(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649818
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】密封部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20200210BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-49201(P2016-49201)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-166497(P2017-166497A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮二
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−015956(JP,A)
【文献】
特開2012−193835(JP,A)
【文献】
特開2008−025668(JP,A)
【文献】
特開2001−099326(JP,A)
【文献】
特開2009−144763(JP,A)
【文献】
特開2015−014303(JP,A)
【文献】
特開2006−275143(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0091143(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0244390(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/3296
F16J 15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転する軸とケーシングとの間に構成される環状空間に装着され、前記軸の外周面に接触して密封空間内の密封流体が外部側へ漏れるのを防止する主リップ部と、この主リップ部よりも前記外部側に空間部を介して設けられ、前記軸の外周面に接触して前記外部側から前記密封空間内への異物の侵入を防止する補助リップ部と、を備え、前記空間部に潤滑剤を封入して前記環状空間に装着される密封部材であって、
前記補助リップ部は、前記軸に対して締め代を有し、
前記補助リップ部の外周面に、前記潤滑剤を保持し得る梨地状の粗面部が設けられていることを特徴とする密封部材。
【請求項2】
前記粗面部の表面粗さは、算術平均粗さRaが2.0〜10.0μmである請求項1に記載の密封部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のデフサイドに用いられる密封部材として、
図4に示されるように、軸105の外周面に接触して密封空間内Aの流体を密封する主リップ部101と、この主リップ部101より外部側Bに設けられ、内部側に異物が侵入するのを防止する補助リップ部102とを有する密封部材100が知られている。
このような密封部材100においては、補助リップ部102による異物の侵入を防止する効果を高めるために、補助リップ部102に締め代を持たせて軸105と接触させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−225063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した密封部材100の軸105への組み付けは、通常、密封部材100の外部側B(補助リップ部102側)から軸105を挿入することによって行われる。
このとき、補助リップ部102が締め代を持って軸105と接触する密封部材100では、軸105を挿入した際に、補助リップ部102が密封空間内Aの側に反転してしまうことがあった。
そして、補助リップ部102が反転した状態で密封部材100を使用すると、補助リップ部102に異常摩耗が発生し、この異常摩耗が補助リップ部102の破損の原因となることがあった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、組み付け時に補助リップ部が反転したとしても、その反転状態を解消することができる密封部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の密封部材は、互いに相対回転する軸とケーシングとの間に構成される環状空間に装着され、上記軸の外周面に接触して密封空間内の密封流体が外部側へ漏れるのを防止する主リップ部と、この主リップ部よりも上記外部側に空間部を介して設けられ、上記軸の外周面に接触して上記外部側から上記密封空間内への異物の侵入を防止する補助リップ部と、を備え、上記空間部に潤滑剤を封入して上記環状空間に装着される密封部材であって、
上記補助リップ部は、上記軸に対して締め代を有し、
上記補助リップ部の外周面に、上記潤滑剤を保持し得る梨地状の粗面部が設けられていることを特徴とする。
【0006】
本発明の密封部材は、軸の外周面と締め代をもって接触する主リップ部及び補助リップを有し、両者に挟まれた空間部にグリース等の潤滑剤を封入した状態で上記環状空間に装着される密封部材であり、上記密封部材の組み付けは、補助リップ部側から軸を挿入することにより行う。
このとき、上記補助リップ部は、軸に対して締め代を有しているため、軸を挿入した際に反転してしまうことがある。また、上記密封部材の組み付けは、上記空間部にグリース等の潤滑剤が封入された状態で行うため、軸の挿入によって補助リップ部の変形や、場合によっては上述したような反転が生じ、その結果、上記空間部に封入されていたグリース等は、不回避的の上記補助リップ部の外周面にも付着する。
【0007】
一方、本発明の密封部材は、上記補助リップ部の外周面にグリース等を保持しうる梨地状の粗面部が設けられている。このような粗面部を有する上記補助リップ部の外周面は、上記密封部材の組み付け時に付着したグリース等をそのまま保持することができる。
そのため、本発明の密封部材では、上記補助リップ部が組み付け時に反転したとしても、上記補助リップ部は、自己の弾性復元力によって反転状態を解消することができる。これは、組み付け時に補助リップ部が反転すると、反転した補助リップ部は外周面が軸と接触することとなるが、上記外周面は、上述したように粗面部によってグリース等を保持しており、軸との摩擦係数が低くなっているからである。
【0008】
上記密封部材において、上記粗面部の表面粗さは、算術平均粗さRaが2.0〜10.0μmであることが好ましい。
上記範囲の算術平均粗さRaを有する粗面部では、グリース等の潤滑剤を充分に保持することができる。また、上記算術平均粗さRaが大きくなると、上記粗面部には外部から侵入した異物が付着しやすくなるが、上記算術平均粗さRaの上限を10.0μmとすることにより、グリース等の保持性を確保しつつ、外部から侵入した異物が付着しやすくなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、組み付け時に補助リップ部が反転したとしても、その反転状態を解消することができる密封部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る密封部材の要部を示す断面説明図である。
【
図2】
図1に示した密封部材における外部側の部分側面図である。
【
図3】(a)〜(c)は、第1実施形態に係る密封部材を軸に組み付ける際の補助リップ部の状態を説明するための拡大断面図である。
【
図4】従来の密封部材の要部を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る密封部材について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る密封部材の要部を示す断面説明図である。
図2は、
図1に示した密封部材における外部側の部分側面図である。
本実施形態に係る密封部材1は、自動車のデフサイドに用いられるものであり、互いに相対回転する軸29とケーシング30との間に構成される環状空間に装着されて、密封空間内Aの密封流体が外部側Bへ漏洩するのを防止している。なお、
図1に示している密封部材1は、軸29の外周面29aとケーシング30の内周面30aとの間に装着される前である変形前の自然状態を示している。
【0012】
密封部材1は、断面L字形の環状の芯金2と、芯金2に固定されているシール部材3と、環状のバネリング4とを備えている。
芯金2は、金属(例えば、SPCC)製の環状部材であり、円筒部6と、この円筒部6の外部側端部から径方向内向きに屈曲した環状板部7とで構成されている。
【0013】
シール部材3は、合成ゴム(例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM))等の弾性素材からなり、加硫による接着、焼き付けなどにより芯金2に固定されている。このシール部材3は、本体部10と、主リップ部11と、補助リップ部12と、サイドリップ部13とを有している。
本体部10は、芯金2の円筒部6の外側に設けられ、且つケーシング30の内周面30a側に固定される軸方向外周部10aと、環状板部7の外側に設けられている径方向外周部10bと、環状板部7の内側に設けられている径方向内周部10cとを有している。
【0014】
主リップ部11は、本体部10の径方向内周部10cの内周側から軸29側で且つ密封空間内A側へ延伸しており、その外周面には周溝14が形成されている。そして、この周溝14には、いわゆるガータスプリングと呼ばれるバネリング4が装着されており、主リップ部11を径方向内向きに締め付けている。
補助リップ部12は、本体部10の径方向内周部10cの内周側から軸29側で且つ外部側Bへ延伸している。
【0015】
サイドリップ部13は、本体部10の径方向外周部10bから外部側Bの径方向斜め外向きにスカート状に延伸している。
なお、サイドリップ部13の先端部13aは、サイドリップ部13より外部側Bに設けられた、金属製の環状部材であるディフレクター(図示せず)と接触することなく対向している。これにより泥水等の異物が密封空間内Aに近づき難い構成としている。
【0016】
シール部材3の主リップ部11は、軸29の外周面29aに締め代を持って接触しており、密封空間内Aの密封流体が外部側Bへ漏れるのを防止している。主リップ部11は、径方向内方へ向けて漸次厚みが薄くなる(軸方向寸法が小さくなる)先細り形状であり、その断面形状はほぼV字形に形成され、最小径部がリップ先端部19とされている。主リップ部11の内周面において、リップ先端部19よりも外部側Bの面が第1傾斜面20とされ、リップ先端部19よりも密封空間内A側が第2傾斜面21とされている。
【0017】
シール部材3の補助リップ部12は、主リップ部11よりも外部側Bに空間部23を介して設けられている。つまり、補助リップ部12の内周面(後述する第1傾斜面24)と主リップ部11の内周面(第1傾斜面20)との間に環状の空間部23が形成されている。この空間部23にはグリースが封入されている。
【0018】
補助リップ部12は、軸29の外周面29aに締め代をもって接触して外部側Bから密封空間内Aへの異物の侵入を防止している。補助リップ部12の内周面は、シール部材3の本体部10の径方向内周部10cから先端側に向かって縮径状となる第1傾斜面24と、この第1傾斜面24の最小径部から反対に径方向外向きに連続して拡径状となる第2傾斜面25とが形成されており、上記最小径部がリップ先端部26とされている。つまり、補助リップ部12の内周面において、リップ先端部26よりも密封空間内A側の面が軸29との接触面(摺接面)を有する第1傾斜面24とされ、リップ先端部26よりも外部側Bの面が第2傾斜面25とされている。
【0019】
更に、補助リップ部12には、
図2にも示すように、外周面27と内周面を構成する第2傾斜面25とに梨地状の粗面部28が設けられている。粗面部28は補助リップ部12の外周面27の全体、及び、第2傾斜面25の全体に設けられている。ここで、外周面27及び第2傾斜面25は、密封部材1を組み付ける際に、空間部23に封入されていたグリースが付着することとなるが、外周面27及び第2傾斜面25には粗面部28が設けられているため、付着したグリースをそのまま保持することができる。
粗面部28は、図示しないが微細突起によるもの、微細凹部によるもの、微細線状溝によるもの、又は、これらが混在するものからなる。
【0020】
梨地状の粗面部28は微細な凹凸により構成されている。この粗面部28の表面粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601:2013)が2.0〜10.0μmの範囲に設定されていることが好ましい。上記Raが2.0μm未満では、グリース等を充分に保持することができない場合がある。一方、上記Raが10.0μmを超えると、グリース等を充分に保持することはできるものの、同時に上記粗面部に外部から侵入した異物が付着しやすくなってしまう。
【0021】
補助リップ部12の粗面部28の形成は、補助リップ部12を加硫成型して輪郭の全体形状を形成した後、該当部分に粗面加工を施しても良いが、補助リップ部12を成型するための加硫金型の内面に予め放電加工等により微細凹凸部を形成しておき、金型の微細凹凸部を補助リップ部12に転写させることにより、補助リップ部12の粗面部28を形成することが好ましい。つまり、粗面部28は金型により転写された転写面として形成されることが好ましい。
【0022】
図3(a)〜(c)は、本実施形態に係る密封部材を軸に組み付ける際の補助リップ部の状態を説明するための拡大断面図である。
密封部材1は、
図3(a)に示すように、外部側Bから軸29の挿入を行うことによって、軸29に組み付けられる。
このとき、補助リップ部12は、
図3(b)に示すように、軸29の端面29c側の外周面に設けられた面取り部29bに接触した際に変形し、主リップ部側に反転することがある。この場合、補助リップ部12は粗面部28が設けられた外周面27や第2傾斜面25が軸29の面取り部29bと接触することになる。このとき、外周面27や第2傾斜面25には、組み付け前の空間部23に封入されていたグリースが付着し、付着したグリースは粗面部28によって保持されている。そのため、補助リップ部12の外周面27や第2傾斜面25は、軸29との摩擦係数が低くなっており、補助リップ部12は、自己の弾性復元力によって、反転状態を解消し、
図3(c)に示すように正常な組み付け状態で軸29の外周面29aと締め代を持って接触することができる。
【0023】
また、密封部材1は、補助リップ部12が反転した状態のまま、軸29の外周面29aの所定の位置に一旦は組み付けられたとしても、上述した通り、補助リップ部12の外周面27や第2傾斜面25は、粗面部28が保持するグリースによって軸29との摩擦係数が低くなっている。そのため、密封部材1を組み付けた後、軸29を回転させたり、軸29を軸方向に搖動させたりすることにより、補助リップ部12は、容易に反転状態を解消し、この場合も
図3(c)に示したような正常状態となることができる。
このように、本実施形態の密封部材によれば、組み付け時に補助リップ部12が反転したとしても、自己の弾性復元力と粗面部28が保持するグリースの作用によって、その反転状態を解消することができる。
【0024】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更することができる。
第1実施形態において、粗面部は、補助リップ部の外周面及び第2傾斜面に設けられているが、本発明の実施形態に係る密封部材において、上記粗面部は、少なくとも補助リップ部の外周面に設けられていれば、必ずしも第2傾斜面には設けられていなくてもよい。
【0025】
第1実施形態において、粗面部は補助リップ部の外周面全体に設けられているが、上記粗面部は、必ずしも補助リップ部の外周面全体に設けられていなくても良く、例えば第2傾斜面側の半分の領域等にのみ設けられていても良い。
また、第1実施形態では、粗面部が補助リップ部の外周面及び第2傾斜面において周方向全体に設けられているが、上記粗面部は、必ずしも周方向全体に形成されている必要はなく、補助リップ部の反転状態を解消するのに充分なグリースを保持することができれば、周方向において断続的に設けられていても良い。
【0026】
本発明の実施形態に係る密封部材は、自動車のデフサイドを密封するものに限定されず、他の転がり軸受を含め、種々の装置を密封するための密封部材として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1:密封部材、2:芯金、3:シール部材、11:主リップ部、12:補助リップ部、13: サイドリップ部、23:空間部、25:第2傾斜面、27:外周面、28:粗面部、29:軸、30:ケーシング