特許第6649557号(P6649557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649557
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】PCグラウト混練方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/02 20060101AFI20200210BHJP
【FI】
   B28C7/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-80413(P2015-80413)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-198939(P2016-198939A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】松家 武樹
(72)【発明者】
【氏名】田辺 重男
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朗太
(72)【発明者】
【氏名】木村 茂昭
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐介
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭47−012791(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3104913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びセメントを含むPCグラウト材料を練り混ぜる方法において、
前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する第一撹拌工程と、
前記第一撹拌工程の後に、撹拌を中止して前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ静置する静置工程と、
前記静置工程の後に、前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する第二撹拌工程と、
前記第二撹拌工程の後に、撹拌羽根の回転速度を段階的又は連続的に減速して、撹拌を停止する減速停止工程と、を備えたことを特徴とするPCグラウト混練方法。
【請求項2】
水及びセメントを含むPCグラウト材料を練り混ぜる方法において、
前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する第一撹拌工程と、
前記第一撹拌工程の後に、撹拌羽根の回転速度を段階的又は連続的に減速して、撹拌を停止する減速停止工程と、
前記減速停止工程の後に、前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ静置する静置工程と、
前記静置工程の後に、前記PCグラウト材料を、あらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する第二撹拌工程と、を備えたことを特徴とするPCグラウト混練方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水とセメントを含む材料からなるグラウト材の練混ぜ方法に関するものであり、より具体的には、セメント粒子が十分に分散するとともに、連行空気を低減することのできる練混ぜ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート(PC)は、レインフォーストコンクリート(RC)に比べ引張に強いという点が最大の特徴であり、長大橋の床版や、ロックシェッドの頂版など、大きな引張力が作用する部材に利用される。このPCは、コンクリート躯体内に配置されたPC鋼材(PC鋼より線やPC鋼棒など)を、その両端から緊張することでプレストレスを導入するものである。PCの製法としては、PC鋼材を緊張したままコンクリートの打設・養生を行うプレテンション方式と、コンクリートの打設・養生後にPC鋼材を緊張するポストテンション方式の2つの製法が知られている。
【0003】
ポストテンション方式の場合のPC鋼材は、通常、型枠内に設置されたシース(筒状の部材)内に通される。シースの内径はPC鋼材の外径よりも大きいため、PC鋼材の周囲には空隙が生じ、鋼材の防錆やコンクリートとの付着を目的として、セメント系充填材(以下、「PCグラウト材」という。)が注入される。そのためPCグラウト材は、相当の強度とともに、極めて小さい収縮性(無収縮性)と、極めて高い流動性(高流動性)が求められる。
【0004】
PCグラウト材は、水とセメント、混和剤による配合材料を、撹拌機を用い180秒間連続して練混ぜて作製するのが一般的である。ところが、この従来方法によるPCグラウト材は、配合材料が本来有するポテンシャル、特に無収縮性と高流動性を十分発揮していないことが知られていた。そこで特許文献1では、真空環境下でグラウト材を遠心分離させることによって、空気泡を除去するとともに高い流動性を備えたPCグラウト材を製造する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−240193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案される技術を用いれば、高品質なPCグラウト材が得られるものの、真空ポンプや、材料を高速回転させる回転体などを備えた練混ぜ装置が必要となり、ややコストがかかるという問題を抱えていた。
【0007】
ところで本願発明者は、セメント粒子が十分に分散しない原因が、従来手法である180秒間の連続混練であることを見出した。さらに本願発明者は、従来手法では連続180秒の練混ぜ後に撹拌機の動力を止めるわけであるが、このいわば急速停止することによって材料内に多くの空気を連行し、エントラップエア(径の大きな空気)を巻き込んでいることも突き止めた。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、高いコストのかかる装置を用いることなく、高流動性を備えるとともに含有空気量が軽減された高品質のPCグラウト材を得ることであり、具体的には、単に連続混練するだけでなく、あるいは撹拌終了時に急速停止することのない、PCグラウト混練方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、撹拌練混ぜ中にいったんPCグラウトを静置し、撹拌を終了する際には撹拌回転数を徐々に減じていく、いう点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0010】
本願発明のPCグラウト混練方法は、第一撹拌工程と、静置工程、第二撹拌工程を備えた方法である。第一撹拌工程は、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する工程であり、静置工程は、第一撹拌工程の後に撹拌を一旦中止して、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ静置する工程である。そして第二撹拌工程は、静置工程の後、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する工程である。なおここでは便宜上、練混ぜが完了した結果物を「PCグラウト材」といい、完成する前の過程物を「PCグラウト材料」ということとする。
【0011】
本願発明のPCグラウト混練方法は、撹拌工程と、減速停止工程を備えた方法とすることもできる。撹拌工程は、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する工程であり、減速停止工程は、撹拌工程の後、撹拌羽根の回転速度を段階的又は連続的に減速しながら撹拌を停止する工程である。
【0012】
本願発明のPCグラウト混練方法は、第一撹拌工程と、静置工程、第二撹拌工程、減速停止工程を備えた方法とすることもできる。第一撹拌工程は、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する工程であり、静置工程は、第一撹拌工程の後に撹拌を一旦中止して、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ静置する工程である。そして第二撹拌工程は、静置工程の後、PCグラウト材料をあらかじめ定めた時間だけ撹拌羽根で撹拌する工程であり、減速停止工程は、撹拌工程の後、撹拌羽根の回転速度を段階的又は連続的に減速しながら撹拌を停止する工程である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明のPCグラウト混練方法には、次のような効果がある。
(1)撹拌工程を第一撹拌工程と第二撹拌工程に分け、さらに2段階の撹拌工程の間に静置工程を設けることによって、セメント粒子が十分に分散し、極めて高い流動性を備えたPCグラウト材を得ることができる。
(2)撹拌を停止する際、減速停止工程を設けることによって、材料内に巻き込まれる空気(特にエントラップエア)を著しく低減することができる。
(3)従来の撹拌装置を利用することができるため、コストをかけることなく高品質のPCグラウト材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の主な工程を示すフロー図。
図2】(a)は従来における撹拌時間を示すモデル図、(b)は本願発明における撹拌時間を示すモデル図。
図3】(a)は従来手法の場合のセメント粒子の分散状態を示す説明図、(b)は本願発明の場合のセメント粒子の分散状態を示す説明図。
図4】同一のW/Cという条件下で、従来手法によるPCグラウト材の流化時間と、本願発明によるPCグラウト材の流下時間を比較したグラフ図。
図5】静置時間と、短縮される流下時間との関係を示すグラフ図。
図6】同等の流化時間という条件下で、従来手法によるPCグラウト材のW/Cと、本願発明によるPCグラウト材のW/Cを比較したグラフ図。
図7】(a)は従来の停止方法を示すモデル図、(b)は連続減速による減速停止工程を示すモデル図、(c)は段階的減速による減速停止工程を示すモデル図。
図8】同一のW/Cという条件下で、従来手法によるPCグラウト材に含まれる空気量と、本願発明によるPCグラウト材に含まれる空気量を比較したグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明のPCグラウト混練方法の実施形態の一例を、図1のフロー図にしたがって説明する。
【0016】
はじめに、所定の配合設計に基づいて、水と、セメント、混和剤を合わせてPCグラウト材料とし(Step10)、これをグラウトミキサーのタンク内に投入する(Step20)。次に、タンク内に設けられた撹拌羽根を回転させ、PCグラウト材料を練混ぜていく。ここで利用するグラウトミキサーには、周波数変換装置(インバータ)が備えられており、撹拌羽根の回転速度(単位時間当たりの回転数)は増減できるようになっている。
【0017】
本願発明は、PCグラウト材料を練混ぜる工程に大きな特徴がある。図2は、撹拌羽根による撹拌時間を示す図であり、(a)は従来の撹拌時間、(b)は本願発明の撹拌時間を示すモデル図である。この図に示すように、従来では単に180秒間連続して撹拌していたが、本願発明では、撹拌工程を第1撹拌工程と第2撹拌工程の2工程に分け、間に静置工程を設けている。
【0018】
静置工程では、撹拌羽根の回転を止めてPCグラウト材料を静止させる。本願発明者が実験を重ねたところ、この静置工程を設けることによってセメント粒子の分散が従来に比して飛躍的に向上することが分かった。図3は、セメント粒子の分散状態を示す図であり、(a)は従来の分散状態、(b)は本願発明の分散状態である。この図からも分かるように、従来手法ではセメント粒子が十分に分散せずに塊となっており、一方の本願発明では塊が見られずセメント粒子が十分に分散している。
【0019】
セメント粒子が十分に分散することによって高品質のPCグラウト材が得られ、とりわけ流動性において顕著な効果が表れる。図4は、同一のW/Cという条件下で、従来手法によるPCグラウト材の流化時間と、本願発明によるPCグラウト材の流下時間を比較したグラフ図である。なお流下時間とは、「PCグラウト&プレグラウトPC鋼材施工マニュアル」に示されるJPフローによる流下時間である。この図に示すように、本願発明によるPCグラウト材は、従来に比べ流下時間が大幅に短縮されており、すなわち高い流動性を備えていることが分かる。
【0020】
また本願発明者は、PCグラウト材料の静置時間が長いほど、その流下時間が短縮されることを確認している。図5は、静置時間と、短縮される流下時間との関係を示すグラフ図である。なお実験では、第1撹拌工程と第2撹拌工程を合わせた総撹拌時間を180秒としている。この図に示すように、静置時間が長いほどセメント粒子が十分に分散し、高い流動性を示すことが分かるが、製作するPCグラウト材のボリュームやグラウトミキサーの性能、あるいは後工程の実施内容などによって、適切な静置時間を設定するとよい。
【0021】
また図6では、異なる観点で、本願発明によるPCグラウト材の品質の高さを示している。図6は、同等の流下時間という条件下で、従来手法によるPCグラウト材のW/Cと、本願発明によるPCグラウト材のW/Cを比較したグラフ図である。この図に示すように、本願発明によるPCグラウト材は、従来に比べW/Cが大幅に軽減されており、すなわち強度、物理特性、耐久性の面で高い品質を備えていることが分かる。
【0022】
図2(b)に示すように、第1撹拌工程と、静置工程、第2撹拌工程は、その工程を行う時間をあらかじめ定めておくとよい。この図では、第1撹拌工程を120秒間、第2撹拌工程を60秒間とし、合計の撹拌時間を従来と同じ180秒としており、静置工程を300秒間としている。もちろんこの時間設定は一例であって、PCグラウト材料配合や、グラウトミキサーの性能に応じて、適宜時間設定することができる。
【0023】
第2撹拌工程が終わると、減速停止工程(Step60)に移る。図7は、減速停止工程を説明するためのモデル図であり、(a)は従来の停止方法、(b)は連続減速による減速停止工程、(c)は段階的減速による減速停止工程を示す。従来では練混ぜを終了する際、撹拌羽根の回転動力を切断(off)していたため、急速に、つまり大きな加速度を伴ってPCグラウト材料は動きを停止していた。本願発明者が実験を重ねたところ、このいわば急速停止が、材料内に空気(特にエントラップエア)を巻き込む原因であることを究明した。
【0024】
そこで本願発明では、この急速停止に代えて、徐々に撹拌羽根の回転速度を減じる減速停止工程を設けることとした。例えば、図7(b)のように30秒間かけて連続して減速する減速停止工程を設けることもできるし、図7(c)のように30秒間かけて段階的に減速する減速停止工程を設けることもできる。
【0025】
図8は、同一のW/Cという条件下で、従来手法によるPCグラウト材に含まれる空気量と、本願発明によるPCグラウト材に含まれる空気量を比較したグラフ図である。この図からも分かるように、減速停止工程を設けることによって、従来手法と比べると格段に含有空気量が軽減される。
【0026】
なおここまでは、第1撹拌工程と、静置工程、第2撹拌工程、そして減速停止工程の全てを備えた方法について説明したが、第1撹拌工程と、静置工程、第2撹拌工程は具備するが減速停止工程は省略することとしてもよいし、静置工程と第2撹拌工程を省略して、通常の撹拌工程(例えば180秒間の撹拌)の後に減速停止工程を設ける方法としてもよい。また、第1撹拌工程の終了は急速停止とすることもできるし、第1撹拌工程の後に減速停止工程を設け、続けて静置工程、第2撹拌工程を行う方法としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明のPCグラウト混練方法は、ポストテンション方式におけるグラウト工のほか、既設コンクリートに生じたクラックへの注入工や、岩盤補強や漏水対策としても利用することができる。本願発明が、収縮性と高流動性を備えたPCグラウト材を提供し、その結果、高品質のインフラストラクチャーを提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0028】
C セメント粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8