特許第6649899号(P6649899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6649899医療用クリップ装置および医療用クリップ装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649899
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】医療用クリップ装置および医療用クリップ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/122 20060101AFI20200210BHJP
   A61B 17/128 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   A61B17/122
   A61B17/128
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-566069(P2016-566069)
(86)(22)【出願日】2015年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2015083788
(87)【国際公開番号】WO2016104075
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-263290(P2014-263290)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-263291(P2014-263291)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】前久保 尚武
(72)【発明者】
【氏名】杖田 昌人
【審査官】 吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−301082(JP,A)
【文献】 特開2009−240757(JP,A)
【文献】 特開2007−117716(JP,A)
【文献】 特開2012−65837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 17/128
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒体と、
該外筒体内に配置されている内筒体と、
該内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、
前記内筒体の近位側において一方端部および他方端部が前記内筒体内から前記内筒体外に延在しており、前記内筒体の遠位側において中途部が前記クリップに掛けられている糸状物と、
を有し、
前記糸状物の前記一方端部および/または前記他方端部には、医療用固定器具が固定されており、
前記医療用固定器具は、穴部を有する穴部材と、該穴部に嵌合しかつ該穴部材との間に前記糸状物を挟み込む軸部材とを有しており、
前記軸部材の側面には、前記糸状物を巻回するための溝が形成されていることを特徴とする医療用クリップ装置。
【請求項2】
前記糸状物にフッ素樹脂が被覆されている請求項1に記載の医療用クリップ装置。
【請求項3】
前記糸状物が掛けられている前記クリップの内縁部が面取加工されている請求項1または2に記載の医療用クリップ装置。
【請求項4】
前記軸部材には第1のスリットが形成されており、
複数本の前記溝が互いに前記第1のスリットにより連通している請求項1〜3のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項5】
前記穴部材の側面には、前記穴部に沿って前記穴部と連通する第2のスリットが形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項6】
前記軸部材には、前記糸状物の一部を固定するための切り込みが形成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項7】
前記穴部材の弾性率が、前記軸部材の弾性率よりも高い請求項1〜6のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項8】
前記外筒体の近位側に接続されて、前記外筒体の軸方向に移動可能な第1ハンドルと、
前記内筒体の近位側に接続される第2ハンドルと、を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項9】
前記第2ハンドルの外面に、前記糸状物を固定するための突起部が設けられている請求項8に記載の医療用クリップ装置。
【請求項10】
前記クリップは、2つの挟持基材を有しており、
前記挟持基材の外側には、前記内筒体の内径よりも外径が大きく、軸方向に移動可能な締結具が設けられている請求項1〜9のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項11】
前記軸部材が錐形状部を有している請求項1〜10のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項12】
前記軸部材が前記穴部材よりも近位側に配置されている請求項1〜11のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項13】
前記軸部材の軸方向に沿って、前記穴部が前記穴部材を貫通している請求項1〜12のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項14】
複数本の前記溝が、前記軸部材に形成されている請求項1〜13のいずれか一項に記載
の医療用クリップ装置。
【請求項15】
前記溝がらせん形状である請求項1〜14のいずれか一項に記載の医療用クリップ装置。
【請求項16】
外筒体と、
該外筒体内に配置されている内筒体と、
該内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、
穴部を有する穴部材と、該穴部に嵌合しかつ該穴部材との間に糸状物を挟み込む軸部材とを有しており、前記軸部材の側面には、前記糸状物を巻回するための溝が形成されている医療用固定器具と、を有する医療用クリップ装置の製造方法であって、
前記糸状物を前記クリップに掛けるステップと、
前記内筒体の近位側において、前記糸状物の一方端部および他方端部を前記内筒体内から前記内筒体外へ引き出すステップと、
前記糸状物の一部を前記穴部材の前記穴部に通すステップと、
前記軸部材を前記穴部に嵌合して、前記糸状物を前記穴部材と前記軸部材との間に挟み込むステップと、
前記糸状物を前記軸部材の前記溝に巻回するステップと、を含むことを特徴とする医療用クリップ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下において体内組織の切除を行うための医療用クリップ装置、医療用クリップ装置の製造方法および作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内視鏡を用いた早期がん、特に手技を行うためのスペースを確保しにくい食道や胃等の臓器のがんの処置において、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)が用いられている。ESDやEMRでは、病変部の下層を確実に切除するために、病変部の筋層と粘膜下層との間に生理食塩水またはヒアルロン酸等を注入して病変部を隆起させる。そして、糸状物が取り付けられたクリップを補助的に用いて隆起した病変部を掴んで保持し、病変部を剥離させたところで、電気メス等の切開用の処置具により病変部の下層を切除し、病変部を体外に取り出している。
【0003】
病変部を保持するための処置具として、例えば、特許文献1に、先端部が互いに対向しており、基部で結合された開閉自在な一対の爪部と、内部に前記一対の爪部が挿入され、前記一対の爪部に沿って相対的に移動可能に設けられた前記爪部を閉じることができる押えリングと、前記押えリング内に挿入され、一方側の端部に切り欠き孔及び他方側の端部に係合孔が設けられ、前記切り欠き孔に前記一対の爪部の基部が取り外し可能に係合された連結板と、を備える把持具と、前記一対の爪部の基部に接続され、前記押えリング内を通って伸びている極細の糸とからなる内視鏡処置具が記載されている。特許文献1には、把持具は病変部の把持を行うために例えばクリップとして市販されているものであり、把持具の基部に極細の糸が結び付けられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−143869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された内視鏡処置具を用いて病変部を切除する場合には、手技中に術者が市販のカートリッジに収納された小さな把持具(クリップ)を取り出して、把持具の基部に糸状物を結び付ける細かな作業が必要であった。また、特許文献1に記載された内視鏡処置具は、術者が、手技前に把持具に糸状物を結び付けて固定するだけではなく、把持具から糸状物を取り外す際に患者の体腔内で電気メス等により糸状物を切断する必要があった。電気メス等による糸状物の切断作業は、誤切断による危険を孕んでいるものである。また、このような処置具は、上述のような直接的な手技ではない作業に時間を要すると全体の手術時間も長引くことになるため、患者の身体的負担や術者の集中力の低下を引き起こすおそれがあった。
そこで本発明は、クリップと糸状物の接続を容易に行うことができる医療用クリップ装置と、医療用クリップ装置の製造方法および作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得た本発明の医療用クリップ装置とは、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有する点に要旨を有するものである。本発明の医療用クリップ装置は、糸状物の中途部がクリップに掛けられるものであるため、クリップと糸状物の接続および解除を容易に行うことができる。また、本発明は、クリップと糸状物の接続および解除に要する時間、ひいては手技に要する時間の短縮化が可能であるため、患者の身体的負担の低減や術者の集中力の維持が期待できる。
【0007】
上記医療用クリップ装置において、糸状物にフッ素樹脂が被覆されていることが好ましい。これにより、糸状物の摺動性が向上するため、クリップと糸状物の間の摩擦力を低減することができる。
【0008】
上記医療用クリップ装置において、糸状物が掛けられているクリップの内縁部が面取加工されていることが好ましい。クリップの内縁部は、糸状物を引き抜く際に糸状物と最もよく擦れる部分であるため、クリップの内縁部の面取加工を行うことにより、糸状物の損傷を抑止することができる。
【0009】
上記医療用クリップ装置において、糸状物の一方端部および/または他方端部には、医療用固定器具が固定されていることが好ましい。これにより、糸状物の一方端部および/または他方端部が固定されるため、糸状物の引き抜き操作が容易になる。
【0010】
医療用固定器具は、穴部を有する穴部材と、穴部に嵌合しかつ穴部材との間に糸状物を挟み込む軸部材とを有しており、軸部材の側面には、糸状物を巻回するための溝が形成されていることが好ましい。本発明に係る医療用固定器具は、穴部材と軸部材の間に糸状物を挟み込んでいるため、糸状物の固定位置のずれを抑制できる。また、軸部材の溝に糸状物を巻回できるため、糸状物をより確実に固定できる。したがって、本発明により、糸状物の引張り操作を安定して行うことができる医療用クリップ装置が得られる。
【0011】
軸部材には第1のスリットが形成されており、複数本の溝が互いに第1のスリットにより連通していることが好ましい。本発明によれば、一の溝から、他の溝に糸状物を移動させる場合に、糸状物は軸部材の軸心に近い位置を通ることができるため、術者の意図に反して糸状物の巻回が緩まることを抑制できる。
【0012】
穴部材の側面には、穴部に沿って穴部と連通する第2のスリットが形成されていることが好ましい。これにより、穴部材の第2のスリットから穴部に糸状物を挿入することができる。
【0013】
軸部材には、糸状物の一部を固定するための切り込みが形成されていることが好ましい。これにより、糸状物の一部を軸部材の切り込みに固定できるため、糸状物の引っ張り操作等を行う際に邪魔になりにくい。
【0014】
穴部材の弾性率が、軸部材の弾性率よりも高いことが好ましい。これにより、穴部材と軸部材の嵌合をより確実にすることができる。
【0015】
上記医療用クリップ装置は、外筒体の近位側に接続されて、外筒体の軸方向に移動可能な第1ハンドルと、内筒体の近位側に接続される第2ハンドルと、を有することが好ましい。これにより、第2ハンドルで内筒体の軸方向の位置を固定できるため、第1ハンドルによって内筒体に対する外筒体の軸方向への進退操作が行いやすくなる。
【0016】
第2ハンドルの外面に、糸状物を固定するための突起部が設けられていることが好ましい。これにより、手技の種類に応じて、内筒体の近位側から延在している糸状物を突起部に掛けて糸状物の長さを調整できるからである。
【0017】
上記医療用クリップ装置において、クリップは、2つの挟持基材を有しており、挟持基材の外側には、内筒体の内径よりも外径が大きく、軸方向に移動可能な締結具が設けられていることが好ましい。これにより、糸状物を内筒体の遠位側に引き込んでも、締結具の近位端と内筒体の遠位端が当接するため、クリップが内筒体内に引き込まれにくい。
【0018】
本発明の医療用クリップ装置の製造方法は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、を有する医療用クリップ装置の製造方法であって、糸状物をクリップに掛けるステップと、内筒体の近位側において、糸状物の一方端部および他方端部を内筒体内から内筒体外へ引き出すステップを含むものである。本発明の医療用クリップ装置の製造方法は、容易な操作で構成されているため、医療用クリップ装置の大量生産および製造コストの低減が期待できる。また、本発明は、術者がクリップに糸状物を取り付ける場合には、手技に要する時間の短縮化が可能であるため、患者の身体的負担の低減や術者の集中力の維持が期待できる。また、術者がクリップに直接触れることを抑制できるため、手技時の感染等のリスクを低減できる。
【0019】
本発明は、穴部を有する穴部材と、穴部に嵌合しかつ穴部材との間に糸状物を挟み込む軸部材とを有しており、軸部材の側面には、糸状物を巻回するための溝が形成されている医療用固定器具を有する医療用クリップ装置の製造方法であって、糸状物の一部を穴部材の穴部に通すステップと、軸部材を穴部に嵌合して、糸状物を穴部材と軸部材との間に挟み込むステップと、糸状物を軸部材の溝に巻回するステップと、を含むことが好ましい。これにより、糸状物を簡単、かつ確実に固定することができる。
【0020】
また、本発明の医療用クリップ装置の作動方法は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有する医療用クリップ装置の作動方法であって、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部を近位側に移動させるステップを含むものである。これにより、クリップを体内に留置して糸状物を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。このため、他の手術器具を用いて処置を行う必要が生じても、糸状物が他の手技の妨げになることを抑制できる。
【0021】
さらに、本発明の医療用クリップ装置の作動方法は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有する医療用クリップ装置の作動方法であって、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部および他方端部を近位側に移動させるステップを含むものである。これにより、糸状物とともに、剥離した病変部を掴んだクリップを体外に取り出す操作を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の医療用クリップ装置は、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物を有しているため、クリップと糸状物の接続および解除を容易に行うことができる。また、クリップと糸状物の接続および解除に要する時間、ひいては手技に要する時間の短縮化が可能であるため、患者の身体的負担の低減や術者の集中力の維持が期待できる。
【0023】
本発明の医療用クリップ装置の製造方法は、糸状物をクリップに掛けるステップと、内筒体の近位側において、糸状物の一方端部および他方端部を内筒体内から内筒体外へ引き出すステップを含んでいるため、容易に製造できるものであり、医療用クリップ装置の大量生産および製造コストの低減が期待できる。また、術者がクリップに糸状物を取り付ける場合には、手技に要する時間の短縮化が可能であるため、患者の身体的負担の低減や術者の集中力の維持が期待できる。
【0024】
本発明の医療用クリップ装置の作動方法は、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部を近位側に移動させるステップを含んでいるため、クリップを体内に留置して糸状物を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。したがって、他の手術器具を用いて処置を行う必要が生じても、糸状物が他の手技の妨げになることを抑制できる。
また、本発明の医療用クリップ装置の作動方法は、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部および他方端部を近位側に移動させるステップを含んでいるため、糸状物とともに剥離した病変部を掴んだクリップを体外に取り出す操作を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の医療用クリップ装置の全体構成を示す模式図を表す。
図2図2は、本発明の医療用クリップ装置の側面図(一部断面図)を表す。
図3図3(a)および図3(b)は、本発明に係るクリップの斜視図を表す。
図4図4は、本発明に係るクリップと糸状物の側面図を表す。
図5図5は、本発明の医療用クリップ装置の全体構成を示す模式図を表す。
図6図6は、本発明に係る医療用固定器具と糸状物とクリップの接続を示す側面図を表す。
図7図7は、本発明に係る医療用固定器具と糸状物の配置を示す側面図を表す。
図8図8は、本発明に係る医療用固定器具の斜視図を表す。
図9図9は、本発明に係る医療用固定器具と糸状物の配置を示す断面図(一部側面図)を表す。
図10図10(a)は本発明に係る穴部材の正面図を表し、図10(b)は図10(a)に対応する穴部材の軸方向における断面図を表し、図10(c)は図10(b)のX−X線の位置における断面図を表す。
図11図11(a)は本発明に係る穴部材の正面図を表し、図11(b)は図11(a)に対応する穴部材の軸方向における断面図を表し、図11(c)は図11(b)のXI−XI線の位置における断面図を表す。
図12図12(a)は本発明に係る穴部材の正面図を表し、図12(b)は図12(a)に対応する穴部材の軸方向における断面図を表し、図12(c)は図12(b)のXII−XII線の位置における断面図を表す。
図13図13(a)は本発明に係る穴部材の正面図を表し、図13(b)は図13(a)に対応する穴部材の軸方向における断面図を表し、図13(c)は図13(b)のXIII−XIII線の位置における断面図を表す。
図14図14(a)、図14(b)、図14(c)、図14(d)、図14(e)は本発明に係る軸部材の例を示す斜視図を表す。
図15図15は、本発明に係る医療用固定器具と糸状物とクリップの接続を示す側面図を表す。
図16図16は、本発明の医療用クリップ装置の近位側の断面図(一部側面図)を表す。
図17図17は、本発明に係る穴部材と糸状物の側面図を表す。
図18図18は、本発明に係る医療用固定器具の断面図(一部側面図)を表す。
図19図19は、本発明に係る医療用固定器具の側面図を表す。
図20図20は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す側面図(一部断面図)を表す。
図21図21は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す側面図(一部断面図)を表す。
図22図22は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図(一部断面図)を表す。
図23図23は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図(一部断面図)を表す。
図24図24は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図を表す。
図25図25は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図を表す。
図26図26は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図を表す。
図27図27は、本発明の医療用クリップ装置の作動方法を示す模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴を理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0027】
1.医療用クリップ装置
本発明の医療用クリップ装置は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有している。このため、クリップと糸状物の接続および解除を容易に行うことができる。また、クリップと糸状物の接続および解除に要する時間、ひいては手技に要する時間の短縮化が可能であるため、患者の身体的負担の低減や術者の集中力の維持が期待できる。
【0028】
医療用のクリップは、例えば早期がんの内視鏡下での処置の際、臓器の病変部を摘まんで保持(カウンタートラクション)したり、止血、縫合、マーキングのために体内組織を摘まむために用いられる。本発明の医療用クリップ装置におけるクリップは、主に処置対象の病変部を摘まんで保持するために用いられる。
【0029】
医療用クリップ装置は、上述したクリップの開閉を制御して病変部等を保持および剥離したり、病変部を体外に取り出すために用いられる。なお、本明細書では医療用クリップ装置を単に「クリップ装置」と記載することもある。
【0030】
本発明において軸方向とは、特記されていない場合には内筒体の長軸方向を指し、軸方向において近位側とは術者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向を指す。
【0031】
図1は、本発明の医療用クリップ装置10の全体構成を示す模式図を表し、図2は、本発明の医療用クリップ装置10の側面図(一部断面図)を表す。クリップ装置10は、外筒体70と、内筒体71と、クリップ20と、糸状物30を有する。
【0032】
外筒体70は、内腔に内筒体71を収めるものであり、外筒体70はいずれも内視鏡の鉗子口から鉗子チャンネル内を通ってクリップ20を処置対象である体内組織に搬送するまでの間に、クリップ20が内視鏡内の鉗子口、鉗子チャンネル内、処置対象組織以外の体内組織等を傷付けることを防止する。
【0033】
内視鏡本体の湾曲等の動きに対する追従性を向上させるために、外筒体70はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン等の合成樹脂から形成されることが好ましい。また、外筒体70と内筒体71との位置関係を術者が目視で確認できるように、外筒体70は透明材料または半透明材料から形成されていることが好ましい。
【0034】
内筒体71は、内腔に糸状物30の一部を収めるものであり、クリップ20に対して軸方向に進退させることにより、クリップ20の開閉度を調整可能とするものである。内筒体71は体腔内の形状に沿って屈曲する可撓性と、処置対象組織まで確実に到達する剛性の両方をバランス良く兼ね備えていることが望ましい。
【0035】
内筒体71としては、例えば金属材料をコイル状に形成した筒体や、短筒状の関節駒を軸方向に複数連結して回動可能にした筒体、PTFE等の合成樹脂から形成された筒体を用いることができるが、中でも高い強度を有する金属コイルが用いられるのが好ましい。
【0036】
図3(a)および図3(b)は本発明に係るクリップ20の斜視図を表す。本発明に係るクリップ20には、2つの挟持基材21a,21bを有しているものが含まれる。図3(a)および図3(b)に示すように、クリップ20は、2つの挟持基材21a,21bを有しており、この挟持基材21a,21bの開閉度を制御することにより、病変部等の処置対象組織を掴む。挟持基材21a,21bの遠位側にはクリップ20を変形しやすくするために、開口部22a,22bがそれぞれ形成されてもよい。
【0037】
図3(a)および図3(b)に示すように、クリップ20は遠位側の挟持基材21a,21bの幅が広く、近位側の挟持基材21a,21bの幅が狭くてもよい。図3(a)および図3(b)に示すように、軸方向においてクリップ20の一の挟持基材21aの長さが、他の挟持基材21bの長さよりも遠位側に長くなるように形成されていることが好ましい。クリップ20によって病変部等を確実に把持することができるからである。さらに、図3(b)に示すように、クリップ20による病変部等の把持を確実にするために、遠位端に凹凸26が設けられたクリップも勿論好適に用いることができる。
【0038】
クリップ20には、内筒体71の内径よりも外径が大きく、軸方向に移動可能な締結具25が設けられている。詳説すると、この締結具25は、例えば環状で、V字状等のクリップ20の近位側の外側を囲むように設けられ、2つの挟持基材21a,21bに沿って移動することで、挟持基材21a,21bの外側から内側への押圧を変え、クリップ20の開閉度を制御するものである。なお、締結具25の形状としては、例えば円筒体、角筒体等にすることができる。締結具25の外径が内筒体71の内径よりも大きければ、糸状物30が近位側に引き込まれても、締結具25の近位端と内筒体71の遠位端が当接するため、クリップ20が内筒体71内に引き込まれることを抑制できる。
【0039】
糸状物30は、病変部等を把持するクリップ20(詳説すると、締結具25を除く2つの挟持基材21a,21bの任意の箇所)に掛けられて、当該クリップ20および病変部を体外へ取り出すための牽引部材である。糸状物30は、一方端部31と他方端部32の間に中途部33を有している。糸状物30の一方端部31は、糸状物30全体の長さの30%の範囲を指し、糸状物30の他方端部32は、糸状物30全体の長さの30%の範囲を指し、中途部33は、糸状物30の一方端部31および他方端部32以外の残りの40%の長さの範囲を指すものとする。
【0040】
本発明に係る糸状物30は、内筒体71の近位側において一方端部31および他方端部32が内筒体71内から内筒体71外に延在しているものである。図1図2に示すように、内筒体71の近位側、すなわちクリップ20と反対側では、糸状物30の一方端部31および他方端部32が内筒体71外に露出している。
【0041】
また、本発明に係る糸状物30は、内筒体71の遠位側において中途部33がクリップ20に掛けられているものである。内筒体71とクリップ20は、内筒体71の遠位側とクリップ20の近位側が対向するように配置される。
【0042】
図4は、本発明に係るクリップ20と糸状物30の側面図を表し、クリップ20と糸状物30の配置関係を示している。クリップ20に糸状物30の中途部33を掛ける方法としては、例えば、図4に示すように糸状物30の中途部33がクリップ20の2つの挟持基材21a,21bによって形成されるコの字型の基端部に掛けられてもよい。糸状物30の中途部33は、クリップ20の挟持基材21a,21bに形成されている開口部22a,22b、またはクリップ20の近位側に形成されている貫通孔(図示していない)に掛けられてもよい。
【0043】
クリップ20には、糸状物30の中途部33が掛けられているだけであるため、クリップ20と糸状物30との接続を解除する場合には、糸状物30の一方端部31または他方端部32を引き抜くだけでよい。以上のように、本発明のクリップ装置10はクリップ20と糸状物30の接続および解除を容易に行うことができる。
【0044】
糸状物30は、単糸であってもよいし、複数本の糸から形成されている撚糸でもよい。また、糸状物30は、複数の単糸または撚糸が互いに編み込まれて形成されたものでもよい。
【0045】
糸状物30は、生体適合性、および強度を有する材料から形成されていることが好ましく、例えば、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、PTFE等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0046】
糸状物30を体外に引き抜く操作を円滑に行うためには、手技の種類に応じて糸状物30の長さを適切に調整することが望ましい。したがって、糸状物30の長さは、例えば、内筒体71の長さの2.2倍以上であることが好ましく、2.4倍以上であることがより好ましく、2.6倍以上であることがさらに好ましい。
【0047】
また、糸状物30の長さの上限については、特に制限はないが、糸状物30の操作を妨げないように、例えば、内筒体71の長さの3.4倍以下であることが好ましく、3.2倍以下であることがより好ましく、3.0倍以下であることがさらに好ましい。
【0048】
糸状物30とクリップ20の間の摩擦力が大きいと、糸状物30の一方端部31を把持して糸状物30を体外に引き抜く操作を行う際に、糸状物30が切断される可能性がある。したがって、糸状物30の摺動性を向上させて糸状物30とクリップ20の間の摩擦力を低減するために、糸状物30にはフッ素樹脂が被覆されていることが好ましい。中空形状の糸状物30を用いる場合には、糸状物30の外面にフッ素樹脂が被覆されていることが好ましい。
【0049】
フッ素樹脂としては、例えば、PTFE、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)等を用いることができる。
【0050】
糸状物30へのフッ素樹脂の被覆は公知の方法を採用すればよく、例えば、浸漬法、スプレー法、流動床法、ニーダーコーター法等を用いることができる。
【0051】
糸状物30が掛けられているクリップ20の内縁部27が面取加工されていることが好ましい。クリップ20の内縁部27は、糸状物30を引き抜く際に糸状物30と最もよく擦れる部分であるため、クリップ20の内縁部27の面取加工を行うことにより、糸状物30の損傷を抑止することができる。中でも、クリップ20の近位側の内縁部27が面取加工されていることが好ましい。クリップ20の近位側の内縁部27とは、例えば、クリップ20を上から見たときに、クリップ20の長手方向を三分割して最も近位側に位置する区間の内縁部27とすることができる。なお、クリップ20の内縁部27の面取加工の方法としては、例えば、面取加工機等によってR面加工を施す等の公知の方法を用いることができる。
【0052】
図5は、医療用固定器具40が固定された医療用クリップ装置10の全体構成を示す模式図を表す。図6は、本発明に係る医療用固定器具40と糸状物30とクリップ20等の被固定物の接続を示す側面図を表し、図7は、本発明に係る医療用固定器具40と糸状物30の配置を示す側面図を表す。図8は、本発明に係る医療用固定器具40の斜視図を表し、図9は、本発明に係る医療用固定器具40と糸状物30の配置を示す断面図(一部側面図)を表す。
【0053】
図5図7に示すように、糸状物30の一方端部31および/または他方端部32には、医療用固定器具40が固定されていることが好ましい。医療用固定器具40は、糸状物30の一方端部31および/または他方端部32を固定するものであるが、糸状物30の引き抜き操作を容易にするために術者が把持してもよい。なお、以降の説明では、糸状物30の一方端部および他方端部を医療用固定器具40に配置する例を挙げて説明するが、この態様に限定されるものではない。
【0054】
図8図9に示すように、医療用固定器具40は、穴部51を有する穴部材50と、穴部51に嵌合しかつ穴部材50との間に糸状物30を挟み込む軸部材60とを有しており、軸部材60の側面に、糸状物30を巻回するための溝61が形成されていることが好ましい。
【0055】
穴部材50は穴部51を有しており、穴部51内に糸状物30が挿通されるものである。穴部材50は、穴部51が、軸部材60の軸方向(別表現すると、穴部材50自身の全長方向)に貫通することで、内腔を有する筒状部材でもよい。また、穴部材50が有底筒状部材であり、穴部51が穴部材50を貫通せず、かつ軸部材60の軸方向に沿って穴部51が設けられてもよい。
【0056】
医療用固定器具40は、穴部材50(詳説すると、穴部材50が内腔を有する筒状部材である場合には、穴部材50自身の全長方向に形成される内腔である穴部51)と軸部材60の間に糸状物30を挟み込んでいるため、糸状物30のクリップ20に対する固定位置にずれが生じるのを抑制できる。また、軸部材60の溝61に糸状物30を巻回できるため、糸状物30をより確実に固定できる。したがって、本発明の医療用クリップ装置10は、医療用固定器具40が固定された糸状物30の引張り操作を安定して行うことができるものである。
【0057】
穴部51の径の大きさは、糸状物30の外径よりも大きければよい。軸部材60の弾性率よりも、穴部材50の弾性率が高い場合には、穴部51内に糸状物30および軸部材60を挿入しない状態での穴部51の径の大きさが、穴部51に挿入される軸部材60の外径よりも小さくてもよい。
【0058】
図10図13を用いて、穴部材の構成例について説明する。図10(a)、図11(a)、図12(a)、図13(a)は、本発明に係る穴部材の正面図を表す。図10(b)、図11(b)、図12(b)、図13(b)は、それぞれ図10(a)、図11(a)、図12(a)、図13(a)に対応する穴部材の軸方向における断面図を表す。図10(c)、図11(c)、図12(c)、図13(c)は、それぞれ図10(b)のX−X断面図、図11(b)のXI−XI断面図、図12(b)のXII−XII断面図、図13(b)のXIII−XIII断面図を表す。
【0059】
図10(a)〜図10(c)に示すように、軸部材60の軸方向に沿って、穴部51aが穴部材50aを貫通していることが好ましい。軸部材60の軸方向と、穴部51aを通る糸状物30の軸方向のずれが生じにくくなるため、糸状物30の引っ張り操作を安定して行うことができる。
【0060】
図11(a)〜図11(c)に示すように、穴部材50bの側面には、穴部51bに沿って穴部51bと連通する第2のスリット52が形成されていてもよい。穴部材50bの第2のスリット52から、穴部51b内に糸状物30を容易に挿入することができる。
【0061】
図12(a)〜図12(c)に示すように、穴部材50cには、穴部材50cを貫通せず、かつ軸部材60の軸方向に沿った穴部51cが設けられることが好ましい。このような穴部51cの形状は、軸部材60の溝61への巻回数によって、医療用のクリップ等の被固定物から医療用固定器具40に巻回されるまでの糸状物30の長さの調整が適宜行えるように、穴部材50cを軸部材60よりも近位側に配置する場合に適している。
【0062】
図13(a)〜図13(c)に示すように、穴部材50dの穴部51dの一部が軸部材60の軸方向に沿って形成されており、穴部材50dの側面には穴部51dと連通する開口53が形成されていることが好ましい。このような穴部51dの形状は、軸部材60の溝61への巻回数によって、医療用のクリップ等の被固定物から医療用固定器具40に巻回されるまでの糸状物30の長さの調整が適宜行えるように、穴部材50dを軸部材60よりも近位側に配置する場合に適している。
【0063】
軸部材60は、穴部材50の穴部51に嵌合し、穴部材50との間に糸状物30を挟み込むものであり、術者が糸状物30を引っ張る際に手で把持する部分として用いることもできる。
【0064】
図14を用いて、軸部材の構成例について説明する。図14(a)〜図14(e)は、本発明に係る軸部材60の斜視図を表す。図14(a)に示すように、軸部材60aは、錐形状部65を有していることが好ましい。これにより、穴部材50と軸部材60aを嵌合する際に、穴部材50の穴部51に軸部材60aを挿入しやすくなる。
【0065】
軸部材60の側面には、糸状物30を巻回するための溝61が形成されている。本発明に係る医療用固定器具40は、穴部材50(詳説すると、穴部材50が内腔を有する筒状部材である場合には、穴部材50自身の全長方向に形成される内腔である穴部51)と軸部材60との間に糸状物30を挟み込むことによって糸状物30を固定できるだけでなく、軸部材60の側面の溝61に糸状物30を巻回できるため、糸状物30をより確実に固定できるものである。したがって、糸状物30の引っ張り操作を安定して行うことができるものである。
【0066】
本発明において、溝61とは窪んだ構造一般を指すものであり、窪みの深さや幅、個数に制限は無く、また、形成範囲についても軸部材60の全周か一部かを問わないものとする。
【0067】
また、本発明において、糸状物30は、例えば1.5回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、軸部材60の溝61に巻回する(巻き付ける)。
【0068】
軸部材60に溝61が設けられることにより、軸部材60には溝61に対して径方向に高い部分が形成されてもよい。溝61よりも径方向に高い部分として、例えば、軸部材60には鍔部66,67が形成されてもよい。この場合、軸部材60の鍔部66,67は、糸状物30が溝61に巻回されるための壁として機能する。軸部材60の径方向における鍔部の高さや幅、個数に制限はなく、また形成範囲についても軸部材60の全周か一部かを問わないものとする。
【0069】
図14(a)に示すように、軸部材60aの溝61aは、軸部材60aの周方向全体にわたって設けられてもよい。糸状物30の巻回数が多くなって、術者が軸部材60aを把持しにくくなることを抑制できる。図14(a)には、鍔部66a,67aの径の大きさが略同じになるように、軸部材60aに鍔部66a,67aが形成されている例が示されている。
【0070】
図14(b)に示すように、軸部材60bの溝61bは、軸部材60aの周方向の一部の区間に設けられてもよい。軸部材60bの溝61bが設けられない部分を把持すれば、穴部材50と軸部材60bの嵌合が行いやすいからである。図14(b)には、軸部材60bの周方向の一部の区間に鍔部66b,67bが形成されている例が示されている。
【0071】
図14(c)に示すように、軸部材60cは、穴部材50の穴部51に挿入する側と反対側の外径が大きくなるように形成されてもよい。穴部材50と軸部材60cを嵌合する際に、軸部材60cを把持すれば、穴部材50の穴部51に軸部材60cを挿入しやすくなるからである。図14(c)には、軸部材60cに形成される鍔部67cの外径が、鍔部66cの外径より大きい場合の例が示されている。
【0072】
図14(d)に示すように、複数本の溝(図14(d)では溝61d,62dの2本)が、軸部材60dに形成されていることが好ましい。複数の溝61d,62dにそれぞれ糸状物30を巻回することができるため、糸状物30をより確実に固定することができる。図14(d)には、軸部材60dに鍔部66d,67d,68dが形成されている例が示されている。図14(d)において鍔部66d,67d,68dは、軸部材60dの錐形状部65が形成されている側から反対側に向かって、つまり66d,67d,68dの順に外径が大きくなるように形成されている。
【0073】
図14(e)に示すように、軸部材60eには第1のスリット63が形成されており、複数の溝61e,62eが第1のスリット63により互いに連通していることが好ましい。一の溝61eから、他の溝62eに糸状物30を移動させる場合に、第1のスリット63に糸状物30を通すことで、糸状物30は軸部材60eの軸心に近い位置を通ることができるため、術者の意図に反して糸状物30の巻回が緩まることを抑制できる。図14(e)において、鍔部66e,67e,68eは、軸部材60eの錐形状部65が形成されている側から反対側に向かって、つまり66e,67e,68eの順に外径が大きくなるように形成されている。
【0074】
図14(e)に示すように、軸部材60eと穴部材50の間に挟み込まれた糸状物30を、穴部材50側から一の溝61eに移動させる場合に軸部材60eの軸心に近い位置を通ることができるように、軸部材60eには第1のスリット64も形成されていてもよい。
【0075】
図示はしていないが、軸部材60の溝61がらせん形状であることが好ましい。らせん形状の溝61に沿って糸状物30を巻回することができるため、糸状物30の固定をより確実にすることができる。
【0076】
軸部材60には、糸状物30の一部を固定するための切り込みが形成されていることが好ましい。糸状物30の一部を軸部材60の切り込みに固定できるため、糸状物30の引っ張り操作等を行う際に邪魔になりにくい。
【0077】
穴部材50および軸部材60の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料等を用いることができる。
【0078】
穴部材50の弾性率が、軸部材60の弾性率よりも高いことが好ましい。穴部材50と軸部材60の嵌合をより確実にすることができるからである。
【0079】
軸部材60は、穴部材50よりも近位側に配置されていることが好ましい。糸状物30は、穴部材50と軸部材60の間に挟み込まれた後に、軸部材60の溝61に巻回されるため、特に医療用のクリップ等の被固定物から医療用固定器具40に巻回されるまでの糸状物30の長さを固定したい場合に有効である。
【0080】
穴部材50が、軸部材60よりも近位側に配置されていることが好ましい。糸状物30は、軸部材60の溝61に巻回された後に、穴部材50と軸部材60の間に挟み込まれるため、軸部材60の溝61への巻回数によって医療用のクリップ等の被固定物から医療用固定器具40に巻回されるまでの糸状物30の長さを適宜調整することができる。
【0081】
医療用固定器具40の外径は、内筒体71の内径より大きいことが好ましい。これにより医療用固定器具40は内筒体71の近位端と当接するため、糸状物30の一方端部31および他方端部32が内筒体71の近位側から内筒体71内に引き込まれることを抑止できる。
【0082】
図6では糸状物30の一方端部および他方端部を医療用固定器具40に配置する例を示したが、この医療用固定器具は本発明のクリップ装置に限定されず、次のように糸状物に接続することができる。
【0083】
図15は、本発明に係る医療用固定器具40と糸状物30の他の配置例を示す側面図を表す。図15に示すように、医療用固定器具40は、糸状物30の一方端部31または他方端部32に固定されてもよい。糸状物30の他方端部32または糸状物30の一方端部31が医療用のクリップ等の被固定物に接続される場合に適している。
【0084】
図示していないが、医療用固定器具40は、糸状物30の中途部33に固定されてもよい。糸状物30の一方端部31および他方端部32が医療用のクリップ等の被固定物に接続される場合に適している。さらに、医療用固定器具40は、糸状物30の一方端部31および糸状物30の中途部33や、糸状物30の一方端部31と中途部33をまたぐ区間、糸状物30の他方端部32と中途部33をまたぐ区間等に固定することができる。
【0085】
図16は、本発明の実施形態に係る医療用クリップ装置10の近位側の断面図(一部側面図)を表す。本発明には、外筒体70の近位側に接続されて、外筒体70の軸方向に移動可能な第1ハンドル80と、内筒体71の近位側に接続される第2ハンドル81とを有するクリップ装置10も含まれる。
【0086】
図1図5図16において、第1ハンドル80は外筒体70の近位側に接続されている。クリップ装置10に第1ハンドル80を設ければ、外筒体70を軸方向に進退させる操作を行いやすい。
【0087】
外筒体70は、内筒体71とともに遠位側から内視鏡の鉗子チャンネルを経て体内に挿入される。したがって、第1ハンドル80の外径は、内視鏡の鉗子チャンネルの内径よりも大きいことが好ましい。同様に、第2ハンドル81の外径も内視鏡の鉗子チャンネルの内径よりも大きいことが好ましい。これにより、外筒体70または内筒体71が内視鏡の鉗子チャンネル内に完全に収められて、外筒体70の軸方向への進退操作が困難になることを抑制できる。
【0088】
第1ハンドル80と外筒体70との接続は、嵌合、ねじ、カシメ等による機械的な固定、ポリウレタン系、エポキシ系、シアノ系、シリコーン系等の接着剤を用いた接着、溶着等を用いることができる。
【0089】
また、図1図5図16において、第2ハンドル81は内筒体71の近位側に接続されている。クリップ装置10に第2ハンドル81を設けることにより、内筒体71の軸方向の位置を固定できるため、内筒体71に対する外筒体70の軸方向への進退操作が行いやすくなる。
【0090】
糸状物30の引き抜き以外の手技においては、内筒体71の近位側から延在している糸状物30は、例えばクリップ装置10とは別の手術器具と干渉して、円滑な手技が妨げられる可能性がある。このため、第2ハンドル81の外面には、糸状物30を固定するための突起部が設けられていることが好ましい。内筒体71の近位側から延在している糸状物30を突起部に掛けることができるため、手技の種類に応じて内筒体71の近位側から延在している糸状物30の長さを調整できる。なお、ここでは糸状物30を固定するために第2ハンドル81の外面に突起部が設けられる例を記載したが、第2ハンドル81の外面に糸状物30を固定するための溝が設けられてもよい。
【0091】
第2ハンドル81と内筒体71との接続は、第1ハンドル80と外筒体70との接続と同様に、嵌合、ねじ、カシメ等による機械的な固定、ポリウレタン系、エポキシ系、シアノ系、シリコーン系等の接着剤を用いた接着、溶着等を用いることができる。
【0092】
クリップ20が外筒体70内に収納された状態で、クリップ装置10は内視鏡本体の鉗子チャンネル内に挿入されるため、鉗子チャンネルの内壁とクリップ20が接触して、鉗子チャンネルの内壁に傷が付きにくい。
【0093】
一方、外筒体70の外面と鉗子チャンネルの内壁が接触することにより、外筒体70の位置が軸方向にずれて、鉗子チャンネル内で外筒体70からクリップが露出することもある。このため、クリップ装置10には、内筒体71の外側で、外筒体70よりも近位側かつ第2ハンドル81よりも遠位側にスペーサー82が設けられることが好ましい。スペーサー82の近位端と第2ハンドル81の遠位端、スペーサー82の遠位端と外筒体70の近位端が当接するため、軸方向における外筒体70の位置がずれて、鉗子チャンネル内で外筒体70からクリップ20が露出することを抑制できる。
【0094】
スペーサー82としては、例えば、内腔を有している円筒形状や角筒形状の筒状部材や開口部や切り欠きが形成された板状部材等を用いることができる。スペーサー82が外筒体70内に収められることを抑制するために、スペーサー82の遠位端の外径は外筒体70の近位端の内径よりも大きいことが好ましい。なお、スペーサー82の遠位端と外筒体70の近位端が当接するため、スペーサー82の遠位端の内径は外筒体70の近位端の外径より小さい。また、スペーサー82の内側に第2ハンドル81が収納されて、外筒体70の軸方向の位置がずれることを抑制するために、スペーサー82の近位端の内径は、第2ハンドル81の遠位端の外径よりも小さい。
【0095】
また、スペーサー82の内筒体71の外側への取り付けおよび取り外しが容易に行なえるように、スペーサー82は、例えば軸方向に沿って内腔に連通しているスリットや、面ファスナー、スナップファスナー等の係合部材が設けられていてもよい。スペーサー82の材料としては、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂や、ポリウレタン発泡体等の発泡プラスチックを用いることができる。
【0096】
2.医療用クリップ装置の製造方法
本発明は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、を有する医療用クリップ装置の製造方法であって、糸状物をクリップに掛けるステップと、内筒体の近位側において、糸状物の一方端部および他方端部を内筒体内から内筒体外へ引き出すステップを少なくとも含むものである。
【0097】
本発明の医療用クリップ装置10の製造方法について詳細に説明する。なお、医療用クリップ装置10を構成する各部材については、本明細書の「1.医療用クリップ装置」に記載したとおりである。
【0098】
まず、クリップ装置10の製造に必要な外筒体70、内筒体71、クリップ20、糸状物30を準備する(ステップS11)。クリップ20の挟持基材21a,21bの外側には、内筒体71の内径よりも外径が大きく、軸方向に移動可能な締結具25が設けられてもよい。
【0099】
クリップ20の2つの挟持基材21a,21bによって形成される開口(例えば、図4の開口23)から糸状物30を通し、クリップ20の近位側に糸状物30を移動させて、内筒体71の遠位側(すなわちクリップ20の近位側)において、糸状物30をクリップ20に掛ける(ステップS12)。
【0100】
糸状物30が掛けられたクリップ20の挟持基材21a,21bの外側に締結具25を設けるために、糸状物30の一方端部31および他方端部32を、締結具25の内側に挿通する(ステップS13)。なお、締結具25が設けられないクリップ20を用いる場合には本ステップを実施する必要はない。
【0101】
締結具25が設けられたクリップ20を用いる場合には、上記ステップS12およびステップS13を行う代わりに、クリップ20と締結具25により形成される孔(例えば、図4の孔24)に糸状物30の一方端部31を通すことにより、糸状物30をクリップ20に掛けてもよい(ステップS14)。
【0102】
糸状物30の一方端部31および他方端部32を内筒体71の遠位側から内筒体71内に挿入する(ステップS15)。
【0103】
内筒体71の近位側において、糸状物30の一方端部31および他方端部32を内筒体71内から内筒体71外へ引き出す(ステップS16)。これにより、内筒体71の遠位側において、糸状物30がクリップ20に掛けられた状態になる。
【0104】
内筒体71の一方端部を外筒体70内に挿入して、外筒体70の内側に内筒体71を配置する(ステップS17)。
【0105】
糸状物30の引き抜き操作を正確かつ容易に行なえるよう、糸状物30の一方端部31から中途部33までの長さと、糸状物30の他方端部32から中途部33までの長さが略同じになるように、中途部33の位置を調整する(ステップS18)。なお、本ステップS18は、ステップS17の前に実施されてもよい。
【0106】
糸状物30の一方端部31および他方端部32に医療用固定器具40を接続する(ステップS19)。医療用固定器具40は、穴部51を有する穴部材50と、該穴部51に嵌合しかつ該穴部材50との間に前記糸状物30を挟み込む軸部材60とを有しており、前記軸部材60の側面には、前記糸状物30を巻回するための溝61が形成されている。なお、本ステップは省略されてもよい。
【0107】
本発明の医療用固定器具40の接続方法の詳細について、図17図19を用いて説明する。図17は本発明に係る穴部材50と糸状物30の側面図を表し、図18は本発明に係る医療用固定器具40の断面図(一部側面図)を表し、図19は本発明に係る医療用固定器具40の側面図を表す。なお、医療用固定器具40を構成する各部材については、本明細書の「1.医療用クリップ装置」に記載したとおりである。
【0108】
医療用固定器具40の製造に必要な穴部材50、軸部材60、糸状物30を準備する(ステップS19−1)。
【0109】
糸状物30の一部を穴部材50の穴部51に通す(ステップS19−2)。穴部材50に第2のスリット52が設けられている場合には、第2のスリット52から糸状物30を穴部51に挿入してもよい。図17では糸状物30の一方端部31および他方端部32が穴部51に通されているが、穴部51を通る糸状物30の数は制限されない。
【0110】
軸部材60を穴部51に嵌合して、糸状物30を穴部材50と軸部材60との間に挟み込む(ステップS19−3)。具体的には図18に示す軸部材60を矢印B方向に移動させて、軸部材60を穴部51に嵌合する。
【0111】
図19に示すように、糸状物30を軸部材60の溝61,62に巻回する(ステップS19−4)。軸部材60に図14(e)の軸部材60eのように第1のスリット63,64が形成されて、複数の溝61,62が互いに連通していてもよい。
【0112】
糸状物30の一方端部31および他方端部32を、軸部材60に形成された切り込みに固定する(ステップS19−5)。本ステップは、軸部材60に切り込みが形成されない場合には省略してもよい。
【0113】
上記では、軸部材60を穴部材50よりも近位側に配置する場合を例として説明したが、穴部材50を軸部材60よりも近位側に配置する場合には、ステップS19−1〜ステップS19−4をステップS19−1、ステップS19−4、ステップS19−2、ステップS19−3の順に行うとよい。
【0114】
内筒体71の外側で、外筒体70よりも近位側かつ第2ハンドル81よりも遠位側にスペーサー82を取り付ける(ステップS20)。なお、本ステップは省略されてもよい。
【0115】
3.医療用クリップ装置の作動方法
本発明は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有する医療用クリップ装置の作動方法であって、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部を近位側に移動させるステップを含む医療用クリップ装置の作動方法である。これにより、クリップを体内に留置して糸状物を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。このため、他の手術器具を用いて処置を行う必要が生じても、糸状物が他の手技の妨げになることを抑制できる。
【0116】
また、本発明は、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体の遠位側に配置されている、体内組織を把持するクリップと、内筒体の近位側において一方端部および他方端部が内筒体内から内筒体外に延在しており、内筒体の遠位側において中途部がクリップに掛けられている糸状物と、を有する医療用クリップ装置の作動方法であって、クリップを閉じるステップと、糸状物の一方端部および他方端部を近位側に移動させるステップを含む医療用クリップ装置の作動方法でもある。これにより、糸状物とともに剥離した病変部を掴んだクリップを体外に取り出す操作を容易に行うことができる。
【0117】
本発明の医療用クリップ装置10の作動方法について、図20図27を用いて詳細に説明する。図20図21は、本発明の医療用クリップ装置10の作動方法を示す側面図(一部断面図)を表し、図22図23は、本発明に係る医療用クリップ装置10の作動方法を示す模式図(一部断面図)を表し、図24図27は、本発明に係る医療用クリップ装置10の作動方法を示す模式図を表す。なお、医療用クリップ装置10を構成する各部材については、本明細書の「1.医療用クリップ装置」に記載したとおりである。
【0118】
病変部100の位置を特定しやすくするために、病変部100に色素を散布したり、病変部100の周辺にマーキングを施す。マーキングは、例えば、高周波器具を用いて病変部100の周辺を焼灼することにより行われる。
【0119】
また、病変部を切除しやすくするために、病変部100の筋層と粘膜下層101との間に生理食塩水またはヒアルロン酸を注入して、病変部100を隆起させる。
【0120】
鉗子チャンネル内にクリップ装置10を挿入する際に、外筒体70の軸方向の位置がずれないように内筒体71の外側で、外筒体70よりも近位側かつ第2ハンドル81よりも遠位側にスペーサー82を取り付ける(ステップS21)。なお、本ステップは省略されてもよい。
【0121】
内視鏡の鉗子チャンネル内にクリップ装置10を挿入する際に鉗子チャンネル等を傷つけないよう、外筒体70内に内筒体71およびクリップ20を収納する(ステップS22)。具体的には、外筒体70に接続された第1ハンドル80を、内筒体71および第2ハンドル81に対して遠位側に少しずつ動かし、図20に示すように外筒体70からクリップ20が露出しない位置まで移動する。このとき、クリップ20は外筒体70内に徐々に収納されていくため、クリップ20の挟持基材21a,21bの開度は低下する。
【0122】
必須ではないが、糸状物30に医療用固定器具40を固定する場合には、次のステップS23を行うことができる。内筒体71の近位側に延在している糸状物30の一方端部31および他方端部32に医療用固定器具40を固定する(ステップS23)。なお、糸状物30と医療用固定器具40との固定方法は、本明細書の「2.医療用固定器具の製造方法」に記載したとおりである。
【0123】
クリップ装置10の遠位側を内視鏡の鉗子口から鉗子チャンネル内に挿入し、クリップ装置10の遠位側を処置対象である患者の病変部100まで到達させる(ステップS24)。術者は内視鏡から取得した映像を用いて、病変部100の位置や病変部100の状況等を観察しながらクリップ装置10の移動を行う。
【0124】
内筒体71の外側に取り付けていたスペーサー82を外筒体70から取り外す(ステップS25)。
【0125】
内筒体71に対して外筒体70を近位側に移動させる(ステップS26)。具体的には、外筒体70に接続された第1ハンドル80を、内筒体71および第2ハンドル81に対して近位側に少しずつ動かし、図21に示すように外筒体70からクリップ20を露出させていく。外筒体70の内腔形状によって拘束されていたクリップ20の挟持基材21a,21bが外筒体70から露出されるのに伴い、クリップ20の開度は次第に大きくなる。
【0126】
クリップ20を閉じる(ステップS27)。具体的には、糸状物30の一方端部31および他方端部32を把持して、クリップ20の遠位側と病変部100の位置を合わせ、糸状物30を近位側に移動させる。そうすると、クリップ20の開度は徐々に小さくなり、クリップ20は近位側から内筒体71内に収納されていく。クリップ20に設けられた締結具25の外径は内筒体71の内径よりも大きいため、締結具25は内筒体71内に引き込まれない。したがって、図22に示すように病変部100がクリップ20によって保持される。なお、ステップS23を実施することにより、糸状物30の一方端部31および他方端部32を固定する医療用固定器具40が設けられる場合には、糸状物30の一方端部31および他方端部32の代わりに医療用固定器具40を近位側に移動させることによりクリップ20を閉じて、病変部100の掴み操作を行ってもよい。糸状物30に医療用固定器具40を設けることにより、糸状物30を簡単、かつ確実に固定できるだけでなく、糸状物30の操作の安定性を向上させることができる。
【0127】
糸状物30の一方端部31および他方端部32、または糸状物30に固定された医療用固定器具40を近位側に移動させることにより、クリップ20を閉じて、病変部100を掴んだ状態で、病変部100と粘膜下層101との間に電気メス等を入れて病変部100を切除する。このとき、クリップ20により病変部100を引っ張ると病変部100の切除が行いやすい。病変部100の切除にあたっては、病変部100の筋層と粘膜下層101との間に生理食塩水またはヒアルロン酸を注入して、病変部100を隆起させてもよい。
【0128】
図23に示すように病変部100を切除できたら、第1ハンドル80および第2ハンドル81を近位側に移動させて、外筒体70および内筒体71からクリップ20および糸状物30を露出させる(ステップS28)。これにより、外筒体70および内筒体71が体外に引き抜かれる。医療用固定器具40が配置されたクリップ装置10を用いる際に、糸状物30の一方端部31および他方端部32が固定された医療用固定器具40の外径が内筒体71の内径よりも大きい場合には、外筒体70および内筒体71を体外に引き抜く前にあらかじめ医療用固定器具40から糸状物30を外しておく。
【0129】
図24に示すように、糸状物30の一方端部31および他方端部32を把持して、糸状物30の一方端部31および他方端部32を近位側に移動させる(ステップS29)。これにより、糸状物30とともに病変部100を掴んだクリップ20を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。
【0130】
ステップS27を行い、医療用固定器具40から糸状物30を外した場合には、病変部100を体外に引き抜くために、ステップS29の代わりに、以下のステップS30〜ステップS31を行うことができる。
【0131】
再び糸状物30の一方端部31および他方端部32に医療用固定器具40を固定する(ステップS30)。
【0132】
糸状物30に固定された医療用固定器具40を把持して、医療用固定器具40とともに、糸状物30を近位側に移動させる(ステップS31)。これにより、糸状物30とともに病変部100を掴んだクリップ20を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。
【0133】
病変部100が外筒体71内に収められる大きさの場合には、ステップS28およびステップS29の代わりに、第1ハンドル80、第2ハンドル81、糸状物30の一方端部31および他方端部32を把持して、第1ハンドル80、第2ハンドル81、糸状物30の一方端部31および他方端部32を近位側に移動させる(ステップS32)。これにより、外筒体70および内筒体71とともに、クリップ20および糸状物30が体外に引き抜かれる。
【0134】
病変部100を切除する際に、例えば粘膜下層101から病変部100の切除が困難で他の手術器具を用いる必要がある場合には、以下に示す処置が行われてもよい。
【0135】
ステップS27で記載したように、外径が内筒体71の内径よりも大きい医療用固定器具40が配置されたクリップ装置10を用いる際には、外筒体70および内筒体71を近位側に移動させて体外に引き抜く前にあらかじめ医療用固定器具40から糸状物30を外しておく。なお、糸状物30に固定された医療用固定器具40の外径が内筒体71の内径よりも小さい場合には本ステップを省略することができる。
【0136】
図25に示すように、第1ハンドル80および第2ハンドル81を把持して、第1ハンドル80および第2ハンドル81を近位側に移動することにより、外筒体70および内筒体71を近位側に移動させる(ステップS33)。これにより、外筒体70および内筒体71が体外に引き抜かれる。
【0137】
糸状物30の一方端部31を把持して、糸状物30の一方端部31を近位側に移動させる(ステップS34)。これにより、糸状物30が体外に引き抜かれる。具体的には図26に示すように糸状物30の一方端部31を把持して、糸状物30の一方端部31を近位側に引き出す。そうすると、糸状物30の他方端部32が遠位側に引き込まれて、糸状物30の一方端部31から中途部33までの長さは、糸状物30の他方端部32から中途部33までの長さよりも長くなる。
【0138】
さらに糸状物30の一方端部31を近位側に引き抜くと、図27に示すように、糸状物30の中途部33は、クリップ20に掛けられなくなるため、クリップ20と糸状物30の接続を解除することができる。このように、本発明の医療用クリップ装置10の作動方法を用いれば、クリップ20を体内に留置して糸状物30を体外に取り出す操作を容易に行うことができる。このため、他の手術器具を用いて処置を行う必要が生じても、糸状物30が他の手技の妨げになることを抑制できる。
【0139】
本願は、2014年12月25日に出願された日本国特許出願第2014−263290号および日本国特許出願第2014−263291号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年12月25日に出願された日本国特許出願第2014−263290号および日本国特許出願第2014−263291号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0140】
10:医療用クリップ装置
20:クリップ
25:締結具
30:糸状物
31:一方端部
32:他方端部
33:中途部
40:医療用固定器具
50:穴部材
51:穴部
52:第2のスリット
60:軸部材
61:溝
63、64:第1のスリット
70:外筒体
71:内筒体
80:第1ハンドル
81:第2ハンドル
図1
図2
図3
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