【実施例】
【0060】
本発明をさらに以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0061】
実施例として使用した2分岐の光ファイバー200である。この光ファイバー200の1本となっている部分の先端(一端部250)のコア201を露出させた。
【0062】
コア201は次のようにして露出させた。コア201の先端から3mmの長さでジャケットをリムーバーで除去した後、その部分のクラッド202をアセトンで除去した。
【0063】
露出させたコア部分は、直径Dが、400μm長さLが3mmである(DおよびLは
図2参照)。
【0064】
次に、露出させたコア201の表面を前処理した。まず0.4%APS溶液に、先端から3mmの長さでコアを露出した光ファイバーを、1時間浸漬した。
【0065】
続いて、PdCl
2溶液に露出させたコア部分を含む光ファイバー200の一端部250を1分間浸漬した。その後、純水洗浄を行った後、乾燥させた。
【0066】
これら前処理後、2分岐の光ファイバー200の分岐された一方に白色光の光源103を取り付け、分岐の他方には分光計104を取り付けた。分光計104からの測定値はパソコン105に取り込めるようにした(
図1参照)。以降のめっき工程においても、光源103、分光計104、およびパソコン105の接続はそのまま用いた。
【0067】
空気中において、光ファイバー200内に光を入射させ、コア201を露出させた一端部250からの反射光の強度(Iblank)を測定した。測定波長は、400〜800nmである。測定値はパソコン105に取り込んだ。
【0068】
図9は、空気中における反射光の強度(Iblank)を示すグラフである。
【0069】
続いて、第1段階のめっき工程として、ニッケルめっき用の無電解めっき液101に、前処理した光ファイバー200の一端部250を浸漬した。使用したニッケルめっき用の無電解めっき液101の組成は、2.9%硫酸ニッケル、1%次亜リン酸ナトリウム、2%グリシン、2.7%クエン酸ナトリウムとした。
【0070】
ニッケルめっき用の無電解めっき液101への浸漬開始時から光ファイバー200へ光を入射させつつ、一端部250からの反射光の強度を測定した。
【0071】
図10は、ニッケルめっき中の反射光の強度(It)を示すグラフである。このグラフにおいて、複数のグラフ線は上の線ほど時間が経過した測定値である。
【0072】
図示するように、時間の経過と共に、反射光の強度が増加していることがわかる。そして、この時間ごと無電解めっき液中における反射光の強度(It)と、空気中における反射光の強度(Iblank)から反射率(反射率=It/Iblank)を算出した。
【0073】
図11は、ニッケルめっき中の反射率を示すグラフである。
図11は波長400〜800nmにおける反射率を示したものであるが、なかでも約450〜650nmにおいて反射率の時間変化が大きく見られることがわかる。このことからニッケルめっきにおいては波長450〜600nmの光をよく反射していることがわかる。
【0074】
図12は、ニッケルめっき中の波長460nmと600nmにおける反射率の時間変化を示すグラフである。図示するように、両波長とも、同じように時間の経過と共に反射率が上昇しているのがわかる。このことから、ニッケルめっきの際には450〜650nmの間のどの波長を用いて測定しても、ニッケルが形成されてゆく過程での厚さがわかる。
【0075】
次に、第2段階のめっき工程として、金めっき用の無電解めっき液101に、ニッケルめっきを施した光ファイバー200の一端部250を浸漬した。使用した金めっき用の無電解めっき液101の組成は、次のとおりである。0.01mol/l亜硫酸金ナトリウム、0.32mol/l亜硫酸ナトリウム、0.08チオ硫酸ナトリウム、0.32mol/lリン酸水素ニナトリウムを使用し、これらをNaOHでpHを9に調製した。
【0076】
金めっき用の無電解めっき液101への浸漬開始時から光ファイバー200へ光を入射させつつ、一端部250からの反射光の強度を測定した。
【0077】
図13は金めっき中の反射光の強度(It)のうちめっき開始から0〜8秒の間を示すグラフである。
図14は金めっき中の反射光の強度(It)のうちめっき開始から9〜39秒の間を示すグラフである。
図13のグラフにおいては複数のグラフ線は下の線ほど時間が経過した測定値である。一方、
図14のグラフにおいては複数のグラフ線は上の線ほど時間が経過した測定値である。
【0078】
図示するように、時間の経過が8秒までは、時間の経過と共に反射光の強度が減少している。一方、9秒以降は時間の経過と共に、反射光の強度が増加している。
【0079】
そして、この時間ごと無電解めっき液中における反射光の強度(It)と、空気中における反射光の強度(Iblank)から反射率(反射率=It/Iblank)を算出した。
【0080】
図15は金めっき中のめっき開始から0〜8秒の間の反射率を示すグラフである。
図16は金めっき中のめっき開始から9〜39秒の間の反射率を示すグラフである。
図15のグラフにおいては複数のグラフ線は下の線ほど時間が経過した測定値である。一方、
図16のグラフにおいては複数のグラフ線は上の線ほど時間が経過した測定値である。
【0081】
反射率においても、8秒までは時間の経過と共に反射率が減少している。一方、9秒以降は時間の経過と共に反射率が増加している。
【0082】
図17は、金めっきされる過程を示した模式図である。
図17Aに示すように、コア201の表面に形成される金属薄膜210は、金めっき開始時はニッケル(Ni)だけである。この状態での金属薄膜の厚さをTm0とする。その後、
図17Bに示すように、ニッケル(Ni)が金(Au)に置換されてゆく。このとき、全体の膜厚Tm1は一時的に薄くなる。これが0〜8秒の間に起きている。さらにその後、
図17Cに示すように、金(Au)のめっき量が多くなってくるに従い、膜厚Tm2が厚くなって光を多く反射するようになる。これが9〜39秒の間に起きている。
【0083】
また、
図13〜16から、約450〜650nmにおいて反射率の時間変化が大きく見られることがわかる。
【0084】
図18は、金めっき中の波長460nmと600nmにおける反射率の時間変化を示すグラフである。図示するように、波長460nmよりも、波長600nmの方が反射率の変化量が大きい。通常金は可視光領域である300〜1050nmにおいて反射光が認められるので、可視光領域の波長を用いればよいが、
図18から、波長600nmの反射が多いことがわかる。したがって、金めっきの際には、可視光領域である300〜1050nmでもよいし、好ましくは550〜650nm、より好ましくは600nmの波長を測定することで金が形成されてゆく過程での厚さの変化がわかり易いものとなる。
【0085】
以上により、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーが出来上がったので、実際に表面プラズモン共鳴が誘起されてセンサーとして使用可能か否かを検証した。
【0086】
金メッキを施した光ファイバー200は無電解めっき液101から取り出した後、純水により洗浄し、乾燥させた。以下この金メッキを施した光ファイバー200を光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーという(以下では単にセンサーということもある)。
【0087】
乾燥後、空気中および水中において光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーの反射光の強度を測定した。装置構成はめっきを行った際と同じでよいので、そのまま用いた。
【0088】
図19は、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーによる空気中および水中における反射光の強度を測定した結果を示すグラフである。
【0089】
ここで、空気中における反射光の強度を測定する理由を説明する。既にめっき工程の説明でもしたように、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーは、コア201における光の透過損失や光源103および分光計104との接続損失などの影響によって、光の透過量には個体差がある。そこで、このような個体差を吸収するために、下記(2)式のとおり、空気中における反射光の強度(Iair)を測定しておいて、サンプル中における反射光の強度(ここでは水(Iwater)を空気中における反射光の強度(Iair)で割ることで規格化するのである。
【0090】
規格化した反射光の強度=サンプル中における反射光の強度(Iwater)/空気中における反射光の強度(Iair) …(2)
これによりセンサーの測定結果に対して、センサーの個体差による影響をなくすことができる(または少なくする)。
【0091】
図20は、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーによる水中における反射光の強度を空気中における反射光の強度で規格化した結果を示すグラフである。図示するように、630nm付近に大きな谷がある。この谷部分(極小値)が水を測定したときのプラズモン共鳴波長ということになる。
【0092】
次に、めっき工程の際に得られた反射光の反射率と表面プラズモン共鳴との関係を検証した。
【0093】
これには、第1段階のニッケルめっき工程において、波長460nmにおいて、反射率が1〜3となった時点でニッケルめっき用の無電解めっき液101から引き上げて、各サンプルセンサーを作製した。
【0094】
そして、各サンプルセンサーに対して、それぞれ第2段階における金めっき工程として、波長600nmにおいて、反射率が1.0、1.5、2.0となった時点で金めっき用の無電解めっき液101から引き上げて、引き上げ時の反射率の違うサンプルセンサーを作製した。
【0095】
そして、各サンプルセンサーについて、空気中および水中で表面プラズモン共鳴の測定を実施し、規格値を算出した。
【0096】
図21は、めっき工程の際に得られた反射光の反射率と表面プラズモン共鳴との関係を示すグラフである。1.0、1.5、2.0の数値を付したグラフ線は、それぞれ金めっき時に引き上げた反射率を示している。
【0097】
図21からわかるように、金めっき時の反射率1.5および2.0の表面プラズモン共鳴の測定結果の規格値は、1.0よりも明確に波長の谷が認められる。したがって、金めっきの際に、反射率の所定値として1.5〜2.0を設定しておき、無電解めっき中において、これらの値でめっき液101から引き上げてめっきを終了する。これにより、表面プラズモン共鳴を誘起させることのできる適正な厚さの金薄膜を形成できることになる。また、反射率1.5と2.0を比較すると、2.0の方がより明確に波長の谷が見られる。したがって、より好ましくは金めっきの際の反射率の所定値を2.0として、無電解めっき液101から引き上げるとよいことがわかる。
【0098】
さらにセンサーの検証を行うため、既知濃度の異なるスクロースの測定を行った。使用したサンプルセンサーは、反射率2.0で金めっき用の無電解めっき液101から取り出したものである。
【0099】
この実験結果から、反射光の強度の所定値または反射光の反射率の所定値は、実際に様々な強度や反射率で無電解めっき液101から引き上げたサンプルセンサーを作製して、表面プラズモン共鳴が確実に起きたサンプルセンサー作製時の強度や反射率を、あらかじめ決めた強度や反射率の所定値とすればよいことがわかる。そして、量産時には、この所定値を使用して、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーを製造すればよい。もちろん、所定値は、材料、仕様などに合わせて、また製造環境の変化などに応じて、適宜変更するものである。
【0100】
図22は、異なる濃度のスクロースの光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーによる測定結果の規格値を示すグラフである。
図22において複数のグラフ線はそれぞれ異なる濃度のスクロースを測定した結果の規格値を示すものである。また、
図23は、規格値によって得られた最も減衰した波長とスクロース濃度の関係を示すグラフである。
【0101】
図22からわかるように、各測定結果を示すグラフ線は、最も減衰した波長の位置が異なることがわかる。各グラフ線の最も減衰した波長の位置と、既知のスクロース濃度との関係をプロットしたものが
図23である。縦軸のΔ波長は、スクロース濃度0(質量%)(すなわち純水)における規格値の最も減衰した波長を0として、そこからの波長の差である。
【0102】
図23から、スクロースの既知濃度と規格値の最も減衰した波長の位置のずれ量が、非常にきれいに正比例していることがわかる。したがって、今回製作したサンプルセンサーは、光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーとして正しく機能するものということができる。
【0103】
これら実施例の結果から、実験によって、表面プラズモン共鳴が誘起され易い金属薄膜210の厚さが得られるめっき工程での反射光の強度をあらかじめ求めておけば、これを所定値として、その後はこの所定値に、測定中の反射率が達した時点で光ファイバー200を無電解めっき液101から引き上げることで、表面プラズモン共鳴に適した金属薄膜210をコア201の表面に形成できるようになる。
【0104】
以上説明した実施形態および実施例によれば、以下のような効果を奏する。
【0105】
(1)実施形態および実施例では、光ファイバー200の露出させたコア201を含む一端部250を無電解めっき液101に浸漬するとともに、その一端部250の方向へ光を入射させて、一端部250からの反射光の強度を測定する。測定された反射光の強度は金属薄膜210の厚さと相関があるので、この反射光の強度に基づいて無電解めっき液101から光ファイバー200を引き上げるタイミングを決定すれば、表面プラズモン共鳴に適した厚さの金属薄膜210をコア201の表面に形成することができる。
【0106】
引き上げるタイミングとしては、たとえば、測定中の反射光の強度があらかじめ求めておいた所定値に達した時点で引き上げるようにしてもよい。これによりに容易に表面プラズモン共鳴に適した金属薄膜210をコア201の表面に形成することができる。これは、たとえば、所定値を求めた光ファイバー200と、その所定値によってめっきする光ファイバー200が同一製品である場合、それらの個体差は少ないので、直接、反射光の強度を比較しても大きな誤差は発生しない。また、反射率を算出する手間がいらなくなるので、分光計104の測定値をユーザーが読み取って、所定値に達した時点で引き上げることもできる。
【0107】
また、引き上げるタイミングは、反射光の強度を直接用いるのではなく、これに代えて、反射率を用いてもよい(反射率=(無電解めっき液中における反射光の強度)/(空気中における反射光の強度))。このような反射率を用いることで、たとえば、反射率の所定値を求めた光ファイバー200と、これからめっきする光ファイバー200とで個体差や損失の違いなどがあっても、確実に表面プラズモン共鳴を起こす金属薄膜210の厚さとなるように、無電解めっき液101から光ファイバー200を引き上げることができる。
【0108】
また、実施形態および実施例によれば、均一な金属ナノ薄膜を形成させることができる。しかも、金属ナノ薄膜形成過程をリアルタイムで分光学的にモニタリングできる。このことは従来法では不可能であった。しかも、金属薄膜は無電解めっきにより形成されるため、従来法の真空蒸着やスパッタよりも均一な金属薄膜を容易に形成可能である。また、無電解めっき技術を利用した光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーの感度は、非常に良いものである。これはプリズムを利用した表面プラズモン共鳴センサーと比較して同等である。このように実施形態および実施例は従来法の真空蒸着やスパッタと比較して、簡便、迅速に光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーを製造することができる。しかも、従来法の真空蒸着装置やスパッタ装置などと比較して装置構成が簡単であり、操作も容易であるので非常に安価に製造可能である。
【0109】
そして、実施形態および実施例により製造された光ファイバー表面プラズモン共鳴センサーは、センサー部の微小化が可能であるため、細胞や生体組織の微小空間を対象とした生体分子計測に応用できる。具体的にはたとえば、溶液の屈折率測定、イムノアッセイ、生体高分子間の相互作用解析など、様々な用途に表面プラズモン共鳴センサーとして使用可能である。
【0110】
また、製造が容易になるため、商業的な利用範囲の広がりにも期待することができる。たとえば、様々な細胞の品質管理や組織検査等の臨床検査に応用できるようになる。また、表面プラズモン共鳴を利用した計測装置の小型化が容易になる。そのため、いつでも、誰でも、どこでも、様々な種類の分子を計測できるようになる(計測装置のユビキタス化)、さらに、医学および薬学の分野では、治療効果のモニタリングを目的として、ベットサイドや在宅で、医師や患者自身が疾患のバイオマーカーを簡便に計測できるようになる(POCT:Point of Care Testing)。このため、個別医療を志向する上で有用な計測装置といえる。また、微小センサーであることを利用して、カテーテルや胃カメラとの複合計測装置へと応用可能である。つまり、In vivoで患部周辺のバイオマーカーを計測できる。また環境分野においても、フィールドでの計測が可能になる。
【0111】
(2)実施形態および実施例では、めっきする金属が反射する波長を含む光を光ファイバー200へ入射させて、めっきする金属が反射する波長の強度を測定することとした。これにより、金属薄膜210のめっきされる厚さに対応した反射光の強度が得られる。
【0112】
(3)実施形態および実施例では、めっきする金属が金の場合には、可視光領域300〜1050nm、好ましくは550〜650nmの波長の光を反射光の強度として測定することとした。これにより表面プラズモン共鳴を誘起させるために適した厚さの金薄膜を形成することができる。
【0113】
(4)実施形態および実施例では、めっきする金属が金の場合には、第1段階としてニッケルの無電解めっきを行い、その後、第2段階として金の無電解めっきを行うこととした。これにより表面プラズモン共鳴を誘起させるために適した厚さの金薄膜を形成することができる。
【0114】
以上本発明を適用した実施形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではない。上述した実施形態および実施例では、最終的に金薄膜を無電解めっきにより形成することしたが、金以外の金属でも、反射光の強度によってその膜厚を制御することができる。たとえば、第1段階でニッケルをめっきした後は、第2段階としてたとえば銀(Ag)、銅(Cu)などニッケルよりイオン化傾向の小さい金属であれば形成可能である。しかも、これら金属はいずれも光を反射する傾向がある。このため本実施形態および実施例同様に反射光の強度を測定して、適切な膜厚となるように無電解めっき液から引き上げることで、膜厚の制御が可能である。
【0115】
また、上述した実施例では、無電解めっき液から引き上げるタイミングを決める反射光の強度の所定値または反射率の所定値は、表面プラズモン共鳴が起きたか否かを確認することで決定した。これは、既に説明したように、確実に表面プラズモン共鳴が誘起される金属薄膜を形成できるタイミングを見極めるためである。しかしこれに代えて、たとえば、表面プラズモン共鳴が起きたときの膜厚を測定し、そのような膜厚となる反射光の強度や反射率となるように所定値を決めてもよい。
【0116】
そのほか、本発明は、特許請求の範囲に記載された技術思想に基づいて様々な形態として実施可能であり、それらもまた本発明の範疇である。