【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0030】
実施例1
乳酸菌の分離及び同定
1. 乳酸菌サンプルの分離
イチジク(品種「とよみつ姫」)の葉、茎、および果実を選択し、殺菌済みピンセットとハサミを用いて2〜3 mmに細断片化した後、滅菌済のMRS液体培地入りの試験管に5〜6個ずつの細片を入れ、28℃および37℃にて、乳酸菌の標準培地であるMRS培地が濁る (増殖する) まで静置培養した。ちなみに、乳酸菌候補株の増殖が目視できるまでに2〜4日間を要した。
上記乳酸菌候補株の各培養液の一部をMRS寒天培地上にディスポーザブルループで線画塗菌後、静置培養を行った。寒天培地上に形成されたコロニーのうち、「色、つや、形状の異なるもの」を全てピックアップし、フレッシュなMRS寒天培地上に線画塗菌を行い、コロニーを純化した。
純化された各コロニーに対し、カタラーゼ酵素の産生の有無を検証するため、H
2O
2テストを行った。これは、10%のH
2O
2溶液に菌体を曝した際に起こる、カタラーゼが存在すれば生成する酸素の発生の有無を観察する試験法である。ちなみに、乳酸菌はカタラーゼを産生しない。
イチジクからの探索分離を試みた結果、イチジクの葉を分離源としたものから、カタラーゼ陰性を示す乳酸菌候補株を1株得ることができた。
【0031】
2. 分離株の同定
上記乳酸菌候補株をMRS液体培地で改めて培養し、遠心により菌体を取得した。細胞壁溶解酵素で処理した後, DNAzol試薬を使用し、ゲノムDNAを抽出した。
Lane, D. J. (1991). 16S/23S rRNA sequencing. In Nucleic Acid Techniques in Bacterial Systematics、pp.115-175. Edited by E. Stackebrandt & M. Goodfellow. Chichester : Wileyに記載された方法に従って、ゲノムDNAを鋳型として、27fプライマーおよび1525rプライマーを用いたPCR反応により16S rDNA部分を増幅させ、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up kit(マッハライ・ナーゲル社製)により、アガロースゲルより目的断片を回収した。塩基配列決定のためのダイターミネーター法によるシークエンス反応は, Big Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit ver.3.1(ThermoFisher Scientific社製)にて行い、ABI PRISM 3130xl Genetic Analyzer(ThermoFisher Scientific社製)にて解析した。解析した16S rDNAの塩基配列に対してBLAST programによる相同性検索を行い、DNA data bank(DDBJ/EMBL/GenBank)のデータベースと比較することで、分離株の分類学的同定を行った。
【0032】
イチジクの葉より分離された乳酸菌候補株を、IJH-SONE68株と命名し、DNA data bank(DDBJ/EMBL/GenBank)に既に登録されている「Lactobacillus paracasei R094」の菌株で塩基配列のaccession番号が「NR_025880」である塩基配列と100%一致したため、Lactobacillus paracaseiと同定した。
この菌株は、2016年4月19日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物センター(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号NITE P-02242として国際寄託され、その後にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、2017年5月26日にNITE BP-02242として国際寄託の受託番号が付与されている。
【0033】
3.分離同定された乳酸菌の菌学的性質
分離同定された上記乳酸菌IJH-SONE68株は、
図1の写真に示すように, カタラーゼ陰性のグラム陽性桿菌で、かつ、白色コロニー形成性を有し、条件的ヘテロ乳酸発酵の特性を有するとともに、多糖体を産生する能力を有していた。
【0034】
4.分離同定された乳酸菌の糖類の資化能力
(1)資化能力の試験方法
IJH-SONE68株の49種類の糖類に対する資化能力について以下の試験方法により調べた。
IJH-SONE68株をMRS液体培地で増殖の定常期まで静置培養した。遠心して得られた菌体を適量のsuspension medium (ビオメリュー社製) で洗浄した後、最終的に2 mLのsuspension mediumに懸濁した。この一部を、5 mLのsuspension mediumに加えてマクファーランド濁度が2になる量 (n) を求めた。続いて、API 50 CHL培地 (ビオメリュー社製) に2nの菌液を添加し、これをAPI 50 CHLキット (ビオメリュー社製、各ウェルの底にはそれぞれ49種類の糖が塗り付けられている) の各ウェルへ分注した。最後にミネラルオイルを重層し、滅菌水を入れたトレイにセットした。37℃で48時間培養した後に、各ウェルにおける色調の変化を観察することで、資化能の有無の判定を行った。
【0035】
5.資化能力の試験結果
IJH-SONE68株の49種類の糖類に対する資化能力を調べた結果は、表1に示したとおりである。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2
1. IJH-SONE68株が産生する多糖体の分離精製
IJH-SONE68株が産生する多糖類を以下の方法で分離精製した。
IJH-SONE68株をMRS液体培地で増殖の定常期まで静置培養した。この培養液5 mLを種培養液とし、5 Lの多糖類産生用半合成培地 (その組成は後述する) に植菌した後、37℃で120時間静置培養した。培養液を4℃に冷却した後、培養液上清中に含まれるタンパク質を変性させて、後のステップで沈殿として除去するために、202.5 mLの100%トリクロロ酢酸水溶液を加え、混和した後に30分間静置した。遠心によって沈殿を取り除き、回収した上清に等量のアセトンを加えて混和した後、4℃で一晩静置させることによって、IJH-SONE68株が産生する多糖体を沈殿させた。沈殿物を遠心によって回収した後、250 mLの70%エタノールで沈殿物の洗浄を行った。沈殿物を風乾させた後、75 mLの50 mM Tris−HCl buffer (pH 8.0) を加えて1時間混和することで、沈殿物を溶解させた。遠心によって不溶性の夾雑物を取り除いた後、回収した上清に対し、それぞれ750 μLの1 mg/mL DNase溶液 (Worthington社) および1 mg/mL RNase溶液 (ナカライテスク社) を加え、37℃で8時間反応させた。続いて750 μLの2 mg/mL proteinase K溶液 (和光純薬工業社製) を加え、37℃で16時間反応させた。反応後の溶液を4℃に冷却した後、添加した各酵素を変性させ、次の遠心で沈殿として除去するために、8.75 mLの100%トリクロロ酢酸水溶液を加えて混和し、4℃で1時間静置した。遠心によって沈殿物を取り除き、得られた上清に対し262.5 mLの100%エタノールを加え、しっかりと混和した後、遠心によってIJH-SONE68株が産生する多糖体を沈殿物として回収した。50 mLの70%エタノールで沈殿物を洗浄した後に風乾させ、適量 (約25 mL) の精製水を加えて4℃で一晩静置することで、多糖体を溶解させた。溶解後の多糖体サンプルは、10,000 MWCOの限外濾過ユニット (メルク社) を用い、溶媒を精製水に置換しながら、回収したサンプル中の単糖類などの小分子を取り除いて、精製された多糖類サンプルを得た。
【0038】
精製した多糖類サンプルを、予め50 mM Tris−HCl buffer (pH 8.0) で平衡化したTOYOPEARL DEAE−650M樹脂 (東ソ−株式会社) を充填したオープンカラム (2.5 × 22 cm) にアプライし、中性多糖画分と酸性多糖画分に分離精製するためのカラムワークを行った。溶液は同bufferを用い、流速は1 mL/minで固定した。また、溶出液は6 mLごとに異なる試験管に回収した。まず、開始から240分までの間は同bufferで溶出させた (試験管番号1-40)。次に、240分の時点から600分の時点までは、同bufferを用いた0-500 mM NaClの濃度勾配を作り、溶出を続けた (試験管番号41-100)。カラム分離スぺクトルを
図2に示す。試験管に溶出させた全てのサンプルに対し、フェノール硫酸法 (後述する) によって多糖体の存在を確認した後、該当する試験管内の溶液をそれぞれ中性多糖画分、酸性多糖画分として取りまとめた。それぞれの画分は10,000 MWCOの限外濾過ユニットを用い、溶媒を精製水に置換しながら、回収したサンプル中の単糖類などの小分子を取り除いた。
以上により、IJH-SONE68株が産生する多糖類として中性多糖画分および 酸性多糖画分が分離精製された。
【0039】
多糖類産生用半合成培地はKimmel SA、Roberts RF. Development of a growth medium suitable for exopolysaccharide production by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus RR. Int. J. Food Microbiol.、40、87-92 (1998) に記載された培地を以下のように改変した。
【0040】
多糖類産生用半合成培地 [g/L]
Glucose 20
Tween 80 1.0
Ammonium citrate 2.0
Sodium acetate 5.0
MgSO
4・7H
2O 0.1
MnSO
4・5H
2O 0.05
K
2HPO
4 2.0
Bacto casitone 10.0
Vitamine Soln. 2 mL
Trace element Soln. 1 mL
【0041】
Vitamine Soln. [g/L]
4−aminobenzoic acid 0.05
Biotin 0.001
Folic acid 0.025
Lipoic acid 0.025
Nicotinic acid 0.1
Pantothenic acid 0.05
Pyridoxamin−HCl 0.25
Vitamine B12 0.05
Pyridoxine 0.025
Riboflavin 0.05
Thiamine 0.1
【0042】
Trace element Soln.は、Kets EPW, Galinski EA, de Bont JAM. Carnitine: a novel compatible solute in Lactobacillus plantarum. Arch. Microbiol., 192, 243-248 (1994) に記載されており、その組成は以下のとおりである。
【0043】
Trace element Soln. [g/L]
25% HCl 10 mL
FeCl
2・4H
2O 1.5
CoCl
2・6H
2O 0.19
MnCl
2・4H
2O 0.1
ZnCl
2 0.07
H
3BO
3 0.006
Na
2MoO
4・2H
2O 0.036
NiCl
2・6H
2O 0.024
CuCl
2・2H
2O 0.002
【0044】
フェノ−ル硫酸法(DuBois M, Gilles KA, Hamilton JK, Rebers PA, Smith F., Colorimetric method for determination of sugars and related substances., Anal. Chem., 28, 350-356 (1956))
【0045】
30 μLの対象サンプルと等量の5 w/v %フェノール水溶液を混和した後、150 μLの濃硫酸を加えて混和させ、反応を開始させる。10分後に直ちに氷冷し、反応を停止させる。反応液の490 nmにおける吸光度を測定することで、糖類の濃度を測定した。なお、濃度の決定には、グルコースを標品として同実験を行うことで作製した検量線を用いた。
【0046】
2.菌体外中性多糖体の構造解析
上記した陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL DEAE−650M樹脂 (東ソ−株式会社))によって精製された中性多糖体を、プロトン-NMRおよびカーボン-NMRに付し、得られたそれぞれのNMRプロファイルを
図3に示した。これらのNMRプロファイルからの中性多糖体の構造解析結果を
図4に示した。
この構造解析結果から、IJH-SONE68株が産生する菌体外中性多糖体は、N−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有することが明らかになった。
【0047】
3.菌体外酸性多糖の糖組成分析
上記した陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製された酸性多糖体の糖組成分析を高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定することにより行った。
精製された酸性多糖体 (7.3 mg/mL) 10μLと水60μLを混合して7倍希釈試料溶液を調製し、試験管に調製した希釈試料溶液20μLを採取し、減圧乾固し、2 mo1/Lトリフルオロ酢酸100μLを添加して溶解し、窒素置換、減圧封管、100℃で6時間加水分解し、次いで減圧乾固した。得られた残澄に水200μLを添加して溶解し、0.22μmのフィルターでろ過して測定用試料溶液を得、測定用試料溶液を水で10倍希釈して希釈測定用試料溶液を得た。これらの測定用試料溶液および希釈測定用試料溶液50μLを分析した。分析機器として、HPLCシステム:LC-20Aシステム(株式会社島津製作所)および分光蛍光光度計M-10AxL(株式会社島津製作所)を用いた。分析条件は以下の通りであった。
カラム:TSK-gel Sugar AXG 4.6 mmI.D.×15 cm(東ソー株式会社)
カラム温度:70℃
移動相:0.5 mo1/Lホウ酸カリウム緩衝液、pH 8.7
移動相流速:0.4 mL/min
ポストカラム標識:反応試薬:l w/v %アルギニン・3 w/v% ホウ酸
反応試薬流速:0.5 mL/min
反応温度:150℃
検出波長:Ex.320 nm Em.430 nm
【0048】
菌体外酸性多糖体より調製した試料のクロマトグラムおよび各単糖類の検量線データを求め、検量線より菌体外酸性多糖の構成糖の試料中濃度を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例3
IJH-SONE68株が産生する多糖類の脂肪蓄積抑制作用
実施例2で得られたIJH-SONE68株が産生する多糖類である、中性多糖画分および酸性多糖画分を含む多糖類サンプルの脂肪蓄積抑制作用を、次に記載される方法にしたがって調べた。
【0051】
1.試験方法
試験対象として、ヒト肝癌由来細胞株であるHuH-7細胞を用いた。HuH-7細胞は、 10 v/v %FBS (fetal bovine serum)、100 U/mLペニシリンG、および100 μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM (Dulbecco's modified Eagle medium) 培地 (高グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド、ピルビン酸ナトリウム含有) で培養した。コンフルエントとなった細胞を新しいDMEM培地に懸濁させ、8×10
4 cells/wellとなるよう、細胞培養用24 wellプレートに播種した。この時の1 wellあたりの液量は500 μLとした。24時間培養後、各wellにパルミチン酸(PA):オレイン酸(OA) (PA/OA) 溶液 (=1:2、DMSOに溶解) を終濃度600 μM(PA:200 μM及びOA:400 μM)となるよう添加し、更に24時間培養することで、脂肪酸の取り込みを開始した。この時、各多糖類サンプル (終濃度4-400 μg/mL) についても同時に添加しておき、細胞への脂肪酸の取り込み抑制を評価した。
【0052】
24時間経過後、各well中の培養液をアスピレーターにより取り除き、500 μLのPBS (phosphate buffered saline) を加え、細胞とwellを洗浄した。PBSを取り除いた後、10 w/v %ホルマリン溶液250 μLを加えて10分間、細胞を固定した。続いて500 μLのPBSで2回洗浄し、PBSを取り除いた後、150 μLの発色剤溶液 (トリグリセライドE-テストワコー) を加え、37℃で30分間呈色反応を行った。反応後、各wellから100 μLの反応液を回収し、600 nmの吸光度を測定することで、細胞に取り込まれた脂肪酸の量を、細胞内トリグリセリド(中性脂肪)の量として測定・比較した。対照として、ラクトバチルス プランタルムSN35N株(受託番号NITE P-6)の産生する多糖類を用いた。
【0053】
2.試験結果
脂肪酸取り込み評価を2回(1st及び2nd)実施し、得られた結果を表3に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
また、得られた結果を
図5にも示した。表3および
図5の結果から分かるように、PA/OA溶液のみの添加により、細胞中のトリグリセリド (中性脂肪) 量は明らかに上昇していた。また、PA/OAを溶解させた溶媒であるDMSO(vehicle)のみの添加では、何も添加しない場合(NC)と同様に、変化は認められなかった。一方で、PA/OA存在下でIJH-SONE68株が産生する多糖類サンプル(EPS)(SONE68)を添加した場合には、EPSの濃度依存的に細胞内への脂肪酸取り込みが抑制され脂肪蓄積が抑制される様子が認められた。なおその抑制の度合いは、IJH-SONE68株が産生する多糖類サンプルの方が、SN35N株が産生する多糖類サンプル(EPS)(SN35N)のものよりも高かった。
以上の結果から、IJH-SONE68株が産生する多糖類が脂肪蓄積抑制作用を有することが明らかになった。
【0056】
実施例4
IJH-SONE68株の抗肥満作用および脂肪蓄積抑制作用
高脂肪食摂取肥満モデルマウスを用い、IJH-SONE68株の抗肥満活性および脂肪蓄積抑制活性について評価した。その結果、IJH-SONE68株で発酵させたパイナップル果汁発酵液を摂取させることにより、高脂肪食摂取肥満モデルマウスにおける体重増加と内臓脂肪の蓄積が有意に抑制されることが明らかとなった。
【0057】
1.試験方法
本試験ではC57BL/6Jcl (SPF) 雄性マウスを用いた。7週齢のマウスを搬入し、飼育ケージごとに5匹飼いとした。通常飼料 (MF、オリエンタル酵母社製) を用いた1週間の馴致飼育の後、5匹ずつの群 (A群〜E群) に分け、食餌を高脂肪食 (リサーチダイエット社、#D12492) に変更し、肥満の誘導を開始した。なお、飼料を給餌する際、高脂肪食は予め木槌で粉砕して粘土状とし、ガラス製の粉末用給餌器 (KN-675-4A) を用いて1回あたり120 gとなるよう詰めて与え、1週間間隔で交換した。また、投与サンプルは給餌器に詰める前に高脂肪食と均一となるように混和しておいた。全ての群において、餌、飲用水ともに自由摂取とした。投与サンプルとしては、IJH-SONE68株を100%パイナップル果汁 (1 w/v %の焼酎蒸留残渣を含む) で48時間培養して得られた発酵液を121℃、20分の条件で滅菌処理して得たIJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液およびその希釈液などを用いた。マウスA群〜F群の投与サンプルの詳細は、以下のとおりであった。
【0058】
A群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液を高脂肪食と共に摂取させた群(高脂肪食120 gに発酵パイナップル果汁原液7 mLを添加して混和したものを摂取させた群)
B群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁10倍希釈液を高脂肪食と共に摂取させた群(発酵パイナップル果汁原液を滅菌蒸留水で10倍希釈した希釈液7 mLを高脂肪食120 gに添加して混和したものを摂取させた群)
C群:IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁100倍希釈液を高脂肪食と共に摂取させた群(発酵パイナップル果汁原液を滅菌蒸留水で100倍希釈した希釈液7 mLを高脂肪食120 gに添加して混和したものを摂取させた群)
D群:発酵させていないパイナップル果汁を高脂肪食と共に摂取させた群(高脂肪食120 gに7 mLのパイナップル果汁を添加して混和したものを摂取させた群)
E群:高脂肪食のみで飼育した群 (陽性コントロール群)(高脂肪食120 gに7 mLの滅菌蒸留水を添加して混和したものを摂取させた群)
F群:通常飼料のみで飼育した群 (陰性コントロール群)
【0059】
食餌の内容を高脂肪食から上記A群〜F群の各食餌に変更後、12週間飼育を継続した。なお、飼育期間中、1週間ごとに体重を測定した。飼育期間を終了後、イソフルラン吸入麻酔にてマウスを安楽死させ、内臓脂肪を採取し、その重量を測定した。各測定データにおける有意差検定には対応のないt検定を用い、危険率 (p値) が0.05未満のときに「有意差あり」と判定した。
【0060】
2.試験結果と考察
上記A群〜F群の各群における1週間ごとの体重増加量 (飼育開始時点(0週)における体重からの増加量) の推移を表4および表5に示し(表4は体重増加量平均(g)、表5はその標準誤差(SE)を示す)、それらをグラフ化したものを
図6に示した。また、飼育最終週 (12週) における各群の体重増加量の平均値を表6に示し、それをグラフ化したものを
図7に示した。それぞれデータは平均値±標準誤差で示し、群間の有意差検定にはTukey-Kramer法を用い、危険率 (p値) が0.05未満で有意差有りと判定した (以下に記載する
図6および7中には陽性コントロール群との有意差のみについて記す)。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
表4〜6および
図6〜7から分かるように、陰性コントロール群 (F群) と比較して、陽性コントロール群 (E群) では、高脂肪食の摂取により体重が著しく増加している様子が確認された (p<0.01)。陽性コントロール群と比較して、発酵パイナップル果汁を摂取させた群のなかで、その原液および10倍希釈液を摂取させた群 (A群およびB群) では、高脂肪食の摂取による体重上昇が有意に抑制されることがわかった (ともにp<0.05)。また、100倍希釈した発酵果汁を摂取させた場合 (C群) にはその効果は減弱したものの、陽性コントロール群と比べると増加量は少なかった。一方、未発酵のパイナップル果汁を摂取させた群 (D群) では、陽性コントロール群よりも体重が増加する様子が観察されたが、有意な差は認められなかった。
【0065】
次に、飼育最終週 (12週) 時点での各群のマウスにおける内臓脂肪重量の測定結果を表7および
図8に示した。
【0066】
【表7】
【0067】
表7および
図8から分かるように、陰性コントロール群と比較して、陽性コントロール群では、高脂肪食の摂取により内臓脂肪量も著しく増加している様子が確認された (p<0.01)。また、陽性コントロール群と比較して、発酵パイナップル果汁を摂取させた群のなかで、10倍希釈液を摂取させた時 (B群) に内臓脂肪量増加の有意な抑制が認められた (p<0.01) ものの、原液の摂取 (A群) では抑制傾向に留まっていた (p<0.1)。一方で、100倍希釈した発酵果汁を摂取させた場合 (C群) にはその効果は減弱した。更に、未発酵のパイナップル果汁を摂取させた群 (D群) では、体重と同様に陽性コントロール群よりも増加する様子が観察されたが、有意な差は認められなかった。
【0068】
以上の結果から、10倍希釈したIJH-SONE68株発酵パイナップル果汁の摂取により、高脂肪食摂取で誘導される体重増加および内臓脂肪量の増加ともに有意に抑制されることが明らかになった。IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液および100倍希釈液の摂取では、その効果が減弱する様子が確認された。100倍希釈液ではマウスの機能性に関与する成分が希釈されたことに起因するものと考えられる。未発酵のパイナップル果汁を摂取させた場合には、陽性コントロール群以上に体重が増加していたことから、IJH-SONE68株発酵パイナップル果汁原液の場合はパイナップル果汁に残存する糖分に由来する可能性が考えられた。
【0069】
以上の詳細な説明から明らかなとおり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分とする脂肪蓄積抑制のための組成物。
[2] 肥満の予防又は改善のための上記[1]に記載の組成物。
[3] 脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のための上記[1]に記載の組成物。
[4] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[8] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[9] 組成物が飲食品組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[9]に記載の組成物。
[11] 組成物が医薬組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[12] 組成物が飼料組成物である上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[13] 脂肪蓄積抑制のための組成物の有効成分としてのLactobacillus paracasei IJH-SONE68株とラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類の使用。
[14] 肥満の予防又は改善のための組成物である上記[13]に記載の使用。
[15] 脂肪肝又は肝機能不全の予防又は改善のための組成物である上記[13]に記載の使用。
[16] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[13]〜[15]のいずれかに記載の使用。
[17] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[13]〜[16]のいずれかに記載の使用。
[18] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[19] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[20] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[13]〜[17]のいずれかに記載の使用。
[21] 組成物が飲食品組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[22] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[21]に記載の使用。
[23] 組成物が医薬組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[24] 組成物が飼料組成物である上記[13]〜[20]のいずれかに記載の使用。
[25] Lactobacillus paracasei IJH-SONE68株とラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌の菌体、その培養物若しくは発酵物又はそれが産生する多糖類を有効成分として含む組成物を、それを必要とする対象に適用することを含む方法であって、対象において脂肪蓄積を抑制する方法。
[26] 肥満を予防又は改善する上記[25]に記載の方法。
[27] 脂肪肝又は肝機能不全を予防又は改善する上記[25]に記載の方法。
[28] 乳酸菌がイチジク由来の乳酸菌である上記[25]〜[27]のいずれかに記載の方法。
[29] 乳酸菌がLactobacillus paracasei IJH-SONE68株(受託番号NITE BP-02242)又はそれと同等の乳酸菌である上記[25]〜[28]のいずれかに記載の方法。
[30] 培養物若しくは発酵物が、乳酸菌をパイナップル属植物の果汁の存在下で培養若しくは発酵して得られる培養物若しくは発酵物である、上記[25]〜[29]のいずれかに記載の方法。
[31] 多糖類がN−アセチルグルコサミンがα-1,6結合により連結した構造を有する中性多糖体である上記[25]〜[30]のいずれかに記載の方法。
[32] 多糖類が主としてグルコースとマンノースから構成される酸性多糖体である上記[25]〜[30]のいずれかに記載の方法。
[33] 組成物が飲食品組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。
[34] 飲食品が、飲料、機能性食品、発酵食品又はサプリメントである上記[33]に記載の方法。
[35] 組成物が医薬組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。
[36] 組成物が飼料組成物である上記[25]〜[32]のいずれかに記載の方法。