(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の支持杭で支持する上部工の前方に橋軸横断方向に沿って複数の支持杭を立設し、橋軸横断方向に向けて隣り合う複数の支持杭の間に横断補強材を架設すると共に、橋軸縦断方向に向けて隣り合う複数の支持杭の間に縦断補強材を架設して補強する仮設桟橋下部工の補強方法であって、
前記横断補強材または縦断補強材の両端部に一対の抱持腕を間隔を隔てた一対の支軸で開閉自在に枢支した機械式のクランプ装置を予め取り付けおき、
前記クランプ装置の一対の抱持腕を拡開状態にして前記横断補強材または縦断補強材と共に隣り合う支持杭の間に該支持杭の側方から吊り込み、
前記クランプ装置を隣り合う各支持杭に抱持させて固定することで隣り合う支持杭の間に位置させた前記横断補強材または縦断補強材を架設することを特徴とする、
仮設桟橋下部工の補強方法。
前記横断補強材のクランプ装置と縦断補強材のクランプ装置の間に高低差を設けて同一の支持杭に抱持させたことを特徴とする、請求項2に記載の仮設桟橋下部工の補強方法。
前記クランプ装置は横断補強材または縦断補強材の端部に対して水平に向けて進退自在に取り付けられ、横断補強材または縦断補強材の吊り込み前に前記クランプ装置を横断補強材または縦断補強材の内方に後退させ、横断補強材または縦断補強材の吊り込み後に補強材の延長方向に進出させてクランプ装置の取付け長さが調整可能であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の仮設桟橋下部工の補強方法。
前記クランプ装置が単体の全周クランプ金具からなり、該全周クランプ金具が端末支持杭の一部の周面に外装可能な基板と、該基板の背面に突設され、横断補強材または縦断補強材の端部と進退自在にボルトで連結されるガセットと、前記基板の背面側の取付ブラケットに縦向きに配設された一対の支軸を介して水平に向けて開閉可能に枢支され、支持杭に外装可能な長さを有する一対の抱持腕と、一対の抱持腕の先端部を締付ける締付手段とを具備し、前記クランプ装置の基板と一対の抱持腕とを支持杭の側方から全周に抱持させて固定したことを特徴とする、請求項1乃至4の何れか一項に記載の仮設桟橋下部工の補強方法。
前記クランプ装置が一対の半周クランプ金具の組み合せからなり、前記各半周クランプ金具が該支持杭の一部に外装可能な基板と、該基板の背面に突設され、横断補強材または縦断補強材の端部と進退自在にボルトで連結されるガセットと、前記基板の背面側の取付ブラケットに縦向きに配設された一対の支軸を介して水平に向けて開閉可能に枢支され、支持杭の半周を外装可能な長さを有する一対の抱持腕と、一対の抱持腕の先端部を締付ける締付手段とを具備し、前記一対の半周クランプ金具の基板と一対の抱持腕とを支持杭の両側から全周に抱持させて固定したことを特徴とする、請求項1乃至4の何れか一項に記載の仮設桟橋下部工の補強方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の仮設桟橋下部工の補強技術はつぎのような問題点を有する。
<1>溶接により連結する連結手段1を地上において行う場合は、高所作業となるために作業に大きな危険を伴う上に、品質管理が難しくしかも施工期間が長くなる。
<2>溶接による連結手段1を水中において行う場合は、潜水夫による水中作業となるために作業効率が低下して、地上工事と比べて施工期間が長期化する。
<3>支持杭と連結管との周面間にモルタル等の固着剤を充填して固着する連結手段2においては、作業工数と施工コストが多くかかるうえに、水中作業には適さない。
<4>支持杭と補強材の間を溶接または固着材を介して固定する連結手段1,2では、解体した仮設資材の再利用ができず不経済である。
<5>伸縮式の補強材を支持杭に押し付ける連結手段3では、補強材に油圧シリンダを組み込んだ構造となるためにコスト高となることにくわえて、油圧力低下に伴い支持杭から補強材が外れてしまうおそれがあった。
<6>伸縮可能な補強材の両端部に1ヒンジのクランプ機構を付加した連結手段4は、補強材の伸縮機構の他にクランプ機構を開閉させる揺動機構を組み込んだ複雑な構造になっているため、非常にコストが高くなると共に、クランプ機構の拡開角度が小さいために支持杭に対して補強材を横方向に平行移動させて隣り合う支持杭間にセットすることができない。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところはつぎの桟橋下部工の補強方法を提供することにある。
<1>隣り合う支持杭の間に支持杭の側方から安定した姿勢で横断補強材又は縦断補強材を吊り込んで架設ができること。
<2>桟橋下部工を効率よく短期間に補強できること。
<3>現場溶接をなくし、簡易な操作で以て支持杭と横断補強材の間、または支持杭と縦断補強材との間を着脱可能に連結すること。
<4>施工誤差を吸収して支持杭と横断補強材の間、または支持杭と縦断補強材との間を連結できること。
<5>水中作業を伴う場合には、潜水夫による水中作業時間を大幅に短縮できること。
<6>クランプ装置の構造の簡略化が図れて低コストに製作できること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、橋軸横断方向に向けて隣り合う複数の支持杭の間に横断補強材を架設すると共に、橋軸縦断方向に向けて隣り合う複数の支持杭の間に縦断補強材を架設して補強する仮設桟橋下部工の補強方法の発明である。
施工にあたり横断補強材または縦断補強材の両端部に2ヒンジ構造を呈するクランプ装置を予め進退自在に取り付けておく。
横断補強材または縦断補強材の吊り込み時にクランプ装置が支持杭と衝突しないようにクランプ装置を後退させておくと共に、クランプ装置を構成する一対の抱持腕を拡開させておく。
このようにして横断補強材または縦断補強材を隣り合う支持杭の間に支持杭の側方から吊り込んで、クランプ装置を支持杭に抱持させて固定することで、隣り合う支持杭の間に横断補強材または縦断補強材を架設して補強する。
仮設桟橋用機械式クランプ装置は、全周クランプ金具または一対の半周クランプ金具の組み合わせからなる。
全周クランプ金具は支持杭を外装可能な長さを有する一対の抱持腕を具備する。
半周クランプ金具は支持杭の半周を外装可能な長さを有する一対の抱持腕を具備する。
仮設桟橋用機械式クランプ装置は、半周クランプ金具と補助半周クランプ金具との組み合わせで構成してもよい。
全周クランプ金具、半周クランプ金具、補助半周クランプ金具は何れも縦向きに配設された一対の支軸を介して一対の抱持腕が水平に向けて開閉可能に枢支されていて、一対の抱持腕は隣り合う支持杭の間に横断補強材または縦断補強材を位置させたときに、一対の抱持腕が支持杭に衝突しない角度まで拡開が可能である。
支持杭が断面円形の鋼管に限らず、断面形状が非円形のコラム材またはH形鋼の何れでも施工が可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>横断補強材または縦断補強材の両端部に2ヒンジ構造を呈するクランプ装置を予め進退自在に取り付けておくことで、隣り合う支持杭の間に支持杭の側方から安定した姿勢で横断補強材又は縦断補強材を吊り込んで架設することができる。
<2>横断補強材又は縦断補強材の両端部に予め取り付けておいたクランプ装置の開閉操作と進退操作を行うだけで、クランプ装置を支持杭に抱持させて固定できるので、現場での溶接作業をなくして、桟橋下部工を効率よく短期間に補強することができる。
<3>クランプ装置を使用することで、支持杭と横断補強材の間、または支持杭と縦断補強材との間を着脱可能に連結することができる。
撤去したクランプ装置は繰り返し使用することができる。
<4>横断補強材または縦断補強材の両端部にクランプ装置を進退自在に取り付けておくことで、施工誤差を吸収して支持杭と横断補強材の間、または支持杭と縦断補強材との間を連結できる。
<5>クランプ装置の取付作業および解体作業を簡単に行えるので、水中作業を伴う場合には、潜水夫による水中作業時間を大幅に短縮することができる。
<6>クランプ装置の構造が簡単であり、クランプ装置を低コストに製作できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0010】
[実施例1]
<1>仮設桟橋の概要
図1,2に示した仮設桟橋について説明すると、仮設桟橋は下部工11と上部工12とを有する。
下部工11は少なくとも地盤Gに間隔を隔てて立設した複数の支持杭20と、隣り合う支持杭20の橋軸横断方向に架設した横断補強材30と隣り合う支持杭20の橋軸縦断方向に架設した縦断補強材40とを有する。
支持杭20は鋼管、H形鋼、コラム(ボックス鋼)の単独、またはこれら複数の組み合せもからなる。本例では支持杭20が鋼管製である形態について説明する。
【0011】
上部工12は複数の支持杭20の頭部間の橋軸横断方向および橋軸縦断方向に架設した桁材13と、桁材13に載置する複数の覆工材14とを有する。
図示した仮設桟橋10は一例であり、複数の支持杭20を具備した公知の桟橋に適用可能である。
【0012】
本発明では各補強材30,40の端部に共通構造のクランプ装置50を予め取り付けておき、クランプ装置50を介して支持杭20の所定の高さに各補強材30,40を架設し得るように構成したものである。
以降に下部工11に用いる架設資材について説明する。
【0013】
<2>クランプ装置
図3,4を参照して説明すると、クランプ装置50は支持杭20の抱持および解放が可能な機械式の連結具である。
本例ではクランプ装置50が単体で1本の支持杭20を挟持可能な全周クランプ金具50Aで構成する場合について説明する。
【0014】
<2.1>全周クランプ金具
全周クランプ金具50Aは支持杭20に外装可能な湾曲した基板51と、基板51の背面51aの中央に縦向きにして突設したガセット52と、基板51の背面側に縦向きに配設した一対の支軸53,53を介して水平に向けて開閉可能に枢支した一対の抱持腕54,54と、一対の抱持腕54,54の先端部を締付けるボルト等の締付手段55とを具備していて、一対の支軸53,53の中間を通る中心線に対して左右対称形を呈している。
【0015】
<2.1.1>基板
基板51は一対の抱持腕54,54と協働して支持杭20の一部(支持杭の半周以下)に接面可能な板体であり、本例では鋼管製の支持杭20の曲率に合せて湾曲している。
基板51の背面51a側の左右両端辺には各抱持腕54の上下方向へ向けた妄動を規制するためのガイド片51c,51cが突設してあり、一対のガイド片51c,51cの間に各抱持腕54の基部を挿通可能なスリット51dが形成されている。
一対のガイド片51c,51cは必須の部材ではなく、省略してもよい。
【0016】
<2.1.2>ガセット
ガセット52は全周クランプ金具50Aを各補強材30,40の端部に連結するための連結板であり、各補強材30,40の端部に複数の取付ボルト56を介して連結されている。
本例では各抱持腕54を枢支するための支持ブラケット57を基板51に突設した形態を示すが、一対の支持ブラケット57はガセット52の両側面に固定して設けてもよい。
【0017】
<2.1.3>抱持腕
一対の抱持腕54,54は支持杭20の全周を囲繞可能な全長を有する板体であり、本例では鋼管製の支持杭20の曲率に合せて湾曲している。抱持腕54の単体は支持杭20の半周を囲繞可能な全長を有する。
各抱持腕54の背面側には補強リブ54a,54bが取り付けてある。
抱持腕54に沿って円弧状に湾曲した帯状を呈する補強リブ54aの基端は支軸53を介して支持ブラケット57に枢支してあり、一対の抱持腕54,54を閉じたとき基板51の延長上に抱持腕54,54が位置するようになっている。
各抱持腕54の先端部は外側へ向けて直角に折曲されていて、その折曲部に接合片54cを形成している。接合片54cにはボルト穴54dが開設してあり、締付け手段55を介して突き合せて一対の接合片54c,54cを締め付けることで一対の抱持腕54,54が支持杭20の外周面を抱持可能である。
【0018】
<2.2>クランプ装置を1ヒンジ構造にした場合
例えば
図5(A)に示すように、一対の抱持腕54,54の基端を共通した1本の支軸53で枢支する構造も考えられるが、この1ヒンジ構造であると一対の抱持腕54,54の拡開角度θ(支軸53から各抱持腕54,54の先端部までを結んだ2本の直線の交差角度)が180°以下の狭い角度となる。そのため、支持杭20に対して補強材30(40)を真横に平行移動させると、抱持腕54のハッチングで示した部位が支持杭20に衝突してしまって、隣り合う支持杭20間にセットすることができない。
【0019】
<2.3>一方の抱持腕に補強材を接続した場合
また例えば
図5(B)に示すように、1ヒンジ構造の一対の抱持腕54,54の拡開角度θを広げるために、補強材30(40)の端部を何れか一方の抱持腕54の背面に連結して取り付ける構造も考えられるが、この構造では補強材30(40)を吊りロープで垂下したときに拡開した一対の抱持腕54,54の重量がアンバランスとなって補強材30(40)の鉛直性を保った状態で吊下げることができない。
【0020】
<2.4>クランプ装置を2ヒンジ構造にした理由
本発明では上記した2つの問題を解消するために、一対の抱持腕54,54の基端を、間隔を隔てて配設した2本の支軸53,53(2ヒンジ構造)で枢支すると共に、基板51の背面側の中央位置に補強材30(40)の端部を接続するためのガセット52を設ける構成とした。
【0021】
2ヒンジ構造を採用したのは、一対の抱持腕54,54の拡開角度を大きくして一対の抱持腕54,54の先端部が支持杭20に衝突せずに、隣り合う支持杭20の側方からセットすることを可能とするためである。
【0022】
一対の抱持腕54,54の最大拡開角度は、抱持腕54,54を全開したときに一対の抱持腕54,54の先端部が基板51の背面側に位置する角度であればよい。
要は鉛直の支軸53,53を中心に一対の抱持腕54,54を拡開方向に旋回させたときに各抱持腕54の先端部が基板51の背面側に位置するまで拡開可能に構成してあればよい。
【0023】
<2.5>基板の中央にガセットを接合した理由
基板51の背面側の中央位置にガセット52を接合したのは、一対の抱持腕54,54の拡開時における全周クランプ金具50Aの重量バランスを均等に保つためである。
【0024】
<2.6>全周クランプ金具を進退可能とした理由
全周クランプ金具50Aは各補強材30,40の端部に対して水平へ向けたスライド移動が可能に取り付けてある。
本例では、ガセット52側にボルト穴である長穴52aを横向きに形成した形態について示すが、各補強材30,40の端部側に長穴を設けてもよい。
全周クランプ金具50Aを進退可能に構成したのは、各補強材30,40のセット時に全周クランプ金具50Aを支持杭20に衝突させないためと、支持杭20に固定する際に全周クランプ金具50Aの取付け長さを現場に合せて調整するためである。
【0025】
以降に一対の抱持腕54,54を2ヒンジで枢支することと、補強材30,40の端部に対して全周クランプ金具50Aを進退自在に取り付けることの組み合せを採用した理由について詳しく説明する。
【0026】
図5(A)に示した1ヒンジ構造のクランプ金具と支持杭20との衝突を回避する他の手段として、一対の抱持腕54,54の基端を共通した1本の支軸53で枢支したクランプ金具を補強材30(40)に対して進退自在に構成し、補強材30(40)の吊り込み時にクランプ金具を後退させることが考えられる。
1ヒンジ構造のクランプ金具を進退自在の構成した場合には、補強材30(40)の全長を短く詰めなければならない問題や、クランプ金具と補強材30(40)の連結部に応力が集中し易いといった問題が生じる。さらにクランプ金具の進退長さが長くなることから、現場での作業性が悪くなる。
【0027】
本発明では1ヒンジ構造のクランプ金具を使用した場合に生じる上記した問題を解消するために、一対の抱持腕54,54を2ヒンジで枢支することと、補強材30,40の端部に対して全周クランプ金具50Aを進退自在に取り付けることの組み合せを採用したものである。
【0028】
<3>横断補強材
横断補強材30は隣り合う支持杭20の橋軸横断方向に架設する補強材である。
図6に例示した横断補強材30について説明すると、横断補強材30は互いに平行に配設した複数の水平継材31と、上下の水平継材31の間に斜めに交差させて連結したブレース材32と、これら水平継材31の端部とブレース材32の端部の合流部に配設した取付板33とを有する。
図6では4本の水平継材31と3組のブレース材32を組み合せてユニット化した横断補強材30を製作した形態について示すが、上下2本の水平継材31と1組のブレース材32を組み合せてユニット化してもよい。
横断補強材30は図示した形態に限定されず、公知の剛構造梁を適用することができる。
【0029】
図3を参照して説明すると、全周クランプ金具50Aはガセット52を取付板33に突き合せて両側から当板34を挟み込み、複数の取付ボルト56を螺着することで横断補強材30の両端部に進退自在に取り付ける。
【0030】
<4>縦断補強材
縦断補強材40は隣り合う支持杭20の橋軸縦断方向に架設する補強材である。
図8に例示した縦断補強材40について説明すると、縦断補強材40は互いに平行に配設した複数の水平継材41と、上下の水平継材41,41の間に斜めに連結したトラス材42と、各水平継材41の端部に配設した取付板とを有する。
縦断補強材40は図示したトラス構造に限定されず、公知の剛構造梁を適用することができる。
【0031】
全周クランプ金具50Aは各水平継材41の両端部に配設した取付板に対して
図3で示した同様の連結構造により進退自在に取り付けてある。
【0032】
[仮設桟橋の下部工の補強方法]
つぎに仮設桟橋10の下部工11の補強方法について説明する。
【0033】
<1>支持杭の立設
図1を参照して説明すると、クレーンで吊り上げた複数の支持杭20を地盤Gに鉛直に建て込む。地盤が硬質である場合には、支持杭20に公知の削孔機を内挿して削孔しながら所定の深さまで打ち込む。
複数の支持杭20の杭頭間に受桁や主桁等の桁材13を掛け渡して固定し、これらの桁材13の上面に複数の覆工材14を並べて載置する。
覆工材14上に図外のクレーンを設置して既設の上部工12の前方に橋軸横断方向に沿って複数の支持杭20を立設する。
【0034】
<2>横断補強材の架設
図6,7を参照して橋軸横断方向に配列した支持杭20,20の間に横断補強材30を架設する工程について説明する。
【0035】
<2.1>吊り込み準備
吊り込み前に予め横断補強材30の両端部に既述した全周クランプ金具50Aを取り付けておく。
このとき各全周クランプ金具50Aは一対の抱持腕54,54を拡開させておくと共に、全周クランプ金具50Aが支持杭20に衝突しない位置まで各全周クランプ金具50Aを横断補強材30の内方側へ後退させておく。
【0036】
<2.2>横断補強材の吊り込み
クレーン等で横断補強材30を吊り上げ、二点鎖線に示すように支持杭20,20の側方に位置させた状態から隣り合う支持杭20,20の間に位置するように横方向(橋軸縦断方向)に向けて平行移動させる。
横断補強材30の吊り込み作業中、各全周クランプ金具50Aの重心が横断補強材30の中心線上に位置するので、鉛直性および水平性を保持しつつ安定姿勢を保った状態で横断補強材30を吊り込みできる。
横断補強材30の両端部の全周クランプ金具50Aが後退しているので、各全周クランプ金具50Aが隣り合う支持杭20,20に衝突せずに、隣り合う支持杭20,20の間に横断補強材30を短時間のうちに吊り込みできる。
【0037】
<2.3>クランプ装置によるクランプ操作
以下に説明する全周クランプ金具50Aによる簡単なクランプ操作を行うだけで隣り合う支持杭20,20の間に横断補強材30の両端部を固定することができる。
【0038】
<2.3.1>クランプ装置の進出操作
隣り合う支持杭20,20の間に横断補強材30と共に吊り込まれた各全周クランプ金具50Aは各支持杭20に対して離隔している。
そこで、各全周クランプ金具50Aを外方へ引出して基板51を支持杭20の周面に当接させ、この当接状態のまま複数の取付ボルト56を締付けて各全周クランプ金具50Aを進退不能に固定する。
すなわち、隣り合う支持杭20,20の間に横断補強材30を吊り込む際は、各全周クランプ金具50Aを後退させて横断補強材30の端部からの突出長を短くしておく。
吊り込み後においては、各全周クランプ金具50Aを進出させて全周クランプ金具50Aの張出長を自由に調整できるので、支持杭20,20の施工誤差等を簡単に吸収することができる。
【0039】
<2.3.2>抱持腕による抱持操作
つぎに支軸53,53を中心に一対の抱持腕54,54を水平に向けて回動操作して支持杭20の周面に抱持させる。突き合せた接合片54c,54cの間を締付け手段55で締め付けて各全周クランプ金具50Aを支持杭20に固定する。
【0040】
<3>縦断補強材の架設
図8,9を参照して橋軸縦断方向に配列した支持杭20,20の間に縦断補強材40を架設する架設工程について説明するが、縦断補強材40の架設作業は既述した横断補強材30の架設作業と比べて吊り込み方向が異なるだけで他の作業は基本的に同一である。
【0041】
<3.1>吊り込み準備
予め縦断補強材40の両端部に全周クランプ金具50Aを取り付けておく。
このとき各全周クランプ金具50Aの抱持腕54,54を全開状態にすると共に、各全周クランプ金具50Aを縦断補強材40の内側へ後退させておく。
【0042】
<3.2>縦断補強材の吊り込み
二点鎖線に示すようにクレーン等で縦断補強材40を吊り上げ、支持杭20の側方から隣り合う支持杭20,20の間に位置するように横方向(橋軸横断方向)に向けて平行移動させる。
この際、縦断補強材40の両端部に設けた全周クランプ金具50Aが既設の横断補強材30の全周クランプ金具50Aと干渉しないように、高低差(レベル差)を設けて吊り込むことが肝要である。
【0043】
<3.3>クランプ装置によるクランプ操作
既述した横断補強材30の架設作業と同様に、基板51が支持杭20の周面に当接するまで各全周クランプ金具50Aを横断補強材30の外方へ進出させて固定する。
支軸53を中心に一対の抱持腕54,54を回動操作して支持杭20の周面に抱持させ、接合片54c,54cの間を締め付けて全周クランプ金具50Aを支持杭20に固定する。
縦断補強材40に設けた全周クランプ金具50Aは既設の横断補強材30に設けた全周クランプ金具50Aに対して高低差があるので上下の両全周クランプ金具50A,50Aが互いに干渉し合うことはない。
【0044】
また図示を省略するが、全周クランプ金具50Aに高低差を設けることで、同種の補強材30,40を延長して架設することも可能である。
【0045】
<4>繰り返し
以上の各工程を繰り返して仮設桟橋10を施工する。
施工に際し、横断補強材30および縦断補強材40を支持杭20の側方から水平に吊り込みが可能であり、さらに各補強材30,40の両端部に設けた各全周クランプ金具50Aをボルトで締め付けるだけの簡単な操作で支持杭20に固定できるので、現場溶接で固定する従来技術と比べて下部工11を効率よく施工することができる。
殊に、全周クランプ金具50Aを抱持させて支持杭20に固定する作業を水中において行う場合でも、潜水夫による作業負担を軽減できると共に、水中作業時間を大幅に短縮することができる。
また必要に応じ施工途中において全周クランプ金具50Aの取付け高さや取付け位置を簡単に変更することも可能である。
【0046】
[仮設桟橋の解体撤去]
仮設桟橋10を解体する場合は、既述した組立の逆の工程を行って上部工12と下部工11を解体撤去する。
下部工11の解体撤去に際し、簡単な作業で各全周クランプ金具50Aを支持杭20から分離できるので、全周クランプ金具50Aの再利用が可能である。
【0047】
[実施例2]
以降にクランプ装置50の他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0048】
図10,11を参照してクランプ装置50が同一構造を呈する一対の半周クランプ金具50B,50Bで構成する形態について説明する。
【0049】
<1>半周クランプ金具
半周クランプ金具50Bは、支持杭20に外装可能な湾曲した基板51と、基板51の背面51aの中央に縦向きにして突設したガセット52と、基板51の背面側に縦向きに配設した一対の支軸53,53を介して水平に向けて開閉可能に枢支した一対の抱持腕54,54と、突き合せた一対の抱持腕54,54の先端部を締付けるボルト等の2組の締付手段55とを具備している。
半周クランプ金具50Bでは、抱持腕54の全長が支持杭20の半周を抱持可能な長さを有していて、2組の半周クランプ金具50B,50Bをワンセットとして使用する。
したがって、本例のクランプ装置50では合計4つの抱持腕54と4つの支軸53の組み合わせとなる。
【0050】
<2>クランプ装置によるクランプ方法
本実施例2では各補強材30,40の両端部にそれぞれ半周クランプ金具50Bを予め取り付けておくこと、吊り込み前後に半周クランプ金具50Bを後退および張出させること等の基本操作は既述した実施例1と同様である。
本例では
図11に示すように一本の支持杭20に対して、左右両側から拡開状態の半周クランプ金具50Bを装備した補強材30,40を吊り込み、半周クランプ金具50Bの基板51を支持杭20に押し当てる。
つぎに各組の半周クランプ金具50Bの抱持腕54,54を支持杭20の半周ずつ抱持させる。
2組の抱持腕54,54の各接合片54c,54cを突き合せた二箇所の突合部を2組の締付手段55でそれぞれ締め付けて完成させたクランプ装置50を支持杭20に固定する。
【0051】
本実施例2においては、既述した実施例1と同様の作用効果を奏するだけでなく、一本の支持杭20の左右両側から同種、同形の半周クランプ金具50B,50Bを抱持させるだけで、クランプ装置50を完成することができる。
【0052】
[実施例3]
実施例1,2では断面円形の鋼管製の支持杭20に対応したクランプ装置50について説明したが、断面形状が非円形の支持杭20に適用することも可能である。
図12,13を参照して他のクランプ装置50について説明する。
本例ではクランプ装置50が同一構造を呈する一対の半周クランプ金具50C,50Cで構成する形態について説明する。
【0053】
<1>断面非円形の支持杭
図12,13は同一形状、同一構造の一組の半周クランプ金具50C,50Cを組み合せた形態を示している。
本例では支持杭20が断面矩形を呈するコラム材である場合について説明するが、支持杭20はH型鋼でも適用が可能である。
【0054】
<2>クランプ装置
半周クランプ金具50Cは、支持杭20のひとつの側面(一辺)に外装可能な平板状の基板51と、基板51の背面51aの中央に縦向きにして突設したガセット52と、基板51の背面側の支持ブラケット57に縦向きに配設した一対の支軸53,53を介して水平に向けて開閉可能に枢支した一対の直線状の抱持腕54,54と、突き合せた一対の抱持腕54,54の先端部を締付けるボルト等の2組の締付手段55とを具備している。
【0055】
本例の半周クランプ金具50Cは実施例2と比較して基板51と抱持腕54,54が湾曲せずに直線状を呈していることと、一対の支軸53,53の枢支間隔が支持杭20の横幅寸法より広い関係にあることで相違する。
さらに本例の半周クランプ金具50Cは実施例2と比較して、2組の半周クランプ金具50B,50Bをワンセットとして組み合せて使用することと、2本の抱持腕54,54の全長が支持杭20の他のひとつの側面(一辺)の半周を抱持可能な長さを有していることと、突き合せた抱持腕54,54の先端部を締付けるために2組の締付手段55を使用することは先の実施例2と同一である。
【0056】
<3>クランプ装置によるクランプ方法
図13は一本の支持杭20に対して、左右両側から1組の半周クランプ金具50C,50Cで挟み込んで抱持させた形態を示している。
拡開状態の半周クランプ金具50Cを装備した補強材を隣り合う支持杭20の間に吊り込み、半周クランプ金具50Cの基板51を支持杭20に押し当てた後に各組の半周クランプ金具50Cの抱持腕54,54を支持杭20に半周ずつ抱持させ、2組の抱持腕54,54の各接合片54c,54cを突き合せた突合部を2組の締付手段55で締め付けて2組の半周クランプ金具50C,50Cを支持杭20に固定することは既述した実施例2と同じである。
相対向させた一対の基板51,51と、2組の抱持腕54とを支持杭20の全周に挟持させて固定することができる。
【0057】
本実施例3においては、既述した実施例1,2と同様の作用効果を奏するだけでなく、断面形状が非円形の支持杭20にも取り付けることが可能である。
【0058】
[実施例4]
図14,15を参照して他のクランプ装置50について説明する。
本例ではクランプ装置50が既述した半周クランプ金具50Cと、補助半周クランプ金具50Dとを組み合せて構成する形態について説明する。
<1>支持杭
本例では支持杭20がH型鋼である場合について説明するが、支持杭20はコラム材でも適用が可能である。
支持杭20がH型鋼である場合には、一対の間詰材21,21を使用してフランジとウェブの間に形成される凹部空間を封鎖する。
【0059】
<2>クランプ装置
半周クランプ金具50Cは、先の実施例3で説明したとおりである。
【0060】
<3>補助半周クランプ金具
補助半周クランプ金具50Dは、支持杭20のひとつの側面(一辺)に外装可能な平板状の基板51と、基板51の背面側の支持ブラケット57に縦向きに配設した一対の支軸53,53を介して水平に向けて開閉可能に枢支した一対の直線状の抱持腕54,54と、突き合せた一対の抱持腕54,54の先端部を締付けるボルト等の2組の締付手段55とを具備している。補助半周クランプ金具50Dはガセットを有していない。
【0061】
<4>クランプ装置によるクランプ方法
図15は一本の支持杭20に対して、その左右両側から半周クランプ金具50Cと、補助半周クランプ金具50Dを一組として挟み込んで抱持させた形態を示している。
支持杭20の左右両側に拡開状態の両半周クランプ金具50C,50Dを配置し、各抱持腕54,54を支持杭20に半周ずつ抱持させ、2組の抱持腕54,54の各接合片54c,54cを突き合せた二箇所の突合部を2組の締付手段55で締め付けてクランプ装置50を完成する。
相対向させた一対の基板51,51と、2組の抱持腕54とにより支持杭20の全周を抱持して固定することができる。
【0062】
本実施例4においては、既述した実施例1,2と同様の作用効果を奏するだけでなく、断面形状が非円形の支持杭20にも取り付けることが可能である。
【0063】
[実施例5]
図16,17を参照して断面形状が非円形の支持杭20に取り付け可能な他のクランプ装置50について説明する。
本例ではクランプ装置50が単体で1本の支持杭20を挟持可能な全周クランプ金具50Eで構成する場合について説明する。
【0064】
<1>全周クランプ金具
全周クランプ金具50Eは支持杭20のひとつの側面(一辺)に外装して接面可能な平板状の基板51と、基板51の背面51aの中央に縦向きにして突設したガセット52と、基板51の背面側の一対の支持ブラケット57,57に縦向きに配設した一対の支軸53,53と、一対の支軸53,53を介して水平に向けて開閉可能に枢支すると共に、L字形(鈎形)に屈曲した一対の抱持腕54,54と、一対の抱持腕54,54の先端部を締付けるボルト等の締付手段55とを具備している。
【0065】
<2>抱持腕
一対の抱持腕54,54は協働して支持杭20の全周を囲繞して挟持するための板材であり、各抱持腕54は支持杭20の半周を囲繞可能な全長を有し、L字形(鈎形)に屈曲している。
一対の抱持腕54,54はその基端が一対の支軸53,53を介して一対の支持ブラケット57,57に枢支してある。
【0066】
<3>クランプ装置によるクランプ方法
図17は一本の支持杭20の側方から全周クランプ金具50Eをセットして抱持させた形態を示している。
支持杭20の側方に拡開状態の全周クランプ金具50Eを配置し、支軸53を中心に一対の抱持腕54,54を回動操作して支持杭20の周面に抱持させ、接合片54c,54cの間を締付手段55で締め付けて全周クランプ金具50Eを支持杭20に固定する。
【0067】
本実施例5においては、一種類の全周クランプ金具50Eを用いて断面形状が非円形の支持杭20に取り付けできるので、既述した二つの半周クランプ金具を組み合せて用いる形態と比べて支軸53の設置数が半分で済む。
【0068】
[変形例]
図18,19に先の全周クランプ金具50Eを構成する一対の抱持腕54,54を中折れ可能に構成した変形例を示す。
【0069】
<1>抱持腕全周クランプ金具
本例では各抱持腕54を屈曲部で後半部54eと前半部54fに二分すると共に、両半部54e,54fの端部の重合部を中間支軸53aで回動自在に枢支して中折れ可能になっている。
各抱持腕54の後半部54eの基部が支軸53を介して支持ブラケット57に枢支してあり、前半部54fの先端部に形成した接合片54c同士を突き合せて締付け手段55を介して締め付けることで、一対の抱持腕54,54を支持杭20に抱持させて固定することができる。
【0070】
<2>クランプ装置によるクランプ方法
本例における全周クランプ金具50Eによる支持杭20へのクランプ方法は、先の実施例5と同じであるので説明を省略する。
【0071】
本例における作用効果は先の実施例5と同様である。
本例では全周クランプ金具50Eを構成する一対の抱持腕54,54が中折れ可能であるので、支持杭20に対する一対の抱持腕54,54の巻付け作業がし易くなる。
【0072】
[実施例6]
以上は各補強材30,40の両端部に同種のクランプ装置50,50を取り付ける形態について説明したが、異種のクランプ装置50,50を組み合せて取付けてもよい。
【0073】
例えば、支持杭20が鋼管製である場合には、各補強材30,40の各端部に全周クランプ金具50A(
図3)と、一対の半周クランプ金具50B(
図11)とを組み合せて取り付ける。
例えば、支持杭20が非円形の鋼材(コラム材、H形鋼)である場合には、一対の半周クランプ金具50C(
図13)、半周クランプ金具50Cと補助半周クランプ金具50Dとの組み合せ(
図15)、または全周クランプ金具50E(
図17,19)からなる何れかのクランプ装置50を適宜組み合せて各補強材30,40の各端部に取付けてもよい。
【0074】
本例においては、支持杭20の断面形状に応じてクランプ装置50,50の組み合せを使い分けることができる。