(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るケーブルは、1又は複数の絶縁電線と、これらの絶縁電線を囲むシース層とを備えるケーブルであって、上記シース層のアスカーA硬度が75以下、摩耗輪試験機による荷重5kgf、毎分60回転の条件において750回転させた時の摩耗深さが3mm以下、体積固有抵抗が1.0×10
9Ω・cm以上である。
【0015】
当該ケーブルは、上記シース層のアスカーA硬度が75以下であることによって、柔軟性に優れ、工場内での取り回し性が良好となる。また、当該ケーブルは、摩耗輪試験機による摩耗深さが3mm以下であることによって、優れた耐摩耗性を有し、高い耐久性を得ることができる。さらに、当該ケーブルは、体積固有抵抗が1.0×10
9Ω・cm以上であることによって、優れた絶縁性を得ることができる。
【0016】
上記シース層が、ゴム成分とこのゴム成分中に存在する複数の無機フィラーとを有し、上記ゴム成分が、主成分としてクロロプレンゴムを含み、上記無機フィラーが、カーボンブラックと重質炭酸カルシウムとを含むとよい。また、この重質炭酸カルシウムのゴム成分100質量部に対する含有量としては、30質量部以上80質量部以下が好ましい。このように、上記シース層が上記の組成を有し、重質炭酸カルシウムの含有量が上記範囲内であることによって、シース層の硬度を良好に保って柔軟性を高められると共に、シース層の耐摩耗性及び絶縁性を向上できる。
【0017】
上記無機フィラーが層状フィラーを含むとよい。また、この層状フィラーのゴム成分100質量部に対する含有量としては、10質量部以上40質量部以下が好ましい。このように、上記無機フィラーが層状フィラーを含み、層状フィラーの含有量が上記範囲内であることによって、シース層の硬度を良好に保って柔軟性を向上できると共に、さらにシース層の耐摩耗性を向上できる。
【0018】
上記カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量としては、10質量部以上30質量部以下が好ましい。このように、カーボンブラックの含有量を上記範囲内とすることによって、耐摩耗性の向上効果が促進される。
【0019】
当該ケーブルは、移動機器の給電線として用いられるとよい。このように、当該ケーブルを移動機器の給電線として用いることによって、十分な柔軟性を有すると共に、優れた絶縁性と耐摩耗性とを併せ持つ移動機器の給電線を提供することができる。
【0020】
本発明の別の態様に係るシース層用組成物は、ケーブルのシース層用組成物であって、ゴム成分とこのゴム成分中に存在する複数の無機フィラーとを含有し、上記ゴム成分が、主成分としてクロロプレンゴムを含み、上記無機フィラーが、カーボンブラックと重質炭酸カルシウムとを含み、この重質炭酸カルシウムのゴム成分100質量部に対する含有量が30質量部以上80質量部以下である。
【0021】
当該シース層用組成物は、上記の組成を有し、重質炭酸カルシウムの含有量が上記範囲内であることによって、シース層の硬度を良好に保って柔軟性を高められると共に、シース層の耐摩耗性及び絶縁性を向上できる。
【0022】
ここで、「アスカーA硬度」とは、JIS−K6253:2012に基づいてタイプAデュロメータによって測定される硬度を意味する。「摩耗深さ」は、JIS−K7204:1999に準拠して測定される。「体積固有抵抗」とは、JIS−K6271:2008に基づいて二重リング電極法によって測定される電気抵抗値を意味する。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係るケーブルの一つの実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0024】
図1の当該ケーブル1は、複数の絶縁電線2と、この複数の絶縁電線2を囲み、絶縁電線2を保護するシース層3とを備える。なお、
図1においては、絶縁電線2の数を3本としたが、当該ケーブル1は、絶縁電線2を4本以上備えてもよいし、2本備えていてもよい。
【0025】
複数の絶縁電線2は、複数の導体4が束ねられて絶縁層5により覆われている。また、複数の絶縁電線2をシース層3内に安定的に保持するため、複数の絶縁電線2とシース層3との間には絶縁性の介在物6が積層されている。
【0026】
当該ケーブル1の断面形状としては、特に限定されないが、例えば円形、方形、矩形等の種々の形状を採用することができる。また、当該ケーブル1の断面形状を円形とする場合、平均外径の下限としては、例えば10mmとすることができる。一方、上記平均外径の上限としては、例えば100mmとすることができる。
【0027】
[絶縁電線]
絶縁電線2は、複数の導体4とこれら複数の導体4を被覆する絶縁層5とを有する。絶縁層5は、各絶縁電線2が互いに識別可能となるようにそれぞれ異なった色に着色されたものであってもよい。また、絶縁電線2の断面形状を円形とする場合、平均外径の下限としては、例えば1.0mmとすることができる。一方、上記平均外径の上限としては、例えば20mmとすることができる。
【0028】
<導体>
導体4としては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線等が挙げられる。導体4の断面形状としては、特に限定されないが、例えば円形、方形、矩形等の種々の形状を採用することができる。また、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0029】
導体4の断面の大きさとしては、特に限定されないが、導体4の断面形状を円形とする場合、平均外径の下限としては、例えば0.5mmとすることができる。一方、上記平均外径の上限としては、例えば10mmとすることができる。また、導体4は、1又は複数のいずれであってもよい。
【0030】
<絶縁層>
絶縁層5は、絶縁樹脂材料により形成される。絶縁層5の平均厚みの下限としては、特に限定されないが、例えば0.1mmとすることができる。一方、上記平均厚みの上限としては、特に限定されないが、例えば10mmとすることができる。ここで「平均厚み」とは、任意の十点において測定した厚みの平均値をいう。なお、以下において他の部材等に対して「平均厚み」という場合にも同様に定義される。
【0031】
絶縁樹脂材料の主成分としては、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、このポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン(ホモポリマー、ブロックポリマー、ランダムポリマー)、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、リアクター型ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、動的架橋型ポリプロピレン系熱可塑性エラスとマー、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、エチレンアクリルゴム、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体の分子間をナトリウムや亜鉛等の金属イオンで分子間結合したアイオノマー樹脂などを使用できる。また、これらの樹脂を無水マレイン酸等で変性したものや、エポキシ基、アミノ基、イミド基を有するもの等も挙げられる。
【0032】
絶縁樹脂材料は、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等を含有していてもよい。
【0033】
[介在物]
介在物6の形成材料としては、例えば上記絶縁層5に用いる絶縁樹脂材料が挙げられる。介在物6は、複数の絶縁電線2の外周面に積層され、介在物6の外周面にシース層3が積層される。
【0034】
[シース層]
シース層3は、後述するシース層用組成物により形成される。シース層3の厚みはケーブルのサイズ、用途等に応じて適宜決定される。シース層3の平均厚みの下限としては、0.05mmが好ましく、1mmがより好ましく、2mmがさらに好ましい。一方、シース層3の平均厚みの上限としては、10mmが好ましく、8mmがより好ましく、5mmがさらに好ましい。シース層3の平均厚みが上記下限より小さい場合、耐摩耗性が不足するおそれがある。逆に、シース層3の平均厚みが上記上限を超える場合、柔軟性が低下するおそれがある。
【0035】
当該シース層用組成物は、ゴム成分とこのゴム成分中に存在する複数の無機フィラーとを含有する。また、当該シース層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲においてその他の成分を含有してもよい。
【0036】
<ゴム成分>
ゴム成分は、機械的強度、柔軟性、耐候性、耐熱性、耐油性、耐薬品性等に優れるクロロプレンゴムを用いることが好ましい。クロロプレンゴムがゴム成分の主成分として用いられることによって、シース層として好適な特性が得られる。
【0037】
当該シース層用組成物に使用するクロロプレンゴムの種類は特に限定されず、非変性のクロロプレンゴム、各種変性クロロプレンゴム等の何れの種類のクロロプレンゴムも用いることができる。なお、シース層用組成物調製のための混合工程及びシース層を形成するための押出成形工程における焼けの発生等の加熱による品質の低下を防止する観点から、耐熱性に優れるメルカプタン変性クロロプレンゴム、キサントゲン変性クロロプレンゴム又はこれらの組み合わせを用いることがより好ましい。
【0038】
<無機フィラー>
無機フィラーとしては、カーボンブラック、重質炭酸カルシウム及び層状フィラーを使用できる。これらの無機フィラーを使用することによって、シース層に柔軟性を付与しつつ耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
(カーボンブラック)
当該シース層用組成物が含有するカーボンブラックの平均粒径の下限としては、10nmが好ましく、15nmがより好ましい。一方、当該シース層用組成物におけるカーボンブラックの平均粒径の上限としては、50nmが好ましく、30nmがより好ましい。カーボンブラックの平均粒径が上記下限より小さい場合、ゴム成分中にカーボンブラックを均一に分散するのが難しくなり、カーボンブラックの平均粒径が上記上限より大きい場合、シース層の高い耐摩耗性を得にくくなる。使用するカーボンブラックとしては、例えば東海カーボン社のシースト3H(平均粒子径27nm)、シースト5H(平均粒子径22nm)、シースト9H(平均粒子径18nm)等を挙げることができる。ここで平均粒径とは、透過型電子顕微鏡により、無作為に選択した粒子の粒径を計測し、それらを算術平均した値をいう。
【0040】
当該シース層用組成物におけるカーボンブラックの含有量の下限としては、ゴム成分100質量部に対して10質量部が好ましく、15質量部がより好ましく、18質量部がさらに好ましい。一方、当該シース層用組成物におけるカーボンブラックの含有量の上限としては、ゴム成分100質量部に対して30質量部が好ましく、25質量部がより好ましく、22質量部がさらに好ましい。カーボンブラックの含有量が上記下限より小さい場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。逆に、カーボンブラックの含有量が上記上限を超える場合、シース層の電気絶縁性が急激に低下し、漏電しやすくなるおそれがある。
【0041】
(重質炭酸カルシウム)
当該シース層用組成物が含有する重質炭酸カルシウムは特に限定されないが、重質炭酸カルシウムの平均粒径としては、0.5μm以上10μm以下のものを使用することができる。重質炭酸カルシウムの平均粒径が上記下限より小さい場合、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウムの平均粒径が上記上限を超える場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。また、重質炭酸カルシウムの比表面積としては、3,000cm
2/g以上30,000cm
2/g以下のものを使用することができる。重質炭酸カルシウムの比表面積が上記下限より小さい場合は、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウムの比表面積が上記上限を超える場合は、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。ここで比表面積とは単位質量あたりの表面積をいう。
【0042】
当該シース層用組成物における重質炭酸カルシウムの含有量の下限としては、ゴム成分100質量部に対して30質量部が好ましく、35質量部がより好ましく、40質量部がさらに好ましい。一方、当該シース層用組成物における重質炭酸カルシウムの含有量の上限としては、ゴム成分100質量部に対して80質量部が好ましく、70質量部がより好ましく、60質量部がさらに好ましい。重質炭酸カルシウムの含有量が上記下限より小さい場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウムの含有量が上記上限を超える場合、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。
【0043】
(層状フィラー)
層状フィラーとしては、焼成クレー及びタルクを使用することができる。当該シース層用組成物における層状フィラーの含有量の下限としては、ゴム成分100質量部に対して10質量部が好ましく、15質量部がより好ましく、20質量部がさらに好ましい。一方、当該シース層用組成物における層状フィラーの含有量の上限としては、ゴム成分100質量部に対して40質量部が好ましく、35質量部がより好ましく、32質量部がさらに好ましい。層状フィラーの含有量が上記下限より小さい場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。逆に、層状フィラーの含有量が上記上限を超える場合、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。
【0044】
当該シース層用組成物における焼成クレーの含有量の下限としては、ゴム成分100質量部に対して10質量部が好ましく、15質量部がより好ましく、25質量部がさらに好ましい。一方、当該シース層用組成物における焼成クレーの含有量の上限としては、ゴム成分100質量部に対して40質量部が好ましく、38量部がより好ましく、35質量部がさらに好ましい。焼成クレーの含有量を上記範囲内とすることによって、シース層の柔軟性を有しつつシース層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0045】
当該シース層用組成物における焼成クレーの平均粒径の下限としては、0.3μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。一方、当該シース層用組成物における焼成クレーの平均粒径の上限としては、1.2μmが好ましく、1.0μmがより好ましい。焼成クレーの平均粒径が上記下限より小さい場合、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。逆に、焼成クレーの平均粒径が上記上限を超える場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。
【0046】
当該シース層用組成物におけるタルクの含有量の下限としては、ゴム成分100質量部に対して0質量部が好ましく、15質量部がより好ましく、25質量部がさらに好ましい。一方、当該シース層用組成物におけるタルクの含有量の上限としては、ゴム成分100質量部に対して40質量部が好ましく、38質量部がより好ましく、35質量部がさらに好ましい。タルクの含有量を上記範囲内とすることによって、シース層の柔軟性を有しつつシース層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0047】
当該シース層用組成物におけるタルクの平均粒径の下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、当該シース層用組成物におけるタルクの平均粒径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。タルクの平均粒径が上記下限より小さい場合、シース層の柔軟性が低下するおそれがある。逆に、タルクの平均粒径が上記上限を超える場合、シース層の耐摩耗性の向上効果が得られず、シース層の耐摩耗性が不足するおそれがある。
【0048】
(その他の成分)
その他の成分としては、例えば難燃剤、軟化剤、架橋剤、滑剤、補強剤、加硫促進剤、酸化防止剤、受酸剤、加工助剤等を挙げることができる。クロロプレンゴムは酸化マグネシウム及び酸化亜鉛を併用することで効率的に加硫させることができるが、更に効率的に加硫させるために加硫促進剤を併用することができ、また、架橋密度を向上させるために架橋剤として硫黄を添加する場合がある。
【0049】
<シース層の特性>
当該ケーブル1のシース層3におけるアスカーA硬度の上限としては、75が好ましく、72がより好ましく、70がさらに好ましい。アスカーA硬度を上記上限以下とすることによって、柔軟性に優れ、工場内での取り回し性が良好となる。
【0050】
当該ケーブル1のシース層3における摩耗輪試験機による荷重5kgf、毎分60回転の条件において750回転させた時の摩耗深さの上限としては、3mmが好ましく、2.4mmがより好ましく、2mmがさらに好ましい。摩耗輪試験機による摩耗深さを上記上限以下とすることによって、優れた耐摩耗性を有し、高い耐久性を得ることができる。
【0051】
当該ケーブル1のシース層3における体積固有抵抗の下限としては、1.0×10
9Ω・cmが好ましく、1.0×10
10Ω・cmがより好ましく、1.0×10
11Ω・cmがさらに好ましい。体積固有抵抗を上記下限以上とすることによって、優れた絶縁性を得ることができる。
【0052】
[ケーブルの製造方法]
次に、当該ケーブル1の製造方法について説明する。当該ケーブル1の製造方法は、上記シース層用組成物を溶融する工程(溶融工程)と、上記シース層用組成物を介在物6の外側に被覆する工程(被覆工程)とを備える。
【0053】
<溶融工程>
シース層用組成物は、上記シース層用組成物の構成材料をロール混合機、単軸混練押出機、二軸混練押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ロール混合機等の既知の混合機を用いて混合することにより行う。また、混合中に加硫反応が進行しないように、混合はシース層用組成物の温度が100℃を越えないようにして行い、必要に応じて水冷を行う。
【0054】
<被覆工程>
シース層は、溶融押出機等の既知の押出成形機を用いてシース層用組成物を介在物6の上に押出成形し、加硫することにより形成される。加硫は、公知の方法により行うことができる。例えば、加硫の方法としては、加圧水蒸気法、缶加硫方法等を用いることができる。シース層の厚みはケーブルのサイズ、用途等に応じて適宜決定される。
【0055】
当該ケーブルは、工場内での移動機器の給電線や電気自動車の急速充電ケーブルとして使用することができる。
【0056】
<利点>
当該ケーブルは、上記シース層のアスカーA硬度が75以下であることによって、柔軟性に優れ、工場内での取り回し性が良好となる。また、当該ケーブルは、摩耗輪試験機による摩耗深さが3mm以下であることによって、優れた耐摩耗性を有し、高い耐久性を得ることができる。さらに、当該ケーブルは、体積固有抵抗が1.0×10
9Ω・cm以上であることによって、優れた絶縁性を得ることができる。
【0057】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0058】
当該ケーブルは、絶縁電線の数が1本であってもよい。
【0059】
また、当該ケーブルは、絶縁電線とシース層との間に介在物を積層せずに、シース層を直接絶縁電線の外側に被覆するようにしてもよい。
【0060】
また、導体が複数の金属線を撚り合わせた撚線から形成されていてもよい。この場合、複数種の金属線が組み合わされていてもよい。
【0061】
また、絶縁電線が導体に直接積層されるプライマー層を有していてもよい。このプライマー層としては、例えば金属水酸化物を含有しないエチレン等の架橋性樹脂を架橋させたものを用いることができる。このようなプライマー層を設けることによって、経時的に絶縁層の剥離性が低下することを防止できると共に、結線作業の効率が低下することを防止できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0063】
<ケーブルNo.1〜9の作製>
[シース層用組成物の調製]
以下に詳述するように、クロロプレンゴム、重質炭酸カルシウム、層状フィラー、カーボンブラック及び他の添加剤を材料としてケーブルNo.1〜9のシース層用組成物の調製を行った。
【0064】
(クロロプレンゴム)
クロロプレンゴムとしては、キサントゲン変性クロロプレンゴムを用いた。このキサントゲン変性クロロプレンゴムは、電気化学工業株式会社の「デンカ クロロプレン(登録商標)M−40」である。
【0065】
(重質炭酸カルシウム)
重質炭酸カルシウムとしては、白石カルシウム株式会社の「ホワイトン(登録商標)SB」(平均粒径3.6μm、比表面積6,000cm
2/g)を用いた。
【0066】
(層状フィラー)
層状フィラーとしては、焼成クレー及びタルクを用いた。上記焼成クレーは、白石カルシウム株式会社の「クラウンクレー」である。上記タルクは、日本タルク株式会社の「シムゴンタルク」である。
【0067】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、東海カーボン株式会社の「シーストNH」を用いた。
【0068】
(他の添加剤)
他の添加剤としては、プロセスオイル、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、加硫促進剤、加硫剤等を用いた。上記プロセスオイルは、出光興産株式会社の「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルNS−90S」である。上記酸化マグネシウムは、協和化学工業株式会社の「キョーワマグ(登録商標)#150」である。上記酸化亜鉛は、堺化学工業株式会社の「酸化亜鉛1種」である。上記加硫促進剤は、川口化学工業株式会社の「アクセル(登録商標)DM」である。上記加硫剤は硫黄である。
【0069】
シース層用組成物No.1〜9における重質炭酸カルシウム、層状フィラー及びカーボンブラックのクロロプレンゴム100質量部に対する含有量(単位:質量部)を表1に示す。上記の材料を表1に示すように配合し、バンバリーミキサーによって混合した。混合中に加硫が進行しないように水冷をしつつ、シース層用組成物の温度が100℃以下になるようにして混合してシース層用組成物を調製した。なお、他の添加剤については、ケーブルNo.1〜9において同じ量を配合した。
【0070】
調製したシース層用組成物をオープンロールで帯状に延ばし、ゴム押出機を用いて押出被覆した。その後、熱加硫処理を160分行ってケーブルサンプルを作製した。押出しは、ゴム温度が100℃を超えないように水冷しながら行った。ケーブルの作製は、600V特殊移動用2種EPゴム絶縁クロロプレンシースキャブタイヤケーブル(F−2PNCT)と呼ばれる設計で行った(3心、公称断面積38mm
2、シース層厚み3mm)。
【0071】
<ケーブルの特性>
以上のようにして得られたケーブルNo.1〜9について、アスカーA硬度、摩耗輪試験機による摩耗深さ(耐摩耗性)、体積固有抵抗(絶縁性)、引張強度、引張伸び、耐熱性及び耐油性を評価した。その結果を表1に合わせて示す。
【0072】
(1)アスカーA硬度
JIS−K6253:2012に基づいてアスカーA硬度を測定した。具体的にはシース層用組成物から熱プレス機を用いて厚さ6mmの試験片を作製し、タイプAデュロメータによって硬度を測定した。
【0073】
(2)摩耗深さ(耐摩耗性)
JIS−K7204:1999に基づき摩耗輪試験を行い、磨耗深さにより耐摩耗性を評価した。具体的には
図2に示すように、ケーブル1の先端に所定の加重(5kgfの錘)を吊り下げ、他端を摩耗輪試験装置20の把持部で把持して、ケーブル1の側面を摩耗輪21に押し当て、摩耗輪21を毎分60回転で750回転させてシース層(
図1のシース層3に相当する)を摩耗させた後、ケーブル1の磨耗深さを測定した。
【0074】
(3)体積固有抵抗(絶縁性)
シース層用組成物から熱プレス機を用いて、φ100mm×t2.5mmのサイズの試験サンプルを作製し、JIS−K6271:2008に定める二重リング電極法を用いて電気抵抗を測定した。測定値から体積固有抵抗値を求めた。
【0075】
(4)引張強度及び引張伸び
JIS−C3005:2014の4.16に基づいて、引張強度及び引張伸びを測定した。引張強度については、13MPa以上を合格とし、引張伸びについては、300%以上を合格とした。
【0076】
(5)耐熱性
JIS−C3005:2014の4.16に基づいて加熱後の引張強度及び引張伸びの残率(%)を測定した。具体的には、100℃で48時間加熱した後に取り出し、常温に4時間以上放置した後96時間以内に引張強度及び引張伸びを測定した。引張強度及び引張伸びの各々の残率Xは以下の式によって算出した。
残率X%=C
1/C
0・・・(1)
式(1)中、C
0は加熱前の引張強度又は引張伸びであり、C
1は加熱後の引張強度又は引張伸びである。
【0077】
(6)耐油性
JIS−C3005:2014の4.18に基づいて保温した試験用油中に浸した後の引張強度及び引張伸びの残率(%)を測定した。具体的には、120℃の試験用油中に18時間浸した後に取り出し、表面に付着した余分の油を軽く拭き取って,常温に4時間以上放置し、96時間以内に引張強度及び引張伸びを測定した。引張強度及び引張伸びの各々の残率Yは以下の式によって算出した。
残率Y%=C
3/C
2・・・(2)
式(2)中、C
2は浸油前の引張強度又は引張伸びであり、C
3は浸油後の引張強度又は引張伸びである。
【0078】
【表1】
【0079】
表1のNo.1〜4とNo.9との結果から、重質炭酸カルシウムのゴム成分100質量部に対する含有量を30質量部以上80質量部以下とすることで、シース層のアスカーA硬度を75以下、摩耗輪試験機による摩耗深さを3mm以下、体積固有抵抗を1.0×10
9Ω・cm以上としつつ、引張強度及び引張伸びにおいて良好な結果が得られ、優れた耐摩耗性及び柔軟性を発揮することができることがわかる。また、No.1〜4は、耐熱性及び耐油性においても良好な結果が得られた。すなわち、No.1〜4のシース層は、優れた柔軟性を有すると共に、十分な絶縁性と耐摩耗性とを併せ持つ。