特許第6650211号(P6650211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6650211乗り物を運転することに関して運転者を支援する方法、運転者支援システム、コンピュータソフトウェア製品、及び乗り物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650211
(24)【登録日】2020年1月22日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】乗り物を運転することに関して運転者を支援する方法、運転者支援システム、コンピュータソフトウェア製品、及び乗り物
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20200210BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20200210BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20200210BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20200210BHJP
【FI】
   G08G1/16 A
   G08G1/09 H
   B60R21/00 310
   B60W50/14
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-95486(P2015-95486)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2015-228212(P2015-228212A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2018年2月15日
(31)【優先権主張番号】14170552.5
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503113186
【氏名又は名称】ホンダ リサーチ インスティテュート ヨーロッパ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Honda Research Institute Europe GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エイチ ワイスヴァンゲ
【審査官】 秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−230454(JP,A)
【文献】 特開2004−173195(JP,A)
【文献】 特開2003−205804(JP,A)
【文献】 特開2012−037980(JP,A)
【文献】 特開2008−084004(JP,A)
【文献】 特開2013−033324(JP,A)
【文献】 特開2004−251886(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0246156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
G01C 21/00−21/36
G01C 23/00−25/00
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−50/16
B60R 21/00−21/13
B60R 21/34−21/38
G09B 23/00−29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト車両を運転することに関して運転者を支援する方法であって、
前記ホスト車両の環境を物理的に検知し及び又はホスト車両の環境に関する情報を運ぶデータを取得する少なくとも一つのセンサにより、センサデータを発生させるステップと、
前記センサデータおよび前記ホスト車両の環境についての情報の、少なくとも一つに基づいて、時間的且つ空間的に隣接する表現セグメントを提供するように表現セグメントを生成するステップであって、
各表現セグメントは、特定の時刻における前記ホスト車両の前記環境の全体エリアの一つのグリッドの一つの部分の表現であり、
そのような表現セグメントの前記部分の、前記ホスト車両の現在位置に対する相対位置は、前記特定の時刻における前記ホスト車両の可能性のある位置に対応しており、前記グリッドは前記環境の表面を形成するユニットであり、
前記ホスト車両の走行に関連する情報が、セマンティック・ラベルにより、少なくとも複数のそのようなユニットに割り当てられ、
前記表現セグメントは、特定の時刻についての前記表現セグメントの前記複数のユニットの前記セマンティック・ラベルの予測により生成されるか、又は複数のユニットについての予測されたセマンティック・ラベルを持つ前記全体エリアの表現から前記表現セグメントを切り出すことにより生成される、ステップと、
前記時間的且つ空間的に隣接する表現セグメントを連結して、前記ホスト車両の前記環境の、一つの2次元の時空間表現を形成するステップであって、
2次元の前記時空間表現は、それぞれが対応する時刻における前記環境のうちの対応する空間部分を表している複数の時間的且つ空間的に連続するセグメントで構成されている、ステップと、
前記時空間表現に基づいて、前記ホスト車両及び他の交通参加者の、少なくとも一つの挙動についての評価を実行するステップと、
評価結果に基づいて、前記ホスト車両のアクチュエータ又は警告信号を制御するための支援信号を出力するステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
前記表現セグメントは、予め定められた所定の形状を有し、各表現セグメントに対応する前記特定の時刻は、前記ホスト車両の速度に基づいて定められる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各表現セグメントに対応する前記特定の時刻は、
前記ホスト車両の現在の運動の外挿、
前記ホスト車両についての一つ又は複数の類型的な挙動を前記全体エリアの表現にマッピングすること、
前記ホスト車両についての全ての可能性のある挙動の確率論的又は決定論的な総和、
前記ホスト車両についての、実行される可能性の最も高い将来挙動の明示的な予測、
のいずれか一つにより推定される、
ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数のデータソースから得られた前記ホスト車両の環境についての情報が、
各ユニットについて、優先されるデータソースからの情報のみに対応する一つのセマンティック・ラベルを生成すること、
各データソースからの情報をそれぞれ一つのセマンティック・ラベルに対応付けて、それらのセマンティック・ラベルを一つのセマンティック・ラベルベクタに結合すること、
複数のセマンティック・ラベルの確率の多次元分布を用いること、
個々の情報に対応する複数のセマンティック・ラベルから新しいセマンティック・ラベルを生成すること、
の、少なくとも一つにより、前記表現のその対応するユニットに関連付けられる、
ことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
セマンティック・ラベルは、道路、ホスト車両レーン、隣接レーン、対向レーン、進入路(incoming road)、退出路(outgoing road)、自転車用レーン、歩道、入り口(entrance)、くぼみ、道路外(off-road)、凍結、積雪、緊急レーン、高速道路入り口、高速道路出口、占拠道路(occupied road)、常時占拠(static occupied)、静止車両(static vehicle)、活動車両(dynamic vehicle)、交通参加者/構造物の特定部分の周囲/隣にある安全エリア、停止エリア、一方通行道、駐車スペース、交差点、危険が発生したことのあるエリア、水たまり、横断歩道、アクティブな横断歩道(active zebra crossing)、横切ることのできる障害物、道路上散乱物、動物横断エリア、フリーエリア、不明エリア、歩行者ゾーン、バス停留所、バスレーン、交通島(安全地帯、traffic island)、玉石(cobblestone)、滑りやすい道路、傾斜道路、減速バンプ(speed bump)、濡れた路、鉄道レール、及び砂利、の少なくとも一つのセマンティック特性(意味特性)についての情報を含む、
ことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記評価するステップでは、交通参加者についての複数の可能性のある将来移動挙動が比較されて、その将来移動挙動が予測される、
ことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記予測は、前記ホスト車両、及び又は他の交通参加者について行われる、
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
他の交通参加者についての予測される将来移動挙動が、前記表現セグメントの生成に用いられる、
ことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記可能性のある将来移動挙動は、各表現セグメントについて個別に評価され、又は表現セグメントに依存しない挙動として評価される、
ことを特徴とする、請求項6ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記評価するステップでは、ホスト車両のサイズ、又はホスト車両に付加的な安全エリアを加えたサイズが考慮される、
ことを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ホスト車両に搭載されるように設計され、且つ請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法を実行するように設計された、運転者支援システム。
【請求項12】
請求項11に記載の運転者支援システムであって、
交通物体を検出するための装置、及び又はそれらの位置及び速度を推定するための装置と、
道路基盤要素を検出するための装置と、
車車間通信のための装置と、
自己位置推定のための装置、及び又はホスト車両の状態を読み取るための装置と、
のいずれか一つを備える、システム。
【請求項13】
前記表現セグメントの前記生成と、前記表現セグメントの前記連結と、前記評価と、を実行するための計算手段を備える、
ことを特徴とする、請求項11に記載の運転者支援システム。
【請求項14】
コンピュータ上で実行されたときに、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法を実施する、コンピュータ・ソフトウェア・プログラム製品。
【請求項15】
請求項11ないし13のいずれか一項に記載の運転者支援システムを備える車両であって、前記運転者支援システムは、前記支援信号に基づいて前記車両の制御に影響を与えるものである、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物(以下、車両という)を運転することに関して運転者を支援する方法、運転者支援システム、コンピュータソフトウェア製品、及びそのような運転者支援システムを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ50年にわたり、個人の輸送や運転のための自己推進型の車両の利用が急激に進展した。世界の主要部では、ほとんど全ての世帯が、例えば自動車などの、少なくとも1台のそのような車両を所有している。このため、道路上の交通の密度も急激に増加した。したがって、ほとんどの人にとってそのような高密度の交通に参加することは、もはや楽しいことではなく重荷となった。このため、運転における快適性を向上することについてのニーズが増加していると認識することができる。これらのニーズに対応するため、自動車生産者は、運転者を支援することに努め、自動車を運転する際に行うべきその他のアクションに運転者が集中できるようにしている。
【0003】
例えば、初期の運転者支援システムは、エンジンのスロットルを自動的に適応させることにより坂道でも一定の速度を維持することについて運転者を支援するクルーズコントロールを導入した。初期の運転者支援システムは、もちろん、機能面においては極めて限られたものであった。
【0004】
クルーズコントロールの上記の例は、これを明らかに示している。すなわち、初期においては、自律ブレーキの機能は含まれていなかった。このため、坂道を下る場合には、望ましくない加速が発生することとなった。その後のシステムでは、クルーズコントロールシステムにブレキーシステムも備えることとなり、そのような欠陥は克服された。すなわち、それらのシステムは、道路がどのように傾斜しているかにかかわらず、目標速度を維持することができた。しかしながら、上述した交通環境のニーズへの対応策は、依然として含まれていなかった。
【0005】
運転者支援システムのより新しい世代は、先進運転者支援システムと称される。そのようなシステムは、環境に関する情報を考慮して、例えば危険な状況の場合に警告信号を出力したり、クリティカルな状況を緩和又は完全に回避すべく自動車の自動制御をも実行することができる。例えば、アダプティブ・クルーズコントロールは、そのようなシステムを備えた自動車(ホスト車両)と先行車との間の距離を検知して、速度を自動的に適応させる。改善された運転者支援システムに向けての第一歩であった。他の例は、物体が当該車両の真正面にあることが認識され得る場合に自動的に緊急ブレーキを起動することのできる、緊急ブレーキングシステムである。
【0006】
上述したこれら2つの例は、必要な情報が自動車の長さ方向における自由空間のサイズに関する情報のみであるため、やや簡単に実現することができる。しかしながら、交通状況の評価に際して車両環境の非常に限られた部分のみが考慮されるため、そのようなシステムの能力や有用性も限られている。ブレーキングに代えて、例えば、緊急ブレーキが必要とならないように横方向の回避操縦(レーン変更、車線変更)を考慮することができれば、より有利となり得る。
【0007】
もちろん、これを行うには、ホスト車両の環境についてのより多くの情報を考慮することが、直ちに必要となる。特に、密度の高い交通において車両操縦のストラテジを決定するには、例えば事故のリスクを最小化し得るように、将来の交通状況を予測したりシーンの展開を予測することが必要となる。運転者支援システムの開発には、いつの日にか自律運転を実現する、という目標がある。したがって、この開発には、ますます複雑化していく情報を同時に考慮することが必要であり、特に、シーン内の交通参加者の複数の挙動オプションを考慮に入れる必要がある。処理プロセッサの性能は急速に向上しているものの、車両環境に関する情報を含んだデータは膨大であり、状況(場面、situation)をリアルタイムに評価することは依然として課題である。
【0008】
将来の交通場面(交通状況)を予測する際には、車両運転者の挙動に対する環境の影響を考慮する必要がある。運転に関して運転者が支援される車両(自車両、ホスト車両)は、もちろんそのシーンの一部であり、したがってその交通シーンの面(交通シーンを表す面表示)の特定の一部をカバーする。それがどの部分になるかは、もちろん、ホスト車両の挙動に依存する。交通場面の全体エリアは、それぞれが特定の品質を持った複数のエリアユニットの結合である。
【0009】
ここで、品質とは、その特定のユニットを車両が横切っていくことがどの程度確からしいかの推定が与えられることをいう。例えば、他の自動車により占有されたエリアユニットは、それらのエリアを他の交通物体が横切っていくことについての、非常に低い確率を持つ。一方で、空いている道路(free road)(以下、フリーロード)に対応するエリアユニットは、当該ユニットを自動車が横切っていくことについての非常に高い確率を持つ。
【0010】
将来の交通場面の予測に関してこの簡単な例が既に示唆しているように、ホスト車両の環境における全ての部分及び物体が、特にその空間的な広がりと位置に関して判っていることが最も重要である。ホスト車両の環境をカバーすることに関しては、例えば特許文献1又は特許文献2などに、既にいくつかの提案が存在する。
【0011】
しかしながら、ホスト車両の環境の特定の領域が占有されているという事象は、一つの側面に過ぎない。そのような占有グリッドによっては考慮することのできない他の尺度や構造であっても、交通場面における何らかの交通参加者の挙動に大きな影響を持つ。例えば、横断歩道の近くに既に歩行者が認識されていても、その歩行者によって当該横断歩道が使用中でなければ、その瞬間はフリーロードが前方に存在することになる。しかしながら、その歩行者がその横断歩道上へ歩きだして当該横断歩道の前で停車するように交通参加者にブレーキをかけさせることとなる、という可能性も或る程度存在する。
【0012】
この例は、環境が時間につれて変化することを例示している。横断歩道に誰もいない限り、前方にはフリーな(空いている)レーン(車線)が存在するものと考えることができる。しかしながら、人が横断歩道へ出ればすぐに、運転者は歩行者が渡れるようにすることを求められることとなるので、当該横断歩道は進入禁止エリアであると考えなければならない。横断歩道の存在及びその位置に関する情報や、自身のレーン(車線)、対向レーン(対向車線)、若しくは高速道路出口がどこにあるかといった情報は、セマンティック(semantics)と称される。
【0013】
特定の挙動の評価が可能となるように、及び当該特定の評価に関する提案がおそらくは可能となるように、交通場面の展開を記述するためには、したがって、空間的、時間的、及び意味論的(semantic)な情報をカバーする環境表現を持つことが必要である。これは膨大な量の情報データであるので、合理的な評価に必要な全ての情報を含む一方で不必要な情報を背負うことの無い、効率的な環境表現についてのニーズが存在する。
【0014】
特許文献3は、環境表現を作成する際の複雑さを制限する最初の試みである。全ての物体をそれらの空間的関係によって表現する代わりに、自由空間の変化の予測を行うことを提案している。すなわち、自由空間は、時間につれて変化する一つの物体であるものとして特定することができる。これにより、実際に、自由空間を表現するのに必要なデータ量は減少するが、大きな不利益がある。他方で、自由空間に関する情報に加わるその制限は、他の交通参加者の将来移動挙動を予測する能力を低下させる。それらの情報は、もはや環境に関する情報の一部ではなくなるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2013/087067(A1)号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 731 922(A1)号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2 339 375(A2)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すなわち、本発明の目的は、運転者支援システムのホスト車両の環境についての、シーンの時間的な展開に関する情報を含む効率的な表現を提供することである。この目的は、独立クレームに記載の方法、運転者支援システム、コンピュータ・ソフトウェア・プログラム製品、及び車両により達成される。有利な態様は、従属クレームに記載される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によると、運転者支援システムが搭載されたホスト車両の環境についての情報が、まず取得される。そのような情報を取得することを可能とする種々の方法が存在する。例えば、環境に関する情報は、センサデータを発生させることにより、例えばホスト車両のレーダシステムや撮像デバイスなどによって、収集することができる。これに代えて、car-to-X通信を用いてデータを取得することもできる。
【0018】
環境を物理的に検知することによってそのようなデータが取得され又は収集された後に、環境の表現が生成される。この表現は、複数の表現セグメントを用いて生成される。これらセグメントのそれぞれは、特定の時刻におけるホスト車両の環境の全体エリアの表現(entire area of representation)の一部である。“全体エリアの表現”は、もちろん、ホスト車両の周囲の限られた空間のみをカバーするものであり、そのサイズは、センサによりカバーされる領域により制限され得る。
【0019】
それぞれの表現セグメントの特定の時刻は、当該特定の時刻においてホスト車両がもつ相対位置に対応する。すなわち、ホスト車両の動きに従い、各セグメントは、当該時刻において当該ホスト車両が存在する環境の表現の一部分を表現する。そして、複数の異なるセグメントを結合することで、ホスト車両の環境の時空間表現が形成される。ホスト車両の環境のこの時空間表現は、したがって、関連する時刻におけるその環境の関連する部分の表現である複数の表現セグメントで構成される。
【0020】
いずれにしても、ホスト車両の若しくは他の何らかの交通参加者の又はそれらの両方の将来移動挙動の予測計算がそこにおいて実行され得る、その環境の全体エリアの表現が取得される。そのような結合された表現は、交通場面の合理的な評価を実行し得るように多くの情報を与える一方で、任意の時刻において取得することできる全ての情報が含まれてしまうことを防止する。
【0021】
すなわち、その後の評価に用いられるデータ量は、交通参加者の挙動予測のオプションを失うことなく大幅に低減されたものとなる。本発明によれば、次にこの時空間表現が評価され、当該評価の結果に基づいて支援信号が出力される。そのような支援信号は、例えば、ホスト車両について危険な交通場面が予測され得る場合に警告メッセージの出力を制御するのに用いられ得る。
【0022】
望ましくは、表現セグメントは、あらかじめ定められた所定の形状を有し、そのような表現セグメントに対応する個別の時刻が、ホスト車両の思想(方針、philosophy)に基づいて定められる。簡単な実施形態では、これは、現在時刻におけるホスト車両の線速度であり得る。より複雑なソリューションでは、ホスト車両の軌道が予測される。そのような軌道予測は、例えばホスト車両の最も可能性のある挙動に基づくものであり得る。その結果、個別の時刻のそのような推定(estimation)が、その車両の現在の動き(dynamics)の外挿を用いて実行され得る。すなわち、現在の速度が特定されると、その車両の将来の位置が、現在の線速度のみに基づいて予測されることを意味する。
【0023】
あるいは、一のステップにおいて、そのような場面におけるホスト車両についての典型(類型、ステレオタイプ)である可能性のある複数の挙動のオプションが特定され、それらの典型的(類型的)な挙動のオプションにおけるホスト車両の位置が全体エリアの表現にマップされる。あるいは、ホスト車両についての可能性のある全ての挙動の確率的な総和若しくは決定論的な総和が生成されるか、又はホスト車両についての、最も実行される可能性の高い将来挙動が明示的に予測される。
【0024】
各表現セグメントは、環境の全体表現のグリッドの一部に対応する。そのようなグリッドは、環境の面(環境を表現する面表示)を形成する複数のユニットで構成され、その環境セグメントにホスト車両の環境に関する情報を追加するため、少なくともそのようなユニットの複数にラベルが付される。これらのセマンティック・ラベル(意味ラベル、semantic label)は、特定の時刻についての表現セグメントを生成するため、当該特定の時刻について予測されるものである。従って、表現セグメントは、2つの異なる方法で生成され得る。
【0025】
第1に、一の表現セグメントのユニット(複数)の意味ラベル(複数)についての予測が、その表現セグメントのそれらのユニットについてのみ実行されるか、又は第2に、意味ラベルについての予測が実行された全体エリア表現から、表現セグメントが切り出される。
【0026】
望ましくは、各ユニットのラベルは、単一の情報についての情報だけでなく、複数のデータソースから取得された情報に関する情報で構成される。この場合、もちろん、その特定のユニットのラベルをどのようなものとすべきかを決定する必要がある。一つの簡単な方法は、それぞれの情報ソースに関して複数の情報が取得される場合には、特定の優先順位を定義しておくことである。ユニットのラベルを生成するための情報を得るため、そのような優先度指標に基づいて、優先されるデータソースが選択される。これに代えて、複数の異なるデータソースからの情報をそれぞれ一つのラベルに関連付け、そのような複数のラベルを結合してラベルベクタを生成するものとすることができる。
【0027】
更に他の方法は、複数のラベルの確率の多次元分布を用いるか、又は、そのようなラベルを結合すべく複数の異なるデータソースの情報を取得し、その特定のユニットに関する環境情報の表現に用いる新たなラベルを生成して、複数のラベルを使用可能とすることである。
【0028】
本発明における意味でのラベルとは、環境の全体表現の一つのユニットに関する何らかの情報又は特性であり得る。そのようなラベルの例は、道路、ホスト車両レーン、隣接レーン、対向レーン、進入路(incoming road)、退出路(outgoing road)、自転車用レーン、歩道、入り口(entrance)、くぼみ、道路外(オフロード、off-road)、凍結、積雪、緊急レーン、高速道路入り口、高速道路出口、占拠道路(occupied road)、常時占拠(static occupied)、静止車両(static vehicle)、活動車両(dynamic vehicle)、交通参加者/構造物の特定部分の周囲/隣にある安全エリア、停止エリア、一方通行道、駐車スペース、交差点、危険が発生したことのあるエリア、水たまり、横断歩道、アクティブな(人が横断中の)横断歩道(active zebra crossing)、横切ることのできる障害物、道路上散乱物、動物横断エリア、フリーエリア、不明エリア、歩行者ゾーン、バス停留所、バスレーン、交通島(安全地帯、traffic island)、玉石(cobblestone)、滑りやすい道路、傾斜道路、減速バンプ(speed bump)、濡れた路、鉄道レール、砂利、などであり得る。
【0029】
他の特定の望ましい実施形態によると、環境についての生成された全体表現に基づいて、少なくとも一つの交通参加者の可能性のある複数の将来挙動が比較され、その交通参加者の将来移動挙動が予測される。ホスト車両についての、及び又は、他車両や、もちろん歩行者などの、他の任意の移動物体のようなその他の交通参加者についての、将来移動挙動を予測することが、特に望ましい。
【0030】
他の望ましい実施形態では、他の交通参加者についての予測された将来移動挙動が、再び用いられて、表現セグメントが生成される。すなわち、再帰的な方法で、生成された表現セグメント及び当然ながらそれらの生成された表現セグメントの結合が、実際の交通場面に近づけられ得る。将来移動挙動を算出するには、少なくとも2つの個別の方法が可能である。まず、それぞれの表現セグメントについて個別に将来移動挙動を評価することができる。さらに、その評価は、特定の表現セグメントに依存しない軌道として生成され得る。すなわち、車両についての可能性のある将来移動挙動の軌道が算出されてセグメントにマップされ、表現セグメントが生成される。
【0031】
さらに、評価ステップでは、ホスト車両のサイズ又はホスト車両に付加的な安全エリアを加えたサイズが考慮されることが望ましい。環境についての全体表現は多くの情報を含んでいるので、これにより、ホスト車両の単一の点の位置を用いるだけでなく例えば当該ホスト車両の幅も用いることで、複数の障害物の間の余裕空間が例えば退避操縦の場合の軌道計画に十分な空間であるか否かを簡単に判断できる。
【0032】
以下に、添付の図面を用いて、望ましい実施形態に関連して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本システムのコンポーネント/モジュールを示した当該システムの概観図である。
図2】環境の時空間表現の生成についての第1の例を示す図である。
図3】環境の時空間表現の生成についての第2の例を示す図である。
図4】環境の時空間表現の生成についての第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、車両に登載された本発明に係るシステムを示す図である。本システム1は、複数の情報ソース2を備え、これらの情報ソースのそれぞれは、最終的な時空間表現により表現されることとなる環境の少なくとも一部の領域についての情報を出力する。そのような情報ソースは、例えば、当該システムが登載されたホスト車両の環境を複数のセンサを用いて物理的に検知するセンサシステムであり得る。
【0035】
使用されるセンサは、レーダ、ライダ、又は音響センサであり得る。あるいは、センサシステムは、カメラにより撮像される画像に基づいてその撮像画像から特定することのできるレーンマーク、交通標識、横断歩道、レーン境界、又はその他の物体の存在及び位置についての情報を出力する画像処理システムであるものとすることができる。使用することのできる更に他の情報ソースは、他の交通参加者の位置及び速度に関する情報を配信するcar-to-X通信システムの情報を受信するインタフェースである。
【0036】
検知システム2から出力される情報は、空間情報融合ユニット3に与えられる。空間融合ユニット3では、ホスト車両に対し相対的に同じ位置(表現マップにおける一つのユニットに対応する)に関する情報が融合される。そのような情報の融合は、種々の方法で実行され得る。一つの方法は、表現の対象であるエリアの一つのユニットに対応する位置毎に、優先される情報ソースに応じたラベルのみを付して、当該優先される情報ソースからの情報のみを用いることである。
【0037】
とはいえ、取得された情報を失わないように、異なる種々の情報ソースから取得した情報は維持しておくことが望ましい。これは、各情報ソースに対し対応する一つのラベルを用い、複数の全てのラベルを一つのラベルベクタに結合し、表現すべきエリアの各ユニットがその複数のラベルを含むラベルベクタによって表現されるようにすることにより行うことができる。もちろん、各情報ソースは、複数の異なるラベルに対応する情報を出力し得る。上述したように、特に画像処理システムは、様々な個別のラベルに関連する情報を出力することができる。空間融合ユニット3の出力は、現在時刻における、表現すべき全体エリア内の環境の表現である。
【0038】
空間融合ユニット3の処理結果は、ラベル予測ユニット4と時空間融合ユニット5に渡される。
【0039】
ラベル予測ユニット4では、ラベルが、特定の時刻について予測される。これらの特定の時刻をどのように決定するかについては、後述する。ラベル予測ユニット4の処理結果は、時空間融合ユニット5に与えられる。当該ユニット5では、環境の時空間表現が生成される。
【0040】
時空間融合ユニットにおいてどの時刻の表現セグメントを融合するかを決定するため、その特定の時刻の決定の基礎となるホスト車両の軌道が特定される。当該軌道は、その時刻におけるラベルの予測に必要となる。ホスト車両が道路を走行している場合、当該車両は、時間の経過につれてその道路の異なる位置を通過するであろう。次に、所与のサイズの表現セグメントに対し、ホスト車両の軌道から、当該ホスト車両が次のセグメントにいつ進入するかが特定され得る。この特定の時刻は、次の表現セグメントのラベルが特定されるべき時刻である。最も簡単には、2つの表現セグメントのみが特定されて、時空間融合ユニット5において結合される。もちろん、より多くの特定の時刻についての複数の表現セグメントが生成され結合され得る。時空間融合ユニット5では、ラベル予測ユニット4から受信される予測されたラベルに基づいて、表現セグメントが生成される。これは、2つの異なる方法で実行され得る。
【0041】
1.ラベル予測ユニット4が予測のみを行った表現セグメントのエリアのみについて、表現セグメントが生成される。
【0042】
2.ラベル予測ユニット4が、全体エリアの表現の各ユニットについてのラベルを予測し、時空間融合ユニット5では、その環境のこの全体エリアの表現が、それぞれの特定の時刻について生成される。その後、これら特定の時刻に関する情報に基づいて、その時刻に対応する全体エリアの表現のそれぞれの部分が分割されて表現セグメントが形成される。次に、それらの表現セグメントが結合されて、時空間表現が構成される。
【0043】
当該時空間表現は、挙動評価ユニット6に渡され、当該ユニット6では、ホスト車両及び又はその他の交通参加者の挙動についての評価処理が行われる。出力として支援信号が生成される。当該支援信号は、ホスト車両のアクチュエータや警告信号等の制御に用いられる。挙動評価ユニット6では、例えば、複数の異なる交通参加者、若しくは少なくとも一つの交通参加者、又はホスト車両のみについての予測された挙動が、危険な走行場面につながることとなり得ることが評価される。なり得る場合、警告が出力されるか、又はホスト車両の運転状態に積極的に影響が与えられる。これは、例えば減速することにより行われる。
【0044】
図2は、本発明に従って時空間表現がどのように生成されるかの例を示している。図示右側には、表現対象である車両の全体環境が図示されている。ここでは、これはホスト車両の前方の領域である。ホスト車両が、それぞれが走行方向を有する2つのレーンのみを持つ道路の右側レーンを走行しているとする。全体エリアが、4つの異なる時刻T0...T3について示されている。
【0045】
この全体エリアのそれぞれの面ユニットには、ホスト車両を走行させることに関連する情報を表す少なくとも一つのラベルが示されている。符号8は、時刻T0での全体エリアの表現を示している。この時刻には、2つの他の交通物体9及び10が特定され得る。交通物体10は、対向レーン(反対車線)を走行しており、交通物体9は、その道路の外側の領域から到来しつつある。
【0046】
これらの交通物体9及び10のサイズに対応する面ユニットには、占有(occupied)のラベルが付されている。また、(例えば、車両の走行を妨げる家や壁があることにより)車両が走行することのできない道路の側部にも、占有(occupied)のラベルが付されている。全体エリア8の図は、さらに、ホスト車両が走行しているレーン、すなわち自車レーン(ego-lane)に、対向レーン(opposing lane)とは異なるラベルが付されていることを示している。対向レーンの隣には、歩道であることが特定されて、歩道(walk way)というラベルが付されている。
【0047】
その後の時刻T1における同じ全体エリアの表現が示されており、符号8’により示されている。T1では、ホスト車両がT1の隣のラインに到達したことが確認される。その間にただ一つのことだけが変化したことが認識され得る。すなわち、対向レーン上をホスト車両に向かって移動する交通物体10である。同様に、8’’ は、その後の時刻での同じエリアを示したものであり、このときには、交通物体10が通過した後に交通物体9が対向レーン上を走行するのを見ることができる。最後に、8’’’は、時刻T3での同じエリアである。
【0048】
ホスト車両が自車レーン上を一定速度で走行するとすれば、当該ホスト車両は、全体エリアの表現8から8’’’に示されているように、T0からT3における各水平線を通過していく。図示の例では、表現セグメントが矩形で定義されており、等間隔の時刻T1からT3が、表現セグメントのサイズを規定している。すなわち、表現セグメントについての所与の形状に対し、ホスト車両の現在速度に基づき、T1において当該ホスト車両がどこにあるかが算出され得る。すなわち、T0及びT1は、第1の表現セグメントのエッジを規定する。
【0049】
もちろん、ホスト車両が一定速度で走行すると仮定するだけでなく、予測される軌道を用いて様々な異なる時刻における位置を特定できるように、当該ホスト車両の将来挙動を予測することにより、T1における位置の計算を向上させることができる。
【0050】
特定の時刻T0(これは、勿論、現在時刻である)及びT1からT3についての位置が特定された後、これらの時刻における全体エリアの表現8から8’’’から、対応する表現セグメントが切り出される。次に、切り出された表現セグメント11から11’’’が結合されて、時空間表現12が構成される。
【0051】
時空間表現についての第1の例では、すべて同じ形状を持つ表現セグメントが用いられている。図3に示す他の例では、連続する(時間に関して連続する)表現セグメントが、異なる形状とサイズを持っている。これらのセグメントは、部分的に丸くなっている。
【0052】
この例では、図3の最も右側に図示されている現在時刻T0での場面を示す全体エリアの表現から開始して、まず、表現セグメントが切り出されて、当該切り出されたセグメントに関してのみ、ラベルの予測が行われる。これが、セグメント13、13’、13’’で示されている。この例は、更に、横断歩道がその全体エリア内に存在していることを示している。横断歩道は、最も右側の初期状態においてはフリーな(人のいない)横断歩道(free zebra crossing)というラベルが付されているが、表現セグメント13’では、その横断歩道を用いて通りを横切って歩くであろうと予測される歩行者の動きにより、そのラベルが変化している。すなわち、横断歩道のラベルは、アクティブな横断歩道(active zebra crossing)に変化している。
【0053】
最後の例が図4に示されている。この例では、ホスト車両の軌道に起因して表現セグメントの方位が変化している。図示の例では道路は右側へ曲がっており、従って、第1の例に示されているような表現セグメントでは不利である。すなわち、ホスト車両は、レーンに従って右へのカーブを走行すると予測されるので、セグメント(複数)には、それらの位置とサイズとに関する適合が行われる。一つの方法は、セグメントの境界が、ホスト車両の軌道に対して直交するようにすることである。時空間表現は、その後、先進運転者システムにおける評価の基礎として用いられる。
図1
図2
図3
図4