【文献】
湯浅秀男,創発システム研究の新たなる展開 相転移現象を応用した群ロボット系の創発的制御の試み,計測と制御,日本,社団法人計測自動制御学会,1999年,第38巻第10号
【文献】
村田賢太、渡辺美知子、古川正志,熱力学に基づく群ロボットシステムのマクロ制御,2003年精密工学会大会学術講演会講演論文集,2003年 3月 5日,516ページ
【文献】
寺町和優、大堀隆文、北守一隆、川上敬、木下正博,熱力学的パラメータを用いた群知能に関する基礎研究,2012年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,日本,2012年,439-440ページ
【文献】
伊丹哲郎,群れロボットの「温度」,電気学会研究会資料,日本,社団法人電気学会,2011年11月17日,75-78ページ
【文献】
M.Shimizu, A.Ishiguro, T.Kawakatsu, Y.Masubuchi,Coherent Swarming from Local Interaction by Exploiting Molecular Dynamics and Stokesian Dynamics Met,Proceedings of the 2003 IEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems,2003年10月,pp.1614-1619
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仮想ロボット温度が予め設定された仮想転移温度を超えたとき、前記物体と前記ロボットとが一つの仮想液相を形成する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の群ロボット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1にて記載された技術は、それぞれ隊列・センシングに特徴を有する制御手法であり、集中制御部が故障すると、全体システムの制御が困難になるおそれがある。
一方、非特許文献2にて記載された技術は、低い計算負荷での制御を可能にしており、好適な制御手法となるが、ロボット間の結合が高い状態での集団制御を行うことは難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、前記背景をこれらの実情に鑑みてなされたものであり、環境に応じた自律分散制御と集中制御との組み合わせを実現させた群ロボットおよび群ロボットの集団移動制御方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、動力を有して自走移動する少なくとも2以上のロボットからなる群ロボットである。
該ロボットには、該ロボット同士および該ロボットの移動可能な領域に存在する物体との、相互の位置情報を取得する計測部と、該情報を前記ロボット同士間で交換する通信部と、前記情報に基づいて前記ロボットを移動させる制御部と、が備えられている。
該制御部が、前記物体に仮想物体温度と、前記ロボットに前記仮想物体温度よりも低い仮想初期ロボット温度と、を予め設定し、前記仮想物体温度と前記仮想初期ロボット温度、および、前記ロボットと前記物体との距離から、仮想的な熱移動によって変化した仮想ロボット温度を算出し、熱力学の数理モデルを用いて、前記ロボット同士間の距離から前記ロボット同士間の距離を一定に保持する仮想的な引斥力と、仮想ロボット温度から前記物体と前記ロボット間に働く仮想的な斥力と、を算出し、前記引斥力と前記斥力との総和によって、前記ロボットの移動方向と速度とを制御することにより、前述した課題を解決するものである。
【0009】
また、前記態様において、前記ロボットが直径σの円筒状の筐体を有し、前記総和を表す熱力学の数理モデルが(1)式であり、前記引斥力が(1)式の右辺の第1項、前記斥力が第2項であることで前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
【数1】
ここで
添字l:物体、添字i:i番目のロボット、添字j:j番目のロボット、
Q:総和、r:距離、t:時間、β:引斥力調整パラメータ、
ε:引斥力最大値調整パラメータ、T:仮想温度、A:斥力強度パラメータ、B:引力強度パラメータ、RS:情報交換できるロボットの集合
【0011】
さらに、前記態様において、前記仮想的な熱移動が(2)式であることで前述した課題をさらに解決するものである。
【0012】
【数2】
添字l:物体、k:仮想的な伝熱係数、OS:ロボットの移動可能な領域に存在する物体の集合、T
0:仮想初期ロボット温度
【0013】
さらに、前記態様において、前記仮想ロボット温度が予め設定された仮想転移温度を超えたとき、前記物体と前記ロボットとが一つの仮想液相を形成する、ことで前述した課題をさらに解決するものである。
【0014】
さらに、前記態様において、前記仮想転移温度が、前記ロボットの直径σと距離r
ilとの比で表され、前記仮想液相が、前記ロボットと前記物体との間を(3)式に示す温度分布となることで前述した課題をさらに解決するものである。
【0015】
【数3】
【0016】
本発明の他の態様は、複数の前記ロボットから形成されている群ロボットの集団移動制御方法である。
該群ロボットを形成する前記ロボットの少なくとも一つがリーダロボットに、残りがフォロワロボットに指定され、該リーダロボットと該フォロワロボットとは相互に通信可となっており、前記リーダロボットから前記フォロワロボットへの指令により、前記フォロワロボットを前記リーダロボットに追従させる、ことにより、前述した課題を解決するものである。
【0017】
さらに、前記態様において、前記ロボットのそれぞれに識別番号Nを付与し、前記リーダロボットには、N=0を設定され、複数の前記フォロワロボットに(4)式に従って算出された数値がそれぞれの識別番号Nに設定され、前記識別番号Nを付与されたとき、前記フォロワロボットの前記総和を表す熱力学の数理モデルが(5)式および(6)式で示される、ことで前述した課題をさらに解決するものである。
【0018】
【数4】
【0019】
【数5】
【0020】
【数6】
【発明の効果】
【0021】
本発明の動力を有して自走移動する少なくとも2以上のロボットからなる群ロボットによれば、該ロボットには、該ロボット同士および該ロボットの移動可能な領域に存在する物体との、相互の位置情報を取得する計測部と、該情報を前記ロボット同士間で交換する通信部と、前記情報に基づいて前記ロボットを移動させる制御部とを備えることにより、環境に応じた自律分散制御と集中制御との組み合わせを実現させた群ロボットおよび群ロボットの集団移動制御方法を提供することができるとともに、以下のような本発明に特有の効果を奏することができる。
【0022】
本発明の一態様によれば、該制御部が、前記物体に仮想物体温度と、前記ロボットに前記仮想物体温度よりも低い仮想初期ロボット温度と、を予め設定し、前記仮想物体温度と前記仮想初期ロボット温度、および、前記ロボットと前記物体との距離から、仮想的な熱移動によって変化した仮想ロボット温度を算出し、熱力学の数理モデルを用いて、前記ロボット同士間の距離から前記ロボット同士間の距離を一定に保持する仮想的な引斥力と、仮想ロボット温度から前記物体と前記ロボット間に働く仮想的な斥力と、を算出し、前記引斥力と前記斥力との総和によって、前記ロボットの移動方向と速度とを制御することにより、熱力学モデルを群ロボットの制御に適用することできる。
【0023】
すなわち、一つのロボットを一つの仮想的な分子と仮定すると、各分子が潜在的に有するエネルギは、分子間に働くポテンシャルとなり、このポテンシャルは各分子を集団に形成し、各分子間において一定の距離を保持するための引力および斥力のいずれか(引斥力と記載している)となる。一方、外部から伝わる熱は熱エネルギとなり、この熱エネルギは分子の状態を変化させる作用として、ロボットを想定している分子と障害物(物体)を想定している分子とを引き離す、詳しくは障害物の面に対して垂線方向に働く斥力となる。
【0024】
これを式として表すと、熱力学の数理モデルは(7)式となり、ここで、Wは各分子が潜在的にもつエネルギ、φ(r)は分子間に働くポテンシャル(レナード=ジョーンズ・ポテンシャル)と,K(T)は外部から伝わる熱エネルギ(ブラウン運動)である。
【0025】
【数7】
【0026】
以上のように、(7)式の右辺第1項が、前記ロボットを仮想的な分子とした仮想分子間力となる分子間に引斥力として働くポテンシャルφ(r)であり、(7)式の右辺第2項が、前記仮想ロボット温度から算出される仮想熱エネルギとなる外部から伝わり、物体(障害物)と分子とを引き離す斥力となる熱エネルギK(T)であり、前記熱力学の数理モデルが、前記引斥力と前記斥力との総和である、とすることで、容易にロボット相互の関係が算出され、それぞれのロボットの移動方向と速度を制御することができる。すなわち、引斥力と斥力の大きさによって、ロボットが集団移動する場合と自律的な移動をする場合とを、ロボット自身の挙動に反映させることができる。
【0027】
このようなロボットの挙動は、低い計算負荷での群ロボットの集団移動を実現させるとともに、障害物が存在する場合には、障害物に影響を受けるロボットのみを回避させることができるため、集中制御と分散制御の好適な部分を適宜、自立的に選択させるという効果を奏することができる。
【0028】
さらに詳しく言えば、このことは、群ロボットにおける、ロボット相互の拘束を強硬性のある状態(引力が強い状態)と、柔軟性のある状態(斥力が強く、引力が弱い状態)とを推移させて、自立的に群ロボットの隊列を変化させることができる。
【0029】
また、前記態様において、前記ロボットが直径σの円筒状の筐体を有し、前記総和を表す熱力学の数理モデルが前記した(1)式であり、前記引斥力が(1)式の右辺の第1項、前記斥力が第2項であることから、仮想分子間力と仮想熱エネルギを、ロボット間の距離およびロボットと障害物(物体)との距離のみによって、一つのロボットの運動を制御することができる。このため、観測する物理量は最小限となり、低い計算負荷での群ロボット制御を実現させることができる。
【0030】
さらに、前記態様において、前記仮想的な熱移動が前記した(2)式によって、熱伝導の挙動を数式として記述することで、予め設定されたロボットと障害物(物体)の初期的な仮想温度と観測された距離から、一義的にロボットの仮想温度を算出することができる。この算出された仮想温度によって、熱力学の数学モデルでロボットの引力、斥力の総和を容易に算出できる。このように、本態様は、ロボット間の距離およびロボットと障害物との距離さえあれば、ロボットの動作を制御できるため、複雑な制御を必要としない。
【0031】
さらに、前記態様において、前記仮想ロボット温度が予め設定された仮想転移温度を超えたとき、前記物体と前記ロボットとが一つの仮想液相を形成することによって、障害物(物体)に近づいたロボットの仮想温度が非連続的に大きく上昇して、外部から伝わる熱エネルギを増大させるため、ロボット同士間の引力は相対的に小さくなり、ロボットと障害物間の斥力は相対的に大きくなる。このことは、複数のロボット同士が強固に結びついた状態から、障害物の近接したロボットの拘束を緩和して、群ロボットとして障害物を回避させる行動をとらせるという効果を奏する。
【0032】
物質には、固相、液相、気相の三状態があり、温度条件によって、固相から液相、液相から気相、およびその逆方向に相転移を生ずる。本態様は、この相転移を、予め仮想的な相転移温度を設けることで表現している。
【0033】
すなわち、複数のロボット同士が強固に結びついた状態は固相状態を表し、群ロボットとしての一定のフォーメーションを組んだ集団を形成させることができる。
【0034】
一方、群ロボットを形成するロボットのいくつかが障害物に近づき、仮想的な熱エネルギの授受によって仮想的な相転移温度を超えたとき、当該ロボットと障害物とは一つの液相に推移する。
【0035】
一つの液相になることで、障害物からロボットへ流入する熱量は増大してロボットの仮想温度が上昇し、(1)式の右辺第2項の熱エネルギが大きくなる。熱エネルギが大きくなることで、当該ロボットと障害物との間に働く斥力が増加して、当該ロボットは障害物を回避する。
【0036】
また、当該ロボットと周囲のロボットとの間の引力が相対的に低下することで、複数のロボット同士の強固な結びつきは解消されるため、群ロボットとしての挙動を維持しつつも、環境に応じた柔軟かつ様々なフォーメーションになる。
【0037】
以上のように、本態様によれば、相転移という熱力学的な概念を群ロボットに適用することで、低い計算負荷での群ロボットの集団移動を実現させるとともに、障害物が存在する場合には、障害物に影響を受けるロボットのみを回避させることができるため、集中制御と分散制御の好適な部分を適宜、自立的に選択させるという効果を奏することができる。
【0038】
さらに、前記態様において、前記仮想転移温度が、前記ロボットの直径σと距離r
ilとの比で表され、前記仮想液相が、前記ロボットと前記物体との間を前記した(3)式に示す温度分布となることによって、仮想的な相転移現象をロボットと障害物との関係で表すことができる。このため、確実な群ロボットの障害物回避を実現することができる。
【0039】
本発明の複数の前記ロボットから形成されている群ロボットの集団移動制御方法によれば、該群ロボットを形成する前記ロボットの少なくとも一つがリーダロボットに、残りがフォロワロボットに指定され、該リーダロボットと該フォロワロボットとは相互に通信可となっており、前記リーダロボットから前記フォロワロボットへの指令により、前記フォロワロボットを前記リーダロボットに追従させる、ことにより、リーダロボットのみに行き先や経路を指令することで、フォロワロボットも含む群ロボットの移動を制御することができる。このため低い計算負荷での群ロボットの集団移動を実現させるという効果を奏することができる。
【0040】
なお、ロボット間の相互通信については、リーダロボットとリーダロボットの近隣のフォロアロボット、近隣のフォロワロボット同士のみの通信を行い、距離センサによる近隣のロボットの観測(距離と時間)と,局所的通信(各ロボットに付与した識別番号に基づく)のみで群ロボット全体を動かす構成としてもよい。
この構成によれば、全てのロボットと逐次通信を行う場合の通信帯域圧迫を回避できるため、通信する指令の信頼性を高めるとともに、高性能の通信機能を要せず、コスト的にも貢献する群ロボットの制御を実現させることができる。
【0041】
さらに、前記態様において、前記ロボットのそれぞれに識別番号Nを付与し、前記リーダロボットには、N=0を設定され、複数の前記フォロワロボットに前記した(4)式に従って算出された数値がそれぞれの識別番号Nに設定され、前記識別番号Nを付与されたとき、前記フォロワロボットの前記総和を表す熱力学の数理モデルが前記した(5)式および(6)式で示される、ことによって、リーダロボットを中心として、その周囲からフォロワロボットをナンバリングすることができる。
【0042】
すなわち、リーダロボットからフォロワロボットへと階層的な指令系統を実現できる。このため、当初指定されたリーダロボットが故障した際に新たなリーダロボットを容易に指定できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照しながら、本発明の群ロボットおよび群ロボットの集団移動制御方法に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0045】
本発明の一態様は、動力を有して自走移動する少なくとも2以上のロボットからなる群ロボットにおいて、該ロボットには、該ロボット同士および該ロボットの移動可能な領域に存在する物体との、相互の位置情報を取得する計測部と、該情報を前記ロボット同士間で交換する通信部と、前記情報に基づいて前記ロボットを移動させる制御部と、が備えられ、該制御部が、前記物体に仮想物体温度と、前記ロボットに前記仮想物体温度よりも低い仮想初期ロボット温度と、を予め設定し、前記仮想物体温度と前記仮想初期ロボット温度、および、前記ロボットと前記物体との距離から、仮想的な熱移動によって変化した仮想ロボット温度を算出し、熱力学の数理モデルを用いて、前記ロボット同士間の距離から前記ロボット同士間の距離を一定に保持する仮想的な引斥力と、仮想ロボット温度から前記物体と前記ロボット間に働く仮想的な斥力と、を算出し、前記引斥力と前記斥力との総和によって、前記ロボットの移動方向と速度とを制御する、ものであれば、その具体的態様は、いかなるものであっても構わない。
【0046】
例えば、ロボット自体は非特許文献1にて開示されたロボットを流用することもできる。
また、以下では、地上を走行するロボットについて説明するが、水中、空中、宇宙空間等を移動する群ロボットに適用できることは言うまでもない。
【0047】
はじめに、本発明の群ロボットにおける熱力学の数理モデルについて
図1と
図2に基づいて説明する。
本発明において適用した数理モデルは、(1)エネルギモデル:ロボット間、障害物−ロボット間の引力、斥力、(2)熱移動モデル:ロボットと障害物との仮想的な熱の授受、(3)相転移モデル:ロボットと障害物とを熱条件に基づいて同一の相に推移、であり、これらのモデルを順に説明する。
【0048】
(エネルギモデルの適用)
図1は本発明の一実施形態の群ロボットの状態を表す説明図であり、
図2は本発明の一実施形態の熱力学数理モデルの一例を表す説明図である。
【0049】
本発明では、一つのロボットを一つの分子と見なして、熱力学の数理モデルであるエネルギモデルを適用している。
【0050】
前記した(7)式に示すように、各分子が潜在的にもつエネルギは、分子間に働くポテンシャル(レナード=ジョーンズ・ポテンシャル)φ(r)と,外部から伝わる熱エネルギ(ブラウン運動)K(T)との和となる。ここで、分子間に働くポテンシャルφ(r)は引斥力として働き、外部から伝わる熱エネルギK(T)は斥力として働く。なお、このポテンシャルは各分子を集団に形成し、各分子間において一定の距離を保持するために、引力および斥力のいずれかとなることから、引斥力という記載をしている。
【0051】
熱力学に基づけば、物質が一定の状態を保持するのは、温度、圧力のある領域に限られ、領域に応じて、固相、液相、気相という形態をとる。すなわち、温度、圧力の変化によって、物質は固相から液相へ、液相から気相へ、という相転移を生ずる。
【0052】
固相、液相、気相は、それぞれの相内で同一の組成、物性を示し、一定体積内の分子数が、固相、液相、気相の順で減少する。分子数が減少することで、分子運動の自由度が高くなる。
【0053】
図1では、(A)固相および(B)液相の分子に見立てた複数のロボット101、201にて形成された群ロボット100,200の状態を示している。(A)固相の場合には、(7)式に示す、ロボット101間(分子間)に働くポテンシャル(レナード=ジョーンズ・ポテンシャル)φ(r)が大きく(φ(r)>>K(T))、ロボット101間(分子間)の距離が一定となった状態として記述できる。この状態は、強硬性を有するロボット101の集合の群ロボット100となる。
【0054】
(B)液相の場合には、(7)式に示す、ロボット201間(分子間)に働くポテンシャル(レナード=ジョーンズ・ポテンシャル)φ(r)と外部から伝わる熱エネルギ(ブラウン運動)K(T)の双方が働き、ロボット201間(分子間)の距離にバラツキが生じた状態として記述できる。この状態は、柔軟性を有するロボット201の集合の群ロボット200となる。
【0055】
このように本発明は、固相・液相と相転移を群ロボットの集団移動に応用することで強硬性・柔軟性を両立する集団移動モデルを実現している。
【0056】
次に
図2を参照して、本発明の実施形態にて適用した数理モデルを説明する。
図2には、群ロボット100を構成するロボット102,103と障害物(物体)500が並んでいる。障害物500とロボット102との距離はr
il、ロボット102,103間の距離はr
ijである。なお、ロボット102、103は直径σの円筒状の筐体を有し、距離の始点はロボット102,103の中心としているが、筐体は円筒状に限定されることはない。
【0057】
ここで、障害物500は温度T
lの仮想熱源としており、また、ロボット102,103には初期的に温度T
lよりも低い温度が予め付与されており、ロボット102の温度はT
iとしている。
ロボット102に対して、前記した(7)式に相当するエネルギモデルとして前記した(1)式を設定する。この(1)式に障害物500とロボット102との距離r
il、ロボット102,103間の距離r
ijの観測値を代入するだけでエネルギの総和が算出される。
【0058】
(1)式はエネルギの総和を表す熱力学の数理モデルであり、引斥力が(1)式の右辺の第1項、斥力が第2項であることから、仮想分子間力と仮想熱エネルギを、ロボット間の距離およびロボットと障害物(物体)との距離のみによって、一つのロボットの運動を制御することができる。
【0059】
さらに詳しく言えば、引斥力となる(1)式の右辺の第1項がロボット102に近接するロボット103との間の距離を一定に保持するように作用し、第2項がロボット102を障害物500から引き離すように作用する。
引力調整パラメータβ、引力最大値調整パラメータε、斥力強度パラメータA、引力強度パラメータBは、ロボットが置かれる環境によって任意に調整することができる。例えば、障害物500とロボット102との距離を近接させないようにする場合は、障害物500の温度T
lを大きめに設定することができる。
【0060】
このように本実施形態のエネルギモデルによって、容易にロボット相互の関係が算出され、それぞれのロボットの移動方向と速度を制御することができる。すなわち、引力と斥力の大きさによって、ロボットが集団移動する場合と自律的な移動をする場合とを、ロボット自身に判断させることができる。
【0061】
(熱移動モデルの適用)
熱力学の第2法則によれば、温度の異なる二つの物体を接触等させると、熱は必ず高温の物体から低温の物体へと流れる。
図2を参照すると、前記したように障害物500は温度T
lの仮想熱源としており、また、ロボット102,103には初期的に温度T
lよりも低い温度が予め付与されており、ロボット102の温度をTiとされている。
【0062】
本発明の本実施形態においては、前記した(2)式を設定して、障害物500からロボット102,103への仮想的な熱移動を、前記した(2)式によって表現している。
【0063】
すなわち、障害物500の温度T
lとロボット102の温度Tiとの差分の時間的変化に仮想的な伝熱係数kを乗じることで、局所的な対流熱伝達に相当する仮想的な熱移動モデルとしている。
【0064】
この熱移動モデルによれば、障害物500とロボット102との温度差を大きくすれば、より多くの熱が移動して、ロボット102の温度が上昇するため、障害物にあまり近接せず、ロボット102に回避行動をとらせることができ、またその逆も可能となる。
【0065】
(相転移モデルの適用)
相転移とは、物質の相が別の相へ変わることを指す。熱力学において、相はある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義され、それぞれの相内で同一の組成、物性になる。例えば、物質が気体や液体、固体になる相を気相、液相、固相と呼び、物質が気体から液体や固体へ、あるいはその逆などに相を変えることを相転移とされている。
【0066】
物質の固相、液相、気相において、一定体積内の分子数は、固相、液相、気相の順で減少する。分子数が減少することで、分子運動の自由度が高くなる。
【0067】
物質における熱平衡状態では、ギブスの相律に基づき、自由エネルギが最小となる。自由エネルギは(1)式の右辺第1項および(7)式の右辺第1項にて表される、ロボットを仮想的な分子とした仮想分子間力となる分子間に働くポテンシャルφ(r)である。
【0068】
固相と液相とを考えれば、一般に低温では固相となり安定的な熱平衡状態となり、高温では液相となり安定的な熱平衡状態となる。固相から液相、もしくは液相から固相への変化が相転移であり、転移する温度を相転移温度と呼ぶ。
【0069】
固相の物質が相転移温度を超えると、エントロピとみなせる自由エネルギの温度微分が不連続に変化して、相転移を生じて液相となり、熱が吸収される。また、液相の物質が相転移温度を超えると、エントロピとみなせる自由エネルギの温度微分が不連続に変化して、相転移を生じて固相となり、熱が放出される。
【0070】
本発明の本実施形態では、この相転移を、仮想的な分子としたロボットに対して、予め仮想的な相転移温度を設けることで表現している。
【0071】
当初の障害物500からロボット102への熱移動が少なく、ロボット同士の引力が高いときには、複数のロボット同士が強固に結びついた状態となる。
この状態は固相状態を表し、群ロボットとしての一定のフォーメーションを組んだ強固な集団を形成させることができる。
【0072】
一方、群ロボットを形成するロボットのいくつかが障害物に近づき、仮想的な熱エネルギの授受によって仮想的な相転移温度を超えたとき、当該ロボットと障害物とは一つの液相に推移する。すなわち、当該ロボットと障害物とは同一の組成、物性を示す、ある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義される。
【0073】
一つの液相になることで、障害物からロボットへ流入する熱量は増大してロボットの仮想温度が上昇し、前記した(1)式の右辺第2項の熱エネルギが大きくなる。
熱エネルギが大きくなることで、当該ロボットと障害物との間に働く斥力が増加して、当該ロボットは障害物を回避する。
【0074】
また、当該ロボットと周囲のロボットとの間の引力が相対的に低下することで、複数のロボット同士の強固な結びつきは解消されるため、群ロボットとしての挙動を維持しつつも、環境に応じた柔軟かつ様々なフォーメーションになる。
【0075】
ロボット102が相転移したか、否かの判断については、前記したような、自由エネルギ、エントロピ変化を定式化することもできるが、本実施形態においては、仮想転移温度が、前記ロボットの直径σと距離r
ilとの比で表され、前記仮想液相が、前記ロボットと前記物体との間を前記した(3)式に示す温度分布となるように表現している。
【0076】
すなわち本実施形態では、距離r
il<直径σのときに、相転移を生じて、ロボット102と障害物500とは、(3)式に示される温度分布を有する一つの仮想液相を形成するものとしている。
一方、距離r
il≧直径σのときには、ロボット102と障害物500とは、互いに独立した熱平衡状態にあり、相互に渡る温度分布を有さないものとしている。
【0077】
以上のように、本態様によれば、相転移という熱力学的な概念を群ロボットに適用することで、低い計算負荷での群ロボットの集団移動を実現させるとともに、障害物が存在する場合には、障害物に影響を受けるロボットのみを回避させることができるため、集中制御と分散制御の好適な部分を適宜、自立的に選択させるという効果を奏することができる。
【0078】
さらに、前記態様において、前記仮想転移温度が、前記ロボットの直径σと距離r
ilとの比で表され、前記仮想液相が、前記ロボットと前記物体との間を前記した(3)式に示す温度分布となることによって、仮想的な相転移現象をロボットと障害物との位置的な関係のみで表すことができる。このため、確実な群ロボットの障害物回避を実現することができる。
【0079】
次に、本発明の群ロボットの構成の一例について
図2と
図3に基づいて説明する。
図3は、本発明の一実施形態の群ロボットの機能ブロック概要を示したものである。
【0080】
(ロボットの構成の説明)
図3を参照すると、ロボット102、103は、計測部301、401、通信部302、402,制御部303、403、動力駆動部304、404、センサ305,405とから構成されている。
なお、このブロックはハードウェア単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。
【0081】
計測部301,302は、センサ305,405によって、
図2に示すロボット102,103同士およびロボット102,103の移動可能な領域に存在する障害物500(物体)との相互の位置情報を取得する。
【0082】
センサ305,405は、ロボットの使用環境、障害物の状態、サイズ、要求される運動性能等の要因から適宜選択される。
例えば、赤外線センサ、超音波センサ、後記する通信部302,402による通常の電波通信とGPSとの組み合わせ、電界センサ等を使用することができる。
非特許文献1にて開示された赤外線光源と反射を利用して、距離、位置を測定するものでも良い。
【0083】
通信部302,402は、無線回線を通じて、ロボット102,103同士およびロボット102,103の移動可能な領域に存在する障害物500(物体)との相互の位置情報を交換する。
【0084】
制御部303,403は、ロボット102,103同士およびロボット102,103の移動可能な領域に存在する障害物500(物体)との相互の位置情報から、前記した熱力学の数理モデルを使って、ロボット102、103の移動方向、速度を演算して設定する。
【0085】
制御部303,403は、マイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサ、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップを格納するROM、およびプロセッサによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。
【0086】
制御部303,403は、不揮発性のメモリを備えており、次回のロボットの動作に必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。
【0087】
なお、制御部303,403の演算結果は、通信部302,402を通じてロボット102,103相互に情報交換しても良い。こうすることで、ロボット相互の挙動を緻密に制御することができる。
【0088】
動力駆動部304,404は、制御部303,304からの指令を受けて、ロボット102、103を指定された方向へ、指定された速度で移動させる。
【0089】
動力駆動部304,404は、ロボットの使用環境、障害物の状態、サイズ、要求される運動性能等の要因から適宜選択される。
例えば、地上を移動する場合には、
図2に示すようなオムニホイールのようなモータと車輪の組み合わせや、非特許文献1にて開示された振動モータ等を適用できる。また、空中ではドローンのような飛行用推進機関、水中では潜水用推進機関等を選択することができる。
【0090】
次に、本発明の群ロボットの集団移動制御方法について
図4〜
図6に基づいて説明する。
図4は本発明の一実施形態の群ロボットのナンバリングの一例を表す説明図であり、
図5は本発明の一実施形態の群ロボットの集団移動制御形態の説明図であり、
図6は本発明の一実施形態の群ロボットの集団移動制御の一実施例での指令系統を表す説明図である。
【0091】
(群ロボットの集団移動制御方法の説明)
図4と
図5を参照すると、それぞれの円の一つ一つが一つのロボットを表している。
図4において、「0」と記載されているのがリーダロボットとする。そして、前記した(4)式に基づきナンバリングを行うと、リーダロボット110の周囲の1層目に配置されたロボットは「1」となり、さらに「1」とされたロボットの外周に配置されたロボットは「2」となる。
【0092】
リーダロボットには、目的地もしくは経路等の情報が設定される。この情報の設定は、予めリーダロボットのメモリに記憶させても良いし、
図3の通信部302,402を通じて、外部から指令しても良い。
【0093】
また、リーダロボットの指定である「0」のナンバリングは、群ロボットを形成するロボットのいずれに対しても設定することが可能である。
【0094】
さらに指定されたリーダロボットが不測の事態に邂逅して、動作不能な状態となったときには、それまでフォロワロボットだったロボットを新たにリーダロボットとすることもできる。この場合には、(4)式に基づいて新たなナンバリングが必要となる。
【0095】
図5を参照すると、(A)には集中型ネットワーク、(B)には分散型ネットワークの模式的に表されている。これまで述べたように、本実施形態の群ロボットは、熱力学の数理モデルを適用することで(B)の分散型ネットワークにおける制御を既に成立させている。
【0096】
そして、リーダロボットの指定と(4)式に基づくナンバリングの結果として、(A)の集中型ネットワークにおける制御を成立させることができる。
【0097】
図6を参照すると、外部からリーダロボットへ目的地もしくは経路等の情報が含まれた指令が送信されている。リーダロボットが指令に基づき移動すると、相互に通信を行っている「1」のナンバリングがされたフォロワロボットがリーダロボットに追従する。さらに「1」のナンバリングがされたフォロワロボットには、相互に通信を行っている「2」のナンバリングがされたフォロワロボットが追従する。
【0098】
このように、それぞれのロボットに(4)式に基づく規則的なナンバリングをすることで、指令系統を明確にするとともに、集中型および分散型の両方の形態で群ロボットの制御をすることができる。
【0099】
次に、本発明の群ロボットの集団移動制御の実施例について
図7〜図
8に基づいて説明する。
図7は本発明の一実施形態の群ロボットの集団移動制御の一実施例での指令内容と状況を表す説明図であり、
図8は本発明の一実施形態の群ロボットの集団移動制御の一実施例での群ロボットの移動状況を表す説明図である。
【0100】
(群ロボットの集団移動制御の実施例)
本実施例は、(4)〜(6)式に示した数理モデルに基づく制御を計算シミュレーションとして実施している。(5)式と(6)式により、ナンバリングされたリーダロボットおよびフォロワロボットの相互のエネルギ状態を表現して、分散型制御を実現することができる。
【0101】
図7は、スタート地点となる第1スペース600に集団となっている群ロボット100に移動可能な領域に存在する障害物501,502,503を越えて、最終目的地の第2スペース620へ、経路610を経て移動する指令内容を示したものである。
【0102】
図7において群ロボット100は、リーダロボット0とその他の参照符号を付していない他の円で表されたフォロワロボットとによって形成されている。
リーダロボット0には、最終目的地の第2スペース620へ経路610に沿って移動する旨の指令が与えられる。
【0103】
図8を参照すると、
図7の指令に従い、リーダロボット0とリーダロボット0に追従するフォロワロボットが示されている。
障害物501と障害物502とに囲まれた経路610は、第1スペース600と比べ狭隘となっている。
【0104】
群ロボット100を形成するフォロワロボットの一部が障害物501,502に近づくと、前記した(3)式に基づき当該フォロワロボットに仮想的な液相への相転移を生じさせる。
相転移が生じて、障害物501,502と当該フォロワロボットとが一つの仮想液相になると、当該フォロワロボットに関して(1)式に示すロボット同士間の引力に対して障害物501,502を回避する斥力が優勢となる。
【0105】
この結果として、群ロボット100は群ロボット200のように変化する。すなわち、強硬性が優勢な集団から、柔軟性が優勢な集団に、群ロボットが変化する。変化した群ロボット200は、障害物501,502に挟まれた隘路を、障害物501,502を回避しつつ移動する。
【0106】
群ロボット200は、リーダロボット0に複数のフォロワロボットを追従させながら、障害物502と障害物503とに囲まれた経路610も、障害物502,503を回避して移動し、目的地である第2スペース620に到達する。
【0107】
図8において、第2スペース620に到達した群ロボット200は、柔軟性が優勢な集団となっているが、ナンバリングに基づいて群ロボット100のような集合状態とすることもできる。
【0108】
本実施例の複数の前記ロボットから形成されている群ロボットの集団移動制御方法によれば、該群ロボットを形成する前記ロボットの少なくとも一つがリーダロボットに、残りがフォロワロボットに指定され、該リーダロボットと該フォロワロボットとは相互に通信可となっており、前記リーダロボットから前記フォロワロボットへの指令により、前記フォロワロボットを前記リーダロボットに追従させる、ことにより、リーダロボットのみに行き先や経路を指令することで、フォロワロボットも含む群ロボットの移動を制御することができる。このため低い計算負荷での群ロボットの集団移動を実現させることができる。
【0109】
そして、熱力学の数理モデルを制御に適用すること、環境に応じた自律分散制御と集中制御との組み合わせを実現させた群ロボットおよび群ロボットの集団移動制御方法を提供することができる。
【0110】
なお、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、ロボット単体の構成については、非特許文献1に開示されたロボットを応用することもできる。
また、実施例では地上を走行するロボットについて説明したが、水中、空中、宇宙空間等を移動する群ロボットに適用できることは言うまでもなく、搬送作業や環境探索等の様々な作業に適用することができる。