特許第6649040号(P6649040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649040
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】ガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/047 20060101AFI20200210BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20200210BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20200210BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20200210BHJP
   C01B 21/04 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   B01D53/047
   B01J20/26 A
   B01J20/34 E
   C01B32/50
   C01B21/04 B
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-216701(P2015-216701)
(22)【出願日】2015年11月4日
(65)【公開番号】特開2017-87101(P2017-87101A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「PCPナノ空間による分子制御科学と応用展開」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】上代 洋
(72)【発明者】
【氏名】永井 徹
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮太郎
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−021486(JP,A)
【文献】 特開平08−052317(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/012068(WO,A1)
【文献】 特開2012−228667(JP,A)
【文献】 特開2010−058034(JP,A)
【文献】 特開2004−074025(JP,A)
【文献】 特開2009−006255(JP,A)
【文献】 特開2015−086217(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/069574(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/028574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/047
B01J 20/26
B01J 20/34
C01B 21/04
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた温度センサ、温度コントローラ、加熱手段および冷却手段を含むガス分離装置。
【請求項2】
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた圧力センサ、圧力コントローラ、加圧手段および減圧手段を含むガス分離装置。
【請求項3】
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた圧力センサ、温度センサ、圧力コントローラ、温度コントローラ、加熱手段、冷却手段、加圧手段および減圧手段を含むガス分離装置。
【請求項4】
前記ゲート型多孔性高分子錯体が、前記複数種の混合ガスの少なくとも1種に関してゲート型等温線を示す請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス分離装置。
【請求項5】
前記ゲート型多孔性高分子錯体が、ELM類、カゴメ類、MIL類、CID類から選ばれる請求項4に記載のガス分離装置。
【請求項6】
前記ゲート型多孔性高分子錯体の吸着ゲート係数が、0.7〜75で、脱着ゲート係数が0.4〜80である、請求項5記載のガス分離装置。
【請求項7】
前記ゲート型多孔性高分子錯体の吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が、2kPa〜8000kPaである、請求項5記載のガス分離装置。
【請求項8】
前記ガス種が、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルカン類、アルケン類、およびアルキン類のいずれかである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲート現象を示す多孔性高分子錯体(以下、単に「ゲート型多孔性高分子錯体」ともいう)を用いたガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素や窒素等の産業上、重要なガスを製造する方法として、固体吸着材を用いて、圧力スウィング吸着(PSA: Pressure Swing Adsorption)システムが広く普及している。これは、たとえば二種のガスの混合物からガスを分離する場合に、二種のガスに対する吸着力に差がある固体吸着材を吸着塔に充填し、混合ガスを導入すると一方のガスが選択的に吸着された結果、気層には、吸着されなかったガスが多く残るため、これを減圧して回収するという原理に基づいている。このためにはゼオライトや活性炭などの、いわゆる多孔体と呼ばれる固体吸着材が広く利用され、酸素生成PSA、窒素生成PSA他、広く普及している(特許文献1等)。
【0003】
一般に、ゼオライトや活性炭などの既存の多孔体は、いわゆるIUPACの吸着等温線の6分類で分類可能である。すなわち、既存の多孔体は、圧力上昇に応じてガス吸着力が増加する特性を有しており、既存のPSAシステムは、このような特性に最適化されている。一方で、IUPACの6分類では分類できない、特殊な吸着等温線を示す材料が発表されている。これらは、金属イオン、配位子から形成される多孔性高分子錯体(PCP: Porous Coordination Polymer)の一種で、ゲート型多孔性高分子錯体、柔軟性多孔性高分子錯体などと呼ばれ、これらが示す特殊なガス吸着挙動はゲート現象、ゲート吸着と呼ばれている。
【0004】
ゲート現象とは、主として、多孔性高分子錯体の構造が変化することで、ガスの吸着量が急激に変化する現象である。ガス圧が低圧の場合は、ゲート型多孔性高分子錯体はガスをほとんど吸着しないが、ガス圧が一定値(これの圧がゲート圧と呼ばれる)に達すると、PCPの構造が変化(例えば、積層がずれる、層間が広がる等)し、ガス分子が取り込まれる。このため、ゲート圧を境にガス吸着量は急激に増加する。これは、ゲート圧以下では、ゲート型多孔性高分子錯体とガス分子が別々に存在している方がエネルギー的に安定であるが、ゲート圧以上では、ゲート型多孔性高分子錯体とガス分子が別々に存在しているよりも、ガス分子がPCPの内部に取り込まれる方が、より安定な包摂体を形成し、エネルギー的に有利になるため為と考えられている。
【0005】
ガス放出では逆の現象が生じる。すなわち、ガス圧がゲート圧以下に下がると、ゲート型多孔性高分子錯体に取り込まれていたガス分子が放出され、元のゲート型多孔性高分子錯体の構造に戻ろうとする為、ガスの放出が急激に生じる。すなわち、このようなゲート現象は、ゲート型多孔性高分子錯体構造の柔軟性に基づいており、この様な柔軟性を有していない既存多孔体であるゼオライトや活性炭ではゲート現象は生じない、ゲート型多孔高性分子錯体特有の現象である。
【0006】
このゲート現象を、ガス分離に適用した場合、主として2つの大きなメリットがある。一つ目は、ガスの吸着、放出が急激に生じる事による、高効率なガス分離である。既存の多孔体は、ガス圧と吸着量が概ね比例する様な吸着等温線を示す。この様な材料に吸着したガスを全量回収する為には、大きな圧力変動が必要となる。一方で、ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体では、非常に小さな圧力変動でガスを回収することができる(図1)。
ガス回収の際の圧力変動は、電力コストに直結している。すなわち、小さな圧力変動でガスを回収することができるゲート型多孔性高分子錯体は、低コストでガスを分離することができる材料である。
【0007】
2つめのメリットは、ガス分離効率の高さである。前述の通り、ゲート型多孔性高分子錯体のガス吸着は、従来のような、細孔の中にガス分子が取りこまれるという単純なメカニズムでは無く、ゲート型多孔性高分子錯体とガス分子が、一定ガス圧(ゲート圧)以上では、ゲート型多孔性高分子錯体と安定な包摂体を形成するというメカニズムに基づいている。既存多孔体の場合、二種のガスと異なる親和性があっても、細孔がある以上、親和性の低いガスも細孔内に取りこまれる共吸着現象が生じやすい。一方で、ゲート型多孔性高分子錯体は、共吸着現象によって、親和性が低いガス分子も取りこむと、包摂体の安定性が低下するため、親和性が高いガスを選択的に取りこみ、より安定な包摂体を形成しようとする特性を有している。このため、ゲート型多孔性高分子錯体は、ガス選択性が高く、PSAシステムに適用した場合、高効率で高純度なガスを製造することができる。
【0008】
しかし、実際にこのゲート型多孔性高分子錯体をPSAシステムに適用した場合、種々の問題が生じてくる。既存多孔体材料であれば、ガスの吸着は圧力上昇に応じて徐々に生じる為、吸着塔内にガスを流した場合、吸着はガスの入り側から徐々に生じていく。一方で、ゲート型多孔性高分子錯体を使用した場合、ガスの吸着がゲート現象的に突然生じるため、吸着塔内の特定箇所で、温度やガス分圧が急激に変動する場合がある。しかしゲート圧力は、一般に温度、ガス分圧により大きく変動するため(非特許文献1)、吸着塔内の温度、ガス分圧が急激に変動すると、吸着塔内で、一旦吸着されたガスが急激に再放出される等の、既存多孔体材料では無かった異常な現象が生じうる。このような急激なガスの再放出現象が生じると、塔内の温度が下がり、再びゲート現象的にガス吸着が生じる様な、振動現象につながりうる。この結果、吸着塔内での温度やガス分圧の異常な分布ムラが生じてガス分離が困難になったり、分離したガス純度が低下する等の問題が生じる。このゲート型多孔性高分子錯体を利用したPSAシステムは未だ実用化されておらず、本課題も解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−061244号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】加納ら、Journal of Colloid and Interface Science (2009) 334, 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ゲート型多孔性高分子錯体を内部に収容してなるガス分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前述のような問題点を解決すべく、鋭意研究を積み重ねた結果、PSAの吸着塔に、あらかじめゲート現象に伴うガス濃度分布変化、温度変化、圧力変化等を均質化するように、パラメータ(例えば、温度、圧力)の分布を能動的に引き起こさせ、ゲート現象の急激な発現を抑制する事で、安定的かつ高効率なガス分離ができることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明は、ゲート型多孔性高分子錯体を内部に収容してなる高効率なガス分離装置を提供する。
【0013】
すなわち本発明は下記に示すとおりである。
【0014】
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた温度センサ、温度コントローラ、加熱手段および冷却手段を含むガス分離装置。
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた圧力センサ、圧力コントローラ、加圧手段および減圧手段を含むガス分離装置。
ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔を含むガス分離装置であって、
複数種のガスを含む混合ガスを前記吸着塔に供給して該吸着塔内にゲート現象を起こさせるためのガス供給手段と、
前記ゲート現象の発現と関連するパラメータを制御して、前記ゲート現象を前記吸着塔内で均質に発現せるための前記パラメータ分布を制御する手段と
を少なくとも含み、
ゲート現象の発現と関連する前記パラメータを制御する手段が、前記吸着塔内の全域に取付けられた圧力センサ、温度センサ、圧力コントローラ、温度コントローラ、加熱手段、冷却手段、加圧手段および減圧手段を含むガス分離装置。
)前記ゲート型多孔性高分子錯体が、前記複数種の混合ガスの少なくとも1種に関してゲート型等温線を示す(1)〜()のいずれかに記載のガス分離装置。
)前記ゲート型多孔性高分子錯体が、ELM類、カゴメ類、MIL類、CID類から選ばれる()に記載のガス分離装置。
)前記ゲート型多孔性高分子錯体の吸着ゲート係数が、0.7〜75で、脱着ゲート係数が0.4〜80である、()記載のガス分離装置。
)前記ゲート型多孔性高分子錯体の吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が、2kPa〜8000kPaである、()記載のガス分離装置。
)前記ガス種が、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルカン類、アルケン類、およびアルキン類のいずれかである、(1)〜()のいずれかに記載のガス分離装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゲート型多孔性高分子錯体を充填して成る装置は、高効率なガス分離を行うことができる。本発明のガス分離装置としては、圧力スイング吸着方式(以下「PSA方式」と略記)のガス分離装置が挙げられる。方式としては真空スウィング吸着(VSA: Vacuum Swing Adsorption)または圧力スウィング吸着(PSA)いずれも好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】既存の固体吸着材と本発明に用いる多孔性高分子錯体から成る吸着材の、ガス圧力とガス吸着量との関係を示すグラフ。
図2】本発明に用いる多孔性高分子錯体から成る吸着材の各ゲート圧力を表した図。
図3】ELM−11を例にして、ゲート係数を説明する図。
図4】本発明のガス分離装置の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゲート型多孔性高分子錯体は、ゲート型の等温線を示す材料である。ゲート型とは、主として構造変化により、図2に示すような変曲点を示す吸着およびまたは脱着等温線を意味する。ゲート型多孔性高分子錯体の等温線は、図2に示すように、吸着開始ゲート圧力、吸着完了ゲート圧力、ゲート吸着量、脱着開始ゲート圧力、脱着完了ゲート圧力、ゲート脱着量で定義される。
【0018】
吸着開始ゲート圧力とは、吸着工程において、吸着初期の吸着量−圧力の比例関係が急激に大きくなる(ガスの圧力増分に対し、吸着量増分が急に大きくなる)圧力である。吸着完了ゲート圧力とは、吸着工程において吸着開始ゲート圧力以降の吸着量−圧力の比例関係が急激に小さくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に小さくなる)圧力である。ゲート吸着量とは、吸着開始ゲート圧から、吸着完了ゲート圧力の間の吸着量である。また、脱着開始ゲート圧力とは、脱着工程に於いて脱着初期の吸着量−圧力の比例関係が急激に大きくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に大きくなる)圧力である。脱着完了ゲート圧力とは、脱着工程に於いて脱着開始ゲート圧力以降の吸着量−圧力の比例関係が急激に小さくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に小さくなる)圧力であるである。ゲート脱着量とは、脱着開始ゲート圧力以降、脱着完了ゲート圧力までの脱着量である。
【0019】
また、ゲートのゲート型多孔性高分子錯体吸着特性および脱着特性は、以下の2式で定義することができる。
【0020】
式1:吸着ゲート係数=(吸着完了ゲート圧での吸着量−吸着開始ゲート圧での吸着量)/(吸着完了ゲート圧−吸着開始ゲート圧)
式2:脱着ゲート係数=(脱着開始ゲート圧での吸着量−脱着完了ゲート圧での吸着量)/(脱着開始ゲート圧−脱着完了ゲート圧)
注)吸着量は測定ガスの測定温度における吸着量で単位はmL/g(STP)である。
注)圧力はkPaである。
【0021】
ゲート型多孔性高分子錯体として、現在知られているものは、ELM(Elastic Layer-structured metal organic frameworks)類、カゴメ類、MIL類、CID類、その他がある。これらのゲート型多孔性高分子錯体の文献は以下の通りである。ELMは、上代らの、Int. J. Mol. Sci. 2010, 11,3803の文献に示されている。カゴメ類は、佐藤らの、SCIENCE(2014)343、167、及びZaworotkoらの、Chem. Commun., 2004, 2534の文献に示されている。MIL類は、Fereyら、Chem. Soc. Rev., 2009, 38, 1380の文献に示されている。CID類は、Inubushiら、Chem. Commun., 2010, 46, 9229、及びNakagawaら、Chem. Commun., 2010, 46, 4258の文献に示されている。その他の例は、Kitauraら、Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 428の文献に示されている。これらの中でもELM類、カゴメ類、MIL類、CID類が、ゲート現象が明確であり、本発明の効果が高い点で好ましい。
【0022】
ELM−11を例にして、ゲート係数を、図3を用いて説明する。ELM−11の273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線は図3に示す通りである。x軸が、圧力(kPa)であり、y軸が、吸着量(mL/g(STP))である。この場合、各等温線は、以下の点を通ることから、それらの等温線は下記の式で近似できる。
【0023】
吸着ゲート前吸着等温線:
代表的な通過点1:x=5.23,y=0.188;通過点2:x=27.4,y=0.665であり、近似式y=0.022x+0.0753である。
吸着ゲート後吸着等温線:
代表的な通過点1:x=34.2,y=23.3;通過点2:x=35.2,y=50.7であり、近似式y=27.4x−913である。
【0024】
上記連立方程式を解いて、x(「吸着開始ゲート圧」)=33.4kPa(ゲート前吸着量は1.1mL/g(STP))である。
同様に等温線から算出された「吸着完了ゲート圧」は、36.0kPaであり、その時点での吸着量は74.4mLである。
上記から吸着ゲート係数=(77.4−1.1)/(36.0−33.4)=29.3と算出される。
同様に脱着開始ゲート圧=28.41kPa(吸着量は75.2mL/g(STP))である。また、脱着完了ゲート圧=26.20kPa(吸着量は2.71mL/g(STP))である。
上記から脱着ゲート係数=(75.2−2.71)/(28.41−26.20)=32.8と算出される。
【0025】
本発明のガス分離装置に用いることができるゲート型多孔性高分子錯体は、吸着ゲート係数が0.7〜75で、脱着ゲート係数が0.4〜80であることが好ましい。
吸着ゲート係数が0.7未満である場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が小さすぎ、一般的な吸着材との明確な差が得られず、ゲート型挙動とは言いがたい。また吸着ゲート係数75を超える場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が急峻過ぎ、急激な吸着熱の発生や、急激な特定ガスの吸着による混合ガスの濃度比の急激な変化があり、ガス分離材料としては実用的に使いづらい(制御しづらい)。脱着ゲート係数が0.4未満である場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が小さすぎ、一般的な吸着材との明確な差が得られず、ゲート型挙動とは言いがたい。また脱着ゲート係数が80を超える場合は、圧力変動に対する脱着量の変動量が急峻過ぎ、急激な脱着熱による温度低下や、急激な特定ガスの放出による混合ガスの濃度比の急激な変化があり、ガス分離材料としては実用的に使いづらい(制御しづらい)。
【0026】
本発明のガス分離装置に用いることができるゲート型多孔性高分子錯体では、吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が、2kPa〜8000kPaであることが好ましい。吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が2kPa未満である場合は、吸着圧力と脱着圧力が近接しすぎており、PSA装置で制御仕切れない。一方、8000kPaを超える場合は、吸着圧力と脱着圧力が離れすぎており、このような材料から吸着ガスを回収するためには非常に大きな圧力変動を行う必要があり、このための電力コストおよび操作時間が大きく、ゲート現象をガス分離に使うメリットが無い。
【0027】
本発明のゲート型多孔性高分子錯体を充填して成る装置は、様々なガスの分離に適用することができる。ガス種としては、例えば、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルカン類、アルケン類、アルキン類等が挙げられる。本発明のゲート型多孔性高分子錯体を充填して成る装置をガス分離に適用した場合は、ゲート現象を利用して容易かつ高効率で高純度のガスを分離することができる。
【0028】
本発明のゲート型多孔性高分子錯体を充填して成るガス分離装置における、容器形状や容器材質、ガスバルブの種類などに関しては、特に特別の装置を用いなくてもよく、ガス分離装置に用いられているものを用いることができる。また、ゲート現象に伴う、ガス分離装置のガス濃度分布変化に伴う圧力変化、温度変化を均質化するための、これらの装置内に温度勾配や圧力勾配を形成する手段は、その温度勾配、圧力勾配が適切に制御されれば、既存のどのような技術を用いてもよい。ただし、各種装置の改良を排除するものではなく、いかなる装置を用いたとしても、本発明のガス高分子金属錯体を用いている限りにおいて、本発明の技術的範囲に包含されるものである。
【0029】
本発明のゲート型多孔性高分子錯体を充填してなるガス分離装置は、能動的にパラメータの分布を引き起こさせた装置である。ここで、「能動的にパラメータの分布を引き起こす」とは、例えば、加熱装置等により、吸着塔の入り側高温、出側低温(あるいはその逆)に設定する事、あるいは隔壁等の利用により吸着塔の入り側高圧、出側低圧(あるいはその逆)の状態にすることの意味である。本発明のゲート型多孔性高分子錯体を用いるガス分離装置内で発現するゲート現象を制御するパラメータとしては、典型的に、温度、圧力が挙げられる。
【0030】
これらのパラメータ値を塔内にどのように分布させるかは、ゲート現象が塔内のどこで生じるかにより決められるが、ゲート現象が塔内のどこで生じるかは、ゲート型多孔性高分子錯体の特性(吸着ゲート圧や脱着ゲート圧等のゲート圧、ガス吸着や脱着に伴う発熱量や吸熱量、伝熱特性等)および、混合ガスの混合比、ガス流量、ガス温度で大きく変動するため、一義的に決める事はできない。しかし、実際に吸着塔内のパラメータを測定し、それに応じたパラメータ勾配を能動的に付与することで、分離ガスの濃度を向上させて、回収率を向上させることができる。
【0031】
パラメータ勾配を能動的に付与する方法の一つとして、パラメータが温度の場合、温度制御を行っていない状態で、ゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔に混合ガスを通し、吸着塔の温度を温度センサで実測し、その温度の値に応じてゲート現象の発現との関係で、温度が高い部分を冷却するか、または温度が低い部分を加熱する方法が挙げられる。これは、温度が高い部分ではゲート現象が起こりにくくなるため、冷却することでゲート現象が起こりにくくするのを防止し、また、吸着完了後の塔内の温度分布を均質化させることで振動現象を停止させる方法である。また、逆の手段として、温度が高い部分を加熱するか、または温度が低い部分から冷却する方法も挙げられる。これは前述の手法とは逆に、ゲートが起こりにくい高温部をさらに加熱する事で、能動的にゲートが起こりやすい部分と起こりにくい部分を塔内に作り分けし、温度分布を固定化する事で振動現象を抑制する方法である。どちらの手法がより有効であるかは、使用するゲート型多孔性高分子錯体の材料特性および吸着するガス種の、分圧、ガス流速、温度等の実操業条件により決める事ができる。
【0032】
吸着塔を加熱または冷却する手法は、実質的にゲート型多孔性高分子錯体の材料温度を上昇または低下させられる方法であればよく、手法は限定されない。好ましい手法としては、外部に加熱または冷却装置を設置する方法、内部に加熱または冷却装置を設置する方法、蓄熱材等を材料中に分散させる方法等が挙げられる。また別の手法として、発熱を抑制するために、温度を下げたい場所には、ゲート型多孔性高分子錯体に、ガス吸着性が低い材料を混合使用する方法、2種類の、ゲート特性が異なるゲート型多孔性高分子錯体を混合使用する方法、非ゲート型の吸着材を混合使用する方法も挙げられる。加熱をしたい場合には、発熱量の多い吸着材を混合使用する方法も挙げられる。
【0033】
上記のような温度制御を行った結果、ゲート型多孔性高分子錯体のゲートが急激に開いて、発熱する位置が塔内を移動する場合がある。この場合は、再度、温度測定に基づいた能動的な温度制御を行い、これを繰り返していく事で、ガス分離効率等を最大化することができる。例えば、ゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔内の全域に温度センサを取付け、温度センサからの信号とゲート現象発現温度の所定の信号とを比較して差分の信号を得る温度コントローラにより、加熱装置または冷却装置を制御して、吸着塔の特定位置の温度を制御することができる。
【0034】
能動的な温度制御を行う前、あるいは行った後に、高温部が複数箇所有る場合は、それぞれの箇所に対して温度制御を行う事で最適化を行う事ができる。
【0035】
パラメータ勾配を能動的に付与する方法の一つとして、パラメータが圧力の場合、例えば、オリフィス等の設置により、塔内に圧力勾配を作り出す方法が挙げられる。これは、圧力が低い部分ではゲート現象が起こりにくくなるため、昇圧することでゲート現象が起こりにくくするのを防止し、また、吸着完了後の塔内の圧力分布を均質化する事で振動現象を停止させる方法である。また、逆の手段として、圧力が低い部分を減圧するか、または圧力が高い部分を加圧する方法も挙げられる。これは前述の手法とは逆に、ゲートが起こりにくい低圧部をさらに減圧する事で、能動的にゲートが起こりやすい部分と起こりにくい部分を塔内に作り分けし、圧力の変動を抑制する事で振動現象を減少させる方法である。どちらの手法がより有効であるかは、使用するゲート型多孔性高分子錯体の材料特性および吸着するガス種の、分圧、ガス流速、温度等の実操業条件により決める事ができる。
【0036】
吸着塔を加圧または減圧する手法は、実質的に塔内圧力を上昇または低下させられる方法であればよく、手法は限定されない。好ましい手法としては、オリフィス等を塔内に設置することで圧力分布を形成させる方法、塔の途中に加圧用または減圧用のバルブを設置して圧力制御を行う方法が挙げられる。
【0037】
圧力制御の方法として、上記のような機械的な圧力操作以外に、ガス圧を下げたい部分に、ゲート型多孔性高分子錯体に対してガス吸着性が高い材料を混合使用することで、実質的にガス圧を下げる方法も推奨される。この際混合して使用される材料としては、既存のゼオライト、活性炭等の、非ゲート型吸着材や、非ゲート型およびまたは別種のゲート特性を有するゲート型の多孔性高分子錯体が利用できる。
【0038】
上記のような圧力制御を行った結果、急激にゲートが開いて圧力が変動する位置が塔内を移動する場合がある。この場合は、再度、圧力測定に基づいた能動的な圧力制御を行い、これを繰り返していく事で、ガス分離効率等を最大化することができる。例えば、ゲート型多孔性高分子錯体を充填した吸着塔内の全域に圧力センサを取付け、圧力センサからの信号とゲート現象発現圧力の所定の信号とを比較して差分の信号を得る圧力コントローラにより、加圧装置または減圧装置を制御して、吸着塔の特定位置の圧力を制御することができる。
【0039】
能動的な圧力制御を行う前、あるいは行った後に、高圧部が複数箇所有る場合は、それぞれの箇所に対して圧力制御を行う事で最適化を行う事ができる。
【0040】
本発明のガス分離装置は、既存のPSA式ガス分離装置と同様の構成を有することができる。本発明のガス分離装置の一例を模式図として図4に示す。図4に示すガス分離装置は、第1吸着塔1、第2吸着塔11、第1分離ガス貯留容器2、第2分離ガス貯留容器3、ガス圧縮装置4、弁2〜4、弁12〜14、弁7〜9および圧力計5、6から構成されている。この例では、吸着塔が2つあるが、ゲート現象を示すゲート型多孔性高分子錯体を用いる本発明では、吸着塔における吸着モードと再生モードを短時間に切り替えることができるので、吸着塔は1つであってもよく、また3つ以上であってもよい。分離対象となる混合ガスは、ガス供給手段であるガス圧縮装置4から吸着塔1、11にそれぞれ供給される。
【0041】
複数の吸着塔には、内部にゲート型多孔性高分子錯体が充填されている。処理される混合ガスは、ガス圧縮装置4によって圧縮されて、各吸着塔の入口に設けられた導入弁3及び13から吸着塔1、11に導入される。吸着塔1、11で分離されたガスの一方は、排出弁2、12を通って第1分離ガス貯留容器2に送られる。第1分離ガス貯留容器2の下流には、圧力調整弁7が設けられている。分離されたガスのもう一方は、排出弁4、14を通り、入口弁8を通って第2分離ガス貯留容器3に送られる。第2分離ガス貯留容器3には圧力計5が取付けられており、圧力計5は、第2分離ガス貯留容器3内の圧力に基づいた信号を出す。第2分離ガス貯留容器3の下流には、圧力調整弁9が設けられている。圧力調整弁9には圧力計6が取り付けられており、圧力計5および6からの信号に基づいて、圧力調整弁9は制御される。
【0042】
本発明は、ゲート現象により生じる塔内のパラメータ分布の不均一性を解消するか、または固定化するようなパラメータ制御を行う事で、ガス分離の特性を制御する方法および装置である。パラメータとして温度と圧力を示したが、これら以外のパラメータに関しても、同様に正または負の制御を行う事で、よりガス分離特性の向上や回収率の向上が行える。
【実施例】
【0043】
実施例1(発明例)
入り側、出側および中間地点に、幅2センチのリボンヒータが巻き付けられた、内径30mm、長さ100ミリの吸着塔に、ゲート型多孔性高分子錯体前駆体preELM−11(東京化成工業株式会社より購入)10gを、グラスフィルターと焼結フィルターにより、粉が飛散しない様に塔内に装填した。本吸着塔を窒素ガスフロー(50mL/分)で120℃、3時間加熱し、preELM−11を、吸着作用を有するELM−11に変換した。
【0044】
室温25℃で、入り側、出側および中間地点の巻きつけたリボンヒータに通電して、吸着塔の入り側温度を50℃、出側温度を30℃に設定し、中間温度は入り側温度と出側温度の平均温度に設定した。窒素、CO2混合ガス(混合比2/1(v/v)、純度>99.99%)を出側流速2mL/分にて流通させた。CO2の破過時間は27分であった。
【0045】
実施例2〜4(発明例)
用いたガス種、吸着塔の入側温度及び出側温度を変えて、実施例1と同じ操作を行った。
【0046】
実施例5(発明例)
吸着塔の入り側および出側の中間地点に、厚さ18ミリの焼結フィルターを設置することで、出側流速2mL/分にて、窒素、CO2混合ガスを流通させた時に、フィルター前で圧力1.4気圧、フィルター後で圧力1.0気圧になるように調整した。表1に示す条件にて、温度制御は行わずに実施例1と同じ操作を行った。
【0047】
実施例6〜9(発明例)
吸着剤としてC2F5−KGMを用いた。使用したガス種は表1に示す。吸着塔の入り側温度、出側温度を変えて、実施例1と同じ操作を行った。実施例6−9で使用した吸着剤「C2F5−KGM」は、国際公報第WO2014/069574号記載のC25基を側鎖として有するPCPである。
【0048】
実施例10(発明例)
吸着剤としてC2F5−KGMを用い、使用したガス種がN2/CO=1/2であった以外は、表1に示す条件にて、温度制御は行わずに実施例5と同じ操作を行った。
【0049】
実施例11(発明例)
入り側、出側および中間地点に、幅2センチのリボンヒータが巻き付けられた、内径30mm、長さ100ミリの吸着塔において、室温25℃で、入り側、出側および中間地点の巻きつけたリボンヒータに通電して、吸着塔の入り側温度を50℃、出側温度を30℃に設定した。中間温度は入り側温度と出側温度の平均温度に設定した。さらに吸着塔の入り側および出側の中間地点に、厚さ18ミリの焼結フィルターを設置することで、出側流速2mL/分にて、窒素、CO2混合ガスを流通させた時に、フィルター前で圧力1.4気圧、フィルター後で圧力1.0気圧になるように調整した。吸着材としてELM−11を用い、表1に示す条件で、窒素、CO2混合ガス(混合比2/1(v/v)、純度>99.99%)を出側流速2mL/分にて流通させた。CO2の破過時間は33分であった。
【0050】
比較例1−4
比較例1−4は、表2に示す混合ガスを、発明例と同様に出側流速2mL/分にて流通させ、表2に示すような条件でガス分離を行った。
【0051】
表1、表2に示す破過時間の結果から分かるように、実施例と比較例とを比べると、いずれもパラメータ(温度、圧力)に勾配をつけた条件で、破過時間が長くなっており、すなわちゲート現象の振動等の異常現象を抑制する事で、目的とするガス種がより強く吸着される為、ガス分離が優れている事が分かった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
図1
図2
図3
図4