特許第6649655号(P6649655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649655
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】船舶用エンジンの潤滑化
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20200210BHJP
   C10M 143/10 20060101ALI20200210BHJP
   C10M 143/12 20060101ALI20200210BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20200210BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20200210BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200210BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20200210BHJP
【FI】
   C10M169/04
   C10M143/10
   C10M143/12
   C10N20:00 Z
   C10N20:04
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-280157(P2012-280157)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-129833(P2013-129833A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2015年12月18日
【審判番号】不服2018-2888(P2018-2888/J1)
【審判請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】11195002.8
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】ミン ドーン
(72)【発明者】
【氏名】テレンス ガーナー
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック ガーシック
【合議体】
【審判長】 川端 修
【審判官】 木村 敏康
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−534520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M169/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の50質量%以上の潤滑粘度の油と、
(A)それぞれ組成物の50質量%未満の添加剤と;
(B)0.05〜6質量%の範囲の量の、コアおよびそこから伸びる複数のポリマーアームを含むポリマーの形態の粘度調整剤と
を含む、4ストロークの船舶用エンジン潤滑油組成物であって;
ブライトストックが全く存在せず;前記4ストローク船舶用エンジン潤滑油組成物は、ASTM D2896を使用して25〜60のTBNを有し;粘度調整剤のポリマーのアームが、1種または複数の共役ジエンモノマーとビニル芳香族炭化水素モノマーの重合から誘導されるコポリマーである、イソプレン−スチレンコポリマー、ブタジエン−スチレンコポリマー、又は、イソプレン−ブタジエン−スチレンコポリマーである、組成物。
【請求項2】
組成物の50質量%以上の潤滑粘度の油と、
(A)それぞれ組成物の50質量%未満の添加剤と;
(B)0.05〜6質量%の範囲の量の、コアおよびそこから伸びる複数のポリマーアームを含むポリマーの形態の粘度調整剤と
を含む、4ストロークの船舶用エンジン潤滑油組成物であって;
ブライトストックが全く存在せず;前記4ストローク船舶用エンジン潤滑油組成物は、ASTM D2896を使用して25〜60のTBNを有し;粘度調整剤のポリマーのアームが、水素化スチレン−イソプレン−ブタジエンコポリマー、水素化イソプレン−スチレンコポリマー、または水素化ブタジエン−スチレンコポリマーを含む、成物。
【請求項3】
前記ポリマーアームが線状ジブロックコポリマーを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが、30,000〜500,000の数平均分子量を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
トランクピストンエンジン油の形態の、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の組成物をエンジンに供給することを含む、トランクピストン船舶用ディーゼルエンジンを潤滑化する方法。
【請求項7】
組成物の50質量%以上の潤滑粘度の油、および(A)それぞれ組成物の50質量%未満の添加剤を含む、4ストロークの船舶用エンジン潤滑油組成物中のブライトストックの量を削減する方法であって、ブライトストックを完全に含まないように、前記組成物に添加される前記ブライトストックの一部または全ての代わりに、(B)0.05〜6質量%の範囲の量の、コアおよびそこから伸びる複数のポリマーアームを含むポリマーの形態の粘度調整剤を添加するステップを含み、
前記4ストローク船舶用エンジン潤滑油組成物が、ASTM D2896を使用して25〜60のTBNを有し;粘度調整剤のポリマーのアームは、1種または複数の共役ジエンモノマーとビニル芳香族炭化水素モノマーの重合から誘導されるコポリマーである、イソプレン−スチレンコポリマー、ブタジエン−スチレンコポリマー、又は、イソプレン−ブタジエン−スチレンコポリマーである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストロークおよび4ストロークの船舶用ディーゼル内燃機関、即ち前者は通常クロスヘッドエンジンと呼ばれ、後者はトランクピストンエンジンと呼ばれるエンジンの、潤滑化に関する。したがって、代表的な潤滑剤は通常、船舶用ディーゼルシリンダ潤滑剤(「MDCL」)およびトランクピストンエンジン油(「TPEO」)として知られている。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッドエンジンは、高出力領域から超高出力領域を有する低速エンジンである。このエンジンは、2つの個別に潤滑化された部品:高粘性油(MDCL)による全損潤滑で潤滑化されたピストン/シリンダアセンブリ;および通常はシステム油と呼ばれる低粘性潤滑剤によって潤滑化されたクランク軸を含む。
トランクピストンエンジンは、船舶、発電、および鉄道牽引の適用分野で使用することができ、クロスヘッドエンジンよりも高速である。単一の潤滑剤(TPEO)が、クランクケースおよびシリンダの潤滑化に使用される。エンジンの全ての主要な可動部品、即ちメインエンドベアリングおよびビッグエンドベアリング、カム軸、およびバルブギアは、ポンプ式循環システムを用いて潤滑化される。シリンダライナーは、はねかけ潤滑化によって部分的に、また連接棒およびガジオンピンを介してピストンスカートの穴を通りシリンダ壁に至る道筋を見出した循環システムからの油によって部分的に、潤滑化される。
MDCLおよびTPEO中にブライトストックを含むことは、当技術分野で公知であり、このブライトストックは、高度に精製され脱蝋され、残留ストックまたはボトムから生成された、高粘度油である。ブライトストックは、一般に100℃で28〜36mm2-1の動粘度を有する真空残滓から溶媒抽出され脱アスファルト化された生成物など、例えば100℃で25超、通常は30mm2-1超の動粘度を有していてもよい。
しかし、ブライトストックは高価であり、当技術分野はそれに代わる方法について記述している。WO 99/64543は、ブライトストックなしで配合されたMDCLについて記述しており、US 2008/0287329は、ブライトストックを少ししかまたは全く含有していないTPEOについて記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 99/64543
【特許文献2】US 2008/0287329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当技術分野における課題は、ブライトストックを含まないMDCLおよびTPEOを、削減したコストで配合することである。当技術分野におけるその他の課題は、ブライトストックを含まないMDCLおよびTPEOを、削減されたコストで配合すると同時に、改善された耐摩耗特性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
MDCLおよびTPEO中に非晶質スチレン−ジエンコポリマーなどの星型ポリマーを使用することによって、上記課題を克服できることをついに見出した。
したがって本発明は、大量の潤滑粘度の油と、
(A)それぞれ少量の添加剤と;
(B)0.05〜6質量%の範囲の量の、コアおよびそこから伸びる複数のポリマーアームを含むポリマーの形態の粘度調整剤と
を含む、2ストロークまたは4ストロークの船舶用エンジン潤滑油組成物であって、ブライトストックを0.5質量%未満、好ましくは0.1質量%未満含み;好ましくはブライトストックが完全にまたは実質的に存在しない組成物を提供する。
【0006】
本発明のその他の態様は:
ブライトストックを0.5質量%未満、好ましくは0.1質量%未満含み;好ましくはブライトストックが船舶用ディーゼルシリンダ潤滑剤またはトランクピストンエンジン油中に存在せずまたは実質的に存在していない、船舶用ディーゼルシリンダ潤滑剤またはトランクピストンエンジン油の耐摩耗特性を改善するための、粘度調整剤(B)の使用;
組成物をエンジンのピストン/シリンダアセンブリに供給することを含む、クロスヘッド船舶用ディーゼルエンジンを潤滑化する方法;
組成物をエンジンに供給することを含む、トランクピストン船舶用ディーゼルエンジンを潤滑化する方法;および
大量の潤滑粘度の油、および(A)それぞれ少量の添加剤を含む、2ストロークまたは4ストロークの船舶用エンジン潤滑油組成物中の、ブライトストックの量を削減する、または削減するための方法であって;ブライトストックの一部または全てを、(B)0.05〜6質量%の範囲の量の、コアおよびそこから伸びる複数のポリマーアームを含むポリマーの形態の粘度調整剤で置き換えるステップを含む方法
を含む。
【0007】
本明細書において、以下の単語および表現は、使用される場合およびとき、下記の通り見なされる意味を有する:
「活性成分(active ingredients)」または「(a.i.)」は、希釈剤または溶媒ではない添加剤材料を指す;
「含む(comprising)」または任意の同類語は、記述される特徴、ステップ、または整数、または構成成分の存在を指定するが、1つまたは複数のその他の特徴、ステップ、整数、構成成分、またはそれらの群の存在または付加を除外するものではなく;「〜からなる(consists of)」または「本質的に〜からなる(consists essentially of)」という表現または同類語は、「含む」または同類語に包含されていてもよく、但し「本質的に〜からなる」は、それが適用される組成物の特徴に物質的に影響を及ぼさない物質を含むことを認める;
「大量」は、組成物の40または50質量%以上を意味する;
「少量」は、組成物の50質量%未満を意味する;
「TBN」は、ASTM D2896により測定したときの全アルカリ価を意味する。
さらに本明細書では、使用される場合およびとき:
「カルシウム含量」は、ASTM 4951によって測定され;
「リン含量」は、ASTM D5185によって測定され;
「硫酸灰分含量」は、ASTM D874によって測定され;
「硫黄含量」は、ASTM D2622によって測定され;
「KV100」は、100℃でASTM D445により測定された動粘度を意味する。
また、使用される様々な構成成分は、本質的ならびに最適および慣例的なものであり、配合、貯蔵、または使用の条件下で反応してもよく、本発明は、任意のそのような反応の結果として得ることが可能でありまたは得られる生成物を提供することも理解されよう。
【0008】
さらに、本明細書に記述される任意の上限および下限の量、範囲、および比は、独立して組み合わせてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に本発明の特徴について、以下により詳細に論じる。
(潤滑粘度の油)
潤滑剤組成物は、潤滑粘度の油をかなりの割合で含有する。そのような潤滑油は、軽留出鉱油から重潤滑油の粘度範囲に及んでもよい。一般に、油の粘度は、100℃で測定したときに2〜40、例えば3〜15mm2/秒に及び、粘度指数は80〜100、例えば90〜95に及ぶ。潤滑油は、組成物の60質量%超、典型的には70質量%超を構成してもよい。
天然油には、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液体石油と、パラフィン、ナフテン、および混合パラフィン−ナフテン型の、水素化精製され、溶媒処理され、または酸処理された鉱油が含まれる。石炭またはシェール由来の潤滑粘度の油も、有用な基油として機能する。
合成潤滑油には、重合および共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール)と;アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、およびそれらの誘導体、類似体および相同体などの、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油が含まれる。
【0010】
アルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマーならびに末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって修飾されたそれらの誘導体は、別の種類の公知の合成潤滑油を構成する。これらは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合によって調製されたポリオキシアルキレンポリマー、ポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、分子量が1000のメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、または分子量が1000〜1500のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル);それらのモノ−およびポリカルボン酸エステル、例えば、酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステルおよびテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルによって例示される。
別の適切な種類の合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。そのようなエステルの具体例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、ならびにセバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルとを反応させることによって形成された複合エステルが含まれる。
【0011】
合成油として有用なエステルには、C5−C12モノカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールなどのポリオールおよびポリオールエステルとから作製されたものも含まれる。
ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、またはポリアリールオキシシリコーン油、およびシリケート油などの、ケイ素をベースにした油は、別の有用な種類の合成潤滑剤を含み;そのような油には、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチル−2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(p−tert−ブチル−フェニル)シリケート、ヘキサ−(4−メチル−2−エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、およびポリ(メチルフェニル)シロキサンが含まれる。その他の合成潤滑油は、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デシルリン酸のジエチルエステル)、およびポリマーテトラヒドロフランを含む。
未精製の、精製された、および再精製された油は、本発明の潤滑剤に使用することができる。未精製の油は、さらに精製処理することなく、天然または合成の供給源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油;蒸留から直接得られた石油;またはエステル化から直接得られ、さらに処理することなく使用されるエステル油は、未精製の油である。
(船舶用ディーゼルシリンダ潤滑剤(「MDCL」))
MDCLは、濃縮物または添加剤パッケージを10〜35、好ましくは13〜30、最も好ましくは16〜24質量%用いてもよく、その残りはベースストックである。MDCLは、好ましくは、潤滑粘度の油を、MDCLの全質量に対して少なくとも50、より好ましくは少なくとも60、さらにより好ましくは少なくとも70質量%含む。好ましくは、MDCLは、40〜100、例えば50〜60の組成TB(ASTM D2896を使用)を有する。
下記の内容は、MDCL中の添加剤の典型的な割合の例として挙げることができる。
【0012】
【表1】
【0013】
(トランクピストンエンジン油)(「TPEO」)
TPEOは、濃縮物または添加剤パッケージを7〜35、好ましくは10〜28、より好ましくは12〜24質量%用いてもよく、その残りはベースストックである。好ましくは、TPEOは、25〜60、例えば25〜55の組成TBN(D2896を使用)を有する。
下記の内容は、TPEO中の添加剤の典型的な割合の例として挙げることができる。
【0014】
【表2】
【0015】
複数の添加剤を用いる場合、必ずしも必須ではないが添加剤を含む1つまたは複数の添加剤パッケージを調製することが望ましいと考えられ、その場合、いくつかの添加剤を同時に基油に添加して、潤滑油組成物を形成することができる。添加剤パッケージの、潤滑油への溶解は、溶媒によって、および穏やかな加熱を伴いながら混合することによって、容易にすることができるが、これは必ずしも必須ではない。添加剤パッケージは、典型的には、所望の濃度を得るために適正な量で添加剤を含有するように、かつ/または、添加剤パッケージが所定量のベース潤滑剤と組み合わされた場合、最終的な配合物において意図される機能を発揮するように、配合されることになる。したがって、本発明による化合物は、活性成分を含有する添加剤パッケージが形成されるように、その他の所望の添加剤と共に、少量の基油またはその他の適合性ある溶媒と混合することができる。
【0016】
添加剤構成成分の、より詳細な記述を、以下に示す。
(清浄剤)
清浄剤は、エンジン内の堆積物、例えば高温ワニスおよびラッカー堆積物の形成を削減する添加剤であり;酸中和特性を有し、微粉化固形分を懸濁液中に保つことが可能である。これは金属「石鹸」、即ち界面活性剤と呼ばれることもある酸性有機化合物の金属塩をベースにしている。
清浄剤は、長い疎水性尾部を有する極性頭部を含む。大量の金属塩基は、酸化物または水酸化物などの過剰な金属化合物と二酸化炭素などの酸性気体とを反応させることによって含まれ、その結果、金属塩基(例えば、カーボネート)ミセルの外層として中和された清浄剤を含む、過塩基性清浄剤が得られる。
清浄剤は、好ましくは、フェノール、スルホン酸、カルボン酸、サリチル酸、およびナフテン酸から選択された界面活性剤の過塩基性の油溶性または油分散性カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、またはバリウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属添加剤であり、この過塩基性は、界面活性剤の油溶性塩によって安定化される、油不溶性の金属塩、例えば炭酸塩、塩基性炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、水酸化物、またはシュウ酸塩によって提供される。油溶性界面活性剤の塩の金属は、油不溶性塩の金属と同じでも異なっていてもよい。好ましくは、金属は、油溶性塩の金属であろうと油不溶性塩の金属であろうと、カルシウムである。
【0017】
ASTM D2896により決定された清浄剤のTBNは、低くても、即ち50mg KOH/g未満であってもよく、中程度、即ち50〜150mg KOH/gであってもよく、または高くても、即ち150mg KOH/gを超えていてもよい。好ましくは、TBNは、中程度または高く、即ち50TBNよりも高い。より好ましくは、ASTM D2896により決定されたTBNは、少なくとも60であり、より好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも150、および最大500、例えば最大350mg KOH/gである。
(抗酸化剤)
トランクピストンディーゼルエンジン潤滑剤組成物は、少なくとも1種の抗酸化剤を含んでいてもよい。抗酸化剤は、アミン系またはフェノール系であってもよい。アミンの例として、ジアリールアミンなどの第二級芳香族アミン、例えば、各フェニル基が炭素原子を4〜9個有するアルキル基でアルキル置換されているジフェニルアミンを挙げることができる。抗酸化剤の例として、モノフェノールおよびビスフェノールを含めたヒンダードフェノールを挙げることができる。
好ましくは、抗酸化剤は存在する場合、潤滑剤組成物の総量に対して3質量%までの量で、組成物中に提供される。
流動点降下剤、消泡剤、金属錆止め剤、流動点降下剤、および/または解乳化剤などのその他の添加剤を、必要に応じて提供してもよい。
【0018】
本明細書で使用される「油溶性」または「油分散性」という用語は、化合物または添加剤が全ての割合で油中に可溶であり、溶解性であり、混和性であり、または懸濁可能であることを、必ずしも示さない。しかし、これらの用語は、例えば、油が用いられる環境でそれらが意図する影響を及ぼすのに十分な程度まで、油中に可溶であり、または安定に分散できることを意味するものである。さらに、その他の添加剤の追加の組込みは、必要に応じてより高いレベルの特定の添加剤の組込みも可能にする。
本発明の潤滑剤組成物は、混合の前後で化学的に同じままであってもそうでなくてもよい、定められた個々の(即ち、個別の)構成成分を含む。
添加剤を含む1つまたは複数の添加剤パッケージまたは濃縮物であって、この添加剤を、潤滑油組成物が形成されるよう潤滑粘度の油に同時に添加することができるものを調製することが望ましいと考えられるが、必ずしも必須ではない。添加剤パッケージの、潤滑油への溶解は、溶媒によって、および穏やかな加熱を伴いながら混合することによって、容易にすることができるが、これは必ずしも必須ではない。添加剤パッケージは、典型的には、所望の濃度を得るために適正な量で添加剤を含有するように、かつ/または、添加剤パッケージが所定量のベース潤滑剤と組み合わされた場合、最終的な配合物において意図される機能を発揮するように、配合されることになる。
したがって、活性成分を、添加剤パッケージに対して適切な割合、例えば2.5〜90、好ましくは5〜75、最も好ましくは8〜60質量%の添加剤の量で含有し、残りが基油である添加剤パッケージが形成されるように、その他の所望の添加剤と共に、少量の基油またはその他の適合性ある溶媒と混合することができる。
最終的な配合物は、典型的には添加剤パッケージを約5〜40質量%含有し、残りは基油であってもよい。
【0019】
(粘度調整剤)
本発明では、上述のように、粘度調整剤(B)をさらに提供する。
本発明は、コアおよびそのコアから伸びる複数のポリマーアームを含む、ポリマーを用いる。そのようなポリマーは、星の形態のポリマー(または星型もしくはラジアルポリマー)として公知である。組成物中の(B)の範囲の例には、0.1〜6、0.1〜5、0.1〜4、0.1〜3質量%、および下限の1質量%が含まれる。
粘度調整剤は、少なくとも1種の星の形態の、少なくとも部分的に水素化された、少なくとも一部が先に定義された1種または複数の共役ジエンモノマーの重合から誘導可能なポリマーを含んでいてもよい。適切には、星の形態のポリマーは、中心コアから伸びる多数のアームを含み;このアームは、先に定義された1種または複数の共役ジエンモノマーの重合から誘導され、これは先に定義されたビニル芳香族炭化水素モノマーの重合であってもよい。
【0020】
星型ポリマーのアームは、イソプレンまたは1,3−ブタジエンなどの本明細書に定義される単一の共役ジエンモノマーの重合、特にイソプレンの重合から本質的に誘導されたホモポリマーであってもよい。
あるいは、星型ポリマーのアームは、イソプレンおよび1,3−ブタジエンコポリマーなどの本明細書で定義された2種以上の共役ジエンモノマーの重合から本質的に誘導されたコポリマー、またはイソプレン−スチレンコポリマー、ブタジエン−スチレンコポリマー、もしくはイソプレン−ブタジエン−スチレンコポリマーなどの、本明細書で定義された1種または複数の共役ジエンモノマーと本明細書で定義されたビニル芳香族炭化水素モノマーとの重合から本質的に誘導されたコポリマーであってもよい。
【0021】
ポリマー組成物に関連して本明細書で使用される「本質的に誘導される」は、それが適用されるポリマーの特徴に物質的な影響を及ぼさないその他の物質を含むことを認める。好ましくは、「本質的に誘導される」は、指定されたモノマーおよびコモノマーが、コポリマーの場合にはポリマーの少なくとも90質量%、より好ましくは95質量%、さらにより好ましくは99質量%超の量で存在することを意味する。
星型ポリマーのアームは、ブロックコポリマー、好ましくは線状ブロックコポリマー、より好ましくは線状ジブロックコポリマー、例えば下記の一般式:
z−(B−A)y−Bx
(式中:
Aは、ビニル芳香族炭化水素モノマーから主に誘導されたポリマーブロックであり;
Bは、共役ジエンモノマーから主に誘導されたポリマーブロックであり;
xおよびzは、独立して、0または1に等しい数値であり;
yは、1から約15に及ぶ整数である。)
によって表されるものであってもよい。
【0022】
星型ポリマーのアームは、テーパ付き線状ブロックコポリマー、例えば下記の一般式:
A−A/B−B
(式中:
Aは、ビニル芳香族炭化水素モノマーから主に誘導されたポリマーブロックであり;
Bは、共役ジエンモノマーから主に誘導されたポリマーブロックであり;
A/Bは、ビニル芳香族炭化水素モノマーと共役ジオレフィンモノマーの両方から誘導されたテーパ付きセグメントである。)
によって表されるものであってもよい。
好ましくは、星型ポリマーのアームは、水素化イソプレン−ブタジエンコポリマー、水素化スチレン−イソプレン−ブタジエンコポリマー、水素化イソプレン−スチレンコポリマー、または水素化ブタジエン−スチレンコポリマーを含む。
最も好ましくは、星型ポリマーのアームは、本明細書に定義された線状ジブロックコポリマーを含む。好ましくは、線状ジブロックコポリマーは、本明細書に定義されたビニル芳香族炭化水素モノマーから主に誘導可能な少なくとも1つのブロックと、本明細書に定義された1種または複数の共役ジエンモノマーから主に誘導可能な少なくとも1つのブロックを含む。好ましくは、ビニル芳香族炭化水素モノマーは、スチレンを含む。好ましくは、1種または複数の共役ジエンモノマーは、イソプレン、ブタジエン、またはこれらの混合物を含む。最も好ましくは、線状ジブロックコポリマーは、少なくとも部分的に水素化される。
【0023】
好ましくは、線状ジブロックコポリマー中のビニル芳香族炭化水素モノマー(例えば、スチレン)から主に誘導可能な少なくとも1つのブロックは、線状ジブロックコポリマーの全質量に対して最大35質量%、さらにより好ましくは最大25質量%、最も好ましくは5〜25質量%の量で存在する。
好ましくは、1種または複数の共役ジエンモノマーから主に誘導可能な少なくとも1つのブロックは、線状ジブロックコポリマーの全質量に対して65質量%超、さらにより好ましくは75質量%以上、最も好ましくは75〜95質量%の量で存在する。
好ましくは、線状ジブロックコポリマーは、少なくとも1つのポリスチレンブロックと、イソプレン、ブタジエン、またはこれらの混合物から誘導されたブロックとを含む。非常に好ましい線状ジブロックコポリマーは、水素化スチレン/イソプレンジブロックコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンジブロックコポリマー、および水素化スチレン/イソプレン−ブタジエンジブロックコポリマーから選択された少なくとも1種の線状ジブロックコポリマーを含む、線状ジブロックコポリマーを含む。
好ましくは、線状ジブロックコポリマーが少なくとも1つのイソプレン−ブタジエンブロックを含む場合、このブロックは、70〜90質量%のイソプレンモノマーおよび30〜10質量%の1,3−ブタジエンモノマーから主に誘導される。
【0024】
星型ポリマーのアームは、典型的には、70〜90質量%のイソプレンモノマーおよび30〜10質量%の1,3−ブタジエンモノマーから誘導されたコポリマーを含む。より好ましくは、星型ポリマーのアームはさらに、本明細書で定義されたビニル芳香族炭化水素モノマー、特にスチレンを含む。非常に好ましいコポリマーは、イソプレンモノマー、1,3−ブタジエンモノマー、およびビニル芳香族炭化水素モノマー、特にスチレンから誘導される。ビニル芳香族炭化水素モノマーは、コポリマーの全質量に対して最大35質量%、好ましくは最大25質量%の量で存在してもよい。
好ましくは、星型ポリマーのアームは、リビングポリマーを形成するアニオン重合を介して形成される。アニオン重合は、約1.2未満の分子量分布のように、狭い分子量分布(Mw/Mn)を有するコポリマーを提供することが見出された。
周知のように、また例えば米国特許第4,116,917号に開示されるように、リビングポリマーは、アニオン開始剤としてアルカリ金属またはアルカリ金属炭化水素、例えばナトリウムナフタレンの存在下、共役ジエンモノマーの混合物のアニオン溶液重合により調製することができる。好ましい開始剤は、リチウムまたはモノリチウム炭化水素である。適切なリチウム炭化水素には、アリルリチウム、メタリルリチウムなどの不飽和化合物;フェニルリチウム、トリルリチウム、キシリルリチウム、およびナフチルリチウムなどの芳香族化合物、特にメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、アミルリチウム、ヘキシルリチウム、2−エチルヘキシルリチウム、およびn−ヘキサデシルリチウムなどのアルキルリチウムが含まれる。第二級ブチルリチウムは、好ましい開始剤である。開始剤は、追加のモノマーと一緒でもよいが、2つ以上の段階で重合混合物に添加することができる。リビングポリマーは、オレフィン不飽和である。
【0025】
リビングポリマーが形成される溶媒は、炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−エチルヘキサン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、または芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼンなどの、不活性液体溶媒である。シクロヘキサンが好ましい。炭化水素の混合物、例えば潤滑油を使用してもよい。
重合が実施される温度は、約−50℃〜約150℃、好ましくは約20℃〜約80℃など、広い範囲内で様々であってもよい。反応は、窒素などの不活性雰囲気中で適切には実施され、圧力下、例えば約0.5〜約10barの圧力下で実施されてもよい。
リビングポリマーを調製するのに使用される開始剤の濃度は、広い範囲内で様々であってもよく、リビングポリマーの所望の分子量により決定される。
【0026】
星型ポリマーを形成するには、前述のプロセスを介して形成されたリビングポリマーを、追加の反応ステップでポリアルケニルカップリング剤と反応させる。星型ポリマーを形成することが可能なポリアルケニルカップリング剤は、何年もの間公知であり、例えば米国特許第3,985,830号に記載されている。ポリアルケニルカップリング剤は、少なくとも2個の非共役アルケニル基を有する従来の化合物である。そのような基は、同じまたは異なる電子求引性部分、例えば芳香核に、通常は結合される。そのような化合物は、少なくともアルケニル基が異なるリビングポリマーと独立反応することが可能であるという性質を有し、この点に関してはブタジエン、イソプレンなどの従来の共役ジエン重合性モノマーとは異なる。純粋なまたは工業用のポリアルケニルカップリング剤を、使用してもよい。そのような化合物は、脂肪族、芳香族、または複素環式であってもよい。脂肪族化合物の例には、ポリビニルおよびポリアリルアセチレン、ジアセチレン、ホスフェート、およびホスフェート、ならびにジメタクリレート、例えばエチレンジメチルアクリレートが含まれる。適切な複素環式化合物の例には、ジビニルピリジンおよびジビニルチオフェンが含まれる。
【0027】
好ましいカップリング剤は、ポリアルケニル芳香族化合物であり、最も好ましくはポリビニル芳香族化合物である。そのような化合物の例には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アントラセン、ナフタレン、およびズレンなどの芳香族化合物であって、好ましくはそこに直接結合された少なくとも2個のアルケニル基で置換される化合物が含まれる。特定の例には、ポリビニルベンゼン、例えばジビニル、トリビニル、およびテトラビニルベンゼン;ジビニル、トリビニル、およびテトラビニルオルト−、メタ−、およびパラ−キシレン、ジビニルナフタレン、ジビニルエチルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソブテニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、およびジイソプロペニルビフェニルが含まれる。好ましい芳香族化合物は、式A−(CH=CH2x(式中、Aは、置換されていてもよい芳香核であり、xは少なくとも2の整数である。)により表されるものである。ジビニルベンゼン、特にメタ−ジビニルベンゼンは、最も好ましい芳香族化合物である。純粋なまたは工業用のジビニルベンゼン(その他のモノマー、例えばスチレンおよびエチルスチレンを含有する。)を使用してもよい。カップリング剤は、核、例えばスチレンまたはアルキルスチレンのサイズを増大させる、少量の添加されたモノマーとの混合物中で使用されてもよい。そのような場合、核は、ポリ(ジアルケニルカップリング剤/モノアルケニル芳香族化合物)核、例えばポリ(ジビニルベンゼン/モノアルケニル芳香族化合物)核と記述することができる。
【0028】
ポリアルケニルカップリング剤は、モノマーの重合が実質的に終了した後に、リビングポリマーに添加されるべきであり、即ちこの薬剤は、実質的に全てのモノマーがリビングポリマーに変換された後に初めて添加されるべきである。
添加されたポリアルケニルカップリング剤の量は、広い範囲内で様々であってもよいが、好ましくは、カップリング剤の少なくとも0.5モルが不飽和リビングポリマー1モル当たりに使用される。リビングポリマー1モル当たり、約1〜約15モル、好ましくは約1.5〜約5モルの量が好ましい。2つ以上の段階で添加することができる量は、通常、リビングポリマーの少なくとも約80質量%〜85質量%を星の形態のポリマーに変換するのに十分な量である。
カップリング反応は、リビング重合反応と同じ溶媒中で実施することができる。カップリング反応は、0℃〜150℃、好ましくは約20℃〜約120℃など、広い範囲内の温度で実施することができる。反応は、不活性雰囲気中、例えば窒素中で、約0.5bar〜約10barの圧力下で実行してもよい。
このように形成された星型ポリマーは、架橋したポリ(ポリアルケニルカップリング剤)の稠密な中心または核と、核から外向きに伸びる実質的に線状の不飽和ポリマーのいくつかのアームとによって特徴付けられる。アームの数は大きく変わってもよいが、典型的には約4〜25の間である。
【0029】
次いで、得られた星型ポリマーを、任意の適切な手段を使用して水素化することができる。水素化触媒、例えば銅またはモリブデン化合物を使用してもよい。貴金属を含有する触媒、または貴金属含有化合物を使用することもできる。好ましい水素化触媒は、周期表第VIII族の非貴金属、即ち鉄、コバルト、特にニッケル、またはこれらの非貴金属含有化合物を含有する。好ましい水素化触媒の特定の例には、珪藻土に担持されたラネーニッケルおよびニッケルが含まれる。特に適切な水素化触媒は、金属ヒドロカルビル化合物を、第VIII族金属の鉄、コバルト、またはニッケルのいずれか1種の有機化合物と反応させることによって得られたものであり、後者の化合物は、例えば英国特許第1,030,306号に記載されるように、酸素原子を介して金属原子に結合された少なくとも1種の有機化合物を含有している。アルミニウムトリアルキル(例えば、アルミニウムジエチル(Al(Et3))またはアルミニウムトリイソブチル)を、有機酸のニッケル塩(例えば、ニッケルジイソプロピルサリチレート、ニッケルナフテネート、ニッケル2−エチルヘキサノエート、ニッケルジ−tert−ブチルベンゾエート、酸触媒の存在下、分子中に炭素原子を4〜20個有するオレフィンと一酸化炭素および水との反応によって得られた飽和モノカルボン酸のニッケル塩)またはニッケルエノレートもしくはフェノレート(例えば、ニッケルアセトニルアセトネート、ブチルアセトフェノンのニッケル塩)と反応させることによって得られた水素化触媒が好ましい。適切な水素化触媒は当業者に周知となり、前述のリストは、決して余すところのないものというわけではない。
【0030】
星型ポリマーの水素化は、水素化反応中に不活性な溶媒中で、溶解して、適切に実施される。飽和炭化水素、および飽和炭化水素の混合物が適切である。有利には、水素化溶媒は、重合が実施される溶媒と同じである。適切には、当初のオレフィン不飽和の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%が水素化される。
次いで水素化星型ポリマーは、溶媒から固体の形で回収することができ、溶媒の蒸発によるなど任意の従来の手段により水素化されている。あるいは、油、例えば潤滑油を溶液に添加してもよく、溶媒は、そのように形成された混合物から除去して、濃縮物を提供する。適切な濃縮物は、水素化星型ポリマーVI向上剤を約3質量%〜約25質量%、好ましくは約5質量%〜約15質量%含有する。
【0031】
本発明の実施に際して有用な星型ポリマーは、約10,000〜700,000、好ましくは約30,000〜500,000の数平均分子量を有することができる。本明細書で使用される「数平均分子量」という用語は、水素化の後、ポリスチレン標準を用いたゲル透過クロマトグラフィ(「GPC」)により測定された、数平均質量を指す。この方法を使用して星型ポリマーの数平均分子量を決定する場合、計算された数平均分子量は、星型ポリマーの三次元構造により実際の分子量より少なくなることに留意することが重要である。
1つの好ましい実施形態では、本発明の星型ポリマーは、約75質量%〜約90質量%のイソプレンと、約10質量%〜約25質量%のブタジエンとから誘導され、ブタジエン単位の80質量%超は、組み込まれた1,4−付加生成物である。別の好ましい実施形態では、本発明の星型ポリマーは、約30〜約80質量%のブタジエンの1,2−組込み、および約20〜約70質量%のブタジエンの1,4−組込みから誘導された、非晶質ブタジエン単位を含む。別の好ましい実施形態では、星型ポリマーは、イソプレン、ブタジエン、またはこれらの混合物から誘導され、約5〜約35質量%のスチレン単位をさらに含有する。
典型的には、星型ポリマーは、約1%〜35%(30サイクル)の剪断安定性指数(SSI)を有する。35以下のSSIを有する、市販されている星型ポリマーVI向上剤の例は、Infineum USA L.P.およびInfineum UK Ltd.から入手可能なInfineum SV200(商標)である。35以下のSSIを有する、市販されている星型ポリマーVI向上剤のその他の例には、やはりInfineum USA L.P.およびInfineum UK Ltd.から入手可能なInfineum SV250(商標)、Infineum SV261(商標)、およびInfineum SV270(商標)が含まれる。
典型的には、粘度調整剤は、潤滑油組成物の質量に対して0.01〜20、好ましくは1〜15質量%の量で提供されてもよい。
【0032】
本発明の実施に際して使用される粘度調整剤の一方または両方のタイプには、VI向上剤に分散能力を与える窒素含有官能基が提供されてもよい。この産業における1つの傾向は、そのような「多官能性」VI向上剤を、分散剤の一部または全てが置き換わるように潤滑剤中に使用することであった。窒素含有官能基は、窒素またはヒドロキシル含有部分、好ましくは窒素含有部分を、VI向上剤のポリマー主鎖上にグラフト化することによって(官能化)、ポリマーVI向上剤に添加することができる。窒素含有部分をポリマー上にグラフト化するためのプロセスは、当技術分野で公知であり、例えばポリマーと窒素含有部分とを、フリーラジカル開始剤の存在下、未処理のまま、または溶媒の存在下で接触させることを含む。フリーラジカル開始剤は、過酸化水素などのフリーラジカル開始剤前駆体を剪断し(押出し機のように)または加熱することによって発生させてもよい。
窒素含有グラフト化モノマーの量は、ある程度まで、基材ポリマーの性質と、グラフト化ポリマーに必要な分散性のレベルとに依存することになる。分散性の特徴を星型および線状の両方のコポリマーに与えるには、グラフト化窒素含有モノマーの量が、グラフト化ポリマーの全質量に対して適切には約0.4〜約2.2質量%の間、好ましくは約0.5〜約1.8質量%、最も好ましくは約0.6〜約1.2質量%である。
【0033】
窒素含有モノマーをポリマー主鎖上にグラフト化するための方法と適切な窒素含有グラフトモノマーとは公知であり、例えば、米国特許第5,141,996号、WO 98/13443、WO 99/21902、米国特許第4,146,489号、米国特許第4,292,414号、および米国特許第4,506,056号に記載されている。J Polymer Science、Part A:Polymer Chemistry、Vol.26、1189〜1198(1988);J.Polymer Science、Polymer Letters、Vol.20、481〜486(1982)、およびJ.Polymer Science、Polymer Letters、Vol.21、23〜30(1983)(全て、GaylordおよびMehtaによる。)、およびDegradation and Cross−linking of Ethylene−Propylene Copolymer Rubber on Reaction with Maleic Anhydride and/or Peroxides;J.Applied Polymer Science、Vol.33、2549〜2558(1987)(Gaylord、Mehta、およびMehtaによる。)も参照されたい。
【実施例】
【0034】
本発明を、以下の例により示すが、いかなる方法によってもこれに限定しようとするものではない。
(MDCL)
一組のMDCLを配合し、そのそれぞれは、割合が同じ添加剤を20.89質量%含有しており、約70のTBNを有していた。この一組は、添加剤および基油からなる対照と;添加剤、基油、およびブライトストックからなる参照と;添加剤、基油、および粘度調整剤からなる本発明のMDCLとを含んでいた。添加剤は、当技術分野で公知でありかつMDCL特性を与えるために当技術分野で公知の割合で使用される、添加剤であった。粘度調整剤は、非晶質スチレン−ジエンコポリマーの形態の星型ポリマーであった。ブライトストックは、動粘度が100℃で>20cStのIブライトストックであった。基油は、1基油であった。
(TPEO)
一組のTPEOを配合し、そのそれぞれは、同じ割合にある同じ添加剤を16質量%含有しており、約40のTBNを有していた。この一組は、添加剤および基油からなる対照と;添加剤、基油、およびブライトストックからなる参照と;添加剤、基油、および粘度調整剤からなる本発明のTPEOとを含んでいた。添加剤は、当技術分野で公知の添加剤でありかつTPEO特性を与えるために当技術分野で公知の割合で使用される、添加剤であった。粘度調整剤、ブライトストック、および基油は、MDCLで使用された通りであった。
【0035】
(試験および結果)
上記配合物のサンプルを、下記の条件:
・120分
・1mmストローク長で20Hz往復運動
・標準的な設備製造業者により供給された鋼基材を使用した、200g荷重
を含む標準的なプロトコル上で、PCS Instrumentsの高振動数往復運動リグ(HFRR)を使用して試験した。
【0036】
各試験をさらに2回繰り返し、記録された摩耗測定値はこれらの値の平均値であった。
組成物に関するHFRRデータを、以下の表にまとめる。
【0037】
【表3】
【0038】
上述の結果は、非晶質スチレン−ジエンイソプレン星型ポリマーが、TPEO油に関し、対照および参照に比べて摩耗痕体積を有利に削減することを示す。MDCLの場合、ブライトストックを全く使用しない場合に対して星型ポリマーを含むことが、明らかに有利である。