(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更、追加、削除をすることができる。
【0013】
本発明の複合樹脂材料は、変性ポリテトラフルオロエチレンおよびカーボンナノチューブを含む。本発明の複合樹脂材料は、変性ポリテトラフルオロエチレンとカーボンナノチューブを複合化させた材料であり、変性ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも表面および/または表層にカーボンナノチューブが存在する。例えば、変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子表面にカーボンナノチューブの少なくとも一部が担持または埋没されている。カーボンナノチューブは、変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子表面に付着して担持されていてもよいし、一部が埋没して担持されていてもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン粒子の表層に完全に埋没していてもよい。
【0014】
本発明の複合樹脂材料の平均粒子径は、500μm以下である。平均粒子径が500μmより大きいと、カーボンナノチューブが均一に分散した成形体が得られず、特に薄い成形体においては、成形体の体積抵抗率を十分に低減することができない。本発明の複合樹脂材料の平均粒子径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、極めて好ましくは30μm以下である。平均粒子径が上記の上限以下であると、最終的に得られる成形体の体積抵抗率を効率的に低下させやすいため好ましい。ここで、本明細書において体積抵抗率を効率的に低下させやすいとは、例えば少量のカーボンナノチューブで高い体積抵抗率の低減効果が得られることを意味し、言い換えると、配合したカーボンナノチューブの添加量あたりに換算した体積抵抗率の低減効果が高いことを意味する。本発明の複合樹脂材料の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、通常5μm以上である。複合樹脂材料の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径(D
50)であり、レーザー回折散乱式粒度分布装置を用いて測定される。本発明の複合樹脂材料は、上記平均粒子径を有することからも明らかなように、粒子状の複合樹脂材料である。
【0015】
本発明の複合樹脂材料は、変性ポリテトラフルオロエチレンとカーボンナノチューブを複合化させ、上記の範囲の平均粒子径を有することにより、本発明の複合樹脂材料を用いて作製した成形体の体積抵抗率を効果的に低下させ、成形体に帯電防止性および/または導電性を付与することができる。また、SPM洗浄処理等による体積抵抗率の増加が起こりにくい。さらに、少量のカーボンナノチューブを複合化させることで、体積抵抗率を効果的に低下させることができるため、クリーン性に優れる。さらに、上記構成を有する本発明の複合樹脂材料を用いることにより、例えば本発明の複合樹脂材料を溶接材料として用いた場合に、高い溶接強度を有する溶接性に優れる樹脂成形体が得られる。また、本発明の複合樹脂材料はSPM洗浄処理等により体積抵抗率の増加が起こりにくいことから、SPM洗浄処理等により複合樹脂材料が変性しにくいと考えられる。そのため、本発明の複合樹脂材料は、SPM洗浄処理(硫酸過水洗浄処理:硫酸と過酸化水素水の混合液を用いる洗浄処理)等を行っても機械的強度が低下しにくいという特徴も兼ね備えていると考えられる。さらに、上記構成を有する本発明の複合樹脂材料は、高い屈曲性も兼ね備えていると考えられる。
【0016】
本発明の複合樹脂材料を用いて得た成形体は、上記のように、低い体積抵抗率を有することに加えて、SPM洗浄処理等に対する耐性を有し、溶接性およびクリーン性に優れる。そのため、半導体の製造における洗浄工程に使用する成形体として、半導体の製造設備内壁に貼り合わせる成形体として、半導体の製造に使用する有機溶媒等の薬液を貯蔵する製造設備に貼り合わせる成形体として適している。これにより、これら成形体により帯電防止効果および/または導電性が得られると共に、半導体洗浄工程用設備または半導体製造用設備に由来する汚染物質の混入を防止すことができる。成形体と接触し得る薬液としては、特に限定されず、半導体洗浄工程および半導体製造工程に使用される種々の薬液、例えば硫酸および過酸化水素等のSPM洗浄液、有機溶媒等が挙げられる。具体的には、薬液は、例えば有機溶媒、可燃性液体、酸性液体、塩基性液体、中性液体、水溶液、導電性液体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。
【0017】
有機溶媒は、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)等を含む。可燃性液体は、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)等を含む。酸性液体は、例えば、塩酸、硝酸、フッ酸、硫酸、過酸化水素水等を含む。塩基性液体は、例えば、アンモニア水等を含む。中性液体は、例えば、オゾン水、いわゆる水、超純水、純水、脱イオン水、イオン交換水、蒸留水等を含む。水溶液は、例えば、塩酸、硝酸、フッ酸、硫酸、アンモニア水、過酸化水素水、オゾン水等を含む。導電性液体は、例えば、塩酸、硝酸、フッ酸、硫酸、アンモニア水、いわゆる水、イオン交換水、脱イオン水、純水等を含む。
成形体と接触し得る薬液は、好ましくは有機溶媒である。有機溶媒は、例えば半導体製造等において使用される薬液であり、半導体製造の用途においては、薬液に帯電する静電気や微量の混入物による汚染であっても問題となるため、本発明の成形体の利点をより発揮しやすい。成形体と接触し得る薬液は、導電性液体であってもよい。
【0018】
本発明の複合樹脂材料に含まれる変性ポリテトラフルオロエチレン(以下において、「変性PTFE」とも称する)としては、テトラフルオロエチレンに由来する式(I):
【化3】
で表されるテトラフルオロエチレン単位に加えて、例えば式(II):
【化4】
[式中、Xは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基又は炭素数4〜9のパーフルオロアルコキシアルキル基を表す]
で表されるパーフルオロビニルエーテル単位を含有する変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0019】
式(II)中のXとしては、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基又は炭素数4〜9のパーフルオロアルコキシアルキル基が挙げられる。炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基としては、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基が挙げられる。炭素数4〜9のパーフルオロアルコキシアルキル基としては、パーフルオロ2−メトキシプロピル基、パーフルオロ2−プロポキシプロピル基が挙げられる。変性PTFEの熱的安定性を高めやすい観点からは、Xは、好ましくはパーフルオロプロピル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロメチル基であり、より好ましくはパーフルオロプロピル基である。変性PTFEは、1種類の式(II)で表されるパーフルオロビニルエーテル単位を有していてもよいし、2種以上の式(II)で表されるパーフルオロビニルエーテル単位を有していてもよい。
【0020】
変性PTFEに含まれる式(II)で表されるパーフルオロビニルエーテル単位の量は、変性ポリテトラフルオロエチレンの全質量に基づいて、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.03〜0.7質量%、さらに好ましくは0.03〜0.2質量%である。式(II)で表されるパーフルオロビニルエーテル単位の量が上記の範囲内である場合、複合樹脂材料から得た成形体の屈曲性と溶接性を高めやすいため好ましい。上記パーフルオロビニルエーテル単位の量は、例えば特性吸収1040〜890cm
−1の範囲で赤外分光分析を行うことにより測定される。
【0021】
本発明の複合樹脂材料において、変性PTFEの融点は、好ましくは300〜380℃、より好ましくは320〜380℃、さらにより好ましくは320〜350℃である。融点が上記の下限以上であると、成形性を向上しやすいため好ましく、上記の上限以下であると、樹脂の最適な機械的特性を得やすいため好ましい。変性PTFEの融点は、ASTM−D4591に準拠し、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる融解熱ピークの温度として求めた値である。
【0022】
本発明の複合樹脂材料において、変性PTFEの結晶化熱は、好ましくは16J/g以上、より好ましくは16〜25J/g、さらにより好ましくは18〜23.5J/gである。上記結晶化熱は、示差走査型熱量計(例えば島津製作所製「DSC−50」)により測定される。具体的には、約3mgの試料を50℃/分の速度にて250℃まで昇温させ、一旦保持し、さらに10℃/分の速度にて380℃まで昇温させることにより結晶を融解させた後、10℃/分の速度で降温させた際に測定される結晶化点のピークから熱量に換算して測定される。
【0023】
本発明の複合樹脂材料に含まれる変性PTFEの量は、複合樹脂材料の総量に基づいて好ましくは98.0質量%以上、より好ましくは99.0質量%以上、さらに好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.8質量%以上である。変性PTFEの量が上記の下限以上であると、複合樹脂材料の機械的特性および成形性を高めやすいため好ましい。変性PTFEの量の上限は、特に限定されないが、99.99質量%程度以下である。複合樹脂材料に含まれる変性PTFEの量は、炭素成分分析法により測定される。
【0024】
本発明の複合樹脂材料に含まれるカーボンナノチューブ(以下において「CNT」とも称する)は、炭素原子の六員環で構成される1枚または複数枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた構造を有する。CNTは、1枚のグラフェンシートが同心円状に巻かれた単層CNT(シングルウォールカーボンナノチューブ)、または、2枚以上の複数のグラフェンシートが同心円状に巻かれた多層CNT(マルチウォールカーボンナノチューブ)である。上記のカーボンナノ材料を単独で用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。変性PTFEの粒子と複合化させやすく、体積抵抗率を低くしやすい観点からは、カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0025】
本発明の複合樹脂材料に含まれるカーボンナノチューブの量は、複合樹脂材料の総量に基づいて好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.025質量%以上である。カーボンナノチューブの量が上記の下限以上であると、帯電防止性または導電性を高めるために体積抵抗率を低下させやすいため好ましい。また、カーボンナノチューブの量は、複合樹脂材料の総量に基づいて好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。カーボンナノチューブの量が上記の上限以下であると、体積抵抗率を効率的に低下させやすいため好ましい。複合樹脂材料に含まれるカーボンナノチューブの量は、炭素成分分析法により測定される。
【0026】
本発明の複合樹脂材料の比表面積は、JIS Z8830に準拠し測定して、好ましくは0.5〜9.0m
2/g、より好ましくは0.8〜4.0m
2/g、さらにより好ましくは1.0〜3.0m
2/g、特に好ましくは1.0〜2.0m
2/gである。比表面積が上記の下限以上であると、変性PTFE粒子とカーボンナノチューブとの密着性を高めやすい観点から好ましく、上記の上限以下であると、複合樹脂材料の製造しやすさ、および、体積抵抗率を効率的に低下させやすい観点から好ましい。複合樹脂材料の比表面積は、具体的には、定容量式ガス吸着法である比表面積/細孔分布測定装置(例えば日本ベル製BELSORP−miniII)を用いて、一般的な比表面積の測定方法であるBET法により測定した。
【0027】
本発明の複合樹脂材料の体積抵抗率は、本発明の複合樹脂材料が帯電防止性が求められる用途に使用される一態様において、JIS K6911に従い測定して、好ましくは1.0×10
11Ω・cm以下、より好ましくは1.0×10
8Ω・cm以下、さらにより好ましくは1.0×10
7Ω・cm以下、特に好ましくは1.0×10
6Ω・cm以下である。体積抵抗率が上記の上限以下であると良好な帯電防止性を得られる。また、本発明の複合樹脂材料の体積抵抗率は、本発明の複合樹脂材料が導電性が求められる用途に使用される一態様において、JIS K6911に従い測定して好ましくは1.0×10
6Ω・cm以下、より好ましくは1.0×10
5Ω・cm以下、さらにより好ましくは1.0×10
4Ω・cm以下である。体積抵抗率が上記の上限以下であると良好な導電性を得られる。複合樹脂材料の体積抵抗率の下限値は特に限定されず、0以上であってよいが、通常10Ω・cm以上である。複合樹脂材料の体積抵抗率は、JIS K6911に従い成形素材または切削加工した試験片を用いて、抵抗率計(例えば三菱化学アナリテック製「ロレスタ」または「ハイレスタ」)により測定される。例えば圧縮成形(コンプレッション成形)により作製したφ110×10mmの試験片を用いて測定した場合に、複合樹脂材料が上記体積抵抗率を示すことが好ましい。
【0028】
本発明の複合樹脂材料によれば、理由は明らかではないが、少量のカーボンナノチューブを添加することで、所望の帯電防止性または導電性を達成することができる。そのため、本発明の複合樹脂材料はクリーン性に優れる。また、本発明の複合樹脂材料から製造した成形体を溶接に使用する場合であっても、溶接面に存在する導電性材料の量が少ないため、密着性の低下を回避することができる。さらに、本発明の複合樹脂材料によれば、上記好ましい範囲の体積抵抗率を有する場合であっても、樹脂が本来有する機械的強度を維持しやすい。具体的には、本発明の複合樹脂材料は、以下のような機械的強度を有することが好ましい。
【0029】
本発明の複合樹脂材料の引張弾性率は、好ましくは200〜800MPa、より好ましくは300〜600MPa、さらにより好ましくは400〜500MPaである。複合樹脂材料の引張弾性率は、JIS K7137-2-Aに従いダンベル試験片を用いて、5kN荷重、1mm/minの速度にて、引張試験機(例えば株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)にて測定される。
【0030】
本発明の複合樹脂材料の引張強度は、好ましくは10〜50MPa、より好ましくは20〜40MPa、さらにより好ましくは25〜35MPaである。複合樹脂材料の引張強度は、上記引張弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。
【0031】
本発明の複合樹脂材料の引張伸び(破断点)は、好ましくは100〜500%、より好ましくは150〜450%、さらにより好ましくは150〜400%、特に好ましくは200〜400%である。複合樹脂材料の引張伸びは、上記引張弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。
【0032】
本発明の複合樹脂材料の圧縮弾性率は、好ましくは200〜1000MPa、より好ましくは300〜800MPa、さらにより好ましくは400〜600MPaである。複合樹脂材料の圧縮弾性率は、φ8×20mmの試験片を用いて、5kN荷重、1mm/minの速度にて、圧縮試験機(例えば株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)にて測定される。
【0033】
本発明の複合樹脂材料の圧縮強度(1%変形)は、好ましくは3〜10MPa、より好ましくは4〜8MPa、さらにより好ましくは5〜6MPaである。複合樹脂材料の圧縮強度は、上記圧縮弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。
【0034】
本発明の複合樹脂材料の圧縮強度(25%変形)は、好ましくは10〜40MPa、より好ましくは20〜40MPa、さらにより好ましくは25〜35MPaである。複合樹脂材料の圧縮強度は、上記圧縮弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。
【0035】
本発明の複合樹脂材料の曲げ弾性率は、好ましくは200〜1000MPa、より好ましくは400〜800MPa、さらにより好ましくは500〜600MPaである。複合樹脂材料の曲げ弾性率は、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を用いて、5kN荷重、10mm/minの速度にて、曲げ試験機(例えば株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)にて測定される。
【0036】
本発明の複合樹脂材料の曲げ強度は、好ましくは50〜90MPa、より好ましくは65〜80MPa、さらにより好ましくは65〜75MPaである。複合樹脂材料の曲げ強度は、上記曲げ弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。別の一態様において、本発明の複合樹脂材料の曲げ強度は、好ましくは10〜40MPa、より好ましくは10〜30MPa、さらにより好ましくは15〜25MPaである。複合樹脂材料の曲げ強度は、上記曲げ弾性率と同様の試験片および試験機を用いて測定される。
【0037】
本発明の複合樹脂材料の溶接強度は、好ましくは5〜20MPa、より好ましくは8〜20MPa、さらにより好ましくは10〜15MPaである。複合樹脂材料の溶接強度の測定方法は、実施例に記載される通りであり、PFA溶接棒に対する溶接強度として、引張試験機(例えば株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)にて測定される。
【0038】
上記機械的強度を測定するための各試験片の製造方法を説明する。本発明の複合樹脂材料を用いた成形体を試験片とする。該試験片は、未焼成圧縮成形体に焼成処理を施す方法で製造する。
【0039】
上記「未焼成圧縮成形体」は、本発明の複合樹脂材料を、必要に応じて適切な前処理(例えば、予備乾燥、造粒等)を行った後、金型に入れて圧縮して製造する。上記未焼成圧縮成形体を製造するために圧縮する際の加圧としては、好ましくは0.1〜100MPa、より好ましくは1〜80MPa、さらにより好ましくは5〜50MPaである。
【0040】
上記「未焼成圧縮成形体」を複合樹脂材料の融点以上の温度にて焼成し、試験片を製造する。焼成温度は未焼成圧縮成形体の寸法や焼成時間等にもよるが、好ましくは345〜400℃、より好ましくは360〜390℃である。未焼成圧縮成形体を焼成炉内に入れ、好ましくは上記焼成温度で焼成して、焼成圧縮成形体を製造する。得られた成形体をそのまま試験片として用いてもよいし、該成形体から切削加工等を行い試験片を作製してもよい。
【0041】
本発明の複合樹脂材料は、変性ポリテトラフルオロエチレンとカーボンナノチューブを複合化させた材料である。本発明の複合樹脂材料を製造するための方法は、好ましくは上記のような物性を有し、変性ポリテトラフルオロエチレンの少なくとも表面および/または表層にカーボンナノチューブが存在する複合樹脂材料が得られる限り特に限定されない。例えば、特開2014−34591号に記載されるような方法で亜臨界または超臨界状態の二酸化炭素を用いて、または、特開2015−30821号に記載されるような方法でケトン系溶媒を用いて、変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子とカーボンナノチューブとを複合化することにより製造することができる。
【0042】
本発明の複合樹脂材料は、亜臨界または超臨界状態の二酸化炭素またはケトン系溶媒を用いて変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子とカーボンナノチューブとを複合化することにより製造された、500μm以下の平均粒子径を有する複合樹脂材料であることが好ましい。上記製造方法を用いることにより、変性ポリテトラフルオロエチレンの少なくとも表面および/または表層にカーボンナノチューブが存在する複合樹脂材料が得られていると考えられる。その結果、このような複合樹脂材料を用いて得た成形体において、体積抵抗率を低下させやすく、溶接性およびクリーン性を高めやすく、SPM洗浄処理等を行っても体積抵抗率が増加しにくくなる。
【0043】
亜臨界または超臨界状態の二酸化炭素を用いて変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子とカーボンナノチューブとを複合化する製造方法について、以下に具体的に説明する。まず第1工程において、カーボンナノチューブを溶媒に分散させて、カーボンナノチューブ分散液を調製する。溶媒としては、水、アルコール系溶媒(エタノール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等)、エステル系溶媒(酢酸エチル等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン等)、脂肪族炭化水素系溶媒(ヘキサン、ヘプタン等)、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、ベンゼン等)、塩素化炭化水素系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)が挙げられる。1種類の溶媒を使用してもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。変性ポリテトラフルオロエチレンとカーボンナノチューブとを複合化させやすい観点からは、変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子表面を膨潤させやすい溶媒を使用することが好ましく、具体的にはケトン系溶媒を使用することが好ましい。
【0044】
カーボンナノチューブ分散液に含まれる溶媒の量は、溶媒中にカーボンナノチューブを単一分散させやすい観点から、カーボンナノチューブ分散液に含まれるカーボンナノチューブ100質量部に対して、好ましくは20,000〜1,000,000質量部、より好ましくは30,000〜300,000質量部、さらにより好ましくは50,000〜200,000質量部である。
【0045】
本発明の複合樹脂材料の製造に使用するカーボンナノチューブは、好ましくは50〜600μm、より好ましくは50〜300μm、さらにより好ましくは100〜200μmの平均長さを有する。カーボンナノチューブの平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM、FE−SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される。
【0046】
カーボンナノチューブは、従来の製造方法によって製造できる。具体的には、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法などの気相成長法、気相流動法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法、オイルファーネス法等が挙げられる。市販のカーボンナノチューブ、例えばNanocyl製「NC7000」を使用してもよい。
【0047】
溶媒にカーボンナノチューブを分散させる際、カーボンナノチューブの分散性を高める目的で分散剤を使用してもよい。分散剤としては、例えばアクリル系分散剤、ポリビニルピロリドン、ポリアニリンスルホン酸等の合成ポリマー、DNA、ペプチド、有機アミン化合物等が挙げられる。1種類の分散剤を使用してもよいし、2種以上の分散剤を組み合わせて使用してもよい。最終的に得られる成形体中に残存する分散剤の量を低減しやすい観点からは、分散剤が、本発明の複合樹脂材料の成形温度よりも低い温度の沸点を有することが好ましい。分散剤を使用する場合、カーボンナノチューブ分散液に含まれる分散剤の量は、カーボンナノチューブ、溶媒および分散剤の種類や量によって適宜選択してよい。例えば、使用する分散剤の量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して好ましくは100〜6,000質量部、より好ましくは200〜3,000質量部、さらにより好ましくは300〜1,000質量部である。
【0048】
上記第1工程において水を溶媒として用いる場合、後述する第2工程の前に、カーボンナノチューブ分散液をアルコール系溶媒等と混合する。これは、続く第2工程において添加する変性PTFE粒子と水との親和性が低く、溶媒として水を用いるカーボンナノチューブ分散液中に変性PTFE粒子を分散させることが難しいためである。そこで、アルコール系溶媒を混合することにより、変性PTFE粒子とカーボンナノチューブ分散液との親和性を高めることができる。
【0049】
次に、第2工程において、カーボンナノチューブ分散液に変性PTFE粒子を添加し撹拌して、カーボンナノチューブおよび変性PTFE粒子が分散した混合スラリーを調製する。
【0050】
カーボンナノチューブ分散液に変性PTFE粒子を添加すると、分散液中のカーボンナノチューブが変性PTFE表面に緩やかに吸着する。ここで、溶媒の温度、カーボンナノチューブおよび変性PTFE粒子の分散濃度、変性PTFE粒子の添加速度等を適宜調整することにより、カーボンナノチューブおよび変性PTFE粒子の高い分散状態を維持しつつ、カーボンナノチューブを変性PTFE表面に吸着させることができる。このような方法により、カーボンナノチューブを、低い添加濃度であっても、変性PTFE粒子の表面に均一に分散させることができる。また、長尺のカーボンナノチューブを用いる場合であっても、その性質を損なうことなく、変性PTFE粒子の表面に均一に分散させることができる。変性PTFE粒子の添加は、変性PTFE粒子をそのまま添加してもよいし、変性PTFE粒子を溶媒にあらかじめ分散させた変性PTFE粒子の分散液の形態で添加してもよい。
【0051】
本発明の複合樹脂材料の製造に使用する変性PTFE粒子は、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜250μm、さらにより好ましくは10〜100μm、特に好ましくは10〜50μm、極めて好ましくは15〜30μmの平均粒子径を有する。変性PTFE粒子の平均粒子径が上記の上限以下であることが、複合樹脂材料から作製した成形体におけるカーボンナノチューブの分散性を高めやすく、帯電防止性および/または導電性を均一に高めやすいため好ましい。変性PTFE粒子の平均粒子径が上記の下限以上であることが、複合樹脂材料の製造しやすさの観点から好ましい。変性PTFE粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径(D
50)であり、レーザー回折散乱式粒度分布装置を用いて測定される。
【0052】
本発明の複合樹脂材料の製造に使用する変性PTFE粒子は、JIS Z8830に従い測定して好ましくは0.5〜9.0m
2/g、より好ましくは0.8〜4.0m
2/g、さらにより好ましくは1.0〜3.0.m
2/gの比表面積を有する。変性PTFE粒子の比表面積が上記の上限以下であることが、変性PTFE粒子とカーボンナノチューブとの密着性を高めやすい観点から好ましく、上記の下限以上であることが、複合樹脂材料の製造しやすさの観点から好ましい。変性PTFE粒子の比表面積は、具体的には、定容量式ガス吸着法である比表面積/細孔分布測定装置を用いて、一般的な比表面積の測定方法であるBET法により測定される。
【0053】
本発明の複合樹脂材料における変性PTFEについて上記に述べた、変性PTFEの構造、融点に関する記載は、これらは複合化前後で変化しない特性であるため、本発明の複合樹脂材料の製造に使用する変性PTFE粒子についても同様にあてはまる。
【0054】
上記好ましい範囲の平均粒子径や比表面積を有する変性PTFEの粒子の製造方法は特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとを共重合する方法が挙げられる。重合方法は、懸濁重合であることが好ましい。変性PTFEの粒子を製造する方法としては、上記重合により得た反応性重合体を含む分散液を噴霧乾燥させる方法、得られる変性PTFE重合体をハンマーミル、ターボミル、カッティングミル、ジェットミル等の粉砕機を使用して機械的に粉砕する方法、得られる変性PTFE重合体を室温未満の温度で機械的に粉砕する凍結粉砕などが挙げられる。所望の平均粒子径および比表面積を有する変性PTFE粒子を得やすい観点からは、ジェットミル等の粉砕機を使用して変性PTFE粒子を製造することが好ましい。
【0055】
上記好ましい範囲の平均粒子径を有する変性PTFE粒子は、篩や気流を用いる分級工程により平均粒子径を調整して製造してもよい。
【0056】
次に第3工程において、第2工程で得た混合スラリーを耐圧容器に供給し、耐圧容器内で二酸化炭素が亜臨界または超臨界状態となる温度および圧力を維持しながら、二酸化炭素を特定の速度で供給し、耐圧容器内に二酸化炭素を充満させる。二酸化炭素としては、液化二酸化炭素、気液混合の二酸化炭素、気体の二酸化炭素のうちいずれを使用してもよい。ここで、二酸化炭素が超臨界状態とは、臨界点以上の温度および臨界点以上の圧力にある状態をいい、具体的には31.1℃以上の温度および72.8気圧以上の圧力にある状態をいう。また、亜臨界状態とは、臨界点以上の圧力および臨界点以下の温度にある状態をいう。
【0057】
第3工程において、混合スラリーに含まれていた溶媒および分散剤が二酸化炭素中に溶け込み、混合スラリー中に分散していたカーボンナノチューブが変性PTFE粒子に付着する。
【0058】
二酸化炭素の供給速度は、カーボンナノチューブ同士の凝集を抑制し、変性PTFE粒子の表面にカーボンナノチューブを均一に付着させやすい観点から、例えば混合スラリーに含まれる分散剤1mgに対して好ましくは0.25g/分以下、より好ましくは0.07g/分以下、さらにより好ましくは0.05g/分以下である。
【0059】
続く第4工程において、二酸化炭素が亜臨界または超臨界状態となる温度および圧力を所定時間保持しながら、二酸化炭素を、二酸化炭素中に溶け込んだ溶媒および分散剤と共に耐圧容器から排出する。
【0060】
次に、第5工程において、第4工程の状態を維持しながら分散剤と親和性の高いエントレーナを耐圧容器中に添加する。これにより、残存する分散剤を効率的に除去することができる。エントレーナとしては、例えば、第1工程においてカーボンナノチューブ分散液を調製する際に使用した溶媒を使用してよい。具体的には、第1工程において有機溶媒を使用した場合にはエントレーナとして同様の有機溶媒を使用してよい。第1工程において溶媒として水を使用した場合には、エントレーナとしてアルコール系溶媒を使用することが好ましい。なお、第5工程は分散剤を効率的に除去するための任意の工程であり、必須の工程ではない。例えばエントレーナを添加せず、第4工程を維持することにより、分散剤を除去することも可能である。
【0061】
次に、第6工程において、耐圧容器の圧力を下げることにより耐圧容器中の二酸化炭素を除去し、本発明の複合樹脂材料を得ることができる。ここで、二酸化炭素の除去方法によっては、複合樹脂材料に二酸化炭素や溶媒が残存する場合がある。そのため、得られる複合樹脂材料を真空にさらしたり、加熱することにより、残存する二酸化炭素や溶媒を効率的に除去することができる。
【0062】
本発明はまた、本発明の複合樹脂材料を用いて作製された成形体に関する。本発明の複合樹脂材料を用いて作製された成形体は、帯電防止性および/または導電性に優れると共に機械的強度も維持しており、エレクトロニクス分野、電機、機械、車輌等の種々の用途に好適である。成形体の形状は特に限定されないが、例えば板、棒、フィルム、シート、塊、管(筒)形状からなる群から選択される形状を有していてよい。このような形状を有する成形体は、いずれも帯電防止効果および/または導電性を有する成形体であり、半導体の製造において、金属不純物や表面吸着化学物質等の汚染物質をウェーハ等から除去するための洗浄工程で使用するための成形体、半導体の製造設備内壁に貼り合わせるための成形体、半導体の製造に使用する有機溶媒を貯蔵するための製造設備の内壁に貼り合わせるための成形体であってもよい。
【0063】
板形状を有する成形体としては、例えば、平板、曲板、波板の形状を有する成形体が挙げられる。このような形状を有する成形体としては、加工用素材等が挙げられる。
【0064】
棒形状を有する成形体としては、例えば、円柱、角柱、円錐、角錐等の種々の形状を有する成形体が挙げられる。このような形状を有する成形体としては、例えば加工用素材等が挙げられる。
【0065】
フィルム又はシート形状を有する成形体としては、例えば、ライニングシートや除電シートなどが挙げられる。該成形体は、本発明の成形体の単層のフィルム又はシートであってもよいし、フィルム又はシート形状を有する本発明の成形体を少なくとも1層として含む多層のフィルム又はシートであってもよい。フィルム又はシート形状を有する成形体の厚みは特に限定されないが、例えば0.05〜100mm程度であってよい。このような形状を有する成形体は、半導体の製造の洗浄工程で使用するための成形体、半導体の製造設備内壁に貼り合わせるための成形体(ライニングシート)、半導体の製造に使用する有機溶媒を貯蔵するための製造設備の内壁に貼り合わせるための成形体(ライニングシート)として好適に使用される。
【0066】
塊形状を有する成形体としては、例えば、球、円錐台、角錐台、槽、ブロックなどの形状を有する成形体が挙げられる。これらの形状を有する成形体は、中空の成形体であってもよく、例えば中空球状の成形体であってよい。
【0067】
管(筒)形状を有する成形体としては、例えば、ノズル、チューブ、ホース、パイプ等の中空の構造を有する成形体が挙げられる。管形状を有する成形体は、出口と入口の2つの開口部を有する成形体であってもよいし、管構造の1つの開口部が封止された形状の成形体であってもよいし、3つ以上の開口部を有する成形体であってもよい。管(筒)形状を有する成形体は、少なくとも1カ所で枝分かれした構造を有していてもよい。
【0068】
本発明の成形体の成形方法は、公知慣用の方法を使用してよく、成形体の用途や所望される形状によって適宜選択すればよい。例えば圧縮成形(コンプレッション成形)、ホットコイニング成形、アイソスタティック成形、ラム押出成形などの成形方法が挙げられる。機械的特性、電気的特性、成形性の観点から、圧縮成形(コンプレッション成形)・ホットコイニング成形により成形体を製造することが好ましい。本発明の複合樹脂材料を用いて作成された成形体は、例えば、本発明の複合樹脂材料の圧縮成形物(コンプレッション成形物)、ホットコイニング成形物、アイソスタティック成形物、ラム押出成形物である。
【0069】
本発明は、上記のように、本発明の複合樹脂材料を用いて作成された成形体も提供する。ここで、本発明の複合樹脂材料は、特定の平均粒子径を有することからも明らかなように粒子状の複合樹脂材料である。粒子状の複合樹脂材料を例えば圧縮成形等により成形すると、得られた成形体においては、少なくとも表面および/または表層にカーボンナノチューブが存在する変性ポリテトラフルオロエチレン粒子の粒子同士が密着し集合体となっている。このような複合樹脂材料を用いて得た成形体、つまり、本発明の複合樹脂材料を用いて作成された成形体(例えば本発明の複合樹脂材料の圧縮成形物、本発明の複合樹脂材料のホットコイニング成形物等)は、体積抵抗率が低く、溶接性およびクリーン性に優れ、SPM洗浄処理等によって体積抵抗率が低下しにくい傾向がある。したがって、本発明の成形体は、半導体の製造において、金属不純物や表面吸着化学物質等の汚染物質をウェーハ等から除去するための洗浄工程で使用するための成形体、半導体の製造設備内壁に貼り合わせるための成形体、半導体の製造に使用する有機溶媒を貯蔵するための製造設備の内壁に貼り合わせるための成形体等として使用するに適している。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0071】
〔平均粒子径D
50の測定〕
本発明の複合樹脂材料および本発明の複合樹脂材料の製造に使用する変性PTFE粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布装置(日機装製「MT3300II」)により粒度分布を測定し、平均粒子径D
50を得た。
【0072】
〔比表面積の測定〕
本発明の複合樹脂材料および本発明の複合樹脂材料の製造に使用する変性PTFE粒子の比表面積の測定は、JIS Z8830に従い、比表面積/細孔分布測定装置(日本ベル製BELSORP−miniII)を用いて行った。
【0073】
(結晶化熱)
本発明の複合樹脂材料に含まれるフッ素樹脂の結晶化熱は、示差走査型熱量計(島津製作所製「DSC−50」)を用いて測定した。3mgの測定試料を、50℃/分の速度にて250℃まで昇温させ、一旦保持し、さらに10℃/分の速度にて380℃まで昇温させることにより結晶を融解させた後、10℃/分の速度で降温させた際に測定される結晶化点のピークから熱量に換算して測定した。
【0074】
〔成形体の作製〕
後述する実施例および比較例で得た複合樹脂材料を、必要に応じて前処理(例えば、予備乾燥、造粒等)を行った後、成形用金型に一定量、均一に充填した。次いで、15MPで加圧し一定時間保持することにより複合樹脂材料を圧縮し、未焼成圧縮成形体を得た。得られた未焼成圧縮成形体を成形金型から取り出して、350℃以上に設定した熱風循環式電気炉で2時間以上焼成し、徐冷を行ったのち電気炉から取り出し、複合樹脂材料の焼成圧縮成形体を得た。
【0075】
〔体積抵抗率の測定〕
上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工によりφ110×10mmの試験片を作製し、測定試料とした。
体積抵抗率の測定は、JIS K6911に従い、抵抗率計(三菱化学アナリテック製「ロレスタ」または「ハイレスタ」)を用いて行った。
【0076】
〔機械的強度の測定〕
(引張弾性率、引張強度、引張伸び(破断点))
上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工によりJIS K7137-2-Aに従うダンベル試験片を作製し、測定試料とした。
引張弾性率、引張強度および引張伸び(破断点)の測定は、上記測定試料を用いて、JIS K7137-2-Aに従い、5kN荷重、1mm/minの速度にて、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)を用いて行った。
【0077】
(圧縮弾性率、圧縮強度(25%変形))
上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工によりφ8×20mmの試験片を作製し、測定試料とした。
圧縮弾性率および圧縮強度(25%変形)の測定は、上記測定試料を用いて、JIS K7181に従い、5kN荷重、1mm/minの速度にて、圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)を用いて行った。
【0078】
(曲げ弾性率、曲げ強度)
上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工により厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を作製し、測定試料とした。
曲げ弾性率および曲げ強度の測定は、上記測定試料を用いて、JIS K7171に従い、5kN荷重、10mm/minの速度にて、曲げ試験機(株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能材料試験機」)を用いて行った。
【0079】
〔溶接強度〕
溶接強度の測定方法を、
図1および
図2を用いて説明する。まず、上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工により厚さ10mm×幅30mm×長さ100mmの試験片(
図1中の2)を作製し、この試験片に長さ50mm、深さ約1mmのV溝(
図1中の3)を切削した。次いで、直径3mmのPFA溶接棒(
図1中の1)を、熱風式溶接機を用いて、融着する部分の長さが50mmとなるように溝部分に溶接し、
図1に示されるような溶接強度測定用試験片を作成した。次に、溶接強度測定用試験片を、
図2に示すように、融着したPFA溶接棒1の折り返し部分が下側となるように引張試験機にセットし、試験片の一方の端を引張試験機の下チャックで挟んで固定し、溶接棒の融着されずに残る部分を引張試験機の上チャックに挟んで固定する。
図2中の矢印の方向に10mm/分の速度で引張を行い、最大応力を測定し、溶接強度とした。
【0080】
〔成形体の評価〕
〔金属溶出量〕
カーボンナノチューブ添加による成形体における金属汚染の程度を、ICP質量分析装置(パーキンエルマー製「ELAN DRCII」)を用いて金属系17元素の金属溶出量を測定することにより評価した。具体的には、上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削取得した10mm×20mm×50mmの試験片を、3.6%塩酸(関東化学製EL-UMグレード)0.5Lに1時間程度浸漬し、1時間浸漬後に取出して超純水(比抵抗値:≧18.0MΩ・cm)で掛け流し洗浄を行い、3.6%塩酸0.1Lに試験片全体を浸漬して室温環境下で24時間および168時間保存した。規定時間経過後に浸漬液を全量回収し、浸漬液の金属不純物濃度を分析した。
【0081】
〔炭素脱落〕
成形体からのカーボンナノチューブの脱離の程度を、全有機体炭素計(島津製作所製「TOCvwp」)を用いてTOCを測定することにより評価した。具体的には、上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削取得した10mm×20mm×50mmの試験片を、3.6%塩酸(関東化学製EL-UMグレード)0.5Lに1時間程度浸漬し、1時間浸漬後に取出して超純水(比抵抗値:≧18.0MΩ・cm)で掛け流し洗浄を行い、超純水に試験片全体を浸漬して室温環境下で24時間および168時間保存した。規定時間経過後に浸漬液を全量回収し、浸漬液について全有機体炭素分析をした。
【0082】
〔硫酸過水浸漬処理(SPM処理)〕
ガラスビーカー中で98%硫酸と30%過酸化水素水を2:1の重量比で混合して硫酸過水を調製した。調製した硫酸過水の温度が反応熱によって最高温度に達した所に、後述する実施例および比較例の複合樹脂材料から上記の成形体の作製方法に従い得た成形体から切削加工により得たJIS K7137-2-Aに従うダンベル試験片を入れ、24時間浸漬させた。24時間浸漬後、硫酸過水の調製、24時間浸漬を繰り返して行い、累積で30日間浸漬した試験片について、上記と同様にして体積抵抗率の測定を行った。
【0083】
〔樹脂粒子〕
以下の実施例および比較例において、次の表1に示す変性PTFE粒子、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子またはPCTFE粒子を使用した。なお、表1に示す変性PTFE粒子1および2は、上記式(I)で表されるテトラフルオロエチレン単位と、上記式(II)(式中のXはパーフルオロプロピル基である)で表されるパーフルオロビニルエーテル単位とを有し、パーフルオロビニルエーテル単位の量は、変性ポリテトラフルオロエチレンの全質量に基づいて、0.01〜1質量%であることを確認した。
【表1】
【0084】
〔実施例1〕
水を溶媒としたカーボンナノチューブ分散液(分散剤=0.15質量%、カーボンナノチューブ=0.025質量%)500gにエタノールを3,500g加えて希釈した。さらに、変性PTFE粒子1を1,000g添加して混合スラリーを作製した。
次いで、作製した混合スラリーを耐圧容器に供給し、耐圧容器内の混合スラリーに含まれる分散剤1mgに対して0.03g/分の供給速度で液化二酸化炭素を供給し、耐圧容器内の圧力を20MPa、温度を50℃となるまで昇圧・昇温させた。上記圧力および温度を3時間保持しながら二酸化炭素を、二酸化炭素中に溶け込んだ溶媒(水、エタノール)および分散剤と共に耐圧容器から排出させた。
次いで、耐圧容器内の圧力、温度を大気圧、常温まで下げることにより耐圧容器内の二酸化炭素を除去し、CNT複合樹脂材料を得た。
【0085】
〔実施例2〕
CNTの量を得られる複合樹脂材料に基づいて0.05質量%としたこと以外は実施例1と同様にして実施例2の複合樹脂材料を得た。
【0086】
〔実施例3〕
CNTの量を得られる複合樹脂材料に基づいて0.1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして実施例3の複合樹脂材料を得た。
【0087】
〔実施例4〕
変性PTFE1に代えて変性PTFE2を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の複合樹脂材料を得た。
【0088】
〔実施例5〕
変性PTFE1に代えて変性PTFE2を用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例5の複合樹脂材料を得た。
【0089】
〔比較例1〕
CNTを複合化させていない変性PTFE1を比較例1とした。
【0090】
〔比較例2〕
CNTを複合化させていない変性PTFE2を比較例2とした。
【0091】
〔比較例3〕
CNTを複合化させていないPTFE粒子を比較例3とした。
【0092】
〔比較例4〕
PTFEにグラファイトを15重量%添加した市販成形体(素材)を比較例4とした。
【0093】
〔比較例5〕
PTFEにカーボンファイバーを15重量%添加した市販成形体(素材)を比較例5とした。
【0094】
〔比較例6〕
変性PTFE1に代えてPCTFE粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例6の樹脂材料を得た。
【0095】
〔比較例7〕
変性PTFE1に代えてPCTFE粒子を用いたこと以外は実施例2と同様にして比較例7の樹脂材料を得た。
【0096】
上記の実施例および比較例で得た樹脂材料の平均粒子径および比表面積を上記測定方法に従い測定した。結果を表2に示す。また、上記の実施例および比較例で得た樹脂材料を用いて上記の方法に従い作製した成形体について測定した体積抵抗率も表2に示す。
【表2】
【0097】
上記の実施例および比較例で得た樹脂材料を用いて上記の方法に従い作製した成形体について、引張弾性率、引張強度、引張伸び(破断点)を測定した結果を表3に示す。また、上記の方法に従い測定した溶接強度も表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
上記の実施例および比較例で得た樹脂材料を用いて上記の方法に従い作製した成形体について、圧縮弾性率、圧縮強度(25%変形)、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した結果を表4に示す。
【表4】
【0100】
上記の実施例および比較例で得た樹脂材料を用いて上記の方法に従い作製した成形体について、金属溶出量および炭素脱落の評価を行った。得られた結果を表5に示す。なお、表5中の金属溶出量の欄に記載した元素以外の元素(Ag、Cd、Co、Cr、K、Li、Mn、Na、Ni、Pb、Ti、Zn)については、金属溶出量の測定を行ったが装置検出限界(ND)であったため、表5中には結果を記載していない。また、表5中の結果はいずれも24時間浸漬後の結果である。
【表5】
【0101】
上記の実施例2で得た樹脂材料を用いて上記の方法に従い作製した成形体について、上記の条件で硫酸過水浸漬処理(SPM処理)を行い、処理後の体積抵抗率を測定した。その結果、SPM処理前の体積抵抗率は10
2Ω・cmであり、処理後の体積抵抗率も10
2Ω・cmであり、本願発明の樹脂材料はSPM処理を行っても体積抵抗率が増加しないことが確認された。
【0102】
表2に示す結果より、変性PTFEおよびCNTを含み、500μm以下の平均粒子径を有する複合樹脂材料から得た成形体は、低い体積抵抗率を有することがわかる。特に15質量%ものグラファイトを含有する比較例4や、15質量%ものカーボンファイバーを含有する比較例5と比較して、少量のCNTで効率的な体積抵抗率の低減効果が達成されることが確認された。
【0103】
表3および4に示す結果より、変性PTFEおよびCNTを含み、500μm以下の平均粒子径を有する複合樹脂材料から得た成形体は、CNTを添加していない比較例1および2と比較して、ほぼ同程度の機械的強度および溶接強度を有していることがわかる。そのため、本発明の複合樹脂材料によれば、機械的強度や溶接強度を著しく低下させることなく、高い体積抵抗率が達成できることが確認された。これに対し、比較例4および5に示されるような、従来使用されているPTFEとグラファイトまたはカーボンファイバーとを含有する導電性材料では、同等またはそれ以上の帯電防止効果または導電性を有する本願の複合樹脂材料から得た成形体と比較して、溶接強度が著しく低下することが確認された。
【0104】
表5に示す結果より、本発明の複合樹脂材料から得た成形体は、CNTを複合化させていない比較例1の樹脂粒子とほぼ同等の金属溶出量および炭素脱落量を示し、クリーン性に優れることが確認された。また、本発明の複合樹脂材料はSPM処理前後で体積抵抗率が低下せず、高い耐薬品性を有していることも確認された。
【0105】
上記成形体の作製方法にしたがい、実施例2、比較例4および比較例5で得た複合樹脂材料をそれぞれ用いて、10mm×10mm×厚さ2mmの試験片を得た。該試験片を表6に示す種々の薬液に浸漬させ、浸漬前と約1週間(1W)および約1ヶ月(1M)浸漬後の重量変化を測定した。また、比較例8として、市販の複合材料(PFA樹脂と炭素繊維の複合材料)の上記サイズを有する試験片についても、同様の浸漬試験を行った。なお、表6中のAPMへの浸漬試験は80℃の温度条件下で行い、その他の薬液への浸漬試験は室温条件下で行った。得られた結果を表6に示す。なお、表6中の各薬液の詳細は表7に示すとおりである。
【表6】
【表7】