特許第6649022号(P6649022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6649022電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649022
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/52 20130101AFI20200210BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   H01G11/52
   H01G9/02
   H01M2/16 R
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-189116(P2015-189116)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-69229(P2017-69229A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井河 篤
(72)【発明者】
【氏名】市村 拓己
(72)【発明者】
【氏名】松岡 学
(72)【発明者】
【氏名】和田 典弘
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−056953(JP,A)
【文献】 特開2014−053259(JP,A)
【文献】 特開平05−267103(JP,A)
【文献】 特開2000−003834(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/52
H01G 9/02
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に介在し、電解質を含有した電解液を保持可能な電気化学素子用セパレータであって、平均繊維長が0.25〜0.80mm、且つ平均繊維幅3〜35μm、且つ平均繊維長を平均繊維幅で除して算出される値が15〜70である、叩解された再生セルロース繊維からなり、
セパレータの厚さが3〜30μmである
ことを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学素子用セパレータを用いたことを特徴とする電気化学素子。
【請求項3】
電気二重層キャパシタ、アルミニウム電解コンデンサ、リチウムイオンキャパシタ、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータ及び該セパレータを用いた電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子には、アルミニウム電解コンデンサ、導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサ、導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウム一次電池などがある。
そして、これら電気化学素子は、自動車関連機器やデジタル機器、風力発電・太陽光発電などの再生可能エネルギー関連機器、スマートメータなどの通信機器といったように、多くの分野に採用されている。
【0003】
電気化学素子には、更なる充放電特性や出力特性、サイクル寿命の向上などが求められている。
これらを解決する手段として、電気化学素子の低抵抗化が有効である。充電もしくは放電が行われる際に、内部抵抗値が大きいと、抵抗による損失が増大する。また、この損失により熱が発生し、発生した熱は直接的に寿命へ影響する要因となる。発熱が小さいことはそのまま長寿命化へつながるため、低抵抗化に対する要求は一層高くなっている。
また、電気化学素子には、その搭載スペースの削減を目的として、小型化の要求も根強い。
【0004】
そして、電気化学素子へのこれらの要求に応えるために、セパレータには、低抵抗化や薄型化が求められている。
【0005】
電気化学素子において、セパレータの主な役割は、両電極の隔離と電解液の保持である。両電極を隔離するために、セパレータには高い緻密性を有することが求められる。さらに、セパレータの素材には電気絶縁性が必要とされ、また様々な種類の電解液の保持のために、親水性、親油性が求められている。
【0006】
電気化学素子の小型化や高容量化、低抵抗化には、セパレータの薄型化が有効である。同じサイズの電極材を使用する場合、薄いセパレータを用いて電気化学素子を形成すれば、外径の小さな電気化学素子が作製できる。また、薄いセパレータを用いてより長く捲回することで、電極表面積を増加させ、電気化学素子の高容量化が達成できる。そして、薄いセパレータを採用することで、両電極間の距離が短くなり、電気化学素子の抵抗も低減できる。
【0007】
しかし、セパレータを薄くすると、セパレータの強度低下や遮蔽性の低下も同時に起こる。このため、薄いセパレータを使用すると、電気化学素子のショート不良の増加や漏れ電流値の増大、電気化学素子製造工程におけるセパレータの破断といった不具合が生じる。
【0008】
セパレータの強度や緻密性の向上には、高密度化が有効である。高密度化により、電気化学素子のショート不良や漏れ電流値、電気化学素子製造工程におけるセパレータの破断といった不具合は改善する。しかし、電気化学素子の抵抗値も増大してしまう。
【0009】
以上述べたように、電気化学素子用セパレータとして、低抵抗でありながらも、遮蔽性が高く、薄いセパレータが求められている。
【0010】
従来から、電気化学素子用セパレータにおいて、特性の向上を図る目的で種々の構成が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献5を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−3834号公報
【特許文献2】特開2014−123607号公報
【特許文献3】特開2012−221566号公報
【特許文献4】特開2010−239094号公報
【特許文献5】特開2015−162281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1において、高い緻密性を持ちながらも抵抗値の低いセパレータが提案されている。この特許文献1のセパレータは、溶剤紡糸セルロース繊維を水中で刃物等により処理し(叩解)、数十nm〜数μmの微細なフィブリルを発生させ、該フィブリル化溶剤紡糸セルロース繊維を湿紙機抄紙により不織布としたものである。
溶剤紡糸セルロース繊維及びそのフィブリルは、剛性が高く潰れにくいため、不織布としたときに天然繊維のフィブリル化微細繊維のようにフィルム状に結着することがない。従って、溶剤紡糸セルロース繊維を叩解し、抄紙したセパレータでは、互いに独立した微細繊維同士が交絡しており、この交絡並びに無数の点接着(水素結合)により構成された、極めて緻密性の高いセパレータが得られる。
そして、この叩解された溶剤紡糸セルロース繊維からなるセパレータを用いて作製した電気二重層キャパシタは、内部抵抗及びショート不良率、漏れ電流値の各特性が向上することが開示されている。
【0013】
しかしながら、近年要望が高まっているような、電気化学素子の低抵抗化のため、セパレータの更なる薄型化、低密度化を実現しようとした際に、特許文献1のような叩解可能な溶剤紡糸セルロース繊維からなるセパレータを用いた場合、セパレータの引張強さが低いため、電気化学素子の捲回或いは積層の工程において、セパレータの破断が発生してしまうことがあった。
【0014】
これは以下の理由による。
セルロース湿式不織布(紙)は、前述した通り、繊維の物理的な絡み合いと、繊維間の水素結合とが強度に大きく影響することが知られている。叩解された再生セルロースからなる湿式不織布は、繊維及びフィブリルの剛性が高いため、フィブリル同士が面で結着することがなく、面で結着する天然セルロース繊維と比べ繊維間の水素結合力による強度向上が起こりにくい。このため、セパレータとして使用したとき、破断が発生しやすい。ここで、強度を改善するために繊維を長くすることで繊維の物理的な絡み合いを増すと、シートの均質性が低下してしまい、電気化学素子のショート不良が増加したり、漏れ電流値が増大したりする。このため、溶剤紡糸セルロース繊維からなるセパレータの更なる薄型化は困難であった。
【0015】
特許文献2において、セパレータの引裂強さを向上させ、アルミニウム電解コンデンサ製造工程でのセパレータの破断を抑制するために、再生セルロース繊維と叩解した天然セルロース繊維を混抄する方法が提案されている。天然セルロース繊維を10〜30質量%、残部を叩解された再生セルロース繊維とすることで、天然セルロース繊維が骨格となり、その骨格の間を叩解された再生セルロース繊維が埋めることで、引裂強さと緻密性に優れたセパレータが得られる。
しかしながら、特許文献2のように天然セルロース繊維を配合した場合、インピーダンスが悪化してしまうという問題があった。
【0016】
これは、以下の理由によると考えられる。
再生セルロース繊維からは、剛性が高く断面が真円に近い形状のフィブリルが得られる。一方、天然セルロース繊維は、再生セルロース繊維に比べて断面が扁平かつ大きく、剛性も低いため、フィルム状に結着し、イオンの流れを阻害してしまう。その結果、再生セルロース繊維の叩解原料及び天然セルロース繊維を配合したセパレータを用いて作製された電気化学素子は、抵抗が悪化してしまう。
さらに、特許文献2のセパレータは、特許文献1に示されていたような、高度に叩解された再生セルロース繊維のみで構成されたセパレータと比較して、緻密性が低下する。このため、特許文献2のセパレータは、電気化学素子に使用した場合に、ショート不良率も増加してしまう。ここで、セパレータの緻密性を高めるために、天然セルロース繊維を更に叩解すると、大幅に抵抗が悪化する。
【0017】
特許文献3において、濾水度と繊維長をコントロールした再生セルロース繊維を用いて、電解液が付着した際の強度に優れる、セパレータが提案されている。
しかしながら、特許文献3に記載されているセパレータは、特許文献2に記載されているようなセパレータと比較して、繊維間の結合力が弱い。このため、電気化学素子を形成して電解液を含浸させた後の、例えば熱による膨張収縮といったような、激しい動きを伴わない変形には耐えられるが、電気化学素子の巻取り工程のような、動きの大きな工程では、セパレータが破断してしまう。
【0018】
特許文献4において、薄く緻密なセパレータとして、再生セルロース多孔質膜セパレータが提案されている。再生セルロースからなる多孔質膜は、特許文献1のような再生セルロース繊維からなる不織布セパレータよりも強度が高いことが開示されている。
しかしながら、特許文献4のような再生セルロース多孔質膜は、セパレータを構成するセルロースが全て一体となったフィルム構造である。このため、特許文献2のセパレータと同様の理由により、抵抗が悪化する。
ここで、このセパレータの抵抗を下げるべく更に薄く、低密度にすると、セパレータの遮蔽性が低下し、電気化学素子に使用した際のショート不良が増加、漏れ電流値が増大する。
【0019】
特許文献5において、溶剤紡糸再生セルロース繊維の繊維径を規定し、薄く、機械強度に優れたセパレータが提案されている。このセパレータには溶剤紡糸再生セルロースの他に、合成繊維と天然繊維が必須成分として含まれているが、溶剤紡糸再生セルロースのみで構成されたセパレータと比較して、電解液の保液性が低く、また、セパレータの抵抗が高くなることから、電気化学素子の抵抗が悪化してしまう問題がある。
【0020】
以上のように、セパレータに要求される、遮蔽性、抵抗、強度は、それぞれが複雑に関連した相反の関係にあり、これらの性能を全て同時に向上した薄いセパレータを実現することは困難であった。
【0021】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、強度と遮蔽性に優れた、薄く低抵抗な電気化学素子用セパレータを提供することを目的としたものである。また、このセパレータを用いることによって、電気化学素子の小型化、高容量化、長寿命化を達成することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の電気化学素子用セパレータは、一対の電極間に介在し、電解質を含有した電解液を保持可能な電気化学素子用セパレータであって、平均繊維長が0.25〜0.80mm、且つ平均繊維幅が3〜35μmであり、更に、平均繊維長を平均繊維幅で除して算出される値が15〜70である、叩解された再生セルロース繊維からなり、セパレータの厚さが3〜30μmである
【0024】
本発明の電気化学素子は、上記本発明の電気化学素子用セパレータが使用されていることを特徴とする。そして、本発明の電気化学素子は、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池のいずれかであることが好ましい
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、叩解された再生セルロース繊維から成るセパレータの強度を落とすことなく緻密性を高めることができ、薄くとも遮蔽性の高いセパレータが実現できる。このため、3〜30μmといった薄いセパレータであっても、電気化学素子のショート不良を防ぐのに充分な遮蔽性を持ち、更に強度にも優れたセパレータを実現できる。
そして本発明のセパレータを用いれば、電気化学素子の低抵抗化、小型化、高容量化、長寿命化が実現でき、電気化学素子作製工程の作業性も改善する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態例を詳細に説明する。
本実施の形態例および実施例に示す例の他、種々の材料、構成割合についての試験研究を行った。その結果、セパレータの平均繊維長が0.25〜0.80mm、且つ平均繊維幅が3〜35μm、且つ平均繊維長を平均繊維幅で除して算出される値が15〜70の範囲内であれば、セパレータの強度を落とすことなく緻密性を高めることができ、薄くとも遮蔽性の高い良好なセパレータが得られることが判明した。このため、本実施の形態によれば、これまで実現が困難であった、遮蔽性が高く低抵抗な、厚さ3〜30μmといった薄いセパレータを実現できる。
【0027】
そしてこのセパレータは、抄紙法によりシート形成されていることが好ましい。抄紙形式としては、長網抄紙、短網抄紙、円網抄紙、及びそれらの組み合わせなどが挙げられるが、セパレータの緻密性を向上させるために、少なくとも一層の長網抄紙された層を持つことが好ましい。
【0028】
再生セルロース繊維は、叩解により徐々に短繊維化する。この短繊維化の速度は、叩解初期は速く、叩解中期から末期にかけて緩やかになる。
また、この叩解により、再生セルロース繊維の表層に微細なフィブリルが発生する。この結果、繊維の見かけの繊維幅が広くなる。更に叩解を行うと、発生したフィブリルが再生セルロース繊維本体から脱落するため平均繊維幅は一定以上大きくならず、逆に小さくなっていく場合もある。
つまり、叩解初期においては、叩解により平均繊維長は短くなり、同時に平均繊維幅は広くなる。そして叩解中期から末期にかけて、平均繊維長は緩やかに短くなり、平均繊維幅は横ばい或いは狭くなる。
【0029】
そして、平均繊維長を0.25〜0.80mmの範囲内とし、且つ平均繊維幅を3〜35μmの範囲内とすることが、セパレータの緻密性及び強度改善のために有効であることを見出した。
【0030】
叩解された再生セルロース繊維の平均繊維長が0.25〜0.80mmの範囲にあるとき、繊維の物理的な絡み合いとシートの均質性が両立できる。平均繊維長が0.25mm未満では、繊維の物理的な絡まりが少なくなりすぎてしまい、強度の維持向上に寄与できない。また、0.80mmを超過するとシートの均質性が低下する。更に、抄紙工程での安定性や歩留りが向上するため、平均繊維長が0.30mm以上であることが、より好ましい。
【0031】
叩解された再生セルロース繊維の平均繊維幅が3〜35μmの範囲にあるとき、繊維の幹部分から充分にフィブリルが発生しており、強度が最大限向上する。
平均繊維幅が3μm未満のときは、繊維からフィブリルが発生していないか、発生したフィブリルが脱落してしまっていることを示す。また、平均繊維幅が35μmを超過するとき、繊維が太すぎて、セパレータとしたときの厚さを薄くできない。更に、抄紙工程での安定性や歩留りが向上するため、平均繊維幅が6μm以上であることが、より好ましい。
【0032】
なお、ここでいう平均繊維長とは、JIS P 8226−2『パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法』(ISO16065−2)による長さ加重平均繊維長を指す。この長さ加重平均繊維長を測定する装置は、繊維の画像を撮影し、その長さを分析する際、繊維の見かけの幅も同時に測定し、出力することが一般的である。
本発明において、平均繊維幅とは、区間幅2μmでの頻度分布から、長さ加重平均繊維長と同じ計算によって求めた見かけの平均繊維幅である。
また、ここでいう見かけの繊維幅とは、叩解された繊維の幹部分と、そこから枝葉状に発生したフィブリルをあわせた幅のことである。
【0033】
更に本発明においては、この繊維表層に発生する微細なフィブリルと、繊維長のバランスに注目した。即ち、平均繊維長を平均繊維幅で除して算出した値(以後、本実施の形態例では、この値をA値と表記する)を15〜70とすることで、緻密性を損なうことなく強度を高く保つことができる。
【0034】
A値が70を超過すると、再生セルロース繊維のフィブリルに対して幹部分が多いので、フィブリルによる幹部分の補強効果が充分でなく、強度が向上しない。また、叩解された再生セルロース繊維の幹部分に対してフィブリルが少ない場合ともいえ、緻密性も向上しない。
【0035】
A値は15以上であることがより好ましい。A値が15を下回るのは、叩解され短繊維化が高度に進行し、フィブリルの多くが幹部分から脱落してしまっている場合か、繊維がはじめ(叩解前)から短く、かつ叩解も進んでいない場合である。脱落したフィブリルは非常に微細な繊維であるため、抄紙ワイヤーから抜け落ちてシートの緻密性が向上し難いし、幹部分とつながっていないため、強度も向上し難い。繊維がはじめから短く、且つ叩解が進んでいない場合も同様に、強度、緻密性共に向上しない。
【0036】
A値と平均繊維長とが同時に上記範囲を満たす本実施の形態のセパレータは、叩解された再生セルロース繊維からなるセパレータの緻密性と強度とが最も高く、薄型化しても使用に耐えうる強度と遮蔽性を持った、低抵抗なセパレータとなる。
【0037】
平均繊維長を0.25〜0.80mm、且つ平均繊維幅を3〜35μm、且つA値を15〜70の範囲とするためには、平均繊維幅を広く保つことが肝要である。
平均繊維幅が平均繊維長と比べて狭いとA値は大きくなってしまうし、狭い平均繊維幅でA値を15〜70の範囲に納めようとすると、平均繊維長が短くなりすぎてしまう。
【0038】
例えば、叩解時の原料濃度及び総負荷をコントロールすることで、本実施の形態のセパレータが得られる。
【0039】
繊維は、高濃度で叩解されるとき、刃物による切断よりも、繊維同士の摩擦により微細化する。このため、短繊維化よりもフィブリル化が優位に叩解され、平均繊維幅を広く保ったまま短繊維化ができる。原料濃度が低濃度だと、短繊維化が優位に働くためフィブリルが発生し難く、発生したフィブリルも刃物による切断力が加わり脱落してしまう。
【0040】
また、種々の叩解濃度について試験検討した結果、叩解初期の濃度は5〜15質量%が好ましく、叩解中期から末期の濃度は2〜8質量%が好ましいと判明した。
【0041】
叩解濃度は、種々の濃度計や方法により測定できるが、本実施の形態例では、50gの叩解に供する原料を乾燥させ、前後の質量差から求めた。
具体的には、以下に示す式の通りである。
C=(W/50)×100
なお、ここでのCは叩解濃度(質量%)であり、Wは原料の乾燥後の質量(絶乾質量)である。
【0042】
また、本実施の形態例における叩解初期とは、叩解前の平均繊維長の60%まで短繊維化するまでの期間であり、それ以後を叩解中期から末期としている。
【0043】
更に、叩解における総負荷を管理することも重要である。
なお、本実施の形態例での総負荷は、叩解の初期から完了までに使用した電力を、原料の重量で除して算出した値であり、単位はkWh/kgである。
そして、種々の叩解総負荷について試験研究した結果、総負荷は1〜15kWh/kgの範囲内が好ましいことが判明した。叩解濃度に加え叩解総負荷も以上の範囲に管理することで、平均繊維長、平均繊維幅、A値を所定の範囲内にできる。
【0044】
叩解された再生セルロース繊維のA値が70以下であるとき、繊維のフィブリル化が高度に進行し、しかもフィブリルが繊維とつながっている状態であるといえる。このため、個々は微弱なフィブリル同士の水素結合であっても、その結合箇所が最大数発生しており、フィブリル同士が根元の再生セルロース繊維の幹部分を互いに支えあうようにして強度が向上する。
【0045】
そして、繊維の叩解に用いる設備は、通常抄紙原料の調製に使用されるものであれば、いずれでも良い。一般的には、ビーター、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー、高圧ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0046】
また、本発明のセパレータに使用可能な再生セルロース繊維としては、例えばリヨセルを代表とする溶剤紡糸レーヨンや、ポリノジックレーヨンなどが挙げられる。しかし、これらの例に限定されるものではなく、叩解可能な再生セルロース繊維であれば、いずれも使用することができる。
叩解前の繊維長は任意のものが使用できるが、初期の繊維長が長すぎると叩解時にもつれて均質な叩解が難しくなるし、短すぎると叩解後の平均繊維長と平均繊維幅のバランスが悪く、A値が好適な範囲を外れやすい。このため、初期の繊維長は1〜8mmが好ましい。
叩解前の繊維幅も、任意のものが使用できる。ただし、初期の繊維幅が太すぎると、セパレータとしたときに薄くできず、初期の繊維幅が細すぎると、叩解後の平均繊維長と平均繊維幅のバランスが悪く、A値が好適な範囲を外れやすい。このため、初期の繊維幅は3〜20μmが好ましい。
【0047】
天然セルロース繊維を原料として用いた場合、抵抗が悪化するため好ましくない。また、合成繊維は、再生セルロース繊維と異なり水素結合を持たないため強度が低下するし、フィブリルが存在しないため緻密性も低下する。このため、セパレータとしたときの遮蔽性が不足し、ショート不良が増加する。また、フィブリル化合成繊維であっても、水素結合を持たないことには変わりなく、不適である。
【0048】
本発明のセパレータの抄紙の際、必要に応じて、抄紙工程で通常使用される添加剤、例えば分散剤や消泡剤、紙力増強剤などを使用してもよい。また、必要に応じて、ポリアクリルアミドなどの紙力増強剤の塗工を行ってもよい。
【0049】
本発明のセパレータは、厚さが3〜30μmであることが好ましい。厚さ制御のため、必要に応じて、カレンダ処理を行ってもよい。
厚さが3μmを下回るときには、平均繊維長及びA値が良好な範囲にあるセパレータであっても遮蔽性及び強度が不足し、電気化学素子のショート不良や巻取り工程での破断等の不具合が増加する。
30μmを超過するときには、電気化学素子の小型化、高容量化、低抵抗化、長寿命化に寄与し難い。
更に、セパレータを5〜30μmとしたとき、より遮蔽性に優れるセパレータとなり好ましい。
【0050】
電気化学素子の低抵抗化の観点から、密度は低いほど好ましい。ただし、あまりに密度が低すぎる場合は、遮蔽性及び強度が低下し、ショート不良や巻取り工程での破断等の不具合が増加する。また、密度が高すぎると低抵抗化が実現できない。これらから、密度は0.25〜0.85g/cmの範囲が好ましい。
【0051】
以上の構成とすることで、叩解された再生セルロース繊維からなるセパレータの強度を落とすことなく緻密性を高めることができ、薄くとも遮蔽性の高い本発明のセパレータを提供できる。そして、このセパレータを電気化学素子に用いれば、電気化学素子の高容量化や小型化、低抵抗化が可能となる。更に、本実施の形態のセパレータは、強度にも優れ取扱が容易であるため、電気化学素子の生産性や歩留りも向上する。
【0052】
例えば、電気化学素子として、キャパシタ及び電池を想定することが好ましい。更に、キャパシタとしては、アルミニウム電解コンデンサや電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタを、電池としては、リチウム一次電池やリチウムイオン二次電池を含めることができる。以下の説明においては、本実施の形態のセパレータを用いる電気化学素子として、キャパシタ及び電池、具体的には電気二重層キャパシタ、アルミニウム電解コンデンサ、リチウムイオン二次電池を用いる例について説明する。しかし、他の電気化学素子への採用を排除するものではない。また、本実施の形態例では、いずれも捲回型の電気化学素子について解説するが、積層型といったような他の作製方法による電気化学素子にも適用できる。
【0053】
本発明の電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子は、セパレータ部分に電解液を含浸保持させ、両極を該セパレータで隔離することによって構成する。
電解液としては、通常使用される電解液であれば、いずれでも良い。電解液として、本実施の形態例に取り上げる、溶媒と電解質との組み合わせに限定されるものではなく、通常使用される電解液であれば、いずれでも良い。
【0054】
〔セパレータ及び電気化学素子の評価方法〕
本実施の形態例のセパレータ及び電気化学素子の具体的な特性は、以下の条件及び方法で行った。
【0055】
〔叩解濃度〕
叩解に供する50gの原料(水分散体)を乾燥させ、前後の質量差から求めた。
具体的には、以下に示す式の通りである。
C=(W/50)×100
なお、ここでのCは叩解濃度(質量%)であり、Wは原料の乾燥後の質量(絶乾質量)である。
また、叩解初期と中期以降とで叩解濃度を変更した際は、それぞれ前段濃度、後段濃度と表記した。
【0056】
〔総負荷〕
叩解開始から叩解完了までにかかった電力を、叩解した原料の質量で除して求めた。
【0057】
〔平均繊維長〕
平均繊維長は、JIS P 8226−2『パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法』(ISO16065−2)に準じて、Fiber Tester Code912(Lorentzen & Wettre社製)を用いて測定した長さ加重平均繊維長の値である。
【0058】
〔平均繊維幅〕
平均繊維幅は、JIS P 8226−2『パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法』(ISO16065−2)に記載された装置、ここではまずFiber Tester Code912(Lorentzen & Wettre社製)を用いて繊維幅を測定した。次に、各測定データから区間幅2μmの頻度分布を作成し、長さ加重平均繊維長と同じ計算によって平均繊維幅を求めた。
なお、この計算式は以下の通りである。
Wl=Σn/Σn
ここで、Wlは平均繊維幅(μm)、nはi番目の区間に分類された繊維の本数であり、wはi番目の区間の中心値(μm)である。
本発明において、繊維幅の1区間は2μmである。従って例えば、2番目の区間は2μmを超過し4μm以下の繊維幅をものが計数され、その中心値は3μmである。この区間に5本の繊維が計数された場合、n=5であり、w=3である。
【0059】
〔平均繊維長を平均繊維幅で除して算出した値(A値)〕
上記平均繊維長を、上記平均繊維幅で除して、算出した。
【0060】
〔厚さ〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器および測定方法 a外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法でセパレータの厚さを測定した。
【0061】
〔密度〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 7.0A 密度」のB法に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの密度を測定した。
【0062】
〔電気二重層キャパシタの作製方法〕
電気二重層キャパシタは、活性炭電極とセパレータとを捲回し、電気二重層キャパシタ素子を得た。その素子を有底円筒状のアルミニウムケース内に収納し、プロピレンカーボネート溶媒に、電解質としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを溶解した電解液を注入し真空含浸を行った後、封口ゴムで封止して、電気二重層キャパシタを作製した。
【0063】
〔アルミニウム電解コンデンサの作製方法〕
アルミニウム電解コンデンサは、エッチング処理および酸化皮膜形成処理を行った、陽極アルミ箔と陰極アルミ箔とが接触しないように、セパレータを介在させて捲回し、アルミニウム電解コンデンサ素子を得た。その素子を有底円筒状のアルミニウムケース内に収納し、GBLを溶媒に、電解質としてアジピン酸アンモニウムを溶解した電解液を注入し真空含浸を行った後、封口ゴムで封止して、アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0064】
〔リチウムイオン二次電池の作製方法〕
リチウムイオン二次電池は、正極材としてリチウムイオン二次電池用のコバルト酸リチウム電極を、負極材としてグラファイト電極を用い、セパレータと共に捲回し、リチウムイオン二次電池素子を得た。その素子を有底円筒状のケース内に収納し、プロピレンカーボネート溶媒に電解質としてリチウムイオンとテトラフルオロボレートを溶解した電解液を注入し、プレス機で封止して、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
〔電気化学素子作製時の作業性〕
各電気化学素子1000個を作製する際に、同一作製条件下でセパレータの破断発生回数を計測し、発生回数が1回以下のものを○、4回以下のものを△、5回以上のものを×とした。
【0066】
〔電気化学素子の評価方法〕
本実施の形態の電気化学素子の具体的な性能評価は、以下の条件及び方法で行った。
【0067】
〔静電容量〕
電気二重層キャパシタの静電容量は、「JIS C 5160−1 『電子機器用固定電気二重層コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.5静電容量」の定電流放電法により求めた。
また、アルミニウム電解コンデンサの静電容量は、「JIS C 5101−1 『電子機器用固定コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.7 静電容量」の方法により求めた。
【0068】
〔放電容量〕
リチウムイオン二次電池の放電容量は、「JIS C 8715−1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム−第一部:性能要求事項』」に規定された、「8.4.1放電性能試験」に従い測定した。
【0069】
〔内部抵抗〕
電気二重層キャパシタの内部抵抗は、「JIS C 5160−1 『電子機器用固定電気二重層コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.6内部抵抗」の交流(a.c.)抵抗法により測定した。
リチウムイオン二次電池の内部抵抗は、「JIS C 8715−1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム−第一部:性能要求事項』」に規定された、「8.6.3交流内部抵抗」に従い測定した。
【0070】
〔インピーダンス〕
アルミニウム電解コンデンサの抵抗は、「JIS C 5101−1 『電子機器用固定コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.10 インピーダンス」の方法により求めた。
【0071】
〔ショート不良率〕
電気化学素子のショート不良率は、定格電圧まで充電電圧が上がらなかった場合をショート不良とみなし、これらのショート不良となった電気化学素子の個数を、作製した電気化学素子数で除して、百分率をもってショート不良率とした。
【実施例】
【0072】
以下、本発明に係る具体的な実施例と、比較例及び従来例について説明する。
なお、各実施例のセパレータは、再生セルロース繊維を使用して、抄紙法にてセパレータを構成した。電気化学素子のサイズは、直径(mm)×高さ(mm)の順に記載した。
【0073】
(実施例1)
再生セルロース繊維である溶剤紡糸レーヨン繊維(以下リヨセルと表記する)を、前段濃度5%、後段濃度2%、総負荷1kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ30.0μm、密度0.40g/cm、平均繊維長0.79mm、平均繊維幅13μm、A値60.8のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量100F、セルサイズ25mm×45mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例1の電気二重層キャパシタとした。
【0074】
(実施例2)
リヨセル繊維を、前段濃度8%、後段濃度4%、総負荷3kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ25.0μm、密度0.32g/cm、平均繊維長0.56mm、平均繊維幅18μm、A値31.1のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量100F、セルサイズ25mm×45mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例2の電気二重層キャパシタとした。
【0075】
(実施例3)
再生セルロース繊維であるポリノジックレーヨン繊維を、前段濃度5%、後段濃度6%、総負荷6kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ20.0μm、密度0.50g/cm、平均繊維長0.63mm、平均繊維幅11μm、A値57.3のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量300F、セルサイズ35mm×60mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例3の電気二重層キャパシタとした。
【0076】
(実施例4)
リヨセル繊維を、濃度6%、総負荷7kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ20.0μm、密度0.83g/cm、平均繊維長0.54mm、平均繊維幅35μm、A値15.4のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量300F、セルサイズ25mm×45mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例4の電気二重層キャパシタとした。
【0077】
(実施例5)
リヨセル繊維を、前段濃度6%、後段濃度2%、総負荷4kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ15.0μm、密度0.50g/cm、平均繊維長0.42mm、平均繊維幅6μm、A値70.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例5の電気二重層キャパシタとした。
【0078】
(実施例6)
リヨセル繊維を、前段濃度8%、後段濃度3%、総負荷11kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ10.0μm、密度0.70g/cm、平均繊維長0.78mm、平均繊維幅33μm、A値23.6のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例6の電気二重層キャパシタとした。
【0079】
(実施例7)
リヨセル繊維を、前段濃度12%、後段濃度7%、総負荷9kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ10.0μm、密度0.50g/cm、平均繊維長0.36mm、平均繊維幅23μm、A値15.7のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例7の電気二重層キャパシタとした。
【0080】
(実施例8)
リヨセル繊維を、前段濃度11%、後段濃度6%、総負荷10kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ5.0μm、密度0.60g/cm、平均繊維長0.26mm、平均繊維幅4μm、A値65.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例8の電気二重層キャパシタとした。
【0081】
(実施例9)
リヨセル繊維を、前段濃度15%、後段濃度8%、総負荷15kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ3.0μm、密度0.83g/cm、平均繊維長0.25mm、平均繊維幅15μm、A値16.7のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、実施例9の電気二重層キャパシタとした。
【0082】
(比較例1)
リヨセル繊維を、前段濃度15%、後段濃度4%、総負荷2kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ35.0μm、密度0.43g/cm、平均繊維長0.64mm、平均繊維幅38μm、A値16.8のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量100F、セルサイズ25mm×45mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例1の電気二重層キャパシタとした。
【0083】
(比較例2)
リヨセル繊維90質量%を、前段濃度6%、後段濃度3%、総負荷3kWh/kgで叩解した後、未叩解の針葉樹パルプ10質量%と混合し、長網抄紙することで、厚さ25.0μm、密度0.40g/cm、平均繊維長0.60mm、平均繊維幅25μm、A値24.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量100F、セルサイズ25mm×45mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例2の電気二重層キャパシタとした。
【0084】
(比較例3)
リヨセル繊維90質量%を、前段濃度6%、後段濃度3%、総負荷3kWh/kgで叩解した後、フィブリル化アラミド繊維10質量%と混合し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ20.0μm、密度0.60g/cm、平均繊維長0.55mm、平均繊維幅22μm、A値25.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量300F、セルサイズ35mm×60mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例3の電気二重層キャパシタとした。
【0085】
(比較例4)
リヨセル繊維を、前段濃度8%、後段濃度3%、総負荷0.5kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ20.0μm、密度0.45g/cm、平均繊維長0.82mm、平均繊維幅20μm、A値41.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量300F、セルサイズ35mm×60mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例4の電気二重層キャパシタとした。
【0086】
(比較例5)
リヨセル繊維を、濃度4%、総負荷10kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ15.0μm、密度0.47g/cm、平均繊維長0.71mm、平均繊維幅9μm、A値78.9のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量300F、セルサイズ35mm×60mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例5の電気二重層キャパシタとした。
【0087】
(比較例6)
リヨセル繊維を、前段濃度8%、後段濃度6%、総負荷17kWh/kgで叩解し、長網抄紙することで、厚さ10.0μm、密度0.50g/cm、平均繊維長0.23mm、平均繊維幅7μm、A値32.9のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例6の電気二重層キャパシタとした。
【0088】
(比較例7)
リヨセル繊維を、前段濃度15%、後段濃度10%、総負荷15kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ10.0μm、密度0.70g/cm、平均繊維長0.28mm、平均繊維幅20μm、A値14.0のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例7の電気二重層キャパシタとした。
【0089】
(比較例8)
リヨセル繊維を、前段濃度15%、後段濃度8%、総負荷15kWh/kgで叩解し、長網抄紙後、キャレンダー加工することで、厚さ2.5μm、密度0.88g/cm、平均繊維長0.35mm、平均繊維幅13μm、A値26.9のセパレータを得た。
このセパレータを用いて、定格電圧2.5V、定格静電容量3000F、セルサイズ60mm×140mmの電気二重層キャパシタを作製し、比較例8の電気二重層キャパシタとした。
【0090】
(実施例10)
実施例4と同じセパレータを用いて、定格電圧63V、定格容量120μF、コンデンササイズ10mm×20mmのアルミニウム電解コンデンサを作製し、実施例10のアルミニウム電解コンデンサとした。
【0091】
(実施例11)
実施例5と同じセパレータを用いて、定格電圧3.7V、定格容量2200mA、セルサイズ18mm×65mmのリチウムイオン二次電池を作製し、実施例11のリチウムイオン二次電池とした。
【0092】
なお、各実施例と、比較例2乃至比較例8に用いた再生セルロース繊維は、叩解前の平均繊維長が1〜8mm、且つ平均繊維幅が3〜20μmである。
【0093】
実施例1乃至実施例9、比較例1乃至比較例8について、原料の繊維名と配合割合、得られたセパレータの諸物性、電気二重層キャパシタ作製時の作業性、電気二重層キャパシタの評価結果を、表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例10について、原料の繊維名と配合割合、得られたセパレータの諸物性、アルミ電解コンデンサ作製時の作業性、アルミ電解コンデンサの評価結果を、表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例11について、原料の繊維名と配合割合、得られたセパレータの諸物性、リチウムイオン二次電池作製時の作業性、リチウムイオン二次電池の評価結果を、表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
実施例1乃至実施例9の電気二重層キャパシタは、電気化学素子作製時の作業性が全て「○」である。また、ショート不良率は0.0〜0.4%と、1%を下回っており低い。更に内部抵抗値も充分に小さい。
【0100】
一方、比較例1のセパレータの厚さが35.0μmと厚い。このため、電気二重層キャパシタの内部抵抗値が、同じ静電容量の実施例より20%以上悪化している。このセパレータの厚さを、キャレンダー加工により薄くすると、密度が上昇し、かえって内部抵抗値が増大してしまう。また、密度を変えずに坪量を減らすことで薄くすると、遮蔽性が低下し、ショート不良が増加すると考えられる。
比較例1と各実施例から、セパレータの厚さは30μm以下が好ましいとわかる。
【0101】
また、比較例2のセパレータは、針葉樹パルプを10質量%含有している。このため、内部抵抗が同じ静電容量の実施例より、20%以上悪化している。また、ショート不良率は0.8%であり、1%には達しないものの、各実施例と比べて高い。ショート不良率を実施例と同等まで低減するために針葉樹パルプを叩解すると、抵抗値が更に悪化すると予想される。
【0102】
そして、比較例3のセパレータは、フィブリル化アラミド繊維を10質量%含有している。フィブリル化アラミド繊維は、水素結合を持たないため、シートの強度が低下する。このため、電気二重層キャパシタ作製時の作業性が悪化(×)した。また、同様の理由により遮蔽性が低いので、ショート不良も増加した。
【0103】
以上、比較例2及び比較例3から、叩解された再生セルロース繊維のみからなるセパレータが好ましいとわかる。
【0104】
比較例4のセパレータは、叩解時の総負荷が0.5kWh/kgと低く、平均繊維長が0.82mmである。これは、総負荷が小さく、繊維に充分な叩解エネルギーが加わっておらず、フィブリル化が不十分であるためと考えられる。このため、シートとしたときの緻密性が低く、セパレータとしたときの遮蔽性に劣る。結果、ショート不良率が1%以上となった。
比較例6のセパレータは、叩解時の総負荷が17kWh/kgと高く、平均繊維長は0.23mmであった。これは、総負荷が大きく、繊維に叩解エネルギーが過剰にかかったためと考えられる。結果、セパレータの強度が低下し、作業性が悪化(×)した。
以上、各実施例と比較例4及び比較例6から、平均繊維長は0.25〜0.80mmの範囲が好ましいとわかる。
【0105】
比較例5のセパレータは、従来の技術によるセパレータであり、A値は78.9である。これは、前段の濃度が4%と低く、リヨセルの短繊維化優位に叩解が進み、フィブリル化が不十分となったためと考えられる。このため、これほどの薄さでは遮蔽性及び強度が不足する。結果、作業性は悪化(×)し、ショート不良も増加した。
また、実施例5と比較例5は、同厚さのセパレータを用いた、容量の異なる電気二重層キャパシタである。本発明を用いれば、この例のように、電気二重層キャパシタの高容量化が達成できる。また、静電容量は極材の巻き取り長に比例するため、高容量化せず同巻き取り長とする場合は、捲回素子の小型化が可能となる。
比較例7のセパレータは、A値が14.0である。これは、叩解時の後段濃度が10%と高かったためと思われる。叩解時のような水中では、フィブリルが発生したことにより、原料の流動性が高まっている。このため、叩解の中期から末期にかけては、繊維同士の摩擦によるフィブリル化が起こり難い。ここで高濃度のまま所望の平均繊維長となるまで叩解すると、平均繊維幅が広くならず、逆に、叩解初期に発生したフィブリルの脱落が増加し、平均繊維幅が狭くなってしまったと推察される。結果として、強度がやや不足し、作業性が悪化(△)した。また、遮蔽製も不足するため、ショート不良率も0.5%を超過した。
以上、各実施例と比較例5及び比較例7から、A値は15〜70の範囲が好ましいとわかる。
【0106】
比較例8のセパレータは、厚さが2.5μmと薄い。このため、密度が0.88g/cmと高いにも関わらず、強度が低く作業性が悪化(×)し、ショート不良も増加した。このことから、セパレータの厚さは3μm以上が好ましいと分かる。また、密度が高いため、電気二重層キャパシタの内部抵抗も同容量の実施例と比べ20%以上悪化した。このことから、セパレータの密度は0.85g/cm以下が好ましいとわかる。
更に、実施例8と実施例9とを比べると、実施例8のショート不良率が低い。このことから、セパレータの厚さは、5μm以上がより好ましいとわかる。
【0107】
そして、平均繊維長、平均繊維幅、A値を、それぞれ前述した範囲内とするためには、叩解時の濃度と総負荷をコントロールすることが重要であるとわかる。前段濃度5〜15%、且つ後段濃度2〜8%、且つ総負荷1〜15kWh/kgとすることで、平均繊維長、平均繊維幅、A値を、それぞれ前述した範囲内にできる。
更に、実施例3のように後段の濃度が高い場合や、実施例4のように全後段の濃度が同じであっても、叩解濃度は全後段ともこの範囲にあればよいとわかる。
【0108】
また、実施例10及び実施例11から、アルミニウム電解コンデンサやリチウムイオン二次電池でも、これらの電気化学素子は問題なく機能している。
【0109】
以上説明した通り、本実施の形態例によれば、叩解濃度及び叩解時の総負荷を管理することで、平均繊維長0.25〜0.80mm、且つ平均繊維幅3〜35μm、且つA値15〜70とできる。そして、この範囲の平均繊維長、平均繊維幅、A値とすることで、30μm以下といった非常に薄いセパレータであっても、電気化学素子作製工程での作業性を悪化させない強度を持ち、遮蔽性に優れた、低抵抗なセパレータを提供できる。
そしてこのセパレータを用いることで、電気化学素子の低抵抗化、高容量化、小型化、長寿命化等を達成できる。
【0110】
また、本発明のセパレータは、本実施の形態例で取り上げた、電気二重層キャパシタ、アルミニウム電解コンデンサ、リチウムイオン二次電池以外にも、例えばリチウムイオンキャパシタ、リチウム一次電池といった、高い遮蔽性と薄さを求められる各種電気化学素子にも好適に使用できる。