(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649627
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20200210BHJP
【FI】
B32B17/10
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-229994(P2016-229994)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-87097(P2018-87097A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】塚本 創
(72)【発明者】
【氏名】是洞 喜運
(72)【発明者】
【氏名】田中 義雄
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−213524(JP,A)
【文献】
特開2016−5882(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/030141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C03C27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させることで、積層体を作製する作製工程を含んだ積層体の製造方法であって、
前記接着層として熱可塑性樹脂を用いると共に、
前記積層体に外観不良部が含まれている場合には、前記作製工程の実行後に、前記積層体の前記外観不良部が存する部位において、前記接着層を加熱して軟化させた状態で前記ガラス板を加圧することで、前記外観不良部を修正する修正工程を実行することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記外観不良部が、前記ガラス板の表面に存する凹凸部であると共に、前記修正工程では、前記凹凸部を加圧して平坦化させることを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記修正工程の実行には、前記ガラス板を加圧しながら該ガラス板を介した前記接着層の加熱が可能な加圧加熱手段を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記加圧加熱手段を、前記ガラス板の表面に沿って前記外観不良部が存する部位、及び、その周辺を移動させることを特徴とする請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記加圧加熱手段と前記ガラス板の表面との相互間に、耐熱性を備えた保護シートを介在させることを特徴とする請求項3又は4に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させた積層体を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、単体では、耐候性、耐薬品性、耐擦傷性に優れる反面、物理衝撃に対して破損しやすいという欠点を持つ。そこで、ガラス板の欠点を解消できる板体として、超薄板ガラスであるガラスフィルムのようなガラス板と、これの支持板としての樹脂板とを積層一体化させた積層体が提案されている。この積層体では、樹脂板の表面側および裏面側の各々に、接着層としての接着シートを介してガラス板を貼り合わせてある(特許文献1を参照)。
【0003】
樹脂板は、ガラス板との比較において、耐候性、耐薬品性、耐擦傷性に劣る反面、物理衝撃に対して強いという利点がある。このため、上記の積層体によれば、ガラス板と樹脂板との各々の短所を、各々の長所により補完することができる。加えて、樹脂板はガラス板よりも比重が小さいことから、上記の積層体によれば、同じ厚みのガラス板に比べて、大幅に軽量化を図ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−179548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の積層体を製造する際には、完成した積層体に外観不良部が残存しやすいという問題がある。外観不良部の具体例としては、積層体に備わったガラス板の表面に形成される凹凸部を挙げることができる。この凹凸部は、ガラス板の表面上で円形状に形成される場合もあるし、筋状に形成される場合もある。このような凹凸部は、埃等の存在により形成されやすい。
【0006】
外観不良部が積層体に存在すると、例えば、積層体の光学的な特性が損なわれたり、積層体に対して更に機能性フィルム(例えば、反射防止膜等)を貼り付ける場合に、ガラス板と機能性フィルムとの相互間に気泡が混入したりする等の不具合が発生する。そのため、積層体の製造方法について、外観不良部の残存を防止できる技術の確立が期待されていた。
【0007】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させた積層体を製造するに際し、外観不良部の残存を防止することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させることで、積層体を作製する作製工程を含んだ積層体の製造方法であって、接着層として熱可塑性樹脂を用いると共に、積層体に外観不良部が含まれている場合には、作製工程の実行後に、積層体の外観不良部が存する部位において、接着層を加熱して軟化させた状態でガラス板を加圧することで、外観不良部を修正する修正工程を実行することに特徴付けられる。
【0009】
この方法では、加熱によって軟化する熱可塑性樹脂を接着層として用いている。そして、本方法においては、積層体に外観不良部が含まれている場合に、修正工程を実行することで、積層体の外観不良部が存する部位(以下、不良部位と表記)にて、接着層を加熱して軟化させた状態でガラス板を加圧する。この修正工程の実行により、不良部位にて、ガラス板、及び、ガラス板と重なった軟化した状態にある接着層の両者を変形させることが可能となる。そして、両者の変形を利用して外観不良部を修正することができる。以上のことから、本方法によれば、ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させた積層体を製造するに際し、外観不良部の残存を防止することが可能となる。
【0010】
上記の方法において、外観不良部が、ガラス板の表面に存する凹凸部である場合には、修正工程で凹凸部を加圧して平坦化させる。
【0011】
この場合、不良部位にて、凹凸部の加圧に伴い、凹凸部および凹凸部と重なった軟化した状態にある接着層の両者を変形させることで、凹凸部を平坦化させることができる。
【0012】
上記の方法において、修正工程の実行には、ガラス板を加圧しながらガラス板を介した接着層の加熱が可能な加圧加熱手段を用いることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、不良部位にて、ガラス板の加圧と接着層の加熱とを同時に行うことが可能となるので、極めて効率的に外観不良部の修正を行うことができる。
【0014】
上記の方法において、加圧加熱手段を、ガラス板の表面に沿って外観不良部が存する部位、及び、その周辺を移動させることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、加圧加熱手段は、不良部位のみでなく、その周辺をガラス板の表面に沿って移動しながらガラス板を加圧し、接着層を加熱することになる。これにより、不良部位のみでガラス板、及び、軟化した状態にある接着層が過度に変形し、これに起因して、外観不良部の不良の程度が却って悪化してしまうような虞を的確に排除することが可能となる。
【0016】
上記の方法において、加圧加熱手段とガラス板の表面との相互間に、耐熱性を備えた保護シートを介在させることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、加圧加熱手段とガラス板の表面との衝突や摺動に起因し、ガラス板の表面に傷が生じる等の不具合の発生を確実に回避できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガラス板と支持板とを接着層を介して積層一体化させた積層体を製造するに際し、外観不良部の残存を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において、作製工程を示す縦断側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において、作製工程を示す縦断側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において、修正工程を示す縦断側面図である。
【
図4】(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において、修正工程を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る積層体の製造方法について、添付の図面を参照して説明する。なお、本実施形態の説明で参照する各図面においては、説明を簡便にするため、積層体や、積層体を構成する各要素の厚みを実際よりも誇張して図示している。
【0021】
図1及び
図2に示すように、積層体の製造方法は、支持板としての樹脂板1と、これの表裏両側にそれぞれ貼り合わせるガラス板2とを、接着層としての接着シート3を介して積層一体化させることで、積層体4を作製する作製工程を含んでいる。本方法では、
図3及び
図4に示すように、作製された積層体4に外観不良部5が含まれている場合には、積層体4の外観不良部5が存する部位にて、接着シート3を加熱して軟化させた状態でガラス板2を加圧することで、外観不良部5を修正する修正工程を実行する。
【0022】
図1に示すように、作製工程の実行には、積層体4の元となる組立体4xを表裏両側から挟む一対の当て板6と、組立体4x及び一対の当て板6を内部に収容する袋体7と、袋体7の内部の気体を吸引するポンプ8と、内部が真空状態とされた袋体7を収容するオートクレーブ(図示省略)とを用いる。
【0023】
組立体4xは、樹脂板1と二枚のガラス板2と二つの接着シート3とを、相互に積み重ねて組み立てたものである。なお、組立体4xに埃や塵芥等の異物が混入することを防止するため、組立体4xは、例えば、クリーンルーム内で組み立てる。
【0024】
樹脂板1は、例えば、ポリカーボネート、アクリル、PET、PEN等の透明な樹脂で構成される。樹脂板1の厚みは、ガラス板2よりも大きく、例えば、50μm〜30mmである。ガラス板2は、例えば、ソーダガラス、アルミノシリケートガラス、強化ガラス、ホウケイ酸ガラスにより構成することができる。また、ガラス板2は、例えば、可撓性を有する無アルカリガラスにより構成することができる。ガラス板2の厚みは、例えば、2000μm以下である。ガラス板2の厚みは、700μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。接着シート3は、エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等の熱可塑性樹脂でなる透明な接着剤で構成される。接着シート3の厚みは、例えば、100μm〜800μmである。なお、本実施形態では、接着シート3として、60℃〜85℃位の温度で軟化するものを用いている。
【0025】
当て板6は、ガラス板2よりも厚みが大きい板であり、例えば、ガラス板2と同一の組成でなるガラス板で構成される。当て板6の面積は、ガラス板2の面積と同程度(ガラス板2と同一、又は、ガラス板2よりも僅かに小さい)である。組立体4xを構成するガラス板2と当て板6との間には、例えば、テフロン(登録商標)等でなる低摩擦シート9を介在させている。低摩擦シート9の面積は、ガラス板2の面積よりも大きく、ガラス板2の周囲から食み出している。
【0026】
袋体7は、ゴム等の伸縮性を有する材質で構成されると共に、ポンプ8と接続された管10を挿入することが可能な開口部を有する。袋体7の開口部は、円環状に形成されたゴム等の固定具11によって管10に固定でき、これにより、袋体7の内部の気密性を保持することが可能である。
【0027】
作製工程を実行する際には、まず、
図1に示すように、低摩擦シート9を介して組立体4xを表裏両側から一対の当て板6で挟んだ状態で、袋体7の内部に収容する。次に、袋体7の開口部に管10を挿入し、袋体7の開口部を固定具11で管10に固定する。その後、ポンプ8を稼働させて袋体7の内部の気体を吸引し、袋体7の内部を真空状態にする。これにより、
図2に示すように、袋体7が縮んで当て板6に密着する。さらに、袋体7の縮みに伴って、当て板6が組立体4xを表裏両側から押圧(
図2に矢印Aで示すように押圧)した状態となる。
【0028】
次に、内部が真空状態とされた袋体7をオートクレーブ内に投入し、袋体7ごと組立体4xを加圧および加熱する。これに伴って、組立体4xに備わった接着シート3を軟化させる。軟化後に接着シート3が冷え固まることで、樹脂板1とガラス板2とが接着シート3を介して強固に接着し、両者が積層一体化されることで、積層体4が作製される。以上により作製工程が完了する。
【0029】
図3に示すように、修正工程の実行には、積層体4を構成するガラス板2を表面2a側から加圧(
図3に矢印Bで示すように加圧)しながら、ガラス板2を介して間接的に接着シート3の加熱が可能な加圧加熱手段12と、必要に応じて加圧加熱手段12とガラス板2の表面2aとの相互間に介在させる耐熱性を備えた保護シート13とを用いる。
【0030】
加圧加熱手段12は、自在に温度変更が可能な平坦面12aを備えた機器である。加圧加熱手段12は、保護シート13を間に挟んだ状態でガラス板2の表面2aに沿って移動(
図3に矢印Cで示すように移動)しつつ、ガラス板2を加圧および加熱する。これにより、加圧加熱手段12が通過した箇所では、加圧加熱手段12の平坦面12aからガラス板2に加えられた熱が、更にガラス板2と重なった接着シート3を加熱し、その結果、
図3にクロスハッチングを施して示すように、接着シート3に軟化した軟化部3aが生じる。また、加圧加熱手段12が通過した箇所では、加圧加熱手段12の平坦面12aからガラス板2に加えられた圧力により、ガラス板2、及び、ガラス板2に重なった接着シート3の軟化部3aが変形し、ガラス板2の表面2aが平坦となる。
【0031】
保護シート13は、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等で構成される表面が平滑なシートである。保護シート13の厚みは、例えば、50μm〜100μmである。
【0032】
修正工程は、作製工程で作製された積層体4について外観検査を行った結果、外観不良部5が発見された場合に実行する。なお、本実施形態では、
図4(a)に示すように、外観不良部5が、ガラス板2の表面2aに形成された凹部5aである場合を例に挙げる。凹部5aは、ガラス板2の表面2a上で円形状に形成される場合もあるし、筋状に形成される場合もある。
【0033】
修正工程を実行する際には、はじめに、発見された凹部5aに対してマーキングを行う。次に、凹部5aを覆うようにガラス板2の表面2a上に保護シート13を敷く。次に、保護シート13を間に挟んだ状態で、加圧加熱手段12をガラス板2の表面2aに沿って凹部5aが存する部位と、その周辺のみを移動させる。このとき、加圧加熱手段12の平坦面12aの温度は、例えば、130℃〜140℃とする。また、加圧加熱手段12がガラス板2の表面2a上を移動する速度は、30mm/s〜70mm/sとする。なお、加圧加熱手段12は、ガラス板2を平面視した場合に、円を描くように移動させる等して、ガラス板2の表面2a上で一箇所に留まらせることなく、連続的に移動させる。この結果、
図4(b)に示すように、凹部5aが加圧され、凹部5aおよび凹部5aと重なった接着シート3の軟化部3aが変形し、凹部5aが平坦化される。以上により修正工程が完了し、本実施形態に係る積層体の製造方法が終了する。
【0034】
ここで、本発明に係る積層体の製造方法は、上記の実施形態で説明した態様に限定されるものではない。例えば、修正工程は、上記の実施形態で説明した作製工程と同様の態様により実行することも可能である。すなわち、外観不良部が発見された積層体を表裏両側から一対の当て板で挟んだ状態で、積層体および一対の当て板を袋体の内部に収容し、袋体の内部の気体を吸引して真空状態とした後、袋体をオートクレーブ内に投入して積層体を加圧および加熱する態様により、修正工程を実行してもよい。この場合、修正工程では、接着シート全体を軟化させた状態でガラス板を加圧することになる。
【0035】
また、上記の実施形態では、樹脂板の表裏両側に接着シートを介してガラス板を貼り合せた積層体を対象として、外観不良部を修正しているが、樹脂板の表裏片側のみに接着シートを介してガラス板を貼り合せた積層体を対象として、外観不良部を修正してもよい。さらに、上記の実施形態では、支持板として樹脂板を用いているが、支持板は樹脂以外で構成された板であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 樹脂板
2 ガラス板
2a 表面
3 接着シート
4 積層体
5 外観不良部
5a 凹部
12 加圧加熱手段
13 保護シート