特許第6649539号(P6649539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6649539
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】脂肪蓄積抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20200210BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20200210BHJP
   A23K 10/00 20160101ALI20200210BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20200210BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20200210BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   A23L33/135
   A61K35/747
   A23K10/00
   A61P3/04
   A61P3/06
   A61P1/16
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-545811(P2019-545811)
(86)(22)【出願日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2019014997
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-84048(P2018-84048)
(32)【優先日】2018年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02242
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519392133
【氏名又は名称】曽根ファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 政則
【審査官】 清野 千秋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−523407(JP,A)
【文献】 特開2010−138147(JP,A)
【文献】 Plaza-Diaz, Julio et al,Effects of Lactobacillus paracasei CNCM I-4034, Bifidobacterium breve CNCM I-4035 and Lactobacillus,PLoS One,2014年 5月22日,Vol. 9, No. 5,Article No.e98401
【文献】 Chiu, Chiu-Hsia et al,The effects of Lactobacillus-fermented milk on lipid metabolism in hamsters fed on high-cholesterol,Applied Microbiology and Biotechnology,2006年,Vol.71, No.2,pp.238-245
【文献】 Ye, Haiqing et al,Effect of a novel potential probiotic Lactobacillus paracasei Jlus66 isolated from fermented milk on,Food & Function,2017年,Vol.8, No.12,pp.4539-4546
【文献】 El-Shafie, Hanaa A. et al,Hypocholesterolemic action of Lactobacillus plantarum NRRL-B-4524 and Lactobacillus paracasei in mic,Australian Journal of Basic and Applied Sciences,2009年,Vol.3, No.1,pp.218-228
【文献】 Pu, Fangfangb et al,Lactobacillus paracasei N1115 can Alter Lipid Metabolismin of High-fat Diet Fed SD Rats.,FASEB Journal,2017年 4月 1日,Vol. 31, No. Suppl. 1,Abstract Numbe 965.4.
【文献】 Iacono, A. et al,Effects of a new symbiotic formulation containing lactobacillus paracasei B21060 in a model of insul,Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition,2010年,Vol. 50, Supp. SUPPL. 2,pp. E33, Abstract Number PD-H-107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/14
A23K 10/00
A61K 36/06
A61P 1/16
A61P 3/04
A61P 3/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei) IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)である乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物。
【請求項2】
肥満の予防又は改善のための請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のための請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
組成物が飲食品組成物である請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである請求項に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が医薬組成物である請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
組成物が飼料組成物である請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪蓄積抑制用組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本及び欧米諸国では、脂肪肝、糖尿病、高血圧、動脈硬化などの症状を示すメタボリックシンドロームと呼ばれる病態を持つ患者が増加している。メタボリックシンドロームには肥満が深く関与していると考えられている。肥満は、過食によるエネルギーの過剰摂取や運動不足による消費エネルギ−の低下などにより、脂肪細胞数が増加した状態や脂肪細胞内に脂肪が過剰に蓄積した状態をいう。したがって、このような脂肪蓄積を抑制することなどにより、肥満が予防され改善されると考えられている。
【0003】
また、脂肪肝は肝臓若しくは肝細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態をいい、肥満、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病に密接に関連していると考えられている。肝臓もしくは肝細胞への中性脂肪の蓄積は、例えば、遊離脂肪酸が取り込まれ中性脂肪として蓄積することが原因の一つとも考えられている。
【0004】
肥満を予防し改善するためには、体脂肪の燃焼を促進したり、脂肪の蓄積を抑制したりするような食材やサプリメントの摂取や、医療分野における抗肥満剤の投与などが種々提案されている。また、脂肪肝を予防し治療する方法については、肝臓での脂肪蓄積を抑制する方法などが提案されている。しかしながら、安全性や実用性の面などから肥満や脂肪肝を有効に予防し改善するものは数少ないのが現状である。
【0005】
他方、乳酸菌は、発酵乳、乳酸菌飲料、発酵バター等の乳製品等の食品を製造する際に古くから用いられ、乳酸菌自体も整腸効果を始め、様々な薬理作用を有することから、健康食品や医薬品等の素材としても利用されている。乳酸菌の脂肪蓄積に対する作用としては、ラクトバチルス属やラクトコッカス属乳酸菌の中には内臓脂肪減少作用を持つ菌株が見出されていること(特許文献1)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌に脂肪肝抑制作用があること(特許文献2)等が報告されている。また、植物由来の乳酸菌として、脂肪肝の改善と体内脂肪の蓄積抑制効果を有するペデイオコッカス・ペントサセス(Pediococcus pentosaceus)LP28株(非特許文献3)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−214253号公報
【特許文献2】特開2008−24680号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Appl. Microbiol. Biotechnol., 84, 341-347 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景技術下においては、乳酸菌を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための新たな組成物の開発が望まれている。したがって、本発明は、肥満、脂肪肝や肝機能不全の予防もしくは改善に有効な、乳酸菌を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための新たな組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂肪蓄積抑制のための新たな組成物を開発することを目的として鋭意検討した結果、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌が産生する多糖類が、肝細胞が遊離脂肪酸を取り込み中性脂肪として蓄積することを抑制する作用があること、また、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌が体重増加と内臓脂肪の蓄積を抑制し抗肥満作用を示すことを見出し、この知見に基づき更に研究を重ねて本発明を完成した。
【0010】
本発明の一つの局面では、本発明は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物に関する。
本発明の組成物は、肥満の予防又は改善のために、また、脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のために好ましく使用することができる。
本発明の組成物においては、乳酸菌はイチジク由来の乳酸菌であるのが好ましく、特に、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌が好ましい。
本発明の組成物においては、乳酸菌の培養物若しくは発酵物は、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物が好ましい。
本発明の組成物においては、乳酸菌が産生する多糖類としては、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体、あるいは、主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体が挙げられる。
本発明の組成物は飲食品組成物が好ましく、飲食品としては、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントが好ましく挙げられる。
また、本発明の組成物は、医薬組成物が好ましい。
さらには、本発明の組成物は、飼料組成物が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、脂肪蓄積抑制に有効であり、肥満の予防又は改善のために、また、脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のために使用することができる。本発明の組成物は、肥満、脂肪肝又は肝機能不全の予防もしくは改善のための飲食品、医薬品、飼料として使用することができる。そして、本発明の組成物は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とするため、安全性が高く、長期適用が可能であり、また、安価に大量供給が可能であり、その有用性及び実用性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の顕微鏡写真である。図1の(A)がグラム染色顕微鏡写真、(B)が走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2図2は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の多糖類の陰イオン交換クロマトグラフィー(TOYOPEARL DEAE−650M樹脂 (東ソ−株式会社))による分離プロファイルである。0 mM〜500 mM の勾配濃度のNaCl(破線)で多糖類を溶出させ、各画分中の多糖類の存在をフェノール硫酸法により490 nmでモニターした(直線)。
図3図3は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の多糖類を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製して得られた中性多糖体を、プロトン-NMR及びカーボン-NMRに付して得られたそれぞれのNMRプロファイルを示す。図3の(A)がプロトン-NMRのNMRプロファイルであり、(B)がカーボン-NMRのNMRプロファイルである。
図4図4は、NMRプロファイルからの中性多糖体の構造解析結果を示す。この構造解析結果から、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の中性多糖体は、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有することが明らかとなった。
図5図5は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株が産生する多糖類が濃度依存的に脂肪蓄積抑制作用を有することを示すグラフである。
図6図6は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株で発酵させたパイナップル果汁発酵液を摂取させた高脂肪食摂取肥満モデルマウスの体重増加の推移を示すグラフである。
図7図7は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株で発酵させたパイナップル果汁発酵液を摂取させることにより、高脂肪食摂取肥満モデルマウスにおける体重増加が抑制されることを示すグラフである。
図8図8は、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株で発酵させたパイナップル果汁発酵液を摂取させることにより、高脂肪食摂取肥満モデルマウスにおける内臓脂肪量が抑制されることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明で提供される、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物について詳細に説明する。
1.本発明で対象とする乳酸菌
本発明で対象とする乳酸菌は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌であり、イチジク由来の乳酸菌が好ましい。具体的には、本発明により、イチジクの葉から単離同定されたLactobacillus paracasei IJH-SONE68株が挙げられる。この菌株は、2016年4月19日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物センター(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号NITE P-02242として国内寄託され、その後にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、2017年5月26日にNITE BP-02242として国際寄託の受託番号が付与されている。
【0014】
Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株は、図1の写真に示すように、カタラーゼ陰性のグラム陽性桿菌で、かつ、白色コロニー形成性を有し、条件的ヘテロ乳酸発酵の特性を持つという菌学的性質を有する。さらには、多糖体を産生する能力を有している。
【0015】
本発明では、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株と同等の乳酸菌も対象とする。ここで、同等の乳酸菌とは、Lactobacillus paracasei に属する乳酸菌であって、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株と同様に、脂肪蓄積抑制作用を有する乳酸菌を指し、また、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株が産生する多糖類と同様に、脂肪蓄積抑制作用を有する多糖類を産生する乳酸菌を指す。これらの同等の乳酸菌は、例えば、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株に対して突然変異、遺伝子組換え等の通常の変異処理技術を行うことによって得ることができ、また、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0016】
2.本発明の有効成分
本発明の組成物は、上記した乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分として含む。
乳酸菌は、通常用いられるMRS培地やその修正培地等を用いて、液体静置培養等の通常用いられる培養方法により培養することができる。乳酸菌は、パイナップル属植物の果汁又はその抽出物の存在下で培養することにより、その増殖を促進することができ(国際公開第WO2011/046194号)、また、酒粕、酒粕抽出物又は酒粕の酵素分解物の存在下で培養することによっても、その増殖を促進することができる(特開平3-172171号公報、特開平5-15366号公報及び特許第2835548号公報)。乳酸菌を培養後、得られた培養物をそのまま有効成分として用いてもよく、得られた培養液を希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、培養後に加熱、及び凍結乾燥等の種々の追加操作を行うこともできる。また、乳酸菌の菌体は、その細胞表層に多糖類を付着している生菌体であっても死菌体であってもよく、生菌体及び死菌体の両方であってもよい。死菌体は、破砕物であってもよいが多糖類をその表層に付着していることが望ましい。また、乳酸菌の発酵物は、通常、栄養源としてグルコースなどを用い、必要に応じて、酵母エキス、パイナップル属植物の果汁、酒粕、焼酎粕等の植物乳酸菌の増殖促進物質を更に添加して、発酵させて得ることができる。
【0017】
乳酸菌が産生する多糖類は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の培養物から、通常の方法により分離精製して得ることができる。具体的には、例えば、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の培養物から遠心分離により菌体を除去し、得られた培養物から、エタノールやアセトン等を用いて多糖類を沈殿させて得ることができる。また、イオン交換クロマトグラフィーによって、さらに分離精製して得ることもできる。
【0018】
本発明においては、乳酸菌が産生する多糖類としては、具体的には、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体、あるいは、主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体が挙げられる。この中性多糖体は、後述する実施例2に記載するように、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株の培養物から得られる多糖類を陰イオン交換クロマトグラフィーによって分離精製することにより得ることができる。この中性多糖体は、図3に示すプロトン-NMR及びカーボン-NMRのNMRプロファイルから、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有することが明らかとなった。また、Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株は、主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体を菌体外に分泌する。より具体的には、この酸性多糖体は、グルコース、マンノース、ガラクトース及びラムノースから構成され、それらの組成比は、おおよそ10:170:2:1である。
【0019】
3.本発明の組成物
本発明の組成物は、飲食品組成物、医薬組成物、飼料組成物などの各種の形態で用いることができる。
【0020】
飲食品組成物の飲食品としては、特に制限されず、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料、これらの飲料の濃縮原液、調製用粉末等;アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、グミ、シリアル、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子等の菓子類;加工乳、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;ピューレなどの食品;甘酒; その他機能性食品等が例示される。また、飲食品は、サプリメントであってもよく、例えば、顆粒状、粉末状、タブレット状のサプリメントであってもよい。
【0021】
上記のような飲食品は、飲食品の原料に乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を添加することにより製造することができ、あるいは通常の飲食品と同様にして製造することができる。乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類の添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。添加した乳酸菌による発酵工程を経て、飲食品が製造されてもよい。そのような飲食品としては、乳酸菌飲料、発酵乳などの発酵食品等が挙げられる。
【0022】
飲食品組成物における乳酸菌の菌体又はその培養物若しくは発酵物の含有量は、飲食品の態様によって適宜設定されるが、通常、飲食品組成物中に、1×106〜1×1012cfu/g又は1×106〜1×1012cfu/mlの範囲内で菌体が含まれるような含有量が好ましく、1×107〜1×1011cfu/g又は1×107〜1×1011cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。乳酸菌が死菌体の場合、cfu/gまたはcfu/mlは、個細胞/g又は個細胞/mlと置き換えることができる。乳酸菌が産生する多糖類の場合には、飲食品組成物中に、多糖類の重量換算で通常0.001重量%以上、さらには0.01重量%以上含まれるのが好ましい。
【0023】
医薬組成物は、通常、乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を、通常使用される生理的に許容される液体又は固体の製剤担体に配合し製剤化して使用される。医薬組成物の剤形は特に制限されず、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、及び点鼻剤等を例示できる。
【0024】
本発明の医薬組成物の製剤における乳酸菌の菌体又はその培養物若しくは発酵物の含有量は、剤形、用法、対象の年齢、性別、疾患の種類、疾患の程度、及びその他の条件等により適宜設定されるが、通常、1×106〜1×1012cfu/g又は1×106〜1×1012cfu/mlの範囲内で菌体が含まれるような含有量が好ましく、1×107〜1×1011cfu/g又は1×107〜1×1011cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。乳酸菌が死菌体の場合、cfu/gまたはcfu/mlは、個細胞/g又は個細胞/mlと置き換えることができる。乳酸菌が産生する多糖類の場合には、医薬組成物中に、多糖類の重量換算で通常0.001重量%以上、0.01重量%以上含まれるのが好ましい。
【0025】
本発明の医薬組成物の投与時期は特に限定されず、適用対象に応じて、適宜投与時期を選択することができる。また、予防的に投与してもよく、維持療法に用いてもよい。投与形態は製剤形態、投与対象の年齢、性別、その他の条件、投与対象の症状の程度等に応じて適宜決定されることが好ましい。本発明の医薬組成物は、いずれの場合も1日1回又は複数回に分けて投与することができ、また、数日又は数週間に1回の投与としてもよい。
【0026】
飼料組成物の飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。このような飼料は、一般的な飼料、例えば、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、乳清(ホエイ)、にがり、鉱物質飼料、酵母類等に乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を混合することにより製造することができる。また、例えば、サイレージの場合のように、添加した乳酸菌による発酵工程を経て、飼料が製造されてもよい。製造された飼料は、一般的な哺乳動物、家畜類、養魚類、愛玩動物等に経口的に投与することができる。また、養魚類の場合には、乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を添加した発酵物を養魚場に撒く方法を採用することもできる。
【0027】
飼料組成物における乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物の含有量は、飼料の態様や適用対象によって適宜設定されるが、1×106〜1×1012cfu/g又は1×106〜1×1012cfu/mlの範囲内で菌体が含まれるような含有量が好ましく、1×107〜1×1011cfu/g又は1×107〜1×1011cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。乳酸菌が死菌体の場合、cfu/gまたはcfu/mlは、個細胞/g又は個細胞/mlと置き換えることができる。乳酸菌が産生する多糖類の場合には、飼料組成物中に、多糖類の重量換算で通常0.001重量%以上、さらには0.01重量%以上含まれるのが好ましい。
【0028】
4.本発明の組成物の用途
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類は、肝細胞が遊離脂肪酸を取り込み中性脂肪として蓄積することを抑制する作用を有し、また、体重増加と内臓脂肪の蓄積を抑制し抗肥満作用を有する。したがって、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分として含有する組成物は、脂肪蓄積抑制のために、また、肥満抑制のために使用することができる。具体的には、本発明の組成物は、肥満の予防又は改善のために、また、脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のために使用することができる。また、本発明の組成物は、肥満の予防又は改善に有効であることから、特に、健康維持や健康増進用の飲食品の素材として利用することができる。また、脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善は、体力の維持、増進、回復等に繋がることから、特に、体力の維持、増進、回復用の飲食品の素材として利用することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0030】
実施例1
乳酸菌の分離及び同定
1. 乳酸菌サンプルの分離
イチジク(品種「とよみつ姫」)の葉、茎、および果実を選択し、殺菌済みピンセットとハサミを用いて2〜3 mmに細断片化した後、滅菌済のMRS液体培地入りの試験管に5〜6個ずつの細片を入れ、28℃および37℃にて、乳酸菌の標準培地であるMRS培地が濁る (増殖する) まで静置培養した。ちなみに、乳酸菌候補株の増殖が目視できるまでに2〜4日間を要した。
上記乳酸菌候補株の各培養液の一部をMRS寒天培地上にディスポーザブルループで線画塗菌後、静置培養を行った。寒天培地上に形成されたコロニーのうち、「色、つや、形状の異なるもの」を全てピックアップし、フレッシュなMRS寒天培地上に線画塗菌を行い、コロニーを純化した。
純化された各コロニーに対し、カタラーゼ酵素の産生の有無を検証するため、H2O2テストを行った。これは、10%のH2O2溶液に菌体を曝した際に起こる、カタラーゼが存在すれば生成する酸素の発生の有無を観察する試験法である。ちなみに、乳酸菌はカタラーゼを産生しない。
イチジクからの探索分離を試みた結果、イチジクの葉を分離源としたものから、カタラーゼ陰性を示す乳酸菌候補株を1株得ることができた。
【0031】
2. 分離株の同定
上記乳酸菌候補株をMRS液体培地で改めて培養し、遠心により菌体を取得した。細胞壁溶解酵素で処理した後, DNAzol試薬を使用し、ゲノムDNAを抽出した。
Lane, D. J. (1991). 16S/23S rRNA sequencing. In Nucleic Acid Techniques in Bacterial Systematics、pp.115-175. Edited by E. Stackebrandt & M. Goodfellow. Chichester : Wileyに記載された方法に従って、ゲノムDNAを鋳型として、27fプライマーおよび1525rプライマーを用いたPCR反応により16S rDNA部分を増幅させ、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up kit(マッハライ・ナーゲル社製)により、アガロースゲルより目的断片を回収した。塩基配列決定のためのダイターミネーター法によるシークエンス反応は, Big Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit ver.3.1(ThermoFisher Scientific社製)にて行い、ABI PRISM 3130xl Genetic Analyzer(ThermoFisher Scientific社製)にて解析した。解析した16S rDNAの塩基配列に対してBLAST programによる相同性検索を行い、DNA data bank(DDBJ/EMBL/GenBank)のデータベースと比較することで、分離株の分類学的同定を行った。
【0032】
イチジクの葉より分離された乳酸菌候補株を、IJH-SONE68株と命名し、DNA data bank(DDBJ/EMBL/GenBank)に既に登録されている「Lactobacillus paracasei R094」の菌株で塩基配列のaccession番号が「NR_025880」である塩基配列と100%一致したため、Lactobacillus paracaseiと同定した。
この菌株は、2016年4月19日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物センター(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号NITE P-02242として国際寄託され、その後にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、2017年5月26日にNITE BP-02242として国際寄託の受託番号が付与されている。
【0033】
3.分離同定された乳酸菌の菌学的性質
分離同定された上記乳酸菌IJH-SONE68株は、図1の写真に示すように, カタラーゼ陰性のグラム陽性桿菌で、かつ、白色コロニー形成性を有し、条件的ヘテロ乳酸発酵の特性を有するとともに、多糖体を産生する能力を有していた。
【0034】
4.分離同定された乳酸菌の糖類の資化能力
(1)資化能力の試験方法
IJH-SONE68株の49種類の糖類に対する資化能力について以下の試験方法により調べた。
IJH-SONE68株をMRS液体培地で増殖の定常期まで静置培養した。遠心して得られた菌体を適量のsuspension medium (ビオメリュー社製) で洗浄した後、最終的に2 mLのsuspension mediumに懸濁した。この一部を、5 mLのsuspension mediumに加えてマクファーランド濁度が2になる量 (n) を求めた。続いて、API 50 CHL培地 (ビオメリュー社製) に2nの菌液を添加し、これをAPI 50 CHLキット (ビオメリュー社製、各ウェルの底にはそれぞれ49種類の糖が塗り付けられている) の各ウェルへ分注した。最後にミネラルオイルを重層し、滅菌水を入れたトレイにセットした。37℃で48時間培養した後に、各ウェルにおける色調の変化を観察することで、資化能の有無の判定を行った。
【0035】
5.資化能力の試験結果
IJH-SONE68株の49種類の糖類に対する資化能力を調べた結果は、表1に示したとおりである。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2
1. IJH-SONE68株が産生する多糖体の分離精製
IJH-SONE68株が産生する多糖類を以下の方法で分離精製した。
IJH-SONE68株をMRS液体培地で増殖の定常期まで静置培養した。この培養液5 mLを種培養液とし、5 Lの多糖類産生用半合成培地 (その組成は後述する) に植菌した後、37℃で120時間静置培養した。培養液を4℃に冷却した後、培養液上清中に含まれるタンパク質を変性させて、後のステップで沈殿として除去するために、202.5 mLの100%トリクロロ酢酸水溶液を加え、混和した後に30分間静置した。遠心によって沈殿を取り除き、回収した上清に等量のアセトンを加えて混和した後、4℃で一晩静置させることによって、IJH-SONE68株が産生する多糖体を沈殿させた。沈殿物を遠心によって回収した後、250 mLの70%エタノールで沈殿物の洗浄を行った。沈殿物を風乾させた後、75 mLの50 mM Tris−HCl buffer (pH 8.0) を加えて1時間混和することで、沈殿物を溶解させた。遠心によって不溶性の夾雑物を取り除いた後、回収した上清に対し、それぞれ750 μLの1 mg/mL DNase溶液 (Worthington社) および1 mg/mL RNase溶液 (ナカライテスク社) を加え、37℃で8時間反応させた。続いて750 μLの2 mg/mL proteinase K溶液 (和光純薬工業社製) を加え、37℃で16時間反応させた。反応後の溶液を4℃に冷却した後、添加した各酵素を変性させ、次の遠心で沈殿として除去するために、8.75 mLの100%トリクロロ酢酸水溶液を加えて混和し、4℃で1時間静置した。遠心によって沈殿物を取り除き、得られた上清に対し262.5 mLの100%エタノールを加え、しっかりと混和した後、遠心によってIJH-SONE68株が産生する多糖体を沈殿物として回収した。50 mLの70%エタノールで沈殿物を洗浄した後に風乾させ、適量 (約25 mL) の精製水を加えて4℃で一晩静置することで、多糖体を溶解させた。溶解後の多糖体サンプルは、10,000 MWCOの限外濾過ユニット (メルク社) を用い、溶媒を精製水に置換しながら、回収したサンプル中の単糖類などの小分子を取り除いて、精製された多糖類サンプルを得た。
【0038】
精製した多糖類サンプルを、予め50 mM Tris−HCl buffer (pH 8.0) で平衡化したTOYOPEARL DEAE−650M樹脂 (東ソ−株式会社) を充填したオープンカラム (2.5 × 22 cm) にアプライし、中性多糖画分と酸性多糖画分に分離精製するためのカラムワークを行った。溶液は同bufferを用い、流速は1 mL/minで固定した。また、溶出液は6 mLごとに異なる試験管に回収した。まず、開始から240分までの間は同bufferで溶出させた (試験管番号1-40)。次に、240分の時点から600分の時点までは、同bufferを用いた0-500 mM NaClの濃度勾配を作り、溶出を続けた (試験管番号41-100)。カラム分離スぺクトルを図2に示す。試験管に溶出させた全てのサンプルに対し、フェノール硫酸法 (後述する) によって多糖体の存在を確認した後、該当する試験管内の溶液をそれぞれ中性多糖画分、酸性多糖画分として取りまとめた。それぞれの画分は10,000 MWCOの限外濾過ユニットを用い、溶媒を精製水に置換しながら、回収したサンプル中の単糖類などの小分子を取り除いた。
以上により、IJH-SONE68株が産生する多糖類として中性多糖画分および 酸性多糖画分が分離精製された。
【0039】
多糖類産生用半合成培地はKimmel SA、Roberts RF. Development of a growth medium suitable for exopolysaccharide production by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus RR. Int. J. Food Microbiol.、40、87-92 (1998) に記載された培地を以下のように改変した。
【0040】
多糖類産生用半合成培地 [g/L]
Glucose 20
Tween 80 1.0
Ammonium citrate 2.0
Sodium acetate 5.0
MgSO4・7H2O 0.1
MnSO4・5H2O 0.05
K2HPO4 2.0
Bacto casitone 10.0
Vitamine Soln. 2 mL
Trace element Soln. 1 mL
【0041】
Vitamine Soln. [g/L]
4−aminobenzoic acid 0.05
Biotin 0.001
Folic acid 0.025
Lipoic acid 0.025
Nicotinic acid 0.1
Pantothenic acid 0.05
Pyridoxamin−HCl 0.25
Vitamine B12 0.05
Pyridoxine 0.025
Riboflavin 0.05
Thiamine 0.1
【0042】
Trace element Soln.は、Kets EPW, Galinski EA, de Bont JAM. Carnitine: a novel compatible solute in Lactobacillus plantarum. Arch. Microbiol., 192, 243-248 (1994) に記載されており、その組成は以下のとおりである。
【0043】
Trace element Soln. [g/L]
25% HCl 10 mL
FeCl2・4H2O 1.5
CoCl2・6H2O 0.19
MnCl2・4H2O 0.1
ZnCl2 0.07
H3BO3 0.006
Na2MoO4・2H2O 0.036
NiCl2・6H2O 0.024
CuCl2・2H2O 0.002
【0044】
フェノ−ル硫酸法(DuBois M, Gilles KA, Hamilton JK, Rebers PA, Smith F., Colorimetric method for determination of sugars and related substances., Anal. Chem., 28, 350-356 (1956))
【0045】
30 μLの対象サンプルと等量の5 w/v %フェノール水溶液を混和した後、150 μLの濃硫酸を加えて混和させ、反応を開始させる。10分後に直ちに氷冷し、反応を停止させる。反応液の490 nmにおける吸光度を測定することで、糖類の濃度を測定した。なお、濃度の決定には、グルコースを標品として同実験を行うことで作製した検量線を用いた。
【0046】
2.菌体外中性多糖体の構造解析
上記した陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL DEAE−650M樹脂 (東ソ−株式会社))によって精製された中性多糖体を、プロトン-NMRおよびカーボン-NMRに付し、得られたそれぞれのNMRプロファイルを図3に示した。これらのNMRプロファイルからの中性多糖体の構造解析結果を図4に示した。
この構造解析結果から、IJH-SONE68株が産生する菌体外中性多糖体は、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有することが明らかになった。
【0047】
3.菌体外酸性多糖の糖組成分析
上記した陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製された酸性多糖体の糖組成分析を高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定することにより行った。
精製された酸性多糖体 (7.3 mg/mL) 10μLと水60μLを混合して7倍希釈試料溶液を調製し、試験管に調製した希釈試料溶液20μLを採取し、減圧乾固し、2 mo1/Lトリフルオロ酢酸100μLを添加して溶解し、窒素置換、減圧封管、100℃で6時間加水分解し、次いで減圧乾固した。得られた残澄に水200μLを添加して溶解し、0.22μmのフィルターでろ過して測定用試料溶液を得、測定用試料溶液を水で10倍希釈して希釈測定用試料溶液を得た。これらの測定用試料溶液および希釈測定用試料溶液50μLを分析した。分析機器として、HPLCシステム:LC-20Aシステム(株式会社島津製作所)および分光蛍光光度計M-10AxL(株式会社島津製作所)を用いた。分析条件は以下の通りであった。
カラム:TSK-gel Sugar AXG 4.6 mmI.D.×15 cm(東ソー株式会社)
カラム温度:70℃
移動相:0.5 mo1/Lホウ酸カリウム緩衝液、pH 8.7
移動相流速:0.4 mL/min
ポストカラム標識:反応試薬:l w/v %アルギニン・3 w/v% ホウ酸
反応試薬流速:0.5 mL/min
反応温度:150℃
検出波長:Ex.320 nm Em.430 nm
【0048】
菌体外酸性多糖体より調製した試料のクロマトグラムおよび各単糖類の検量線データを求め、検量線より菌体外酸性多糖の構成糖の試料中濃度を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例3
IJH-SONE68株が産生する多糖類の脂肪蓄積抑制作用
実施例2で得られたIJH-SONE68株が産生する多糖類である、中性多糖画分および酸性多糖画分を含む多糖類サンプルの脂肪蓄積抑制作用を、次に記載される方法にしたがって調べた。
【0051】
1.試験方法
試験対象として、ヒト肝癌由来細胞株であるHuH-7細胞を用いた。HuH-7細胞は、 10 v/v %FBS (fetal bovine serum)、100 U/mLペニシリンG、および100 μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM (Dulbecco's modified Eagle medium) 培地 (高グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド、ピルビン酸ナトリウム含有) で培養した。コンフルエントとなった細胞を新しいDMEM培地に懸濁させ、8×104 cells/wellとなるよう、細胞培養用24 wellプレートに播種した。この時の1 wellあたりの液量は500 μLとした。24時間培養後、各wellにパルミチン酸(PA):オレイン酸(OA) (PA/OA) 溶液 (=1:2、DMSOに溶解) を終濃度600 μM(PA:200 μM及びOA:400 μM)となるよう添加し、更に24時間培養することで、脂肪酸の取り込みを開始した。この時、各多糖類サンプル (終濃度4-400 μg/mL) についても同時に添加しておき、細胞への脂肪酸の取り込み抑制を評価した。
【0052】
24時間経過後、各well中の培養液をアスピレーターにより取り除き、500 μLのPBS (phosphate buffered saline) を加え、細胞とwellを洗浄した。PBSを取り除いた後、10 w/v %ホルマリン溶液250 μLを加えて10分間、細胞を固定した。続いて500 μLのPBSで2回洗浄し、PBSを取り除いた後、150 μLの発色剤溶液 (トリグリセライドE-テストワコー) を加え、37℃で30分間呈色反応を行った。反応後、各wellから100 μLの反応液を回収し、600 nmの吸光度を測定することで、細胞に取り込まれた脂肪酸の量を、細胞内トリグリセリド(中性脂肪)の量として測定・比較した。対照として、ラクトバチルス プランタルムSN35N株(受託番号NITE P-6)の産生する多糖類を用いた。
【0053】
2.試験結果
脂肪酸取り込み評価を2回(1st及び2nd)実施し、得られた結果を表3に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
また、得られた結果を図5にも示した。表3および図5の結果から分かるように、PA/OA溶液のみの添加により、細胞中のトリグリセリド (中性脂肪) 量は明らかに上昇していた。また、PA/OAを溶解させた溶媒であるDMSO(vehicle)のみの添加では、何も添加しない場合(NC)と同様に、変化は認められなかった。一方で、PA/OA存在下でIJH-SONE68株が産生する多糖類サンプル(EPS)(SONE68)を添加した場合には、EPSの濃度依存的に細胞内への脂肪酸取り込みが抑制され脂肪蓄積が抑制される様子が認められた。なおその抑制の度合いは、IJH-SONE68株が産生する多糖類サンプルの方が、SN35N株が産生する多糖類サンプル(EPS)(SN35N)のものよりも高かった。
以上の結果から、IJH-SONE68株が産生する多糖類が脂肪蓄積抑制作用を有することが明らかになった。
【0056】
実施例4
IJH-SONE68株の抗肥満作用および脂肪蓄積抑制作用
高脂肪食摂取肥満モデルマウスを用い、IJH-SONE68株の抗肥満活性および脂肪蓄積抑制活性について評価した。その結果、IJH-SONE68株で発酵させたパイナップル果汁発酵液を摂取させることにより、高脂肪食摂取肥満モデルマウスにおける体重増加と内臓脂肪の蓄積が有意に抑制されることが明らかとなった。
【0057】
1.試験方法
本試験ではC57BL/6Jcl (SPF) 雄性マウスを用いた。7週齢のマウスを搬入し、飼育ケージごとに5匹飼いとした。通常飼料 (MF、オリエンタル酵母社製) を用いた1週間の馴致飼育の後、5匹ずつの群 (A群〜E群) に分け、食餌を高脂肪食 (リサーチダイエット社、#D12492) に変更し、肥満の誘導を開始した。なお、飼料を給餌する際、高脂肪食は予め木槌で粉砕して粘土状とし、ガラス製の粉末用給餌器 (KN-675-4A) を用いて1回あたり120 gとなるよう詰めて与え、1週間間隔で交換した。また、投与サンプルは給餌器に詰める前に高脂肪食と均一となるように混和しておいた。全ての群において、餌、飲用水ともに自由摂取とした。投与サンプルとしては、IJH-SONE68株を100%パイナップル果汁 (1 w/v %の焼酎蒸留残渣を含む) で48時間培養して得られた発酵液を121℃、20分の条件で滅菌処理して得たIJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液およびその希釈液などを用いた。マウスA群〜F群の投与サンプルの詳細は、以下のとおりであった。
【0058】
A群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液を高脂肪食と共に摂取させた群(高脂肪食120 gに発酵パイナップル果汁原液7 mLを添加して混和したものを摂取させた群)
B群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁10倍希釈液を高脂肪食と共に摂取させた群(発酵パイナップル果汁原液を滅菌蒸留水で10倍希釈した希釈液7 mLを高脂肪食120 gに添加して混和したものを摂取させた群)
C群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁100倍希釈液を高脂肪食と共に摂取させた群(発酵パイナップル果汁原液を滅菌蒸留水で100倍希釈した希釈液7 mLを高脂肪食120 gに添加して混和したものを摂取させた群)
D群:発酵させていないパイナップル果汁を高脂肪食と共に摂取させた群(高脂肪食120 gに7 mLのパイナップル果汁を添加して混和したものを摂取させた群)
E群:高脂肪食のみで飼育した群 (陽性コントロール群)(高脂肪食120 gに7 mLの滅菌蒸留水を添加して混和したものを摂取させた群)
F群:通常飼料のみで飼育した群 (陰性コントロール群)
【0059】
食餌の内容を高脂肪食から上記A群〜F群の各食餌に変更後、12週間飼育を継続した。なお、飼育期間中、1週間ごとに体重を測定した。飼育期間を終了後、イソフルラン吸入麻酔にてマウスを安楽死させ、内臓脂肪を採取し、その重量を測定した。各測定データにおける有意差検定には対応のないt検定を用い、危険率 (p値) が0.05未満のときに「有意差あり」と判定した。
【0060】
2.試験結果と考察
上記A群〜F群の各群における1週間ごとの体重増加量 (飼育開始時点(0週)における体重からの増加量) の推移を表4および表5に示し(表4は体重増加量平均(g)、表5はその標準誤差(SE)を示す)、それらをグラフ化したものを図6に示した。また、飼育最終週 (12週) における各群の体重増加量の平均値を表6に示し、それをグラフ化したものを図7に示した。それぞれデータは平均値±標準誤差で示し、群間の有意差検定にはTukey-Kramer法を用い、危険率 (p値) が0.05未満で有意差有りと判定した (以下に記載する図6および7中には陽性コントロール群との有意差のみについて記す)。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
表4〜6および図6〜7から分かるように、陰性コントロール群 (F群) と比較して、陽性コントロール群 (E群) では、高脂肪食の摂取により体重が著しく増加している様子が確認された (p<0.01)。陽性コントロール群と比較して、発酵パイナップル果汁を摂取させた群のなかで、その原液および10倍希釈液を摂取させた群 (A群およびB群) では、高脂肪食の摂取による体重上昇が有意に抑制されることがわかった (ともにp<0.05)。また、100倍希釈した発酵果汁を摂取させた場合 (C群) にはその効果は減弱したものの、陽性コントロール群と比べると増加量は少なかった。一方、未発酵のパイナップル果汁を摂取させた群 (D群) では、陽性コントロール群よりも体重が増加する様子が観察されたが、有意な差は認められなかった。
【0065】
次に、飼育最終週 (12週) 時点での各群のマウスにおける内臓脂肪重量の測定結果を表7および図8に示した。
【0066】
【表7】
【0067】
表7および図8から分かるように、陰性コントロール群と比較して、陽性コントロール群では、高脂肪食の摂取により内臓脂肪量も著しく増加している様子が確認された (p<0.01)。また、陽性コントロール群と比較して、発酵パイナップル果汁を摂取させた群のなかで、10倍希釈液を摂取させた時 (B群) に内臓脂肪量増加の有意な抑制が認められた (p<0.01) ものの、原液の摂取 (A群) では抑制傾向に留まっていた (p<0.1)。一方で、100倍希釈した発酵果汁を摂取させた場合 (C群) にはその効果は減弱した。更に、未発酵のパイナップル果汁を摂取させた群 (D群) では、体重と同様に陽性コントロール群よりも増加する様子が観察されたが、有意な差は認められなかった。
【0068】
以上の結果から、10倍希釈したIJH-SONE68株発酵パイナップル果汁の摂取により、高脂肪食摂取で誘導される体重増加および内臓脂肪量の増加ともに有意に抑制されることが明らかになった。IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液および100倍希釈液の摂取では、その効果が減弱する様子が確認された。100倍希釈液ではマウスの機能性に関与する成分が希釈されたことに起因するものと考えられる。未発酵のパイナップル果汁を摂取させた場合には、陽性コントロール群以上に体重が増加していたことから、IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液の場合はパイナップル果汁に残存する糖分に由来する可能性が考えられた。
【0069】
以上の詳細な説明から明らかなとおり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物。
[2] 肥満の予防又は改善のための上記[1]に記載の組成物。
[3] 脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のための上記[1]に記載の組成物。
[4] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[8] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[9] 組成物が飲食品組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[9]に記載の組成物。
[11] 組成物が医薬組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[12] 組成物が飼料組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[13] 脂肪蓄積抑制のための組成物の有効成分としてのLactobacillus paracasei IJH-SONE68株とラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類の使用。
[14] 肥満の予防又は改善のための組成物である上記[13]に記載の使用。
[15] 脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のための組成物である上記[13]に記載の使用。
[16] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[13]〜[15]のいずれかに記載の使用。
[17] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[13]〜[16]のいずれかに記載の使用。
[18] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[19] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[20] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[21] 組成物が飲食品組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[22] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[21]に記載の使用。
[23] 組成物が医薬組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[24] 組成物が飼料組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[25] Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株とラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分として含む組成物を、それを必要とする対象に適用することを含む方法であって、対象において脂肪蓄積を抑制する方法。
[26] 肥満を予防又は改善する上記[25]に記載の方法。
[27] 脂肪肝又は肝機能不全を予防又は改善する上記[25]に記載の方法。
[28] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[25]〜[27]のいずれかに記載の方法。
[29] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[25]〜[28]のいずれかに記載の方法。
[30] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[25]〜[29]のいずれかに記載の方法。
[31] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[25]〜[30]のいずれかに記載の方法。
[32] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[25]〜[30]のいずれかに記載の方法。
[33] 組成物が飲食品組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。
[34] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[33]に記載の方法。
[35] 組成物が医薬組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。
[36] 組成物が飼料組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上に詳細に説明したとおり、本発明の組成物は、脂肪蓄積抑制に有効であり、肥満の予防又は改善のために、また、脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のために使用することができる。本発明の組成物は、肥満、脂肪肝又は肝機能不全の予防もしくは改善のための飲食品、医薬品、飼料として使用することができる。そして、本発明の組成物は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とするため、安全性が高く、長期適用が可能であり、また、安価に大量供給が可能であり、その有用性及び実用性は極めて高い。
【要約】
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分として含有する組成物は、脂肪蓄積抑制に有効であり、肥満、脂肪肝又は肝機能不全の予防もしくは改善のための飲食品、医薬品、飼料として使用することができる。
図1
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