特許第6650230号(P6650230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650230
(24)【登録日】2020年1月22日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性コート剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/06 20060101AFI20200210BHJP
   C09D 125/02 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   C09D4/06
   C09D125/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-171021(P2015-171021)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-48279(P2017-48279A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】592019589
【氏名又は名称】ダイセル・オルネクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】長川 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】大下 徹
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/125663(WO,A1)
【文献】 特開2001−247793(JP,A)
【文献】 特開2009−074079(JP,A)
【文献】 特開平05−169597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C23C
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系重合体(A)と、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)と、光開始剤(D)とを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物であって、
芳香族系重合体(A)が、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリビニルトルエン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、α−メチルスチレン−ビニルトルエン共重合体、及びスチレン−α−メチルスチレン−ビニルトルエン共重合体からなる群より選択される少なくとも1つであり、
芳香族系重合体(A)の重量平均分子量が300〜10000であり、
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分に対する、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)の含有量が、25〜90重量%である活性エネルギー線硬化性コート剤組成物(ただし、下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体と、密着付与樹脂とを含有する光硬化性樹脂組成物を除く)
【化1】
[R1およびR2は、それぞれ、HまたはCH3を表し、Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4〜8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【請求項2】
芳香族系重合体(A)の軟化点が5℃以上である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
【請求項3】
さらに、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)を含有する請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化性コート剤組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材に対して高い密着性を有するコート剤組成物としては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、又はこれらの変性樹脂等を主成分とする熱硬化性のコート剤組成物が知られているが、熱硬化には長時間を要するため生産性が悪く、耐熱性のない金属基材に対しては使用することができないという問題があった。
【0003】
そのため、近年では活性エネルギー線の照射によって速やかに硬化するコート剤組成物として、(メタ)アクリロイル基を有したモノマーと光重合禁止剤とを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が主に用いられている。さらに、金属基材との密着性を向上させることを目的として、リン酸変性エポキシ(メタ)アクリレートやリン酸変性(メタ)アクリレート等のリン酸変性させた(メタ)アクリレートを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−247155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来知られている活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は硬化時の塗膜収縮が大きいため、金属基材に対する密着性の観点からは満足し得るものではなかった。また、リン酸変性させた(メタ)アクリレートを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、その(メタ)アクリレートのTgが低いために、硬度(硬化性)が不十分であるといった問題や、リン酸によって金属基材の表面にサビが生じる等の問題を有していた。
【0006】
したがって、本発明の課題は、金属基材にサビを生じさせることなく、高い密着性及び硬化性を有する硬化物を与える活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を提供することにある。また、前記の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物より得られる硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の芳香族系重合体(A)、特定の4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)、及び光開始剤(D)を含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を金属基材に塗布して硬化させた場合、金属基材にサビが生じるなどの影響を与えず、基材(特に金属基材)と硬化物との密着性が良好であり、さらに硬化物の硬化性が良好であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を提供する。
[1]芳香族系重合体(A)と、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)と、光開始剤(D)とを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物であって、芳香族系重合体(A)の重量平均分子量が300〜10000であり、活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分に対する、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)の含有量が、25〜90重量%である活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
[2]芳香族系重合体(A)が、スチレン、α−メチルスチレン、及びビニルトルエンから選ばれる少なくとも1つに由来するモノマー単位を有する重合体である[1]に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
[3]芳香族系重合体(A)の軟化点が5℃以上である[1]又は[2]に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
[4]さらに、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)を含有する[1]〜[3]のいずれか1に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物。
[5][1]〜[4]のいずれか1に記載の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、金属基材に塗布して硬化させてもサビを生じさせることがなく、基材(特に金属基材)と硬化物との密着性が良好であり、さらに硬化物の硬化性が良好であるとする効果を奏する。また、本発明の硬化物は金属基材に対して高い密着性及び硬化性(硬度)を有するとする効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[活性エネルギー線硬化性コート剤組成物]
本発明は、特定の芳香族系重合体(A)と4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)と光開始剤(D)とを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に関するものである。また、本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、前記の成分以外にも1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)やその他の成分を含んでいても良い。なお、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)を、単に(メタ)アクリレート(B)と称することがある。また、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)を、単に(メタ)アクリレート(C)と称することがある。
【0011】
<芳香族系重合体(A)>
本発明の芳香族系重合体(A)は、重量平均分子量が300〜10000であることを特徴とする芳香族系重合体である。なお、芳香族系重合体とは、アリール基を側鎖に有するモノマー単位を少なくとも1種有する重合体を指す。
【0012】
アリール基を側鎖に有するモノマー単位としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、又はビニルトルエンに由来するモノマー単位が挙げられる。また、アリール基を側鎖に有するモノマー単位以外のモノマー単位としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、イソプレン、1,3−ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N−ビニルインドール、N−ビニルフタルイミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルカプロラクタム等に由来するモノマー単位が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれか一方又は両方を意味するものとする。
【0013】
芳香族系重合体(A)としては、例えば、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリビニルトルエン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、α−メチルスチレン−ビニルトルエン共重合体、及びスチレン−α−メチルスチレン−ビニルトルエン共重合体が挙げられる。なお、芳香族系重合体(A)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0014】
芳香族系重合体(A)の市販品としては、例えば、ピコラスチックA5(ポリスチレン、軟化点5℃、重量平均分子量350)、ピコラスチックA−75(ポリスチレン、軟化点74℃、重量平均分子量1300)、ピコテックス75(ビニルトルエンとα−メチルスチレンの共重合体、軟化点75℃、重量平均分子量1100)、ピコテックスLC(ビニルトルエンとα−メチルスチレンの共重合体、軟化点91℃、重量平均分子量1350)、クリスタレックス3070(ポリα−メチルスチレン、軟化点70℃、重量平均分子量950)、クリスタレックス3085(ポリα−メチルスチレン、軟化点85℃、重量平均分子量1150)、クリスタレックス3100(ポリα−メチルスチレン、軟化点100℃、重量平均分子量1500)、及びクリスタレックス5140(ポリα−メチルスチレン、軟化点139℃、重量平均分子量4900)等のEASTMAN社製の芳香族系重合体や、ハイマーST−95(ポリスチレン、軟化点95℃、重量平均分子量4000;三洋化成工業製)、YSレジンSX−100(ポリスチレン、軟化点100℃、重量平均分子量2500;ヤスハラケミカル社製)を用いることができる。
【0015】
芳香族系重合体(A)の軟化点は特に限定されないが、例えば、5℃以上であることが好ましく、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。芳香族系重合体(A)の軟化点が上記範囲であることで、硬化物が高い硬化性を有することとなる。
【0016】
芳香族系重合体(A)に含まれるアリール基を側鎖に有するモノマー単位の割合は特に限定されないが、芳香族系重合体に含まれる全モノマー単位の60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、最も好ましくは98重量%以上である。特に、スチレン、α−メチルスチレン及びビニルトルエンに由来するモノマー単位の割合は特に限定されないが、芳香族系重合体に含まれる全モノマー単位の60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、最も好ましくは98重量%以上である。
【0017】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分に対する、芳香族系重合体(A)の含有量は特に限定されないが、25〜75重量%であることが好ましく、より好ましくは25〜60重量%である。なお、樹脂分とは本発明の組成物に含まれる重合体と活性エネルギー線硬化性化合物(の総量)を指し、例えば、芳香族系重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)、及び(メタ)アクリレート(C)(の総量)を指す。芳香族系重合体(A)の含有量が上記範囲内であることで、基材(特に金属基材)との密着性が良好となる。
【0018】
芳香族系重合体(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは300〜10000であり、より好ましくは300〜8000、さらに好ましくは300〜5000である。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、基材(特に金属基材)との密着性が向上する。なお、重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により、標準ポリスチレン換算の値として測定することができる。
【0019】
<4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)>
本発明の(メタ)アクリレート(B)は、4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、4〜8個の(メタ)アクリロイル基を有するものであってもよい。(メタ)アクリレート(B)としては、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多価アルコール(脂肪族多価アルコール、又は脂環式多価アルコール等)の(メタ)アクリレート;4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーが挙げられる。また、(メタ)アクリレート(B)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分に対する、(メタ)アクリレート(B)の含有量は、25〜90重量%であればよいが、より好ましくは25〜80重量%である。(メタ)アクリレート(B)の含有量が上記範囲内であることで、基材(特に金属基材)との密着性が良好となる。なお、樹脂分とは上述した通りである。
【0021】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる芳香族系重合体(A)と(メタ)アクリレート(B)との比率(重量比)は、前者:後者=10:90〜80:20であることが好ましく、より好ましくは20:80〜70:30、さらに好ましくは30:70〜60:40である。
【0022】
<1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)>
本発明の(メタ)アクリレート(C)は、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートであれば特に限定されないが、2又は3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートであることがより好ましい。活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に(メタ)アクリレート(C)が含まれる場合、硬化物の基材(特に金属基材)との密着性がより向上する。
【0023】
(メタ)アクリレート(C)としては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の1個の(メタ)アクリロイル基を有し、且つ芳香族炭素環を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の1個の(メタ)アクリロイル基を有し、且つ脂環骨格を有する(メタ)アクリレート;ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の1個の(メタ)アクリロイル基を有するラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルモルフォリン等の1個の(メタ)アクリロイル基を有し、且つ複素環を有する(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価アルコール(脂肪族多価アルコール、脂環式多価アルコール等)の(メタ)アクリレート;1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーが挙げられる。なお、(メタ)アクリレート(C)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0024】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物が(メタ)アクリレート(C)を含む場合、前記組成物に含まれる樹脂分に対する、(メタ)アクリレート(C)の含有量は、1〜55重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜45重量%である。なお、樹脂分とは上述した通りである。
【0025】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物が(メタ)アクリレート(C)が含む場合、芳香族系重合体(A)と(メタ)アクリレート(C)との比率(重量比)は、前者:後者=20:80〜90:10であることが好ましく、より好ましくは25:75〜80:20、さらに好ましくは30:70〜70:30である。
【0026】
<光開始剤(D)>
光開始剤(D)としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフインオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノンなどが挙げられる。なお、光開始剤(D)は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0027】
活性エネルギー線硬化性コート剤組成物中の樹脂分(100重部)に対する、光開始剤(D)の含有量は、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜8重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。なお、樹脂分とは上述した通りである。
【0028】
<その他の成分>
本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、上述の成分以外にも、有機溶剤、着色剤(例えば、染料等)等の成分(以下、その他の成分と称する)をさらに含んでいてもよい。これらその他の成分の含有量(配合量)は特に限定されず、活性エネルギー線硬化性コート剤組成物において通常用いられる量から適宜設定できる。
【0029】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、リン酸変性させた(メタ)アクリレート(例えば、リン酸変性エポキシ(メタ)アクリレートやリン酸変性(メタ)アクリレート等)を含んでいても良いが、実質的に含んでいないことが好ましい。具体的には、活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分に対する、リン酸変性させた(メタ)アクリレートの含有量が1重量%以下であればよいが、より好ましくは0.1重量%以下であり、さらに好ましくは0.01重量%以下である。
【0030】
有機溶剤としては、活性エネルギー線硬化性コート剤組成物において通常用いられる有機溶剤を使用することができ、特に限定されないが、グリコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、これらを含む混合溶剤等が挙げられる。なお、本発明の組成物において有機溶剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、本発明の組成物における有機溶剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、例えば、活性エネルギー線硬化性コート剤組成物に含まれる樹脂分100重量部に対して0〜1000重量部、好ましくは20〜500重量部、より好ましくは30〜300重量部である。
【0031】
本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、該組成物を構成する成分を混合することによって得ることができる。例えば、芳香族系重合体(A)と(メタ)アクリレート(B)と、必要に応じて(メタ)アクリレート(C)とを混合させ、得られた溶液に光開始剤(D)を添加する方法により組成物を得ることができる。また、芳香族系重合体(A)と(メタ)アクリレート(B)と、必要に応じて(メタ)アクリレート(C)とを有機溶剤に溶解し、得られた溶液に光開始剤(D)を添加する方法により組成物を得ることができる。
【0032】
[硬化物]
本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、基材(特に金属基材)に塗布した後に硬化することによって硬化物とすることができる。なお、前記の硬化物を活性エネルギー線硬化性コート剤組成物の硬化物と称することがある。より具体的には、本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を基材上に塗布し、必要に応じて乾燥させて塗膜を形成した後、光エネルギー線による硬化を行うことで基材の表面に硬化塗膜を形成することができる。
【0033】
金属基材としては特に限定されないが、例えば、ステンレス製の基材、アルマイト処理がされた金属基材、クロムメッキがなされた金属基材等を使用することができる。本発明の活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は多種多様な金属基材に用いることが可能であって、密着性に優れると共に良好な硬化性を示す。
【0034】
塗布の方法は、特に限定されず、エアレススプレー、エアスプレー、ロールコート、バーコート、グラビアコート、ダイコート等の公知乃至慣用の手段を利用して実施できる。
【0035】
上記塗膜の露光には、種々の波長の光線(例えば、紫外線、X線、電子線等)が使用できる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0037】
[活性エネルギー線硬化性コート剤組成物の調製]
(実施例1)
芳香族系重合体(A)として40重量部のピコラスチックA−75と、(メタ)アクリレート(B)として60重量部のEBECRYL140とを混合し、得られた溶液に光開始剤(D)として3.0重量部のIRGACURE184を添加して活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0038】
(実施例2)
表1に記載された配合量としたこと以外は実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0039】
(実施例3)
芳香族系重合体(A)としてピコテックスLCを用いたこと以外は実施例2と同様の調製方法により活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0040】
(実施例4)
芳香族系重合体(A)としてクリスタレックス3100を用いたこと以外は実施例2と同様の調製方法により活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0041】
(実施例5)
芳香族系重合体(A)として40重量部のピコラスチックA−75と、(メタ)アクリレート(B)として40重量部のEBECRYL140と、(メタ)アクリレート(C)として20重量部のペンタエリスリトールトリアクリレートとを混合し、得られた溶液に光開始剤(D)として3.0重量部のIRGACURE184を添加して活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0042】
(実施例6)
表1に記載された配合量としたこと以外は実施例5と同様にして活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0043】
(実施例7)
芳香族系重合体(A)としてピコテックスLCを用いたこと以外は実施例6と同様の調製方法により活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0044】
(実施例8)
芳香族系重合体(A)としてクリスタレックス3100を用いたこと以外は実施例6と同様の調製方法により活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0045】
(比較例1)
表1に記載された配合量としたこと以外は実施例5と同様にして活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0046】
(比較例2)
EBECRYL140をペンタエリスリトールトリアクリレートとしたこと以外は実施例2と同様にして活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0047】
(比較例3)
50重量部のピコラスチックA−75と、40重量部のペンタエリスリトールトリアクリレートと、10重量部のEBECRYL168を混合し、得られた溶液に2.0重量部のIRGACURE184を添加して活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を調製した。
【0048】
以下に、実施例及び比較例で用いられた成分の詳細について説明する。
<芳香族系重合体(A)の説明>
ピコラスチックA−75(A−75):ポリスチレン、EASTMAN社製、軟化点74℃、重量平均分子量1300
ピコテックスLC(LC):ビニルトルエンとα−メチルスチレンの共重合体、EASTMAN社製、軟化点91℃、重量平均分子量1350
クリスタレックス3100(3100):ポリα−メチルスチレン樹脂、EASTMAN社製、軟化点91℃、重量平均分子量1350
<(メタ)アクリレート(B)の説明>
EBECRYL140(EB140):ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、分子量466
<(メタ)アクリレート(C)の説明>
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETRA):分子量298
【0049】
<リン酸含有メタクリル化合物の説明>
EBECRYL168(EB168):リン酸変性メタクリレート
【0050】
<光開始剤(D)の説明>
IRGACURE184(IRG184):1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASFジャパン(株)製
【0051】
[評価方法の説明]
実施例及び比較例で得られた組成物を用いて評価試験用基材を作製し、下記で示す測定方法に基づいて、塗膜ヘイズ、鉛筆硬度、各種金属基材への密着性等の評価(初期密着性、加熱試験後の密着性、加熱試験後の外観)を行った。
【0052】
(評価試験用基材の作製)
実施例及び比較例で得られた活性エネルギー線硬化性コート剤組成物を、硬化後の塗膜の厚さが15ミクロンになるように、PET製の基材、ステンレス製の基材(ステンレス基材と称する)、アルマイト処理がされた金属基材(アルマイト基材と称する)、又はクロムメッキがなされた金属基材(クロムメッキ基材と称する)に塗布した後、紫外線照射(高圧水銀灯、2kW、ラインスピード:4m/min、照射回数:2回、積算光量:800mJ/cm2)を行い、表面に硬化塗膜を有する評価試験用基材を作製した。
【0053】
(塗膜ヘイズ)
上記操作で得られた、表面に硬化塗膜を有するPET製の基材を用いてヘイズ値(%)を算出し、その結果を表1に記載した。なお、ヘイズ値は、Haze Meter(型式:NDH2000、日本電色社製)を用いて測定した。
【0054】
(鉛筆硬度)
上記操作で得られた表面に硬化塗膜を有するステンレス基材を用い、JIS K−5600に準じて鉛筆硬度を測定し、その結果を表1に記載した。
【0055】
(初期密着性)
上記操作で得られた、表面に硬化塗膜を有するステンレス基材、アルマイト基材、又はクロムメッキ基材を用いて初期密着性を測定し、それぞれの結果を表1に記載した。なお、初期密着性は、JIS K 5400 8.5.2に準じた碁盤目テープ法にて測定した。具体的には、評価試験用基材の表面の硬化塗膜に縦横1mm間隔で切れ込みを入れ、100マスの碁盤目状の切り傷を付けた後に、粘着テープを貼って剥がした。剥がした後の塗膜の付着状態を目視によって観察し、以下の様に判断した。
100マスのうち剥がれが 0 マスの場合:密着性が良好である(4)
100マスのうち剥がれが 1 〜 10 マスの場合:密着性が普通である(3)
100マスのうち剥がれが 11 〜 20 マスの場合:密着性が少し悪い(2)
100マスのうち剥がれが 21 マス以上の場合:密着性が悪い(1)
【0056】
(加熱試験後の密着性)
上記操作で得られた、表面に硬化塗膜を有するステンレス基材、アルマイト基材、又はクロムメッキ基材を70mm×150mmの試験片とし、沸騰水(100℃)で満たしたバットに前記の試験片の半分を浸漬させるとともに室温で30分放置し、その後取り出した(これらを「加熱試験後の評価試験用基材」と称する)。さらに、前記の加熱試験後の評価試験用基材を用いたこと以外は初期密着性の評価と同様に密着性を測定し、その結果を表1(加熱試験後の密着性)に記載した。
【0057】
(加熱試験後の外観)
加熱試験後の評価試験用基材の外観を確認し、その結果を表1に記載した。なお、外観が良好であるか否かについては、以下の様に判断した。
目視による硬化塗膜の白化度合いが1割未満のもの:外観が良好である(3)
目視による硬化塗膜の白化度合いが1割以上5割未満のもの:外観が普通である(2)
目視による硬化塗膜の白化度合いが5割以上のもの:外観が悪い(1)
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1〜8と比較例1〜3に示される様に、芳香族系重合体(A)と、(メタ)アクリレート(B)と、光開始剤(D)とを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、多様な金属基材に対して良好な密着性を有する、硬化性が良好な(硬度の高い)硬化物を与えることが明らかとなった。また、実施例5〜8と比較例1に示される様に、芳香族系重合体(A)と、(メタ)アクリレート(B)と、(メタ)アクリレート(C)と、光開始剤(D)とを含有する活性エネルギー線硬化性コート剤組成物は、アルマイト基材との密着性だけで無く、ステンレス基材、又はクロムメッキ基材との密着性が高い硬化物を与えること、さらに、硬化物のヘイズ値が低減できることが明らかとなった。