(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0023】
(表面実装機)
本願発明の各実施形態に係る吸着ノズル1は、例えば
図1に示す表面実装機2の吸着ヘッド3に取付けられて使用するものである。そのため、まず、
図1の表面実装機2について説明する。なお、以下の説明では、表面実装機2に搬送されるプリント基板W(
図1のみ図示)の搬送方向に沿う水平方向をX方向とし、X方向に直交する水平方向をY方向とする。また、表面実装機2を基準に、Y方向のうちの一方を仮に前方とする。
【0024】
図1に示す表面実装機2は、X方向に沿う搬送ライン上に設置される平面視略長方形の基台4と、基台4の中央部においてX方向沿いに設けられたコンベア5と、このコンベア5を挟んで基台4の前後両端部に設けられた複数の部品供給部6と、これらの部品供給部6から電子部品P(
図3参照)を前記コンベア5上のプリント基板Wに移載する部品移載部8とを備えている。
【0025】
部品移載部8は、基台4上の左右(X方向両側)に配置され、Y方向に延びる一対のガイドレール9と、これらのガイドレール9、9間に架け渡されてガイドレール9にY方向へ移動自在に支持された支持部材10と、この支持部材10を駆動するボールねじ式のY方向駆動装置11と、前記支持部材10にX方向に移動自在に支持されたヘッドユニット12と、このヘッドユニット12をX方向に移動させるX方向駆動装置(図示せず)とを備えている。
【0026】
ヘッドユニット12は、複数の吸着ヘッド3を備えている。本実施形態に係る吸着ノズル1は、これらの吸着ヘッド3の下端部に取付けられており、前記吸着ヘッド3によって上下方向に移動させられるとともに、上下方向の軸線回りに回動させられる。吸着ヘッド3は、空気圧制御装置60(
図3にのみ、概略的に図示)に接続されている。この空気圧制御装置60は、部品吸着時に吸着ノズル1内に形成される空気通路から空気を吸引し、部品実装時に前記空気通路内に加圧空気を供給する構成が採られている。前記吸着ヘッド3は、この空気圧制御装置60とともに、空気圧制御システム70(
図3にのみ、概略的に図示)を構成する。この空気圧制御システム70によって次に詳述する吸着ノズル1に加圧空気又は負圧空気を供給することにより、表面実装機2は、吸着ノズル1によって吸着した電子部品Pをプリント基板Wに実装するように構成されている。
【0027】
上述のような表面実装機には、本発明に係る種々の態様の吸着ノズルを採用することが可能である。以下、吸着ノズルの各実施形態について説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図2(A)(B)を参照して、第1実施形態に係る吸着ノズル1は、筒状に形成され、一端側が、空気圧制御システム70の一部を構成する吸着ヘッド3(
図1参照)の下端部に下方へ突出するように取付けられるノズルホルダ21と、このノズルホルダ21に保持されたノズル本体22とを備えている。また、吸着ノズル1は、このノズル本体22のノズルホルダ21に対する回転と上下方向への移動量とを規制するためのピン23(
図2(B)参照)と、このピン23がノズルホルダ21から外れるのを阻止するためのクリップ部材24と、前記ノズル本体22を下方(ノズルホルダ21から突出する方向)に付勢するための付勢部材としての圧縮コイルばね25とを備えている。
【0029】
前記ノズルホルダ21は、ステンレス鋼製の筒体であり、上端側に開口する空気通路26と、この空気通路26の下部に連続して下端側に開口する嵌合孔27とを同心に形成している。
【0030】
前記機能部材は、上端部に位置する頭部31と、この頭部31の下面に垂下する上側筒状部32と、上側筒状部32の下端に膨出する上側フランジ部33と、この上側フランジ部33の下に位置するクリップ取付溝34と、このクリップ取付溝34の下に位置する下側フランジ部35と、この下側フランジ部35から下方に突出する下側筒状部36とを含んでいる。
【0031】
前記頭部31は、吸着ヘッド3(
図1参照)に設けられている図略のクランプ部材に係合するものである。図示の例では、異形の多角形断面に形成された多角柱体を横向きにした外観を呈している。
【0032】
前記筒状部32は、頭部31の長手方向中央部分から直下に垂下する円筒体である。
【0033】
前記上側フランジ部33は、筒状部32と概ね同心に膨出する環状のフランジ体である。前記上側フランジ部33は、下方に形成される下側フランジ部35との間で後述するクリップ部材24が配置されるクリップ取付溝34を形成している。これら二つのフランジ部33及び35により、クリップ部材24は、上下方向の移動が規制される。
【0034】
前記クリップ取付溝34は、ピン23の抜け止めに用いられるクリップ部材24の装着位置を提供する。クリップ取付溝34の高さと幅(ノズルホルダ21の前後、左右方向の幅)は、クリップ部材24が嵌合するのに必要充分な寸法に形成されており、前記両フランジ部33、35は、クリップ部材24が上下に移動することを規制している。
【0035】
前記ピン23は、このクリップ取付溝34と連通するピン孔37を貫通して、ノズルホルダ21に固定されており、嵌合孔27の中心線O方向に対して直角方向に沿って配置される。すなわち、ピン23は、中心線Oに対し、直交するように水平方向に沿って配置されている。
【0036】
ピン孔37は、ノズルホルダ21の横断面における一の弦(chord)方向に沿って形成されており、ピン23は、嵌合孔27の中心線Oに対し、当該一の弦方向に沿って直交する姿勢に固定されている(
図6(A)参照)。その結果、ピン孔37に挿入されたピン23は、その長手方向の中央部分においてノズルホルダ21の前記嵌合孔27と交差するように形成されている。すなわち、このピン孔37に挿入されたピン23は、ノズルホルダ21の嵌合孔27を横切るようにノズルホルダ21に支持されることになる。このようにピン孔37に挿入されたピン23の長手方向の中央部は、前記嵌合孔27内に露出する。
【0037】
前記クリップ部材24は、ばね鋼からなる線状体を前記クリップ取付溝34に嵌合する概ねC字形状に成形することによって形成されており、その両端部分を弾性的に拡開してクリップ取付溝34内に嵌め込むことにより、ピン孔37に挿入されたピン23の両端を囲繞した状態でクリップ取付溝34内に係止する。クリップ取付溝34に取付けられた状態では、クリップ部材24は、その弾性によってクリップ取付溝34(ノズルホルダ21)を緊縛する。このようにクリップ部材24をクリップ取付溝34に取付けることにより、前記ピン孔37の開口部分がクリップ部材24によって閉塞されるから、ピン23がピン孔37から抜けて脱落するのを防ぐことができる。
【0038】
また、クリップ部材24の両端部分を治具等によって拡開することにより、クリップ部材24をクリップ取付溝34から取外すことが可能になる。
【0039】
前記下側フランジ部35は、この吸着ノズル1に吸着された電子部品P(
図3参照)を下方から前記部品認識用カメラ13によって撮像する際に電子部品Pの背景となるものである。この実施例による下側フランジ部35は、円板状に形成されている。この下側フランジ部35によって、遮光用のフランジが構成されている。この実施例においては、この下側フランジ部35の下面に後述する圧縮コイルばね25の上端部を接触させている。
【0040】
ノズルホルダ21における前記下側フランジ部35の下に設けられている下側筒状部36の外周には、付勢部材としての圧縮コイルばね25の上端部が配置されており、この上端部を保持している。圧縮コイルばね25は、次に説明するノズル本体22をノズルホルダ21から突出させるようにノズル本体22を下方に付勢する。
【0041】
次に、
図3〜
図5を参照して、前記ノズル本体22について説明する。
【0042】
同ノズル本体22は、前記ノズルホルダ21の他端側に形成された嵌合孔27内に上下方向に移動自在に嵌合する円筒状に形成された軸部材41と、この軸部材41の下端に設けられたノズルチップ42とを含む。軸部材41は、ノズルホルダ21の嵌合孔27に摺動可能に嵌合する基端部の一例である。また、ノズルチップ42は、電子部品Pを吸着する部品吸着面42aが形成されている先端部の一例である。
【0043】
前記軸部材41は、全体として内部に空気通路46を有するステンレス鋼製の円筒体によって形成されている。以下の説明では、軸部材41の軸方向において、ノズルホルダ21に連結される側を基端側とし、反対側を先端側とする。軸部材41は、前記嵌合孔27に嵌合する円筒形の嵌合用円筒43と、この嵌合用円筒43の先端に設けられた円板44と、この円板44から先端側に突出するノズルチップ取付用の有底円筒45とを備えている。
【0044】
前記嵌合用円筒43は、
図4(A)(B)に示すように、前記ノズルホルダ21の嵌合孔27に移動自在に嵌合するように形成されている。また、この嵌合用円筒43における前記一端部側の外周部には、
図3、
図4(A)(B)に示すように、本発明でいう係合部の一例である平らな切欠面48が形成されている。第1実施形態では、この切欠面48が、ピン23と線接触することにより、ピン23と協働して軸部材41のストロークSを規定する係合面を構成している。
【0045】
前記ストロークSにおいて、ノズル本体22が最も下側に突出する位置(以下、「ストローク最下端S1」という)は、切欠面48の上端48a(
図5参照)によって規定される。また、前記ストロークSにおいて、ノズル本体22が最も上側に退避する位置(以下、「ストローク最上端S2」という)は、切欠面48の下端48b(
図5参照)によって規定される。ストローク最下端S1は、吸着ノズル1の動作精度に直接影響するものであるため、その公差は、比較的厳しく設定される。一方、ストローク最上端S2は、他の要因によっても規定され得るものであるため、その公差は、比較的緩やかに設定される。
【0046】
切欠面48は、一定の深さで前記嵌合用円筒43の横断面における一の弦に沿う平らな面によって外周部を横切るように形成されている。すなわち、この切欠面48は、ノズル本体22内に形成されている空気通路46の外に形成されている。この切欠面48の深さは、
図4(A)(B)に示すように、ノズルホルダ21のピン孔37に挿入したピン23が係合可能な深さに形成されている。この実施例では、嵌合孔27内に露出しているピン23の径方向の約半分が切欠面48に係合している。
【0047】
また、この切欠面48の溝長Lg(
図3に示す上下方向の長さ)は、ノズル本体22がノズルホルダ21に対して所定のストロークSだけ上下方向に移動することができる寸法に設定されている。すなわち、ノズル本体22は、切欠面48の上端48a(
図5参照)にピン23が接触する位置と、切欠面48の下端48b(
図5参照)にピン23が接触する位置との間で上下方向に移動することができる。このため、前記ピン23が前記切欠面48に係合することにより、ピン23は、切欠面48の溝幅Wg分だけ線接触し(
図6(A)参照)、ノズル本体22が予め設定されたストロークSで嵌合孔27の中心線O方向に沿ってノズルホルダ21と相対的に移動することを許容し、かつノズルホルダ21に対し、ノズル本体22が中心線O回りに相対的に回動することを規制するように、ノズル本体22をノズルホルダ21に連結する。
【0048】
さらに嵌合用円筒43の外周には、少なくとも1条(第1実施形態では、5条)の環状溝101〜105が形成されている。環状溝101〜105は、いずれも嵌合用円筒43の外周に沿って(換言すれば、嵌合孔27の周方向に沿って)連続しており、嵌合用円筒43の長手方向において、所定の間隔を隔てて形成されている。複数の環状溝101〜105のうち、一部(環状溝101〜104)は、切欠面48と連通している。具体的には、切欠面48の上端48aに連続する第1の環状溝101と、下端48bに連続する第2の環状溝104とが形成され、これらの環状溝101、104の間に複数(例えば、2条)の環状溝102、103が形成されている。このような設定により、切欠面48の上下両端部分は、それぞれ対応する環状溝101、104の底部と段差のない状態で滑らかに連続し、バリの影響を受けにくい形態になっている。
【0049】
さらに本実施形態では、切欠面48から下方に外れた部位に、第3の環状溝105が形成されている。
【0050】
図5も参照して、上述のように切欠面48に連通する環状溝101〜104を形成する利点は、切欠面48のバリ90による影響を可及的に低減することができる点である。
【0051】
本実施形態に係るノズル本体22は、加工精度の向上を図るため、ノズルチップ42との接合後に切欠面48を形成し、ノズル本体22のストローク長を微調整する、という工程を採用している。そのため、軸部材41の形成時に旋盤加工によって環状溝101〜105を先に形成し、その後、ノズルチップ42を接着してから切欠面48を砥石等による研磨加工により形成するので、切欠面48の外縁(特に上端48aや下端48b)には、約5μmから10μmのバリ90が発生しやすくなる。特に、切欠面48の上端48aは、ノズル本体22のストローク最下端S1を規定する部位であり(
図4(A)参照)、公差の厳しい部位であるとともに、切欠面48の下端48bもまた、ノズル本体22のストローク最下端S2を規定する部位である(
図4(B)参照)。そのため従来の工程においては、ノズル本体22の動作精度を所要のレベルに維持するため、これら切欠面48の上端48aや下端48bをルータ等によって研磨していた。
【0052】
これに対し、本実施形態では、上述のように、切欠面48の上端48aに連通する環状溝101と、下端48bに連通する環状溝104とが予め形成されていることにより、バリ90が環状溝101、104内に落ち込み、バリ取り作業を行わなくても、接触面からバリ90を逃がすことが可能となる。
【0053】
次に、各環状溝101〜105の溝幅(中心線Oに沿う各環状溝の断面寸法)Wr1〜Wr3は、図示の例では、3種類に設定されている。
【0054】
まず、第1の環状溝101を含む上から3条の環状溝101〜103は、いずれも切欠面48と連通していることから、ピン23と切欠面48との接触精度に影響を与える恐れがある。そのため、これら環状溝101〜103の溝幅Wr1は、ピン23と切欠面48との接触精度に影響を与えないように極力狭い寸法(例えば、0.3mm)に設定されている。
【0055】
次に、切欠面48の下端48bと連通する第2の環状溝104は、切欠面48とピン23との接触精度に影響を与えにくい。そのため、第2の環状溝104の溝幅Wr2は、前記3条の環状溝101〜103よりも広い寸法(例えば、1.0mm)に設定されている。
【0056】
さらに、切欠面48の下方(切欠面48から外れた位置)に形成された第3の環状溝105は、前記接触精度に全く影響しない。そのため、第3の環状溝105の溝幅Wr3は、切欠面48の下端48bと連通する環状溝104よりもさらに広い寸法(例えば、1.2mm)に設定されている。
【0057】
このように、ピン23と切欠面48との接触精度に影響を与える恐れがある環状溝101〜103の溝幅Wr1については、極力狭く設定することにより、ピン23と切欠面48との接触精度に影響を与えないようにする一方、第2、第3の環状溝104、105の溝幅Wr2、Wr3については、環状溝101〜103よりも広く設定されており、これによって、ノズル本体22(の嵌合用円筒43)と嵌合孔27との接触面積を低減して摩擦等による影響を抑制している。
【0058】
次に、
図6を参照して、切欠面48と連通する各環状溝101〜103の溝深さDr1は、環状溝104、105の溝深さDr3(
図6(B)参照)よりも浅い寸法(例えば、0.05mm)に設定されている。
【0059】
図6(A)〜(C)を参照して、環状溝101〜104の溝深さDr1を浅くする利点について説明する。
【0060】
先ず、
図6(A)に示すように、切欠面48が形成されている部位のうち、環状溝101が形成されていない部位では、ピン23は、切欠面48の溝幅Wgに線接触状態で当接している。このときの接触長は、溝幅Wgと同じ寸法になっている。また、嵌合孔27とノズル本体22と間の隙間は小さくなるように隙間が設定されており、ピン23が切欠面48に線接触している部位での回動範囲αは、例えば、7°に設定されている。
【0061】
次に、
図6(B)に示すように、例えば、環状溝102の部位においては、環状溝102によってピン23が切欠面48と接触する長さが短くなる。このように、環状溝101〜103の溝深さDr1は、ピン23と切欠面48とが接触する有効接触長に直接影響するので、本実施形態では、上述のように環状溝101〜103の断面積を小さく設定することにより、前記有効接触長をできるだけ短く確保し、ノズル本体22が嵌合孔27内で軸回りにがたつく回動範囲βを例えば8°以内に抑制することとしているのである。仮に環状溝102等の断面積が最下部に形成される環状溝105の溝深さDr3のように大きく設定されていた場合(すなわち、
図6(B)の破線で示す位置まで形成されていた場合)、その回動範囲γは、相当大きくなり(例えば、γ=12°)、吸着ノズル1が果たすべき精度を充分に維持することができなくなる恐れがある。そこで、本実施形態では、上述のように、切欠面48と連通する環状溝101〜104のうち、少なくとも第1の環状溝101を含む環状溝101〜103については、他の環状溝104、105よりも溝深さDr1を小さく設定しているのである。
【0062】
一方、切欠面48の下端48bと連通する位置にある第2の環状溝104については、ピン23との関係で生じるノズル本体22のがたつきが生じにくい。また、切欠面48から外れた位置にある第3の環状溝105については、前記がたつきについては全く影響しない。そのため、これら第2、第3の環状溝104、105については、
図6(C)に示すように、可及的に溝深さDr3を大きく設定し、ノズル本体22(の嵌合用円筒43)と嵌合孔27との接触面積を低減して摩擦等による影響を抑制しているのである。
【0063】
再び
図4(A)(B)を参照して、前記軸部材41の前記円板44は、前記圧縮コイルばね25の下端部を受けるスプリングシートとして機能する。この円板44の外径は、前記嵌合用円筒43およびノズルホルダ21の下側筒状部36より大きくなるように形成されている。
【0064】
圧縮コイルばね25は、前記ノズルホルダ21の下嵌合孔27にノズル本体22の嵌合用円筒43が挿入された状態で、言い換えれば、ノズルホルダ21の下側筒状部36およびノズル本体22の嵌合用円筒43の外側に位置する状態で、前記円板44と前記下側フランジ部35との間に初期荷重を付与された状態で配置されている。このように圧縮コイルばね25がノズルホルダ21とノズル本体22との間に配置されることにより、ノズル本体22は、ノズルホルダ21から下方へ突出する方向に付勢される。
【0065】
前記ノズルチップ42は、セラミック材で形成されており、当該セラミック材を前記有底円筒45の先端部に接着剤で堅固に接合することにより、電子部品Pを吸着するノズル本体22の先端部を構成する。ノズル本体22は、電子部品Pと接合する部品吸着面42a(
図2(A)(B)、
図4(A)(B)参照)を形成している。このノズルチップ42の内部には、ノズルチップ42の下端から上端まで貫通して部品吸着面42aに開口するように空気通路47が形成されている。なお、ノズルチップ42は、工業用ダイヤで形成された超鋼材であってもよい。その場合、当該超鋼材は、前記有底円筒45の先端部にろう付けされる。
【0066】
前記空気通路47は、前記軸部材41内の空気通路46と、前記ノズルホルダ21内の中空部からなる空気通路26(
図2(A)(B)参照)と、吸着ヘッド3内の空気通路(図示せず)とを介して、空気圧制御システム70を構成する空気圧制御装置60に接続されている。
【0067】
次に、この実施例による吸着ノズル1の分解、組立の手順を説明する。吸着ノズル1を組立てるためには、先ず、ノズル本体22の軸部材41の外周に圧縮コイルばね25を装着し、圧縮コイルばね25をノズル本体22の円板44の上に載せる。なお、このとき、圧縮コイルばね25は、ノズルホルダ21の下側筒状部36に嵌合させてこれに保持させておいてもよい。
【0068】
そして、このノズル本体22の軸部材41をノズルホルダ21の嵌合孔27内に嵌合させる。前記圧縮コイルばね25の上端部は、前記軸部材41が嵌合孔27内に挿入されることによって、ノズルホルダ21の下側筒状部36に嵌合する。
【0069】
しかる後、ノズル本体22の切欠面48がノズル本体22のピン孔37と重なるように、ノズル本体22をノズルホルダ21に対して軸線方向に移動させるとともに回転させ、ピン孔37にピン23を挿入する。
【0070】
そして、ノズルホルダ21のクリップ取付溝34に前記クリップ部材24を取付ける。このようにクリップ部材24をノズルホルダ21に取付けることによって、吸着ノズル1の組立作業が終了する。
【0071】
このように組立てられた吸着ノズル1においては、圧縮コイルばね25の弾発力に抗してノズル本体22を上に押すことにより、ノズル本体22をノズルホルダ21に対して上に移動させることができる。
【0072】
このため、この吸着ノズル1によって電子部品Pを吸着するときにノズルチップ42が電子部品Pに接触しこれを上方から押すような場合、ノズル本体22が圧縮コイルばね25の弾発力に抗してノズルホルダ21に対して上方に移動することによって衝撃が緩和される。この緩衝作用は、吸着ノズル1が吸着した電子部品Pをプリント基板Wに実装するときにも同様に作用する。
【0073】
一方、吸着ノズル1を分解するためには、上述した組立手順とは逆の手順によって行う。すなわち、先ず、クリップ部材24をノズルホルダ21から取外し、ピン23をピン孔37から抜き出す。ピン23をピン孔37から取外すためには、このピン23を細い棒状のものでピン孔37の一方の開口へ押し込むことにより他方の開口から突出させ、このピン23の突出部分を把持して引くことによって行う。
【0074】
このようにピン23を取外した後、ノズル本体22をノズルホルダ21から引き出すことによって、吸着ノズル1の分解作業が終了する。
【0075】
また、この吸着ノズル1は、長期間にわたる使用によって内部に異物が付着することがある。このような場合、従来は、吸着ノズル1を分解して個々の部品を洗浄するか、分解することなく清掃用ツール(図示せず)を使用して清掃を行なっていた。
【0076】
しかしながら、本実施形態においては、ノズル本体22(の軸部材41を構成する嵌合用円筒43)の外周に環状溝101〜105が形成されている。そのため、摩耗屑や、摩耗垢等の異物は、環状溝101〜105内に捕集されるので、長期間にわたり、メンテナンスを行うことなく、円滑な進退動作を実現することが可能となる。
【0077】
次に、本件発明者が第1実施形態について実施した試験の結果について説明する。
【0078】
(試験結果)
試験対象物として、
図7(A)〜(C)に示す試験品を用意した。
【0079】
図7(A)は、ステンレス製の円筒部材200に係合面201を設けた従来の構成に相当する従来例である。
【0080】
図7(B)及び
図7(C)は、円筒部材200の外周に複数の環状溝を設けた実施例1、2をそれぞれ示している。実施例1では、円筒部材200の外周に3条の環状溝210〜212を設け、各環状溝210〜212の大きさを同じに設定している。一方、実施例2では、円筒部材200の外周に6条の環状溝220〜215を設け、係合面201と連通する環状溝220〜223については、比較的溝幅を狭く設定し、係合面201から外れた位置にある環状溝225については、より溝幅を広く設定した態様となっている。
【0081】
これら三種類の試験品をそれぞれ10本ずつ用意し、個々の試験品について、300万回の動作試験を行った。動作試験では、実際の製品と同等の条件で電子部品Pの吸着作業を実行させ、部品を実装してから自由状態に戻ったときに正規の位置までノズル本体相当部分がノズルホルダから突出しているか否かを判定し、摺動不良(突出不良)が生じた場合の回数Nをカウントした。
【0084】
従来例(
図7(A)の試験品)では、摺動不良の発生回数は、36436回であったため、摺動不良発生率は、0.121%となった。この数値はきわめて秀逸なものであるが、実施例1、2(
図7(B)(C)の各試験品)では、さらに良好な結果が得られた。
【0085】
まず、実施例1では、摺動不良の発生回数は、2868回であったため、摺動不良発生率は、0.010%であった。また、実施例2では、摺動不良の発生回数は、153回であったため、摺動不良発生率は、0.001%であった。
【0086】
従って、従来例で発生した摺動不良の回数を基準値Nsとし、各実施例1、2で発生した摺動不良の回数をNとした場合に、各実施例1、2によって低減された摺動不良の回数(Ns−N)の基準値Nsに対する割合を
改善率={(Ns−N)/Ns}×100 ・・・(1)
とすると、各実施例1、2の改善率は、それぞれ、92.1%、99.6%となり、従来品で発生していた不良品の9割以上の本数を改善できることが確認できた。
【0087】
さらにまた、上述の試験を1600万回実施した時点での実施例2の拡大写真を
図8及び
図9に示す。
【0088】
図8(A)(B)に示すように、係合面201のエッジは、研磨時に形成されたバリ90が存在するが、このバリ90は、環状溝220内に入り込んでいるため、ピンと摺動する位置にはない。そのため、試験結果により、バリ90による影響を受けることなく、良好な摺動特性を得ることが確認された。
【0089】
また、
図9(A)(B)に示されるように、試験後においては、各環状溝220〜223に摺動時に生じた摩耗屑や摩耗垢等の異物が捕集されていることが確認された。このように、使用時に発生した異物が環状溝220〜223内に捕集されることにより、メンテナンス作業やバリ取り作業が省略された環境においても、きわめて高い改善率で摺動動作を行うことができることが確認された。
【0090】
(第2実施例)
吸着ノズルは
図10および
図11に示すように形成することができる。
【0091】
図10および
図11において、
図1〜
図6に示した第1実施形態で説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は適宜省略する。
【0092】
図10および
図11に示す吸着ノズル1は、ピン23が係合するノズル本体22側の係合部として長孔51が用いられている。すなわち、第2実施形態によるノズル本体22の軸部材41には、当該嵌合用円筒43の一直径方向に沿って貫通し、かつ長軸が中心線O方向に沿って延びる長孔51が形成されている。長孔51は、空気通路46を貫通し、ノズルホルダ21のピン孔37と対応する位置に形成されている。
【0093】
この長孔51の内径のうち、短い方の径は、ピン23が移動自在に嵌合する寸法に形成され、長い方の径は、ノズル本体22のノズルホルダ21に対する移動量に相当する長さに形成されている。すなわち、ノズル本体22は、長孔51の上端にピン23が接触する位置(
図11参照)と、長孔51の下端にピン23が接触する位置との間で上下方向に移動することができる。そして、第2実施形態では、この長孔51(具体的には長孔51の長軸部分の面)が、ピン23と線接触することにより、ピン23と協働して軸部材41のストロークS、ストローク最下端S1、およびストローク最上端S2を規定する係合面を構成している。
【0094】
図10および
図11のノズル本体22を構成する軸部材41にも、例えば複数条(少なくとも一条)の環状溝110が形成されている。環状溝110は、一部が長孔51と連通する位置に形成されている。
【0095】
長孔51もまた、環状溝110を有する軸部材41を製造し、ノズルチップ42を固着(ここで、「固着」とは、セラミック材で形成されている場合には、接着することをいい、超鋼材で形成されている場合には、ろう付けすることを指す。)した後、穿孔加工により形成される。長孔51の長手方向両端部分は、それぞれ対応する環状溝110と連続し、長孔51の周縁に形成されるバリを対応する溝110に逃がしている。
【0096】
ノズル本体22側の係合部をこのように長孔51によって形成しても第1の実施例と同じ効果を奏する。
【0097】
以上説明したように、上述した各実施形態によれば、嵌合孔27の周方向に沿って連続する環状溝101〜105、110が形成されることによって、嵌合孔27とノズル本体22の嵌合用円筒43との間に生じ得る異物が環状溝101〜105、110に捕集されやすくなる。そのため、ノズル本体22の嵌合用円筒43をきわめて小さな公差で嵌合孔27内に嵌合し、長期にわたって使用していても、経時的に生じた摩耗屑や摩耗垢等の異物がノズル本体22と嵌合孔27との間の摺接面に影響しにくくなり、ノズル本体22の摺動動作を円滑に保つことが可能になる。
【0098】
なお、環状溝101〜105、110の本数は、少なくとも1条あればよいが、複数条形成されていることが好ましい。また、複数の環状溝を形成するに当たり、少なくともいずれかの環状溝(101〜104)は、切欠面48と連通していることが好ましい。さらに、切欠面48と連通するものは、切欠面48の上端48aに連通する第1の環状溝(101)と、下端48bに連通する第2の環状溝(104)を含んでいることが好ましい。
【0099】
また、各実施形態において、嵌合孔27の中心線O方向に対して直角方向に沿って配置されるピン23をさらに備え、嵌合用円筒43の外周面には、ピン23が中心線O方向に摺動する平らな係合面としての切欠面48又は長孔51が形成されており、環状溝101〜105、110は、切欠面48又は長孔51と連通する位置に形成されている。このため上述した各実施形態では、ピン23と切欠面48又はピン23と長孔5とが中心線O方向に摺動するように連結されることにより、ノズル本体22は、嵌合孔27の中心線O方向に沿ってノズルホルダ21と相対的に移動することが許容される。特に、各実施形態に示したように、係合面としての切欠面48や長孔51がストローク最下端S1やストローク最上端S2を規定するものである場合には、ノズル本体22が摺動する範囲をより正確に位置決めでき、動作の信頼性を向上させることができる。しかもノズル本体22は、ノズルホルダ21に対し中心線O回りに相対的に回動することが規制されるように、ノズルホルダ21に連結され、突出動作と縮退動作とを行う。この動作に伴ってピン23と切欠面48との間に生じた摩耗屑や摩耗垢等の異物は、環状溝101〜105、110と切欠面48との連通部分から環状溝101〜105、110に効率的に捕集される。しかも、環状溝101〜105、110が切欠面48と連通する位置に形成されることによって、環状溝101〜105、110を形成した後、切欠面48を加工した場合に生じるバリ90を環状溝101〜105、110内に逃がすことができる。そのため、バリ90取り等の後工程を施すことなく、摺動性の良好な嵌合構造を得ることが可能となる。
【0100】
また、第1実施形態において、切欠面48と連通する環状溝101〜105は、少なくとも切欠面48の上端48a(切欠面48がストローク最下端S1、すなわち当該ノズル本体22の最下端を規定する前記係合面としての切欠面48又は長孔51の部位)と連通する第1の環状溝101を含む。このため第1実施形態では、特に、寸法公差の厳しいノズル本体22のストローク最下端S1に直接影響する部位のバリ90の影響を排除することができる。
【0101】
また、第1実施形態において、切欠面48と連通する環状溝101〜104は、切欠面48の下端48b(切欠面48がストローク最上端S2、すなわちノズル本体22の最上端を規定する係合面としての切欠面48又は長孔51の部位)と連通する第2の環状溝104をさらに含む。このため第1実施形態のようにノズル本体22のストローク最上端S2を規定する部位が切欠面48又は長孔51に形成されている場合にも、当該部位に生じ得るバリ90の影響を排除することができる。
【0102】
また、第1実施形態において、第2の環状溝104は、切欠面48と連通する他の環状溝101〜103よりも溝幅Wr2が大きく設定されている。このため上述した各実施形態では、ノズル本体22の進退動作に比較的影響の低い部分に形成された第2の環状溝104については、ピン23との関係で生じるノズル本体22のがたつきが生じにくいため、可及的に溝幅Wr2が大きく設定される。これにより、ノズル本体22と嵌合孔27との接触面積を低減して摩擦等による影響を抑制することが可能となる。
【0103】
また、第1実施形態において、環状溝101〜105は、切欠面48から外れた位置に形成された第3の環状溝101〜105をさらに含み、切欠面48と連通する環状溝101〜104のうち、少なくとも第1の環状溝101を含むもの(環状溝101〜103)は、第3の環状溝105よりも溝深さDr1が浅く設定されている。このため第1実施形態では、環状溝101〜104を切欠面48と連通させるに当たり、少なくともピン23と切欠面48との線接触長に与える部位について、当該線接触長が短くなることを可及的に抑制し、ガタの少ない連結構造を得ることが可能になる。
【0104】
また、第1実施形態において、第3の環状溝105は、切欠面48と連通する環状溝101〜104よりも溝幅Wr3が大きく設定されている。このため第1実施形態では、嵌合孔27と嵌合用円筒43との接触状態を確保しつつその接触面積を可及的に低減することができる。そのため、ノズル本体22の摺動精度を高め、長期間にわたって高い信頼性の高い摺動性能を維持することができる。
【0105】
また、上述した各実施形態に係る吸着ノズル1は、筒状の金属部材を採寸して環状溝101〜105を有する軸部材41を形成する工程と、軸部材41の先端にノズルチップ42を接着やろう付けによって固定する工程と、ノズルチップ42が固定された軸部材41の嵌合用円筒43近傍に、切欠面48又は長孔51を形成する工程とを備え、環状溝101〜105は、切欠面48又は長孔51と連通する位置に形成される製造方法によって製造されている。このため上述した各実施形態では、予めノズルチップを軸部材41に固定した後、切欠面48又は長孔51が形成されるので、仕上がり時における切欠面48又は長孔51の寸法精度が高くなり、製品の歩留まりが向上する。しかも軸部材41には、予め環状溝101〜105、110が形成されているとともに、この環状溝101〜105、110が、切欠面48又は長孔51と連通する位置にも形成されるので、切欠面48又は長孔51の形成時に生じるバリを環状溝101〜105、110内に逃がすことができる。この結果、バリ取り作業を省略しても、きわめて良好な摺動特性を有するノズル本体22を製造することが可能になる。
【0106】
また、上述した実施形態に示したように、製造時に切欠面48と連通する環状溝101〜103の溝深さDr1を浅く形成することにより、バリ90による影響を可及的に排除することができ、バリ取り工程を省略することが可能となる。
【0107】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはいうまでもない。
【0108】
例えば、吸着ノズル1は、表面実装機以外の用途、例えば部品検査装置等、空気圧調整システムによって電子部品Pをピックアップする種々の装置に適用することが可能である。
【0109】
また、ノズルホルダ21とノズル本体22との連結構造は、ピン23と切欠面48とによる構造に限らず、例えば、キー溝とキーとによる連結構造であってもよい。また、ピン23は、各実施形態に例示したような円形断面のものに限らず、多角形断面のものであってもよい。ただし、各実施形態に例示したように、円形断面のピン23を採用した場合には、ピン23を切欠面48に転がり接触させることができるので、より好ましい。
【0110】
さらに、環状溝の溝幅は、ガタが許容される場合には、実施例1(
図7(B)参照)に示したように、係合面と連通するものと係合面から外れたものとが同じ寸法に設定されていてもよい。
【0111】
また、第2の環状溝104の溝幅は、実施例2(
図7(C)参照)に示したように、係合面と連通する他の環状溝101〜103の溝幅Wr1と同じ寸法に設定されていてもよい。
【0112】
また、クリップ部材24は、線状体のみならず、ばね鋼からなる板材であってもよい。