(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばアダプティブクルーズコントロールにより目標車速よりも低速の先行車に自車がEVモードで追従走行している場合、その先行車が車線変更すると、追従走行を中止して目標車速まで加速する。このような状況においてEV優先モードが選択されていると、元々運転者はEVモードを可能な限り継続させたい意思があるにも拘わらず、目標車速まで加速すべく目標加速度が増加側に設定されることから、それに応じた要求トルクの達成のためにエンジンが始動されてHEVモードに切り換えられてしまう。
【0006】
以上の状況は、追従機能を加えない一般的なクルーズコントロールでも発生し、例えばEVモードでの走行中に先行車の一時的な割り込みによりブレーキが操作されると、ブレーキ解除後に一旦低下した車速を目標車速まで回復させるために目標加速度が増加側に設定される。よって、上記と同様に、EV優先モードの選択にも拘わらずHEVモードに切り換えられてしまう。
【0007】
このような運転者の意思に反したHEVモードへの切換は、EVモードによる燃費性能や環境性能を有効利用できないばかりか、意図しないHEVモードへの切換によりドライバビリティが悪い印象を運転者に与えてしまう。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、クルーズコントロールによる走行中においてハイブリッドモードに比較してモータを多用する省燃費モードを可能な限り継続でき、これにより省燃費モードによる燃費性能や環境性能を有効利用できると共に、ドライバビリティを向上することができるハイブリッド車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の走行制御装置は、車両の走行モードとして、モータ及びエンジンを運転する第1モードと
バッテリから供給される電力で前記モータを運転する第2モードとを切替制御する走行制御手段と、前記車両の目標車速を維持するクルーズコントロール中において、該目標車速を達成するための要求トルクを前記第2モードで達成可能と判断した際は前記走行制御手段に前記第2モードを選択させ、前記要求トルクを前記第2モードで達成不能と判断した際は前記走行制御手段に前記第1モードを選択させる走行モード切換手段と
、運転者の操作により、前記第2モードを実行する運転領域を拡大するように前記走行制御手段に指令する走行モード切換特性変更手段と、
前記第2モードにより前記目標車速への到達時に達成可能なトルクとして前記バッテリの上限出力に基づいて出力可能トルクを算出する出力可能トルク算出手段と、前記目標車速に到達可能な最低限のトルクとして許容下限トルクを算出する許容下限トルク算出手段と、前記第2モードによる前記クルーズコントロール中において、前記走行モード切換特性変更手段により前記第2モードの運転領域が拡大されているときに、前記要求トルクが
前記出力可能トルクより増加して前記第2モードで前記目標車速が達成不能と判断された際に、
前記出力可能トルクが前記許容下限トルクを超えていることを条件として、該要求トルクを
前記出力可能トルクまで低下方向に補正
して前記第2モードを維持する要求トルク補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
このように構成したハイブリッド車両の走行制御装置によれば、第2モードによるクルーズコントロール中において省燃費モードの運転領域が拡大されているときに、要求トルクが
出力可能トルクより増加して第2モードでは達成不能になると、
出力可能トルクが許容下限トルクを超えていることを条件として、要求トルク補正手段により要求トルクが
出力可能トルクまで低下方向に補正されることから第2モードを継続可能となる。
また、具体的に出力可能トルクと許容下限トルクとを比較し、その比較結果に基づき要求トルクを出力可能トルクまで低下させていることから、第2モードを継続しつつ確実に目標車速を達成可能となる。
その他の態様として、前記運転者の設定に関わらず前記目標車速を補正可能な目標車速補正手段をさらに備え、前記要求トルク補正手段が、前記低下方向に補正後の
出力可能トルクでは前記目標車速を達成不能と判断された際に、前記目標車速補正手段に前記目標車速を低下方向に補正させることが好ましい。
【0010】
このように構成したハイブリッド車両の走行制御装置によれば、低下方向に補正後の
出力可能トルクでは目標車速を達成不能なときに目標車速が低下方向に補正されることから、この場合でも第2モードを継続可能となる。
その他の態様として、前記運転者の設定に関わらず前記目標車速を補正可能な目標車速補正手段をさらに備え、前記要求トルク補正手段が、前記低下方向に補正後の
出力可能トルクでは前記目標車速を達成不能と判断された際に、前記運転者に対して前記第1モードへの切換許可を照会し、前記運転者により前記第1モードへの切換が許可されたときには、前記走行制御手段に前記第1モードを選択させ、前記第1モードへの切換が許可されなかったときには、前記目標車速補正手段に前記目標車速を低下方向に補正させることが好ましい。
【0011】
このように構成したハイブリッド車両の走行制御装置によれば、低下方向に補正後の
出力可能トルクでは目標車速を達成不能なときに、運転者により第1モードへの切換が許可された場合には、第1モードが選択されることから目標車速を達成可能となり、第1モードへの切換が許可されない場合には、目標車速が低下方向に補正されることから第2モードを継続可能となる。
【0013】
その他の態様として、前記運転者に対して前記目標車速への到達不能を報知する到達不能報知手段をさらに備え、前記要求トルク補正手段が、前記出力可能トルクが前記許容下限トルク以下であるときに、前記到達不能報知手段に前記目標車速への到達不能を報知させることが好ましい。
【0014】
このように構成したハイブリッド車両の走行制御装置によれば、出力可能トルクが許容下限トルク以下のときに運転者に対して目標車速への到達不能を報知させることから、運転者は目標車速を達成できない事態を容易に把握可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッド車両の走行制御装置によれば、クルーズコントロールによる走行中においてハイブリッドモードに比較してモータを多用する省燃費モードを可能な限り継続でき、これにより省燃費モードによる燃費性能や環境性能を有効利用できると共に、ドライバビリティを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明をプラグインハイブリッド車両(以下、車両1という)の走行制御装置に具体化した第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態の走行制御装置が適用されたプラグインハイブリッド車両を示す全体構成図である。
【0018】
本実施形態の車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
エンジン3の出力軸は減速機7を介して前輪4の駆動軸8と連結され、減速機7には内部の動力伝達を断接可能なクラッチ9が内蔵されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力が減速機7及び駆動軸8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時には前輪4側からエンジン3が切り離されて単独で運転可能となる。
【0019】
減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の下流側(前輪4側)にはフロントモータ2が連結され、その駆動力が減速機7から駆動軸8を経て前輪4に伝達されるようになっている。また、減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(反前輪4側)にはモータジェネレータ10が連結され、クラッチ9の切断時において、モータジェネレータ10はエンジン3の駆動により発電したり、或いはエンジン3を始動するスタータモータとして機能したりする。また、リヤモータ5は減速機11を介して後輪6の駆動軸12と連結され、その駆動力が減速機11から駆動軸12を経て後輪6に伝達されるようになっている。
【0020】
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントローラ14が接続され、このエンジンコントローラ14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御されてエンジン3が運転される。
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は三相交流電動機であり、それらの電源として走行用バッテリ15が備えられている。走行用バッテリ15はリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、その充電率(State Of Charge、以下、SOC)の算出や温度TBATの検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
【0021】
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントローラ16を介して走行用バッテリ15に接続され、フロントモータコントローラ16にはフロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。走行用バッテリ15の直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて走行用バッテリ15に充電される。
【0022】
同様に、リヤモータ5はリヤモータコントローラ17を介して走行用バッテリ15に接続され、リヤモータコントローラ17にはリヤモータ用インバータ17aが備えられている。走行用バッテリ15の直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて走行用バッテリ15に充電される。
【0023】
また、車両1には、走行用バッテリ15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
ハイブリッドコントローラ18は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントローラ18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及び減速機7のクラッチ9の断接状態等が制御される。そのために、ハイブリッドコントローラ18の入力側には、走行用バッテリ15のバッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17、エンジンコントローラ14、アクセル開度θaccを検出するアクセル開度センサ19、及び車速Vを検出する車速センサ20が接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0024】
また、ハイブリッドコントローラ18の出力側には、フロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17、減速機7のクラッチ9、及びエンジンコントローラ14が接続されている。さらに、ハイブリッドコントローラ18には、スピーカやディスプレイ及び入力スイッチ等からなるユーザーインターフェース21が接続されており、このユーザーインターフェース21により運転者への各種警告や運転者による各種入力操作が実行可能となっている。
【0025】
そして、ハイブリッドコントローラ18は、アクセル開度センサ19等の上記各種検出量及び作動情報に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える(走行制御手段)。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、走行用バッテリ15の充電率SOCや後述する
図2の運転領域に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0026】
EVモードでは、減速機7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、走行用バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。本実施形態では、このEVモードが本発明の省燃費モード(第2モード)に相当し、モータ走行により燃費性能や環境性能の向上が達成される。
シリーズモードでは、減速機7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び走行用バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させると共に、余剰電力を走行用バッテリ15に充電する。本実施形態では、このシリーズモードが本発明のハイブリッドモード(第1モード)に相当し、EVモードに比較してモータジェネレータ10の発電電力分だけモータ2,5がより大きなトルクを発生可能となる。
【0027】
パラレルモードでは、減速機7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力を減速機7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、バッテリ電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
また、ハイブリッドコントローラ18は、上記各種検出量及び作動情報に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までの減速機7のギヤ比、エンジン3から前輪4までの減速機7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントローラ16、リヤモータコントローラ17及びエンジンコントローラ14に指令信号を出力する。
【0028】
フロントモータコントローラ16及びリヤモータコントローラ17ではハイブリッドコントローラ18からの指令信号に基づき、要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御して各コイルの電流値を目標電流値に制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づきモータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御し、これにより目標電流値を達成する。
【0029】
エンジンコントローラ14ではハイブリッドコントローラ18からの指令信号に基づき、要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御により要求トルクを達成する。
一方、本実施形態の車両1は、運転者がEVモードとシリーズモードとの間の切換特性を選択できるようになっている。具体的には、通常の切換特性である通常モードに加え、通常モードに比較してEVモードの運転領域を拡大したEV優先モードを選択可能となっている(走行モード切換特性変更手段)。そのためにユーザーインターフェース21にはEV優先モード選択スイッチ21aが備えられており、EV優先モード選択スイッチ21aの非操作時には通常モードが選択され、当該スイッチ21aの操作時にはEV優先モードが選択(本発明の請求項1の「燃費優先指令の入力」に相当)されるようになっている。
【0030】
図2はEVモードとシリーズモードとの運転領域を通常モードとEV優先モードとで比較した特性図であり、縦軸を要求トルク、横軸を車速Vとし、通常モードでの走行モードの境界線を実線で、EV優先モードでの走行モードの境界線を破線で示している。相対的に要求トルク及び車速Vが低い運転領域ではEVモードが選択され、車速Vや要求トルクが増加するとシリーズモードに切り換えられるが、通常モードに対してEV優先モードでは、境界線が高トルク側及び高車速側に設定されることで、よりEVモードの運転領域が拡大されている。よって、EV優先モードでは通常モードよりもEVモードの選択頻度、ひいてはフロントモータ2やリヤモータ5の使用頻度が高められて燃費性能や環境性能の向上が達成される。
【0031】
一方、ハイブリッドコントローラ18には、アダプティブクルーズコントローラ22が接続されている。このアダプティブクルーズコントローラ22は、一般的な目標車速に基づくクルーズコントロール機能に加えて先行車への追従機能を備えたものである。
図3はハイブリッドコントローラ18とアダプティブクルーズコントローラ22との関係を示す制御ブロック図である。
【0032】
基本的な機能としてアダプティブクルーズコントローラ22は、クルーズコントロールでの目標車速の維持(先行車への追従の場合も含む)に要求される通常時要求トルクCを常に算出しており、その通常時要求トルクCを要求トルクとしてハイブリッドコントローラ18に送信する(走行モード切換手段)。
ハイブリッドコントローラ18側では、アダプティブクルーズコントローラ22から受信した要求トルクをEVモードで達成可能なときにはEVモードを選択し、EVモードでは達成不能なときにはシリーズモードやパラレルモードを選択し、選択した走行モードに応じてモータコントローラ16,17及びエンジンコントローラ14に各々への要求トルク達成の指令信号を出力し、これにより目標車速を達成する(走行モード切換手段)。
【0033】
加えて本実施形態では、ハイブリッドコントローラ18がEV優先モード選択スイッチ21aの操作状態を入力し、当該スイッチの非操作時には通常モードが選択されていると見なし、車両の走行のために利用可能(前後輪4,6に伝達可能)な上限出力として、システム全体が出力可能なシステム上限出力をアダプティブクルーズコントローラ22に送信する。
【0034】
また、ハイブリッドコントローラ18は、EV優先モード選択スイッチ21aの操作時にはEV優先モードが選択されていると見なし、上限出力としてバッテリ上限出力をアダプティブクルーズコントローラ22に送信する。バッテリ上限出力とは、走行用バッテリ15が出力し得る上限電力(その時点のSOCやバッテリ温度等で変化)の供給を受けてフロント及びリヤモータ2,5により達成可能な最大の出力を意味し、換言すれば、現在EVモードで達成可能な最大出力である。
【0035】
アダプティブクルーズコントローラ22は、受信した上限出力を現在設定されている目標車速に到達した時点で達成可能なトルクに変換する。上限出力は回転(車速V)とトルクの積であることから、同一の上限出力により達成可能なトルクは車速Vが増加するほど低下する。そして、上限出力は目標車速への到達のために使われるため、最も出力を要する目標車速への到達時に達成可能なトルクとして算出しているのである。以下、この算出したトルクを出力可能トルクAと称する(出力可能トルク算出手段)。
【0036】
これと並行してアダプティブクルーズコントローラ22は、目標車速に到達可能な最低限のトルクとして許容下限トルクBを算出する(許容下限トルク算出手段)。トルクが大であるほど迅速な加速をもって目標車速にいち早く到達し、トルクの低下に従って加速が鈍り、あるトルク以下では目標車速への到達が不可能となる。許容下限トルクBは、運転者が許容できる最低限の加速(後述する下限加速度)をもって目標車速に到達可能なトルクであり、目標車速や現在の車速V、走行抵抗等の諸条件に応じて相違することから、これらの値に基づき算出される。
【0037】
アダプティブクルーズコントローラ22は、出力可能トルクAと許容下限トルクBとの大小関係を判定する。出力可能トルクA≦許容下限トルクBのときには、最終的な要求トルクとして上記した通常時要求トルクCをハイブリッドコントローラ18に送信し、出力可能トルクA>許容下限トルクBのときには、要求トルクとして出力可能トルクAをハイブリッドコントローラ18に送信する(要求トルク補正手段)。
【0038】
次に、以上のように構成されたハイブリッドコントローラ18及びアダプティブクルーズコントローラ22により実行される処理について説明する。
図4はハイブリッドコントローラ18が実行する上限出力設定ルーチンを示すフローチャートである。
ハイブリッドコントローラ18は、まずステップS1でEV優先モードであるか否かを判定し、No(否定)のときにはステップS2で上限出力としてシステム上限出力を設定する。また、ステップS1の判定がYes(肯定)のときには、ステップS3で上限出力としてバッテリ上限出力を設定する。何れの場合も、その後にステップS4に移行して上限出力をアダプティブクルーズコントローラ22に送信してルーチンを終了する。
【0039】
図5はアダプティブクルーズコントローラ22が実行する要求トルク設定ルーチンを示すフローチャートである。
アダプティブクルーズコントローラ22は、まずステップS11でハイブリッドコントローラ18から上限出力を受信し、続くステップS12でハイブリッドコントローラ18から現在要求トルクを受信する。現在要求トルクはハイブリッドコントローラ18側で制御に適用されており、
図4での上限出力の送信処理と同様にハイブリッドコントローラ18側から送信されたものである。その後、ステップS13で現在車速Vと現在要求トルクから走行抵抗を算出し、ステップS14で目標車速と上限出力から出力可能トルクAを算出する。さらにステップS15で目標車速、運転者が許容できる下限加速度、走行抵抗から許容下限トルクBを算出する。その後、ステップS16で目標加速度、走行抵抗から通常時要求トルクCを算出し、ステップS17に移行する。
【0040】
ステップS17では出力可能トルクAが許容下限トルクBを超えているか否かを判定し、YesのときにはステップS18で要求トルクとして出力可能トルクAを設定する。また、ステップS17の判定がNoのときには、ステップS19で要求トルクとして通常時要求トルクCを設定する。その後、ステップS20で要求トルクをハイブリッドコントローラ18に送信してルーチンを終了する。
【0041】
図6はハイブリッドコントローラ18が実行する走行制御ルーチンを示すフローチャートであり、実質的に当該ルーチンによりEVモードとシリーズモードとの切換が実行される。
ハイブリッドコントローラ18は、まずステップS21でアダプティブクルーズコントローラ22から要求トルクを受信し、続くステップS22で要求トルクがバッテリ上限出力未満であるか否かを判定し、Yesのときにはそのままルーチンを終了する。また、ステップS22の判定がNoのときにはステップS23でエンジンを始動し、その後にルーチンを終了する。
【0042】
以上のハイブリッドコントローラ18及びアダプティブクルーズコントローラ22の処理により、EVモードによるクルーズコントロール中においてEV優先モードが選択されているときには、以下のように要求トルク及び走行モードが制御される。
まず、出力可能トルクA≦許容下限トルクBの場合には、そのままEVモードを継続すると目標車速を達成不能と見なせる。
図5のステップS19では、要求トルクとして通常時要求トルクCが設定され、
図6のステップS23でエンジン3が始動されてシリーズモードに切り換えられる。このときには、
図2に矢印(A≦B)で示すように運転領域はEVモードからシリーズモードに移行する。よって、EVモードを継続できないものの通常時要求トルクCは達成され、
図7のタイムチャートに示すように、車速Vが迅速に上昇して目標車速を維持することができる。
【0043】
また、出力可能トルクA>許容下限トルクBの場合には、そのままEVモードを継続しても目標車速を達成可能と見なせる。
図5のステップS18では、要求トルクとして出力可能トルクAが設定され、
図6のステップS23の処理は実行されずにEVモードが継続される。このときには、
図2に矢印(A>B)で示すように運転領域はEVモードに留まる。よって、EVモードを継続しつつ出力可能トルクAが達成され、
図8のタイムチャートに示すように、通常時要求トルクCの場合よりは加速が鈍るものの目標車速を維持することができる。
【0044】
以上のように本実施形態のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置によれば、EVモードによるクルーズコントロール中においてEV優先モードが選択されているときに、バッテリ上限出力に基づきEVモードにより目標車速への到達時に達成可能なトルクとして出力可能トルクAを算出すると共に、目標車速に到達可能な最低限のトルクとして許容下限トルクBを算出し、出力可能トルクAが許容下限トルクBを超えている場合、換言すると、緩加速ながらも目標車速を達成できる場合には、要求トルクとして出力可能トルクAを設定(本発明の請求項1の「要求トルクを低下方向に補正する」、請求項4の「要求トルクを出力可能トルクまで低下させる」に相当)することによりEVモードを継続している。
【0045】
従って、EV優先モードを選択した運転者の意思に反してシリーズモードに切り換えられる事態が防止されるため、ドライバビリティに関して良好な印象を運転者に与えることができると共に、EVモードによる燃費性能や環境性能を有効利用することができる。
また、このように具体的に出力可能トルクAと許容下限トルクBとを算出して比較し、その比較結果に基づき要求トルクとして出力可能トルクAを設定するため、EVモードを継続しつつ確実に目標車速を達成することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明を別のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置に具体化した第2実施形態を説明する。
【0046】
本実施形態と第1実施形態との相違点は、
図5に基づき説明したアダプティブクルーズコントローラ22の処理にあり、
図1に示す機械的な構成や
図4,6に示す処理内容については共通する。よって、共通箇所の説明は省略し、相違点を重点的に述べる。
図9は本実施形態のアダプティブクルーズコントローラ22が実行する要求トルク設定ルーチンを示すフローチャートである。
【0047】
本実施形態では、ステップS15までの処理は
図5の場合と同様であり、ステップS16の通常時要求トルクCの算出処理は不要であるため省略されている。ステップS17の判定がYesのときにはそのままステップS18に移行し、判定がNoのときにはステップS31で目標車速への到達不能をハイブリッドコントローラ18に送信した後にステップS18に移行する。
【0048】
図10は本実施形態のハイブリッドコントローラ18が実行する車速警告ルーチンを示すフローチャートである。
ステップS41でアダプティブクルーズコントローラ22から目標車速への到達不能を受信したか否かを判定し、Noのときにはそのままルーチンを終了する。また、ステップS41の判定がYesのときにはステップS42に移行し、ユーザーインターフェース21のスピーカやディスプレイにより目標車速への到達不能を運転者に警告し(到達不能報知手段)、その後にルーチンを終了する。
【0049】
以上のように本実施形態のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置によれば、出力可能トルクAが許容下限トルクB以下で目標車速への到達不能な場合には、その旨を運転者に対して警告するようにしたため、運転者は目標車速を達成できない事態を容易に把握することができる。
[第3実施形態]
次に、本発明を別のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置に具体化した第3実施形態を説明する。
【0050】
本実施形態と第1実施形態との相違点は、
図5に基づき説明したアダプティブクルーズコントローラ22の処理にあるため、第2実施形態と同じく相違点を重点的に述べる。
図11は本実施形態のアダプティブクルーズコントローラ22が実行する要求トルク設定ルーチンを示すフローチャートである。
本実施形態では、ステップS16の通常時要求トルクCの算出処理は不要であるため省略されており、ステップS17の判定がYesのときにはそのままステップS18に移行して要求トルクとして出力可能トルクAを設定し、続くステップS20で要求トルクを送信する。
【0051】
また、ステップS17の判定がNoのときにはステップS51に移行し、目標車速から1km/hを減算した後にステップS12に戻る。従って、ステップS15で算出される許容下限トルクBは1km/h相当分だけ低下し、ステップS17では、その許容下限トルクBが出力可能トルクAと比較される。このような処理を繰り返すことにより、
図8に二点鎖線で示すように、出力可能トルクAにより達成可能な車速Vまで目標車速が低下方向に補正される(目標車速補正手段)。そして、補正後の目標車速に基づきクルーズコントロールが実行される。
【0052】
以上のように本実施形態のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置によれば、現在の出力可能トルクAでは目標車速を達成不能なときに、出力可能トルクAにより達成可能な車速Vまで目標車速を低下方向に補正しているため、この場合でもEVモードを継続可能となる。
なお、このような場合に第2実施形態と同様に、目標車速への到達不能な旨を運転者に対して警告するようにしてもよい。
[第4実施形態]
次に、本発明を別のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置に具体化した第4実施形態を説明する。
【0053】
本実施形態と第1実施形態との相違点は、
図5に基づき説明したアダプティブクルーズコントローラ22の処理にあるため、第2,3実施形態と同じく相違点を重点的に述べる。
図12は本実施形態のアダプティブクルーズコントローラ22が実行する要求トルク設定ルーチンを示すフローチャートである。
【0054】
ステップS17の判定がYesのときにはそのままステップS18に移行して要求トルクとして出力可能トルクAを設定し、続くステップS20で要求トルクを送信する。
また、ステップS17の判定がNoのときにはステップS61に移行し、目標車速への到達不能をハイブリッドコントローラ18に送信し、続くステップS62でハイブリッドコントローラ18からエンジ始動許可フラグFを受信する。その後にステップS63でエンジ始動許可フラグFがセット(=1)されているか否かを判定し、NoのときにはステップS64で目標車速から1km/hを減算した後にステップS12に戻る(目標車速補正手段)。また、ステップS63の判定がYesのときにはステップS65で要求トルクとして通常時要求トルクCを設定してステップS20に移行する。
【0055】
図13は本実施形態のハイブリッドコントローラ18が実行するモード切換許可ルーチンを示すフローチャートである。
まず、ステップS71でアダプティブクルーズコントローラ22から目標車速への到達不能を受信したか否かを判定し、Noのときにはそのままルーチンを終了する。また、ステップS71の判定がYesのときにはステップS72に移行し、ユーザーインターフェース21のスピーカやディスプレイにより目標車速への到達不能を運転者に警告した上で(到達不能報知手段)、エンジン始動の許可を照会する(要求トルク補正手段)。
【0056】
続くステップS73では、ユーザーインターフェース21を利用して運転者によりエンジン始動の許可が入力されたか否かを判定する。ステップS73の判定がYesのときにはステップS74でエンジン始動許可フラグFをセット(=1)し、判定がNoのときにはステップS75でエンジン始動許可フラグFをリセット(=0)し、そのエンジン始動許可フラグFをステップS76でアダプティブクルーズコントローラ22に送信する。
【0057】
以上のように本実施形態のプラグインハイブリッド車両1の走行制御装置によれば、現在の出力可能トルクAでは目標車速を達成不能なときに、まず運転者にエンジン始動の許可を照会(本発明の請求項3の「ハイブリッドモード(第1モード)への切換許可を照会」に相当)し、許可された場合にはエンジン始動によりシリーズモードに切り換え、許可されない場合には出力可能トルクAにより達成可能な車速Vまで目標車速を低下方向に補正している。
【0058】
よって、運転者は目標車速を達成できない事態を容易に把握できると共に、自身の意向にあった車両1の走行状態とすることができる。具体的には、エンジン始動を許可した場合には、シリーズモードへの切換により目標車速を達成でき、エンジン始動を許可しなかった場合には、目標車速が低下方向に補正されることによりEVモードを継続することができる。
【0059】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、プラグインハイブリッド車両1の走行制御装置に具体化したが、車両1の種別はこれに限るものではなく、走行用動力源としてエンジン3及びモータを備えたハイブリッド車両であれば任意に変更可能である。
また上記実施形態では、ハイブリッドモード(第1モード)としてエンジン3を発電に利用するシリーズモードを適用し、省燃費モード(第2モード)としてモータ2,5のみを使用するEVモードを適用したが、これに限るものではない。例えばハイブリッドモードとしてモータ2,5と共にエンジン3により前輪4を駆動するパラレルモードを適用し、省燃費モード(第2モード)としてモータ2,5のみならずエンジン3も使用するが、パラレルモードに比較してモータ2,5を多用する走行モードを適用してもよい。