【実施例1】
【0027】
本発明の位相速度推定装置を三相の永久磁石形同期電動機(交流電動機)に適用した1実施形態例の基本構造を
図2に示す。同図では、同期電動機は、回転子位相情報を必要とするベクトル制御で駆動されるものとしている。
図2における機器は、具体的には以下の通りである。1は同期電動機(交流電動機)を、2は電流検出器を、3は電力変換器を、4a、4bは夫々3相2相変換器、2相3相変換器を、5a、5bは共にベクトル回転器を、6は電流制御器を、7はトルク指令指令値を電流指令値に変換する指令変換器を、8は速度制御器を、11は電気速度推定値を機械速度推定値に変換する速度係数変換器を、各々意味している。
図2の例では、同期電動機を速度制御することを想定しているので、トルク指令値は速度制御器の出力信号として得ている。トルク制御を行なう場合には、トルク指令値を外部から直接与えることになる。上記各種機器の働きは当業者には公知であるので、その説明を省略する。本発明と直接関係する機器は、同期電動機1に実装された多相低分解能検出器9と、本発明による位相速度推定装置を実現した位相速度推定器10である。なお、同図では、簡明のため、複数のスカラ信号を1つのベクトル信号として捉え、複数のスカラ信号線を1本の太い信号線で表現している。多相低分解能検出器の出力信号の数(換言するならば、相数)は、本発明では、2以上を条件としているので、一本のベクトル信号線として表現している。以下の図面においても、同様の描画ルールを適用する。
【0028】
図3は、
図2における位相速度推定器10の内部構成の代表的1例を示したものである。本器10は、請求項1の発明に従った、N相二相変換手段を実現したN相2相変換器10−1、基本波位相偏差抽出手段を実現した基本波位相偏差抽出器10−2、位相速度生成手段を実現した位相速度生成器10−3に加え、生成した周波数相当値(速度相当値)をフィルタ処理し、基本波位相偏差抽出器にフィードバックされる係数信号を生成するためのローパスフィルタ10−4から構成されている。
【0029】
N相2相変換器10−1は、N相信号を二相信号へ変換する役割を担う2行N列(以下、2×Nと略記)の行列SN2Tである。多相低分解能検出器信号をhNとし、N相2相変換器の出力信号である二相信号をvhとするならば(
図3参照)、N相2相変換器10−1の働きは次式で記述される。
【数1】
【0030】
多相低分解能検出器信号が二相信号の場合は、N相2相変換器10−1は、2×2単位行列となる。多相低分解能検出器信号が三相以上の多相信号の場合は、N相2相変換器10−1は、次式で与えられる。
【数2】
(2)式におけるAは、任意の定数である。
【0031】
多相低分解能検出器信号が三相信号の場合は(すなわち、N=3の場合は)、多相低分解能検出器信号hNとN相2相変換器10−1は、各々次式となる。
【数3】
【0032】
N相2相変換器の出力信号である二相信号vhの基本波成分の位相と回転子位相相当値との間の基本波位相偏差相当値の抽出を担う基本波位相偏差抽出器10−2の実現は、種々存在する。
図4は、請求項1の発明による1実施形態例である。
図4の基本波位相偏差抽出器10−2は、大きくは、ベクトル回転器10−2a、係数信号(ω2^’)に従い特性を変化させる可変特性フィルタ10−2b、逆正接器10−2cから構成されている。
【0033】
ベクトル回転器10−2aは、次式のように定義されている2x2行列である。
【数4】
ベクトル回転器Rの要素を構成する余弦・正弦値としては、位相速度生成器10−3が生成した回転子位相相当値(より具体的には、余弦・正弦形式の位相相当値)をフィードバック利用している(
図3参照)。
【0034】
ベクトル回転器10−2aの働きは、N相2相変換器10−1からの二相信号vhを、準直流信号vh
〜に再変換することである。この再変換は、次式のように記述される。
【数5】
(5)式における頭符Tは、転置を意味する。
【0035】
係数信号(ω2n^’)に従い特性を変化させる可変特性フィルタ10−2bは、再変換された準直流信号vh
〜を処理し、フィルタ処理信号vf
〜を生成する。可変特性フィルタの働きは、準直流信号vh
〜に含まれる高調波成分、高周波成分、ノイズ成分などの除去である。本働きのための可変特性フィルタとしては、通過帯域を可変とする可変ローパスフィルタ、除去帯域を可変とする可変バンドストップフィルタ、除去帯域を可変とする可変ノッチフィルタ、これら組合せによるフィルタなどが考えられる。可変特性フィルタの入出力信号の関係は、次式のように記述される。
【数6】
可変特性フィルタの入出力信号は、ともに2x1ベクトル信号であるので、可変特性フィルタは2入力2出力フィルタとなる。2入力2出力フィルタは、簡単には、1入力1出力フィルタを2個並列に配置することにより、実現される。
【0036】
準直流信号vh
〜から不要成分が除去されたフィルタ処理信号vf
〜は、基本的には、二相信号vhの基本波成分のみとなる。したがって、フィルタ処理信号を逆正接器10−2cで処理すれば、二相信号の基本波成分の位相と回転子位相相当値(θα^’)との間の基本波
【数7】
(7)式の右辺は、2x1ベクトル信号vf
〜の2要素を用いて、このベクトル信号の位相を(−π〜+π)の範囲で算定することを意味する。
【0037】
図3の実施形態例では、請求項2の発明に従い、基本波位相偏差抽出器10−2における可変特性フィルタ10−2bの特性可変のための係数信号(ω2^’)として、位相速度生成器が実時間生成した周波数相当値(ωα^)(実質的に回転子速度推定値ω2n^、
図3参照)をローパスフィルタ10−4で処理した上で、フィードバック使用している。
【0038】
度生成器10−3へ送られる。
図5は、請求項1と請求項4の発明に基づく位相速度生成器10−3の1実施形態例である。位相速度生成器10−3は、大きくは、位相制御器10−3a、位相積分器10−3b、余弦正弦発生器10−3c、ベクトル回転形位相補正器10−3d、加算形位相補正器10−3eから構成される。位相制御器10−3a、位相積分器10−3b、余弦正弦発生器10−3cがPLL処理を遂行しており、ベクトル回転形位相補正器10−3d、加算形位相補正器10−3eが位相補正処理を遂行している。
【0039】
図5の実施形態例における位相速度生成器10−3の出力信号は、回転子位相相当値、回転子速度相当値の両者としている。回転子位相相当値としては、角度自体と、この余弦正弦値の2種を出力している。余弦正弦値に関しては、回転形位相補正器10−3dによる処理前信号と処理後信号の2種を出力している。同図における信号(ωα^)は、回転子速度相当値(ω2n^)でもある周波数相当値である(
図3参照)。以下、位相速度生成器10−3を構成する各機器を詳しく説明する。
【0040】
PLL処理を担っている位相制御器10−3a、位相積分器10−3b、余弦正弦発生器10−3cを説明する。位相制御器10−3aは、微分演算子sのm次有理多項式で記述される。すなわち、次の(8)式で記述される。
【数8】
【0041】
位相制御器10−3a、位相積分器10−3bは、次式で記述されるPLL処理を遂行し、周波数相当値・回転子速度相当値(ωα^)と回転子位相相当値(θα^’)を出力している。
【数9】
(9b)式右辺の(1/s)が、位相積分器10−3bに該当している。余弦正弦発生器10−3cは、回転子位相相当値(θα^’)に対してこの余弦正弦値をとり、2x1ベクトルに変換している。
【0042】
図5の実施形態例は、請求項4の発明に従って、PLL処理後の信号に対して、位相補正処理を実施している。補正位相の原理は、次式の加算処理である。
【数10】
一般に、多相低分解能検出器の取り付け位置(電気角評価)は、基準たる固定子巻線位置(電気角評価)と必ずしも同一ではなく、位相差(位置角度差)θ0を有する。同期電動機のベクトル制御では、U相巻線の位置から評価した回転子の位相が必要である。このため、位相差に合致した位相補正処理が必要である。(10)式の関係は、数学的には次式と等価である。
【数11】
【0043】
図5のベクトル回転形位相補正器10−3dは、(11)式に基づく位相補正処理を遂行し、加算形位相補正器10−3eは、(10)式に基づく位相補正処理を遂行するものである。