特許第6649814号(P6649814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6649814二次電池の充電率推定方法、充電率推定装置及び充電率推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649814
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】二次電池の充電率推定方法、充電率推定装置及び充電率推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/388 20190101AFI20200210BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20200210BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20200210BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   G01R31/388
   G01R31/367
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H01M10/42 P
   H02J7/00 M
   H02J7/00 X
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-45880(P2016-45880)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-161351(P2017-161351A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 尚志
【審査官】 島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−246760(JP,A)
【文献】 特開2011−095209(JP,A)
【文献】 特開2000−221249(JP,A)
【文献】 特開2000−295775(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0022643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/388
G01R 31/367
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を測定して得られる充放電電流計測値、電池電圧計測値及び温度計測値に基づき二次電池の充電率を推定する二次電池の充電率推定方法であって、
前記充放電電流計測値と前記温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出し、
前記電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出し、
前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出し、
前記二次電池の使用開始前に算出された初期充電率推定値と初期起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、を用い、前記現充放電カーブを前記充電率推定値が増減する方向にシフトさせ、前記現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが前記初期充放電カーブと一致するまでの前記現充放電カーブのシフト量を補正値として算出し、
前記補正値に基づき前記充電率推定値を補正する二次電池の充電率推定方法。
【請求項2】
前記現充放電カーブの一部分に関するデータを用いて前記補正値を算出する請求項1に記載の二次電池の充電率推定方法。
【請求項3】
二次電池の充放電電流計測値と前記二次電池の温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出するモデル電圧値算出部と、
前記二次電池の電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出する減算器と、
前記二次電池の前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出する充電率推定部と、
前記二次電池の使用開始前に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、を用い、前記現充放電カーブを前記充電率推定値が増減する方向にシフトさせ、前記現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが前記初期充放電カーブと一致するまでの前記現充放電カーブのシフト量を補正値として算出する補正値算出部と、を有し、
前記充電率推定部は、前記補正値に基づき算出する前記充電率推定値を補正する充電率推定装置。
【請求項4】
演算部において実行され、二次電池を測定して得られる充放電電流計測値、電池電圧計測値及び温度計測値を外部から取得して、取得した計測値に基づき二次電池の充電率を推定する二次電池の充電率推定プログラムであって、
前記充放電電流計測値と前記温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出するデル電圧値算出処理と、
前記電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出する減算処理と、
前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出する充電率推定処理と、
前記二次電池の使用開始前に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、を用い、前記現充放電カーブを前記充電率推定値が増減する方向にシフトさせ、前記現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが前記初期充放電カーブと一致するまでの前記現充放電カーブのシフト量を補正値として算出する補正値算出処理を行い、
前記補正値算出処理において、前記補正値に基づき前記充電率推定値を補正する二次電池の充電率推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池の充電率推定方法、充電率推定装置及び充電率推定プログラムに関し、特に、二次電池の電池電圧、充放電電流等の計測値に基づき二次電池の充電率推定値を算出する二次電池の充電率推定方法、充電率推定装置及び充電率推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等においても二次電池の利用が拡大している。二次電池には、充放電を繰り返すことで1つの二次電池の出力電圧値から推定される充電率が変動するメモリ効果がある。そのため、二次電池を利用する場合、メモリ効果を考慮して二次電池の充電率推定値を決定する必要がある。そこで、メモリ効果による二次電池の出力特性の変化を推定する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の電気化学素子の制御方法では、電極とイオン伝導体とを具備する電気化学素子の状態を、電極の電位モデル、電極の電子輸送モデル、電極のイオン輸送モデル、イオン伝導体のイオン輸送モデル、電極とイオン伝導体との界面で生じる電気化学反応を表すモデルからなる群より選択される少なくとも一種のモデルを用いて分析し、その分析結果に基づいて電気化学素子の特定の特性を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−100479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、メモリ効果に起因する二次電池の充電率推定値と起電圧推定値との関係の変化について説明する。そこで、図5に二次電池におけるメモリ効果を説明する充電率推定値に対する起電圧推定値の変化を示すグラフを示す。ここで、起電圧推定値とは、二次電池を測定することで得られる電池電圧計測値から二次電池の起電圧以外の要因で変動する電圧変動成分を引いた値である。また、図5では、二次電池の出荷前に測定された特性から算出された初期充電カーブと初期放電カーブ(以下、2つのカーブを総称して初期充電放電カーブと称す)と、メモリ効果による特性変動が発生した後の充電カーブと放電カーブとを示した。
【0006】
図5に示すように、二次電池は、メモリ効果が発生すると、放電時には充電率推定値が低い領域で起電圧推定値の低下が生じ、充電時には充電率推定値が高い領域で起電圧推定値の上昇が生じる。そのため、二次電池の充放電電流及び電池電圧から充電率推定値を算出した場合、メモリ効果による電圧変動に起因して、例えば、計測された電池電圧に対応した充電率推定値を算出すると、放電時には本来の値より低い充電率推定値が導き出され、充電時には本来の値より高い充電率推定値が導き出されるおそれがある。
【0007】
そこで、このメモリ効果を想定した充電率推定値の算出方法が求められる。しかしながら、このメモリ効果に起因する起電圧推定値の変化が発生する充電率推定値は、二次電池の充放電回数、充放電開始電圧等の二次電池の利用状態により変化する。そのため、特許文献1に記載の技術を用いてメモリ効果を解析しても、利用状態の違いによるメモリ効果が発生する充電率推定値の違いまで解析することは難しい。つまり、特許文献1に記載したメモリ効果の推定方法を用いたとしても、メモリ効果に起因する充電率推定値の誤差を十分に補正することが出来ない問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二次電池の充電率推定値の精度を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の一態様は、二次電池を測定して得られる充放電電流計測値、電池電圧計測値及び温度計測値に基づき二次電池の充電率を推定する二次電池の充電率推定方法であって、前記充放電電流計測値と前記温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出し、前記電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出し、前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出し、前記二次電池の使用開始前に算出された初期充電率推定値と初期起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、の差に基づき補正値を算出し、前記補正値に基づき前記充電率推定値を補正する。
【0010】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の一態様によれば、二次電池におけるメモリ効果に起因して発生する充電率推定値の誤差を補正する補正値を用いて算出する充電率推定値の精度を高めることができる。
【0011】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の別の態様は、前記現充放電カーブを前記充電率推定値が増減する方向にシフトさせ、前記現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが前記初期充放電カーブと一致するまでの前記現充放電カーブのシフト量を前記補正値として出力する。
【0012】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の別の態様によれば、数値のシフト処理という計算量が少ない処理により充電率推定値の補正値を算出することができる。
【0013】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の別の態様によれば、前記現充放電カーブの一部分に関するデータを用いて前記補正値を算出する。
【0014】
本発明にかかる二次電池の充電率推定方法の別の態様によれば、充放電カーブの全体が不明な状態であっても充電率推定値の補正値を算出することができる。
【0015】
本発明にかかる二次電池の充電率推定装置の一態様は、二次電池の充放電電流計測値と前記二次電池の温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出するモデル電圧値算出部と、前記二次電池の電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出する減算器と、前記二次電池の前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出する充電率推定部と、前記二次電池の使用開始前に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、の差に基づき補正値を算出する補正値算出部と、を有し、前記充電率推定部は、前記補正値に基づき算出する前記充電率推定値を補正する。
【0016】
本発明にかかる二次電池の充電率推定装置の一態様によれば、二次電池におけるメモリ効果に起因して発生する充電率推定値の誤差を補正する補正値を用いて算出する充電率推定値の精度を高めることができる。
【0017】
本発明にかかる二次電池の充電率推定プログラムの一態様は、演算部において実行され、二次電池を測定して得られる充放電電流計測値、電池電圧計測値及び温度計測値を外部から取得して、取得した計測値に基づき二次電池の充電率を推定する二次電池の充電率推定プログラムであって、前記充放電電流計測値と前記温度計測値とに基づき前記二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出するデル電圧値算出処理と、前記電池電圧計測値から前記モデル電圧値を引いて前記二次電池の起電圧の推定値となる起電圧推定値を算出する減算処理と、前記充放電電流計測値、前記温度計測値及び前記電池電圧計測値に基づき推定した前記二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出する充電率推定処理と、前記二次電池の使用開始前に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された前記充電率推定値と前記起電圧推定値との関係を示す現充放電カーブと、の差に基づき補正値を算出する補正値算出処理を行い、前記補正値算出処理において、前記補正値に基づき前記充電率推定値を補正する。
【0018】
本発明にかかる二次電池の充電率推定プログラムの一態様によれば、二次電池におけるメモリ効果に起因して発生する充電率推定値の誤差を補正する補正値を用いて算出する充電率推定値の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1にかかる充電率推定装置のブロック図である。
図2】実施の形態1にかかる補正値算出部における補正値算出処理の第1の例を説明する図である。
図3】実施の形態1にかかる補正値算出部における補正値算出処理の第2の例を説明する図である。
図4】実施の形態1にかかる充電率推定装置の動作を説明するフローチャートである。
図5】二次電池におけるメモリ効果を説明する充電率に対する起電圧推定値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0021】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0022】
実施の形態1
実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、二次電池の充電率推定値を、二次電池を測定することで得られる電池電圧計測値、充放電電流計測値、及び、温度計測値に基づき算出する。また、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、例えば、マイクロコントローラ等の演算装置において実行されるプログラムによって実現される。また、マイクロコントローラは、演算処理で利用される電圧等のアナログ値のパラメータをデジタル値として取り込むアナログデジタル変換回路を有する。さらにマイクロコントローラは、演算により得られ二次電池の充電率推定値を上位のシステムに出力する出力インタフェース或いは通信インタフェースを有するものとする。以下の説明では、プログラムにおける処理を処理の種類毎に処理ブロックに置き換えたブロック図を用いて充電率推定装置1を説明する。また、実施の形態1にかかる制御装置1は、メモリ効果の影響が大きい二次電池(例えば、ニッケル水素蓄電池)に好適である。
【0023】
図1に実施の形態1にかかる充電率推定装置1のブロック図を示す。図1に示すように、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、モデル電圧値算出部10、減算器11、充電率推定部12、補正値算出部13を有する。なお、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、電池電圧計測値、充放電電流計測値及び温度計測値を用いた演算を行うが、これら計測値は、充電率推定値を算出する対象となる二次電池に取り付けられた電圧センサ、電流センサ、温度センサ等から取得される値である。
【0024】
モデル電圧値算出部10は、充放電電流計測値と温度計測値とに基づき二次電池の起電圧以外の要因で発生する電圧変動成分の大きさ示すモデル電圧値を算出する。モデル電圧値は、電池電圧モデルを用いて算出される。電池電圧モデルは、様々なモデルが提案されており、製品仕様、得たい値の精度等により採用するモデルを選択することができる。しかし、実施の形態1にかかるモデル電圧値算出部10では、(1)式により表されるモデルを採用するものとする。なお、実施の形態1にかかるモデル電圧値算出部10において採用できる電池電圧モデルは(1)式に限られるものではない。
Vmdl=Vlp+Vhys+Vir_d・・・(1)
【0025】
(1)式において、Vmdlはモデル電圧値であり、Vlpは電池内での物質の拡散に伴う電池電圧の変動成分である分極電圧値であり、Vhysは二次電池が初期状態であるときの充電時の起電圧と放電時の起電圧との差であり、Vir_dは二次電池の直流抵抗成分に起因する電圧低下成分である。モデル電圧値算出部10は、充放電電流計測値と温度計測値からこれらパラメータを算出した上で、(1)式に基づくモデル電圧値Vmdlの算出を行う。
【0026】
減算器11は、電池電圧計測値からモデル電圧値算出部10が算出したモデル電圧値Vmdlを引くことで起電圧推定値Vemf_setを算出する。算出された起電圧推定値Vemf_setは、補正値算出部13に与えられる。また、起電圧推定値Vemf_setは、電池電圧計測値をVbatとすると、(2)式により表される。
Vemf_set=Vbat−Vmdl・・・(2)
【0027】
充電率推定部12は、充放電電流計測値、温度計測値及び電池電圧計測値に基づき推定した二次電池の充電率を示す充電率推定値を算出する。具体的には、充電率推定部12は、充放電電流計測値の積算処理を行う。より具体的には、充電率推定部12は、充放電電流計測値、温度計測値及び電池電圧計測値に基づき算出される値であって電流センサのオフセット誤差の大きさを示す電流センサオフセット誤差推定値を算出する。そして、充電率推定部12は、電流センサオフセット誤差推定値により充放電電流計測値を補正した値を実際に二次電池に充放電された充放電電流として積算する。そして、充電率推定部12は、積算した電流値に基づき二次電池の充電率推定値を算出する。さらに、充電率推定部12、補正値算出部13が出力する補正値δSOCに基づき算出した充電率推定値を補正して、補正後の充電率推定値を最終的な充電率推定値として出力する。
【0028】
補正値算出部13は、二次電池の使用開始前に算出された初期充電率推定値と初期起電圧推定値との関係を示す初期充放電カーブと、使用開始後の所定の期間に算出された充電率推定値と起電圧推定値Vemf_setとの関係を示す現充放電カーブと、の差に基づき補正値δSOCを算出する。ここで、二次電池の使用開始前とは、電池メーカーの製品出荷前の段階、二次電池を搭載した製品を出荷する前など、二次電池を用いた製品が最終的なユーザーに利用される前の期間であれば特にその期間に制限はない。一方、二次電池の使用開始後とは二次電池を用いた製品が最終的なユーザーに利用され始めてからの期間を指すものとする。また、所定の期間とは、起電圧推定値Vemf_setと充電率推定値との組み合わせにより構成されるデータが予め決められた個数揃うまでの期間とする。
【0029】
補正値算出部13における補正値δSOCの算出方法について具体例を示して説明する。そこで、図2に実施の形態1にかかる補正値算出部13における補正値算出処理の第1の例を説明する図を示す。
【0030】
図2に示すように、補正値算出部13では、使用開始前に取得した起電圧推定値Vemf_setと充電率推定値とから算出された初期充放電カーブを補正値算出部13に内蔵された記憶装置から読み出す。なお、記憶装置は不揮発性メモリであり、一例では補正値算出部に内蔵されるが、記憶装置は実施の形態1にかかる充電率推定装置1に内蔵されるものであっても良く、外付けされるものであっても良い。そして、補正値算出部13は、使用開始後に予め決められた個数のデータが蓄積できた時点で、蓄積されたデータから現時点の二次電池の充放電特性を示す現充電カーブと現放電カーブを作成する。なお、以下の説明では、現充電カーブと現放電カーブとを総称する名称として現充放電カーブと称す。
【0031】
そして、補正値算出部13は、生成した現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが初期充放電カーブと一致するまでの現充放電カーブをシフトさせる。つまり、補正値算出部13は、現充放電カーブの一部分に関するデータを用いて補正値を算出する。現充放電カーブをシフトさせる方向は、充電率推定値方向である。補正値算出部13は、現充放電カーブを構成する複数のデータのうち予め決められた個数以上のデータが初期充放電カーブと一致するまでのシフト量を補正値δSOCとして決定する。
【0032】
図2に示す第1の例では、シフト処理前のデータをハッチング付きの丸で示し、シフト処理後のデータを白抜きの丸で示した。そして、図2に示す第1の例では、現充放電カーブを充電率推定値が小さくなる方向にシフトさせることで初期充電カーブと一致する現充電カーブのデータが5個、初期放電カーブと一致する現放電カーブのデータが3個となっている。なお、補正値δSOCを決定する際に、初期充放電カーブと一致させる現充放電カーブのデータの個数は、補正前の一致したデータ数よりも多くなっていれば、充電率の推定精度が上がったと言える。例えばデータを取得する範囲にもよるが充電率換算で2%以上の部分が一致していれば好ましい。
【0033】
また、別の例として、図3に実施の形態1にかかる補正値算出部における補正値算出処理の第2の例を説明する図を示す。図3に示す第2の例は、現充放電カーブを充電率推定値が増加する方向にシフトさせたときに現充放電カーブを構成するデータの一部が初期充放電カーブに一致する例である。このように、補正値算出部13では、現充電カーブが初期充電カーブと一致し、且つ、現放電カーブが初期放電カーブと一致すれば、その時のシフト量を補正値δSOCとして算出する。このように、現充電カーブの一部分を構成するデータ及び現放電カーブの一部を構成するデータが、いずれも、初期充電カーブの一部分及び初期放電カーブの一部分と一致することにより、算出する補正値δSOCの精度を高めることができる。
【0034】
図5に示したように、二次電池では、メモリ効果に起因して起電圧推定値にずれが生じるのは、充電カーブの一部分(充電率推定値が高い側)と放電カーブの一部分(充電率推定値が低い側)である。そのため、二次電池を利用しながら現充放電カーブを生成し、これを充電率推定値方向にシフトさせることで、少なくとも現充放電カーブのうちメモリ効果に起因した電圧変動が小さい領域のデータは、初期充放電カーブに一致する。つまり、補正値算出部13により算出される補正値δSOCは、メモリ効果により変動する電圧成分の影響を受けず、かつ、メモリ効果による電圧変動による誤差を補正しうるものとなる。
【0035】
続いて、実施の形態1にかかる充電率推定装置1の動作について説明する。そこで、図4に実施の形態1にかかる充電率推定装置1の動作を説明するフローチャートを示す。図4に示すように、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、充電率算出処理が開始されると、まず、モデル電圧値算出部10によりモデル電圧値Vmdlを算出するモデル電圧算出処理を行う(ステップS1)。次いで、減算器11により電池電圧計測値からモデル電圧値Vmdlを引いて起電圧推定値Vemf_setを算出する起電圧推定値算出処理を行う(ステップS2)。
【0036】
次いで、補正値算出部13により充電率誤差を算出するための補正値δSOCを算出する補正値算出処理を行う(ステップS3)。次いで、充電率推定部12が、ステップS3で算出された補正値δSOCを用いながら充電率推定値を算出する充電率推定値算出処理を行う(ステップS4)。このステップS4が終了した時点で充電率推定装置1は充電率算出処理を終了させる。なお、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、図4に示した処理フローを一定の期間毎、或いは、エンジンの始動などの所定動作トリガ毎に行うものとする。
【0037】
上記説明より、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、補正値算出部13により、メモリ効果による起電圧推定値の変動の影響を受けない補正値δSOCを算出する。そして、充電率推定装置1は、この補正値δSOCを用いて充電率推定部12が算出する充電率補正値を補正する。これにより、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、メモリ効果の有無によらず高い精度で充電率推定値を算出することができる。
【0038】
ここで、例えば、充電率推定装置1が放電時に充電率推定値を算出する際に、メモリ効果により起電圧が低下した場合、充電率推定部12は、電圧降下が発生した電池電圧計測値に基づき本来の充電率よりも低い充電率推定値を算出することになる。このような誤差を持った充電率推定値を用いて、二次電池を用いたシステムを動作させた場合、まだ二次電池に電力が残っているにも関わらず、二次電池の充電量が不足していると判断され、電池の使用領域を十分に活用できないとの問題が発生する。しかしながら、実施の形態1にかかる充電率推定装置1を用いることで、上述したような誤差を持った充電率推定値は算出されないため、電池の使用領域を十分に活用することができる。
【0039】
また、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、データのシフト処理のみで補正値δSOCを算出する。このデータのシフト処理は、比較的軽い処理である。そのため、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、補正値δSOCの算出に必要な計算量を削減することができる。
【0040】
また、実施の形態1にかかる充電率推定装置1では、補正値算出部13における補正値δSOCの算出を行う際に現充放電カーブを構成するデータを充電率推定値の全域に亘って集める必要がない。そのため、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、二次電池を完全に充放電させることなく利用する一般的な二次電池の利用状態の中で補正値δSOCを算出することができる。これにより、実施の形態1にかかる充電率推定装置1は、補正値δSOCの更新頻度を高くして、実際の充電率に対する充電率推定値の誤差を小さく維持することができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 充電率推定装置
10 モデル電圧値算出部
11 減算器
12 充電率推定部
13 補正値算出部
図1
図2
図3
図4
図5