(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺と略平行である略正方形の第一の偏光ガラス板と、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺に対して略45°の角度をなしている略正方形の第二の偏光ガラス板を含み、ファラデー回転子を挟むようにして貼り合わせて光アイソレータ用光学素子母材の作製に使用される光アイソレータ用偏光ガラス板セットであって、
第一及び第二の偏光ガラス板の何れか一方は切り欠き部が存在せず、他方の偏光ガラス板は少なくとも1つの切り欠き部を有することを特徴とする光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における偏光ガラス板本体部の面積の割合が、偏光ガラス板本体部と切り欠き部を合わせた全体の面積に対して94%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における切り欠き部と偏光ガラス板本体部の境界が、直線状又は曲線状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における切り欠き部が、偏光ガラス板の角部を頂点の一つとする三角形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における切り欠き部が、偏光ガラス板と少なくとも1辺を共有する矩形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における切り欠き部が、偏光ガラス板の隣り合う2辺と、当該2辺上にある点を結ぶ曲線とで包囲された形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板における切り欠き部が、偏光ガラス板の角部に位置するように形成されてなることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
他方の偏光ガラス板が、複数の切り欠き部を有しており、少なくとも2つの切り欠き部について、切り欠き部の形状、サイズ及び/又は切り欠き位置が互いに相違することを特徴とする請求項1〜9に記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
第一の偏光ガラス板及び/又は第二の偏光ガラス板における一方の表面に機能膜が形成されてなることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット。
請求項1〜11の何れかに記載の光アイソレータ用偏光ガラス板セット及びファラデー回転子を用意する準備工程と、ファラデー回転子を介して第一及び第二の偏光ガラス板を貼り合わせて光アイソレータ用光学素子母材を作製する貼り合わせ工程と、光アイソレータ用光学素子母材を切断して光アイソレータ用光学素子を得る切断工程とを含むことを特徴とする光アイソレータ用光学素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光アイソレータの製造に用いられる偏光ガラス板は、延伸金属粒子の配向方向が、偏光ガラス板の1辺と平行(1辺に対して0°の角度)である第一の偏光ガラス板と、1辺に対して45°の角度をなす第二の偏光ガラス板の2種がセットとして用いられる。また偏光ガラス板の入射面/出射面には、反射防止膜等の機能性膜が形成されることがある。
【0008】
ところが光アイソレータを製造する際に、偏光ガラス板の表裏、或いは第一及び第二の偏光ガラス板の識別が難しいという問題がある。偏光ガラス板を誤った向き、或いは誤った組み合わせで用いると、所望の特性を有する光アイソレータを得ることができない。それゆえ従来、光アイソレータの製造に当たっては、ロット管理等に細心の注意を払う必要がある。
【0009】
本発明の課題は、偏光ガラス板の表裏、或いは第一及び第二の偏光ガラス板の識別が容易であり、光アイソレータの製造負荷を軽減することが可能な偏光ガラス板、光アイソレータ用偏光板セット、及びこれを用いた光アイソレータ用光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の偏光ガラス板は、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる矩形の偏光ガラス板であって、少なくとも1つの切り欠き部を有することを特徴とする。ここで「切り欠き部」とは、ガラス板の一部を意図的に欠損させた部分を指す。切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き部の形成位置等は問わない。
【0011】
上記構成を利用して、第一及び第二の偏光ガラス板の何れか一方が切り欠き部を有していれば、両者の識別が容易になる。また切り欠き部の形状等を工夫することにより、表裏面を識別することが容易になる。
【0012】
偏光ガラス板は、略正方形の形状を有することが好ましい。ここで「略正方形の形状」とは、完全な正方形に限られるものではなく、製造上の制約等から、4辺の長さに多少のバラつきがあるものを含むことを意味する。具体的には、所定長さに対して4辺の長さが各々±3%以内にあるものを意味する。
【0013】
上記構成の偏光ガラス板の場合、本発明を適用することによる効果が非常に大きい。
【0014】
本発明においては、切り欠き部と偏光ガラス板本体部の境界が、直線状又は曲線状であることが好ましい。ここで「偏光ガラス板本体部」とは、偏光ガラス板の切り欠き部を除く部分を指す。また「曲線」とは、円弧状の曲線である場合に限られるものではなく、例えば放物線状の曲線や、曲率の異なる複数の円弧が連なった曲線等を含む。
【0015】
本発明においては、切り欠き部が、偏光ガラス板の角部を頂点の一つとする三角形状であることが好ましい。ここで「角部」とは、切り欠き部形成前に存在し、切り欠き部の形成によって欠損した角部を指す。
【0016】
上記構成によれば、切り欠き部を効率良く形成できる。
【0017】
本発明においては、切り欠き部が、偏光ガラス板と少なくとも1辺を共有する矩形状であることが好ましい。ここで「1辺を共有する」とは、偏光ガラス板の外延を構成する辺のうち、切り欠き部の形成によって欠損した部分が、矩形状の切り欠き部の1辺を構成することを意味する。
【0018】
光アイソレータ用光学素子母材を切断して光アイソレータ用光学素子を得る場合、光学素子母材の各辺と平行に切断して矩形の光学素子を得る。従って上記構成を採用すれば、切断によるロスを低減することが可能になる。
【0019】
本発明においては、切り欠き部が、偏光ガラス板の隣り合う2辺と、当該2辺上にある点を結ぶ曲線とで包囲された形状であることが好ましい。ここで「偏光ガラス板の隣り合う2辺と」とは、偏光ガラス板の外延を構成する辺のうち、切り欠き部の形成によって一部が欠損した隣り合う2辺を指す。
【0020】
本発明においては、切り欠き部が、偏光ガラス板の角部に位置するように形成されてなることが好ましい。「角部に位置するように形成」とは、角部を欠損させることによって切り欠き部を形成することを意味する。
【0021】
本発明においては、切り欠き部が、切り欠き部を通過する偏光ガラス板の対角線に対して、非対
称形であることが好ましい。ここで「切り欠き部を通過する対角線」とは、偏光ガラス板の対角線のうち、切り欠き部形成前に存在していた角部(切り欠き部形成により欠損した角部)の頂点を通過する対角線を意味する。「偏光ガラス板の対角線に対して、非対
称形」とは、対角線を軸としたときに、切り欠き部の形状が当該軸に対して非対
称形であることを意味する。
【0022】
上記構成によれば、偏光ガラス板の表裏面を識別することが容易になる。
【0023】
本発明においては、切り欠き部が、角部を含まない位置に形成されてなることが好ましい。「角部を含まない位置に形成」とは、近接する角部を欠損させることなく切り欠き部が形成されていることを意味する。
【0024】
上記構成によれば、偏光ガラス板の表裏面を識別することが容易になる。
【0025】
本発明においては、複数の切り欠き部を有しており、少なくとも2つの切り欠き部について、切り欠き部の形状、サイズ及び/又は切り欠き位置が互いに相違することが好ましい。「切り欠き位置」とは、近接する角部から見た切り欠き部の位置を意味する。
【0026】
上記構成によれば、偏光ガラス板の表裏面を識別することが容易になる。
【0027】
本発明においては、一方の表面に機能膜が形成されてなることが好ましい。
【0028】
上記構成の偏光ガラス板の場合、本発明を適用することによる効果が非常に大きい。
【0029】
本発明の光アイソレータ用偏光ガラス板セットは、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺と略平行である第一の偏光ガラス板と、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺に対して略45°の角度をなしている第二の偏光ガラス板とからなる光アイソレータ用偏光ガラス板セットであって、第一及び第二の偏光ガラス板の何れか一方は切り欠き部が存在せず、他方の偏光ガラス板は上記した切り欠き部を有する偏光ガラス板を含むことを特徴とする。なお本発明において「光アイソレータ用偏光ガラス板セット」とは、第一の偏光ガラス板及び第二の偏光ガラス板を含む複数の偏光ガラス板の集合体を意味する。
【0030】
上記構成によれば、第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板の識別が容易になる。また切り欠き部の形状等を工夫することにより、偏光ガラス板の表裏面を識別することも容易になる。
【0031】
本発明の光アイソレータ用偏光ガラス板セットは、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺と略平行である第一の偏光ガラス板と、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺に対して略45°の角度をなしている第二の偏光ガラス板とからなる光アイソレータ用偏光ガラス板セットであって、第一及び第二の偏光ガラス板が上記した切り欠き部を有する偏光ガラス板を含むことを特徴とする。
【0032】
上記構成によれば、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置、切り欠き部の数等を異ならせることにより、第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板の識別が容易になる。また切り欠き部の形状等を工夫することにより、第一及び第二の偏光ガラス板の両方に機能性膜が形成されている場合でも、各々の偏光ガラス板の表裏面を識別することが容易になる。
【0033】
本発明においては、第一の偏光ガラス板に形成された切り欠き部と、第二の偏光ガラス板に形成された切り欠き部とは、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置及び/又は切り欠き部の数が異なることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板の識別が容易になる。
【0035】
本発明の光アイソレータ用光学素子の製造方法は、上記した光アイソレータ用偏光ガラス板セット及びファラデー回転子を用意する準備工程と、ファラデー回転子を介して第一及び第二の偏光ガラス板を貼り合わせて光アイソレータ用光学素子母材を作製する貼り合わせ工程と、光アイソレータ用光学素子母材を切断して光アイソレータ用光学素子を得る切断工程とを含むことを特徴とする。
【0036】
上記構成によれば、偏光ガラス板の表裏、或いは第一及び第二の偏光ガラス板の識別が容易であることから、光アイソレータ用光学素子を効率良く製造することが可能になる。
【0037】
本発明においては、偏光ガラス板に形成された切り欠き部を、第一及び第二の偏光ガラス板の識別に利用することが好ましい。
【0038】
また本発明においては、偏光ガラス板に形成された切り欠き部を、偏光ガラス板の表裏の識別に利用することが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の偏光ガラス板は、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる。金属粒子の延伸方向によって、偏光ガラス板は2種類に分けることができる。つまり金属粒子の延伸方向が1辺と略平行である偏光ガラス板(第一の偏光ガラス板)と、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなり、金属粒子の延伸方向が1辺に対して略45°の角度をなしている偏光ガラス板(第二の偏光ガラス板)である。本明細書では、特に断りがない限り、単に「偏光ガラス板」と記載する場合は、第一及び第二の偏光ガラス板の両方を指す。
【0041】
本発明の偏光ガラス板は矩形状の形状を有する。特に略正方形の形状を有していることが好ましい。
【0042】
本発明の偏光ガラス板は、1つ以上の切り欠き部を有する。なお切り欠き部の形態を特徴づける非切り欠き部との境界線の形状は特に限定されるものではない。ただし切り欠き部形成の容易性から、両者の境界線は直線状又は曲線状であることが好ましい。なお曲線状の場合、加工の容易性の観点から、円弧状であることが望ましい。
【0043】
切り欠き部を設ければ、その存在の有無、切り欠き部の特徴の違い等により、第一の偏光ガラス板か第二の偏光ガラス板かを識別することが可能になる。切り欠き部の形状として、例えば(1)直角二等辺三角形、直角不等辺三角形等の三角形状、(2)正方形、長方形等の矩形状、(3)扇状等の偏光ガラス板の隣り合う2辺と、当該2辺上にある点を結ぶ曲線とで包囲された形状等が好適に例示できる。また偏光ガラス板の任意の位置にこれらの切り欠き部を形成することができる。
【0044】
切り欠き位置は、偏光ガラス板の切断時や取り扱い時の欠け防止の観点や、光アイソレータ用光学素子母材を切断分離して素子を得る際の歩留まりの観点から、偏光ガラス板の角部であることが好ましい。
図1は、1つの切り欠き部が角部に形成された偏光ガラス板1の例を示すものであり、
図1(a)は、直角二等辺三角形状の切り欠き部11を1つ有する偏光ガラス板1を、
図1(b)は、正方形状の切り欠き部12を1つ有する偏光ガラス板1を、
図1(c)は、扇状の切り欠き部13を1つ有する偏光ガラス板をそれぞれ示している。
【0045】
切り欠き部の数は1つに限られるものではなく、
図2に示すように複数の切り欠き部11、11を形成してもよい。
【0046】
本発明の偏光ガラス板は、切り欠き部の特徴を工夫することによって、偏光ガラス板の表裏を識別することが可能になる。
【0047】
1つの切り欠き部で偏光ガラス板の表裏を識別する場合には、切り欠き部の形状や切り欠き部の位置を調整すればよい。切り欠き部の形状によって表裏を識別するには、例えば切り欠き部を通過する偏光ガラス板の対角線に対して、切り欠き部の形状が非対
称形となるようにすればよい。
図3は、対角線Aに対して非対
称形である切り欠き部を1つ有する偏光ガラス板1の例を示すものであり、
図3(a)は、直角不等辺三角形状の切り欠き部14を1つ有する偏光ガラス板1を、
図3(b)は、長方形状の切り欠き部15を1つ有する偏光ガラス板1をそれぞれ示している。また切り欠き部の位置によって表裏を識別するには、例えば偏光ガラス板の角部を含まない位置に切り欠き部を形成すればよい。
図4は、長方形状の切り欠き部16が角部から離れた位置に1つ形成された偏光ガラス板1を示している。
【0048】
2つ以上の切り欠き部で偏光ガラス板の表裏を識別する場合には、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置等を互いに異ならせることによって、偏光ガラス板の表裏を識別することが可能になる。
図5は、2つの切り欠き部を有する偏光ガラス板の例を示すものであり、
図5(a)は、サイズの異なる直角二等辺三角形状の切り欠き部11、17が隣り合う2つの角部に形成された偏光ガラス板1を、
図5(b)は、正方形状の切り欠き部12と長方形状の切り欠き部15とが対向する角部に形成された偏光ガラス板1を、
図5(c)は、角部に形成された正方形状の切り欠き部12と角部を含まない位置に形成された長方形状の切り欠き部16を有する偏光ガラス板1をそれぞれ示している。
【0049】
なお1つの切り欠き部の特徴のみでガラス板の表裏が識別可能である場合でも、切り欠き部を複数設けることを排除するものではない。この場合、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置等を互いに異ならせてもよいし、異ならせなくてもよい。
【0050】
本発明の偏光ガラス板は、偏光ガラス板本体部の面積の割合が、本体部と切り欠き部を合わせた全体の面積に対して94%以上、98%以上、特に99%以上であることが好ましい。切り欠き部が形成された部分は、光アイソレータ用光学素子の作製に供することができない。それゆえ、切り欠き部を除く面積が小さいほど光アイソレータ用光学素子の製造歩留まりが低下する。よって切り欠き部を除く部分の面積は、識別に必要な範囲を残してできる限り大きくなるようにすることが望ましい。
【0051】
本発明の光アイソレータ用偏光ガラス板セットは、第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板からなる。ここで第一の偏光ガラス板及び第二の偏光ガラス板は、各々1枚ずつである場合のみならず、第一及び/又は第二の偏光ガラス板が複数枚で構成される場合も含む。
【0052】
本発明の偏光ガラス板セットにおいて、切り欠き部による第一及び第二の偏光ガラス板の識別について以下に説明する。なお切り欠き部による各偏光ガラス板の表裏の識別については既述の通りであり、ここではその説明を割愛する。
【0053】
切り欠き部によって第一及び第二の偏光ガラス板の識別するに当たっては、一方の偏光ガラス板のみに切り欠き部を形成する場合と、両方の偏光ガラス板に切り欠き部を形成する場合とがある。一方の偏光ガラス板のみに切り欠き部を形成する場合については既述の通りであり、ここではその説明を割愛する。
【0054】
第一及び第二の偏光ガラス板の両方に切り欠き部を形成する場合、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置、切り欠き部の数等が互いに異なるようにすればよい。切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置、切り欠き部の数等の何れかが異なっていれば、第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板を容易に区別できる。なおこれらの特徴を組み合わせて採用することも可能である。
【0055】
なお第一及び第二の偏光ガラス板の識別を必要としない場合、言い換えれば切り欠き以外の手段によって第一の偏光ガラス板と第二の偏光ガラス板を識別できる場合には、両者の切り欠き部の特徴が同じであってもよい。
【0056】
本発明の光アイソレータ用偏光ガラス板セットは、第一及び第二の偏光ガラス板を貼り合わせた場合に、両方の偏光ガラス板に切り欠き部が存在しない部分の面積の割合が、全体の面積に対して94%以上、98%以上、特に99%以上であることが好ましい。少なくとも一方の偏光ガラス板に切り欠き部が存在している部分は、光アイソレータ用光学素子の作製に供することができない。それゆえ、第一及び第二の偏光ガラス板の両方に切り欠き部が存在しない部分の面積が小さいほど光アイソレータ用光学素子の製造歩留まりが低下する。よって切り欠き部の存在しない部分の面積は、識別に必要な範囲を残してできる限り大きくなるようにすることが望ましい。
【0057】
本発明の光アイソレータ用光学素子母材の製造方法は、準備工程、貼り合わせ工程及び切断工程を含む。
【0058】
準備工程では、略同形状、略同サイズに加工された第一の偏光ガラス板、第二の偏光ガラス板及びファラデー回転子を準備する。第一及び/又は第二の偏光ガラス板には、切り欠き部を有するものを使用する。なお切り欠き部を有する偏光ガラス板については既述の通りであり、ここではその説明を割愛する。また偏光ガラス板を製造する方法は後述する。
【0059】
貼り合わせ工程では、
図6に示すように、ファラデー回転子2を挟むようにして第一の偏光ガラス板1a及び第二の偏光ガラス板1bを貼り合わせて、光アイソレータ用光学母材を作製する。図中、42は延伸金属粒子を示している。また切り欠き部の記載は省略している。なお光アイソレータの高性能化を図るため、複数枚のファラデー回転子と3枚以上の偏光ガラス板を交互に積層して光アイソレータ用光学母材を作製してもよい。ところでこの貼り合わせ工程では、偏光ガラス板の表裏を識別するとともに、第一及び第二の偏光ガラス板を識別して、偏光ガラス板が適正な向き及び配置となるようにファラデー回転子と貼り合わせることが極めて重要である。そこで本発明では、偏光ガラス板の切り欠き部の有無や、切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置、切り欠き部の数等を、これらの識別に利用することができる。
【0060】
切断工程では、貼り合わせ工程で得られた光アイソレータ母材を所定のサイズ(例えば0.3〜2.0mm角)に切断する。このようにして光アイソレータ用光学素子を得ることができる。
【0061】
次に、本発明で使用する偏光ガラス板の好適な製造方法を説明する。
【0062】
(ガラスプリフォーム板の準備)
まず、延伸成形母材となるガラスプリフォーム板を準備する。ガラスプリフォーム板を構成するガラスは、ハロゲン化金属粒子がガラス中で十分軟化変形する温度域(例えば480℃以上)において所定の粘度を有するものが選択される。それにより、ハロゲン化金属粒子を所望の長さに延伸することが可能となる。そのようなガラスとしては、ホウケイ酸ガラスが挙げられる。
【0063】
ガラスプリフォーム板は次のようにして製造することができる。まず、所望のガラス組成が得られるように原料を調合する。後の工程でハロゲン化金属粒子をガラスマトリクス中に析出させるため、原料としては、ハロゲン元素原料と金属元素原料を含有している。ハロゲン元素としては塩素、臭素またはヨウ素が使用可能である。ただし、ヨウ素は環境負荷が大きいため、塩素または臭素を用いることが好ましい。また、金属元素としては、所望の消光比が得られやすい観点から、銀または銅を使用することが好ましい。なお、臭化銀は融点が塩化銀より融点が低く、延伸成形工程で球状化しやすいため、金属粒子として銀を用いる場合は、ハロゲン元素としては塩素を用いることが好ましい。
【0064】
次に、原料を所定温度で均質になるまで溶融し、その後、溶融ガラスを板状に成形する。板状に成形したガラスに対し、例えば600〜700℃で加熱処理を施すことにより、ガラスマトリクス中にハロゲン化金属粒子を析出させる。なお、加熱処理時の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気でも構わない。その後、必要に応じて切断や研磨等の加工を施すことにより、所定幅を有するガラスプリフォーム板を得る。
【0065】
ガラスプリフォーム板の幅は、目的とする偏光ガラス板のサイズに応じて適宜選択される。例えば、ガラスプリフォーム板の幅は、目的とする偏光ガラス板の幅の10倍以上であることが好ましく、12倍以上であることがより好ましく、15倍以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、大きすぎると、偏光ガラス板面内における偏光軸ずれが大きくなる傾向がある。よって、ガラスプリフォーム板の幅は、目的とする偏光ガラス板の幅の50倍以下であることが好ましく、30倍以下であることがより好ましく、25倍以下であることがさらに好ましい。具体的には、ガラスプリフォーム板の幅は100〜500mmであることが好ましく、120〜300mmであることがより好ましく、150〜250mmであることがさらに好ましい。
【0066】
ガラスプリフォーム板の厚みは特に限定されないが、小さすぎると、偏光ガラス板の機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると、偏光ガラス板の厚みが大きくなって光透過率が低下しやすくなったり、デバイスが大型化する傾向がある。以上に鑑み、ガラスプリフォーム板の厚みは、目的とする偏光ガラス板の厚みの10〜50倍であることが好ましく、12〜30倍であることがより好ましく、15〜25倍であることがさらに好ましい。具体的には、ガラスプリフォーム板の厚みは0.5〜10mmであることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましい。
【0067】
(ガラスプリフォーム板の延伸成形)
ガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなるガラス部材を得る。
図7は、本実施形態におけるガラスプリフォーム板の延伸成形工程を示す模式的正面図である。ガラスプリフォーム板10は発熱体20による加熱により軟化し、引張りローラ30により延伸される。これにより、ハロゲン化金属粒子40も延伸成形方向Dの方向に延伸され、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子41が配向して分散されてなるガラス部材11を得る。
図7において、発熱体20は円柱状であり、それぞれ紙面と垂直な方向に設置されている。また、発熱体20は、ガラスプリフォーム板10の前面側及び裏面側にも複数配置されている(図示せず)。例えば、各発熱体20はやぐら状に配置することが好ましい。
【0068】
ガラスプリフォーム板10の延伸成形工程において、延伸成形中のガラスプリフォーム板10の形状は下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0069】
L/W
1≧1.2 ・・・(1)
L=ガラスプリフォーム板10の幅が、元の幅W
0の0.8倍に変形した部分aから0.2倍に変形した部分bの間(軟化変形部S)の長さ
W
1=ガラスプリフォーム板10の元の幅W
0の0.5倍の長さ
上記式(1)において、L/W
1は1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらに好ましく、2以上であることが特に好ましい。L/W
1が小さすぎると、偏光ガラス板における偏光軸ずれが大きくなる傾向がある。上限は特に限定されないが、大きすぎると、設備が大型化する傾向があるため、現実的にはL/W
1は10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0070】
軟化変形部Sの長さLの値は上記式(1)の関係を満たすように適宜選択されるが、具体的には、Lの値は60mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましく、120mm以上であることがさらに好ましく、150mm以上であることが特に好ましい。Lの値が小さすぎると、偏光ガラス板における偏光軸ずれが大きくなる傾向がある。
【0071】
最上段の発熱体20と最下段の発熱体20の延伸成形方向Dにおける中心間距離(以下、「発熱部の長さ」という)は、ガラスプリフォーム板10の幅W
0に応じて適宜調整すればよい。例えば、発熱部の長さはガラスプリフォーム板10の幅W
0の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、2.5倍以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、発熱部の長さが大きすぎる場合は、エネルギーロスにつながるため、ガラスプリフォーム板10の幅W
0の10倍以下であることが好ましく、8倍以下であることがより好ましい。具体的には、発熱部の長さは250〜1000mmであることが好ましく、300〜800mm以上であることがより好ましく、400〜800mmであることがさらに好ましい。
【0072】
ガラスプリフォーム板10の軟化変形部Sにおいて、ガラスプリフォーム板10の粘度が10
8〜10
10dPa・sとなるように加熱することが好ましく、10
8.5〜10
9.5dPa・sとなるように加熱することがより好ましい。軟化変形部Sにおけるガラスプリフォーム板10の粘度が低すぎると、ハロゲン化金属粒子40の粘度も低下して球状化してしまい、所望の長さの延伸ハロゲン化金属粒子41が得られにくくなる。一方、軟化変形部Sにおけるガラスプリフォーム板10の粘度が高すぎると、ガラスプリフォーム板10が十分に軟化変形せず、延伸成形中の形状が上記式(1)の関係を満たしにくくなる。また、場合によってはガラスプリフォーム板10が破断してしまうおそれがある。
【0073】
(ガラス部材の還元)
上記で得られたガラス部材に還元処理を施すことにより、延伸ハロゲン化金属粒子を還元して延伸金属粒子とする。還元処理は、例えば水素雰囲気中で加熱することにより行う。通常、ガラス部材101の表層(例えば、深さ10〜100μm、さらには20〜80μm)に存在する延伸ハロゲン化金属粒子のみ還元して延伸金属粒子に変化させればよい。
【0074】
偏光ガラス板の消光波長域は、延伸金属粒子の長さに応じて変化する。よって、目的とする消光波長域に応じて、延伸金属粒子の長さを適宜調整すればよい。延伸金属粒子の長さは例えば50〜300nm、さらには80〜200nmの範囲で適宜調整される。また、延伸金属粒子のアスペクト比は例えば5〜20、さらには8〜15の範囲で適宜調整される。
【0075】
還元処理を施したガラス部材に対し、切断等の加工を施すことにより所望のサイズの偏光ガラス板を得る。例えば
図8(a)に示すように、延伸成形方向Dと平行な辺を有する矩形状に切り出すことにより、第一の偏光ガラス板1aを得ることができる。また
図8(b)に示すように、延伸成形方向Dと45°の角度をなす辺を有する矩形状に切り出すことにより、第二の偏光ガラス板1bを得ることができる。なお図中、102は還元処理後のガラス部材を、42は延伸金属粒子をそれぞれ示している。
【0076】
さらに必要に応じて、切り出した偏光ガラス板の表面に誘電体多層膜等からなる反射防止膜等の機能性膜を形成してもよい。
【0077】
(偏光ガラス板)
偏光ガラス板の大きさは例えば5mm角以上であることが好ましく、10mm角以上であることがより好ましく、15mm角以上であることがさらに好ましく、20mm角以上であることが特に好ましい。既述の通り、近年では大型の偏光ガラス板及びファラデー回転子を用いて大型の光アイソレータを作製した後、0.5〜2.0mm角のチップに切断するという製造方法が採用されているため、偏光ガラス板が大きいほど、大量生産が可能となりコストダウンを図ることが可能となる。ただし、偏光ガラス板が大きすぎると、面内の偏光軸ずれが大きくなり、歩留りが低下する傾向がある。そのため、偏光ガラス板の大きさは40mm角以下であることが好ましく、30mm角以下であることがより好ましい。
【0078】
偏光ガラス板の厚みは特に限定されないが、小さすぎると、機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると、光透過率が低下しやすくなったり、デバイスが大型化する傾向がある。以上に鑑み、偏光ガラス板の厚みは0.05〜1mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがより好ましい。
【0079】
延伸成形方向Dと垂直な方向において、偏光ガラス板の幅8mmにおける延伸金属粒子の角度ばらつき(偏光軸ずれ)は0.01°/mm以内であることが好ましく、0.008°/mm以内であることがより好ましく、0.007°/mm以内であることがさらに好ましく、0.005°/mm以内であることが特に好ましい。偏光ガラス板の偏光軸ずれが大きすぎると、偏光ガラス板面内における消光比ばらつきが大きくなり、歩留りが低下する傾向がある。
【0080】
偏光ガラス板の消光比は、赤外レーザーの波長1310nm及び/または1550nmにおいて40dB以上であることが好ましく、45dB以上であることがより好ましく、50dB以上であることがさらに好ましい。なお、消光比は以下の式(2)により算出される。
【0081】
消光比(dB)=10×log
10(P
1/P
2) ・・・(2)
P
1=最大光透過量
P
2=最小光透過量
なお、偏光ガラス板は、延伸成形方向と垂直な方向の幅8mmにおける消光比の面内ばらつきが±3dB以内であることが好ましく、±2.5dB以内であることがより好ましく、±2dB以内であることがさらに好ましい。
(切り欠き部の形成)
上記のようにして得られた偏光ガラス板に対し、1つ以上の切り欠き部を形成する。切り欠き部の形状、サイズ、切り欠き位置、数等は既述の通りであり、ここでは説明を割愛する。なお切り欠き部は、ダイサー、レーザー、エッチング、コアドリル、サンドブラスト等種々の方法で形成することができる。