【実施例】
【0066】
以下、本発明を実行するための具体的な実施形態の例である。当該例は、説明のためだけに提供されるものであり、いかなる形であれ本発明の範囲を制限することは意図されない。
【0067】
用いられる数(例えば、量、温度、その他)に関して精度を確実にするよう努力したが、勿論、若干の実験的な誤りおよび偏りは認められるべきである。
【0068】
実施例1:磁気浮揚アプローチおよび基礎をなす機構
懸濁対象χ
0(例えば、細胞の異質群)と、懸濁培地(χ
medium)との磁化率間の負の差が、
図1aに示すように、磁力場を生じさせて、対象が、補正重力と磁力間のバランスに依存して、様々な高さに制限される。対象(χ
o)と懸濁培地(χ
medium)との磁化率間の負の差により、対象は、より大きな磁場強度部位から離れて、より低い磁場強度に移動する。対象、例えば、常磁性培地中に懸濁した赤血球(RBC)が平衡高さに達するまで、一組の力、例えば流体の抗力、慣性力、重力および磁力が、対象に連続的に作用する。対象が平衡に近づくにつれ、その速度が、そして故に抗力および慣性力が次第に小さくなる。これは、
図1bに見ることができる。
【0069】
このセットアップにおいて、そしてさらに進んで
図6aおよび
図6bに示す装置を参照して、全長が50mmであり、矩断面が1mm×1mmであるマイクロキャピラリ管を、アンチヘルムホルツ構成(同じ極が互いに向き合う)にある2つのN52グレードのネオジム永久磁石(NdFeB、全長50mm、幅2mm、および高さ5mm)間に配置する。これらの部品を、カットした厚さ1.5mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)ピースを用いて、レーザー系(VLS 2.30 Versa Laser)と一緒にアセンブルした。それぞれ別個の測定前に、マイクロキャピラリチャンネルを、100W、0.5Torr(IoN 3 Tepla)で2分間プラズマ処理してから、磁石の間に配置した。2つの鏡を、画像浮揚高さに対して45°(または他の斜角)に配置して、倒立顕微鏡(Zeiss Axio Observer Z1)を用いて、5×対物レンズまたは20×対物レンズの下で、浮揚中の細胞の高解像度時空間モニタリング用の従来の顕微鏡検査系と適合性のある装置を作った。これを
図1cに詳述する。各軸に対する磁場強度分布が対称である(
図1d)2つの磁石の特定の配置により、懸濁細胞は、最小場強度の位置、および磁化率と細胞密度の比率の双方によって決まる位置にて浮揚する。
【0070】
このセットアップを試験するために、健常なドナーから単離したRBCを、40mMのガドリニウムベースの(Gd+)常磁性培地中に懸濁させる。ここに示す全ての実験に用いた常磁性溶液は、ヒトのMRI検査に現在利用されており、非毒性であり、そしてヒト血球と適合性がある。磁気制限の10分後、RBCは、
図1eに見られるように、底部の磁石からおおよそ300μmの高さで安定して浮揚し、小さな、壁のない、血流のようなアセンブリを形成した。
【0071】
より高解像度の明視野蛍光イメージング(20×、40×および60×)のために、横にした蛍光正立顕微鏡に連結した、鏡のないセットアップを用いる。
【0072】
実施例2:磁気浮揚による細胞分離
ヒト血球の質量密度分布は、
図2aに示すように、1.055から1.11g/mLの間で変化する。単位容量あたりの質量と定義される容量測定質量密度が、細胞を特徴付ける最も基本的な物理的パラメータの1つである。いくつかの細胞事象(例えば分化、細胞死(アポトーシス/壊死)、悪性腫瘍、食作用、および細胞齢)が、細胞の容量測定質量密度の永続的な変化または一時的な変化を生じさせる。
【0073】
セットアップの細胞分離能力は、
図2bに示すように、単離し、かつ蛍光標識したRBC、多形核白血球(PMN)、およびリンパ球を磁気的に制限することによって評価した。
【0074】
PMNを単離するために、Beth Israel Deaconess Medical Centerの施設内倫理委員会(IRB)のガイドラインに従って、そしてヘルシンキ宣言に従うインフォームドコンセントの後に、健常な成人ボランティアから静脈穿刺によって40mLの血液を得た。血液は、14mLの6%デキストランT500および6mLのクエン酸溶液を含有する60mLシリンジ中に採血された。分離させて1時間後に、15mlのFicoll(GE Healthcareから得た)の上部にバフィコートが得られて階層化され、これを350×gにて15分間遠心分離した。PMN、好酸球およびコンタミしているRBCからなるペレットを、25mlの0.2% NaCl中に45秒間再懸濁させてRBCを溶解させてから、等容量の1.6% NaClを加えて、連続的に転倒混和して(end−over−end mixing)、塩溶液のバランスをとった。懸濁液を350×gにて5分間遠心分離して、ペレット化したPMNを洗浄し、1mL HBSS
++中に再懸濁させた。
【0075】
結果は、30mM Gd+溶液中に懸濁した細胞が、RBC、PMNおよびリンパ球のみによって占められる、はっきり区別可能な密度および細胞特異的な制限バンドを形成することを示している。
【0076】
その後、RBCの集束高さに及ぼす懸濁溶液の磁気強度の影響を、
図2cに見ることができるように、RBC懸濁液に用いたGd+溶液のモル濃度を次第に増大させることによって調査した。Gd+のモル濃度の、そしてそれ故に懸濁培地の磁化率の増大が、細胞の集束高さの段階的な上昇を生じさせることが見出された。
【0077】
RBCは、骨髄中で造血幹細胞(HSC)によって形成されて、100〜120日間循環してから、組織マクロファージによって再利用される。RBCが循環すると、表面対容量の比率が次第に低下して、密度が増大した微粒子が連続的に放出される。
【0078】
様々な容量測定質量密度に基づいて、若い(1.09g/ml)RBCを古い(1.11g/ml)RBCから分離するのにセットアップの感度解像度が十分正確であるかを調査するために、Percoll(登録商標)勾配によって単離した、蛍光標識した若いRBCおよび古いRBCの混合物を、30mM Gd+溶液中に浮揚させた。
【0079】
蛍光標識するために、古いRBCおよび新しいRBCを分離した。RBC(10%ヘマトクリット)を、静脈穿刺またはフィンガープリックによって収集して、HBSS
++中で3回洗浄した。RBCは、77%のPercoll、10%の1.5M NaCl、および13%のddH
2Oを含有する13mLの溶液で階層化させてから、15000×gにて20分間遠心分離した(ブレーキオフの状態)。最上層の新しいRBCを収集し、洗浄してPercoll溶液を取り除き、1mL HBSS
++中に再懸濁させた。同様に、溶液の底部に分離した古いRBCを収集し、洗浄し、1mL HBSS
++中に再懸濁させた。
【0080】
最初に、マイクロキャピラリ中でランダムに分布したRBCは、磁場に曝されると、様々な浮揚高さに集束し始めた(タイムラプス記録のスナップショットを、
図2dに示す)。蛍光標識した若いRBCおよび古いRBC(それぞれの平衡浮揚高さにある)を、
図2eに示す。
【0081】
浮揚プロセスのタイムラプス記録を用いて、古いRBCおよび若いRBCの集束高さの特異的な平衡時間関数を、
図2fに示すように、分析的に評価した。すなわち、平衡高さを、若いRBCおよび古いRBCについて、底部の磁石から測定し、それぞれ0.156mmおよび0.092mmであることが見出された。それぞれの細胞と懸濁液との密度差を、
図7を用いて算出し、式11を用いてプロットした。密度差を式14および式15中に代入することによって、平衡時間をプロットした。これは、
図2fに見ることができる。
【0082】
重力で沈殿した細胞を浮揚させるセットアップの能力もまた試験した。RBCをガラスのマイクロキャピラリ管内にロードしてから、全ての細胞がマイクロキャピラリの底部に沿って受動的に(重力で)沈殿するまで、ベンチ上に15分間置いた。その後、マイクロキャピラリ管を、磁気浮揚セットアップ内にロードした。懸濁液と比較した相対的な反磁性性質のために、細胞は、
図2gに示すように、磁石から離れて、その密度依存平衡点に向けて浮揚し始めた。最後に、タイムラプス顕微鏡検査を用いて、磁気集束中の細胞の、時間の関数としての位置を、
図2hに見られるように定量化した。
【0083】
実施例3:機能的に変更した血球の静的浮揚
PMNは、食細胞(微生物特異的な危険シグナルを感知してこれに応答してから、外来の微生物または粒子に特異的に結合してこれを内在化することができる細胞)である。食細胞事象は、活性酸素種(ROS)の形成および加水分解酵素のROS媒介活性化をもたらす。ROSおよび活性窒素種(RNS)の発生は、食細胞の磁気情報の変化を引き起こすこととなるが、食作用中のエンドサイトーシスプロセスとエクソサイトーシスプロセス間の動的相互作用は、活性化PMNの容量測定質量密度に直接的に影響を及ぼすであろう。
【0084】
新たに単離したPMNを、バッファ(静止PMN)、GSH−ME(GSH処理済みPMN)、または10nM PMA(活性化PMN)のいずれかと5分間インキュベートし、35mM Gd+溶液中で2回洗浄し、混合し、再懸濁することによって、活性化した。処理の前に、細胞を、Cell Tracker Green(活性化PMN)またはCell Mask Deep Red(GSH処理済みPMN)のいずれかで標識した。
【0085】
食作用の活性化フェーズ中のヒトPMNの反応を、PMNをホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA、10nM)と10分間インキュベートすることによって調べた。コントロールとして、PMNをバッファ中に10分間置いた。その後、細胞を洗浄し、蛍光標識し、一緒に混合し、そして磁気浮揚セットアップ内にロードした。磁気集束により、
図3aに示すように、サイズ、形状、光学密度、ならびに磁気および質量密度情報に関して、コントロールと活性化PMN間のはっきり区別可能な差異が明らかとなった。
【0086】
活性化PMNは、細胞と懸濁培地との磁化率間の差異を盛んに小さくする細胞内常磁性ROSを発生させる。結果として、活性化PMNは、バッファ処理済みのものと比較して、「沈む」と予想されるであろう。しかしながら、結果は、細胞活性化によって促進された密度の低下が、磁気性質の一時的な増大よりも顕著であり、結果として、細胞は、コントロールよりも高所に浮揚したことを示している。
【0087】
【数8】
【0088】
算出した真円度の値(
図3cに示す)は、活性化PMAとバッファ処理済みPMN間の有意な差異を示す。同じサンプルを、
図3dに示すように、PMA活性化を伴うPMNの前方散乱および側方散乱の性質の変化について、フローサイトメトリによって同時に調査した。フローサイトメトリと比較すると、磁気浮揚は、細胞の直接的な視覚化、ならびに形状およびサイズの検出感度および解像度の向上を可能とするのと同時に、細胞単位のベースで、リアルタイム密度測定を実現する。
【0089】
細胞内ROSが浮揚細胞の最終位置に及ぼす影響をさらに理解するために、ROSスカベンジャである、細胞浸透性のグルタチオン(GSH)を用いた。
図3eに示す結果は、低密度の活性化PMNが、予想されるように、これらの2つの群の上に集束したが、GSH処理済みPMNが、静止PMNの近くで平衡となった。
【0090】
セットアップの密度解像度を試験するために、PMN、リンパ球、および血小板の混合物を浮揚させた。静止PMNの高倍率イメージングは、殆どの細胞が非活性型である一方で、少数(
図3f中で矢印によって示す)が、形状変化および高さ位置の双方(より低い細胞密度を示す)によって、活性化の初期の徴候を示すことを明らかにした。また、コンタミしている好酸球が、PMNカラムの底部に位置を定められ、それらの密度が、
図2aに見られるように、最も密度の高いPMNの密度以上であったことと整合性がとれている。連続的な浮揚の2時間後に、
図3gに示すように、PMNは、自己活性化に続いてインテグリン媒介同型凝集を経た。
【0091】
注目すべきことに、一部のPMNクラスタもまた、非活性型PMNと比較して低い位置に現れ、活性化中に形成された細胞内の常磁性ROS種もまた、細胞の制限高さに影響を及ぼすことが示唆された。次に、ヒトPMN食作用中の密度変化を、新たに単離したPMNを蛍光標識サルモネラ モンテビデオ(Salmonella Montevideo)とインキュベートすることによって、研究した。PMN食作用を可能にするために、Cell Tracker Green標識PMN(5×10
5)を、600μLのHBSS/0.1% BSAを含有するミクロフュージ管に加えた。血清オプソニン化Alexa−594標識サルモネラ モンテビデオ(1×10
6)を、10:1の比率でPMNに加え、混合物を8rpmにて反転させながら37℃にて10分間インキュベートした。PMNを洗浄し、Hoechst 33342標識静止PMNと混合し、35mM Gd+溶液中に再懸濁させた。用いたサルモネラ モンテビデオ(American Type Culture Collection)を、バクトニュートリエントブロス(Difco)中で一晩増殖させ、定量化した(0.5 OD
600=4.5×10
8cells/mL)。細菌を穏やかにペレット化させ、洗浄し、HBSS中に再懸濁させた。
【0092】
この研究の細胞培養体を、
図3hに見ることができる。結果は、食細胞PMNの密度が有意に下がったが、
図3h中に赤色で当初示した(現在、画像のグレイスケール変換により容易に明らかではない)摂取されたサルモネラの数と、PMNの制限高さとの関係は、明らかでなかったことを示している。
【0093】
実施例4:磁気的に浮揚した血球の機能的インタロゲーション
磁気浮揚セットアップは、種々の時点での高解像度画像の獲得に続いて、集団中の個々の細胞の固有の反応の調査を可能とする。これは、与えられた集団について細胞単位のベースで、経時的な、広範な形態的かつ機能的マッピング能力を提供する。
【0094】
提唱されるプラットホームは、制限された細胞の特定の領域を低強度レーザービームに曝すことによって、単細胞操作を可能とし、これにより、標的細胞または細胞群の広範な時空間高さ調整が、ガドリニウム溶液の磁気性質を一時的かつ局所的に変更することによって可能となる(
図4aに示す)。
【0095】
一つの浮揚セットアップを、1.5mmの厚さのポリメチルメタクリレート(PMMA)(McMaster Carr)を用いて製造した。セットアップ構成要素を、
図6b(VersaLASER;Universal Laser Systems Inc.)に与える寸法にカットした。この実験的セットアップにおいて、矩断面が1mm×1mm(外側エッジ、壁厚0.2mm)であるマイクロキャピラリ管(VitroTubes(商標)Square Capillary Microcells、Borosilicate Glass 8100、Vitrocom、Mountain Glass、NJ)を、アンチヘルムホルツ構成(同じ極が互いに向き合う)にある2つのネオジム永久磁石(NdFeB)間に配置する。金コーティングした2つの鏡を、マイクロキャピラリの各開放側に45度で配置して、浮揚中の細胞の高解像度時空間モニタリング用の従来の顕微鏡検査系と適合性のある装置を作る。容易にアクセス可能な、安価な構成要素および磁石を備える微流量チップを設計し、製造して、世界中の他の研究者によるこの方法の広範な使用を可能とした。
【0096】
一実験において、RBC制限後、安定して浮揚したRBCの中央にある20×20μmの矩形領域を、30mW、488nmの、0.34%の強度のレーザービームで連続的に1分間、Vector Photomanipulationユニット(3i)を用いて照射した。ビームの標的化は、全実験を通して同じ細胞上に維持した。
【0097】
別の実験において、より大領域(900×900μm)の浮揚RBC、PMNおよびリンパ球をUV照射した。照射の持続期間中、懸濁培地の磁気性質の増大のために、細胞が次第に浮揚高さを上昇させた。UV刺激をオフにした直後に、細胞が元の位置に戻り始めたが、RBCが元の高さよりも低い高さにて平衡したことは、潜在的に、細胞内UV誘導ROSが、RBCの常磁性情報を増大させたことを示す。UV照射をオン、オフしたときに撮った細胞培養体を、
図4bに示す。
【0098】
UV誘導ROSが、RBCの常磁性情報を増大させた可能性と整合して、細胞密度が増大した領域において、RBCは、おそらくROS含有RBC間の弱い常磁性引力のために、はっきり区別可能な凝集体(
図4b中の赤色の円として示す)を形成した。この仮説を試験するために、細胞外ATPを一気に用いて、ヘモグロビンから2−3DPG(2,3−ジホスホグリセレート)を切り離した(反磁性細胞から弱い常磁性細胞にRBCを推移させるプロセスでもある)。単離したRBCを洗浄し、かつ、HBSS
++含有40mM Gd+および10mMcaged ATP(Life Technologies)中に再懸濁させた。RBCをキャピラリ中にロードし、磁石間に配置し、集束させた。次に、浮揚RBCよりも約70μm上に位置した60×900μmの領域を選択して、488nmのレーザービームによって100%の強度で1秒間照らした。非caged ATP(懸濁液中に放出される)は、ATPの細胞外濃度を、0からほぼ10mMに上げた。細胞は、Slidebook 5.5を用いて記録した。
【0099】
光分解後に、caged ATPはATPとなり、生物学的に活性な細胞外ATPの濃度を、0から10mM近くまで効果的に上げた。細胞内(約1〜1.3mM)と比較して高濃度の細胞外ATP(10mM)が、細胞内ATPの急な上昇を促進してから、2,3DPGがヘモグロビンから切り離され、常磁性媒介細胞クラスタリング(
図4c中の円によって表す)に至るRBCの磁気性質が変化し、浮揚が喪失する。RBCが底部の磁石(
図4c中の矢印によって表す)に近づくにつれ、常磁性RBCと磁石間の相互作用は次第に増すので、最終的に、クラスタ形成RBC間の弱い常磁性相互作用を克服し、RBCクラスタの段階的な離散に至る。
【0100】
実施例5:磁気浮揚ベースの臨床POC診断アプローチの汎用性
様々な細胞型に対するこの磁気浮揚ベースのアプローチの広い適用性を実証するために、循環癌細胞および鎌状RBCを用いた。転移は、原発部位から別の非隣接部位に悪性細胞が広がる原因となるプロセスである。悪性細胞が腫瘍から離脱すると、血流またはリンパ系を通って体の他の領域に移動し、循環腫瘍細胞(CTC)となる。
【0101】
用いることになる乳癌細胞株MDA−MB−231を、American Type Culture Collectionから購入して、10% FBS、100ユニット/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補ったDMEM中で培養し、5% CO
2下で37℃にて維持した。
【0102】
正常な血液に、細胞浸透性のDNA特異的色素Hoechst 33342で予め染色した乳癌細胞(CTC)を添加することによって、細胞の異質群を調製した。その後、細胞混合物を、RBCではなく、PMNおよびリンパ球の浮揚のみを可能とする20mM Gd+溶液中で15分間、磁気的に集束させた。
図5a中の上段において青色の核を有する細胞として示されるCTCを、マイクロキャピラリ管の中心の近くに制限される多細胞懸濁液から容易に同定した(リンパ球およびPMNからそれぞれ数十から数百マイクロメートル離れていた)。
【0103】
加えて、健常なドナーおよび鎌状赤血球症についてホモ接合(SS)の患者から単離したRBCが、
図5cに見ることができように、迅速に分離され得、かつ10mMピロ亜硫酸ナトリウム誘導脱水に対する個々の反応に特異的に基づき得ることが示される。
【0104】
健常者、および鎌状赤血球症患者から単離したRBCを3回洗浄して、10μMピロ亜硫酸ナトリウムと室温で10分間インキュベートした。細胞を、先に述べたように浮揚させて、画像を10分後に記録した。バックグラウンドに対する細胞のコントラストを上げるために、エッジ検出アルゴリズム(Roberts)を用いて画像をフィルタ処理した。この処理は、健康なRBCよりも、鎌状RBC(おそらく若いRBC)の亜集団を、有意に濃くする。
【0105】
実施例6:循環腫瘍細胞(CTC)および循環腫瘍微小塞栓(CTM)の標識フリー検出
図8〜
図11を参照して、循環腫瘍細胞(CTC)および循環腫瘍微小塞栓(CTM)の標識フリー検出を説明する。
【0106】
図8を参照すると、非小細胞肺癌(NSCLC)のCTCおよびCTMが、磁気浮揚系を用いて同定された。これらの癌細胞は、左側のパネルに示すように、血球集団よりも高く浮揚した。右側のパネルにおいて、特定の距離(すなわち、浮揚の高さ)にて正規化した細胞数を同定する、対応するプロフィールを示す。標識ピークから、癌細胞および微小塞栓が、白血球(比較的低い高さに残存する)から上方に分離することが分かる。
【0107】
ここで
図9を参照すると、CTCはまた、磁気浮揚系により、NSCLC患者血液サンプル中でもモニターされた。白色のドットの円は、患者血液サンプル中のCTCを示す。
【0108】
図10を見ると、乳癌細胞の分離効率が示される。血液サンプル中に添加した癌細胞を、血球から高い効率で分離することができることが実証される。
図10aに、蛍光標識乳癌細胞(MDA)を血液中に添加して、浮揚系を用いて分離した顕微鏡写真を提供する。
図10aの挿入パネルは、標識MDAである3つの大きなドットを示す。
図10bは、様々な濃度で血球中に添加した乳癌細胞の分離効率を示す。このデータから、浮揚系を、癌の診断用途および予後の用途のためのCTCおよびCTMの定量化に容易に適用することができることが確認される。
【0109】
装置はまた、血球からの他の癌細胞の同定もできる。例えば、
図11に示すように、健常者および白血病患者の末梢血単核球細胞(PBMC)は、分離にあたり異なる細胞プロフィールを示す(すなわち、白血病細胞の高さは、PBMCの高さよりも高い)。
【0110】
実施例7:単細胞レベルにおける環境因子に対する細胞の反応のリアルタイムモニタリング
図12に示すように、環境因子に対する細胞の反応のリアルタイムモニタリングを、単細胞レベルで実行することができる。特に、
図12は、塩酸(HCl)への適用後の、単細胞のリアルタイム密度変化を示す。
【0111】
図12aは、コントロール(未処理)およびHCl処理済みMDA乳癌細胞の顕微鏡写真を示しており、コントロール細胞は、その浮揚高さ(すなわち、密度)を維持しているが、HCl適用細胞は、100mM HClへの40分にわたる曝露で、チャンネルの底部に沈んでいる(すなわち、z=−500μm)。
【0112】
図12bは、HCl適用単細胞のリアルタイム観察を詳述しており、生存度アッセイもまた、生細胞についてCalcein(緑色の蛍光)を、そして死細胞についてPropidium Iodine(赤色の蛍光)を用いて行われた。蛍光画像および明視野像を互いに重ねて、様々な時点での顕微鏡写真を構図した。細胞がチャンネル底部に沈んで密度が上がる一方、細胞の蛍光プロフィールは、緑色から赤色に変化し、瀕死の細胞を示している。これは、リアルタイムで、700秒のスパンにわたって、細胞の死、ならびにこの細胞死の、密度変化および浮揚の高さ変化との相関関係を示す。
【0113】
図12cは、酸処理済み単細胞のリアルタイム密度測定を示しており、たとえ酸が細胞に同時に適用されても、各細胞が、細胞異質性のために、異なって挙動することを示す。
【0114】
この例によって、細胞に及ぼす環境因子(例えば、pH、温度、化学物質、その他)の影響を、細胞密度変化としていかにモニターすることができるかが示される。これを用いて、細胞異質性を分析することができ、このことは、癌、免疫応答、感染症、薬剤耐性、および進化を理解するのに役に立つ。
【0115】
実施例8:薬剤スクリーニング用途のためのリアルタイムモニタリング
浮揚系はまた、
図13〜
図15において概して示されるように、薬剤スクリーニング用途のための薬剤処理(すなわち、抗生物質、化学療法)後の細胞プロフィールのリアルタイム評価を可能とする。感染中、ならびに薬剤処理(すなわち、抗生物質、抗真菌剤、抗癌剤)中の細胞プロフィールの変化を、磁気浮揚系を用いて迅速に観察することができる。
【0116】
図13(そして、特に、
図13の右下のパネル)に示すように、磁気浮揚媒介プラットホームを用いて、未処理細菌(すなわち、大腸菌)細胞とアンピシリン処理済み細菌細胞との、磁気浮揚高さに関する有意な差異を検出した。細菌が刺激および抗生物質に反応すると、その密度が変わる。これが、その浮揚高さに対して直接的に反映する。
【0117】
同様の技術をリアルタイムで用いて、細菌における抗生物質耐性の出現をモニターすることができる。抗生物質耐性は、抗生物質への曝露後に動的に変わる観察細胞密度について変化する浮揚高さの関数として生/死細菌をモニターすることによって、評価することができる。
【0118】
図14を見ると、種々の薬剤処理に一定の持続期間曝さなかった、または曝した酵母細胞の磁気浮揚および特性が示される。
図14aは、24時間の様々な薬剤処理(すなわち、薬剤処理なし/コントロール、100μMカンタリジン、または100μMフルコナゾール)後の酵母細胞の生存度をグラフで示す。異なる生存度が観察され、種々の薬剤処理に関する光学密度が示される。
図14bは、磁気浮揚の15分後に、酵母細胞の浮揚高さ、磁気性質、および固有の磁気情報が、24時間の100μMカンタリジンおよび100μMフルコナゾールによる薬剤処理後にいかに変化するかを示す顕微鏡写真を提供する。
【0119】
ここで
図15を参照すると、この図は、観察された薬剤反応および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する。
図15aは、種々のタイプの薬剤曝露(すなわち、コントロール、25μMフルコナゾール、50μMフルコナゾール、または100μMフルコナゾール)後の光学密度(OD)プロフィールを示す。
図15bは、チャンネルの内側の細胞分布を示し、
図15cは、算出した単細胞密度を示す。
図15dは、異なる濃度の薬剤(フルコナゾール)で処理した細胞の種々の顕微鏡写真を提供し、処理濃度を、各顕微鏡写真の上に記載している。細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に(細胞の健康、および、細胞の健康状態の違いをそれぞれ示す、高さおよび広がりの双方において)変化することが観察される。これらの変化を、単細胞レベルで、磁気浮揚系によりモニターすることができることがさらに認められる。
【0120】
進んで
図21を参照すると、様々なタイプの抗生物質処理後に観察された大腸菌細胞の磁気浮揚プロフィールの差異が示される。大腸菌細胞を、1mg/mLのアンピシリン(ベータラクタム系抗生物質)、シプロフロキサシン(フルオロキノロン系抗生物質)、およびゲンタマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)を含む様々なクラスの抗生物質で2時間処理した。これらの抗生物質のそれぞれの磁気浮揚プロフィールを、
図21a、
図21bおよび
図21cそれぞれにおいて、コントロール(すなわち、未処理の大腸菌細胞)と比較する。このデータは、様々な抗生物質処理が、異なる挙動で浮揚高さおよび細胞磁気プロフィールを変えることを示す。
【0121】
さらに進んで
図22を参照すると、様々なタイプの抗生物質処理後に観察された、多剤耐性大腸菌細胞の磁気浮揚プロフィールの差異が示される。これらの実験において、多剤耐性大腸菌に及ぼす様々な抗生物質(それぞれアンピシリン、シプロフロキサシン、およびゲンタマイシン)の影響を、磁気浮揚系を用いて調べた。この臨床単離体は、アンピシリンおよびシプロフロキサシンに対して耐性を示すが、ゲンタマイシンに対して感受性である。したがって、
図22aおよび
図22bにそれぞれ示すように、1mg/mLアンピシリンおよびシプロフロキサシンによる2時間の処理後に、浮揚高さおよび磁気浮揚プロフィールの顕著な変化はなかった。他方では、
図22cに示すように、1mg/mLゲンタマイシンによる2時間の処理後に、浮揚高さおよび磁気浮揚プロフィールの顕著な変化があった。
【0122】
ゆえに、磁気浮揚系は、抗菌処理の有効性を試験する潜在性を有し、磁気浮揚系を抗菌感受性試験用途に用いることができる。
【0123】
実施例9:癌細胞の薬剤耐性の出現のリアルタイムモニタリング
これらの同じタイプの技術を用いて、リアルタイムで、癌細胞における薬剤耐性の出現をモニターすることができる:癌細胞における薬剤耐性は、抗癌剤への曝露後に動的に変わる磁気浮揚中に観察される細胞プロフィールについて変化する浮揚高さをモニターすることによって、評価することができる。薬剤処理の有効性もまた、これらのリアルタイムの手法を用いて調査することができると考えられる。
【0124】
実施例10:単細胞レベルでの細胞異質性のリアルタイム検出
特に、この技術は、
図12に示す単細胞レベルでの細胞異質性のリアルタイム検出を可能とし、そして、様々な細胞が多くの細胞因子の結果として異なって反応し得ることを確認する。
【0125】
同様に、これは、様々な細胞の薬剤反応の異質性を、単細胞解像度にてリアルタイムでモニターすることができることを意味する。例えば、単細胞解像度が与えられて、酸処理済みの単細胞のリアルタイム密度測定を行って、細胞の反応における変動が観察された。酸を細胞に同時に適用したとしても、各細胞は、
図12cに強く示されるような細胞異質性のために、異なって挙動した。
【0126】
したがって、このリアルタイム浮揚系を用いれば、ある細胞の群を最初に特徴付けてから処理することができると考えられる。細胞集団中の細胞挙動におけるこの変動は固有のものであり得るが、単細胞解像度にて、環境因子の変動に応じて、または可変的な処理条件に応じて、細胞をモニターする能力は、これらの系における基礎をなす機構、挙動、および反応のより良好な理解に非常に貴重であり得る集団細胞反応様式を研究する複雑かつ精巧な方法を提供し、そして強力なアッセイツールを提供する。
【0127】
実施例11:生細胞および死細胞の検出および分離
さらに、
図12および
図13における観察実験結果を参照すると、生細胞および死細胞は、このプラットホームを用いて分離することができる。これにより、細胞集団の検出および特徴付けの双方が潜在的に、または生細胞集団と死細胞集団の互いの分離が潜在的に可能である。そのような検出およびソーティングは、試験プロトコルに組み込まれてもよいし、ある種の細胞サンプルを選択的に得てもよい。
【0128】
実施例12:細胞周期の、そして細胞の老化およびエージングのプロフィール
系またはプラットホームはまた、細胞周期を観察するためのツールとして用いることができ、そして、観察挙動に基づいて、あるタイプの細胞を特徴付けるのに用いることができる。
【0129】
図16に示すように、出芽酵母細胞は、細胞周期の異なる期間の間、密度が異なる。また、このプラットホームは、細胞(すなわち、酵母細胞)の観察プロフィールが、細胞周期中に変化することを実証した。例えば、
図16に示すように、M期の酵母細胞は、浮揚高さが、S期の細胞よりも高かった。
【0130】
更なる観察プロフィールを、酵母における細胞の老化およびエージングを示す
図17中に提供する。酵母細胞が老化するにつれ、多くの物理学的変化および生物学的変化が生じる。例えば、細胞サイズは増大し、細胞周期は減速し、細胞形状は変わり、細胞核小体はより大きくなる、かつ/またはより断片化する傾向があり、そして細胞は生殖不能(sterile)になる。古い酵母および若い酵母の、提供した顕微鏡写真(それぞれ左側パネルおよび中央パネル)は、より若い酵母集団とより古い酵母集団のプロフィールが異なることを示す。これらのプロフィールは、最も右側のパネルにあるようにさらに特徴付けることができ、正規化した細胞数が、種々の浮揚高さ(すなわち、距離)にて提供される。ゆえに、2つの非常に異なるプロフィールを生じさせて比較して、最も右側のパネルにあるように、特定の細胞群の健康を示すことができ、さらに、データ収集のリアルタイム性質のために、これらのプロフィールを用いて、観察細胞集団のエージングを特徴付ける、順番に配列したプロフィールを生じさせることができる。
【0131】
実施例13:微生物および病原体の同定
図18に示すように、このプラットホームおよび系はまた、微生物および病原体を同定するために用いることができる。磁気浮揚ベースのプラットホームを用いた磁気情報に従って、低濃度の混合培養体から、個々の微生物(すなわち、細菌、酵母、菌類、ウィルス)を同定かつ分離することができる。例えば、酵母および細菌細胞は、様々な特徴的磁気分布またはプロフィールを有する。
図18に示すように、系を用いると、チャンネルの中央部は主に細菌細胞を含むが、チャンネルの底部は主に酵母細胞を含む。
【0132】
実施例14:磁気プロフィールを用いたグラム陽性菌種およびグラム陰性菌種の識別 さらに、グラム陽性菌種とグラム陰性菌種を、磁気プロフィールおよび細胞分布を用いて識別することができると考えられる。グラム陽性菌とグラム陰性菌は、表面性質が異なる。例えば、グラム陽性菌の細胞壁は、ペプチドグリカン(20〜80nm)およびタイコ酸の厚い層からなる。グラム陰性菌の細胞壁はかなり複雑であり、外膜(7〜8nm)およびペプチドグリカンの薄い層(1〜3nm)で構成される。また、グラム陰性菌は、外膜およびリポ多糖類(LPS)の存在のために、脂質およびリポタンパク質の含有量がより高い。ゆえに、グラム陰性菌とグラム陽性菌は、細胞壁の異なる組成のために、密度が異なり、この差異は、磁気浮揚の原理を用いてリアルタイムで検出かつモニターすることができる。
【0133】
実施例15:細胞のウィルス感染検出
図19を参照すると、健康な肝細胞と、C型肝炎ウィルス(HCV)感染肝細胞の顕微鏡写真および対応する磁気プロフィールが提供される。感染細胞は、密度および磁気プロフィールによって、健康な細胞からはっきりと識別される。このデータは明らかに、最下部のパネルに示すように、C型肝炎ウィルス(HCV)に感染していると、肝細胞の磁気分離プロフィールが顕著に変化することを示す。
【0134】
実施例16:初期の糖尿病検出
最後に、他のタイプの細胞変化もまた、本プラットホームを用いて観察することができる。
図20にあるのは、非糖尿病マウスおよび糖尿病マウス(I型糖尿病)の赤血球の磁気プロフィールである。I型糖尿病マウスの血球は、健康な細胞由来の血球と異なる細胞密度プロフィールを示す。したがって、本装置は、浮揚高さの変化をモニターすることによって、糖尿病の初期の診断のための新しい方法を提供する。
【0135】
前述した実施例において、以下の抗体および試薬を利用した:Hoecsht 33342(H1399、Molecular Probes、OR、Eugene); Hank’s Balanced Salt Solution(14025−092)、Cell Mask Deep Red plasma membrane stain(C10046)、Cell Tracker Green、CMFDA(C−7025)、NPE−caged ATP(A−1048、Life Technologies、NY、Grand Island);Ficoll(登録商標)(17−5442−03)、Percoll(登録商標)(17−0891−01、GE Healthcare、PA、Pittsburgh);クエン酸塩4%w/v(S5770)、デキストランT500(31392)、グルタチオン還元型エチルエステル(GSH−ME、G1404)、ピロ亜硫酸ナトリウム(S9000)、塩化ナトリウム(S5886、Sigma、MI、St.Louis);ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA、1201、Tocris、英国、Bristol);VitroTubes(商標)Square Capillary Microcells、Borosilicate Glass(8100、Vitrocom、NJ、Mountain Glass);Gadolinium−based(Gd+) paramagnetic medium Prohance(登録商標)(Bracco Diagnostics、NJ、Princeton);Critoseal(商標)(Fisher Scientific、PA、Pittsburgh)。
【0136】
前述した実施例において、マイクロキャピラリ管中にサンプルをロードするためには、マイクロキャピラリを単にサンプルバイアル中に浸して、サンプルを毛細管力によってキャピラリ中に満たした。
実験毎に、新しいマイクロキャピラリを用いた。さらに、特に明記しない限り、細胞を、200μLの40mMガドリニウム溶液中に再懸濁させて、表面張力の作用によって1.0×1.0mmの矩形のマイクロキャピラリ管(壁厚0.2mm)中にロードした。Critoseal(商標)を、マイクロキャピラリのいずれかの端部中に挿入して、分析中に細胞が流されることを防止した。その後、キャピラリを磁石間のスロット中にロードして、細胞を、Olympus BX62顕微鏡上のQImaging Emc
2 EMCCDカメラ、またはZeiss Axioscope顕微鏡上のQimaging EXi CCDカメラのいずれかを用いて画像化した。高解像度画像のために、横にした蛍光顕微鏡を完全に水平方向に配置して、鏡のない磁気浮揚セットアップを用いた。画像を、Slidebook 5.5(3i、CO、Denver)、ImageProPlus 7(Media Cybernetics、MD、Rockville)、およびiVison 4.7(Biovision、PA、Exton)で分析した。
【0137】
これらの実施例によって、細胞の分離および活性化、ならびに種々の形態的な属性、特異的な細胞活性、およびアゴニスト反応のリアルタイムでのモニタリングおよび定量化を可能にする、微流量の磁気浮揚プラットホームの汎用性が実証されてきた。本明細書で示した戦略は、caged化合物(例えばATP等)によって導入される生理活性メディエータに対する細胞の時間反応の検査を可能にする。系の利点として、限定されないが、(i)単純なワークフロー、(ii)精巧なミクロ/ナノ組立て構成要素の不要、(iii)モジュールがオートクレーブに耐え、再使用できる可能性があるディスポーザブルな設計、ならびに(iv)例えば抗原提示細胞:T細胞、および、血小板:単球相互作用のように、動的な細胞:細胞コミュニケーション、の多次元の、リアルタイムでの擬似生理学的調査が挙げられる。
【0138】
磁気浮揚装置は、いくつかの基本的な細胞挙動を研究かつモニターするための、多数のバイオテクノロジー用途およびプラットホームを提供する。これは、細胞密度が重要であり、かつ種々のプロセス、例えば細胞周期、食作用、アポトーシス、および分化を反映することができる細胞生物学研究に固有の能力を提供する。本系はまた、細胞の磁化率にも感度が高いので、RBC(例えば、保存された血球および鎌状赤血球)内のヘモグロビン分解の分析に用いることができる。いくつかの細胞活性をモニターする能力はまた、薬剤発見、毒性試験、および単細胞試験にとって重要であり得る。浮揚細胞のリアルタイムモニタリングに続くタンパク質および核酸の分析は、低重力条件の間にしか存在しない固有のシグナリング機構の研究への道を開く可能性がある。
【0139】
本プラットホームは、補正重力と、反対に作用する磁力とのバランスに基づいて、細胞密度(例えば、RBC、白血球)および細胞の分離の測定を可能にする。また、設計の単純さ、小サイズスケール、および柔軟性は、本系に、遠隔医療用の、そしてマラリア感染赤血球および鎌状赤血球のスクリーニングおよび診断のための資源不十分なセッティングに用いるモバイル装置との適合性を持たせる。この戦略は、抗体も、進んだ顕微鏡検査測定器も、信頼性が高い診断技術も、顕微鏡検査スペシャリストの存在も必要としない。この戦略は、種々の健康な状態および病理学的状態にある細胞の亜集団の同定、単離、および詳細なオミクスデータ分析に非常に有望である。
【0140】
本発明は、1つまたは複数の好ましい実施形態に関して記載されてきたが、多くの等価物、代替物、変形物および修飾物が、明示的に述べられたもの以外に考えられ、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。