特許第6649877号(P6649877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6649877変異したヒンジ領域を含むIgG4 Fcフラグメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649877
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】変異したヒンジ領域を含むIgG4 Fcフラグメント
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20200210BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20200210BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20200210BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   C07K19/00
   C07K16/46ZNA
   C12N15/13
   C12P21/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-516448(P2016-516448)
(86)(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公表番号】特表2016-521690(P2016-521690A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】KR2014004799
(87)【国際公開番号】WO2014193173
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年5月26日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0063029
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】ジュン スン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】フー ヨン ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク スン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョン スー
(72)【発明者】
【氏名】チョイ イン ヨン
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−513110(JP,A)
【文献】 特開2012−224635(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/083370(WO,A1)
【文献】 DRUG METABOLISM AND DISPOSITION, 2010年,Vol.38, No.1,p.84-91
【文献】 Prorein Science, 1997年,Vol.6,p.407-415
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントの、生体内鎖交換及び単量体形成を抑制するための使用であって、
変異したIgG4 Fcフラグメントが配列番号2のアミノ酸配列によって表される使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物のキャリアとして有用なIgG4 Fcフラグメントに関し、具体的には、Fcによるエフェクター機能を最小限に抑えることができ、生体内免疫グロブリンとの鎖交換が起こらず、結合された薬物の生体内半減期を延長させることのできるIgG4 Fcフラグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝工学技術の発展に伴い、様々なタンパク質医薬品が製造されて用いられるようになった。しかし、タンパク質医薬品は、容易に変性したり、生体内プロテアーゼなどにより容易に分解されるので、生体内濃度及び力価を長期間持続できないという致命的な欠点がある。よって、タンパク質の安定性を増加させ、タンパク質医薬品の血中、生体内濃度を適正水準に維持することは、効果的な治療という面だけでなく、注射などで頻繁にタンパク質の供給を受けなければならない患者の不便さの軽減という面や経済的な面からも非常に重要な問題である。
【0003】
よって、タンパク質医薬品の生体内安定性を増加させるために、タンパク質の剤形を変更したり、他のタンパク質を融合させたり、タンパク質の表面に適切な高分子を化学的又は生物学的方法で付着させるなどの様々な方法が以前から試みられている。
【0004】
他のタンパク質との融合によりタンパク質の安定性を増加させるための試みの1つが、免疫グロブリンFcとタンパク質との融合である。
【0005】
Fc領域は、免疫グロブリン固有の機能である抗原結合能以外の補体依存性細胞傷害(CDC, complement-depentent cytotoxicity)、抗体依存性細胞傷害(ADCC, antibody-dependent cell cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)を担う。また、Fc領域に存在するFcRn配列は、生体内FcRn受容体に結合して持続的な再利用(recycling)により生体内半減期を延長させ、血清内IgGのレベルを調節する役割を果たす。このようなFc領域と治療用タンパク質との融合により治療用タンパク質の安定性を増加させる研究が盛んに行われている。
【0006】
しかし、遺伝子組換え法により生産されたFc融合タンパク質は、免疫グロブリンFc領域の特定部位、すなわちN末端又はC末端でのみタンパク質融合が可能であり、同じ細胞で生産されるのでグリコシル化タンパク質同士又は非グリコシル化タンパク質同士の融合のみ可能であり、グリコシル化タンパク質と非グリコシル化タンパク質の融合は不可能であるという欠点がある。また、融合により新たに生じたアミノ酸配列により免疫反応が誘発されることがあるだけでなく、リンカー部位に対するタンパク質加水分解酵素の感度が増加するという問題がある。
【0007】
また、前記Fcとの融合タンパク質は、標的タンパク質の血中半減期を延長するが、同時にFc領域の有するエフェクター機能が発揮されるという問題がある(特許文献1)。Fc領域のエフェクター機能により、補体を固定したり、FcRsを発現する細胞に結合して特定細胞を破壊させ、炎症を誘発する様々なサイトカインの生成及び分泌を誘導することによって望ましくない炎症を誘発する。また、融合した部位のタンパク質配列は人体に存在しない新たなタンパク質配列であるので、長期投与時に免疫反応を誘発する可能性があるなど、様々な欠点がある。
【0008】
よって、長い血中半減期を維持するものの、エフェクター機能が欠失した免疫グロブリン又は免疫グロブリンフラグメントを用いる研究が行われている。Coleらは、Fc受容体に対する親和力が減少したFc誘導体を生産するために、CH2領域のうちFc受容体との結合に重要な役割を果たすことが知られている234、235及び237番目の残基をアラニンに置換することにより、ADCCの活性が抑制されることを報告している(非特許文献1)。しかし、これらは全て天然ヒトFc領域とは異なる不適切なアミノ酸の存在により、Fcがより大きな免疫性又は抗原性を有するようになることがあり、好ましいFc機能を失うこともある。
【0009】
免疫グロブリンの高い血中濃度を維持しつつ望ましくないエフェクター機能を除去又は減少させる方法の一つとして、免疫グロブリンの糖を除去する方法が研究されている。特許文献2は、CD3抗体の作製時に抗体のグリコシル化残基であるCH2ドメインの297番目のアスパラギン残基を他のアミノ酸に置換することにより、非グリコシル化された抗体誘導体を作製するが、ここでは誘導体がFcRn受容体との結合力を血中半減期の変化なく維持しつつ、減少したエフェクター機能を示す。しかし、この方法も、正常でない配列を有する新たな組換え構造物の生成により、免疫系において外部物質と認識されて拒否されるという問題がある。
【0010】
天然IgG Fc配列を用いたタンパク質融合体を生産する際にFcによるエフェクター機能を最小限に抑えるための努力として挙げられるのはIgG4 Fcである。IgG4は、IgG1に類似した生体内半減期を示すものの、アミノ酸配列の差異によりエフェクター機能が相対的に小さいことが知られている。しかし、IgG4は、エフェクター機能が減少するという利点にもかかわらず、独特のヒンジ配列により生体内でIgG4間の鎖交換が起こり、タンパク質融合体を治療用目的で使用することは非常に困難であると報告されている(非特許文献2)。すなわち、IgG4 Fcをタンパク質融合体のキャリアとして使用すると、生体内に存在するIgG4との鎖交換が起こって天然IgG4とハイブリッドを形成したり、単量体で存在するので、元の構造を変えて治療学的に低い活性を有する構造にするという問題が生じる。これは、IgG4 Fcフラグメントと生理活性物質の融合体を遺伝工学的手法で生産したとしても、in vitroで生産したとしても共通の問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5349053号明細書
【特許文献2】米国特許第5585097号明細書
【特許文献3】国際公開第97/034631号
【特許文献4】国際公開第96/032478号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cole et al., J. Immunol. 159: 3613-3621, 1997
【非特許文献2】van der Neut Kolfschoten, et at., Science, 317:1554-1557. 2007
【非特許文献3】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
こうした背景の下、本発明者らは、前記遺伝子組換え融合技術の欠点を克服しながらも、生体内IgGとのFab arm交換反応やエフェクター機能を誘発する危険性が低く、薬物のキャリアとして作用するIgG Fcフラグメントを研究した結果、IgG4 Fcフラグメントのヒンジ配列を変異させて1つのシステイン残基のみを有するようにしたIgG4 Fcフラグメント配列を大腸菌から生産して薬物に結合させると、生体内におけるIgGとのFab arm交換反応やエフェクター機能を誘発する危険性がなく、持続性が増加した薬物結合体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、生体内IgGとの鎖交換反応やエフェクター機能を誘発する危険性が低く、薬物のキャリアとして作用するIgG4 Fcフラグメントを提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、ヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、ヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、ヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を含むベクターを提供することを目的とする。
【0017】
さらに、本発明は、ヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を含むベクターが導入された微生物を提供することを目的とする。
【0018】
さらに、本発明は、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を含むベクターが導入された微生物を培養する段階を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントを製造する方法を提供することを目的とする。
【0019】
さらに、本発明は、薬物及び変異したIgG4 Fcフラグメントがリンカーを介して結合された薬物結合体を提供することを目的とする。
【0020】
さらに、本発明は、薬物及び変異したIgG4 Fcフラグメントがリンカーを介して結合された薬物結合体を含む薬学組成物を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、アミノ酸置換又は添加を行うことなく、かつ糖鎖を付加することなく、エフェクター機能が最小化され、生体内IgG4との鎖交換反応が起こらない、変異したIgG4 Fcフラグメントを提供し、本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントは、遺伝工学的手法やインビトロ(in vitro)共有結合法などの薬物結合法に関係なく、薬物結合時に結合された薬物の生体内における鎖交換反応を抑制することにより、天然IgG4 Fcフラグメントに比べて卓越した治療学的優位性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ラット血液からビオチン化された(Biotinylated)hIgG4とヒト顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント結合体のヒトIgG4鎖交換の有無を示す図である。
図2】ヒト血液からビオチン化されたhIgG4とヒト顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント結合体のヒトIgG4鎖交換の有無を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、薬物のキャリアとして有用な変異したIgG4 Fcフラグメントを提供する。より具体的には、本発明は、ヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントを提供する。
【0024】
本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントは、下記のアミノ酸配列を有するヒンジ領域において一部のアミノ酸が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む。
Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Ser−Cys−Pro(配列番号1)
【0025】
本発明者らは、IgG4 Fcフラグメントが薬物の半減期を延長させるためのキャリアとして有用であるにもかかわらず、生体内のIgG4との鎖交換反応により有用性が劣るという問題を解決するために研究した結果、IgG4 Fcフラグメントのヒンジ領域に存在する2つのシステイン残基のうちの1つをはじめとするヒンジ領域の一部を欠失により除去することにより得られた、変異したヒンジ領域を含むIgG4 Fcフラグメントは、生体内鎖交換反応及び単量体形成が起こらないので、薬物のキャリアとして有用であることが確認された。
【0026】
本発明のIgG4 Fcフラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列のヒンジ領域において8番目のシステイン残基を含む1〜8つのアミノ酸残基が欠失して変異したヒンジ領域を含んでもよい。
【0027】
また、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列のヒンジ領域において11番目のシステイン残基を含む1〜8つのアミノ酸残基が欠失して変異したヒンジ領域を含んでもよい。
【0028】
あるいは、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列のヒンジ領域において、8番目のシステイン残基を含む1〜5つのアミノ酸残基、又は11番目のシステイン残基を含む1〜5つのアミノ酸残基が欠失して変異したヒンジ領域を含んでもよい。
【0029】
あるいは、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列のヒンジ領域において、8番目のシステイン残基を含む1〜3つのアミノ酸残基、又は11番目のシステイン残基を含む1〜3つのアミノ酸残基が欠失して変異したヒンジ領域を含んでもよい。
【0030】
前記欠失するアミノ酸残基は、連続的であってもよく、不連続的であってもよい。
【0031】
本発明のIgG4 Fcフラグメントのヒンジ領域は、配列番号1のアミノ酸配列の8番目のシステイン残基と11番目のシステイン残基のいずれかのシステイン残基のみ含むように変異したものであり、2つのシステイン残基の両方が除去されたものではないことを特徴とする。
【0032】
このようなヒンジ領域内の2つのシステイン残基のうち1つのシステインのみを有するように変異したヒンジ領域は、生体内鎖交換、単量体形成などが起こらないという効果を、変異したIgG4 Fcフラグメントに付与する。
【0033】
本発明におけるキャリアとは、薬物と共に結合される物質を意味し、一般に薬物に結合されて薬物の生理活性を増減させるか、除去するものである。しかし、発明におけるキャリアは、本発明の目的上、結合される薬物の生理活性の減少を最小限に抑えると共に薬物の生体内安定性を増加させ、キャリアに結合された薬物の治療学的活性を妨害する他の薬理作用、すなわちアポトーシス又は補体活性化、さらに特定タンパク質との結合がないことを特徴とする。
【0034】
本発明におけるIgG4 Fcフラグメントとは、IgG4の重鎖と軽鎖の可変領域、重鎖定常領域1(CH1)と軽鎖定常領域1(CL1)を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び重鎖定常領域3(CH3)部分を意味し、重鎖定常領域に変異したヒンジ(hinge)部分を含む。また、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。また、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が除去された領域であってもよい。
【0035】
また、本発明のIgG4 Fcフラグメントには、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体(mutein)も含まれる。本発明におけるIgG4 Fcフラグメントの配列誘導体とは、ヒンジ領域を除く残りの部分の天然アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が除去された誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な種類の誘導体が用いられる。また、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC部位が除去されてもよい。このようなFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献3、4などに開示されている。
【0036】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(非特許文献3)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。
【0037】
場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0038】
一方、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、ヒト起源であることが好ましい。
【0039】
本発明のIgG4 Fcフラグメントは、ヒト由来、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物由来のFc領域を微生物から得た組換えIgG4 Fcフラグメントであってもよい。
【0040】
また、IgG4 Fcフラグメントは、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法及び微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化されたIgG4 Fcフラグメントは、薬物のキャリアとして本発明の目的に適する。
【0041】
本発明における糖鎖の除去(Deglycosylation)とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核細胞、好ましくは大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFcフラグメントを意味する。
【0042】
また、本発明のIgG4 Fcフラグメントは、非ペプチド性重合体により改質されたものであってもよい。本発明のIgG4 Fcフラグメントは、ポリエチレングリコールにより改質されたものであることが好ましい。ポリエチレングリコールにより改質されたIgG4 Fcフラグメントは、FcフラグメントをpH7以上、好ましくはpH7.5〜pH9、より好ましくはpH8.0でポリエチレングリコールと反応させることにより製造することができる。
【0043】
本発明における変異したヒンジ領域とは、天然のIgG4 Fcフラグメントのヒンジ領域の配列である配列番号1のアミノ酸配列において8番目のシステイン残基及び11番目のシステイン残基のいずれかが欠失し、さらに一部のアミノ酸が欠失したヒンジ領域を意味する。
【0044】
本発明においては、ヒンジ領域において欠失するアミノ酸残基の数は1〜8つであってもよく、ここで、欠失するアミノ酸残基は連続的であってもよく、不連続的であってもよい。具体的には、例えば本発明の変異したヒンジ領域は、8番目のシステイン残基又は11番目のシステイン残基のみが欠失したものであってもよく、8番目のシステイン残基を含み、これと連続するか又は連続しない2〜8つのアミノ酸が欠失したものであってもよく、11番目のシステイン残基を含み、これと連続するか又は連続しない2〜8つのアミノ酸が欠失したものであってもよい。
【0045】
本発明の変異したヒンジ領域は、例えば下記のアミノ酸配列中の1つのアミノ酸配列を有する。
Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Ser−Pro,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Ser,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Pro,Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Ser,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys,Glu−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys,Glu−Ser−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Pro−Ser−Cys−Pro,Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Ser−Cys−Pro,Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys,Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro,Glu−Ser−Lys−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Ser−Pro−Ser−Cys−Pro,Glu−Pro−Ser−Cys
【0046】
本発明の具体的な実施例においては、ラット血液及びヒト血液内に存在するIgG4と本発明による変異したIgG4 Fcフラグメントの生理活性タンパク質結合体の鎖交換機序の有無を確認すべく、ラット血液及びヒト血液にIgG4 Fcと生理活性タンパク質結合体を混合して時間毎に採取し、生理活性タンパク質抗体を用いたウエスタンブロット分析法で分析した結果、ラット及びヒトIgG4の鎖交換により生成される分子は生成されないことが確認された。
【0047】
よって、本発明による変異したIgG4 Fcフラグメントは、薬物のためのキャリアとして用いられると、生体内で天然免疫グロブリンとの鎖交換を起こすことなく薬物の血中半減期を延長させ、生理活性を改善するのに有用であることが分かった。
【0048】
本発明の他の態様は、ヒンジ領域において一部のアミノ酸が欠失して1つのシステイン残基のみを有するように変異したヒンジ領域を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸及びそれを含むベクターを提供する。
【0049】
本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸は、配列番号2のアミノ酸配列(Pro−Ser−Cys−Pro−Ala−Pro−Glu−Phe−Leu−Gly−Gly−Pro−Ser−Val−Phe−Leu−Phe−Pro−Pro−Lys−Pro−Lys−Asp−Thr−Leu−Met−Ile−Ser−Arg−Thr−Pro−Glu−Val−Thr−Cys−Val−Val−Val−Asp−Val−Ser−Gln−Glu−Asp−Pro−Glu−Val−Gln−Phe−Asn−Trp−Tyr−Val−Asp−Gly−Val−Glu−Val−His−Asn−Ala−Lys−Thr−Lys−Pro−Arg−Glu−Glu−Gln−Phe−Asn−Ser−Thr−Tyr−Arg−Val−Val−Ser−Val−Leu−Thr−Val−Leu−His−Gln−Asp−Trp−Leu−Asn−Gly−Lys−Glu−Tyr−Lys−Cys−Lys−Val−Ser−Asn−Lys−Gly−Leu−Pro−Ser−Ser−Ile−Glu−Lys−Thr−Ile−Ser−Lys−Ala−Lys−Gly−Gln−Pro−Arg−Glu−Pro−Gln−Val−Tyr−Thr−Leu−Pro−Pro−Ser−Gln−Glu−Glu−Met−Thr−Lys−Asn−Gln−Val−Ser−Leu−Thr−Cys−Leu−Val−Lys−Gly−Phe−Tyr−Pro−Ser−Asp−Ile−Ala−Val−Glu−Trp−Glu−Ser−Asn−Gly−Gln−Pro−Glu−Asn−Asn−Tyr−Lys−Thr−Thr−Pro−Pro−Val−Leu−Asp−Ser−Asp−Gly−Ser−Phe−Phe−Leu−Tyr−Ser−Arg−Leu−Thr−Val−Asp−Lys−Ser−Arg−Trp−Gln−Glu−Gly−Asn−Val−Phe−Ser−Cys−Ser−Val−Met−His−Glu−Ala−Leu−His−Asn−His−Tyr−Thr−Gln−Lys−Ser−Leu−Ser−Leu−Ser−Leu−Gly−Lys)を含む、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を含む。例えば、本発明の核酸は、配列番号3のヌクレオチド配列(CCATCATGCCCAGCACCTGAGTTCCTGGGGGGACCATCAGTCTTCCTGTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCAGGAAGACCCTGAGGTCCAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTTCAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGGCCTCCCATCCTCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCAGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAGGCTAACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGGAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACACAGAAGAGCCTCTCCCTGTCTCTGGGTAAA)を有する。
【0050】
本発明におけるベクターとは、好適な宿主細胞において標的タンパク質を発現する組換えベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された調節因子を含む遺伝子産物をいう。
【0051】
本発明における、作動可能に連結された(operably linked)とは、一般的機能が行えるように、核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列が機能的に連結されていることをいう。ベクターとの作動的連結は当該技術分野で周知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野において一般に知られた酵素などを用いて容易に行うことができる。適した発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節因子配列を含んでもよい。開始コドン及び終止コドンは、遺伝子産物が投与された際にその個体で必ず作用しなければならず、コード配列とインフレーム(in frame)になければならない。一般プロモーターは、構成的でもよく、誘導性でもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含んでもよく、複製可能な発現ベクターであれば、複製起源を含んでもよい。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、変異したIgG4 Fcフラグメントを生産することができる、前記ベクターが導入された微生物を提供する。
【0053】
本発明の目的上、前記微生物は、グリコシル化が起こらない原核細胞であることが好ましい。このような原核細胞には、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコッカス(Staphylococcus)などがあるが、大腸菌であることが好ましい。大腸菌は、大腸菌XL−1ブルー、大腸菌BL21(DE3)、大腸菌JM109、大腸菌DHシリーズ、大腸菌TOP10及び大腸菌HB101であり、大腸菌BL21(DE3)であることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。大腸菌を宿主細胞として用いると、大腸菌には糖鎖をタンパク質に連結する体系がないので、天然免疫グロブリンのCH2ドメインに存在する糖が根本的に欠失した形態で免疫グロブリンのFc領域を生産することができる。免疫グロブリンのCH2ドメインの糖は、免疫グロブリンの構造的安定性には影響を及ぼさないが、免疫グロブリンがFc受容体を発現する細胞に結合することにより抗体依存性細胞傷害を起こし、免疫細胞がサイトカインを分泌することにより炎症反応を起こし、補体のC1q因子に結合することにより補体固定反応を誘発することが知られている。よって、非グリコシル化された免疫グロブリンのFc領域を生産して治療用タンパク質に結合させると、好ましくない免疫グロブリンのエフェクター機能を誘発することなく治療用タンパク質の血中濃度を長く維持することができる。
【0054】
前記ベクターの原核細胞への形質転換方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。その方法には、電気穿孔法(electroporation)、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、シリコンカーバイド繊維を用いた攪拌、PEG、デキストランサルフェート、リポフェクタミンなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記組換え発現ベクターが導入された微生物は通常の方法で培養される。
【0056】
このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。培養に用いられる培地は、一般に細胞の成長と生存に必須のあらゆる栄養素を含有するものでなければならない。前記培地は、様々な炭素源、窒素源及び微量元素成分を含む。用いることのできる炭素源の例としては、ブドウ糖、スクロース、ラクトース、フルクトース(fructose)、マルトース、デンプン、セルロースなどの炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン及びエタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これら炭素源は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできる。用いることのできる窒素源の例としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液(CSL)及び大豆粕、ウレアなどの有機窒素源、並びに尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が挙げられる。これら窒素源は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできる。前記培地には、リン源としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム及びそれらに相当するナトリウム含有塩が含まれる。また、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄などの金属塩が含まれてもよい。その他、アミノ酸、ビタミン及び適切な前駆体などが含まれてもよい。培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸などの化合物を培養物に好適な方法で添加し、培養物のpHを調整してもよい。また、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入する。培養物の温度は、通常20〜45、好ましくは25〜40である。また、発酵槽を用いてもよい。発酵槽を用いてタンパク質を生産する場合は、宿主細胞の成長速度や発現産物の量など、様々な因子を考慮しなければならない。適切な培養条件でIPTGなどを投与することにより、タンパク質の発現を誘導することができる。本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントは、宿主細胞内で凝集体の形態で過剰発現し、受容体の形態で発現する。発現形態には関係なく、通常のタンパク質精製方法により精製することができる。
【0057】
よって、本発明のさらに他の態様は、変異したIgG4 Fcフラグメントの製造方法を提供し、この方法は、変異したIgG4 Fcフラグメントをコードする核酸を含むベクターが導入された微生物を培養する段階を含む。
【0058】
上記方法によって大腸菌などの原核細胞で生産された前記IgG4 Fcフラグメントの産業的適用は、特に限定されるものではない。適用の一例として、任意の薬物との結合体形成のためのキャリアとして用いることが挙げられる。
【0059】
よって、本発明のさらに他の態様は、薬物及び前記変異したIgG4 Fcフラグメントがリンカーを介して結合された薬物結合体を提供する。
【0060】
本発明における薬物結合体又は結合体とは、1つ以上の薬物が1つ以上の前記変異したIgG4 Fcフラグメントと互いに連結されたものを意味する。
【0061】
本発明における薬物とは、ヒトや動物に投与されると治療的活性を示す物質を意味し、ポリペプチド、化合物、抽出物、核酸などが含まれるが、これらに限定されるものではない。薬物はポリペプチド薬物であることが好ましい。
【0062】
本発明において、生理活性ポリペプチド薬物、ポリペプチド薬物及びタンパク質薬物は同じ意味で用いられ、生体内で様々な生理的現象に拮抗作用を示す生理活性型であることを特徴とする。
【0063】
前記IgG4 Fcフラグメントと薬物が結合された結合体の形態は特に限定されるものではなく、前記IgG4 Fcフラグメントと薬物は様々な割合で結合させることができる。
【0064】
本発明におけるリンカーにはペプチド性リンカーと非ペプチド性リンカーの両方が含まれるが、非ペプチド性リンカーであることが好ましく、非ペプチド性重合体であることがより好ましい。
【0065】
非ペプチド性重合体とは、繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体を意味し、前記繰り返し単位はペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)、PLGA(ポリ乳酸−グリコール酸,polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、ポリエチレングリコールであることが好ましい。当該分野に知られたこれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0066】
本発明において、非ペプチド性重合体は両末端又は三末端を有し、前記非ペプチド性重合体の末端官能基は、反応アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基及びスクシンイミド(succinimide)誘導体からなる群から選択されることが好ましい。ここで、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルプロピオネート、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられる。特に、前記非ペプチド性重合体が末端に官能基である反応アルデヒド基を有する場合、非特異的反応を最小限に抑え、非ペプチド性重合体の末端に生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンFcフラグメントがそれぞれ結合するのに効果的である。アルデヒド結合による還元性アルキル化で生成された最終産物は、アミド結合により連結されたものよりはるかに安定している。官能基であるアルデヒド基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリジン残基と共有結合を形成することができる。
【0067】
前記非ペプチド性重合体の末端官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有してもよい。両末端に官能基であるヒドロキシ基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な官能基として活性化するか、商業的に入手可能な修飾された官能基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の結合体を作製することができる。
【0068】
本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントに結合されて用られる生理活性ポリペプチドとしては、血中半減期を延長させる必要があるものであればいかなるものでもよく、特に限定されるものではない。例えば、ヒトの疾病を治療又は予防する目的で用いられるサイトカイン、インターロイキン、インターロイキン結合タンパク質、酵素、抗体、成長因子、転写因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質又は受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質などの様々な生理活性ポリペプチド、それらの誘導体及び類似体が挙げられる。
【0069】
具体的には、生理活性ポリペプチドとしては、ヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、インターフェロン類とインターフェロン受容体類(例えば、インターフェロンα、β及びγ、可溶性I型インターフェロン受容体など)、コロニー刺激因子、インターロイキン類(例えば、インターロイキン−1、−2、−3、−4、−5、−6、−7、−8、−9、−10、−11、−12、−13、−14、−15、−16、−17、−18、−19、−20、−21、−22、−23、−24、−25、−26、−27、−28、−29、−30など)とインターロイキン受容体類(例えば、IL−1受容体、IL−4受容体など)、酵素類(例えば、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、イズロン酸−2−スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、αガラクトシダーゼA、アガルシダーゼα(agalsidase alpha)、β、α−L−イズロニダーゼ(alpha-L-iduronidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(platelet-activating factor acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)など)、インターロイキン結合タンパク質及びサイトカイン結合タンパク質類(例えば、IL−18bp、TNF結合タンパク質など)、マクロファージ活性化因子、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、タンパク質A、アレルギー抑制因子、細胞壊死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍壊死因子、腫瘍抑制因子、転移成長因子、α1−アンチトリプシン、アルブミン、α−ラクトアルブミン(alpha-lactalbumin)、アポリポタンパク質E、赤血球生成因子、高糖鎖化赤血球生成因子、アンジオポエチン類(angiopoietin)、ヘモグロビン、トロンビン(thrombin)、トロンビン受容体活性ペプチド、トロンボモジュリン(thrombomodulin)、血液凝固第VII因子、血液凝固第VIIa因子 、血液凝固第VIII因子、血液凝固第IX因子、血液凝固第XIII因子、プラスミノーゲン活性化因子、フィブリン結合ペプチド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ヒルジン(hirudin)、タンパク質C、C反応性タンパク質、レニン阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、スーパーオキシドディスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、上皮細胞成長因子、表皮細胞成長因子、アンジオスタチン(angiostatin)、アンジオテンシン(angiotensin)、骨形成成長因子、骨形成促進タンパク質、カルシトニン、インスリン及びインスリン誘導体、アトリオペプチン、軟骨誘導因子、エルカトニン(elcatonin)、結合組織活性化因子、組織因子経路阻害剤(tissue factor pathway inhibitor)、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経成長因子類(例えば、神経成長因子、毛様体神経栄養因子(cilliary neurotrophic factor)、アキソジェネシス因子−1(axogenesis factor-1)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain-natriuretic peptide)、グリア細胞由来神経栄養因子(glial derived neurotrophic factor)、ネトリン(netrin)、好中球抑制因子(neurophil inhibitor factor)、神経栄養因子、ニュールツリン(neuturin)など)、副甲状腺ホルモン、リラキシン、セクレチン、ソマトメジン、インスリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(Glucagon−like Peptide−1)又はエキセンジン−4(Exendin-4)などのインスリン分泌ペプチド、腸から分泌されるインクレチン(incretin)類、メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)に効果があることが知られているレプチンなどの脂肪細胞(adipocyte)類及びneuro−cytokine類、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、オートタキシン(autotaxin)、ラクトフェリン(lactoferrin)、ミオスタチン(myostatin)、受容体類(例えば、TNFR(P75)、TNFR(P55)、IL−1受容体、VEGF受容体、B細胞活性因子受容体など)、受容体拮抗物質(例えば、IL1−Raなど)、細胞表面抗原(例えば、CD2、3、4、5、7、11a、11b、18、19、20、23、25、33、38、40、45、69など)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント類(例えば、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFd)、ウイルス由来ワクチン抗原などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に用いられる生理活性ポリペプチドは、天然のものであってもよく、大腸菌などの原核細胞や、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞などの真核細胞から遺伝子組換えにより生産されたものであってもよく、また天然のものと同等の活性を有し、1つ以上のアミノ酸位置で突然変異が起こった誘導体であってもよい。
【0070】
本発明の変異したIgG4 Fcフラグメントは、直接遺伝子組換え法を用いて生理活性ポリペプチドと1つの遺伝子配列に連結し、その後1つの細胞から生産してもよく、独立してIgG4 Fcフラグメントのみ生産し、その後生理活性ポリペプチドをはじめとする薬物に細胞外で結合させてもよい。
【0071】
本発明のさらに他の態様は、前述した本発明の薬物結合体を有効成分として含む薬学組成物を提供する。
【0072】
本発明の結合体を含む薬学組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、経口投与の場合は、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、賦形剤、溶解剤、分散剤、安定化剤、懸濁剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、溶解剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与の場合は、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを用いることができる。
【0073】
本発明の薬学組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して様々な形態に作製することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤(elixir)、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に作製することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に作製することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0074】
なお、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム又は鉱物油などを用いることができる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0075】
本発明において、IgG4 Fcフラグメントがキャリアとして用いられた薬物の実際の投与量は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類によって決まる。本発明の薬学組成物は、生体内持続性が非常に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0076】
本発明の薬学組成物は、様々な経路で投与することができる。
【0077】
本発明における投与とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記結合体の投与経路は、薬物を標的組織に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。しかし、経口投与の場合はペプチドが消化されるので、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが好ましい。注射剤の形態で投与することが好ましい。また、薬学組成物は、活性物質を標的細胞に送達することのできる任意の装置により投与することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0079】
実施例1:ヒト顆粒球コロニー刺激因子−PEG−免疫グロブリン結合体の作製
<1−1>IgG4 Fc領域発現ベクターの作製
IgG4のヒンジ領域を含む重鎖Fc領域をクローニングするために、ヒトの血液から得られた血球細胞のRNAを鋳型とし、次のようにRT−PCRを行った。まず、Qiamp RNA血液キット(Qiagen社)を用いて約6mLの血液から全RNAを分離し、その後このRNAを鋳型とし、One−Step RT−PCRキット(Qiagen社)を用いて遺伝子を増幅した。ここで、プライマーとしては、配列番号4(gggcatatgc catcatgccc agcacctgag ttcctgggg)と5(gggggatccc tatttaccca gagacaggga ga)の対を用いた。その後のクローニング過程を容易にするために、プライマーにはNdeI制限酵素認識部位とタンパク質発現のために必要な開始コドンであるATGを挿入し、配列番号5の3−プライマーには終止コドンを含むBamHI制限酵素認識部位を挿入した。こうして増幅されたFc領域産物をそれぞれNdeIとBamHIで切断し、その後同じ制限酵素で処理したプラスミドpET22b(Novagen社)に挿入してプラスミドを作製した。プラスミドは、IgG4 FcフラグメントがIgG4 Fcヒンジの全アミノ酸配列であるGlu−Ser−Lys−Tyr−Gly−Pro−Pro−Cys−Pro−Ser−Cys−Proのうち1〜8番目のアミノ酸残基が欠失したヒンジ配列を含むように設計されている。
【0080】
本実施例のプラスミドをpmHMC001と命名し、塩基配列を分析した結果、IgG4 Fcフラグメントをコードする核酸は配列番号3の塩基配列を有し、発現時のIgG4 Fcフラグメントは配列番号2のアミノ酸配列を有するものであった。
【0081】
こうして作製された発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換して大腸菌形質転換体BL21/pmHMC001(HMC001)を作製した。
【0082】
<1−2>IgG4 Fc領域の発現及び精製
実施例<1−1>で得られた微生物形質転換体を発酵槽(Marubishi社)に接種して発酵させ、その後のIgG4 Fcフラグメントの発現の有無を確認した。
【0083】
まず、LB培地100で前記形質転換体をそれぞれ一晩中振盪培養し、その後発酵槽に接種して本培養を行った。発酵槽の温度は35又は28を維持し、嫌気性状態になることを防止するために、空気を20vvmで投入しながら500rpmで攪拌した。発酵が進むにつれて微生物の成長のために不足なエネルギー源であるブドウ糖(glucose)と酵母抽出液(yeast extract)を微生物の発酵状態に応じて投与し、吸光度600でのOD値が80になる時期に誘導物質(inducer)であるIPTGを投与して発現を誘導した。これを40〜45時間培養することにより、吸光度600でのOD値が100〜120となるように高濃度に培養した。
【0084】
前記大腸菌形質転換体からのIgG4 Fcの発現の有無を確認するために、次の試験を行った。
【0085】
細胞質内での全発現の有無を確認するために、前記発酵液の一部と2xタンパク質点滴バッファの同量を混合し、その後15%SDS−PAGE(Criterion Gel, Bio-Rad)に電気泳動した結果、作製した形質転換体からIgG Fcが過剰発現したことが確認された。過剰発現した前記タンパク質が凝集体を形成することを確認し、凝集体から同じ方法でリフォールディングとカラム作業を行って精製を完了した。まず、細胞10gをlysisバッファ(10mM Tris, pH9.0, 1mM EDTA, 0.5% Triton X-100, 0.2M NaCl)100mLに溶解してウルトラソニケーションを行った。10,000rmpで20分間遠心分離して水溶性分画と不溶性分画を分離し、その後不溶性凝集体2gを1M Tris(pH9.0)20mLと水溶化バッファ(solublization buffer, 6M Guanidine, 50mM Tris)20mLに溶解し、その後4にて30分間軽く振盪しながら反応させた。反応終了後、4にてリフォールディングバッファ(2M urea, 50mM Trsi, 0.25M Arginine, 3mM cysteine, pH9.0)を10倍となるように添加して希釈し、その後一晩中軽く攪拌しながら反応させた。反応が終了した試料は、Sephadex G25を用いて10mM Tris−HCl(pH8.0)にバッファを交換した。バッファを交換した試料は、DEAE−FF(GE healthcare)を用いて10mM Tris−HCl(pH8.0)とNaClの濃度勾配により溶出させ、多量のマルチマーとモノマーを除去するために、Phenyl−FF(GE healthcare)を硫酸アンモニウムと10mM Tris−HCl(pH7.5)の濃度勾配により溶出させた。次のカラム工程のために、Sephadex G25(GE healthcare)を用いて10mM Tris(pH7.5)で脱塩化し、最終的に高純度のIgG4 Fcを得るために、Source 15Q(GE healthcare)を10mM Tris−HCl(pH7.5)とNaClの濃度勾配により溶出させて最終的にIgG4 Fcを得た。
【0086】
<1−3>薬物結合体の作製I
1)顆粒球コロニー刺激因子とPEG連結体の作製
両末端に官能基であるアルデヒド基を有する分子量3.4kDaのポリ(エチレングリコール)であるALD−PEG−ALD(Shearwater Inc. 米国)を、顆粒球コロニー刺激因子が5mg/mlの濃度で溶解した100mMリン酸塩緩衝液に、顆粒球コロニー刺激因子:PEGのモル比が1:5となるように添加した。還元剤であるナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH3)を最終濃度20mMとなるように添加し、4にてゆっくり攪拌しながら3時間反応させた。顆粒球コロニー刺激因子のN末端部位に選択的にPEGが連結され、PEGと顆粒球コロニー刺激因子が1:1で結合された連結体を得るために、反応混合物に対してスーパーデックス(Superdex R, Pharmacia, 米国)サイズ排除(size exclusion)クロマトグラフィーを行った。溶出液として10mMカリウム−ホスフェート緩衝液(pH6.0)を用いて顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体を精製し、PEGに結合しない顆粒球コロニー刺激因子、未反応PEG、及び2つの顆粒球コロニー刺激因子がPEGに連結した二量体副産物を除去した。精製した顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体を5mg/mlに濃縮した。
【0087】
2)顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体とIgG4 Fcフラグメントの結合体の形成
本発明のIgG4 Fcフラグメントを100mMリン酸塩緩衝液に溶解した。前述したように精製した顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体の官能基であるアルデヒド基にIgG4 Fcフラグメントを結合させるために、顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体:IgG4 Fcフラグメントのモル比が1:5となるように顆粒球コロニー刺激因子−PEG連結体をIgG4 Fcフラグメント含有緩衝液に加えた。還元剤としてナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH3)を最終濃度が20mMとなるように添加した。反応混合物を4にて20時間ゆっくり攪拌しながら反応させた。結合反応後、未反応物質及び副産物を除去し、生成された顆粒球コロニー刺激因子−PEG−免疫グロブリンタンパク質結合体を精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。20mMトリス緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAEカラム(Pharmacia, 米国)に前記反応物を加え、1M塩化ナトリウム(NaCl)を含む同じ緩衝液を直線濃度勾配(塩化ナトリウム濃度0M→0.5M)法で溶出させて顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント結合体を精製した。得られた顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント分画に不純物として混入している少量の未反応免疫グロブリン及びヒト成長ホルモンを除去するために、さらに陽イオン交換樹脂クロマトグラフィーを行った。顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント分画を10mM酢酸ナトリウム(pH4.5)で平衡化したpolyCATカラム(PolyLC, 米国)に加え、1M塩化ナトリウム(NaCl)を含む10mM酢酸ナトリウム(pH4.5)緩衝液を直線濃度勾配(塩化ナトリウム濃度0M→0.5M)法で溶出させて追加精製を行い、顆粒球コロニー刺激因子−PEG−IgG4 Fcフラグメント結合体(HM10460A)を純粋に得た。
【0088】
実施例2:ラット血液からのヒト顆粒球コロニー刺激因子−PEG−免疫グロブリン結合体とのヒトIgG4鎖交換の有無の確認
ヒトIgG42mgを20mg/mLのビオチン−7−NHL溶液と1:10の分子比で混合してビオチン標識し、その後ビオチンタンパク質ラベリングキット(Biotin Protein Labelling Kit)(Roche)で精製した。正常ラットから採血した血液をヘパリンで凝固防止処理し、その後ペニシリン−ストレプトマイシン1%v/vを添加した。ビオチン標識したIgG4 1.5mgとHM10460A 1.32mgを3mLの血液に添加して混合し、その後0.5mLずつ6つのチューブに分注し、37の培養器で培養した。0、4、10、24、48時間後にチューブを1つずつ取り、血漿を分離して−20にて保管した。各血漿試料と標準物質を非還元タンパク質サンプルバッファ(protein sample buffer)と混合し、4〜15%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行った。標準物質としては、ビオチン標識したIgG4とHM10460Aを用いた。電気泳動が終了したゲルは、PVDFメンブレン(Immobilon-P, MILLIPORE)でブロッティングし、抗ヒトGCSF抗体とストレプトアビジン−HRPを用いて分析した。これらの抗体結合条件は、抗ヒトIgG Fc抗体(Anti-human IgG, Fc specific, Sigma)を5% スキムミルクのブロッキング条件で1:150000の割合で希釈して用い、抗ヒトGCSF抗体(Human G-CSF Assay Kit. IBL)を1% スキムミルクのブロッキング条件で1:2000の割合で希釈して用い、ストレプトアビジン−HRPを5% スキムミルクのブロッキング条件で1:5000の割合で希釈して用いた。HM10460Aは、HM10460A自体の鎖交換機序により、IgG4 Fcフラグメント1分子に2つのG−CSFを有する二量体(94kDa)とIgG4 Fcフラグメント(50kDa)を形成することが確認された。
【0089】
それに対して、HM10460AがヒトIgG4との相互鎖交換作用を誘発した場合、100kDa、122kDaの大きさの分子が新たに生成されるものと予想されたが、ウエスタンブロット分析の結果、このような分子は観察されなかった。それに対して、ストレプトアビジン−HRPで分析すると、ヒトIgG4レーンに75kDaの大きさのバンドが現れたが、これはヒトIgG4の本来の特性により二量体であるヒトIgG4から単量体が形成されたものである(図1)。
【0090】
実施例3:ヒト血液からのヒト顆粒球コロニー刺激因子−PEG−免疫グロブリン結合体とのヒトIgG4鎖交換の有無の確認
ドナーから採血したヒト血液にペニシリン−ストレプトマイシン1%v/vを添加した。実施例1で作製した1.32mgのHM10460Aを血液3mLと混合し、その後0.5mLずつ6つのチューブに分注し、37の培養器で培養した。0、4、10、24、48時間後にチューブを1つずつ取り、血漿を分離して分析時まで−20にて保管した。各血漿試料と対照物質として様々な濃度のHM10460A、IgG4 Fcフラグメントを非還元タンパク質サンプルバッファと混合し、4〜15%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルにてSDS−PAGEを行った。電気泳動が終了したゲルは、PVDFメンブレン(Immobilon-P, MILLIPORE)でブロッティングし、抗ヒトGCSF抗体を用いて分析した。抗ヒトG−CSF抗体(Human G-CSF Assay Kit. IBL)を1% スキムミルクのブロッキング条件で1:2000の割合で希釈して用いた。ラット血液と同様に、ヒトIgG4との鎖交換により生成される100kDa、122kDaの分子は生成されなかった(図2)。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]