V/V)エタノール水溶液1mLを加え、激しく攪拌してペレットを懸濁させ、さらに50%(V/V)エタノール水溶液10mL加えて混合した。再び、4℃、3,000rpmで、5分遠心し、上清を除去した。再度、ペレット懸濁、エタノール添加、遠心及び上清除去の操作を繰り返した。ペレットを20mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)4.8mLに再溶解後、上記緩衝液で10倍希釈した溶液4.8mLにリケナーゼ溶液200μLを加え、40℃、5分インキュベーションした。4℃、3,000rpm、10分遠心した上清を100μLずつ15mlチューブに移した。チューブにβ-グルコシダーゼ溶液100μL加えて40℃、15分反応させた。その後、チューブにglucose oxidase/peroxidase(GOPOD)を3mLずつ加え、40℃、20分反応させ、510nmの吸光度を測定した。キットに記載の方法に従い、別途グルコース100μgの吸光度を測定し、基準とした。なお、β-グルコシダーゼ溶液のかわりに50mM 酢酸バッファー(pH4.0)100μLを加えたものをブランクとした。β−グルカン濃度は、次式により求めた。
【0069】
β−グルカン濃度(可溶性固形分に対して、%)=ΔA×F×9×D×(100/Brix)
ここに、
ΔA=サンプルの吸光度−ブランクの吸光度
F=100/グルコース100μgの吸光度
D=シロップを希釈した際の希釈倍率
【0070】
<β−グルカンの抽出方法及びその分子量の測定方法>
上記方法により調製された植物由来β−グルカン含有シロップ中のβ−グルカンの重量平均分子量は、以下の方法により測定した。まず、AOAC985.29の公定法に基づいて、測定キット(商品名「Total Dietary Fiber Assay」:Sigma Aldrich社製)を用いて精製した。すなわち、三角フラスコ中に植物由来β−グルカン含有シロップ1gと0.08Mリン酸緩衝液(pH6.0)を50mL、上記キットに付属のα−アミラーゼ(EC3.2.1.1)溶液を100μL添加し、アルミホイルで蓋をした後、沸騰水中で30分間インキュベートした。その後、室温で30分間の冷却を経た後、0.275Nの水酸化ナトリウム水溶液を10mL程度上記反応液に添加しpHを7.5±0.2に調整した。その後、上記キットに付属のプロテアーゼ(EC3.4.21.62)溶液を50mg/mLに希釈した溶液を100μL、反応液に添加し、60℃で30分間振盪しながらインキュベートし、その後室温で30分間の冷却を行った。次に、0.325Nの塩酸水溶液を10mL上記反応液に添加しpHを4.3±0.3に調整した。その後、上記キットに付属のアミログルコシダーゼ(EC3.2.1.3)溶液を100μL、反応液に添加し、60℃で30分間振盪しながらインキュベートした。その後、反応液を3分間沸騰し上記酵素を失活させた。その後、反応液を濾紙(商品名「定性濾紙No.2」:ADVANTEC社製)に通液した。
【0071】
次に、上記反応液に陽イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンPA218」:三菱化学社製)と陰イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンPA408」:三菱化学社製)を混合、攪拌したのち、固層抽出カラム(商品名「Sep−Pak C18 Cartridge」:Waters社製)に通液させた。通液させた反応液を5mL分取し、それに硫酸アンモニウム2.5gを添加し、4℃で20時間、静置した。その後、4℃で10分間、3,000rpmで遠心分離をした後、上清を破棄し、ペレットに5mLの75%エタノールを添加しボルテックスミキサーを用いて洗浄した。そして、再度4℃で10分間、3,000rpmで遠心分離をした後、上清を破棄し、ペレットに5mLの75%エタノールを添加しボルテックスミキサーを用いて洗浄した。この遠心分離と洗浄の工程を再度繰り返した後、得られたペレットに純水を加えて80℃以上で加熱溶解した。その溶解液を0.45μmの細孔サイズのメンブレンフィルター(商品名「MILLEX(登録商標)−HP 0.45μm」:MILLIPORE社製)に通液した。β−グルカン溶液は、ゲル濾過クロマトグラフィーでその分子量分布及び重量平均分子量を測定した。
【0072】
ゲル濾過クロマトグラフィーでの分子量分布及び重量平均分子量の測定は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を用いて以下の条件で行った。
カラム:G2500PW−G3000PW−G6000PW(東ソー社製)の3本連結カラム
溶媒:純水
温度:80℃
流速:1.0ml/min
検出:RI(示差屈折率)
得られた分子量分布及び重量平均分子量は、分子量が既知のプルラン(商品名「STANDARD P−82」:Shodex社製)を用いて作成した検量線に基づいて算出した。
【0073】
<粘度測定方法>
上記製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップを、E型粘度計(商品名「VISCONIC ED」:東京計器社製)のプレートにそれぞれ1.2mL入れて、各Brixにおけるシロップの粘度を測定した。測定時の温度は25℃にした。
【0074】
<植物由来β−グルカン含有シロップ中のβ−グルカンの特性評価結果>
実施例1として、上記製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップを用意した。そして、この実施例1に係るシロップのBrix、及び抽出したβ−グルカンの濃度、分子量分布、重量平均分子量、の各特性を評価した。
【0075】
[比較例1]
比較例1として、原料として特殊大麦粉(β−グルカン含有量が7.5質量%)を用い、上記製造方法に記載されたグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)である商品名「ダイザイムGPS」(天野エンザイム社製)にかえて、転移酵素としてトランスグルコシダーゼ(EC3.2.1.20)である商品名「トランスグルコシダーゼLアマノ」(天野エンザイム社製)を原料に対する質量基準(W/W)で0.1%で添加した以外は、全て上記製造方法と同様の方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップを用意した。ここで、比較例1で製造したβ−グルカン含有シロップは、濃縮工程においてBrix30%以下で固着した。そして、比較例1に係るシロップのBrix、及び抽出したβ−グルカンの濃度、分子量分布、重量平均分子量、の各特性を評価した。なお、分子量分布及び重量平均分子量の測定は、高速液体クロマトグラフ Prominence(島津製作所社製)を用いて、以下のゲル濾過クロマトグラフィーの条件で行った。
<測定条件>
カラム:GS520−GS320(Shodex社製)
溶媒:純水
温度:50℃
流速:1.0ml/min
検出:CAD(コロナ荷電化粒子検出器:日本ダイオネクス社製)
【0076】
まず、
図1は、実施例1によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップからβ−グルカンを抽出しゲル濾過クロマトグラフィーによって分子量分布を測定した結果を示す図である。
図2は、比較例1によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップからβ−グルカンを抽出しゲル濾過クロマトグラフィーによって分子量分布を測定した結果を示す図である。また、表1は、
図1の分子量分布に基づいて、どの分子量のβ−グルカンがどの程度存在しているかを算出したものである。
【0077】
【表1】
【0078】
これによると、実施例1に係る製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップ中には分子量2,000〜10,000のβ−グルカンや、2,000未満のβ−グルカンが多量に存在しており、上記製造方法によって、より低分子のβ−グルカンを多量に得ることができた。
【0079】
表2は、実施例1と比較例1について、重量平均分子量、β−グルカン濃度、シロップとして存在できる最大Brixの各特性を比較した結果を示したものである。一般にBrixを上げていくと、シロップの流動性がなくなり、実質的に、シロップの取り扱いができなくなる。当該Brixはシロップとして取り扱いができる流動性を有しているBrixの最大値を示すものである。具体的には、濃縮時の固着の有無を指標とした。
【0080】
【表2】
【0081】
表2によると、実施例1に係る製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップ中には、可溶性固形分に対して4.1%の濃度でβ−グルカンが含まれていることが分かった。また、その重量平均分子量も13,000と、比較例1の重量平均分子量と比較して、十分に低い値であることが分かった。一般的に、Brixが低いと、微生物増殖リスクが高くなり、食品や飲料としての利用には不向きである。しかし、一方で、Brixを上げていくと、シロップの粘度が高くなり、その取り扱いが困難になる。このような観点において、実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップは、十分に低い重量平均分子量を示しており、Brix70%以上という高いBrixをとっても、適度な粘度を有するシロップであり、食品や飲料としての用途が期待される。
【0082】
<植物由来β−グルカン含有シロップの特性評価結果>
実施例1に係るシロップについては、上記特性以外にも、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の糖類の組成比、シロップの粘度等の特性も評価した。糖組成の評価方法は以下の通りである。シロップをBrix10%程度に希釈し、活性炭(商品名「白鷺A」:日本エンバイロケミカルズ社製)を適量添加して混合した。つぎに、サンプル溶液を煮沸するまで加熱し、濾紙(商品名「定性濾紙No.2」:ADVANTEC社製)に通液した。その後、サンプル溶液に陽イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンPA218」:三菱化学社製)と陰イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンPA408」:三菱化学社製)を混合、攪拌したのち、固層抽出カラム(商品名「Sep−Pak C18 Cartridge」:Waters社製)に通液させた。サンプルのBrixを1%〜5%程度に調整し、0.45μmの細孔サイズのメンブレンフィルター(商品名「MILLEX(登録商標)−HP 0.45μm」:メルク社製)に通液させ、糖組成分析用サンプルとした。糖組成は、商品名「Alliance(登録商標)HPLCシステム」(日本ウォーターズ社製)を用いて分析した。
<測定条件>
カラム:ULTRON PS80−N(島津ジーエルシー社製)
溶媒:純水
温度:60℃
流速:0.6ml/min
検出:RI(示差屈折率)
【0083】
[実施例2]
また、実施例2として、上記実施例1に係る製造方法から、添加するグルコアミラーゼを原料に対する質量基準(W/W)で0.052%にした以外は、全て同じ方法で製造した植物由来β−グルカン含有シロップを用意した。そしてこの実施例2に係るシロップについて、実施例1と同様、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の糖類の組成比、シロップの粘度等の特性を評価した。
【0084】
[実施例3]
また、実施例3として、上記実施例1に係る製造方法から、添加するグルコアミラーゼを原料に対する質量基準(W/W)で2.08%にした以外は、全て同じ方法で製造した植物由来β−グルカン含有シロップを用意した。そしてこの実施例2に係るシロップについて、実施例1と同様、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の糖類の組成比、シロップの粘度等の特性を評価した。
【0085】
[
参考例A]
また、
参考例Aとして、上記実施例1に係る製造方法から、グルコアミラーゼの添加をしなかった以外は、全て同じ方法で製造した植物由来β−グルカン含有シロップを用意した。そしてこの実施例2に係るシロップについて、実施例1と同様、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の糖類の組成比、シロップの粘度等の特性を評価した。
【0086】
表3は、実施例1〜実施例
3、及び参考例Aについて、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の糖類の組成比、シロップの粘度等の各特性を比較した結果である。
【0087】
【表3】
【0088】
上記表3からも明らかなように、実施例1〜実施例
3、及び参考例Aに係る植物由来β−グルカン含有シロップには、いずれにも重量平均分子量が2,500〜40,000の範囲にあるβ−グルカンが含まれていた。また、重量平均分子量2,500〜40,000のβ−グルカンを含む実施例1〜実施例
3、及び参考例Aの植物由来β−グルカン含有シロップは、可溶性固形分に対して3.8%〜4.2%のβ−グルカン濃度を有していた。
【0089】
また、一般的に、シロップは、例えば保管時の微生物増殖リスクを低減するという観点から、Brixが70%以上にあることが望まれるが、一方で、そのように高いBrixを有するシロップは高粘度となり食品や飲料としての用途に不向きである。
【0090】
しかし、重量平均分子量2,500〜40,000のβ−グルカンを含む実施例1〜実施例
3、及び参考例Aの植物由来β−グルカン含有シロップは、いずれも、Brix70%以上のときの粘度として、適度な粘度を有することが分かった。特に、実施例1〜実施例3で得られた植物由来β−グルカン含有シロップは、その糖化工程でグルコアミラーゼを添加したことから、それを添加しなかった
参考例Aで得られた植物由来β−グルカン含有シロップと比して、糖組成において単糖類の割合が大きい。従って、
参考例Aの植物由来β−グルカン含有シロップに対して、その実施例1〜実施例3の植物由来β−グルカン含有シロップでは、粘度が3,100cP〜9,900cPと低い値を示しており、食品や飲料の原料としても非常に優れた特性を有していることが分かった。
【0091】
また、
図3は、実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップにおける各Brixと粘度との関係を測定した結果を示す図である。これによると、上記で説明したBrixが70%以上であっても、10,000cP以下の適度な粘度を有している。
【0092】
さらに、例えば食品や飲料の原料としての用途への適用を考慮した場合、当然、実施例2〜
3、及び参考例Aの植物由来β−グルカン含有シロップも食品や飲料の原料としての用途として、十分利用しうるものであるが、実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップを用いることが特に好ましい。
【0093】
糖化工程でより多量のグルコアミラーゼを添加した実施例3の植物由来β−グルカン含有シロップでは、単糖類を多量に含んでいることからBrixを高めると糖類が析出する可能性が考えられる。また、糖化工程でより少量のグルコアミラーゼを添加した実施例2、及び全く添加しなかった
参考例Aの植物由来β−グルカン含有シロップは、実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップに対して、二糖類以上の糖類を多量に含んでいることから、実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップと比較すると、その粘度が若干高い。
【0094】
従って、糖化工程で0.2%〜2.5%の範囲にあるグルコアミラーゼを添加した実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップが適度な粘度を有しており、食品や飲料の原料としての用途として特に優れていることが分かった。
【0095】
<ミセル化阻害能の評価方法>
上記製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップのコレステロールのミセル化阻害能の評価は、Nagaoka et al., The Journal of Nutrition(1999), vol.129, pp.1725−1730に記載の方法を適宜改変して行った。具体的には、以下の各工程を通じて行った。
1.ミセル溶液の調製
上記製造方法によって得られた植物由来β−グルカン含有シロップのコレステロールのミセル化阻害能を評価するために用いるミセル溶液は、以下の通り調製した。
【0096】
【表4】
【0097】
ミセル溶液は、15mMリン酸緩衝液(pH7.4)を250mL添加して表4に記載の各試薬を所定の終濃度になるようにガラスボトル中で調製した。そして、超音波洗浄機(商品名「UT−604」:シャープ社製)に溶液の入ったガラスボトルをいれ、30分間、上記試薬を超音波で完全に分散させた。
【0098】
2.植物由来β−グルカン含有シロップからのβ−グルカンの抽出方法
実施例1で調製した植物由来β−グルカン含有シロップから、上記「β−グルカンの抽出方法及びその分子量の測定方法」の項で記載した方法を用いて、β−グルカンを抽出した。硫安沈殿及びエタノール洗浄後のβ−グルカンのペレットを−80℃で約2時間保存し、凍結させた。その後、凍結乾燥機(商品名「FreeZone(登録商標)」:ラブコンコ社製)により0.133m Bar以下の真空度で20時間以上ペレットを凍結乾燥した。
【0099】
3.標品由来のβ−グルカン溶液の調製
大麦由来のβ−グルカン標品(Sigma Aldrich社製)を純水で溶解し、1%の溶液を複数準備した。次に、リケナーゼ(EC3.2.1.73:Megazyme社製)を0.125及び1.0Uそれぞれの溶液に添加して、各溶液ごとに決められた時間だけ38℃で反応を行い、その時間が経過後直ちに90℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。各実施例に用いた酵素量及び反応時間を表5に記載した。なお、得られた各反応液は、ゲル濾過クロマトグラフィーでその分子量分布を測定した。その測定は、「β−グルカンの抽出方法及びその分子量の測定方法」の項で記載した方法と同じ方法で行った。
【0100】
4.ミセル化阻害能の評価試験
植物由来β−グルカン含有シロップから抽出したβ−グルカン凍結乾燥粉末2.5mgを純水0.25gに懸濁したもの、及びβ−グルカン標品を上記方法により酵素分解した1%β−グルカン溶液0.25gを15mLチューブに入れ、ミセル溶液を4.75g添加してβ−グルカン終濃度0.05%(W/W)とした。なお、このとき、ポジティブコントロールとして既にコレステロール吸収阻害能が確認されている大麦由来のβ−グルカン標品(Sigma Aldrich社製)2.5mgを純水0.25gに懸濁したものをミセル溶液と混合した。ネガティブコントロールとしてグルコース2.5mgを純水0.25gに懸濁したものをミセル溶液と混合した(比較例2)。また、ブランクとして純水0.25gをミセル溶液と混合した(比較例3)。
【0101】
その後、各溶液は、超音波洗浄機(商品名「UT−604」:シャープ社製)で30分間超音波処理により、完全に分散させた後、37℃で24時間インキュベートした。その後、各反応液をスイングローター(商品名「SW28」:ベックマンコールター社製)、遠心分離機(商品名「L7−55」:ベックマンコールター社製)を用いて、20,000rpm(100,000g)で60分間遠心分離した。各反応液の上層200μLを分取し、3mLの発色液(商品名「遊離コレステロールE−テストワコー」:和光純薬工業社製)をその分取液に添加した。添加後の溶液を37℃で5分間インキュベートし、その後、分光光度計(商品名「BioSpec−mini」:島津製作所社製)を用いて、600nmで吸光度測定して遊離コレステロール濃度を算出した。
【0102】
[実施例5]
実施例5として、植物由来β−グルカン含有シロップから、上記「2.植物由来β−グルカン含有シロップからのβ−グルカンの抽出方法」の項で説明した方法で抽出したβ−グルカンを用いて、「4.ミセル化阻害能の評価試験」の項に記載の方法で、そのミセル化阻害能を評価した。
【0103】
[実施例6]〜[実施例11]
また、実施例6として、上記「3.標品由来のβ−グルカン溶液の調製」の項で説明した方法に従い、大麦由来のβ−グルカン標品を、表5に記載のリケナーゼ添加量及び反応時間でリケナーゼと反応させ、同じく表5に記載の重量平均分子量を示すβ−グルカンを調製した。そして、このβ−グルカンを用いて、「4.ミセル化阻害能の評価試験」の項に記載の方法で、そのミセル化阻害能を評価した。同様に、実施例7〜実施例11として、表5に記載のリケナーゼ添加量及び反応時間で、同じく表5に記載の重量平均分子量の各β−グルカンを調製し、各β−グルカンにおけるミセル化阻害能を評価した。
【0104】
[参考例1]〜[参考例3]
参考例1として、上記「3.標品由来のβ−グルカン溶液の調製」の項で説明した方法に従い、大麦由来のβ−グルカン標品を、表5に記載のリケナーゼ添加量及び反応時間でリケナーゼと反応させ、実施例5〜実施例11で用いたβ−グルカンと比して、より重量平均分子量が大きいβ−グルカンを調製した。その具体的な重量平均分子量は表5に記載の通りである。そして、このβ−グルカンを用いて、β−グルカンのミセル化阻害能を評価した。また、同様に、参考例2及び参考例3として、表5に記載のリケナーゼ添加量及び反応時間で、同じく表5に記載の重量平均分子量の各β−グルカンを調製し、各β−グルカンのミセル化阻害能を評価した。
【0105】
[比較例2]及び[比較例3]
さらに、比較例2として、「4.ミセル化阻害能の評価試験」の項で記載したとおり、β−グルカンに代えて、グルコース2.5mgを純水0.25gに懸濁したものをミセル化阻害能の評価試験に用いた。また、比較例3として、β−グルカンに代えて、純水0.25gをミセル化阻害能の評価試験に用いた。
【0106】
表5は、実施例5〜実施例11、並びに、参考例1〜参考例3、比較例2及び比較例3における各ミセル化阻害能を、遊離コレステロール濃度(mg/dL)に基づいて評価した結果を示す。
【0107】
【表5】
【0108】
表5によると、より小さい重量平均分子量(13,000)である、実施例5の植物由来β−グルカン含有シロップから抽出したβ−グルカンにおいても、ネガティブコントロールとして用いた比較例2及び比較例3に対して、より高い遊離コレステロール濃度(59.4mg/dL)を示した。同様に、本発明に係るβ−グルカンの重量平均分子量は、好ましくは2,500〜40,000であるところ、実施例6〜実施例11の重量平均分子量を示すβ−グルカンにおいても、ネガティブコントロールとして用いた比較例2及び比較例3に対して、より高い遊離コレステロール濃度を示した。
【0109】
また、従来から非常に大きい重量平均分子量のβ−グルカン(例えば、参考例3)はミセル化阻害能を有することが報告されていた。これは参考例3において高い遊離コレステロール濃度が測定されたことにも合致する。一方で、実施例5〜実施例11においては、重量平均分子量が実施例5〜実施例11のβ−グルカンよりも大きい参考例1及び参考例2と比べても、同等又はそれ以上の遊離コレステロール濃度を示した。
【0110】
すなわち、本発明のように、2,500〜40,000の重量平均分子量であるβ−グルカンであっても、従来報告されていたような非常に高い重量平均分子量(300,000以上)であるβ−グルカンと同様に、コレステロールが胆汁酸ミセルに取り込まれて新たなミセルを形成し小腸に吸収されることを阻害しうることが示唆された。
【0111】
<血糖値上昇抑制能の評価試験>
1.植物由来β−グルカン(重量平均分子量:12,000)含有シロップの調製
植物由来β−グルカン(重量平均分子量:12,000)含有シロップの調製においては、原料となる大麦粉砕物溶液を大麦粉砕物が20%となるように純水中に分散させて調製した点を除いて、上記実施例1の植物由来β−グルカン含有シロップの調製方法に従って調製した(実施例1では大麦粉砕物が30%となるように純水に混合した)。そして、最終的に、植物由来β−グルカン含有(重量平均分子量:12,000、可溶性固形分全体に対して4.0質量%)シロップを得た。
【0112】
2.植物由来β−グルカンを含有しないシロップの調製
植物由来β−グルカンを含有しないシロップの調製においては、原料となる大麦粉砕物溶液を大麦粉砕物が20%となるように純水中に分散させて調製した点、またβ−グルカン分解酵素(EC3.2.1.73)である商品名「Finizym(登録商標)250L」(Novozymes社製)の添加量を上記実施例1の調製方法の10倍量(原料に対する質量基準(W/W)で0.052%の濃度)で反応液中に添加した点、以外は全て上記実施例1の調製方法に従って調製した。そして、最終的に、植物由来β−グルカンを含有しない(可溶性固形分全体に対して0.2質量%)シロップを得た。
【0113】
3.植物由来β−グルカン(重量平均分子量:81,000)含有シロップの調製
植物由来β−グルカン(重量平均分子量:81,000)含有シロップの調製においては、原料となる大麦粉砕物溶液を大麦粉砕物が20%となるように純水中に分散させて調製した点、またβ−グルカン分解酵素(EC3.2.1.73)である商品名「Finizym(登録商標)250L」(Novozymes社製)の添加量を上記実施例1の調製方法の1/2倍量(原料に対する質量基準(W/W)で0.0026%の濃度)で反応液中に添加した点、以外は全て上記実施例1の調製方法に従って調製した。そして、最終的に、植物由来β−グルカン含有(重量平均分子量:81,000、可溶性固形分全体に対して3.9質量%)シロップを得た。
【0114】
[実施例12]及び[実施例13]
健常者2名(いずれもヒト)を被験者(被験者A:HbA1cのNGSP値5.1%、被験者B:HbA1cのNGSP値5.1%)として、以下の試験方法にしたがって、上記1で調製した植物由来β−グルカン(重量平均分子量:12,000)含有シロップの血糖値上昇抑制能の評価試験を行った。なお、被験者Aによる評価試験の結果を実施例12と、被験者Bによる評価試験の結果を実施例13とした。
【0115】
まず、各被験者に対して、当該試験の実施日前日の午後9時以降は、水以外の飲食は控えさせた。次に、早朝空腹時の血糖値を測定後、上記1で調製した植物由来β−グルカン(重量平均分子量:12,000)含有シロップを、最初の食事(ファーストミール)として、糖質50g(当該糖質中にβ−グルカン2.1gを含む)となる量摂取させた。そして、当該摂取後、30分、60分、90分、120分、150分における血糖値をそれぞれ測定した。さらに、昼食前空腹時(シロップ摂取後240分)の血糖値を測定後、セカンドミールとして米飯150g(糖質52g)を摂取させ、シロップ摂取後270分、300分、330分、360分での血糖値をそれぞれ測定した。上記評価試験において、血糖値は酵素法(ヘキソキナーゼ法)及び自動分析装置(ベックマン・コールター社製)を用いて測定した。なお、上記評価試験の間、被験者には座位安静を維持させた。上記評価試験によって、健常者2名から得られた血糖値の測定結果を、それぞれ表6並びに
図4及び
図5に示した。
【0116】
[比較例4]及び[比較例5]
上記実施例12及び実施例13と同じ健常者2名を被験者(被験者A及び被験者B)として、被験者ごとに上記2で調製したシロップを糖質50g(当該糖質中にβ−グルカン0.1gを含む)となる量摂取させ、血糖値上昇抑制能の評価試験を行った。そして、被験者Aによる評価試験の結果を比較例4と、被験者Bによる評価試験の結果を比較例5として、それぞれ表6並びに
図4及び
図5に示した。
【0117】
なお、比較例4及び比較例5における試験方法は、各被験者に摂取させるシロップとして、上記2で調製した植物由来β−グルカンを含有しないシロップを用いた以外は、上記実施例12及び実施例13における試験方法と同じ方法で実施した。また、上記実施例12及び実施例13の試験実施日から十分な期間(5日以上)をあけて当該評価試験を行った。
【0118】
[比較例6]及び[比較例7]
上記実施例12及び実施例13と同じ健常者2名を被験者(被験者A及び被験者B)として、被験者ごとに上記3で調製したシロップを糖質50g(当該糖質中にβ−グルカン2.0gを含む)となる量摂取させ、血糖値上昇抑制能の評価試験を行った。そして、被験者Aによる評価試験の結果を比較例6と、被験者Bによる評価試験の結果を比較例7として、それぞれ表6並びに
図4及び
図5に示した。
【0119】
なお、比較例6及び比較例7における試験方法は、各被験者に摂取させるシロップとして、上記3で調製した植物由来β−グルカン(重量平均分子量:81,000)含有シロップを用いた以外は、上記実施例12及び実施例13における試験方法と同じ方法で実施した。また、上記実施例及び比較例の試験実施日から十分な期間(5日以上)をあけて当該評価試験を行った。
【0120】
【表6】
【0121】
図4及び
図5は、それぞれ、被験者A又は被験者Bにおいて摂取された各シロップの血糖値上昇抑制能の評価試験結果を示す図である。また、表6は、被験者A及び被験者Bにおいて摂取された各シロップにおける、血糖値上昇抑制能の評価試験で得られた具体的な血糖値を示す。これによれば、被験者A及び被験者Bのいずれにおいても、植物由来β−グルカン(重量平均分子量12,000)含有シロップを早朝空腹時にファーストミールとして摂取させた場合(実施例12及び実施例13)、植物由来β−グルカンを含有しないシロップをファーストミールとして摂取させた場合に比べて(比較例4及び比較例5)、血糖値の上昇が顕著に抑制された。さらに、セカンドミールとして米飯を摂取させた後も、ファーストミールとして植物由来β−グルカン(重量平均分子量12,000)含有シロップを摂取させた場合の方が(実施例12及び実施例13)、植物由来β−グルカンを含有しないシロップを摂取させた場合に比べて(比較例4及び比較例5)、血糖値の上昇の抑制が持続され、いわゆるセカンドミール効果が確認された。
【0122】
なお、植物由来β−グルカン(重量平均分子量81,000)含有シロップを摂取させた比較例6及び比較例7においても、実施例12及び実施例13と同様に、植物由来β−グルカンを含有しないシロップを摂取させた比較例4及び比較例6に対して、血糖値の上昇抑制が確認された。しかし、植物由来β−グルカン(重量平均分子量81,000)含有シロップよりも、実施例12及び実施例13で用いたより重量平均分子量の小さい植物由来β−グルカン(重量平均分子量12,000)含有シロップの方が、実施例1〜4及び比較例1で確認されたとおり、高いBrixを有するので微生物増殖リスクも低く、かつ適度な粘度を有しており、食品や飲料用途においてより望ましい。