(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
申告者からの空調に対する要望を受け付け、前記申告者に関する情報に基づいて、前記申告者からの要望が一時的要望か非一時的要望か判定保留要望かを判定する要望判定手段と、
この要望判定手段の判定結果に基づいて、前記申告者からの要望が一時的要望である確信の度合を示す一時的確信度を決定する一時的確信度決定手段とを備えることを特徴とする要望判定装置。
申告者からの空調に対する要望を受け付け、前記申告者に関する情報に基づいて、前記申告者からの要望が一時的要望か非一時的要望か判定保留要望かを判定する要望判定ステップと、
この要望判定ステップの判定結果に基づいて、前記申告者からの要望が一時的要望である確信の度合を示す一時的確信度を決定する一時的確信度決定ステップとを含むことを特徴とする要望判定方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[発明の原理]
本発明は、建物の空調制御システムにおいて、居住者の空調への環境変更要望(例えば暑い、寒い、室温をXX℃上げて欲しい、XX℃下げて欲しいなど)を反映して制御する空調制御システムを対象とする。本発明は、(A)居住者からの要望を受け、設備管理者がBEMS(Building and Energy Management System)などを利用して居住者要望を空調制御に反映する場合、(B)居住者自身が空調への要望を空調制御システムに直接に申告する場合(ASP(Application Service Provider)サービスなどで遠隔で居住者要望を受信し、制御に反映する場合も含む)、のいずれも対象としている。
【0023】
本発明は、建物居住者の要望申告発生時に、当該申告に対応して空調設定値を変更(環境変更)し、所定の時間経過後、当該申告の特徴(判定結果)に応じて環境復帰(環境変更前の設定値側に設定値を変更)を行う居住者要望申告空調を対象とする。
空調設定値としては、室温設定値、湿度設定値、放射空調システムで使用される放射パネルの温度設定値、気流速や室内給気風量などの空調関連の設定値が対象となるが、説明の簡単のために、以下の例では室温設定値を空調設定値として説明する。
【0024】
以上のような空調制御システムにおいて、居住者の温冷感は個々人の属性や季節変動などによって異なり、例えばオフィスに入居する居住者の温冷感特性も建物や居住者によって多様である。よって、一律な判断基準によって要望が一時的か否かの判定を行うと、居住者の温冷感の実態と異なるケースが発生する可能性に発明者は着眼した。そして、要望が一時的か否か(例えば、1、0の2値的処理)の判定を一時的確信度(例えば、1〜0の中間値的処理)による判定とすることで、より現実的な運用が可能となることに想到した。
【0025】
要望が一時的か否かを判定する際には、所定の範囲や閾値(例えば、特許文献1では在席時間のしきい値、特許文献2では環境不満足度のしきい値、特許文献3では所定の時間帯)が予め与えられ、これらの範囲や閾値を利用して、要望が一時的か否かが判定される。
【0026】
しかしながら、前述したような居住者の温冷感の多様性を考慮すれば、予め与えられた範囲や閾値による要望の判定結果が常に妥当な結果となるとは限らない。要望の判定結果が妥当でない場合には、居住者の要望に対する空調の環境復帰(例えば室温設定値の復帰)処理も妥当性を欠き、居住者の要望申告の負担低減や制御安定度の確保といった効果が限定的となる。
【0027】
発明者は、要望が一時的か否かを判定する際に判定保留域を設定することに想到した。要望が判定保留域内にある場合には、この判定保留域の端点からの距離に応じて要望の一時的確信度を決定する。そして、この一時的確信度に応じた空調の環境復帰(例えば室温設定値の復帰)処理を行えば、要望の判定結果に基づく処理の妥当性を向上させることができる。
【0028】
さらに発明者は、空調の環境復帰度合いが妥当性を欠く場合でも、後続する要望申告への空調応答制御への影響を軽減することに想到した。例えば、
図1に示すように、「暑い」という要望h1を一時的要望と判定し、この要望h1に応じて空調設定値Tset(例えば室温設定値)を初期値ti(ti>0)から変更幅taだけ変更し、この変更から一定時間後のタイミングr1で変更幅ta分の設定値復帰(例えば室温設定値の復帰)を実行し、次に、一時的要望と判定される要望h2が再び発生した場合を考える。このとき、「暑い」という要望h2に応じて変更した空調設定値Tsetの値は(ti−ta)となる。
【0029】
しかしながら、同様の居住者要望申告が発生するケースに対して要望の一時的確信度に応じた空調の環境復帰処理を行う場合、設定値復帰の幅tbは、一時的確信度に応じて決定される、ta未満の値をとる(ta>tb>0)。タイミングr1で変更幅tb分の設定値復帰を行った後に、一時的要望と判定される要望h2が発生すると、この「暑い」という要望h2に応じて変更した空調設定値Tsetの値は、
図1に示すように(ti−ta)+tb−taとなり、(ti−ta)よりも小さい値となる。
【0030】
つまり、一時的要望と判定される要望申告が連続して発生する場合、従来の手法では空調設定値Tsetが過度に変更される可能性がある。一時的確信度判定の妥当性が高い場合には、この設定値変更は適切であるが、前述したように、居住者の温冷感特性が多様であることを踏まえれば、判定条件は必ずしも最適とは限らない。よって、要望の一時的確信度の判定結果が妥当性を欠くリスクを考慮し、後続する要望申告への空調応答制御への影響を軽減することが望ましい。
【0031】
発明者は、一時的要望に応じて空調設定値Tsetを変更して一定時間後に復帰させた後に、次に申告される居住者要望への応答では、前回の環境復帰幅tbを加味し、かつ、予め定められている変更幅taより小さい設定値変更幅を決定することに想到した。すなわち.
図1の例において、「暑い」という要望h2に対する応答では、前回の環境復帰幅tbに基づき、予め定められている変更幅taより小さい設定値変更幅、例えば、tbや(ta+tb)/2などとすることで、一時的確信度判定の結果が妥当性を欠く場合でも、後続する要望申告に対する空調応答制御への影響を軽減することができる。
【0032】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態では、要望が一時的か否かの判定に閾値を用いるケースへの本発明の適用例を説明する(特許文献1に開示された技術への適用例)。
本発明は、居住者の空調への環境変更要望(例えば暑い、寒い、室温をXX℃上げて欲しい、XX℃下げて欲しいなど)を反映する空調制御システムを対象とする。
【0033】
本実施の形態では、説明の簡単のために、対象とする1つの空調ゾーンに居住者2名が在席する居住者申告型空調制御システムの例(
図2)で説明する。
図2において、100は居住者、101は居住者の在席空間、102は変更要望を受ける空調制御装置(コントローラ)、103は在席空間101の室温を計測する温度センサ、104は在席空間101の湿度を計測する湿度センサ、105は室内機、106は室外機である。空調制御装置102は、温度センサ103によって計測される室温が室温設定値と一致し、湿度センサ104によって計測される湿度が湿度設定値と一致するように空調機器(室内機105および室外機106)を制御する。
【0034】
図1の例は1つの空調ゾーンと居住者の在席空間とが一致している例であるが、例えば、在席空間が建物のワンフロアであり、この在席空間の中に複数の空調ゾーンや空調制御機器を含む場合でも、申告者の要望に対応して制御する空調制御機器を特定できれば適用対象となる。また、本実施の形態では、夏季冷房時の例で説明するが、言うまでもなく、本発明は中間期や冬季暖房時にも適用可能である。
【0035】
本実施の形態は、居住者の要望申告を所定の判定基準により一時的か否か判定する2値判定型の要望判定方法に適用する例である。2値判定型の要望判定方法として、申告者の在席時間に基づく要望判定(特許文献1)を例に説明する。特許文献1に開示された技術では、居住者からの要望を一時的要望と非一時的要望(持続的要望)の2つに分類していたのに対し、本実施の形態では、一時的要望と非一時的要望と判定保留要望の3つに分類し、一時的要望と判定した場合には一時的確信度を1、非一時的要望と判定した場合には一時的確信度を0、判定保留要望と判定した場合には判定保留域の端点(一時的要望と判定保留要望との境界点、あるいは判定保留要望と非一時的要望との境界点)からの距離に応じて0〜1の範囲で一時的確信度を決定する。そして、判定結果である一時的確信度に基づき、空調設定値の復帰後の値を決定し、空調制御を実行する。
【0036】
図3は本実施の形態の要望判定型空調制御装置の構成を示すブロック図である。要望判定型空調制御装置1は、機器制御部2と、制御プラン決定処理部3と、制御プラン記憶部4と、要望判定処理部5と、判定ルール記憶部6と、判定情報管理部7とを備えている。要望判定処理部5は、要望判定手段と一時的確信度決定手段とを構成している。
【0037】
機器制御部2は、制御プラン決定処理部3が決定した制御プランに基づき空調機器8を制御する。
制御プラン決定処理部3は、要望の処理時点で実施されている制御プランと制御プラン記憶部4に記憶されている制御プラン情報と要望判定処理部5の判定結果に基づいて、空調機器8に新たに適用する制御プランを決定する。
【0038】
制御プラン記憶部4には、要望判定処理部5の判定結果に対して適用する制御プランの決定ルールが予め設定され、記憶されている。この制御プランの決定ルールは、制御プロバイダや設備管理者が予め設定する。
【0039】
要望判定処理部5は、要望の申告者に関する情報に基づいて、申告者からの要望が一時的要望か非一時的要望か判定保留要望かを判定し、この判定結果に基づいて、申告者からの要望が一時的要望である確信の度合を示す一時的確信度を決定する。
【0040】
判定ルール記憶部6には、要望判定ルールと一時的確信度決定ルールとが予め設定され、記憶されている。要望判定ルールと一時的確信度決定ルールとは、制御プロバイダや設備管理者、エネルギー管理者が予め設定する。
【0041】
判定情報管理部7は、例えば図示しない在/不在管理システムあるいは入退出管理システムなどの情報を利用し、各居住者の在室状態を示す在室情報(滞在継続時間)を管理する。
【0042】
要望入力端末9としては、PC、携帯電話機、スマートフォン、専用リモコン端末などがある。
なお、要望判定型空調制御装置1は
図2に示した空調制御装置102の内部に設けられるが、要望判定処理部5を要望判定装置として空調制御装置102の外部に設けてもよい。
【0043】
次に、本実施の形態の空調制御システムの動作を説明する。
図4は、要望入力端末9から居住者の要望申告を受け付けた際の要望判定型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。なお、要望判定処理部5の動作と、これに対応する制御プラン記憶部4の制御プラン以外は、特許文献1に開示されている内容と同様である。
【0044】
要望入力端末9は、要望入力端末9を操作して空調への変更要望を申告した居住者(申告者)を特定する情報であるUIDとこの申告者が入力した要望の変更種類DSと申告時刻Stimeとを要望判定処理部5に送信し、要望判定処理部5は、受信した情報を申告要望V(UID,DS,Stime)として保持する(
図4ステップS1−1)。
【0045】
本実施の形態では、説明の簡単のためにユーザが選択する変更種類DSを「暑い」、「寒い」の2種類とし、「暑い」を値「1」で示し、「寒い」を値「−1」で示すものとする。つまり、例えば、申告時刻10時10分にUID=500の居住者が「暑い」と申告した要望はV(500,1,10:10)として保持され、同じ時刻に「寒い」と申告した要望はV(500,−1,10:10)として保持される。
【0046】
要望判定処理部5は、要望入力端末9から要望V(UID,DS,Stime)を受け付けると、判定情報管理部7が保持している申告者に関する判定情報と判定ルール記憶部6に保持されている判定ルールとに基づいて、要望V(UID,DS,Stime)の持続種類(一時的要望、非一時的要望、判定保留要望)と一時的確信度TCとを決定する(
図4ステップS1−2)。
【0047】
本実施の形態の申告者に関する判定情報は、申告者特定情報UIDで特定される申告者の申告時刻Stimeにおける在室情報である滞在継続時間Hcs(UID,Stime)に相当する。滞在継続時間Hcs(UID,Stime)とは、申告者特定情報UIDで特定される申告者が算出基準時刻(申告時刻Stime)まで所定の在席空間に継続的に在室した時間の積算値であり、申告者が在席空間に不在の場合には0である。この滞在継続時間Hcs(UID,Stime)の算出方法については特許文献1に開示されているので、詳細な説明は省略する。
【0048】
要望判定処理部5は、要望入力端末9から要望V(UID,DS,Stime)を受け付けると、判定情報管理部7に対して申告者の特定情報UIDと申告時刻Stimeとを送信し、申告者特定情報UIDで特定される申告者の滞在継続時間Hcs(UID,Stime)を要求する。この要求に応じて、判定情報管理部7は、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)の情報を要望判定処理部5に送信する。
【0049】
以下、特許文献1に開示されている一時的要望か否かの2値判定処理と、本実施の形態における要望判定処理(3値判定処理)および一時的確信度TCの決定処理とを対比しながら説明する。
【0050】
特許文献1に開示された技術では、予め決定されている閾値Hthと判定情報である滞在継続時間Hcs(UID,Stime)とを比較し、要望V(UID,DS,Stime)が一時的要望か非一時的要望(持続的要望)かを判定する。
【0051】
具体的には、
図5に示すように、Hcs(UID,Stime)<Hth、すなわち滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が閾値Hthより小さいとき、要望V(UID,DS,Stime)を一時的要望と判定し、Hcs(UID,Stime)≧Hth、すなわち滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が閾値Hth以上のとき、要望V(UID,DS,Stime)を非一時的要望と判定する。
【0052】
これに対し、本実施の形態の要望申告判定では、要望V(UID,DS,Stime)を一時的要望か非一時的要望かの2つに分類するのではなく、一時的要望と、非一時的要望と、一時的要望か非一時的要望か確信的には判定し難い要望である判定保留要望の3つに分類する。このため、本実施の形態では、1つの閾値Hthの代わりに、判定保留域下限Gminと判定保留域上限Gmaxという上下限値によって定まる判定保留域(時間範囲)を設定する。
【0053】
判定保留域は、対象となる居住者の温冷感の多様性を考慮して予め決定しておけばよい。判定保留域の決定方法としては、特許文献1に開示された2値判定処理における(あるいは2値判定を仮定して設定する)閾値Hthを考慮して判定保留域を決定する方法がある。例えば、閾値Hthと判定保留時間幅ΔHに基づいて、Hth〜Hth+ΔHを判定保留域としたり(すなわち、Gmin=Hth、Gmax=Hth+ΔH)、Hth−ΔH/2〜Hth+ΔH/2を判定保留域としたりすればよい(すなわち、Gmin=Hth−ΔH/2、Gmax=Hth+ΔH/2)。このように、閾値Hthを判定保留域に含むか、あるいは、閾値Hthが判定保留域上下限に接するように設定する。
【0054】
なお、特許文献1に開示された技術では、食事や移動などといった通常のオフィスでの行動後に居住者の代謝量が安定する時間(例えば30分)を目安に閾値Hthを設定している。
【0055】
本実施の形態の判定ルール記憶部6には、要望判定ルールとして、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)と判定保留域(具体的には判定保留域下限Gminおよび判定保留域上限Gmax)との比較で要望の持続種類を決定するというルールが、制御プロバイダや設備管理者などによって予め設定されている。
【0056】
図6は本実施の形態の要望判定処理と一時的確信度決定処理を説明する図である。要望判定処理部5は、Hcs(UID,Stime)≦Gmin、すなわち申告者特定情報UIDで特定される申告者の申告時刻Stime時点の滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が判定保留域下限Gmin以下の場合、要望V(UID,DS,Stime)の持続種類を示す持続種類判定フラグRをR=1とする。R=1は要望V(UID,DS,Stime)が一時的要望であることを示す。つまり、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が短い場合には一時的要望と判定することになる。
【0057】
また、要望判定処理部5は、Gmax≦Hcs(UID,Stime)、すなわち滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が判定保留域上限Gmax以上の場合、持続種類判定フラグRをR=0とする。R=0は要望V(UID,DS,Stime)が非一時的要望であることを示す。つまり、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が長い場合には非一時的要望と判定することになる。
【0058】
また、要望判定処理部5は、Gmin<Hcs(UID,Stime)<Gmax、すなわち滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が判定保留域下限Gminより大きく判定保留域上限Gmax未満の場合、持続種類判定フラグRをR=2とする。R=2は要望V(UID,DS,Stime)が判定保留要望であることを示す。
【0059】
また、本実施の形態の判定ルール記憶部6には、要望判定ルールと共に一時的確信度決定ルールが予め設定されている。ここでは、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)の判定保留域の端点(判定保留域下限Gminおよび判定保留域上限Gmax)からの距離に基づいて一時的確信度TCを決定するというルールが予め設定されている。
【0060】
このような一時的確信度決定ルールに基づき、要望判定処理部5は、判定フラグRがR=1(一時的要望)の場合、一時的確信度TCを1とし、判定フラグRがR=0(非一時的要望)の場合、一時的確信度TCを0とし、判定フラグRがR=2(判定保留要望)の場合、一時的確信度TCを以下の式(1)により決定する。
TC=(Hcs(UID,Stime)−Gmin)/(Gmax−Gmin)
・・・(1)
【0061】
要望判定処理部5は、要望入力端末9から受け付けた要望V(UID,DS,Stime)に対し、要望の変更種類DSと判定フラグRと一時的確信度TCとを関連付け、これらを申告要望の要望状態DC(DS,R,TC)として保持する。
【0062】
なお、一時的確信度TCは、以下の(I)〜(III)を満たす値で定義する。
(I)下限値で確信度0%、上限値で確信度100%を示す上下限値の範囲(本実施の形態では0≦TC≦1)。
(II)非一時的要望はTC=0、一時的要望はTC=1となる。
(III)判定保留要望の場合、一時的確信度TCは、滞在継続時間Hcs(UID,Stime)が判定保留域下限Gminに近づくほど増加する。
【0063】
説明の簡単のために、本実施の形態では、式(1)の線形関数で一時的確信度TCを求めており、一時的確信度TCは
図6の実線60で示すように直線的に変化するが、判定保留域において
図6の破線61のような非線形な関数を設定してももちろん構わない。
【0064】
次に、制御プラン決定処理部3は、処理中の要望V(UID,DS,Stime)に対応する制御プランを決定する(
図4ステップS1−3)。制御プラン決定処理部3は、申告者特定情報UIDで特定される申告者に対応する空調機器8に現時点で適用されている制御プラン(以下、既制御プランと記)と、制御プラン記憶部4に予め設定されている制御プランの決定ルールと、要望判定処理部5で保持されている要望状態DC(DS,R,TC)とを利用して、空調機器8に新たに適用する制御プランを決定する。
【0065】
制御プラン記憶部4には、要望V(UID,DS,Stime)の処理時点での空調設定値Tsetを、要望状態DC(DS,R,TC)の変更種類DSに基づき第1の空調設定値Tset1に変更する第1の空調設定値プランと、第1の空調設定値Tset1を設定値維持時間tα維持する設定値維持プランと、設定値維持時間tα後に要望状態DC(DS,R,TC)に基づき第1の空調設定値Tset1から第2の空調設定値Tset2に変更する第2の空調設定値プランとで構成される要望申告応答制御プランの決定ルールが予め設定されている。
【0066】
[第1の空調設定値プラン]
第1の空調設定値プランは、処理中の要望V(UID,DS,Stime)に対応する第1の空調設定値Tset1を決定するプランである。この第1の空調設定値Tset1は、次式のように表すことができる。
Tset1=Tbef+Tdp1(DS) ・・・(2)
【0067】
上記のとおり、本実施の形態では、空調設定値Tsetを、室温設定値としている。式(2)のTbefは既制御プランにおける空調設定値(要望処理開始時点の初期値)、Tdp1(DS)は要望状態DC(DS,R,TC)の変更種類DSに対応する第1の設定値偏差である。本実施の形態のように冷房時の場合、Tbef>Tset1>0となる。第1の設定値偏差Tdp1(DS)は以下の式で決定される。
Tdp1(DS)=S(DS)×γdp1(DS) ・・・(3)
【0068】
上記のとおり、申告者が「暑い」と申告したとき、変更種類DS=1となり、申告者が「寒い」と申告したとき、変更種類DS=−1となる。式(3)におけるS(DS)は変更種類DSに対応する空調設定値Tsetの増減方向を示す係数である。変更種類DS=1のとき、係数S(1)=−1となり、変更種類DS=−1のとき、係数S(−1)=1となる。つまり、申告者が「暑い」と申告したときは、係数S(DS)を−1にして空調設定値Tsetを下げ、申告者が「寒い」と申告したときは、係数S(DS)を1にして空調設定値Tsetを上げる。すなわち、申告要望が解消する方向に空調設定値Tsetを変更する。
【0069】
式(3)におけるγdp1(DS)は変更種類DSに対応する設定値変更幅である(0<γdp1(DS))。この設定値変更幅γdp1(DS)は、要望の変更種類DSに応じて予め制御プロバイダや設備管理者などによって決定される。設定値変更幅γdp1(DS)は、変更種類DSの値によらず一律に0.5℃や1℃などと設定してもよいし、変更種類DSの値に応じて異なる値としてもよい。
【0070】
[設定値維持プラン]
設定値維持プランは、所定の設定値維持時間tαの間、第1の空調設定値Tset1を維持し、申告者の要望を満足させる方向の空調制御を行うプランである。設定値維持時間tαは、空調設定値TsetをTset1に変更した後の室内環境の応答時間(例えば室内温度がTset1に応じて変化し始める遅れ時間など)や、一時的に増加している居住者の代謝量が平常状態に落ち着くまでの時間(例えば30分)などを考慮して制御プロバイダや設備管理者が予め設定する。
【0071】
[第2の空調設定値プラン]
第2の空調設定値プランは、第1の空調設定値プランによって空調設定値TsetがTset1に変更され設定値維持時間tα維持された後に設定される第2の空調設定値Tset2を決定するプランである。この第2の空調設定値プランにより、判定フラグRがR=2(判定保留要望)の場合の第2の空調設定値Tset2は、次式のように表すことができる。
Tset2=Tset1+Tdp2(DS) ・・・(4)
【0072】
式(4)のTdp2(DS)は要望状態DC(DS,R,TC)の変更種類DSに対応する第2の設定値偏差である。この第2の設定値偏差Tdp2(DS)は以下の式で決定される。
Tdp2(DS)=−S(DS)×γdp2(DS) ・・・(5)
【0073】
係数S(DS)は上記で説明したとおりである。式(5)におけるγdp2(DS)は変更種類DSに対応する設定値復帰幅である。この設定値復帰幅γdp2(DS)は以下の式で決定される。
γdp2(DS)=F(TC)×γdp1(DS) ・・・(6)
【0074】
設定値変更幅γdp1(DS)は上記で説明したとおりである。式(6)におけるF(TC)は一時的確信度TCを変数とする確信度係数算出関数(0<F(TC)<1)である。本実施の形態では、F(TC)=TCとしている。
【0075】
一方、判定フラグRがR=1(一時的要望)の場合の第2の空調設定値Tset2は、次式のように表すことができる。
Tset2=Tset1+γdp1(DS)=Tbef ・・・(7)
【0076】
また、判定フラグRがR=0(非一時的要望)の場合の第2の空調設定値Tset2は、次式のように表すことができる。
Tset2=Tset1 ・・・(8)
【0077】
確信度係数算出関数F(TC)は予め制御プロバイダや設備管理者などによって決定されるが、以下の(IV)〜(VI)の条件を満たす関数であり、F(TC)=TCでなく、例えば、F(TC)=(TC)
2あるいはF(TC)=sqrt(TC)としても構わない(sqrtは平方根)。
【0078】
(IV)0<F(TC)<1。
(V)一時的確信度TCが0%に対応する値でF(TC)≒0、かつ一時的確信度TCが100%に対応する値でF(TC)≒1。
(VI)F(TC)は一時的確信度TCに対して単調増加する関数。
【0079】
以上により、制御プラン決定処理部3は、判定フラグRがR=1(一時的要望)の場合、空調設定値Tset=Tbefを申告者からの要望V(UID,DS,Stime)に対応する第1の空調設定値Tset1に変更し、この第1の空調設定値Tset1を設定値維持時間tα維持した後に、変更前の値に戻す(R=1の場合はTset2=Tbef)という制御プランを決定する。
【0080】
また、制御プラン決定処理部3は、判定フラグRがR=2(判定保留要望)の場合、空調設定値Tset=Tbefを申告者からの要望V(UID,DS,Stime)に対応する第1の空調設定値Tset1に変更し、この第1の空調設定値Tset1を設定値維持時間tα維持した後に、第2の空調設定値Tset2に変更するという制御プランを決定する。
【0081】
また、制御プラン決定処理部3は、判定フラグRがR=0(非一時的要望)の場合、空調設定値Tset=Tbefを要望V(UID,DS,Stime)に対応する第1の空調設定値Tset1(R=0の場合はTset1=Tset2)に継続的に変更するという制御プランを決定する。
【0082】
最後に、機器制御部2は、制御プラン決定処理部3が決定した新たな制御プランに基づいて、申告者特定情報UIDで特定される申告者に対応する空調機器8を制御する(
図4ステップS1−4)。機器制御部2は、空調の制御量(例えば室温)と制御プラン決定処理部3が決定した制御プランで規定される空調設定値Tset(例えば室温設定値)とが一致するように空調機器8を制御する。制御アルゴリズムとしては例えばPIDが知られている。また、機器制御部2は、居住者と、この居住者の在席空間と、この在席空間に対応する空調ゾーンの空調機器8とを対応付ける情報に基づいて、申告者に対応する空調機器8を決定すればよい。
申告者からの新たな要望申告が発生した場合には、この要望に対してステップS1−1〜S1−4の処理が繰り返される。
【0083】
図7に要望申告に対して空調設定値Tsetがどのように変更されるかの1例を示す。
図7に示すように、「暑い」という要望h1が発生したとき、この要望h1が一時的要望または判定保留要望と判定されると、制御プラン決定処理部3は、空調設定値Tset=Tbefを第1の空調設定値Tset1に変更し、設定値維持時間tα後のタイミングr1で第2の空調設定値Tset2に変更するという制御プランを決定する。
図7の破線70は要望h1が一時的要望の場合を示しており、実線71は要望h1が判定保留要望の場合を示している。なお、要望h1が非一時的要望の場合には、上記のとおり空調設定値Tset=Tbefが第1の空調設定値Tset1に継続的に変更される。
【0084】
本実施の形態では、確信度係数算出関数F(TC)は一時的確信度TCが高くなるほど1に近づくので、空調設定値Tsetの復帰幅γdp2(DS)は、一時的確信度TCが高くなるほど、直前の設定値変更の変更幅γdp1(DS)に近づく。つまり、第2の空調設定値Tset2は、一時的確信度TCが高いほど、申告要望に対応する前の空調設定値Tbefに近づき(申告要望対応以前の空調設定値に復帰)、一時的確信度TCが低いほど、申告要望対応時の空調設定値Tset1に近い値(要望対応の設定値を維持)となる。これにより、本実施の形態では、要望の判定結果に基づく環境変更の処理の妥当性を向上させることができる。
【0085】
なお、本実施の形態では、要望の変更種類を「暑い」、「寒い」の2種類としたが、変更種類を「暑い」、「やや暑い」、「暑くも寒くもない」、「やや寒い」、「寒い」の5種類などとしてもよい。この場合、例えば、「暑い」はDS=1、「やや暑い」はDS=2、「暑くも寒くもない」はDS=3、「やや寒い」はDS=4、「寒い」はDS=5とする。変更種類DS=1,2,3,4,5に対応する係数S(DS)をそれぞれ−1,−1,0,1,1とする。また、変更種類DS=1,2,3,4,5に対応する設定値変更幅γdp1(DS)をそれぞれ1.0[℃],0.5[℃],0[℃],0.3[℃],0.6[℃]とする。このように変更種類DSに応じて設定値変更幅γdp1(DS)が異なるようにしてもよい。
【0086】
また、本実施の形態では、要望申告発生時に個々の要望に対応する制御の例で示したが、例えば15分周期など周期的に制御を行なう場合にももちろん適用できる。その場合、要望判定処理部5は、申告者からの要望V(UID,DS,Stime)を一旦データベースに保持し、当該周期の最新の要望のみを代表的な要望として採用する後優先処理、15分の期間中に発生した複数の要望のうち最も多い要望のみを代表的な要望として採用する多数決処理、15分の期間中に発生した全要望数に対する要望数の割合に基づき代表的な要望を推定する要望割合処理(特開2006−214624号公報参照)などの汎用処理を制御周期毎に実行して、当該制御周期の代表的な要望(以下、代表要望と記)を決定し、この代表要望の変更種類DSを決定すると共に、例えば変更種類DSを決定した時刻などを代表要望の申告時刻Stimeとする。そして、要望判定処理部5は、この代表要望に対して
図4のステップS1−2〜S1−4の処理を実行すればよい。
【0087】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態に続き、居住者の要望申告を所定の判定基準により一時的か否か判定する2値判定型の要望判定方法に適用する例である。本実施の形態では、要望の判定方法として、一時的要望と判定する領域を上下限値で定まる範囲で指定するケースへの本発明の適用例を説明する(特許文献3に開示された技術への適用例)。
【0088】
本実施の形態においても、要望判定型空調制御装置1の構成および処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、
図3、
図4の符号を用いて説明する。ただし、本実施の形態では、要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeが第1の実施の形態の判定情報(滞在継続時間Hcs(UID,Stime))に相当するものとなるので、判定情報管理部7から判定情報を取得する必要はなく、判定情報管理部7は不要である。第1の実施の形態と異なる点は、要望判定処理部5と判定ルール記憶部6の動作になるので、本実施の形態ではこれらについてのみ説明する。
【0089】
以下、特許文献3に開示されている一時的要望か否かの2値判定処理と、本実施の形態における要望判定処理(3値判定処理)および一時的確信度TCの決定処理とを対比しながら説明する。
【0090】
特許文献3に開示された技術では、予め決定されている時刻開始閾値Jsおよび時刻終了閾値Jeと要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeとを比較し、要望V(UID,DS,Stime)が一時的要望か非一時的要望(持続的要望)かを判定する。
【0091】
具体的には、
図8に示すように、Js<Stime<Je、すなわち申告時刻Stimeが時刻開始閾値Jsより後で時刻終了閾値Jeより前の場合、要望V(UID,DS,Stime)を一時的要望と判定し、申告時刻Stimeが時刻開始閾値Js以前か、あるいは時刻終了閾値Je以後の場合、要望V(UID,DS,Stime)を非一時的要望と判定する。
【0092】
これに対し、本実施の形態の要望申告判定では、第1の実施の形態と同様に、要望V(UID,DS,Stime)を一時的要望と、非一時的要望と、一時的要望か非一時的要望か確信的には判定し難い要望である判定保留要望の3つに分類する。このため、本実施の形態では、時刻開始閾値Jsという閾値の代わりに、判定保留開始域下限Gsminと判定保留開始域上限Gsmaxという上下限値によって定まる判定保留開始域(時間範囲)を設定すると共に、時刻終了閾値Jeという閾値の代わりに、判定保留終了域下限Geminと判定保留終了域上限Gemaxという上下限値によって定まる判定保留終了域(時間範囲)を設定する。
【0093】
判定保留開始域および判定保留終了域は、対象となる居住者の温冷感の多様性やスケジュールに基づく行動のばらつき時間等を考慮して予め決定しておけばよい。判定保留開始域および判定保留終了域の決定方法としては、特許文献3に開示された2値判定処理における時刻開始閾値Js、時刻終了閾値Jeを考慮して判定保留開始域および判定保留終了域を決定する方法がある。例えば、時刻開始閾値Jsと判定保留時間幅ΔJに基づいて、Js〜Js+ΔJを判定保留開始域としたり(すなわち、Gsmin=Js、Gsmax=Js+ΔJ)、Js−ΔJ/2〜Js+ΔJ/2を判定保留開始域としたりすればよい(すなわち、Gsmin=Js−ΔJ/2、Gsmax=Js+ΔJ/2)。このように、時刻開始閾値Jsを判定保留開始域に含むか、あるいは、時刻開始閾値Jsが判定保留開始域上下限に接するように設定する。判定保留終了域についても、時刻終了閾値Jeと判定保留時間幅ΔJに基づいて同様に設定すればよい。
【0094】
なお、特許文献3では、申告者の代謝量を変化させる行動に関する情報、具体的には、申告者が所属する事業所の事業所スケジュールや申告者の個人スケジュールに基づいて、時刻開始閾値Jsと時刻終了閾値Jeを設定している。つまり、出社、昼食、休憩、外出、会議といった申告者の行動に対応付けて、これら行動の時間帯の少なくとも一部を含むように時刻開始閾値Jsと時刻終了閾値Jeを設定している。時刻開始閾値Jsと時刻終了閾値Jeの設定方法については特許文献3に開示されているので、詳細な説明は省略する。
【0095】
本実施の形態の判定ルール記憶部6には、要望判定ルールとして、要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeと、判定保留開始域(判定保留開始域下限Gsminと判定保留開始域上限Gsmax)および判定保留終了域(判定保留終了域下限Geminと判定保留終了域上限Gemax)との比較で要望の持続種類を決定するというルールが、制御プロバイダや設備管理者などによって予め設定されている。
【0096】
図9は本実施の形態の要望判定処理と一時的確信度決定処理を説明する図である。本実施の形態の要望判定処理部5は、Gsmax≦Stime≦Gemin、すなわち要望入力端末9から受け付けた要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeが判定保留開始域上限Gsmax以後で判定保留終了域下限Gemin以前の場合、要望V(UID,DS,Stime)の持続種類を示す持続種類判定フラグRをR=1とする。R=1は要望V(UID,DS,Stime)が一時的要望であることを示す。
【0097】
また、要望判定処理部5は、Stime≦Gsmin、またはGemax≦Stime、すなわち要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeが判定保留開始域下限Gsmin以前か、または判定保留終了域上限Gemax以後である場合、持続種類判定フラグRをR=0とする。R=0は要望V(UID,DS,Stime)が非一時的要望であることを示す。
【0098】
また、要望判定処理部5は、Gsmin<Stime<Gsmax、またはGemin<Stime<Gemax、すなわち要望V(UID,DS,Stime)の申告時刻Stimeが判定保留開始域下限Gsminより後で判定保留開始域上限Gsmaxより前の場合、または判定保留終了域下限Geminより後で判定保留終了域上限Gemaxより前の場合、持続種類判定フラグRをR=2とする。R=2は要望V(UID,DS,Stime)が判定保留要望であることを示す。
【0099】
また、本実施の形態の判定ルール記憶部6には、要望判定ルールと共に一時的確信度決定ルールが予め設定されている。ここでは、申告時刻Stimeの判定保留開始域および判定保留終了域の端点(判定保留開始域下限Gsmin、判定保留開始域上限Gsmax、判定保留終了域下限Gemin、判定保留終了域上限Gemax)からの距離に基づいて一時的確信度TCを決定するというルールが予め設定されている。
【0100】
このような一時的確信度決定ルールに基づき、要望判定処理部5は、判定フラグRがR=1(一時的要望)の場合、一時的確信度TCを1とし、判定フラグRがR=0(非一時的要望)の場合、一時的確信度TCを0とし、判定フラグRがR=2(判定保留要望)の場合、一時的確信度TCを以下の式(9)、式(10)により決定する。
TC=(Stime−Gsmin)/(Gsmax−Gsmin) ・・・(9)
TC=(Gemax−Stime)/(Gemax−Gemin) ・・・(10)
【0101】
Gsmin<Stime<Gsmaxの場合は式(9)を使用し、Gemin<Stime<Gemaxの場合は式(10)を使用すればよい。
要望判定処理部5は、要望入力端末9から受け付けた要望V(UID,DS,Stime)に対し、要望の変更種類DSと判定フラグRと一時的確信度TCとを関連付け、これらを申告要望の要望状態DC(DS,R,TC)として保持する。
【0102】
その他の構成は第1の実施の形態で説明したとおりである。こうして、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、申告要望に対応して空調設定値Tsetを変更して設定値維持時間tαが経過してから復帰させた後の次の申告要望に対応する設定値変更幅に、前回の設定値復帰幅を考慮する例である。第1の実施の形態および第2の実施の形態では、判定保留要望が発生すると、この要望に対応して変更した第1の空調設定値Tset1を、設定値維持時間tα経過後に設定値復帰幅γdp2(DS)の分だけ変更前の設定値Tbefの方向に戻すようにしている(環境復帰)。
【0104】
ここで、0<F(TC)<1であるので、設定値復帰幅γdp2(DS)は、式(6)より設定値変更幅γdp1(DS)未満の値となる。つまり、例えば「暑い」という要望の場合、環境復帰後の空調設定値は要望処理開始時点の空調設定値Tsetの初期値Tbefよりも低い値となり、「寒い」という要望の場合、環境復帰後の空調設定値は初期値Tbefよりも高い値となる。そして、この復帰後の空調設定値が、次の要望処理開始時点の新たな初期値Tbefとなる。
【0105】
ここで、空調設定値の増減方向を示す係数S(DS)が同じで、かつ判定保留要望と判定される申告要望が連続して発生する場合を考える。判定保留要望が連続すると、上記の第1の空調設定値プランにより、空調設定値Tset=Tbefから設定値変更幅γdpl(DS)の分だけ低い方向あるいは高い方向に連続して空調設定値Tsetが変更されることとなる。したがって、例えば冷房時に「暑い」という判定保留要望が連続して発生した場合、
図10に示すように空調設定値Tsetが過度に低下する。
【0106】
図10の例では、「暑い」という判定保留要望h1,h2が連続して発生した場合を示している。
図10におけるTbef’は判定保留要望h1の処理開始時点の空調設定値Tsetの初期値、Tbefは判定保留要望h2の処理開始時点の空調設定値Tsetの初期値、Tset1’は判定保留要望h1に対応する第1の空調設定値、Tset2’は判定保留要望h1に対応する第2の空調設定値、Tset1は判定保留要望h2に対応する第1の空調設定値、γdp1(DS)は判定保留要望h1に対応する設定値変更幅、γdp2(DS’)は判定保留要望h1に対応する設定値復帰幅である。
【0107】
一時的確信度判定の妥当性が高い場合には、
図10に示したような設定値変更は適切であるが、前述したように、居住者の温冷感特性が多様であることを踏まえれば、判定条件も必ずしも最適とは限らない。よって、一時的確信度の判定結果が妥当性を欠くリスクを考慮し、後続する要望申告への空調応答制御への影響を軽減する。
具体的には、第1の空調設定値プランにおける第1の設定値偏差Tdp1(DS)を、予め設定されている設定値変更幅γdp1(DS)と、直前の要望申告応答制御プランにおける設定値復帰幅γdp2(DS’)に基づいて決定する。
【0108】
本実施の形態においても、要望判定型空調制御装置1の構成は第1の実施の形態と同様であるので、
図3の符号を用いて説明する。ただし、本実施の形態を第1の実施の形態に適用する場合には、判定情報管理部7が必要であるが、本実施の形態を第2の実施の形態に適用する場合には、第2の実施の形態で説明したとおり、判定情報管理部7は不要である。
【0109】
図11は、本実施の形態の要望判定型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。要望入力端末9の動作(
図11ステップS1−1)および要望判定処理部5の動作(
図11ステップS1−2)は、第1、第2の実施の形態で説明したとおりである。
【0110】
本実施の形態の制御プラン記憶部4には、第1の実施の形態で説明した制御プランと共に、処理中の要望V(UID,DS,Stime)と直前の要望とが共に判定保留要望で、かつ処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する空調設定値Tsetの増減の方向が直前の要望の場合と同じときの第1の空調設定値プランが予め設定されている。
【0111】
本実施の形態の制御プラン決定処理部3は、処理中の要望V(UID,DS,Stime)と直前の要望とが判定保留要望で、かつ処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する空調設定値Tsetの増減の方向が直前の要望の場合と同じかどうかを判定し(
図11ステップS1−5)、処理中の要望V(UID,DS,Stime)と直前の要望のうち少なくとも一方が判定保留要望でない場合、あるいは空調設定値Tsetの増減の方向が異なる場合(ステップS1−5においてNO)、第1の実施の形態で説明した方法で制御プランを決定する(
図11ステップS1−3)。第1の実施の形態で説明したとおり、変更種類DS=1、すなわち申告者が「暑い」と申告したときは、空調設定値Tsetを下げ、変更種類DS=−1、すなわち申告者が「寒い」と申告したときは、空調設定値Tsetを上げる。
【0112】
制御プラン決定処理部3は、決定した制御プランを保存する(
図11ステップS1−6)。機器制御部2の動作(
図11ステップS1−4)は第1、第2の実施の形態で説明したとおりである。
【0113】
また、制御プラン決定処理部3は、処理中の要望V(UID,DS,Stime)と直前の要望とが判定保留要望で、かつ処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する空調設定値Tsetの増減の方向が直前の要望に対応する空調設定値Tsetの増減の方向と同じ場合(ステップS1−5においてYES)、第1の実施の形態と異なる第1の空調設定値プランを選択して、処理中の要望V(UID,DS,Stime)に対応する制御プランを決定する(
図11ステップS1−7)。以下、本実施の形態の特徴となる第1の空調設定値プランについて説明する。
【0114】
[第1の空調設定値プラン]
第1の空調設定値プランは、処理中の要望V(UID,DS,Stime)に対応する第1の空調設定値Tset1を決定するプランである。この第1の空調設定値Tset1は、第1の実施の形態と同様に式(2)で表すことができる。ただし、処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する本実施の形態の第1の設定値偏差Tdp1(DS)は以下の式で決定される。
Tdp1(DS)=S(DS)×P(γdp1(DS),γdp2(DS’))
・・・(11)
【0115】
P(γdp1(DS),γdp2(DS’))は、予め設定された設定値変更幅γdp1(DS)と直前の要望に対応して決定された設定値復帰幅γdp2(DS’)の関数であり、処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する今回の設定値変更幅である。この設定値変更幅P(γdp1(DS),γdp2(DS’))は以下の式で決定される。
P(γdp1(DS),γdp2(DS’))
=(a×γdp1(DS)+b×γdp2(DS’))/(a+b)・・(12)
【0116】
本実施の形態では、P(γdp1(DS),γdp2(DS’))を、a,bを任意の正数とする重みづけ関数と定義した。第1の実施の形態で説明したとおり、設定値変更幅γdp1(DS)は処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに応じて決まる値、あるいは予め設定された値である。一方、設定値復帰幅γdp2(DS’)は、直前の要望の処理時にステップS1−6で保存された制御プランから取得することができる。
設定値維持プランと第2の空調設定値プランについては第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0117】
以上により、制御プラン決定処理部3は、判定フラグRがR=2(判定保留要望)の要望が連続して発生し、処理中の要望V(UID,DS,Stime)の変更種類DSに対応する空調設定値Tsetの増減の方向が直前の要望に対応する空調設定値Tsetの増減の方向と同じ場合、空調設定値Tset=Tbefを本実施の形態で説明した第1の空調設定値プランに基づく第1の空調設定値Tset1に変更し、この第1の空調設定値Tset1を設定値維持時間tα維持した後に(設定値維持プラン)、第2の空調設定値プランに基づく第2の空調設定値Tset2に変更するという制御プランを決定する。
【0118】
P(γdp1(DS),γdp2(DS’))は予め制御プロバイダや設備管理者などによって決定されるが、γdp2(DS’)≦P(γdp1(DS),γdp2(DS’))≦γdp1(DS)という条件を満たす関数であればよい。
【0119】
例えば上記の式(12)においてa=b=1とすれば、設定値変更幅P(γdp1(DS),γdp2(DS’))は、
図10のように、|Tdp1(DS)|=(γdp1(DS)+γdp2(DS’))/2となり、直前の要望申告応答制御プランにおける設定値復帰幅γdp2(DS’)を考慮しない場合の変更幅γdp1(DS)よりも小さい値となる。
【0120】
以上のように、本実施の形態では、判定保留要望が連続して発生した場合に、直前の変更種類DS’に対応する設定値復帰幅γdp2(DS’)と今回の変更種類DSに対応する設定値変更幅γdp1(DS)とを考慮し、それらを上下限とする範囲の設定値変更幅を適宜設定することで、直前の要望申告応答を加味しながら後続する要望申告への空調応答制御への影響を軽減することができる。
【0121】
第1〜第3の実施の形態で説明した要望判定型空調制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。