【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[液体炭化水素油の調製]
チオシアン酸カリウムに濃硫酸を接触させてCOSを発生させた。このCOSを、ヘキサンに接触させ、ヘキサンに吸収させた。このヘキサンをヘキサンで希釈することにより、COSを含有量するヘキサン(液体炭化水素油)を調製した。
【0041】
上記の液体炭化水素油の組成をGC−SCDによって分析した。GC−SCDとは、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph)の検出器として化学発光硫黄検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector)を接続した分析装置である。GC−SCDは、以下の条件下で行った。GC−SCDによって測定された液体炭化水素油のクロマトグラムを
図1に示す。液体炭化水素油中のCOSの含有量は257μg/mlであった。液体炭化水素油中のH
2Sの含有量は0μg/mlであった。
【0042】
カラム:メチルシリコン系液相(シグマアルドリッチ社製、Equity-1;OV−1相当、長さ100m×内径0.25mm×膜厚1.0μm)
注入口温度:250℃(一定)
スプリット比:100:1
キャリアーガス:水素(流量:2.0ml/min)
GC−SCD:(Agilent Technologies社製 GC7890A、同社製 (SCD)Agilent355)
カラム昇温パターン:40℃で5分間維持した後、5℃/minで昇温し、320℃で61分間維持した。
【0043】
[MEA水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でMEAと混合し、MEAの含有量が20質量%であるMEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0044】
[DEA水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でDEAと混合し、DEAの含有量が20質量%であるDEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0045】
[ジイソプロパノールアミン(DIPA)水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でDIPAと混合し、DIPAの含有量20質量%であるDIPA水溶液(吸収液)を調製した。
【0046】
[メチルジエタノールアミン(MDEA)水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でMDEAと混合し、MDEAの含有量が20質量%であるMDEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0047】
[実施例1]
以下の吸収実験を行った。なお、大気中の酸素及び二酸化炭素が実験結果に影響することを防止するために、窒素雰囲気下で下記の実験を行った。
【0048】
COSを含有する上記ヘキサン(液体炭化水素油)20g、及びMEA水溶液(吸収液)20gを、50mlのスクリュー瓶に入れて、スクリュー瓶に蓋をした。このスクリュー瓶を手で振って、スクリュー瓶内の液体炭化水素油及び吸収液を10分間撹拌した。攪拌後のスクリュー瓶を約1時間静置した。スクリュー瓶内の混合液が油相及び水相に分離されていることを確認した。油相及び水相其々をスクリュー瓶から採取した。
【0049】
スクリュー瓶から採取された油相試料を、前処理することなく、上記と同様のGC−SCDで分析した。GC−SCDで測定された実施例1の油相試料のクロマトグラムを
図2に示す。GC−SCDにより、油相試料に残留しているCOS及びH
2Sを定量した。油相試料中のCOSの含有量を、下記表1に示す。油相試料中のH
2Sの含有量を、下記表1に示す。
【0050】
下記式1によって算出された実施例1の除去率を、下記表1に示す。
除去率(%)={(D
0−D
1)/D
0}×100 (1)
式1中、D
0とは、吸収実験前に測定された液体炭化水素油中のCOSの含有量である。つまり、D
0は、257μg/mlである。D
1とは、吸収実験によって得られた油相試料中のCOSの含有量である。
【0051】
スクリュー瓶から採取された水相を、減圧乾燥器にて減圧下、40℃、6時間加熱し、水相中の水分を除去した。水分の除去後に残留した物質をエタノールに溶解して、水相試料を調製した。水相試料をGC−MSで分析した。GC−MSとは、ガスクロマトグラフ−質量分析(Mass Spectrometry)である。GC−MSは、以下の条件下で行った。GC−MSによって測定された水相試料のクロマトグラムを
図6(a)及び
図6(b)に示す。
図6(a)及び
図6(b)は、其々横軸のスケールが異なるが、同一の水相試料のクロマトグラムである。
【0052】
カラム:メチルシリコン系液相(シグマアルドリッチ社製、Equity-1;OV−1相当、長さ100m×内径0.25mm×膜厚1.0μm)
注入口温度:280℃(一定)
キャリアーガス:ヘリウム(流量:1.5ml/min)
GC−MS装置:(Agilent Technologies社製 GC6890N、同社製 (MS)5975B)
イオン化法:電子イオン化(EI)
カラム昇温パターン:40℃で5分間維持した後、5℃/minで昇温し、320℃で61分間維持した。
【0053】
GC−MSに基づき、水相試料中のH
2Sの有無を調べた。もし液体炭化水素油中のCOSがMEA水溶液に吸収される場合、COSの少なくとも一部は分解してH
2S及びCO
2が生成しているはずである。そして、H
2S及びCO
2は、液体炭化水素油及びMEA水溶液の混合液における水相に吸収され、水相中においてH
2SはMEAと結合しているはずである。H
2SがMEAと結合している場合、GC−MS装置の試料導入部が250℃以上に加熱されているため、試料導入部においてH
2SがMEAから分離され、検出器ではH
2Sが検出されるはずである。以上の原理に基づき、水相中のH
2Sの有無を判断した。実施例1の水相試料中のH
2Sの有無を、下記表1に示す。
【0054】
[実施例2]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のDEA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0055】
[比較例1]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のDIPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0056】
[比較例2]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のMDEA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0057】
実施例2の油相試料のクロマトグラムを
図3に示す。比較例1の油相試料のクロマトグラムを
図4に示す。比較例2の油相試料のクロマトグラムを
図5に示す。実施例2並びに比較例1及び2其々の油相試料中のCOSの含有量を、下記表1に示す。実施例2並び比較例1及び2其々の油相試料中のH
2Sの含有量を、下記表1に示す。
【0058】
実施例2並びに比較例1及び2其々の除去率を、下記表1に示す。
【0059】
実施例2の水相試料のクロマトグラムを
図7に示す。比較例1の水相試料のクロマトグラムを
図8に示す。比較例2の水相試料のクロマトグラムを
図9に示す。実施例2並び比較例1及び2其々の水相試料中のH
2Sの有無を、下記表1に示す。下記表1において「有」とは、水相試料中にH
2Sが存在していることを意味する。下記表1において「無」とは、水相試料中にH
2Sが存在しないことを意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
GC−SCDを用いた分析の結果、全の実施例及び比較例の油相試料中のCOSの含有量は、吸収実験前の液体炭化水素油中のCOSの含有量(257μg/ml)よりも低いことが確認された。つまり、全の実施例及び比較例の吸収実験において、COSが液体炭化水素油から除去されていることが確認された。
【0062】
全実施例の油相試料中のCOSの含有量は、全比較例のCOSの含有量よりも少ないことが確認された。全実施例の除去率は全比較例の除去よりも高いことが確認された。つまり、実施例1及び2で用いた吸収液は、比較例1及び2の吸収液に比べて、より多量のCOSを液体炭化水素油から除去したことが確認された。
【0063】
GC−SCDを用いた分析の結果、吸収実験前の液体炭化水素油、及び吸収実験で得られた油相試料のいずれにおいても、H
2Sは存在していないことが確認された。
【0064】
実施例1の水相試料のクロマトグラムにはH
2Sのピークがあることが確認された。一方、実施例2並びに比較例1及び2のクロマトグラムにおいては、明確なH
2Sのピークはなかった。これらの分析結果から、MEA水溶液は、液体炭化水素油中の一部のCOSをH
2Sに分解したことが確認された。