特許第6649744号(P6649744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649744
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】医療用体位保持具
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20200210BHJP
   A61B 6/04 20060101ALI20200210BHJP
   A61G 13/12 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   A61B5/055 366
   A61B6/04 301
   A61G13/12 B
   A61G13/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-212908(P2015-212908)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-80155(P2017-80155A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】左治木 修
(72)【発明者】
【氏名】河村 好紀
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−215172(JP,A)
【文献】 特開2013−244197(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3192339(JP,U)
【文献】 特開2005−066141(JP,A)
【文献】 国際公開第00/041599(WO,A1)
【文献】 特開2010−119415(JP,A)
【文献】 特開2003−052492(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3115580(JP,U)
【文献】 特開平11−113687(JP,A)
【文献】 特開2014−045890(JP,A)
【文献】 特開2008−264010(JP,A)
【文献】 米国特許第5363524(US,A)
【文献】 米国特許第6751818(US,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0191960(US,A1)
【文献】 米国特許第6131219(US,A)
【文献】 米国特許第3337883(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20−33/58
A61G 13/12
A61B 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットと芯材とを有する医療用体位保持具であって、
前記マットは、気密性袋とクッション層とからなり、
前記気密性袋は、人体の体位を支えるマットのカバーであり、ガスバリア性を有し、給・排気孔を備え、
前記給・排気孔は、医療用体位保持具の使用時に前記気密性袋内を脱気して前記気密性袋内を減容させ、使用後は減容した前記気密性袋に外気を吸引させるものであり、
前記クッション層は、前記気密性袋内に充填され、前記気密性袋内の脱気によって固化する粒状体の積層であり、
前記芯材は、粒状体が充填された前記気密性袋の一部を支えて人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に賦形するものであることを特徴とする医療用体位保持具。
【請求項2】
前記芯材は、板状の支えであり、前記気密性袋の内面又は外面の側面に取り付けて前記気密性袋に一定の立ち上がり高さを確保させるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持具。
【請求項3】
前記芯材はストッパであり、前記気密性袋の上面と下面とに取り付けて前記マットの立ち上がり高さを制限するものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持具。
【請求項4】
前記芯材は枠棒であり、予め定めた形状に屈曲され、前記気密性袋に取り付けて前記気密性袋を人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に屈曲変形させ、その変形形状を保持させるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持具。
【請求項5】
前記芯材は、予め所定形状に成形された弾力性を有する板状のホルダーであり、対の支持面部とヒンジ部とを有し、
前記対の支持面部は、前記マットを支える面であり、前記ヒンジ部を挟んでその両側に外開きに支えられたマットの支持面であり、
前記マットは前記ヒンジ部を挟んで両支持面部上に跨って支えられ、
前記ヒンジ部は、人体の特定部位の重力を受けて弾性変形し、対の支持面部の間隔を狭め、前記ヒンジ部を挟んで両支持面部上に跨って前記対の支持面部上に支えられた前記マットを人体の特定部位に圧着させるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMRIなどの画像診断、放射線治療、各種外科手術などの医療行為の際に被験者あるいは患者の体位を一定に保持する医療用体位保持具に関する。この明細書において、「体位」とは体の特定の位置、姿勢を意味する用語として用いている。
【背景技術】
【0002】
例えば、MRI画像診断や放射線治療の場合に、診断あるいは治療中は、被験者、患者の人体の特定の部位を動かないように固定して人体を一定の姿勢に保持しておくことが必要である。
従来より、物品の包装用あるいは支持用のマットとして脱気用の排気弁を備えた気密性の袋内に粒状体の定量を空気とともに収容したタイプのマットが知られている。
【0003】
このタイプのマットによれば、マットの気密性袋の上面に物品を載せると、物品の重みで袋の一部に窪みが形成され、そのまま袋内の空気を排出すれば粒状体の充填密度が増大し、袋が物品の形状の一部を象って固化するため、袋上に物品を安定に支えることができる。
【0004】
このタイプのマットは、物品の支持や包装用として利用されるだけでなく、人体のクッションとしても利用されており、さらには、医療の分野でも注目され、画像診断、あるいは外科手術などを行う際の医療用体位保持用としての活用が期待されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
上記形式のマットを人体の体位保持の目的に用いて診断、あるいは手術を行う際には、人体の特定の部位を一定時間動かないように固定する目的に使用するマットを体位保持マットという(以下説明を簡単にするため、単にマットと略称することがある)。
【0006】
体位保持マットをたとえば、被験者がベッド上に仰向けに横たわった姿勢で頭部のMRI画像診断を行う場合には、頭部に無理な力が加えられないように頸部を含めて頭部が動かないように固定することが必要である。
【0007】
被験者が上向き姿勢でベッド上に横臥したときには、頭部をベッド上で少し持ち上げて正しい姿勢となる。したがって、この姿勢を保とうとすると、ベッド上に支える頭部とベットの表面の間に高低差が生じることになる。
【0008】
体位保持マットはベッドと頭部との間の高低差を埋めて体位を安定させるために使用するのであるが、従来の体位保持マットの気密性袋内に封入された粒状体は、合成樹脂製のビーズのため、滑りやすく、適量を一定高さに積み上げようとしても積み上げた粒状体Pは図12のようにサラサラと流れてなだらかな山形に戻ってしまい、十分な立ち上がり高さを確保できない。
【0009】
このため、体位保持マット枕としてその上面に頭部Hをのせ、空気ポンプ(図示略)を用いてマット15の気密性袋16内を脱気すると、マット15と頭部H及び頸部Nとの間に隙間dが残されたまま固化し、頭部Hは、図11(a)のように後頭部の僅かな部分が体位保持マット15のマット面に支えられるものの頭部Hの両側や頸部Nの両側は図11(b)、(c)のようにマット面で支えることができない。
図11(a)中、頭部Hおよび頸部Nとマット15の面との間の隙間を破線dで示している。
【0010】
もっとも、図13(a)のように体位保持マット15の一部を頸部Nと頭部Hに押し付けた状態で脱気すれば、図13(b)、(c)のように頭部Hの両側や頸部Nの両側に密着させた状態で固化することはできるが、体位保持マット15の底の一部や両側縁が持ち上げられることになってベッドB上での体位保持マット15の支持が不安定となり、頭部Hを定位置に安定させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−29249
【特許文献2】特開2009−112380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、一般に合成樹脂製の粒状体は滑りやすく、適量を一定高さに積み上げようとしても積み上げた粒状体がサラサラと流れてなだらかな山形に戻ってしまい、十分な立ち上がり高さを確保できない点、また、体位保持マットの一部を人体に押し付けた状態で袋内を脱気すれば、体位保持マットを人体に密着させた状態で固化することはできるが、ベッド上での体位保持マットそのものの支持が不安定となって体位を安定させることができないという点である。
【0013】
このような問題は頭部の保持だけに限らない。体位保持マットを用いてたとえば手足を一定角度で曲げた姿勢でベッド上に固定する場合や腰部をベッド上に固定する場合などにおいても同様の問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はマットと芯材との組合せによって人体の安定保持を可能にしたものである。前記マットは、気密性袋内に粒状体の積層が充填されたものであり、芯材は、粒状体が充填された気密性袋の少なくとも一部を支えてマットの表面に人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に賦形することを最大の特徴としている。この明細書において「賦形」の語は、「形を与える・形作る」の意味に用いている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粒状体が充填された気密性袋の少なくとも一部を芯材で支え、マットの気密性袋の表面に賦形された凹部や凸部に人体の特定部位を支え、次いで気密性袋内を脱気してマットを固化すると、マットは人体の特定部位を象って密着した状態で固定するため、診断または施術中被験者、患者の体位を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マットの表面に人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に賦形された実施例1のマットの一部断面斜視図である。
図2】実施例1のマットの側面図である。
図3】(a)は実施例1の芯材として用いる板状の支えの取り付け状態を示す図、(b)は板状の支えの他の例を示す図、(c)は実施例1の芯材に用いるストッパの取り付け状態を示す図である。
図4】実施例1のマットに被験者の頭部を載せる要領を示す図である。
図5】実施例1のマットに被験者の頭部を載せて気密性袋内を脱気した状態を示す図である。
図6】(a)は芯材として直線状の枠棒を用いて脱気に伴う気密性袋の収縮を抑制する場合の例を示す図、(b)は(a)のA−A線断面拡大図である。
図7】(a)、(b)は実施例2の芯材として長手方向に沿って予め定めた上凸状と下凸状の湾曲形状に屈曲させた枠棒を用いる例を示す図である。
図8】実施例2の芯材に湾曲形状の枠棒を用いてマットを変形させた例を示す一部断面斜視図である。
図9】実施例3の芯材に弾力性を有する板状のホルダーを用いてマットを支えた状態を示す斜視図である。
図10】実施例3の芯材に用いた板状のホルダーの両支持面部が被験者の頭部の重量を受けて間隔が狭まり、両支持面部に支持されたマットが頭部の両側面に押し付けられた状態を示す図である。
図11】(a)は従来の体位保持マットの上面に形成された凹所内に頭部及び頸部を受け入れて気密性袋内を脱気し、マットを固化した状態を示す断面図である。(b)は(a)のC−C線断面図、(c)は(a)のD−D線断面図である。
図12】マット内の粒状体を積み上げてもサラサラと流れてなだらかな山形に戻り、十分な立ち上がり高さを確保できない状況を示す図である。
図13】(a)は従来の体位保持マットを人体の頭部及び頸部に押し付けた状態でマットの上面に形成された凹部内に頭部及び頸部を受け入れて気密性袋内を脱気し、マットを固化した状態を示す断面図である。(b)は(a)のE−E線断面図、(c)は(a)のF−F線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による医療用体位保持具は、マットと芯材との組合せである。前記マットは、気密性袋とクッション層とからなり、前記気密性袋は、人体の体位を支えるマットのカバーであり、ガスバリア性を有し、脱気用の排気弁が取り付けられている。前記クッション層は、前記気密性袋内に充填された粒状体の積層である。マットに組み合わされる芯材は、粒状体が充填された気密性袋の少なくとも一部を支えてその立ち上がり高さを規制し、マットの表面に人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に賦形するものである。
以下に本発明の医療用体位保持具を構成する各構成要素を説明する。
【0018】
(1)マットのカバーに用いる気密性袋について
マットのカバーに用いる気密性袋の生地は気密を要するほか、マットのカバーとして人体に違和感のない柔軟な材質の生地を用いることが望ましい。
【0019】
上記条件を満たす生地は、たとえば、フィルム状の生地に樹脂をコーティングあるいはラミネートして生地にガスバリア性を付与することによって得られる。生地には耐久性が要求されることからナイロン生地が望ましく、生地にコーティングあるいはラミネートするフィルムには生地に溶着しやすいPV(塩化ビニル)、PU(ポリウレタン)が適している。
【0020】
生地の厚さは柔軟性に大きく影響する。柔軟性を高めるには薄いほうが望ましいが、マットのカバーとしての必要な強度やガスバリア性を考慮しておよそ1mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。また、CT検査やMRI検査に備えてX線を透過しやすく、また非磁性体の材質が選定されていることが望まれる。
【0021】
(2)クッション層について
クッション層は、前記気密性袋内に充填された粒状体の積層である。
粒状体のサイズ、形状、硬さには制約がなくどのようなものであっても用いることができるが、人体の特定部位の形状に正確にフィットさせるには可能な限り粒径が小さいほうが望ましい。さらに取扱上や人体の特定部位の形状にフィットさせる操作の上は軽量であることが望ましいことから、合成樹脂発泡体の粒子が適しており、特にPS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)発泡体の粒子が適している。
【0022】
人体の特定部位の形状保形を優先させる場合には低発泡倍率のPS樹脂発泡体が適し、クッション性を優先させる場合には高発泡倍率のPU、PE樹脂発泡体を用いるが、勿論これらの樹脂をブレンドして中間的な性質を持たせることができる。マットのカバーである気密性袋は方形の表面材と下面材との間にクッション層として予め定量の粒状体を充填して周縁を気密に封止し、表面材の一部に脱気用の排気弁が取り付けられる。
【0023】
(3)芯材について
芯材は、粒状体が充填された気密性袋の少なくとも一部を支えてマットを人体の特定部位を受け入れるに必要な形状に賦形するものである。
芯材は後に説明するように、マットの立ち上がり高さを確保する「板状の支え4」(図3(a)参照)、マットの立ち上がり高さを制限する「ストッパ6」(図3(b)参照)、マットを長さ方向に支えて強制的に変形させる「枠棒11」(図7参照)、マットで人体の特定部位をはさんで圧着する「板状のホルダー12」(図9参照)など様々な形態で用いられる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例として例えばMRI画像診断を受ける被験者の特定の体位、この実施例ではマット上に頭部と頸部をささえて一定の体位を保持させる例を説明する。
【0025】
(実施例1)
図1図2において、この実施例は、マット1内のカバーである気密性袋2の方形の上面材2aと下面材2bとの間にクッション層3として予め定量の粒状体Pを充填するとともに第1の芯材として板用の支え4を選定し、第2の芯材としてストッパ6を選定してこれらを上面材2aと下面材2bとに取り付け、上面材2aと下面材2bの周縁を封止した例である。脱気用の排気弁7は上面材2aの隅に装着されている。
第1の芯材として用いる板状の支え4は、図3(a)に示すように自立可能な可撓性を有する板であり、上面材2aと下面材2bの接合面9に跨って気密性袋2の側面(内面又は外面)に接着や気密性を確保したうえで縫着によって取り付けられ、気密性袋2に一定の幅で一定の立ち上がり高さを確保させるものである。
【0026】
第1の芯材として板状の支え4を上面材2aと下面材2bの接合面9に跨って気密性袋2の側面(内面又は外面)に取り付けることによって、気密性袋2は第1の芯材に用いた板状の支え4の高さに相当する立ち上がり高さが少なくとも板状の支え4の全幅の範囲にわたって確保される。
【0027】
板状の支えは単なる板を用いる場合に限らない。たとえば図3(b)に示すように、板状の支え5の両側縁に上向きの腕5a、5aと下向きの腕5b、5bの対を設け、上面材2aと下面材2bにそれぞれ取り付けたバンド8に板状の支え5を挿しこむとともに上向きの腕5aと下向きの腕5bの対を両バンド8、8にそれぞれひっかけることによって板状の支え5を気密性袋2の外面又は内面に脱着可能に取り付けることができる。
【0028】
第2の芯材はストッパ6である。ストッパ6は図3(c)に示すように柔軟な一定長さのシートであり、気密性袋2の上面と下面すなわち上面材2aの生地と下面材2bの生地を連結して気密性袋2の立ち上がり高さを一定の高さ以下の範囲に制限するものである。
【0029】
図4に示すように被験者Mの頭部Hを支える部位の気密性袋2の上面と下面をストッパ6で連結して気密性袋2の立ち上がり高さを制限し、頸部Nを支える部位の気密性袋2の部分には上面材2aと下面材2bの接合面9に跨って板状の支え4(又は5)を取り付けて気密性袋2の平均的な高さより高い立ち上がり高さを確保し、これによってマット1の表面を予め人体の頭部Hを受け入れるに必要な凹部と頸部Nを支える凸部を形成する曲面に賦形しておく。
【0030】
被験者Mが上向きの姿勢で横臥したときに被験者Mの頭部Hは肩部から上傾方向に延びる頸部Nに支えられるのが無理のない姿勢である。画像診断は、被験者Mが動かないようにマット1の面に固定し、その姿勢を保たせて診断を行う。
【0031】
マット1の表面に予め形成した被験者Mの頭部Hと頸部Nを受け入れるに必要な曲面の形状はかならずしも被験者Mの頸部Nや頭部Hの形状を正確に象る必要はなく、頭部H、頸部Nの概略の形状を象った形状に曲面が形成されていればよい。
【0032】
図5において、被験者MはベッドB上に仰向けに横たわり、その枕の位置に頭部H及び頸部Nの受入に必要な曲面が形成されたマット1を置き、被験者Mの頭部Hを頭部受入用の凹部内に受け入れ、頸部Nを凸部に支え、マット1の形状を被験者の頭部H、頸部Nの形状に可能な限り沿わせ、次いで排気弁7に空気ポンプ(図示略)を差し込んで気密性袋2内を脱気する。
【0033】
気密性袋2内が減圧されると、気密性袋2内の粒状体Pの充填密度が増大し、気密性袋2の減容によってクッション層3が被験者Mの頭部Hの形状になじんで変形し、頸部Nは支え4(又は5)の高さによって決定される立ち上がり高さの凸部に支えられ、頭部Hは、ストッパ6によって形成された凹部内に受け入れられて固定される。
【0034】
被験者Mの頭部Hおよび頸部Nを固定することによって、被験者Mの体動が抑制され、頭部HのCT、MRI,PETなどの画像診断の時間中、頭部H、頸部Nを含めて被験者Mの体位を安定に保持することができる。
【0035】
以上の操作はCT、MRI,PETなどの画像診断の場合の人体の体位の安定保持に限らず、放射線治療その他外科治療を行う場合に人体の頭部をベッドに固定するための要領は同じである。勿論人体の頭部の固定に限らない。手足その他の部位を一定角度で曲げた姿勢でベッド上に安定に固定保持することができる。さらには全身の固定にも適用することもできる。
以上、実施例1では、第1の芯材および第2の芯材として板状の支え4(又は5)とストッパ6を併用する例をして説明したが、勿論板状の支え4(又は5)とストッパ6をそれぞれ単独で使用することもできる。CT、MRI,PETなどの画像診断や、放射線治療その他外科治療を行う場合の操作要領は以下の実施例についても同じである。
【0036】
(実施例2)
実施例2は、芯材に枠棒11を用いる例である。実施例2では図6(a)のようにマット1のカバーである気密性袋2の表面材2aと下面材2bの周縁を封止するとともに、その長手方向の両側縁に鞘10を形成しておき、図6(b)に示すように鞘10の一端開口から直線状の枠棒11を差し込むことによって脱気に伴う気密性袋2の長さ方向の収縮を抑制することができる。枠棒11を図7(a)のように長手方向に沿って上凸a1と下凸bとの湾曲形状に屈曲しておき、この屈曲した枠棒11を気密性袋2の両側縁の鞘10内に差し込むと、気密性袋2は、枠棒11の屈曲形状を倣って屈曲変形する。屈曲変形した気密性袋2内を脱気すると、そのまま固化し、気密性袋2は図8のように枠棒11の上凸a1と下凸bの形状を象った凸部と凹部を有する湾曲形状に賦形される。
【0037】
屈曲した枠棒11の挿込によって形成される気密性袋2の凸部は、図5に示す被験者の頸部の支持面となり、気密性袋の凹部は被験者の頭部の受入面となるが、勿論被験者の頸部、頭部の受け入れに限らず、さらに必要により図7(b)のように立ち上がり高さがさらに高い上凸a2に屈曲変形でき、さらには人体の頭部以外の特定部位を受け入れるに必要な形状に屈曲させることもできる。
【0038】
なおこの実施例では枠棒11を気密性袋2の長手方向の両側縁に形成した鞘10内に脱着可能に差し込む例を説明したが、鞘10の形成位置は必ずしも気密性袋2の長手方向の両側縁に限るものではなく、気密性袋2の長手方向の中央部位や、気密性袋2の短辺側の縁など任意に設定し、所定形状に屈曲変形させた枠棒11を用いて気密性袋2を人体の特定部位の受け入れに適した形状に賦形することができる。さらに、枠棒11を気密性袋2に取り付けるに際しては、枠棒11に形成した鞘10内に差し込む例に限らず、接着、縫着その他の手段によって枠棒11を気密性袋2と一体にあるいは脱着可能に取り付けることができる。
【0039】
(実施例3)
実施例3に用いる芯材は、図9のように予め所定形状に成形された弾力性を有する板状のホルダー12である。板状のホルダー12は、対の支持面部13、13と両支持面部13,13をつなぎ、両支持面部13、13を外開きの上傾姿勢に支えるヒンジ部14とからなり、ヒンジ部14の中央部分には突条14aを形成したものである。この実施例において、ホルダー12の両支持面部13、13に跨ってマット1の気密性袋2を支え、図10のようにヒンジ部14の中央部分に頭部Hを載せると、ヒンジ部14の中央の突条14aが頭部Hの重量を受けてヒンジ部14を押し広げ、これによって外開きの上傾姿勢に保持された両支持面部13,13の間隔が狭まる。
【0040】
これによって両支持面部13,13に跨って支持された気密性袋2が頭部Hの両側面に押し付けられる。この状態で気密性袋2内を脱気すると、気密性袋2が頭部Hの両側面に押し付けられた状態で固化し、頭部Hに圧着し、頭部Hを定位置に保持する。勿論頭部Hの保持に限らず、腕、足その他人体の特定部位を支えたときに芯材としてのホルダー12の両支持面部13,13が人体の特定部位から重力を受けて弾性変形し、前記気密性袋2を圧着することによって人体の特定部位を定位置に保持することができる。
【0041】
以上実施例において、排気弁には通常逆止弁が使用される。脱気用の逆止弁は、脱気側を順方向、吸気側を逆方向とする給・排気孔を備えており、医療用体位保持具の使用時に空気ポンプを取り付けて給・排気孔を自動的に開弁し、空気ポンプの駆動により気密性袋内を脱気・減容してクッション層を固化させ、使用後は給・排気弁を手動で開弁すると、気密性袋内に外気が吸引され、前記気密性袋は元の容積に復帰するのであるが、給・排気孔は必ずしも逆止弁によらなくても、気密性袋の一部に開口した単なる通気孔であってもよい。
【0042】
すなわち、気密性袋の一部に開口した単なる通気孔であっても使用時に人体の重みを受けることによって気密性袋が加圧されると、気密性袋内の空気は通気孔を通して排気される。これによって気密性袋は減容され、クッション層の充填密度が増し、そのかぎりでクッション層を固化することができる。逆に使用後、気密性袋の加圧が解除されると、クッション層の復元力や芯材の反発力が気密性袋に作用し減容した前記気密性袋に通気孔から外気が吸引され、気密性袋は元の容積にもどる。このように、気密性袋に備える給・排気孔は逆止弁の給・排気孔に限らず、気密性袋の一部に開口した単なる通気孔であっても脱気によって気密性袋を減容させ、逆に外気の吸引によって元の容積に復帰させる機能が得られるのであって、例えば一瞬の撮影で終了する単純なレントゲン撮影のような短時間の固定であれば気密性袋の一部に通気孔を開口するだけで十分に対応することができる。
【0043】
以上のように本発明によれば、気密性袋に組み合わす芯材として種々の形態のものを用いることができ、芯材を気密性袋内に組み込み、あるいは外部から気密性袋を支え、マットを芯材に保持させるとともに芯材の形状に沿って強制的に変形させることによって、マットの表面に凹部及び凸部を含む人体の特定部位を受け入れるために必要な形状に賦形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、CT、MRI、PETなどの画像診断、放射線治療その他各種外科手術を含む診断および施術などの医療行為において、被験者、患者の体動を抑制し、一定の体位を保たせる必要がある場合に広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 マット、2 気密性袋、2a 上面材、2b 下面材、3 クッション層、4,5、板状の支え、5a , 5b 腕、6 ストッパ、7 排気弁、8 バンド、9 接合面、10 鞘、11 枠棒、12 ホルダー、13 支持面部、14 ヒンジ部、14a 突条、P 粒状体、M 被験者、H 頭部、N 頚部
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