特許第6648980号(P6648980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6648980液体炭化水素油中の硫化カルボニルを除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6648980
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】液体炭化水素油中の硫化カルボニルを除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 19/02 20060101AFI20200210BHJP
   C07C 7/10 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   C10G19/02
   C07C7/10
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-86117(P2015-86117)
(22)【出願日】2015年4月20日
(65)【公開番号】特開2016-204485(P2016-204485A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】港谷 昌成
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−537302(JP,A)
【文献】 特開昭55−027102(JP,A)
【文献】 特表2006−523255(JP,A)
【文献】 特開昭48−064002(JP,A)
【文献】 特開昭62−106987(JP,A)
【文献】 特開昭56−004688(JP,A)
【文献】 米国特許第02311342(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
C07C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素油を吸収液に接触させることにより、前記液体炭化水素油に含まれる硫化カルボニルを硫化水素に分解し、前記硫化水素を前記吸収液に吸収させることにより、前記硫化カルボニルを前記液体炭化水素油から除去する吸収工程を備え、
前記吸収工程の後、前記吸収液を加熱して前記硫化水素を前記吸収液から放出させる再生工程を更に備え、
前記吸収液が、モノエタノールアミンを15〜40質量%含有する水溶液であり、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有する、
液体炭化水素油中の硫化カルボニルを除去する方法。
【請求項2】
前記再生工程において加熱された前記吸収液を、前記吸収工程における吸収液として再利用する再利用工程を更に備える、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体炭化水素油中の硫化カルボニルを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油化学原料としてのプロピレンの需要が増加している。需要の増加を受けて、重質油の接触分解生成物から得られるC3留分の分離等によって、プロピレンの供給量が確保されている。しかし、このようにして得られるプロピレンは、硫黄化合物等の不純物を多量に含有しており、特に数ppmないし数十ppmの硫化カルボニル(化学式:COS)を含有している。
【0003】
プロピレンの特定の用途(例えば、プロピレン及びベンゼンを用いたキュメンの製造)では、プロピレンに混入したCOSによって触媒(例えば、酸触媒)が被毒してしまう。このようなプロピレン中の不純物に起因する問題を解決するために、従来、プロピレン中の不純物は、蒸留によって分離・除去されてきた。しかし、COSの沸点(−50.2℃)はプロピレンの沸点(−47.7℃)に近いので、蒸留等の沸点差に基づく方法によってCOSをプロピレンから分離・除去することは非常に困難である。同様の問題は、プロピレン以外の炭化水素油においてもある。
【0004】
蒸留以外にも、炭化水素油中に存在するCOSを除去する方法はある。例えば、従来、炭化水素油を吸着剤と接触させる方法が検討され、工業的に実用化されている。例えば、下記特許文献1は、液体状のプロピレンを0〜100℃の温度で酸化亜鉛と接触させて、プロピレン中のCOSを除去する方法を開示している。また、下記特許文献2は、液体状のプロピレンを0〜80℃の温度で酸化銅及び酸化亜鉛に接触させて、プロピレン中の一酸化炭素(CO)及びCOSを同時に除去する方法を開示している。
【0005】
また、COSを硫化水素(HS)に分解し、このHSを吸着剤で除去する方法も知られている。例えば、下記特許文献3及び4は、COS及びシアン化水素(HCN)を含む混合ガスを、スチームとともに、金属を含む固体触媒に接触させる方法を開示している。
【0006】
さらに、炭化水素油中に存在する硫黄化合物をHSに分解し除去する方法も知られている。例えば、下記特許文献5は、300℃程度の温度下で、炭化水素油及び水素の混合物を固体触媒に接触させる水素化脱硫が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−60945号公報
【特許文献2】特開平5−70375号公報
【特許文献3】特開2000−051694号公報
【特許文献4】特開2003−135959号公報
【特許文献5】特開2010−209296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2の方法では、酸化亜鉛及びHSの化学反応により硫化亜鉛が形成される。この反応により、理論上の吸着容量分の硫黄を吸着剤(酸化亜鉛に由来する亜鉛)に吸着させることが可能である。しかし、酸化亜鉛がCOSと接触しても、両物質の反応は十分に進行しない。その結果、理論上の吸着容量に満たないわずかな硫黄が吸着剤に吸着するに過ぎない。また、吸着剤の寿命が短い。吸着剤の吸着容量が小さく、その寿命が短いため、吸着剤の交換頻度が多くなってしまう。
【0009】
上記特許文献3及び4の方法では、スチームによる加水分解により、COSをHSと二酸化炭素(CO)とに分解する。この方法は、ガスタービン発電に使用される混合ガス中のCOSをHSに分解するための方法であり、110〜250℃の反応温度を必要とする。したがって、特許文献3及び4の方法を液体炭化水素油に応用する場合、液体炭化水素油の加熱により、炭化水素油が気化してしまう。よって、気化された炭化水素油を再液化する工程も必要である。以上のように、上記特許文献3及び4の方法の場合、液体炭化水素油からCOSを除去するために要する工程が複雑である。また、COSの除去に多大なエネルギー(熱)が消費される。COSの除去に要する設備にコストもかかる。
【0010】
上記特許文献5の方法は、COSに限らず硫黄化合物全般の分解に適用できる。しかし、上記特許文献5の方法は、大がかりな設備を要する。したがって、特許文献5の方法を、プロパン又はプロピレン等の軽質炭化水素油中のCOSの分解に適用するためには、コストがかかり過ぎる。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み、液体の炭化水素油に含まれる硫化カルボニルを容易に除去することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、液体炭化水素油中に存在する硫化カルボニルの除去方法について、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ある特定のアルカノールアミンの水溶液と、液体炭化水素油とを接触させることにより、液体炭化水素油に含まれるCOSを除去し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、液体炭化水素油を吸収液に接触させることにより、液体炭化水素油に含まれる硫化カルボニルを液体炭化水素油から除去する吸収工程を備え、吸収液が、モノエタノールアミン又はジエタノールアミンのうち少なくとも一方の水溶液である、液体炭化水素油中のCOSを除去する方法を提供する。以下では、モノエタノールアミンを、「MEA」という場合がある。ジエタノールアミンを、「DEA」という場合がある。
【0014】
吸収液がMEAの水溶液である場合、吸収工程では、硫化カルボニルを硫化水素に分解し、硫化水素を吸収液に吸収させてよい。
【0015】
吸収液がMEAの水溶液である場合、本発明に係る上記方法は、吸収工程の後、吸収液を加熱して硫化水素を吸収液から放出させる再生工程を更に備えていてもよい。
【0016】
吸収液がMEAの水溶液である場合、本発明に係る上記方法は、再生工程において加熱された吸収液を、吸収工程における吸収液として再利用する再利用工程を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液体の炭化水素油に含まれるカルボニルを容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】吸収実験前の液体炭化水素油のクロマトグラムである。
図2】MEA水溶液を用いた吸収実験で得られた油相試料のクロマトグラムである。
図3】DEA水溶液を用いた吸収実験で得られた油相試料のクロマトグラムである。
図4】ジイソプロパノールアミン(DIPA)水溶液を用いた吸収実験で得られた油相試料のクロマトグラムである。
図5】メチルジエタノールアミン(MDEA)水溶液を用いた吸収実験で得られた油相試料のクロマトグラムである。
図6図6中の(a)、及び図6中の(b)は、MEA水溶液を用いた吸収実験で得られた水相試料のクロマトグラムである。
図7】DEA水溶液による吸収実験で得られた水相試料のクロマトグラムである。
図8】DIPA水溶液による吸収実験で得られた水相試料のクロマトグラムである。
図9】MDEA水溶液による吸収実験で得られた水相試料のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0020】
本実施形態に係る方法は、液体炭化水素油中の硫化カルボニル(COS)を除去する方法であり、以下に詳述する吸収工程を備える。
【0021】
吸収工程では、液体炭化水素油を吸収液に接触させ、液体炭化水素油に含まれるCOSを液体炭化水素油から除去する。液体炭化水素油に含まれるCOSそのものが、吸収液に吸収されてもよく、COSの化学的変化によって生じた物質が、吸収液に吸収されてもよい。
【0022】
COSは、常温常圧で無色の気体である。COSは、石油精製等による液体炭化水素油の製造に伴って副生される。COSは、例えば、炭化水素ガスの液化に伴って、炭化水素に取り込まれる。または、液体炭化水素油がCOS含有ガスと接触するにより、COSが液体炭化水素油に溶解することもある。
【0023】
液体炭化水素油は、COSを含有する液体炭化水素であれば、特に制限されるものではない。液体炭化水素油は、例えば、天然ガス又は石油随伴ガスから得られる炭化水素の留分であってよい。液体炭化水素油は、炭素数が5以上であり、沸点が180℃以下である留分であってよい。このような液体炭化水素油は、例えば、常圧蒸留装置を用いた炭化水素の分留によって得られる。液体炭化水素油を、原油の分留によって得てもよい。常温常圧で気体である炭化水素を、加圧して液化することにより、液体炭化水素油として用いてもよい。常温常圧で気体である炭化水素とは、例えば、プロパン、プロピレン、ブタン及びブチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。これらの炭化水素ガスは、天然ガスであってもよく、流動接触分解装置(FCC装置)から生産されるガスであってもよい。液体炭化水素油中のCOSの含有量は、液体炭化水素油の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば数質量ppm〜100質量ppm、数μg/ml〜60μg/mlであってよい。
【0024】
本実施形態で用いる吸収液は、MEA又はDEAのうち少なくとも一方を含む水溶液である。吸収液は、MEAのみを含む水であってよい。DEAのみを含む水であってもよい。MEA及びDEAの両方を含む水であってもよい。以下、液体炭化水素油に含まれるCOSを吸収液によって除去する機構について説明する。
【0025】
吸収液としてMEA水溶液を用いる場合、COSが液体炭化水素油から除去される機構は、例えば以下の2つの化学反応式によって表される。ただし、以下の化学反応式は本発明者らの推察に基づくものであり、COSの除去機構は、下記に限定されるものではない。
【化1】
【0026】
液体炭化水素油を吸収液に接触させると、液体炭化水素油(油相)とMEA水溶液(水相)との界面付近において、上記のようにCOSとMEA(NH−(CH−OH)とが接触して反応する。その結果、2−オキサゾリドン又はエタノールウレア(ウレア型生成物)、並びにHS及びCOが生成する。なお、上記化学反応式中では、COを省略している。2−オキサゾリドン又はウレア型生成物は、界面を通じて油相から水相へ移動する。HS及びCOは弱酸性を有し、MEA水溶液は弱塩基性を有する。したがって、HS及びCOはMEAと中和反応を起こす。HSは、中和反応により、硫化水素イオン(HS)となり、水相へ吸収される。COは、中和反応により、炭酸水素イオン(HCO)となり、水相へ吸収される。以上の機序により、液体炭化水素油中のCOSが除去される。上記化学反応式が示す通り、MEA水溶液によるCOSの除去は、COSの化学的変化(分解)を伴う。つまり、必ずしも全てのCOSが、その分子構造を維持した状態で、MEA水溶液へ吸収されるわけではない。もちろん、少なくとも一部のCOSは、その分子構造を維持した状態で、MEA水溶液へ吸収されてよい。以下では、COSの「分解」又は「除去」と、COSの「吸収」とを、必ずしも区別しない。
【0027】
吸収液におけるMEAの含有量は、特に制限されない。吸収液におけるMEAの含有量は、例えば、5〜50質量%であってよい。MEAの含有量が5質量%以上であれば、吸収液によるCOSの吸収が促進され易い。一方、MEAの含有量が50質量%以下であれば、吸収液の粘度の低下により、吸収液を操作し易くなり、液液分離(油相及び水相の分離)等の作業効率が向上する。同様の理由から、吸収液におけるMEAの含有量は、15〜40質量%であってもよい。
【0028】
吸収液がMEA水溶液である場合、上述した吸収工程の後に、再生工程を行ってもよい。再生工程では、MEA水溶液を加熱することにより、MEA水溶液中の弱酸性成分(HS及びCO)をMEA水溶液から放出させる。その結果、MEAは、弱酸性成分に供されず、COSの分解反応へ供される。以上のように、「再生」とは、MEA水溶液から弱酸性成分を除去することより、弱酸性成分及びMEAの中和反応を抑制することを意味する。再生工程におけるMEA水溶液の加熱温度は、特に制限されないが、100〜140℃であってよい。加熱温度が100℃以上であれば、上記弱酸性成分の放出(MEA水溶液の再生)が促進され易い。加熱温度が140℃以下であれば、MEA水溶液の変質及び装置の腐食が抑制され易い。ここで装置とは、本実施形態に係る方法を実施するための反応器と言い換えてよい。
【0029】
吸収液がMEA水溶液である場合、上述した再生工程の後、再利用工程を行ってもよい。再利用工程では、再生工程において加熱されたMEA水溶液を、吸収工程における吸収液として再利用する。つまり、再利用工程では、液体炭化水素油を、再生されたMEA水溶液に接触させる。その結果、液体炭化水素油中のCOSが、再生後のMEA水溶液によって除去する。再生工程及び再利用工程を実施することにより、MEA水溶液の消耗が抑制され、新しいMEA水溶液(未使用のMEA水溶液)の補充量を減らせる。
【0030】
吸収液として、MEA水溶液ではなくDEA水溶液を用いる場合、液体炭化水素油に含まれるCOSは、DEA水溶液に接触してDEAと化学的に作用し、DEA水溶液中に吸収される。しかし、DEA水溶液を用いた場合、COSは必ずしもHS及びCOに分解されない。
【0031】
吸収液におけるDEAの含有量は、特に制限されない。吸収液におけるDEAの含有量は、例えば、3〜50質量%であってよい。DEAの含有量が3質量%以上であれば、吸収液によるCOSの吸収が促進され易い。一方。DEAの含有量が50質量%以下であれば、吸収液の粘度の低下により、吸収液を操作し易くなり、液液分離(油相及び水相の分離)等の作業効率が向上する。同様の理由から、吸収液におけるDEAの含有量は、5〜40質量%であってよい。
【0032】
液体炭化水素油と吸収液との混合比率は、液体炭化水素油中のCOSの含有量に応じて調整すればよく、特に限定されない。吸収液中のMEA又はDEAのモル数がAであり、液体炭化水素油中のCOSのモル数がBである場合、B/Aが0.1〜0.6となるように、液体炭化水素油及び吸収液それぞれの量を調整してよい。B/Aが小さ過ぎると、吸収液の量が過大になる傾向がある。一方、B/Aが大き過ぎると、吸収液によるCOSの吸収の効率が低下する傾向がある。
【0033】
液体炭化水素油と吸収液とを接触させ、混合させる方法は、特に限定されない。例えば、ラインミキサー、又は機械的撹拌機等の種々の接触方法及び混合方法を用いてよい。特に、オリフィス又はバッフルミキサーによって、液体炭化水素油と吸収液とを接触させ、混合させた場合、COSの吸収効率が向上し易い。液体炭化水素油と吸収液とを接触させ、混合する時の温度(接触・混合温度)は、特に限定されない。接触・混合温度は、例えば、20〜60℃であってよい。接触・混合温度が20℃以上であれば、COSの吸収効率が向上し易い。接触・混合温度が60℃以下であれば、MEA又はDEAの劣化が抑制され易く、副反応も抑制され易い。ここで副反応とは、微量の酸素によるMEA又はDEAの酸化劣化、及びMEA又はDEAと酸性ガスとの接触による熱安定性アミンの生成である。同様の理由から、接触・混合温度は、40〜60℃であってもよい。接触・混合後の液体炭化水素油及び吸収液を一定時間静置することで、油水分離が起こり、上記の通り、油相中のCOSが水相へ吸収される。
【0034】
以上の本実施形態に係る方法によれば、液体炭化水素油中に存在するCOSを、簡便な操作により効率良く除去することができる。具体的には、上記の方法は、スチームによるCOSガスの加水分解によりHSガスを生成させるのではなく、液体(液体炭化水素油)中のCOSを別の液体(吸収液)へ吸収させるものである。したがって、本実施形態に係る方法においては、高温におけるCOSの加水分解のために液体炭化水素油を気化させたり、COSの分解後に炭化水素油を再液化させたりする必要がない。
【0035】
MEA又はDEA等のアルカノールアミンは、常温において固体であったり、粘度の高い液体であったりする。したがって、アルカノールアミンそのものを万遍無く液体炭化水素油と接触させたり混合したりすることは容易ではない。したがって、アルカノールアミンだけを用いて液体炭化水素油中のCOSを除去することは困難である。一方、本実施形態に係る方法においては、吸収液が水溶液であるため、吸収液中のMEA又はDEAの含有量の調整により、吸収液の粘度を容易に制御することが可能である。吸収液の粘度の制御により、吸収液を液体炭化水素油と容易に且つ均一に接触させ、且つ混合することができる。また、吸収液の粘度の制御により、COSを吸収した吸収液(水相)と、COSが除去された液体炭化水素油(油相)とを、容易に分離することができる。つまり、液液分離(水相及び油相の分離)の工程の効率が向上する。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0037】
例えば、吸収液は、アルカリ化合物を含んでもよい。吸収液がアルカリ化合物を含有することにより、COS又はCOSに由来するHSがアルカリ化合物と化学的に作用して、COSの吸収が促進される傾向がある。アルカリ化合物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等であってよい。
【0038】
吸収液におけるアルカリ化合物の含有量は、特に制限されない。アルカリ化合物の含有量は、例えば、5〜40質量%であってよい。アルカリ化合物の含有量が5質量%以上であれば、COSの吸収が促進され易い。一方、アルカリ化合物の含有量が40質量%以下であれば、吸収液の粘度の低下により、吸収液を操作し易くなる。その結果、吸収液を液体炭化水素油と効率良く接触させ易い。また液液分離(油相及び水相の分離)等の作業効率が向上し易い。同様の理由から、吸収液におけるアルカリ化合物の含有量は、5〜20質量%であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[液体炭化水素油の調製]
チオシアン酸カリウムに濃硫酸を接触させてCOSを発生させた。このCOSを、ヘキサンに接触させ、ヘキサンに吸収させた。このヘキサンをヘキサンで希釈することにより、COSを含有量するヘキサン(液体炭化水素油)を調製した。
【0041】
上記の液体炭化水素油の組成をGC−SCDによって分析した。GC−SCDとは、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph)の検出器として化学発光硫黄検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector)を接続した分析装置である。GC−SCDは、以下の条件下で行った。GC−SCDによって測定された液体炭化水素油のクロマトグラムを図1に示す。液体炭化水素油中のCOSの含有量は257μg/mlであった。液体炭化水素油中のHSの含有量は0μg/mlであった。
【0042】
カラム:メチルシリコン系液相(シグマアルドリッチ社製、Equity-1;OV−1相当、長さ100m×内径0.25mm×膜厚1.0μm)
注入口温度:250℃(一定)
スプリット比:100:1
キャリアーガス:水素(流量:2.0ml/min)
GC−SCD:(Agilent Technologies社製 GC7890A、同社製 (SCD)Agilent355)
カラム昇温パターン:40℃で5分間維持した後、5℃/minで昇温し、320℃で61分間維持した。
【0043】
[MEA水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でMEAと混合し、MEAの含有量が20質量%であるMEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0044】
[DEA水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でDEAと混合し、DEAの含有量が20質量%であるDEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0045】
[ジイソプロパノールアミン(DIPA)水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でDIPAと混合し、DIPAの含有量20質量%であるDIPA水溶液(吸収液)を調製した。
【0046】
[メチルジエタノールアミン(MDEA)水溶液の調製]
蒸留水を予めアルゴンガスにて30分間バブリングして曝気し、調整水を用意した。得られた調整水を、窒素雰囲気下でMDEAと混合し、MDEAの含有量が20質量%であるMDEA水溶液(吸収液)を調製した。
【0047】
[実施例1]
以下の吸収実験を行った。なお、大気中の酸素及び二酸化炭素が実験結果に影響することを防止するために、窒素雰囲気下で下記の実験を行った。
【0048】
COSを含有する上記ヘキサン(液体炭化水素油)20g、及びMEA水溶液(吸収液)20gを、50mlのスクリュー瓶に入れて、スクリュー瓶に蓋をした。このスクリュー瓶を手で振って、スクリュー瓶内の液体炭化水素油及び吸収液を10分間撹拌した。攪拌後のスクリュー瓶を約1時間静置した。スクリュー瓶内の混合液が油相及び水相に分離されていることを確認した。油相及び水相其々をスクリュー瓶から採取した。
【0049】
スクリュー瓶から採取された油相試料を、前処理することなく、上記と同様のGC−SCDで分析した。GC−SCDで測定された実施例1の油相試料のクロマトグラムを図2に示す。GC−SCDにより、油相試料に残留しているCOS及びHSを定量した。油相試料中のCOSの含有量を、下記表1に示す。油相試料中のHSの含有量を、下記表1に示す。
【0050】
下記式1によって算出された実施例1の除去率を、下記表1に示す。
除去率(%)={(D−D)/D}×100 (1)
式1中、Dとは、吸収実験前に測定された液体炭化水素油中のCOSの含有量である。つまり、Dは、257μg/mlである。Dとは、吸収実験によって得られた油相試料中のCOSの含有量である。
【0051】
スクリュー瓶から採取された水相を、減圧乾燥器にて減圧下、40℃、6時間加熱し、水相中の水分を除去した。水分の除去後に残留した物質をエタノールに溶解して、水相試料を調製した。水相試料をGC−MSで分析した。GC−MSとは、ガスクロマトグラフ−質量分析(Mass Spectrometry)である。GC−MSは、以下の条件下で行った。GC−MSによって測定された水相試料のクロマトグラムを図6(a)及び図6(b)に示す。図6(a)及び図6(b)は、其々横軸のスケールが異なるが、同一の水相試料のクロマトグラムである。
【0052】
カラム:メチルシリコン系液相(シグマアルドリッチ社製、Equity-1;OV−1相当、長さ100m×内径0.25mm×膜厚1.0μm)
注入口温度:280℃(一定)
キャリアーガス:ヘリウム(流量:1.5ml/min)
GC−MS装置:(Agilent Technologies社製 GC6890N、同社製 (MS)5975B)
イオン化法:電子イオン化(EI)
カラム昇温パターン:40℃で5分間維持した後、5℃/minで昇温し、320℃で61分間維持した。
【0053】
GC−MSに基づき、水相試料中のHSの有無を調べた。もし液体炭化水素油中のCOSがMEA水溶液に吸収される場合、COSの少なくとも一部は分解してHS及びCOが生成しているはずである。そして、HS及びCOは、液体炭化水素油及びMEA水溶液の混合液における水相に吸収され、水相中においてHSはMEAと結合しているはずである。HSがMEAと結合している場合、GC−MS装置の試料導入部が250℃以上に加熱されているため、試料導入部においてHSがMEAから分離され、検出器ではHSが検出されるはずである。以上の原理に基づき、水相中のHSの有無を判断した。実施例1の水相試料中のHSの有無を、下記表1に示す。
【0054】
[実施例2]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のDEA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0055】
[比較例1]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のDIPA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0056】
[比較例2]
吸収液として、MEA水溶液の代わりに、上記のMDEA水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の吸収実験を行った。
【0057】
実施例2の油相試料のクロマトグラムを図3に示す。比較例1の油相試料のクロマトグラムを図4に示す。比較例2の油相試料のクロマトグラムを図5に示す。実施例2並びに比較例1及び2其々の油相試料中のCOSの含有量を、下記表1に示す。実施例2並び比較例1及び2其々の油相試料中のHSの含有量を、下記表1に示す。
【0058】
実施例2並びに比較例1及び2其々の除去率を、下記表1に示す。
【0059】
実施例2の水相試料のクロマトグラムを図7に示す。比較例1の水相試料のクロマトグラムを図8に示す。比較例2の水相試料のクロマトグラムを図9に示す。実施例2並び比較例1及び2其々の水相試料中のHSの有無を、下記表1に示す。下記表1において「有」とは、水相試料中にHSが存在していることを意味する。下記表1において「無」とは、水相試料中にHSが存在しないことを意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
GC−SCDを用いた分析の結果、全の実施例及び比較例の油相試料中のCOSの含有量は、吸収実験前の液体炭化水素油中のCOSの含有量(257μg/ml)よりも低いことが確認された。つまり、全の実施例及び比較例の吸収実験において、COSが液体炭化水素油から除去されていることが確認された。
【0062】
全実施例の油相試料中のCOSの含有量は、全比較例のCOSの含有量よりも少ないことが確認された。全実施例の除去率は全比較例の除去よりも高いことが確認された。つまり、実施例1及び2で用いた吸収液は、比較例1及び2の吸収液に比べて、より多量のCOSを液体炭化水素油から除去したことが確認された。
【0063】
GC−SCDを用いた分析の結果、吸収実験前の液体炭化水素油、及び吸収実験で得られた油相試料のいずれにおいても、HSは存在していないことが確認された。
【0064】
実施例1の水相試料のクロマトグラムにはHSのピークがあることが確認された。一方、実施例2並びに比較例1及び2のクロマトグラムにおいては、明確なHSのピークはなかった。これらの分析結果から、MEA水溶液は、液体炭化水素油中の一部のCOSをHSに分解したことが確認された。
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