特許第6650301号(P6650301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650301
(24)【登録日】2020年1月22日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】X線分光偏光計
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/06 20060101AFI20200210BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20200210BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   G21K1/06 M
   G21K1/06 B
   G01T7/00 A
   G01T1/36 D
   G21K1/06 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-48851(P2016-48851)
(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2017-161480(P2017-161480A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 亮
(72)【発明者】
【氏名】坪井 陽子
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 Ryo Iizuka, et al.,"Reflectivity and polarization sensitivity of a bent crystal with DLC deposition",PROCEEDINGS OF SPIE 7732, Space Telescopes and Instrumentation 2010,2010年 7月29日,Ultraviolet to Gamma Ray,77324R,URL,https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/7732/77324R/Reflectivity-and-polarization-sensitivity-of-a-bent-crystal-with-DLC/10.1117/12.857965.full
【文献】 Kota Okada, et al.,"Development of bent crystal for imaging polarimetry",PROCEEDINGS OF SPIE 8443, Space Telescopes and Instrumentation 2012,2012年 9月17日,Ultraviolet to Gamma Ray,84434L,URL,https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/8443/84434L/Development-of-bent-crystal-for-imaging-polarimetry/10.1117/12.926053.full
【文献】 Ryo Iizuka, et al.,"Development of X-ray spectroscopic polarimetry with bent Si crystals and CFRP substrate",PROCEEDINGS OF SPIE 9905, Space Telescopes and Instrumentation 2016,2016年 7月18日,Ultraviolet to Gamma Ray,99055E,URL,https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/9905/99055E/Development-of-X-ray-spectroscopic-polarimetry-with-bent-Si-crystals/10.1117/12.2231166.full
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/06
G01T 1/36
G01T 7/00
G02B 5/08
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分光偏光計であって、
表面が凹状の反射面をなす湾曲結晶を有する反射鏡と、
前記反射面に対向して配置され、X線を検出するように構成された、検出器と、
前記検出器による検出結果に基づき、前記X線の分光情報及び偏光情報を出力する、出力手段と、
を備え、
前記反射面の形状は、回転面形状に沿っており、
前記回転面形状は、前記反射鏡に対して前記検出器側にある軸線を含む仮想平面内において軸線方向の一方側から他方側に向かうにつれて徐々に前記軸線に近づくように湾曲した曲線を、前記軸線を中心として回転させてなる形状であり、
前記検出器は、前記反射面に前記軸線方向に入射して前記反射面により反射されるX線が、デフォーカス状態で前記検出器に入射する位置に、配置されている、X線分光偏光計。
【請求項2】
前記回転面形状は、前記軸線を対称軸とする放物線を、前記軸線を中心として回転させてなる、回転放物面形状であり、
前記検出器は、前記回転放物面形状の焦点よりも前記反射面の近くに配置されている、請求項1に記載のX線分光偏光計。
【請求項3】
前記反射鏡は、前記軸線に垂直な仮想平面内での円周方向に沿って配列されてそれぞれの前記検出器側の表面が前記反射面をなす、複数の湾曲結晶を有している、請求項1又は2に記載のX線分光偏光計。
【請求項4】
前記反射鏡は、前記検出器側の面が前記回転面形状に沿った形状からなるCFRP製の土台をさらに備え、
前記湾曲結晶は、Si結晶又はGe結晶からなり、前記土台における前記検出器側の面に固定されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のX線分光偏光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分光偏光計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、X線用の光学素子として、結晶基板上に炭素系材料を直接蒸着して、結晶基板を湾曲させることにより製造される、湾曲結晶が知られている(例えば、特許文献1)。この湾曲結晶は、製造時において結晶基板と炭素系材料の膜との間に発生する残留応力によって、円筒形状に沿う形状に湾曲されてなるものである。円筒形状に沿う形状に湾曲した湾曲結晶は、平坦状の結晶に比べて、平行に入射するX線を反射させられるX線のエネルギー幅が広い等といった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-9131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した円筒形状に沿う形状に湾曲した湾曲結晶は、X線観測用の光学素子として用いる場合、一度に観測できる情報が限られる等の課題があり、さらなる改良が求められていた。
本発明の発明者らは、湾曲結晶の湾曲形状をさらに改良するとともに、湾曲結晶とX線検出器との位置関係についても試行錯誤を重ねた結果、X線の分光及び偏光観測を同時に行うことのできるX線分光偏光計を得るに至った。
【0005】
本発明は、X線の分光及び偏光観測を同時に行うことのできるX線分光偏光計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のX線分光偏光計は、
表面が凹状の反射面をなす湾曲結晶を有する反射鏡と、
前記反射面に対向して配置され、X線を検出するように構成された、検出器と、
前記検出器による検出結果に基づき、前記X線の分光情報及び偏光情報を出力する、出力手段と、
を備え、
前記反射面の形状は、回転面形状に沿っており、
前記回転面形状は、前記反射鏡に対して前記検出器側にある軸線を含む仮想平面内において軸線方向の一方側から他方側に向かうにつれて徐々に前記軸線に近づくように湾曲した曲線を、前記軸線を中心として回転させてなる形状であり、
前記検出器は、前記反射面に前記軸線方向に入射して前記反射面により反射されるX線が、デフォーカス状態で前記検出器に入射する位置に、配置されているものである。
【0007】
本発明のX線分光偏光計において、
前記回転面形状は、前記軸線を対称軸とする放物線を、前記軸線を中心として回転させてなる、回転放物面形状であり、
前記検出器は、前記回転放物面形状の焦点よりも前記反射面の近くに配置されていると、好適である。
【0008】
本発明のX線分光偏光計において、
前記反射鏡は、前記軸線に垂直な仮想平面内での円周方向に沿って配列され、それぞれの前記検出器側の表面が前記反射面をなす、複数の湾曲結晶を有していると、好適である。
【0009】
本発明のX線分光偏光計において、
前記反射鏡は、前記検出器側の面が前記回転面形状に沿った形状からなるCFRP製の土台をさらに備え、
前記湾曲結晶は、Si結晶又はGe結晶からなり、前記土台における前記検出器側の面に固定されていると、好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、X線の分光及び偏光を一度に観測可能なX線分光偏光計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るX線分光偏光計を示す斜視図である。
図2図1の反射鏡を示す斜視図である。
図3図1のX線分光偏光計を示す、図1のA−A線に沿う縦断面図である。
図4図1のX線分光偏光計により得られるスペクトル画像の例を示す図である。
図5図5(a)は平坦状の結晶を用いた場合の作用を説明するための縦断面図であり、図5(b)は図1の湾曲結晶を用いた場合の作用を説明するための縦断面図である。
図6図1のX線分光偏光計の作用を説明するための上面図である。
図7図7(a)及び(b)は、図1のX線分光偏光計を製造する方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態について例示説明する。
【0013】
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態に係るX線分光偏光計の一例を説明する。図1は、本実施形態のX線分光偏光計1の斜視図である。本実施形態のX線分光偏光計1は、1つ又は複数の(図の例では4つの)反射鏡2a〜2dと、X線を検出するように構成された1つ又は複数の(図の例では4つの)検出器3a〜3dと、出力手段4と、を備えている。図の例において、反射鏡2a〜2dは、検出器3a〜3dの周りを囲むように、円周方向に沿って配列されている。
以下の説明では、反射鏡2a〜2dどうしを区別しない場合は「反射鏡2」と記載し、また、検出器3a〜3dどうしを区別しない場合は「検出器3」と記載するものとする。
【0014】
図2は、図1のX線分光偏光計1の反射鏡2aを反射面210側から観たときの斜視図である。図3は、図1のX線分光偏光計1を示す、図1のA−A線に沿う縦断面図である。
図の例において、反射鏡2a〜2dは、互いに同様の構成を有しているので、以下の説明では、便宜のため、反射鏡2aの構成を中心に説明する。
【0015】
反射鏡2aは、1つ又は複数(図の例では9つ)の湾曲結晶21と、1つの土台22と、を有している。
【0016】
各湾曲結晶21は、それぞれ湾曲した単結晶基板からなる。湾曲結晶21の材料は、いかなる結晶でもよく、例えばSi結晶又はGe結晶でもよい。各湾曲結晶21は、それぞれの検出器3a側の表面が、凹状の反射面210をなしており、それぞれの検出器3aとは反対側の表面が、土台22における検出器3a側の面に固定されている。
【0017】
土台22は、湾曲結晶21の湾曲形状を維持する役割を持つ。土台22の材料は、湾曲結晶21の湾曲形状を維持し得るものである限り任意のものでよいが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon-fiber-reinforced plastic)を用いると、反射鏡2の形状精度の向上及び軽量化の観点から好適である。
【0018】
検出器3は、例えばX線CCDからなる。図の例において、検出器3a〜3dは、直方体状の検出器固定部材5の、それぞれ異なる側面に固定されており、これにより、略90度ずつ異なる方向を向くように指向されている。検出器3a〜3dは、それぞれ反射鏡2a〜2dと対応付けて配置されている。検出器固定部材5は、検出器3a〜3dの位置及び指向を維持する役割を持つ。検出器固定部材5の形状は、直方体状以外にも任意のものが可能である。
【0019】
検出器3aは、対応する反射鏡2aの各湾曲結晶21の反射面210と対向して配置されている。ここで、検出器3aがこれに対応する反射鏡2aの各反射面210と「対向」するとは、検出器3aの検出面が反射鏡2aの各反射面210側を向いていることを指しているにすぎず、検出器3aの検出面と各反射面210とが検出器3aの検出面の法線方向に対向していることまでは要しない。但し、検出器3aの検出面は、各反射面210と検出器3aの検出面の法線方向に対向するような、屈曲又は湾曲した検出面形状を有していてもよい。
【0020】
図1図3に示すように、反射鏡2aの土台22における検出器3a側の面の形状、及び、反射鏡2aの各湾曲結晶21の反射面210の形状は、反射鏡2aに対して検出器3a側にある軸線Laを含む仮想平面内において軸線方向(軸線Laに沿う方向。図の上下方向。以下同じ。)の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かうにつれて徐々に軸線Laに近づくように湾曲した曲線を、軸線Laを中心として回転させてなる、回転面形状に沿っている。この軸線Laは、この回転面形状の回転対称軸である。
ここで、土台22における検出器3a側の面の形状や各反射面210の形状が「回転面形状に沿っている」とは、土台22における検出器3a側の面や各反射面210が、それぞれ該回転面形状の一部分と同じ形状をなしていることを指している。土台22における検出器3a側の面が沿う回転面形状と、各反射面210が沿う回転面形状とは、湾曲結晶21の厚み分だけ、半径(軸線Laからの距離)が異なる。
【0021】
図1図3の例において、上記回転面形状は、より具体的には、反射鏡2aに対して検出器3a側にある軸線Laを含む仮想平面内において軸線Laを対称軸とする放物線を、軸線Laを中心として回転させてなる、回転放物面形状である。この回転放物面形状は、この軸線La上に1つの焦点Faを有する。このため、反射鏡2aの各反射面210へと軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かって入射するX線は、反射面210により反射されると、焦点Faに向かって集光される。このときの集光は、軸線Laを含む仮想平面内での反射面210の湾曲形状によって生じるとともに、軸線Laに垂直な仮想平面内での反射面210の湾曲形状によっても生じることとなる。
【0022】
ただし、図の例に限られず、上記回転面形状は、例えば、反射鏡2aに対して検出器3a側にある軸線Laを含む仮想平面内において軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かうにつれて徐々に軸線Laに近づくように湾曲した円弧状の曲線を、軸線Laを中心として回転させてなる、球面形状であってもよい。
【0023】
図3に示すように、検出器3aは、対応する反射鏡2aの各反射面210へと軸線方向の一方側(図3の上側)から他方側(図3の下側)に向かって入射して反射面210により反射されるX線が、デフォーカス状態(1点に集光されない状態)で検出器3aに入射する位置に、配置されている。
より具体的に、図の例において、検出器3aは、光学的に、上記回転放物面形状の焦点Faよりも、対応する反射鏡2aの各反射面210の近くに配置されている。これにより、反射鏡2aの各反射面210へ軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かって入射して反射面210により反射されるX線が、上記回転放物面形状の焦点Faに至る手前で、検出器3aに入射するようにされている。
【0024】
図の例では、反射鏡2aの土台22における検出器3a側の面が、軸線Laを中心とする円周方向の約90°の角度範囲にわたって延在している。
また、図の例では、反射鏡2aの各湾曲結晶21は、反射鏡2aの土台22における検出器3a側の面の大部分を覆うように、軸線Laを中心とする円周方向に沿って略等間隔に配列されている。
【0025】
図の例では、反射鏡2a〜2dのそれぞれにおける、土台22における検出器3a〜3d側の面の形状、及び、各湾曲結晶21の反射面210の形状が、それぞれ異なる軸線La〜Ldを回転対称軸とする回転面形状(具体的には回転放物面形状)に沿っている。反射鏡2a〜2dのそれぞれの各反射面210が沿う回転放物面形状の焦点Fa〜Fdは、それぞれ対応する軸線La〜Ld上に位置している。このように、本例では、反射鏡2a〜2dどうしが互いから円周方向に離間され、かつ、反射鏡2a〜2dのそれぞれの各反射面210が沿う回転面形状の軸線La〜Ldが互いからずらされていることにより、所要の寸法の検出器3a〜3dの配置スペースが確保されている。
ただし、検出器3a〜3dの配置スペースを確保できる場合は、反射鏡2a〜2dのそれぞれの各反射面210が沿う回転面形状の軸線La〜Ldは、互いに同じ位置にあってもよい。この場合、反射鏡2a〜2dどうしは、円周方向に全周にわたって連なるように一体に構成されて、1つの反射鏡をなすようにされてもよい。
【0026】
出力手段4は、例えば1つ又は複数のコンピュータ装置を含んで構成される。かかるコンピュータ装置は、例えば、CPU等からなる処理部と、RAM及び/又はROM等からなる記憶部と、ディスプレイやプリンタ等からなる出力部と、マウスやキーボード等からなる入力部と、を有する。この場合、出力手段4は、処理部により検出器3による検出結果を解析し、検出器3により検出されるX線の分光情報及び偏光情報を出力部を介して出力する。但し、出力手段4は、検出器3による検出結果、例えば、X線CCDによる撮影画像を、X線の分光情報及び偏光情報としてそのまま出力してもよい。
出力手段4は、検出器3との間で有線又は無線の通信手段により通信可能にされてもよい。この場合、検出器3の検出結果は、この通信手段を介して出力手段4に送信されてもよい。あるいは、検出器3の検出結果は、ユーザの操作により、例えば外部の記録媒体(USB等)を介して、出力手段に入力されてもよい。
出力手段4が出力するX線の分光情報及び偏光情報とは、それぞれX線の分光及び偏光を把握し得る内容の情報である限り、任意の内容の情報でよく、その情報の形式も、例えばグラフ、画像、表等、任意の形式でよい。
【0027】
つぎに、図4図6を参照して、本実施形態のX線分光偏光計1の作用を説明する。 図4の画像7a〜7dは、それぞれ、図1のX線分光偏光計1の検出器3a〜3dの検出結果に基づいて、出力手段4から出力されたスペクトル画像の例である。各スペクトル画像7a〜7d内に現れている個別スペクトル画像710は、それぞれ、反射面210毎に得られたスペクトル画像である。
【0028】
図4のスペクトル画像7a〜7dでは、X線のエネルギーが色で表されている。すなわち、予め、X線の異なるエネルギー範囲毎に異なる色が対応付けられており、図4の例では、例えば、X線のエネルギーE0−E1、E0、E0+E1に対して、それぞれ赤、緑、青が対応付けられている。
図4に示すように、各個別スペクトル710には複数の色が現れており、これにより、X線の分光情報を観測できる。
【0029】
ここで、本実施形態のX線分光偏光計1によれば、図4のようにX線の分光情報の観測が可能となる理由について、図5を参照して説明する。
図5(a)は、湾曲結晶の代わりに、検出器3の検出面に平行な1つの軸線Lに対して約45°傾斜した、平坦状の結晶61を反射鏡に用いた場合の作用を説明するための、軸線Lを含む仮想平面に沿う縦断面図である。この場合、この結晶61の表面からなる反射面610へとX線が軸線方向(軸線Lに沿う方向)の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かって入射すると、結晶面とX線とのなす角度が一定なので、ブラッグ反射の原理により、ある特定のエネルギー(ひいては波長)E0を持つX線のみが反射面610により反射されて、集光されないまま検出器3に入射する。その他のエネルギー(ひいては波長)E0−ΔE、E0+ΔEを持つX線は、反射面610により殆ど反射されないため、検出器3により検出されない。よって、この例では、検出可能なX線のエネルギー幅を確保できないため、分光情報を観測することができない。
一方、図5(b)は、図1の湾曲結晶21を反射鏡に用いる場合の作用を説明するための、軸線Laを含む仮想平面に沿う縦断面図であり、図3における反射鏡2aの湾曲結晶21とこれと対向配置された検出器3aとを示している。上述したように、この例では、反射鏡2aの湾曲結晶21(ひいては反射面210)が、反射鏡2aに対して検出器3a側にある軸線Laを含む仮想平面内において軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かうにつれて徐々に軸線Laに近づくように放物線状に湾曲しているとともに、検出器3aが、対応する反射鏡2aの各反射面210へと軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かって入射して反射面210により反射されるX線が、デフォーカス状態で検出器3aに入射する位置に、配置されている。図5(b)の場合、反射面210へとX線が軸線方向の一方側(図の上側)から他方側(図の下側)に向かって入射すると、結晶面とX線とのなす角度が反射位置によって種々のものとなるので、ブラッグ反射の原理により、種々のエネルギー(ひいては波長)E0−ΔE、E0、E0+ΔEを持つX線が、反射面210により反射され、焦点Faに向かって集光されるが、焦点Faに至る手前で検出器3に入射する。このとき、検出器3の検出面上でのX線の入射位置は、X線のエネルギーに応じて、軸線方向に異なる。これにより、検出器3の検出結果から、分光情報を観測することが可能となる。
【0030】
図4に戻り、スペクトル画像7a〜7dでは、各個別スペクトル710の明るさに基づいて、X線の偏光情報を観測できる。
ここで、本実施形態のX線分光偏光計1によれば、図4のようにX線の偏光情報の観測が可能となる理由について、図6を参照して説明する。
図6は、図1のX線分光偏光計の作用を説明するための、軸線方向の一方側(図1の上側)から観た様子を示す、上面図である。このX線分光偏光計1の各反射面210に、例えば図6の上下方向PDに電場の振動方向が集中した偏光X線が、軸線方向の一方側(図6の手前側)から他方側(図6の奥側)に向かって入射するとする。この場合、入射X線は、その反射方向が電場の振動方向PDと平行な線成分を持つほど結晶によってブラッグ反射をされにくい。そのため、反射鏡2a〜2dの各反射面(ひいては結晶面)の中には反射を起こしやすい面と起こしにくい面が生じ、検出器3a、3cでは検出されるX線強度が高くなるが、図6の上下の反射面210に入射したX線は検出器3b、3dにより検出されるX線強度が低くなる。そして、図4のスペクトル画像において、それぞれ反射面210に対応する各個別スペクトル710に基づいて、偏光情報を把握することができる。例えば、スペクトル画像の各個別スペクトル710のうち最も明るい個別スペクトル710と最も暗い個別スペクトル710との明るさのコントラストに基づいて、X線の偏光度を把握できる。また、スペクトル画像の各個別スペクトルの710のうち最も明るい個別スペクトル710の位置(ひいては反射面210の位置)に基づいて、偏光方向を把握することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態のX線分光偏光計1によれば、X線の分光情報及び偏光情報を一度に観測することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、例えば図4のスペクトル画像に基づいて各個別スペクトル710における同じ色どうしの明るさを比較することにより、X線のエネルギー別に偏光情報を読み取ることも可能である。
【0033】
また、本実施形態によれば、X線が反射面210により反射されてから検出器3に入射するまでに生じるX線の集光が、軸線Laを含む仮想平面内での反射面210の湾曲形状によって生じるとともに、軸線Laに垂直な仮想平面内での反射面210の湾曲形状によっても生じるので、検出器3の小型化ひいてはX線分光偏光計1の小型化が可能となる。
【0034】
なお、本実施形態のX線分光偏光計1は、例えば軟X線(波長約2〜10keV)の観測に好適に使用できる。本実施形態のX線分光偏光計1を用いて軟X線を観測すれば、例えば鉄輝線(波長6.4keV、6.7keV)を、0.1keV以下のエネルギー分解能で観測することも可能となる。
【0035】
上述したX線分光偏光計1は、それぞれ円周方向に略90°の角度範囲にわたって延在する4つの反射鏡2a〜2dを備えることによって、円周方向の約360°の角度範囲にわたってX線の観測ができるように、反射面21が配置されているが、この構成は必須ではない。X線分光偏光計1は、円周方向の360°未満の任意の角度範囲にわたってX線の観測ができるように、反射面21が配置されてよく、その場合、製造の容易化や小型化が可能となる。また、X線分光偏光計1は、1〜3つ又は5つ以上の任意の数の反射鏡2を備えてよい。また、1つの反射鏡2は、円周方向の任意の角度範囲にわたって延在していてもよい。
図4に観られるように、互いに対向する一対の反射鏡によってほぼ同じ観測結果が得られることに鑑みれば、X線分光偏光計1は、例えば、図1の4つの反射鏡2a〜2dのうち、隣接する一対の反射鏡2a、2bのみを備えていても、実質的に図4と同じ観測結果が得られる。ただし、図1の例のようにX線分光偏光計1が4つの反射鏡2a〜2dを備える場合、仮にX線分光偏光計1が隣接する一対の反射鏡2a、2bのみを備える場合に比べて、半分の時間で、図4のような観測結果を得ることが可能となる。
【0036】
つぎに、図7を参照しつつ、本実施形態のX線分光偏光計1の製造方法の一例を説明する。図7は、Si製の湾曲結晶21とCFRP製の土台22とを有するとともに、反射面210の形状が回転放物面形状に沿った、反射鏡2を製造する方法を説明するための図である。
図7(a)において、予め、Siウエハから、等脚台形状のSi結晶基板90を、複数(図の例では9つ)切り取って準備する。また、予め、一方向のみに繊維方向が揃えられたCFRPのプリプレグシートから、例えば、繊維方向がそれぞれ45°ずつ異なる4種類の略二等辺三角形状のプリプレグシート100a〜100hを、各種類につき複数枚ずつ、切り取って準備する。図7の例では、繊維方向が90°(縦)のプリプレグシート100a、100hと、繊維方向が45°のプリプレグシート100b、100gと、繊維方向が−45°のプリプレグシート100c、100fと、繊維方向が0°(横)のプリプレグシート100d、100eとを、予め準備する。
【0037】
まず、回転放物面形状の外表面を成型面として有する金型80の外表面に、離型剤を塗布する。
その後、図7(a)に実線で示すように、複数(図の例では9つ)のSi結晶基板90を、金型80の外表面上に、金型80の円周方向に沿って略等間隔に配列し、貼り付ける。このとき、各Si結晶基板90は、それぞれ、金型80の外表面上で、金型80のなす回転放物面形状の回転対称軸を含む仮想平面上に沿って延在するように、指向される。
【0038】
その後は、CFRPのプリプレグシート100a〜100hを、プリプレグシートの異方性を打ち消すように積層していく。例えば、繊維方向で90°(縦)、45°、−45°、0°(横)、0°(横)、−45°、45°、90°(縦)の順番で、各種類のプリプレグシート100a〜100hを積層していくと、好適に異方性を打ち消すことができる。プリプレグシートの異方性を打ち消すように積層することにより、プリプレグシートと金型80との間に隙間ができるのを抑制でき、ひいては、より高精度に金型80の成型面の形状をCFRP(ひいては土台22)に転写できる。
より具体的に、例えば、図7(a)に破線で示すように、複数の(図の例では6つの)90°(縦)のプリプレグシート100aを、Si結晶基板90の上から、金型80の円周方向に沿って略等間隔に配列し、貼り付ける。このとき、各プリプレグシート100aは、それぞれ、金型80のなす回転放物面形状の回転対称軸を含む仮想平面上に沿って延在するように、指向される。つぎに、図7(b)に破線で示すように、複数の(図の例では7つの)45°のプリプレグシート100bを、直前に貼り付けたプリプレグシート100aの上から、プリプレグシート100aどうしの隙間を埋めるように位置を半ずらしにして、貼り付ける。その後も同様に、直前のプリプレグシートどうしの隙間を埋めるように位置を半ずらしにしながら、各種のプリプレグシートを順番に積層していく。
【0039】
その後、Si結晶基板90及びプリプレグシート100a〜100hの積層体に対して加圧及び加熱を同時に行う。この間、プリプレグシート100a〜100hに含まれる接着剤が溶け出て、Si結晶基板90及びプリプレグシート100a〜100hが一体成形される。
これにより、Si結晶基板90は、湾曲結晶21となり、プリプレグシート100a〜100hは、CFRP、ひいては土台22となる。このようにして、反射鏡2が得られる。
そして、このように得られた1つ又は複数の反射鏡2と検出器3とを、上述したような位置関係になるように配置し、出力手段4を設けて、X線分光偏光計1を得る。
【0040】
上述した製造方法は、Si結晶の割れを効果的に抑制しつつ、湾曲結晶21を作ることができる点で、特に有利である。ただし、本実施形態のX線分光偏光計1は、上述した方法以外の任意の方法で製造されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のX線分光偏光計は、X線の観測に利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 X線分光偏光計
2、2a〜2d 反射鏡
3、3a〜3d 検出器
4 出力手段
5 検出器固定部材
7a〜7d スペクトル画像
21 湾曲結晶
22 土台
61 平坦状の結晶
80 金型
90 Si結晶基板
100a〜100h プリプレグシート
110 Siウエハ
110a ノッチ
210、610 反射面
710 個別スペクトル画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7