(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シール基部(1)と、該シール基部(1)から突出状に連設された溝底(10A)側の第1リップ部(11)と摺動側の第2リップ部(12)とを、備えた横断面U字形のシールに於て、
ゴム製シール本体(R)と、厚みが薄肉かつ均一な厚みの低摩擦被覆層(20)とから成り、
上記ゴム製シール本体(R)に対する上記低摩擦被覆層(20)の先端境界線(22)が、上記第2リップ部(12)のリップ頂上領域(16)における外径寸法が最大のピーク(18)に、一致するように、配設され、
しかも、上記リップ頂上領域(16)に於て、上記低摩擦被覆層(20)は、均一な上記厚みに相当する深さをもって上記ゴム製シール本体(R)に埋設状であり、
上記ゴム製シール本体(R)に対する上記低摩擦被覆層(20)の基端境界線(23)が、上記シール基部(1)の基端寄りに配設され、
上記低摩擦被覆層(20)は、上記ゴム製シール本体(R)の加硫工程で一体状に成型されていることを特徴とするシール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、この種のシールとしては、密封性能及び耐摩耗性が重視され、上記特許文献
1に記載の油圧シリンダのピストンロッド用のシールも密封性能及び耐摩耗性が重視され
ている。
【0005】
ところが、遊戯器具やスポーツ用具、あるいは、精密作動用ロボット等にあっては、空
気あるいはガスを使用して、内部圧力が急に変動する空圧機械(器具)が、最近になって
出現している。そのような空圧機械(器具)では、シールとしての密封性能や耐摩耗性以
外に、摺動抵抗を低減することが必要である。
【0006】
例えば、ホッピング用具として、エアースプリング(エアーシリンダ)を用いて、2メ
ートル以上もジャンプするものも出現しているが、このホッピング用具では、衝撃的な空
気圧の変動が内部に生じ、しかも、空気圧力は、約3.0Mpaにも達するため、シール
としては、そのような高圧と圧力変動にも耐える密封性能・耐久性能が要求されるのは当
然として、さらに、少しでも高くジャンプしたいという強い要求に応えるようなシール特
性を付与することが重要である。
【0007】
そのためには、ホッピング用具に使用するエアーシリンダ(エアースプリング)の摺動
抵抗を低減する必要があることに、本発明者等は、多大な実験と試行錯誤の結果気付いた
。
即ち、従来は、ホッピング用具のエアーシリンダ内部のピストンに、Oリングを用いる
構造であり、このOリングは摺動抵抗が高いことも判明した(後述の表1参照)。
【0008】
そこで、本発明は急激な気体の圧力変動にも耐えて使用可能であって、摺動抵抗が十分
に低い(往復動用)シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシールは、シール基部と、該シール基部から突出状に連設された溝底側の第1リップ部と摺動側の第2リップ部とを、備えた横断面U字形のシールに於て、ゴム製シール本体と
、厚みが薄肉かつ均一な厚みの低摩擦被覆層とから成り、
上記ゴム製シール本体に対する上記低摩擦被覆層の先端境界線が、上記第2リップ部のリップ頂上領域
における外径寸法が最大のピークに、一致するように、配設され、
しかも、上記リップ頂上領域に於て、上記低摩擦被覆層は、均一な上記厚みに相当する深さをもって上記ゴム製シール本体に埋設状であり、上記ゴム製シール本体に対する上記低摩擦被覆層の基端境界線が、上記シール基部の基端寄りに配設され、上記低摩擦被覆層は、記ゴム製シール本体の加硫工程で一体状に成型され
ている。
【0010】
また、被密封流体が気体であり、圧力が0.4〜3.0Mpaの範囲内で急激に変動す
る往復動用のシールである。
また、往復動ピストンのシール用凹周溝に装着されて、ホッピング用エアースプリング
に使用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシールによれば、密封に最も重要な第2リップ部のリップ頂上領域に於て、弾
性ゴムによる密封が十分に行なわれ、同時に、低摩擦被覆層によって(摺接対応面に対す
る)摺動抵抗が十分に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1〜
図4に示すように、本発明に係る往復動用シールSは、略矩形状のシール基部1
と、このシール基部1から突出状に連設された、シール用凹周溝10の溝底10A側の第1リップ部11と摺動側の第2リップ部12とを、備え、全体が横断面U字形のシールである。一般的には、Uパッキンと呼ばれている。U字状凹溝2がシール基部1と第1リップ部11と第2リップ部12にて形成される。
【0014】
図1と
図2に於て、ホッピング用エアースプリング(エアーシリンダ)Cの内部に、本
発明のシールSが使用されている場合を例示する。具体的には、足乗せ部3と握り部4が
倒立状のエアーシリンダCのシリンダバレル5の下部と上部に突設され、シリンダバレル
5内に、ピストン6が上下往復動自在に収納され、さらに、上端がピストン6に連結され
たピストンロッド7が、シリンダバレル5の下端の孔部8に挿通され、ピストンロッド7
の下端が、床面9に当接する当り部14である。
【0015】
シールSは、上記往復動ピストン6の外周面6Aに凹設されたシール用凹周溝10に装着される。本発明のシールSは、往復動シールとして、ピストンロッドの密封にも使用可能であるが、
図1〜
図4に示すようにピストン6の外周面6Aとシリンダバレル5の内周面5Aの相対的摺動面部の密封に好適なシールである。
【0016】
そして、シールSは、弾性ゴムのシール本体Rと、PTFE(フッ素樹脂)等の低摩擦
被覆層20とから成る。この低摩擦被覆層20は、シリンダバレル5の円形状内周面5A等───摺接相手面26───に対向する、シール外周面21に配設される。また、低摩擦被覆層20はシール本体Rを金型内で加熱加圧する加硫工程で一体状に成型される。
【0017】
さらに具体的に説明すると、第2リップ部12は、シール基部1から、先端側がしだいに拡径するように傾斜状に突出状として、設けられているが、第2リップ部12の外周面は、シール基部1の外周面先端位置から、しだいに先端に向って拡径するように傾斜状の勾配部15と、小さな山型のリップ頂上領域16と、先端に向って縮径状の先端勾配部17とから、構成される。外径寸法が最大のピーク18は、前記リップ頂上領域16に存在する。そして、
図6(A)は、
図4,
図5(A)に示したシールSをラジアル方向から見た外観図(側面図)であるが、弾性ゴムに対する被覆層20の先端境界線22は直線状に現われている。しかも、
図6(A)と
図5(A)及び
図2〜
図4の実施の形態にあっては、この先端境界線22は、上記ピーク18に一致させた場合を例示する。
【0018】
ところで、前述のリップ頂上領域16については、以下のように定義する。即ち、
図4と
図5に示すように、自由状態の本発明のシールSにおけるシール基部1の平均外径寸法をD
1とし、ピーク18の外径寸法をD
18とし、シール基部1とピーク18の段差寸法をΔHとすると、次式が成立する。
ΔH=(D
18−D
1)/2
本発明では、2×ΔH=(D
18−D
1)の30%だけ小さな直径の円筒面25で第2リッ
プ部12を切断したと仮定した領域を、リップ頂上領域16と定義する。
【0019】
図2〜
図4、及び、
図5(A)、
図6(A)では、被覆層20の先端境界線22はピーク18をラジアル方向から見た直線に一致させ
ている。
【0020】
図5(B)と
図6(B)
は参考例を示し、先端境界線22を基端方向に少し移動させ、ピーク18が弾性ゴムのみから成る構成
としている。また、図5(C)と
図6(C)に示すように、先端境界線22を先端方向に少し移動させ、ピーク18を低摩擦被覆層20にて形成し
ている(自由状態下)。
【0021】
図2に於て、圧力PがシールSに作用した状態を示し、その際、シリンダバレル内周面
5A(摺接相手面26)に対して、前記先端境界線22を中心として弾性的にシールSが圧縮変形し、同図に併記した接触面圧力分布曲線が得られる。特に、密封性は先端境界線22よりも先端側の弾性ゴム部30にて十分に発揮され、かつ、摺動抵抗の低減作用は、先端境界線22より基端側の低摩擦被覆層20の先端部位20Aにて行なわれる。
【0022】
図5(B)と
図6(B)の
参考例のシールSでは、
図2と同様の受圧使用状態で、被覆層20よりもゴム部30が内周面5Aに対して圧接しやすいので、第2リップ部12の先端部の形状と寸法を一層弾性変形容易なように、設定する。つまり、
図5(B)中に2点鎖線31にて例示するようにゴム部30の弾性変形が容易な形状と寸法とする。このようにすれば、密封性能を発揮するゴム部30と、摺動抵抗低減する低摩擦被覆層20の先端部位20Aとが、協力して、総合的に優れた特性を示し、所期の目的を達成できる。
【0023】
次に、
図5(C)と
図6(C)の
参考例のシールSでは、
図2と同様の受圧使用状態で、ゴム部30よりも被覆層20の先端部位20Aが内周面5Aに対して圧接しやすいので、ゴム部30の肉厚を例えば2点鎖線31のように増加して弾性的反発力を増加させるのが良い。このようにすれば、ゴム部30が密封性能を発揮し、同時に、低摩擦被覆層20の先端部位20Aは摺動抵抗の低減作用を十分発揮して、総合的に優れた特性を示し、所期の目的を達成できる。
【0024】
次に、弾性ゴムから成る上述のシール本体Rに対する被覆層20の基端境界線23は、シール基部1の基端寄りに、配設される。
ここで、「基端寄り」とは、
図2〜
図4及び
図5(A)と
図6(A)に示すように、シ
ール基部1のアキシャル方向基端角部24を含み、さらに、
図5(B)と
図6(B)のように、アキシャル方向基端角部24と同じアキシャル方向位置、及び、
図5(C)と
図6(C)のように、シール基部1のアキシャル方向寸法の10%以下の寸法W
23だけ先端方向へ移動した位置を含むものとする。
【0025】
このように、シール基部1の(軸心直交面状の)基端面1A側の角部24、又は、その近傍に、基端境界線23が配設され、略矩形のシール基部1の外周面が低摩擦被覆層20にて被覆形成された構成であるので、ホッピング用具等のエアースプリングC(
図1参照)として、激しいピストン6の作動によって、
図2に示したシリンダバレル内周面5Aとピストン外周面6Aとの間隙Gp が同図よりもさらに接近して零に近づいた場合に、シリンダバレル内周面5Aに対して上記低摩擦被覆層20が摺接し、摺動摩擦抵抗の増加を防止でき、軽快なピストン6とピストンロッド7の往復作動が得られる。
【0026】
本発明に係るシールSは、
図1(A)(B)に示すような圧力Pが0.4〜3.0Mp
aの(比較的高圧の)空気又は各種ガス等の気体の密封用であり、しかも、
図1(B)の
グラフ図のように、ホッピング作動毎に圧力Pが急激に変動する往復動に適用できる。
【0027】
次に、下記のような各種のシールについて、その摺動摩擦抵抗試験を実施した。
(a)本発明の実施例(1):
図2,
図3,
図4に示した横断面形状でシール本体Rのゴムの硬度が70のシール
(b)本発明の実施例(2):
図2,
図3,
図4に示した横断面形状でシール本体Rのゴムの硬度が80のシール
(c)従来例(1):
硬度70のゴム製Oリング
(d)従来例(2):
硬度80のゴム製Oリング
(e)従来例(3):
硬度90のゴム製Oリング
(f)従来例(4):
硬度60のゴム製Oリング
(g)従来例(5):
横断面の外形輪郭形状が
図3,
図4と同じであって、全体が、硬度80のゴムから
成るUパッキン
(h)参考例(1):
図7に示した横断面形状であって、
図3,
図4と外形輪郭形状が同じであるが、低
摩擦被覆層20は第2リップ部12から省略され、シール基部1にのみ配設されている 。シール本体Rのゴムの硬度は70のUパッキン
(i)参考例(2):
図7に示した横断面形状であって、
図3,
図4と外形輪郭形状が同じであるが、低
摩擦被覆層20は第2リップ部12から省略され、シール基部1にのみ配設されている 。シール本体Rのゴムの硬度は80のUパッキン
【0028】
図8に試験装置の概略を示す。
図1と略同一寸法(内径寸法70mm)のシリンダバレ
ル5Tは両端に孔部8T,8Tを有し、内部に2個のピストン6T,6Tを収容し、各ピ
ストン6Tのピストンロッド7Tは孔部8Tを挿通させ、平行に対面する2つの固定壁9
T,9Tに当接させ、シリンダバレル5Tの中央に設けた空気注入部13Tから所定圧力Pの空気を注入して、シリンダバレル5Tの2個のピストン6T,6T間の空気圧力Pを所定値に保ち、引張ハカリ19Tを矢印方向に所定一定速度Vにて引張りつつ、シリンダバレル5Tを(
図8の右方向へ)移動させながら引張ハカリ19Tの目盛りを読み取って、2個のピストン6T,6Tについての摺動摩擦抵抗を計測する。
【0029】
次の表1は、
図8に示す試験装置にて計測した摺動摩擦抵抗(単位:ニュートン)を示
す。各ピストン6Tには前記(a)〜(i)の各種のシールが1個ずつ装着されているた
め、この表1の計測値は、各シール2個分の数値を表わしていることになる。
【0031】
以下、上記表1に関して考察を行なう。
(i)本発明の実施例(1)(2)のシールは、従来例(1)〜(4)のOリング、及び
従来例(5)のUパッキンに比較して、いずれの圧力Pに於ても、著しい摺動抵抗の低減
が図られていることを実証している。特に、圧力が1.5Mpa,2.0Mpaにあって
も、本発明の実施例(1)(2)のシールは摺動抵抗の値が極めて低い。
(ii)本発明の実施例(1)(2)と、同一外形の輪郭を有する従来例(5)のUパッキ
ンと比較すると、特に、圧力が2.0Mpaでは、約7%という低い値を示している。こ
の事実は、低摩擦被覆層20の摩擦係数が小さいこと、及び、ゴム製シール本体Rの高圧時の変形をシール外周面側から低摩擦被覆層20が抑制していること、を示す。
(iii)本発明の実施例(1)(2)と、
図7に示した参考例(1)(2)とを、比較する
と、いずれの圧力においても実施例(1)(2)のシールは十分に低い値を示し、特に、
圧力が2.0Mpaでは約25%という低い値である。この事実は、本発明のシールは自
封性シールでありながらも、第2リップ部12を低摩擦被覆層20が被覆して、シリンダバレル内周面5Aに摺接するためである。
(iv)参考例(1)(2)と、従来例(5)とを、比較すると、同一外形輪郭線のUパッ
キンでありながら、参考例(1)(2)は明らかに低い値を示している。この事実は、シ
ール基部1のみを低摩擦被覆層20にて被覆した構成であっても、シリンダバレル内周面5Aに対して、シール基部1も接触状態で摺動していること、及び、このシール基部1の摺動摩擦抵抗が、基部1の低摩擦被覆層20によって、低減していること、が明らかとなる。
【0032】
従って、本発明の実施例(1)(2)に於ても、(
図2〜
図6に示した)シール基部1
までもを被覆した低摩擦被覆層20の摺動摩擦抵抗低減作用が明らかとなる。言い換えれば、本発明のシールに於て、被覆層20の基端境界線23が、(シール基部1の基端寄りではなく)第2リップ部12の付根部、又は、シール基部1の先端寄りに、存在していたと仮定すれば、表1中の本発明の実施例(1)(2)について示した低い値は、得られなかったであろう。このように基端境界線23がシール基部1の基端寄りに配設する構成の重要性が明らかとなる。
【0033】
本発明は、以上詳述したように、シール基部1と、該シール基部1から突出状に連設さ
れた溝底10A側の第1リップ部11と摺動側の第2リップ部12とを、備えた横断面U字形のシールに於て、ゴム製シール本体Rと低摩擦被覆層20とから成り、しかも、上記第2リップ部12のリップ頂上領域16内に、ゴム製シール本体Rに対する被覆層20の先端境界線22が配設されている構成であるので、第2リップ部12が(シリンダバレル内周面5A等の摺接相手面26に対して)受圧状態で摺接する際、弾性ゴムと低摩擦被覆層20の両者が同時に圧接し、弾性ゴムの圧接にて高いシール性(密封性)が確保され、かつ、低摩擦被覆層20の圧接にて、シール性及び摺動摩擦抵抗の低減と耐摩耗性が、得られる。そして、摺動摩擦抵抗の低減によって、エアーシリンダ等では軽快かつ高い応答性をもって伸縮作動を実現する。例えば、エアーシリンダ(エアースプリング)を用いたホッピングに適用すれば、従来よりも高いジャンプを実現可能となり、また、エアーシリンダを用いた精密ロボットに適用すれば、高い応答性をもって的確な迅速行動が実現可能である。さらに、急激な密封気体の圧力変動(
図1(B)参照)にも十分使用可能である。
【0034】
また、ゴム製シール本体Rに対する被覆層20の基端境界線23が、上記シール基部1の基端寄りに配設されているので、シール基部1が、摺接相手面26に対して摺接する材質が、(摺動摩擦抵抗の高いゴムではなくて)摺動摩擦抵抗の低い被覆層20であるので、シール基部1が摺接相手面26に摺接する摺動摩擦抵抗を低減して、シール全体としての摺動摩擦抵抗を低減するのに貢献できる。
【0035】
また、被密封流体が気体であり、圧力Pが0.4〜3.0Mpaの範囲内で急激に変動
する往復動用のシールであるので、ホッピング用具のエアースプリング(エアーシリンダ
)Cに好適であり、従来よりも高いジャンプを実現できることとなる。
【0036】
また、往復動ピストン6のシール用凹周溝10に装着されて、ホッピング用エアースプリングCに使用される構成とすれば、低い摺動摩擦抵抗と高い密封性、及び、急激な気体の圧力変動に耐えるという本発明の特性が最も発揮される。