(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、物品の姿勢を変えながらカメラで撮像する検査方法において、物品の姿勢を変えたときに撮像したい表面にピントが合わないことがある。微小な物品の検査に用いられるカメラでは、ピントが合う範囲が狭く、オートフォーカス機能が追従できる範囲も余り広くないため、このような現象が起こりやすい。また、オートフォーカス機能によってピント合わせが可能な場合であっても、一つの物品に対する撮像枚数が多くなると、ピント合わせに要する時間が長くなるため、検査速度の低下が無視できなくなる。
【0006】
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、微小な物品を保持し、その姿勢を変えながら複数の方向から撮像して検査する方法において、物品の姿勢を変えたときにも撮像したい表面にピントを合わせることができる物品検査方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような検査方法を実施可能な物品検査装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本発明の物品検査方法は、多関節ロボットアームの先端に固定された保持装置によって物品の一主面を保持面として保持する工程と、前記物品の前記保持面と反対側の面をカメラで撮像して第1画像を取得する第1撮像工程と、前記保持装置を回転させて、前記物品の側面を前記カメラで順次撮像する第2撮像工程とを有し、前記第2撮像工程において、撮像しようとする前記側面と前記カメラとの距離を調節する。
【0008】
ここで、主面とは、物品の外表面を構成する面のうちで面積の大きい面をいう。また、側面とは、物品の保持面およびその反対側の面以外の面をいう。この方法によって、第2撮像工程において物品の側面を撮像する場合に、撮像したい表面にピントを合わせることができ、高精度な外観検査が可能となる。
【0009】
好ましくは、前記第2工程において、撮像しようとする前記側面と前記カメラとの距離が、各側面に対応した所要の距離になるよう調節される。
【0010】
好ましくは、前記カメラは位置が固定され、撮像しようとする前記側面と前記カメラとの距離が、前記多関節ロボットアームの動作によって調節される。これにより、ピント合わせのためにカメラを移動させる機構を別途設ける必要がないので、検査装置の製造コストを抑えることができる。
【0011】
好ましくは、前記第1撮像工程で得られた第1画像に基づいて、前記第2撮像工程において撮像しようとする前記側面と前記カメラとの距離が調節される。より好ましくは、前記第1画像から前記物品の外形および向きを認識し、前記認識された外形と向きに基づいて前記第2撮像工程において撮像しようとする前記側面と前記カメラとの距離が調節される。これらにより、第1画像に基づいて、保持面の反対側の面の外観検査を行うのと同時に、第2撮像工程で撮像する側面にピントが合う物品の位置を取得することができるので、全体の検査時間を短縮することができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記外形および向きの認識は、前記第1画像における前記物品の外周線を取得するステップと、前記外周線の変化量から前記外周線を直線部と角部に分別するステップと、前記直線部と前記角部のそれぞれについて、角度および前記物品の保持中心からの距離を算出するステップとによって実現される。ここで、物品の保持中心とは、第1画像中で保持装置の中心軸のある所をいい、多関節ロボットアームの動作により保持装置を回転させるときの回転中心となる。このようにして、第1画像から側面撮像時のピント合わせに必要なデータを算出することができる。
【0013】
好ましくは、前記保持装置は、前記第1撮像工程において前記物品の輪郭からはみ出して前記第1画像に写り込まない程度に小さく形成されている。保持装置の写り込みがないことにより、第1画像から物品の外周線を抽出する際に、画像から保持装置を消去するための余計な画像処理を省くことができる。
【0014】
好ましくは、前記保持装置は、非磁性材からなるスリーブと、前記スリーブの軸方向に直線運動する可動ロッドが該スリーブ内に挿入されたリニアアクチュエーターと、前記可動ロッドに直接または間接に固定され、前記スリーブ内に収容された磁石ユニットとを有する。そして、前記磁石ユニットは、1個の永久磁石または少なくとも1個の永久磁石を含む複数の磁性部材の組み合わせによって構成され、前方の端面が第1磁極であり、後方の端面が第2磁極である。
【0015】
ここで、前方とは保持装置から見て保持する物品のある方向をいい、後方とはその反対方向をいう。また、磁性部材とは磁性材からなる部材であり、磁性材とは永久磁石と軟質磁性材を含む概念である。第1磁極はN極またはS極であり、第2磁極は第1磁極と逆のS極またはN極である。このような保持装置は、微小な物品を吸着・移動させるのに適しており、また、サイズを小さくできるので、本発明の外観検査に特に適している。
【0016】
好ましくは、前記第1撮像工程および/または第2撮像工程において、ローアングル照明によって前記物品が照らされる。ここで、ローアングル照明とは、検査する表面に対して低い角度から光を照射する照明である。ローアングル照明を用いることによって、物品表面のキズ等が目立ちやすく、欠点の発見が容易となる。また、ローアングル照明を用いることによって、第1画像において、より明瞭な外周線を得ることができる。
【0017】
本発明の物品検査装置は、物品を保持する保持装置と、前記保持装置が先端に固定され、該保持装置に保持された前記物品を撮像位置に移動する多関節ロボットアームと、前記撮像位置にある前記物品に投光する照明手段と、前記照明手段により投光された前記物品を撮像するカメラとを有し、さらに、前記物品の保持された面と反対側の面を撮像して得られた画像に基づいて、前記物品の側面撮像時の前記物品の向きおよび位置を前記多関節ロボットアームに指示する演算部を有する。
【0018】
この構成により、物品の側面を撮像する場合に、撮像したい表面にピントを合わせることができ、高精度な外観検査が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の物品の外観検査方法または装置によれば、多関節ロボットアームによって物品の姿勢を変えながらカメラで撮像するのに際して、物品の姿勢を変えたときにも、撮像したい表面に明瞭にピントを合わせることができる。その結果として、自動で、より高精度な外観検査を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の物品検査方法および装置の一実施形態を以下に説明する。まず本実施形態の検査装置の構成を
図1〜4に基づいて説明する。
【0022】
図1において、本実施形態の検査装置70は、物品の保持装置11、多関節ロボットアーム71、ローアングルリング照明72、ハイアングルリング照明73、カメラ74と演算部75を有する。物品90を保持装置で保持し、多関節ロボットアームの動作により物品の姿勢および位置を変えながら、カメラにより複数の方向から撮像することにより検査が行われる。
【0023】
図2に検査対象である物品の一例を示す。物品90は片状で主面91、92を有し、その厚み方向に貫通穴97が形成されている。
図2では、側面93は4つの平面部94を有し、隣り合う平面部の間にそれぞれ稜部95を有している。なお、物品90はあくまで検査可能な物品の一例を示すものであって、本発明が対象とする物品を限定するものではない。
【0024】
図3において、本実施形態の保持装置11は、スリーブ30、エアシリンダー35と磁石ユニット41を有する。スリーブは、前方(
図3の下側)の端に開口32を有する。エアシリンダーは、本体36がフランジ38を介してスリーブに固定されており、可動ロッド37がスリーブ内に収容されている。磁石ユニットはエアシリンダーの可動ロッドの先端に固定されている。エアシリンダーが伸びると、磁石ユニットが前進して、開口部で物品を吸着することができる。保持装置の詳細は後述する。
【0025】
図1において、多関節ロボットアーム71は複数の回転軸を有することにより、人間の腕に似た複雑な動きが可能である。ロボットアームは、保持装置11の先端に吸着・保持した物品90を、所要の姿勢で撮像位置に移動させる。ロボットアームは少なくとも、撮像位置において物品の姿勢を任意に変えることを可能とし、その姿勢を保ったままカメラと物品との距離を調節することを可能とするだけの関節数を必要とする。
【0026】
図4において、撮像部は、照明手段としてのローアングルリング照明72およびハイアングルリング照明73と、カメラ74とによって構成されている。
図4では、物品90の側面93をカメラに向けた状態を示している。
【0027】
ローアングルリング照明72はリング型のローアングル照明である。ローアングル照明は、検査対象である物品表面に対して、低い角度から光を投光する。これによって、物品表面のキズ等が目立ちやすく、欠点の発見が容易となる。ここで、低い角度とは、検査面からの角度が小さいという意味であって、検査面への入射角θi、すなわち物品の表面に立てた法線からの角度は大きい。入射角θiは大きいほど欠点を明瞭に浮かび上がらせることができるので、45度以上であることが好ましく、60度以上であることがさらに好ましく、70度以上であることが特に好ましい。ローアングルリング照明で物品の表面をムラなく照明するためには、照明と物品との距離を充分近づける必要がある。ローアングルリング照明と物品との距離は20mm以下であることが好ましい。
【0028】
ハイアングルリング照明73は、リング型のハイアングル照明である。ハイアングル照明は、検査対象である物品表面に対して、高い角度から光を投光する。ハイアングル照明は、検査する表面に対して略垂直に光を照射する照明を含み、落射照明を含む概念である。本実施形態のハイアングル照明は、物品の撮像しようとする面に略垂直に光を照射する。ハイアングルリング照明は好ましくは拡散型の照明である。光線の指向性を弱めることによって照射面の輝度むらを抑えられるからである。また、ハイアングルリング照明として、カメラと同軸に光を照射する落射照明を用いてもよい。ハイアングルリング照明は必須ではないが、ローアングルリング照明72と組み合わせて用いることが好ましい。検査領域が明確になるからである。
【0029】
カメラ74は、2つの照明72、73に投光された物品表面を、2つのリング照明の穴を通して撮像する。カメラの種類は特に限定されず、市販の各種検査用カメラを用いることができる。
【0030】
ハイアングルリング照明73を用いる場合、ローアングルリング照明72とハイアングルリング照明に波長範囲の重ならない異なる色の照明を用い、カラーカメラを用いることが好ましい。例えば、ローアングルリング照明を赤色、ハイアングルリング照明を青色として、カラーカメラで撮像することができる。
【0031】
図1において、演算部75は得られた画像を処理し、キズ、欠け、異物付着等の欠点の有無を判断する。演算部は、また、物品の保持面と反対側の面を撮像した画像から、物品の外形と向きを認識して、その後に物品の側面を撮像するときの物品の姿勢および位置を決定する。
【0032】
次に、本実施形態の物品検査方法を説明する。
図5に検査の工程図を示す。
【0033】
物品は多くの場合パレット等にばらばらに積み付けられて供給されるので、まず保持装置により物品を保持して、パレット等から物品を取り上げる。より具体的には、多関節ロボットアームの目となるカメラで物品の位置を確認しながら、ロボットアームを動作させて、保持装置を物品の主面の一つに正対させ、保持装置を物品に近づけてスリーブの開口端(
図3の31)を当該主面(保持面)に当接させ、エアシリンダーを伸ばして磁石ユニットを前進させ、物品に吸着させる。物品を、保持装置に吸着させて保持したまま、パレット等から取り上げる。
【0034】
次いで、多関節ロボットアームを動作させて、物品の保持面と反対側の面(以下、単に「反対面」ということがある)をカメラに向けて、物品を撮像位置に移動させる。そして、反対面を撮像して第1画像を得る(第1撮像工程)。このとき、反対面がカメラの軸に対して厳密に垂直である必要はなく、反対面の全体がピントの合う範囲に収まっていればよい。また、反対面92に確実にピントを合わせるために、予め物品の厚さ(保持面と反対面の距離)を登録しておいてもよい。
図6に、この第1撮像工程を示す。
【0035】
本実施形態では、ローアングルリング照明を赤色、ハイアングルリング照明を青色として、カラーカメラで撮像して、第1画像を得る。第1画像中で、反対面の面内はハイアングルリング照明からの光の反射によって青く写る。これによって検査領域が明確になり、青く写った領域内にキズ、異物等があるとローアングルリング照明からの光の反射によって赤く写るので、欠点を容易に検出することができる。
【0036】
さらに、第1画像には、反対面の外周線が、ローアングルリング照明からの光の反射によって赤く写る。物品の形状によっては、第1画像に保持面の外周線が写ることがあるが、これについては後述する。
図2の物品では、反対面の外周線は物品の外周線と一致する。この外周線を色分解によって抽出して、物品の外形と向きを認識(算出)することができる。
図7Aに抽出した外周線の例を示す。
【0037】
物品の外形と向きの認識は、例えば、次のように行うことができる。まず、外周線を、その変化量から、直線部と角部に分類する。具体的には、
図7Bにおいて、外周線の傾きの変化の小さい部分を直線部(94a〜94d)とし、変化の大きい部分を角部(95a〜95d)として分別する。次いで、直線部について、最小二乗法により近似直線を作成して、物品の保持中心Oからその近似直線に垂線を下し、垂線の長さと角度を算出する。一方、角部について、保持中心からの距離が最長となる点と保持中心を結んだ直線の長さと角度を算出する。ここで、物品の保持中心とは、画像中で保持装置の中心軸のある所をいい、保持装置を回転させるときの回転中心となる。
【0038】
本実施形態の検査方法は、物品の外形および向きを認識するに当たりCADデータ等の物品の設計データを利用することを排除するものではない。例えば、物品のCADデータを利用すれば、第1画像から抽出した外周線との比較によって物品の向きを認識し、その後の側面とカメラとの距離をCADデータに基づいて調節することができる。しかし、検査対象となる物品が多岐にわたる場合に、すべての物品について大量のデータを登録することには手間がかかる。上記のように、第1画像から物品の外形および向きを取得することができれば、CADデータの登録が不要となるか、少なくともCADデータのごく一部(例えば物品の厚さ)を利用するだけで、後の第2撮像工程で撮像する側面に確実にピントを合わせることができる。
【0039】
次いで、第1画像から認識した物品の外形と向きに基づいてロボットアームを動作させ、物品の姿勢を調節して側面をカメラに向け、物品とカメラとの距離を当該側面にピントが合うように調節して撮像する(第2撮像工程)。
図4はこの第2撮像工程を示している。
【0040】
そして得られた画像から、側面のキズ、異物等の欠点の有無を判定する。第2撮像工程で得られた画像でも、ハイアングルリング照明からの光の反射によって側面が青く写るので検査領域が明確になる。検査領域を明確にする方法として予め検査領域を登録しておくこともできるが、その場合は、物品やカメラの若干の傾き等によって、検査領域の周縁部で登録された領域と実際の画像上の領域にズレが生じることがある。本実施形態では、実際に撮像された画像上で検査領域が青く示されるため、そのような不都合が起こらない。
【0041】
第2撮像工程は、保持装置を回転させながら必要に応じて繰り返される。例えば、
図7に示した物品に対しては、側面のうちの平面部94a、稜部95a、平面部94b、稜部95b、平面部94c、稜部95c、平面部94d、稜部95d、に対して、第2撮像工程を8回繰り返すことによって、物品の側面全体を検査することができる。
【0042】
保持装置を回転させる方法は、保持装置自体に回転機構を組み込んでもよいし、よし好ましくは、多関節ロボットアームの動作により保持装置を回転させる。多関節ロボットアームの動作によって保持装置を回転させれば、保持装置に回転機構が不要となり、保持装置をより小さく形成することができる。
【0043】
次いで、すべての検査が終了した後、多関節ロボットアームを動作させて、物品をパレット等の上に解放して、積み付ける。なお、物品の保持面を検査するためには、例えば、第2撮像工程の後で物品を一旦台の上に置いて、反転させて、再度保持装置で元の反対面を保持して取り上げればよい。
【0044】
以上のとおり、本実施形態の物品検査方法によれば、物品の姿勢を変えながら側面を検査する場合にも、当該側面に確実にピントを合わせることができる。これに対して、第1撮像工程から第2撮像工程、あるいは一つの側面に対する第2撮像工程から他の側面に対する第2撮像工程に移行する際に、単に保持中心を一定の位置にして物品の向きを変えるだけでは、ピントが合わないことがあった。この現象は、物品が扁平であったり、細長かったりすると、特に起こりやすい。そのような物品では、物品の姿勢によって、保持中心と表面との距離が大きく異なるからである。そのため、物品の形状によっては、検査を完全には自動化できないこともあった。本実施形態の物品検査方法によれば、物品の形状に依らず、検査すべき表面に確実にピントを合わせることができる。
【0045】
本実施形態の検査方法または装置は片状や細長い物品に対して特に有用である。
図8に物品の外形寸法を示す。3つの外形寸法X、Y、Zは、それぞれ直交する方向への大きさである。本実施形態の検査方法または装置の効果が顕著に得られるという観点からは、物品のX、Y、Zのうちいずれか2つの比が、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.5以上である。
【0046】
ここで、特殊な形状の物品への対応について、いくつかの例を説明する。なお、
図9と
図10ではカメラと照明は省略した。
【0047】
図9に示すように、物品90の保持面91と反対面92が平行でない場合、第1撮像工程において、保持面をカメラ軸に垂直にして反対面をカメラに向けると、反対面の全体にピントが合わないことがある。このとき、保持面91と反対面92の成す角度が予め分かっていれば、反対面がカメラの軸に垂直となるように姿勢を調節することができる。保持面と反対面の成す角度を予め知り得ない場合は、予備的に1以上の方向から側面を撮像して、当該角度のおおよその大きさを求めてもよい。
【0048】
図10に示すように、物品90が角錐台状等で、保持面91と反対面92の大きさが異なる場合は、第1撮像工程において、反対面と保持面の外周線が第1画像に現れることがある。その場合は、両方の外周線を抽出して形状を認識してもよいし、反対面の外周線だけ、または保持面の外周線だけを抽出してもよい。例えば、反対面の外周のみを抽出して、その外形と向きを認識し、さらに物品を側方から撮像して側面と反対面の成す角度を求めてもよい。その後は、側面93がカメラの軸に略垂直になるように、物品の姿勢を調節することができる。
【0049】
図11に示すように、第1画像における外周線に直線部がない場合は、外周線を複数の角部に分割することができる。このとき、いくつの部分に分割するかは、各角部を撮像するときにその角部全体がピントの合う範囲に収まるように決定することができる。
図11では、円周である外周線を8つの角部に分割している。
【0050】
次に、上記実施形態の保持装置について、
図3および
図12〜15に基づいて詳細に説明する。
【0051】
図3において、スリーブ30は、非磁性材からなる。非磁性材としては、プラスチック、銅、アルミニウム等を用いることができる。なかでも、プラスチックを用いることが好ましい。スリーブの開口端31が物品に当接するときに、物品を傷つけにくいからである。
【0052】
また、スリーブ開口端31には、物品のずれを抑制するためにすべり止め部を設けてもよい。すべり止め部は、例えば、厚さ0.1mm〜0.3mm程度のゴムや樹脂製の弾性体シートを開口端31に貼着して形成することができる。
【0053】
スリーブ30の形状は特に限定されないが、円筒形であることが好ましい。吸着した物品の向きによらず、物品の輪郭からはみ出しにくく、撮像時に邪魔になりにくいからである。
図6に示す第1撮像工程において、スリーブが物品の輪郭からはみ出して第1画像に写り込むと、外周線抽出の際に邪魔になる。また、
図4に示す第2撮像工程において、スリーブが物品の輪郭からはみ出していると、検査すべき側面に照明の影ができるので、好ましくない。
図15において、スリーブ30の断面が円形の場合は、その直径が物品90の輪郭の最大内接円98より小さいことが好ましい。多くの種類の物品に対して利用可能であるために、保持装置のスリーブの径は、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは30mm以下であり、特に好ましくは20mm以下である。
【0054】
また、
図4に示す第2撮像工程において、スリーブ30の長さは、ローアングルリング照明72の半径より長いことが好ましい。一般的なローアングルリング照明の半径が50〜100mm程度であることを考慮すると、スリーブの長さは、好ましくは50mm以上であり、より好ましくは75mm以上であり、特に好ましくは100mm以上である。
【0055】
図3に戻り、エアシリンダー35は、本体36がフランジ38を介してスリーブ30に固定されている。エアシリンダーをフランジに固定する方法およびスリーブを固定する方法は、ねじ留め等公知の方法を用いることができる。また、フランジを用いず、エアシリンダー本体を直接スリーブに固定してもよい。本体36がスリーブに固定されていることによって、エアシリンダーが伸縮すると、スリーブ内に収容された可動ロッド37がスリーブに対して相対的に、その軸方向に直線運動することができる。
【0056】
エアシリンダー35はリニアアクチュエーターの一種である。リニアアクチュエーターは、種々のエネルギーを直線運動に変換する装置である。リニアアクチュエーターとしては、エアシリンダーの他に、油圧シリンダー、電動シリンダー、リニアモーターを用いたもの、モーターの回転運動を運動変換機構により直線運動に変換するものを用いることができる。なかでも、小型化が可能で、精確な制御が容易であることから、エアシリンダーを用いるのが好ましい。
【0057】
磁石ユニット41は、可動ロッド37の先端に固定されている。これにより、エアシリンダー35が伸縮すると、可動ロッドの直線運動に伴って、磁石ユニットがスリーブ30内面に案内されてスリーブの軸方向に直線運動する。
【0058】
磁石ユニット41は、1個の永久磁石、または少なくとも1個の永久磁石を含む複数の磁性部材の組み合わせによって構成されている。磁石ユニットの前方端面47が第1磁極(例えばN極)であり、反対側の後方端面48が第2磁極(例えばS極)である。このように開口32に面して磁極を形成することにより、磁石ユニットの前方端面から出る磁束密度が大きくなり、強い吸着力が得られる。
【0059】
磁石ユニット41は、本実施形態では2つの部材からなる。前方の部材は永久磁石51である。後方の磁性部材61は、永久磁石であっても軟質磁性材からなる軟質磁性部材であってもよい。軟質磁性材としては、透磁率の高い、鉄などの各種公知の材料を用いることができる。好ましくは、磁石ユニットの最も前方にある部材は永久磁石である。これにより、より強い吸着力が得られるからである。
【0060】
なお、磁石ユニットの構成は、
図3のものに限られない。例えば、
図12Aに示すように、磁石ユニット42が単一の永久磁石52からなるものであってもよい。また、例えば、
図12Bに示すように、磁石ユニット43は、前方に軟質磁性部材63を配置し、後方に永久磁石53を配置してもよい。
【0061】
永久磁石51としては、磁力の強いものを用いることが好ましい。これにより、より多種の材質からなる物品を吸着できるからである。永久磁石は、好ましくはNd−Fe−B系の磁石(ネオジム磁石)である。あるいは、永久磁石の種類に関わらず、磁石ユニット41の前方端面47における磁束密度が、好ましくは300mT以上であり、より好ましくは400mT以上であり、特に好ましくは500mT以上である。これにより、一般的な磁石に吸着されないオーステナイト系のステンレス鋼からなる物品や、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガンなどを成分として含む多くの合金からなる物品を吸着することができる。また、強い磁力で強力に保持することで、微小な物品を高速に搬送できる。なお、入手の容易さの点からは、永久磁石の磁束密度は700mT以下であることが好ましい。
【0062】
磁石ユニット41をエアシリンダーの可動ロッド37の先端に固定する方法は特に限定されず、接着剤を用いて接着する方法や、ねじ等を用いた機械的な方法などを用いることができる。
【0063】
磁石ユニット41を構成する部材同士の接合方法も特に限定されない。
図3では、前方にある永久磁石51は、後方に隣接する磁性部材61に、磁力により吸着されて結合している。この構造を採用するためには、磁石ユニットと物品との吸着力に比べて、永久磁石と磁性部材との吸着力が格段に大きい必要がある。例えば、永久磁石がNe−Fe−B系磁石で、物品が一般的な磁石に着かないものなら、永久磁石と磁性部材の吸着力が格段に大きいので、この構造を採用することができる。この構造により、永久磁石51の交換を極めて容易に行うことができる。
【0064】
永久磁石51の大きさは、強い磁力が得られるという点からは、大きい方が好ましい。一方、微小な物品を対象とする本実施形態の保持装置では、保持装置自体も小型であることが望ましく、スリーブの軸に垂直な断面における外径は、好ましくは40mm以下であり、より好ましくは20mm以下である。実際には、物品の種類やハンドリングの内容に応じて、所要の吸着力を得るための磁石の種類・サイズ等を決め、磁石の外形に合わせてスリーブを選択することになろう。永久磁石のスリーブ軸方向への長さは特に限定されない。磁石が長いほど磁力が強くなるので、必要に応じて適当な長さのものを選択することができる。
【0065】
本実施形態では、永久磁石51は環状である。物品の吸着面に穴が存在する場合、磁石ユニットの最も前方にある部材が環状または筒状であると、この形状が、物品の磁気的な位置決め手段として作用する。以下に説明する。
【0066】
物品を磁石に吸着させる場合、磁石からでる磁力線がなるべく物品内を通るように、物品が位置や向きを変えようとする力が働く。微小な部品には固定のために穴が形成されているものが多い。そして、吸着時に位置や向きを変えようとする傾向は、物品の吸着面に物品を貫通する穴が形成されていると、特に顕著になる。
【0067】
図13Aに穴97が形成された物品90の平面図を示す。このような物品を、穴のない磁石、例えば円柱状の磁石50に吸着させる場合、吸着の瞬間に物品が動いて、位置がずれたり向きが変化しやすい(
図13Bから
図13Cへの変化)。また、一旦吸着しても、搬送中に物品が動きやすく、物品を解放する瞬間にも物品が動きやすい。この現象は、穴57のある環状や筒状の磁石51を用いた場合にも起こり得る(
図13Dから
図13Eへの変化)。しかし、磁石の穴57を物品の穴97と同心にして、吸着面に垂直に磁石を近づけて、一旦吸着がされると、物品の位置および向きが安定する(
図13F)。本実施形態の保持装置では、永久磁石51の穴と物品の穴が同心になるように物品をスリーブで押さえながら、磁石ユニット41を近づけて吸着することができるので、以後は、搬送中にも物品が動きにくい。高速搬送による物品のずれを抑制するには、前述のとおり、スリーブ開口端31にすべり止め部を設けることが好ましい。
【0068】
次に、本実施形態の保持装置の動作を
図14に基づいて説明する。
【0069】
図14Aにおいて、永久磁石51の穴57と物品90の穴97が同心になるように、保持装置11を物品の一主面である保持面91に正対させる。このとき、磁石ユニットは、スリーブ内に後退した位置にある。
【0070】
次いで、
図14Bにおいて、保持装置を物品に近づけて、スリーブの開口端31を物品の保持面91に当接させる。保持装置をロボットアーム等によって操作する場合は、ロボットの目となるカメラで物品の位置を確認ながら保持装置の姿勢・位置を調整することにより、正確な動作が可能である。
【0071】
次いで、
図14Cにおいて、エアシリンダーを伸ばし、可動ロッド37と磁石ユニット41を前進させて物品90に吸着させる。このとき、スリーブ開口端で物品を押さえたまま、磁石ユニットを近づけていくので、吸着の瞬間に物品が動くことがない。また、点ではなく、開口端の円周全体で物品押さえるので、吸着の瞬間に物品が回転することもない。なお、磁力が強い場合は、磁石ユニットの前方端面47がスリーブの開口端31よりわずかに引っ込んだ位置で、十分な吸着力が得られる。その場合は、磁石ユニットの前方端面が物品90に接触する直前で止めてもよい。エアシリンダーによって精確な位置送りができるため、このような制御も可能である。
【0072】
次いで、
図14Dにおいて、物品を保持した状態で、保持装置を移動させることができる。このときも、スリーブ開口端31が物品に接触した状態を保つことが好ましい。ロボットアームなどを用いて保持装置を移動させる場合には、物品に大きな力が作用することがある。スリーブ開口端を物品に当接した状態を保つことにより、搬送中の物品の位置ずれ、向きの変化(軸に垂直な面内での回転)を防止することができる。特に、本実施形態の外観検査で保持装置を用いる場合、タクトタイムを短縮するために可能な限りの高速搬送が求められる。そのため、実際のロボットアームの移動速度は2500mm/秒、加速度は2.5Gに達することがある。このような場合でも、本実施形態の保持装置を用いることで安定した物品のハンドリングが可能となる。
【0073】
保持装置11が物品を解放する動作は、上記吸着動作と反対である。まず、物品を所要の位置に置く(
図14C)。次いで、物品にスリーブ開口端を当接させたまま、磁石ユニットを後退させる(
図14B)。このとき、スリーブ開口端で物品を押さえたまま磁石ユニットを後退させるので、磁石ユニットを離す瞬間に物品が動くことが起こりにくい。次いで、磁石ユニットを完全に後退させた後、保持装置を物品から離して、物品を解放する(
図14A)。
【0074】
本実施形態の保持装置が本実施形態の検査方法に適する理由を改めて説明する。
【0075】
微小物品の保持装置としては、例えば、三つ爪などのチャックで物品を把持するものも用いられる。しかし、かかる保持装置では、物品の撮像時に、検査しようとする面の一部を爪が隠してしまうので、好ましくない。また、他の微小物品の保持装置としては、物品をノズルに真空吸着するものも用いられる。しかし、かかる保持装置では、物品の吸着面に溝・突条等の凹凸があったり、物品を貫通する穴が存在するような場合には使用することができず、保持できる物品の形状に制限がある。
【0076】
また、本実施形態の保持装置によれば、スリーブを物品に当接させて、物品を押さえながら、磁石を吸着させるので、吸着時に物品が動いて位置がずれたり向きが変化することが起こりにくい。このとき、円形のスリーブ開口端で物品を押さえるので、ピンなどにより1点で押さえる場合よりも、物品が回転しにくい。物品が磁石ユニットに吸着した後も、スリーブ開口端を物品に接触した状態を維持することにより、搬送中にも物品がずれたり、回転したりしにくい。物品を解放するときは、スリーブで物品を押さえながら磁石を離脱させるので、離脱の瞬間に物品が動くことが起こりにくい。その結果、正確な位置に物品を解放することができる。
【0077】
さらに、本実施形態の保持装置では、磁石ユニットの前方端面に環状の永久磁石51が配置されているので、穴が形成された物品に対して、位置決め効果が得られる。すなわち、スリーブで物品を押さえながら磁石を吸着させるので吸着の瞬間に物品が動くことがなく、永久磁石51の穴と物品の穴を同心にして、磁石ユニットを吸着させることができる。そして、2つの穴が同心になって吸着が完了すると、以後は、搬送中に物品の位置がずれたり、向きが変わったりすることが起こりにくい。物品の解放時にも、物品が動きにくい。
【0078】
本発明の物品検査方法および装置は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0079】
例えば、上記実施形態では、ローアングル照明とハイアングル照明に異なる色を用いたが、その代わりに、ローアングル照明とハイアングル照明の色に関係なく、ローアングル照明とハイアングル照明を順次点灯させて、1台のカメラで2枚の画像を順次撮像してもよい。この場合でも、2枚の画像を重ね合わせることにより、ローアングル照明とハイアングル照明に異なる色の照明を用いた場合と同様の効果が得られる。さらに、2枚の画像を順次撮像する場合は、カメラとしてモノクロカメラを用いることができ、カラーカメラよりも高精細の画像を得ることができる。