特許第6649817号(P6649817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649817
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】がん細胞におけるPpIX蓄積増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/45 20060101AFI20200210BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20200210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200210BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20200210BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   A61K31/45
   A61K31/195
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61K41/00
   A61K49/00
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-48300(P2016-48300)
(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2017-160171(P2017-160171A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 究
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 直実
(72)【発明者】
【氏名】小倉 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 沢
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−012305(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/125732(WO,A1)
【文献】 特開2011−225471(JP,A)
【文献】 特開2016−006121(JP,A)
【文献】 Clin Cancer Res, 2009, Vol.15(10), p.3333-3343
【文献】 日本臨床分子形態学会総会, 2011, Vol.43rd, p.64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/45
A61K 31/195
A61K 41/00
A61K 49/00
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞におけるPpIX蓄積増強用組み合わせ医薬であって、
前記医薬は、順次または同時に適用される、
(a)下記式(I)で示される化合物:
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、および、
(b)シクロヘキシミド
を含むことを特徴とする、
医薬。
【請求項2】
請求項1に記載の組み合わせ医薬であって、
前記(b)の適用の後に、前記(a)が適用されることを特徴とする、
医薬。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組み合わせ医薬であって、
前記組み合わせの態様が、配合剤であることを特徴とする、
医薬。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組み合わせ医薬であって、
前記組み合わせの態様が、キットであることを特徴とする、
医薬。
【請求項5】
請求項1に記載の組合せ医薬であって、
前記「がん細胞におけるPpIX蓄積増強」が、前記(a)の単独投与の場合のがん細胞におけるPpIXの蓄積に比較して、PpIXの蓄積が増強されている
ことを特徴とする、
医薬。
【請求項6】
がんに対する光線力学的治療用医薬または光線力学的診断用医薬であって、
前記医薬は、
(a)下記式(I)で示される化合物:
【化2】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、を含み、
前記医薬は、
(b)シクロヘキシミドと併用される
ことを特徴とする、
医薬。
【請求項7】
がん細胞におけるPpIX蓄積増強用医薬であって、
前記医薬は、(b)シクロヘキシミドを含み、
前記医薬は、(a)下記式(I)で示される化合物:
【化3】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
と併用されることを特徴とする、
医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞におけるPpIX蓄積増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤治療や放射線療法とは異なるがん治療の選択肢の1つとして、光線力学的治療(Photodynamic therapy;PDT)が挙げられる。PDTによるがん治療は、がん細胞に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、がん組織に特定の波長の光を照射することによりがんの治療を行う治療方法であり、低侵襲かつ治療跡が残りにくい治療法であるため、近年注目を集めている。
【0003】
また、近年、がん、イボ、ニキビのような疾患組織の診断方法として、光線力学的診断(Photodynamic diagnosis、以下、PDDと略す)が注目されている。PDDは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、特定の波長の光を照射することにより標的箇所の特定を行う診断方法であり、これまでの診断法と比較して、低侵襲で副作用が少ないため、患者に対する負担が少ないという利点がある。
【0004】
上述のとおり、PDTやPDDにおいては、治療または検出の対象となる組織に集積する性質をもつ、光に反応する化合物(光増感剤)を利用する。PDTやPDDにおいて好適に用いられる光増感剤については、様々なものが検討されているが、近年、ポルフィリンの前駆物質であり、生体物質である5−アミノレブリン酸類(本明細書において、「ALA類」ともいう)を対象に投与し、PDTまたはPDDと組み合わせる、「ALA−PDT」または「ALA−PDD」が注目されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
ALA類それ自体には光感受性はないものの、ALA類は、細胞内で、ヘム生合成経路の一連の酵素群により代謝活性化されてポルフィリン(主としてプロトポルフィリンIX(PpIX))となる。ポルフィリン類は腫瘍細胞に取り込まれて蓄積される性質を有し、また、PpIXは、410nm、510nm、545nm、580nm、630nm等にピークを有する光増感剤であるため、PDTまたはPDDに利用することができる。ALAは生体内で代謝され、48時間以内に排泄されるため、全身の光感受性にはほとんど影響しないという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−12197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ALA−PDTまたはALA−PDDにおいては、対象にALA類を投与し、がん細胞にPpIXが蓄積することにより、光線力学的反応を用いたがんの治療又は検出が可能となる。しかし、ALA−PDDにおいては、がん細胞へのPpIXの蓄積が少ない場合には、がんの辺縁部(正常組織とがん組織の境界)の視認が困難である。また、ALA−PDTにおいても、がん細胞へのPpIXの蓄積が少ない場合には、十分な治療効果を得ることができない。そこで、ALA−PDTまたはALA−PDDにおいて、がん細胞へのPpIXの蓄積を高めることが課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
休眠がん細胞は腫瘍内の微小環境などの影響によって、細胞増殖が抑制されたがん細胞である。休眠がんは化学療法や放射線療法の多くに対して、治療抵抗性であることが知られているが、休眠がん細胞の詳細な特徴については未解明のままである。
【0009】
本発明者らは、in vitroにおける休眠がん細胞のモデルを作成し、その特徴を解析したところ、驚くべきことに、休眠がん細胞(すなわち、細胞増殖が抑制されたがん細胞)においては、通常のがん細胞と比較して、ALA適用時のPpIXの蓄積が増強されており、ALA−PDTまたはALA−PDDに対する感受性が向上していることを見出した(例えば本願明細書の実施例1−5を参照のこと)。
【0010】
本発明者らは、上記の知見に基づき、非休眠がん細胞(すなわち、細胞の増殖が抑制されていない通常のがん細胞)においても、細胞の増殖を抑制させることにより、がん細胞へのALA投与時のPpIXの蓄積を増強させ、ALA−PDTまたはALA−PDDに対する感受性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに到った(例えば本願明細書の実施例6を参照のこと)。
【0011】
すなわち本発明は、一実施形態において、がん細胞におけるPpIX蓄積増強用組み合わせ医薬であって、前記医薬は、順次または同時に適用される、
(a)下記式(I)で示される化合物:
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、および、
(b)細胞増殖を阻害する薬剤、
を含むことを特徴とする、
医薬に関する。
【0012】
また、本発明の一実施形態においては、前記細胞増殖を阻害する薬剤は、アルキル化薬、白金製剤、タンパク質合成阻害薬、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害剤、微小管脱重合阻害薬、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、細胞周期を調節する因子に対する分子標的薬、アロマターゼ阻害剤、および、ホルモン剤からなる群から選択される薬剤であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一実施形態においては、前記タンパク質合成阻害薬が、シクロヘキシミドまたはその誘導体であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一実施形態においては、前記(b)の適用の後に、前記(a)が適用されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態においては、前記組み合わせの態様が、配合剤であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施形態においては、前記組み合わせの態様が、キットであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一実施形態においては、前記「がん細胞におけるPpIX蓄積増強」が、前記(a)の単独投与の場合のがん細胞におけるPpIXの蓄積に比較して、PpIXの蓄積が増強されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の他の一実施形態は、がんに対する光線力学的治療用医薬または光線力学的診断用医薬であって、前記医薬は、
(a)下記式(I)で示される化合物:
【化2】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、を含み、
前記医薬は、
(b)がん細胞において、上記化合物から誘導されるPpIXの蓄積を増強するための、細胞増殖を阻害する薬剤と併用される
ことを特徴とする、医薬に関する。
【0019】
また、本発明の他の実施形態は、がん細胞におけるPpIX蓄積増強用医薬であって、前記医薬は、
(b)細胞増殖を阻害する薬剤を含み、
前記医薬は、
(a)下記式(I)で示される化合物:
【化3】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
と併用されることを特徴とする、医薬に関する。
【0020】
また、本発明の他の実施態様は、がん患者のがん細胞においてPpIXの蓄積を増強させる方法であって、
(A)治療上有効量の、下記式(I)で示される化合物を前記がん患者に投与するステップ、
【化4】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、および、
(B)治療上有効量の、細胞増殖を阻害する薬剤を前記がん患者に投与するステップ、
を前記がん患者に適用するステップ、を含む、方法に関する。
【0021】
また、本発明の一実施態様においては、前記ステップ(B)の後に、前記ステップ(A)が実行されることを特徴とする。
【0022】
また、上記に挙げた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、EZSPHERE(商標)におけるPC−3がん細胞のスフェロイド形成を示した図である。スフェロイドに関してはPC−3細胞をEZSPHERE(商標)で培養した。2次元培養に関しては4.2×10cells/cmで播種した。どちらも4日間培養した。図1(a):2次元培養およびS500スフェロイドの位相差顕微鏡写真(2次元培養:4.2×10cells/cm,3次元培養:S500.Scale bar,100μm.)。図1(b):S500スフェロイドの核染色下における共焦点レーザー顕微鏡写真(Hoechst 33342,1μM. Scale bar,20μm.)。図1(c):形成したスフェロイドの直径(S125:1.25×10,S250:2.50×10,S500:5.00×10cells/35−mm dish. n>40.)。
図2図2は、がん細胞をそれぞれ異なる細胞密度環境で培養した結果を示す。それぞれの播種数においては4日間培養後、0.1MのNaOH水溶液を用いて細胞を溶解して細胞内のタンパク質を回収した。図2(a):位相差顕微鏡写真(Scale bar,500μm.)。図2(b):タンパク質定量(Bradford法,n=3.)。
図3図3は、がん細胞スフェロイドおよび2次元培養したがん細胞における細胞増殖を評価した結果を示す。それぞれの播種数で4日間培養した後、測定した。図3(a):Ki−67およびp21のタンパク質発現解析(Western blotting)。図3(b):Ki−67およびp21のバンド強度。
図4図4は、がん細胞スフェロイドおよび2次元培養したがん細胞における細胞増殖の評価を示す。それぞれの播種数で4日間培養した後、測定した。図4(a):異なる細胞密度下におけるBrdU免疫染色(Scale bar,50μm.)。図4(b):異なる細胞密度下におけるBrdU陽生率(n=3.Over 400 cells were counted.)
図5図5は、2次元培養したがん細胞およびがん細胞スフェロイドにおける細胞生存率を比較したグラフである。それぞれの播種数で4日間培養した。2次元培養はトリプシンを用いて細胞を回収し、スフェロイドはピペッティングによって細胞を回収した。(n=3.)
図6図6は、がん細胞スフェロイドおよびがん細胞の高密度な2次元培養における2−NBDG取り込みを評価した結果を示す。FBSおよびグルコース非含有の培地で24時間培養後に、100μMの2−NBDGを添加し、25分培養した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した(Scale bar,20μm.)。図6(a):2次元培養における2−NBDGの取り込み。図6(b):スフェロイドにおける2−NBDGの取り込み。図6(c):2次元培養における2−NBDGの輝度解析(n=3.)。図6(d):スフェロイドにおける2−NBDGの輝度解析(n=3.)。
図7図7は、がん細胞スフェロイドの再増殖を評価した結果したグラフである。4.2×10cells/cmで培養した2次元培養およびS500スフェロイドを用いた。4日間培養後の細胞数がほぼ同じであることを確認し、4.2×10cells/cmで2次元培養した。その後、11日間にわたって細胞数をトリパンブルー染色によって測定した。(n=3.)
図8図8は、2次元培養したがん細胞における抗がん剤(CDDP)の細胞毒性を評価した結果を示す(MTT法)。薬剤添加72時間後に細胞生存率を測定した。図8(a):全濃度における細胞生存率(n=6.)。図8(b):6.25μMにおける細胞生存率(計算値[%],;p<0.001. n=6.)。図8(c):6.25μMにおける細胞生存率(n=6.)。
図9図9は、2次元培養したがん細胞における抗がん剤(5−FU)の細胞毒性を評価した結果を示す(MTT法)。図9(a):全濃度における細胞生存率(n=6.)。図9(b):50μMにおける細胞生存率(計算値[%],;p<0.001. n=6.)。図9(c):50μMにおける細胞生存率(n=6.)。
図10図10は、がん細胞の休眠性とPpIXの蓄積について解析した結果を示す。各細胞を、1mM ALAで24時間培養した。HBSS(+)中で共焦点レーザー顕微鏡による生細胞観察を行った。0.1M NaOH溶液で溶解した後にHPLCによって定量した(Scale bar,20μm.)。図10(a):共焦点レーザー顕微鏡による2次元培養下のPpIX蓄積解析。図10(b):HPLCによる2次元培養下のPpIX蓄積解析(n=3.)。
図11図11は、がん細胞の休眠性とPpIXの蓄積について解析した結果を示す。各細胞を、1mM ALAで24時間培養した。HBSS(+)中で共焦点レーザー顕微鏡による生細胞観察を行った。0.1M NaOH溶液で溶解した後にHPLCによって定量した(Scale bar, 20 μm.)。図11(a):共焦点レーザー顕微鏡による3次元培養下のPpIX蓄積解析。図11(b):HPLCによる3次元培養下のPpIX蓄積解析(n=3.)。
図12図12は、がん細胞の休眠性とALA−PDTの効果との相関について解析した結果を示す。1mM ALAで24時間培養後に赤色光を5分間照射した。一晩培養後に、MTT法によって細胞生存率を測定した。Cell viability[%]は、「hν+/hν−×100」で算出した。図12(a):2次元培養におけるALA−PDTの殺細胞効果(n=6.)。図12(b):3次元培養におけるALA−PDTの殺細胞効果(n=3.)。
図13図13は、休眠がん細胞においてPpIX蓄積に関するトランスポーターの発現解析を行った結果を示す。全ての細胞は4日間培養した後にLysis bufferで溶解させた。図13(a):2次元培養におけるトランスポーターの発現解析(Western blotting)。図13(b):2次元培養におけるバンド強度。
図14図14は、休眠がん細胞においてPpIX蓄積に関するトランスポーターの発現解析を行った結果を示す。全ての細胞は4日間培養した後にLysis bufferで溶解させた。図14(a):3次元培養におけるトランスポーターの発現解析(Western blotting)。図14(b):3次元培養におけるバンド強度。
図15図15は、休眠がん細胞におけるPpIX蓄積に関するトランスポーターの発現傾向を示した図である。
図16図16は、MTXまたはCHXによって非休眠がん細胞の細胞増殖が抑制されたことを示す。タンパク質発現は10μM Methotrexate(MTX)および10μg/ml Cycloheximide(CHX)を48時間添加した細胞を用いて解析した。PpIX蓄積は、細胞増殖抑制剤を24時間添加した後にALAを24時間添加した細胞を用いて解析した。図16(a):細胞内タンパク質量(Bradford法,n=3.)。図16(b):遺伝子発現解析(Western blotting)。図16(c):Ki−67およびABCG2のバンド強度。
図17図17は、非休眠がん細胞を細胞増殖抑制下に置いた場合のPpIX蓄積を解析した結果を示す。タンパク質発現は10μM Methotrexate(MTX)および10μg/ml Cycloheximide(CHX)を48時間添加した細胞を用いて解析した。PpIX蓄積は、細胞増殖抑制剤を24時間添加した後にALAを24時間添加した細胞を用いて解析した。図17(a):共焦点レーザー顕微鏡によるPpIX蓄積解析(Scale bar,20μm.)。図17(b):HPLCによるPpIX蓄積解析(;p<0.005. n= 3.)。
図18図18は、非休眠がん細胞を細胞増殖抑制下に置いた場合のALA−PDTによる殺細胞効果を解析した結果を示す(;p<0.003.n=3.)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0025】
本明細書において、ALAは、5−アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ−アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0026】
ALAの誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R及びRが水素原子の場合に相当する。
【化5】
【0027】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0028】
式(I)のRにおけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0029】
式(I)のRにおけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0030】
式(I)のRにおけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0031】
式(I)のRにおけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0032】
式(I)のRにおけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0033】
好ましいALA誘導体としては、Rが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記Rが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記RとRの組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0034】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0035】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0036】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0037】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0038】
本明細書において、ALA−PDTとはALA類を用いる光線力学的治療(PDT)を意味し、最も典型的には、ALAを用いるPDTを意味する。また、ALA−PDDとはALA類を用いる光線力学的診断(PDD)を意味し、最も典型的には、ALAを用いるPDDを意味する。
【0039】
上記ALA−PDTは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、特定の波長の光線を照射することにより標的箇所を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を対象へ投与する。対象の体内において、色素生合成経路を経てALA類から誘導されたポルフィリン(主にPpIX)を標的箇所に集積させ、集積したPpIXを励起させることで、周囲の酸素分子を光励起させる。その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有する。ALA−PDTには、例えば、400nm〜420nmにピークを持つ光線、又は、600nm〜650nmにピークを持つ光線を用いるのが好ましい。
【0040】
一方、上記ALA−PDDは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、光線を照射することにより標的箇所を治療するPDDを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を対象へ投与する。対象の体内において、色素生合成経路を経てALA類から誘導されたポルフィリン(主にPpIX)を標的箇所に集積させ、集積したPpIXを励起させて蛍光を検出することで、標的組織の存在の有無を検出もしくは診断する。ALA−PDDには、例えば、400nm〜420nmにピークを持つ光線を用いるのが好ましい。
【0041】
本発明において用いられる、細胞増殖を阻害する薬剤は、直接的または間接的にがん細胞の増殖を阻害する作用を有する薬剤であれば、限定されない。例えば、細胞増殖を阻害する薬剤は、直接的または間接的にがん細胞の細胞周期を阻害する薬剤であってもよい。本発明において用いられる細胞増殖を阻害する薬剤は、例えば抗がん剤であってもよいが、がん細胞の増殖を阻害する作用を有する薬剤である限り、抗がん剤に限定されない。
【0042】
本発明において用いられる、細胞増殖を阻害する薬剤の例として、例えば、アルキル化薬、白金製剤、タンパク質合成阻害薬、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管重合阻害剤、微小管脱重合阻害薬、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、細胞周期を調節する因子に対する分子標的薬、アロマターゼ阻害剤、または、ホルモン剤であってよい。本発明において、細胞増殖を阻害する薬剤としてはタンパク質合成阻害薬を用いることが好ましく、タンパク質合成阻害薬のうちシクロヘキシミドまたはその誘導体を用いることがさらに好ましい。シクロヘキシミドの誘導体としては、例えばJ Med Chem.1999 Sep 9;42(18):3615−22. Synthesis and cytotoxic evaluation of cycloheximide derivatives as potential inhibitors of FKBP12 with neuroregenerative properties.に記載の化合物を用いることができる。
【0043】
本発明は、ALA類と細胞増殖を阻害する薬剤との組み合わせに関するが、その組み合わせの態様は特に限定されず、PDTまたはPDDの実施態様に応じて、当業者が様々な方法でALA類と細胞増殖を阻害する薬剤とを組み合わせることができる。
【0044】
本発明において、ALA類または細胞増殖を阻害する薬剤のそれぞれの投与経路は限定されず、当業者が薬剤の種類、疾患の状態、患者の健康状態等に応じて適宜選択することができる。例えば、対象(生体等)への投与経路としては、全身投与であっても、局所投与であってもよい。限定はされないが、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、カテーテルによる、標的組織又は臓器に対する直接投与、点滴を含む静脈内投与、貼付剤等による経皮投与、座薬、又は、経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。もちろん、ALA類と細胞増殖を阻害する薬剤とは異なる経路から対象へ投与されてよい。
【0045】
本発明において、ALA類を対象へ投与する場合の剤型、細胞増殖を阻害する薬剤を対象へ投与する場合の剤型、および、ALA類と細胞増殖を阻害する薬剤を含む配合剤として用いる場合の剤型は、前記投与経路に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、剤型の例として、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、貼付剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0046】
本発明に係る医薬は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができるのは言うまでもない。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0047】
本発明における、ALA類の対象への投与量は、PDTまたはPDDの実施態様に応じて、当業者(例えば薬理学者や臨床医)が適宜決定することができる。限定はされないが、ALA換算で対象の体重1kgあたり、1mg〜1,000mg、好ましくは5mg〜100mg、より好ましくは10mg〜30mg、さらに好ましくは15mg〜25mg投与することができる。
【0048】
ALA類の投与期間は、例えば、対象の症状又は状態等を考慮して、当業者(例えば薬理学者や臨床医)が適宜決定することができる。
【0049】
本発明において、細胞増殖を阻害する薬剤は、ALA類が代謝されて生成されるPpIXのがん細胞への蓄積を増強させる目的で投与されることから、ALA類を投与する前に対称へ投与することが好ましい。
【0050】
本発明の適用対象となるがんの種類は限定されないが、例えば、脳腫瘍、脊髄腫瘍、上顎洞癌、膵液腺癌、歯肉癌、舌癌、口唇癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、肺癌、胸膜腫瘍、癌性腹膜炎、癌性胸膜炎、食道癌、胃癌、大腸癌、胆管癌、胆嚢癌、膵臓癌、肝癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣腫瘍、副腎癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰癌、卵巣癌、骨腫瘍、乳癌、皮膚癌、メラノーマ、基底細胞腫、リンパ腫、白血病、ホジキン病、形質細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫及び線維肉腫、等を例示することができる。
【0051】
本発明の適用対象は、典型的にはヒトであるが、愛玩動物、実験動物、家畜など非ヒト動物である場合も含む。また、好ましくない場合には、対象からヒトを除いてもよい。
【0052】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0053】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0054】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0055】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0056】
実施例1:in vitroでの休眠がんモデルの作成および評価
5.0×10個のPC−3細胞を35mmのEZSPHERE(商標)に播種し、4日間培養することによってがん細胞スフェロイドを形成した。1つの培養皿に2,300個のスフェロイドが形成され、それらの平均直径は、189±30.1μmであった(図1(a))。細胞の播種数を減らすことで、培養4日後にEZSPHERE(商標)とほぼ同じ細胞数が存在するように調整した2次元培養体と比較すると、スフェロイドの細胞密度の高さが際立った(図1(a))。さらに、スフェロイドの全体像を得るためにHoechstを用いて核染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡にてZ軸断面を取得した。形成されたスフェロイドはXY断面においては円状、XZ断面もしくはYZ断面においては緩やかな三日月状であった(図1(b))。このことから、スフェロイドの全体像はお椀型であると示唆された。同様にして、EZSPHER(商標)に播種する細胞数を減らすことにより、最も大きいスフェロイドであるS500に加えてS250、S125の合計3段階の大きさのスフェロイドを形成した(図1(c))。
【0057】
続いて、2次元培養においても異なる細胞密度環境を構築するために、様々な細胞播種数の下で細胞を培養した。なお、細胞の培養期間はスフェロイドと同じである4日間に統一し、培養容器はEZSPHER(商標)と同じ大きさである35−mmの平面皿を用いた。培養4日後に位相差顕微鏡にて細胞密度を確認したところ、播種数依存的に細胞密度が高くなった(図2(a))。Bradford法によるタンパク質定量の結果からも、このことが確かめられた(図2(b))。最も大きいスフェロイドであるS500よりも高密度な2次元培養を行った方が、タンパク質量の増加が認められた。このことから、EZSPHER(商標)に存在する細胞数は2次元培養と比較して顕著に多くないことが示唆された。従って、細胞数が多すぎることによって培地が劣化し、そのために細胞の形質変化が生じる可能性は低い。
【0058】
上記の方法で調製したがん細胞スフェロイド、および、2次元培養において細胞密度を向上させたがん細胞について、休眠がん細胞の特徴である“No proliferation”,“No death”,“Metabolic suppression”,“Recovery to active status”の4項目をそれぞれ検証した。
【0059】
1つ目の特徴である“No proliferation”を調査するために、Ki−67およびp21の遺伝子発現解析とブロモデオキシウリジン(BrdU)染色を行った。Ki−67はG0期以外で発現するタンパク質であり、この性質を利用して細胞増殖マーカーとして用いられている。p21はRbのリン酸化を阻害することにより、細胞周期がG1期からS期へ移行することを抑制するタンパク質である。BrdUはチミジンのアナログであり、S期において新たに合成されたDNAに組み込まれる。このことから、BrdUの陽性率は細胞増殖の活発度合を示す指標として用いられている。2次元培養およびスフェロイドにおいてKi−67の発現は、細胞密度依存的に低下した(図3(a)(b))。一方で、p21の発現はスフェロイドにおいてのみ認められ、2次元培養においては認められなかった(図3(a))。さらに、BrdUの陽性率は2次元培養において細胞密度依存的に低下した(図4(a)(b))。以上のことから、3次元培養したスフェロイドおよび高密度な2次元培養において、細胞増殖が抑制されることが示唆された。つまり、これらの細胞は休眠がん細胞の特徴である“No proliferation”を満たしたと言える。
【0060】
続いて、休眠がん細胞の2つ目の特徴である“No death”を調査した。細胞の生存率を測定するために、トリパンブルー染色を用いた。トリパンブルーは、死細胞のみを青く染色する試薬である。このことから、顕微鏡観察において生細胞は染色されないため白く、死細胞は青く観測される。異なる大きさのスフェロイドであるS125,S250,S500をそれぞれ形成し、ピペッティングによってスフェロイドを分解後にトリパンブルー染色を行った。その結果、全てのスフェロイドにおいて2次元培養と比較して顕著な細胞死は認められなかった(図5)。このことから、スフェロイドにおいて細胞死はほとんど生じておらず、休眠がん細胞の特徴である“No death”を満たすことが示唆された。
【0061】
引き続き、休眠がん細胞の3つ目の特徴である“Metabolic suppression”を調査した。代謝の抑制を測定するために、2−(N−(7−Nitrobenz−2−oxa−1,3−diazol−4−yl)Amino)−2−Deoxyglucose(2−NBDG)の細胞内取り込み量を評価した。2−NBDGはグルコースに蛍光分子が結合した試薬であり、グルコースと同様の機構で細胞内に取り込まれる。そのため、2−NBDGの細胞内取り込み量は糖代謝の活発度や細胞の生死判定に用いられる。2次元培養およびスフェロイドにおいて2−NBDGの取り込み量を共焦点レーザー顕微鏡で測定した。その結果、どちらにおいても細胞密度依存的に取り込み量が減少した(図6)。また、特にスフェロイドにおいては顕著に取り込みが抑制されていた。このことは、細胞密度依存的に糖代謝が抑制された結果であると考えられる。さらに、3次元培養スフェロイドおよび高密度な2次元培養は、休眠がん細胞の特徴である“Metabolic suppression”を満たすことが示唆された。
【0062】
最後に、休眠がん細胞の4つ目の特徴である“Recovery to active status”を調査した。再活性化を測定するために、最も大きいスフェロイドであるS500をピペッティングによって分解し、2次元培養下における再増殖を評価した。S500形成後に2次元培養された細胞は、2次元培養された細胞よりも増殖が少し遅れたものの、最終的には同程度の細胞数まで増殖した(図7)。また、細胞増殖の最高速度を示すグラフの傾きは、2次元培養と3次元培養とでは大きな差がなかった。このことは、細胞増殖が抑制された状態から活発に細胞増殖を行う状態に変化したことを示す。つまり、休眠がん細胞の特徴である“Recovery to active status”を満たすことが示唆された。
【0063】
以上の4項目の検証から、高密度な培養環境においてがん細胞が休眠状態に移行することが示された。このため以降の実験では、スフェロイドを含む高密度培養がん細胞を休眠がん細胞のモデルとして使用した。
【0064】
実施例2:休眠がん細胞における抗がん剤の細胞毒性評価
休眠がん細胞に対する一般的な抗がん剤(DNA合成を阻害する薬剤)の効能を調査するために、シスプラチン(CDDP)および5−フルオロウラシル(5−FU)を用いた。CDDPは2本鎖DNAのグアニン同士を架橋することで、DNA複製を阻害する薬剤である。一方で、5−FUはチミジル酸シンターゼを阻害することでチミジンの合成を抑制し、DNA合成を阻害する薬剤である。2次元培養の異なる細胞密度下において薬剤をそれぞれ72時間添加し、MTT法にて細胞生存率を測定した。全ての濃度のCDDPにおいて、細胞密度依存的に殺細胞効果が低下した(図8(a))。特に、6.25 μMではその差が顕著であった(図8(b)(c))。同様に、5−FU 50μMにおいても細胞密度依存的な殺細胞効果の低下が認められた(図9)。細胞密度が高い環境下では休眠がん細胞の割合も高いと考えられるため、休眠がん細胞に対して一般的な抗がん剤の効果が現れにくいことが明らかとなった。
【0065】
なお、CDDPはTokyo Chemical Industry Co., Ltd.(東京)より、5−FUはNacalai Tesque(京都)よりそれぞれ購入した。3.6×10cells/cm、7.1×10cells/cm、14×10cells/cmの細胞密度にそれぞれ薬剤を添加し、72時間培養した。その後、下記のMTT法にて細胞生存率を測定した。MTT試薬(5mg/ml)を培養液に添加後、4時間培養した。その後、培養液と同量の10%(w/v)SDSを加え一晩培養した。MTT代謝物であるホルマザンは測定波長570nm、基準波長655nmにおける吸光度をMultiskan FC吸光マイクロプレートリーダ(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA)により測定した。薬剤非添加群の吸光度を分母に、薬剤添加群の吸光度を分子として計算し、100分率で表したものを細胞生存率[%]と定義した。
【0066】
実施例3:休眠がん細胞におけるPpIX蓄積の評価
ALA添加後のPpIX蓄積と休眠性との関係性を検証するために、共焦点レーザー顕微鏡およびHPLCを用いてPpIX蓄積を解析した。ALAを添加する濃度・時間は1mM・24時間とし、がん患者にALAを投与する場合と比較して特異な条件にならないよう配慮した。生細胞内のPpIX蓄積を解析するために正立の共焦点レーザー顕微鏡を用い、観察のための検出プログラムを作成した。作成したプログラムはZ軸に対して0.7μmの厚みで写真を撮影するため、細胞の大きさ(約10μm)と比較しても十分な薄さを確保できた。一般的に共焦点レーザー顕微鏡によるスフェロイドの観察は細胞を有機溶媒で固定してから行うことが多い。しかし、固定を行うと疎水性であるPpIXは細胞外へ流出してしまうため、PpIX蓄積を観察するためには生細胞で行う必要がある。一方で、他の3次元培養法であるマトリゲルなどでは、スフェロイドに対して対物レンズが十分に接近できない。これらのことをふまえ、本研究では3次元培養法としてEZSPHER(商標)を選択し、正立の共焦点レーザー顕微鏡を用いて培養皿の上部から撮影を行うことで、上記の問題を克服した。
【0067】
スフェロイド用に作成した共焦点レーザー顕微鏡の検出プログラムを用いて、2次元培養における異なる細胞密度環境下のPpIX蓄積を解析した。共焦点レーザー顕微鏡の写真より、細胞密度依存的にPpIXの発光が強く認められることが明らかになった(図10(a))。さらに、細胞をNaOH水溶液で溶解し、HPLCを用いて細胞内PpIXの定量を行った(図10(b))。なお、縦軸は回収した細胞のタンパク質量で補正したため、細胞密度が異なっていても単位細胞あたりのPpIX蓄積量として比較することができる。HPLCによる定量結果から、最も細胞密度が低い2次元培養に対してスフェロイドではPpIX蓄積が23倍も増加した。同一細胞株であるにもかかわらず、PpIX蓄積が23倍も増加することは特異な現象である。実施例1より、細胞密度依存的にがん細胞が休眠状態へ移行することが明らかになっていることから、がんの休眠性とALA添加後のPpIX蓄積は正の相関を示すことが示唆された。
【0068】
同様に、異なる大きさのスフェロイドにおいても共焦点レーザー顕微鏡およびHPLCを用いてPpIX蓄積を解析した(図11(a)(b))。こちらにおいても細胞密度依存的なPpIX蓄積の増加が認められた。以上のことから、3次元培養においてもがんの休眠性とALA添加後のPpIX蓄積は正の相関を示した。同時に、休眠がん細胞に対してALA−PDD、ALA−PDTが効果的であることが示唆された。
【0069】
実施例4:休眠がん細胞におけるALA−PDT効果の評価
休眠がん細胞におけるALA−PDTの殺細胞効果を検証するために、PpIX蓄積後の細胞に赤色光を照射した。アポトーシスを待つために、光照射後はインキュベーターで一晩培養し、MTT法によって細胞生存率を算出した。2次元培養において細胞密度依存的に、細胞生存率が低下した(図12(a))。同様に3次元培養においても、スフェロイドの大きさ依存的に細胞生存率が低下した(図12(b))。これらの結果は、細胞内のPpIX蓄積量が細胞密度依存的に増加したためであると考えられる。以上のことから、休眠がん細胞に対してALA−PDTは特に有効な治療法であると示唆された。
【0070】
実施例5:休眠がん細胞におけるトランスポーターの発現解析
ALA添加後のPpIX蓄積と強い相関がある3つのトランスポーター、PEPT1,ABCB6,ABCG2の発現をタンパク質レベルで解析した。なお、発現解析は細胞にALAを添加せずに行った。2次元培養において、細胞密度依存的にPEPT1およびABCB6の発現は亢進し、ABCG2の発現は低下した(図13(a)(b))。スフェロイドにおいても、細胞密度依存的に上記の傾向が認められた(図14(a)(b))。すなわち、細胞密度が高い休眠がん細胞はALAを取り込みやすく、中間体であるCPgenIIIのミトコンドリアへの輸送も速い一方で、ABCG2によるPpIXの排出は遅いため細胞内のPpIX蓄積が増加したと考えられる(図15)。このことは、休眠性依存的にPpIX蓄積が増加したことやALA−PDT効果が亢進したことと一致する。
【0071】
実施例6:非休眠がん細胞におけるALA−PDT効果の亢進
これまでの実験結果より、「細胞密度依存的にがん細胞の細胞増殖が抑制され、休眠状態へ移行すること」および「休眠性の高いがん細胞においてはPpIX蓄積が多く、ALA−PDT効果も顕著に現れること」の2つを明らかにした。そこで、細胞密度が低い非休眠がん細胞に対して細胞増殖を抑制した擬似的な休眠状態にすることで、ALA添加後のPpIX蓄積を増加させることができるという仮説を立てた。本仮説を検証するために、PC−3細胞の細胞周期をG0/G1期で止める薬剤として報告されているMethotrexate(MTX)およびCycloheximide(CHX)を用いた。非休眠がん細胞モデルは、2次元培養において細胞密度を低くすることで構築した。
【0072】
まず始めに、MTXおよびCHXによって細胞増殖が抑制されることを確かめるために、Ki−67を含む遺伝子の発現解析を行った。なお、細胞密度は薬剤添加48時間後の回収時に同じになるように細胞播種数を調整した(図16(a))。Ki−67はMTX・CHXの両方で発現が低下した(図16(b)(c))。このことから、細胞増殖が抑制されることが確かめられた。また、薬剤添加によってPEPT1およびABCB6の発現は変化しなかったが、ABCG2の発現はMTX・CHXの両方で低下した(図16(b)(c))。このことから、細胞内にPpIXが蓄積しやすくなると予想される。
【0073】
次にALA添加後のPpIX蓄積を解析した。共焦点レーザー顕微鏡による観察から、ALAのみを添加したControlに比べてALAとMTXもしくはCHXの共添加群では、PpIXの発光が強く認められた(図17(a))。HPLCによるPpIX定量より、共添加群はControlに対してPpIX蓄積が約4倍増加することが明らかになった(図17(b))。これは、細胞増殖抑制剤によって細胞が擬似的な休眠状態になったためであると考えられる。最後に、共添加群においてALA−PDT効果を検証した。その結果、共添加群はControlに比べて顕著に細胞生存率が低下した(図18)。MTXの単独添加においても約50%の細胞死が認められたが、CHXの単独添加においては著しい細胞死が認められなかった。このことから、ALA−PDT効果の顕著な亢進は薬剤自体の毒性ではなく、がん細胞が擬似的な休眠状態になりPpIX蓄積が増加したためであると考えられる。
【0074】
以上のことから、非休眠がん細胞においても、細胞の増殖を抑制させる薬剤の適用によって、細胞内のPpIX蓄積量を増加させ、ALA−PDTに対する感受性を向上させることができることが示された。
図1
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