(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶シリコン基板の周端における撓み角θが0.1°〜10°であり、前記マスク板の載置平面と前記テーパ面とのなす角αが、0.5θ〜2θである、請求項1または2に記載の太陽電池の製造方法。
前記第一電極層形成工程において、結晶シリコン基板の第一の主面側のマスク板による遮蔽領域に、マスク板の開口側から結晶シリコン基板の周端方向に向けて、前記第一電極層の被覆率または膜厚の少なくともいずれか一方が小さくなっている遷移領域が形成され、
前記遷移領域の幅が、0より大きく、1.5mm未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
前記太陽電池において、前記結晶シリコン基板は表面テクスチャを有する単結晶シリコン基板であり、前記光電変換部は単結晶シリコン基板の両面に導電型シリコン系薄膜を備え、前記第一電極層は透明電極層であり、
前記結晶シリコン基板の第二の主面上に第二電極層が製膜される第二電極層形成工程をさらに有し、
前記第一電極層形成工程において、第一電極層が光電変換部の第一の主面の周端に形成されていないことにより、前記太陽電池は、第一電極層と第二電極層とが絶縁されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により太陽電池が製造される工程;および前記太陽電池が封止材により封止される工程、をこの順に有する、太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヘテロ接合太陽電池のように、シリコン基板上に電極層を備える太陽電池の製造において、基板の端部や側面への電極層の着膜を防止するためにマスクを用いて製膜を行う場合、基板とマスクとが十分に密着していないと、基板とマスクとの間の空隙から蒸着粒子が回りこみ、マスク遮蔽領域に着膜が生じる。マスク遮蔽領域の空隙部分に回り込んで電極層が着膜した領域では、他の領域(マスクにより遮蔽されておらず、膜厚が一定の領域)に比して、電極層の被覆率や膜厚が小さくなる傾向がある(以下、他の領域に比して、膜厚および被覆率の少なくともいずれか一方が小さい領域を「遷移領域」と称する場合がある)。
【0007】
遷移領域では、電極層の抵抗や、界面での多重干渉による反射率が高いため、遷移領域の幅が大きくなると、太陽電池性能が低下する傾向がある。また、遷移領域が基板の周端や側面に達すると、裏面側の電極層との短絡が生じやすくなる。したがって、遷移領域の幅はできる限り小さいことが好ましい。
【0008】
ヘテロ接合太陽電池等の結晶シリコン太陽電池では、光電変換部への光取り込み効率を高めるために、表面テクスチャを有する結晶シリコン基板が用いられる。そのため、テクスチャの凹部とマスクとの間に、不可避的に空隙が生じ、基板とマスクとを完全に密着させることは困難である。そのため、基板表面がテクスチャを有している場合でも、電極層の遷移領域をできる限り小さくして、表裏の短絡を防止しつつ、太陽電池の有効発電面積を大きくすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、開口縁部にテーパ面を有するマスク板上に基板を載置し、鉛直下方側から上方に向けて製膜を行うデポアップ(フェースダウン)方式で電極層の製膜が行われる。
【0010】
本発明は、結晶シリコン基板を含む光電変換部の第一の主面上に第一電極層を備える太陽電池の製造方法に関する。結晶シリコン基板の第一の主面側に第一電極層が製膜される工程(第一電極層形成工程)は、開口を有するマスク板の開口縁部に、結晶シリコン基板の第一の主面側が接するように載置された状態で、デポアップ方式により製膜が行われる。第一の主面の周縁がマスクに接触した状態で製膜が行われるため、光電変換部の第一の主面の周端には、透明電極層が形成されない。そのため、表裏の電極間が絶縁される。
【0011】
マスク板の開口縁部は、基板と接する部位に、テーパ面を有する。テーパ面が、基板の周端における撓み角θに沿うように設定されることにより、マスク板と基板との接点が増加し、マスクによる遮蔽領域における空隙が減少する。その結果、マスクによる遮蔽領域内で、蒸着粒子の回りこみが生じる領域が減少し、電極層遷移領域の幅が小さくなる。遷移領域の幅は、1.5mm未満が好ましい。
【0012】
マスク板の載置平面とテーパ面とのなす角αは、シリコン基板の周端における撓み角θの0.5倍〜2倍の範囲であることが好ましい。シリコン基板の周端における撓み角θは、例えば0.1°〜10°の範囲内である。マスク板上に載置された基板が自重により撓んでいる場合、製膜面である第一の主面側(下方)が凸となるように撓みが生じる。
【0013】
本発明の太陽電池の一形態において、光電変換部は、表面テクスチャを有する単結晶シリコン基板の両面に導電型シリコン系薄膜を備える。受光面側の第一電極層は透明電極層であり、光電変換部の裏面側には第二電極層が形成される。この形態では、第一電極層が光電変換部の第一の主面の周端に形成されていないことにより、第一電極層と第二電極層とが絶縁されている。第二電極層は、光電変換部の第二の主面側の周端および側面にも形成されていてもよい。また、第二電極層は、第一の主面側の周端にも形成されていてもよい。この場合、第一の主面側において、第一電極層と第二電極層との最短距離(絶縁領域の幅)は、0より大きく、1.5mm未満が好ましい。
【0014】
受光面側の電極層上にはパターン状の集電極が形成される。パターン集電極は、例えばめっき法により形成できる。第一電極層上にパターン状の金属シードを形成後、第一電極層上の全面に絶縁層を形成し、金属シード上の絶縁層に穿孔を設けることにより、穿孔を介して金属シードと導通する金属電極を、めっき法により形成することができる。
【0015】
上記の太陽電池を、封止材により封止することにより、太陽電池モジュールが形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法では、マスク板の開口縁部のテーパ面に基板を載置した状態で、デポアップ方式により電極層が形成されるため、マスク遮蔽領域における基板とマスク板との間の空隙が減少する。そのため、基板に撓みが生じている場合でも、電極層遷移領域の幅を小さくでき、太陽電池の有効面積を拡大できる。また、マスク板にテーパ面が存在するため、マスク板の位置合わせが容易となり、生産性が高められるとともに、基板のハンドリング性が良好となるため、基板の厚みが小さい場合でも、割れや欠け等の不具合を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るヘテロ接合太陽電池の模式的断面図である。ヘテロ接合太陽電池101は、光電変換部40上の一方の面に第一電極層61を備え、他方の面に第二電極層62を備える。ヘテロ接合太陽電池101では、第一電極層61および第二電極層62はいずれも透明電極層である。第一電極層61は、光電変換部40の第一の主面の周端には形成されておらず、第一の主面の周縁には電極層非形成領域615が存在する。本発明においては、基板の周縁がマスクにより遮蔽された状態で第一電極層の製膜が行われることにより、電極層非形成領域が形成される。なお、本明細書において、「周端」とは、主面の端縁を指す。「周縁」とは、周端および周端から所定距離(例えば、数十μm〜数mm程度)の領域を指す。
【0019】
[光電変換部]
ヘテロ接合太陽電池101の光電変換部40は、単結晶シリコン基板1の第一の主面および第二の主面のそれぞれに、第一導電型シリコン系薄膜31および第二導電型シリコン系薄膜32を備える。これらの導電型シリコン系薄膜は、いずれか一方がp型であり、他方がn型である。
【0020】
単結晶シリコン基板1の導電型は、n型でもp型でもよい。正孔と電子とを比較した場合、電子の方が移動度が大きいため、シリコン基板1がn型単結晶シリコン基板である場合は、特に変換特性が高い。シリコン基板1は、少なくとも受光面側、好ましくは両面にテクスチャを有する。テクスチャは、例えば、異方性エッチング技術を用いて形成される。異方性エッチングにより形成されたテクスチャは、四角錘状の凹凸構造を有する。
【0021】
テクスチャの高低差は、0.5μm〜40μm程度であり、好ましくは1μm〜20μmである。テクスチャの高低差が上記範囲内であれば、光散乱により、単結晶シリコンが吸収可能な300〜1200nmの波長領域の光の光路長が増大されることに加えて、凹凸構造により光が有効に散乱され、界面反射の低減効果が効率的に得られる。テクスチャの高低差は、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。テクスチャの高低差を小さくすることにより、マスク製膜の際の空隙からの蒸着粒子の回り込みを低減できる。
【0022】
シリコン基板1の厚みは特に限定されないが、好ましくは10μm〜150μm、より好ましくは30μm〜120μmである。シリコン基板の厚みを150μm以下とすることで、シリコンの使用量が減少するため、低コスト化を図ることができる。また、シリコン基板の厚みが小さいほど、シリコン基板内での光生成キャリアの再結合が低減するため、太陽電池の開放端電圧(Voc)が向上する傾向がある。シリコン基板の厚みは、表面側のテクスチャの凸部側頂点と裏面側の凸部頂点との距離で定義される。
【0023】
光電変換部40は、単結晶シリコン基板1と導電型シリコン系薄膜31,32との間に、真性シリコン系薄膜21,22を有することが好ましい。単結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。単結晶シリコン基板1の表面パッシベーションを有効に行うために、真性シリコン系薄膜21,22は、真性非晶質シリコン薄膜が好ましい。
【0024】
上記真性シリコン系薄膜21,22の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の製膜条件としては、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm
2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用される原料ガスとしては、SiH
4、Si
2H
6等のシリコン含有ガスとH
2との混合ガスが好ましく用いられる。
【0025】
p型またはn型の導電型シリコン系薄膜31,32としては、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンを含む材料)や、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金等が用いられる。シリコン合金としては、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、導電型シリコン系薄膜は、非晶質シリコン薄膜であることが好ましい。
【0026】
導電型シリコン系薄膜31,32も、真性シリコン系薄膜と同様に、プラズマCVDにより製膜されることが好ましい。導電型シリコン系薄膜の製膜時には、導電型(n型またはp型)を調整するためのドーパントガスとして、PH
3やB
2H
6等が用いられる。導電型決定不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH
4やH
2で希釈されたドーパントガスを用いることが好ましい。導電型シリコン系薄膜の製膜時に、CO
2、CH
4、NH
3、GeH
4等の異種元素を含むガスを添加すれすることにより、シリコン系薄膜を合金化して、エネルギーギャップを変更することもできる。
【0027】
[電極層]
光電変換部40の導電型シリコン系薄膜31,32上には、導電性酸化物を主成分とする透明電極層61,62が形成される。導電性酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫等を単独で、あるいは複合酸化物として用いることができる。導電性、光学特性、および長期信頼性の観点から、インジウム系酸化物が好ましく、中でも酸化インジウム錫(ITO)を主成分とするものがより好ましく用いられる。透明電極層61,62の膜厚は、透明性、導電性、および光反射低減の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。
【0028】
これらの電極層は、ドライプロセス(CVD法や、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法)により製膜される。インジウム系酸化物を主成分とする電極層の製膜にはスパッタ法やイオンプレーティング法等のPVD法が好ましい。マスクを使用せずに、ドライプロセスにより両面の電極層の製膜が行われた場合、表裏の電極層は、製膜時の回り込みによって、光電変換部の側面および他面の周端にも形成される。そのため、表裏の電極層同士が短絡した状態となり、太陽電池の特性が低下する。
【0029】
(第一電極層の形成方法)
本発明では、第一電極層61の製膜時に、基板の周縁がマスクと接触した状態で製膜が行われることにより、第一の主面の周縁は電極層非形成領域615となる。そのため、第二電極層62が側面および反対面の周端に回り込んで製膜されている場合でも、光電変換部40の第一の主面上に、第一電極層および第二電極層のいずれも形成されていない絶縁領域401が存在する。絶縁領域401が存在することにより、電極層製膜時の回り込みによる短絡の問題を解決できる。
【0030】
本発明の製造方法では、第一の主面側、すなわち第一導電型シリコン系薄膜31形成面側が下面となるように、マスク板上に基板を載置した状態で、デポアップ方式により第一電極層61の製膜が行われる。第一電極層形成工程に供される基板は、シリコン基板の第一の主面上に第一導電型シリコン系薄膜31が形成されていれば、第二の主面側の構成は特に限定されない。基板の第二の主面側には、シリコン系薄膜22,32が形成されていてもよく、シリコン系薄膜が形成されていなくてもよい。また、基板の第二の主面側には、シリコン系薄膜上に第二電極層62が形成されていてもよい。
【0031】
デポアップ方式(フェースダウン方式)は、基板の製膜面が鉛直下方となるように基板を配置し、基板下方の蒸着源から上方に飛来する蒸着粒子を基板に着膜させる製膜方式である。デポアップ方式では、製膜の際に製膜室内に堆積するパーティクル等の落下による不良を回避できる。また、開口を有するマスク板上に基板を載置して製膜を行う場合、基板の自重により、基板とマスク板との密着性が高められるため、蒸着粒子の隙間からの回り込みによる着膜が低減される傾向がある。
【0032】
図2は、第一電極層の製膜に用いられるマスク板の一形態の概略斜視図である。マスク板200は、載置平面210と、開口壁面213に囲まれた開口220を有する。開口の形状は基板の形状にあわせたものであり、開口の大きさは基板の大きさよりも小さい。
図2では、矩形の開口220が図示されているが、基板が多角形状である場合は、開口も多角形状であることが好ましい。
【0033】
載置平面210と開口220との境界部である開口縁部は、載置平面210と所定角度αをなすテーパ面215となっている。この開口縁部のテーパ面に、第一導電型シリコン系薄膜が接するように基板を載置した状態でドライプロセスにより製膜を行えば、開口220の下部からの蒸着粒子が基板中央部に着膜し、第一導電層が形成される。
【0034】
図3は、マスク板上に、基板110が載置された状態の一例を表す模式的断面図である。基板110は、自重によって、製膜面(第一の主面)側が凸となるように撓んでおり、基板の周端における撓み角はθである。マスク板は、下面から上面(載置平面)側に向かって開口220が拡径するように、テーパ面215が形成されている。テーパ面のテーパ角αは、基板の撓み角θに沿うように設定される。自重による撓み角は、厚み100μmの6インチサイズの基板で1°程度であり、厚みが小さくなると、撓み角は急激に大きくなる。また、基板の厚みが同等でも、基板サイズが大きくなると撓み角は大きくなる。
【0035】
図4は、開口縁部にテーパ面を有していないマスク板上に、基板が載置された状態の比較例を表す模式的断面図である。自重により撓みを生じた基板110は、マスク板の載置平面218と開口壁面219とのコーナー部239で接しており、基板の周縁と載置平面218との間には空隙237が生じている。開口229の下部から飛来する蒸着粒子は、マスク板のコーナー部239と基板110との隙間から、基板の周縁の空隙237へと回りこみ、マスク板で遮蔽された基板の周縁にも透明電極層の着膜が生じる。基板110の表面にテクスチャが形成されている場合は、基板とマスク板のコーナー部との間にも多数の隙間が存在し、基板とマスク板とは、テクスチャの凸部の頂点でわずかに接しているのみであるため、基板の周縁と載置平面218との間の空隙237への回り込みによる着膜量が増大する。
【0036】
マスク板の開口220上の基板110に製膜される透明電極層の膜厚はほぼ一定である。基板中央部(マスク板の開口上)で、透明電極層の膜厚が均一に形成される領域を、以下では「主形成領域」と称する。一方、基板周縁のマスク板による遮蔽領域では、基板とマスク板との隙間からの回り込みに起因して透明電極層が形成された遷移領域が存在する。この遷移領域では、主形成領域側から周端方向に向けて、透明電極層の被覆率または膜厚の少なくともいずれか一方が小さくなっている。
【0037】
マスク製膜によって、基板の周縁に電極層非形成領域を形成するためには、遷移領域の幅を考慮して、マスクによる遮蔽領域の幅(マスク板の開口の大きさ)を設定する必要がある。
図4に示すように、基板とマスク板との間の空隙が大きいと、遷移領域の幅が大きくなるため、マスクにより遮蔽される領域の幅を大きくして、マスクの開口面積を小さくする必要がある。その結果、電極層主形成領域の面積が小さくなり、太陽電池の有効発電面積減少により発電効率が低下する傾向がある。
【0038】
これに対して、
図3に示すように、マスク板の開口縁部に基板の撓み角に沿うテーパ面215が存在し、このテーパ部分に基板の周縁が載置される場合は、基板110の周縁231の形状がマスク板の形状に沿っているため、空隙が小さくなる。そのため、マスク板による遮蔽領域において、基板とマスク板との隙間からの回り込みによる着膜が生じる範囲、すなわち遷移領域を小さくできる。このように、本発明では、マスク板が、開口縁部において、製膜面と接する部位に、シリコン基板の周端における撓み角に沿うテーパ面を有することにより、基板周縁への蒸着粒子の回り込みが低減され、遷移領域の幅を小さくできる(例えば、1.5mm未満)。そのため、太陽電池の有効発電面積を増大し、変換効率を高めることができる。
【0039】
本発明の方法では、マスク板の開口縁部に、基板の撓み角に沿うテーパ面が存在するため、マスク板上に基板を載置する際の位置合わせが容易となり、生産性を高めることができる。電極層の遷移領域の幅が小さくなり、かつ位置合わせが容易であることから、基板周端への電極の着膜が抑制され、表裏の短絡等の不具合の抑制にも寄与する。さらに、マスク板と基板とがテーパ面で接するため、基板の載置時や取出し時の基板の傷つきを抑制できる。特にシリコン基板の厚みが小さい場合は、マスク板に載置する際に、基板の周縁の欠けや、周端からのクラックが生じ易くなる傾向があるが、マスク板の開口縁部がテーパ面を有していることにより、欠けやクラック等を抑制できる。また、マスク板のテーパ面上に基板が載置されており、マスク板と基板との接点が多く、基板の周縁における局所的な応力が小さい状態で電極層が製膜される。そのため、電極層界面での歪みが小さく、界面接合が良好となり、太陽電池の開放端電圧(Voc)が上昇する傾向がある。
【0040】
一般にマスク板は金属製であり熱伝導性が高いため、電極層の製膜中は、マスク板の開口付近に比して、開口縁部付近の雰囲気温度が高くなる傾向がある。本発明の方法では、基板の周縁と基板との間の空隙が少ないため、電極層製膜時には、基板の中央部よりも周縁における温度が高くなる傾向がある。基板温度が高くなると、導電性酸化物は結晶化されやすいため、マスク板に近接して透明電極層が製膜される遷移領域は、電極層主形成領域に比して結晶化度が高くなると推定される。そのため、太陽電池の基板周縁からの水分の侵入等が抑制され、太陽電池の耐久性向上が期待できる。なお、結晶化度の大小は、25℃の10%塩酸へ所定時間浸漬後に、表面形状を走査型電気顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて倍率50,000倍で観察し、表面状態の変化の差を観察することにより判断できる。結晶化度が大きいほど、表面形状に差がでるまでの浸漬時間が長い。
【0041】
マスク板は、開口縁部の少なくとも一部にテーパ面が形成されていれば、開口縁部の形状は
図2や
図3に図示される形態に限定されない。例えば、
図5Aに示すように、開口壁面が存在せず、開口縁部全体がテーパ面215からなる形状でもよい。また、
図5Bに示すように、テーパ面215の外周に、載置平面210と垂直あるいは所定角度をなす壁面216が形成されていてもよい。
図5Cに示すように、テーパ面215と壁面216との間に、水平面212が形成されていてもよい。特に、
図5Bや5Cに示すように、マスク板が、テーパ面215の外周に壁面216を有する場合は、マスク板上へ基板を載置する際の位置合わせが容易となる。
【0042】
図5D〜Fに示すように、基板140が上面を凸として撓んでいる場合、マスク板の開口縁部のテーパ面245もこれに沿うように形成される。例えば、基板の第二の主面側に先に電極層の製膜が行われた場合は、電極層の界面の応力に起因して、第二の主面側を凸として撓んでいる状態で第一の主面側に電極層が形成される場合がある。このように、マスク板の開口縁部のテーパ面が、上に凸の基板の撓み角に沿うように形成されている場合においても、
図5Eや5Fに示すように、テーパ面245の外周には、壁面246や水平面242が形成されていてもよい。
【0043】
テーパ面のテーパ角、すなわち載置平面210,240とテーパ面215,245とのなす角αは、基板の周端における撓み角θに近いことが好ましい。具体的には、テーパ角αは、撓み角θの0.5倍〜2倍が好ましく、0.7倍〜1.5倍がより好ましい。撓み角θは特に限定されないが、一般には0.1°〜10°程度の範囲である。
【0044】
上記のように、マスク板上でデポアップ方式により製膜された第一電極層61は、主形成領域611の外周に遷移領域613を有し、その外周が非形成領域615となっている。
【0045】
(第二電極層)
ヘテロ接合太陽電池では、光電変換部40の第二の主面上(導電型シリコン系薄膜32上)に、第二電極層62が形成される。第二電極層の製膜は、第一電極層の製膜の前後いずれに行ってもよい。
図1に示すように、第一の主面の周縁に電極層非形成領域615が存在するため、第二電極層62が、光電変換部40の第二の主面の周端まで形成され、光電変換部の側面および第一の主面の周端にまで回り込んで形成されている場合でも、第一の主面の周縁には、第一電極層および第二電極層のいずれも製膜されていない絶縁領域401が形成される。
【0046】
なお、第一電極層の製膜と同様に、第二の主面の周縁をマスクで被覆した状態で第二電極層を製膜してもよい。この場合、光電変換部の側面および第一の主面の周端への回り込みが防止できるため、第一電極層と第二電極層との短絡をより確実に防止できる。
【0047】
一方、マスクを用いずに第二電極層62を製膜して、光電変換部の側面および第一の主面の周端への第二電極層の回り込みが生じた場合でも、本発明においては、第一電極層の遷移領域の幅が小さいため、第一電極層と第二電極層との短絡を防止できる。また、第一電極層の製膜時にのみマスクを用いる場合、両方の電極層の製膜時にマスクを用いる場合に比べて、マスクの位置合わせの回数が半減するため、太陽電池の生産効率が高められる。この形態では、第二の主面上には絶縁領域が存在せず、周端にも第二電極層が形成されているため、光電変換部の周縁におけるキャリア回収効率が高められる。そのため、光電変換部の両面に絶縁領域を有する場合に比して、生産効率が高められる上に、変換効率の向上が期待できる。
【0048】
第二電極層が、第一の主面に回り込んで形成されている場合、第一の主面における絶縁領域401の幅、すなわち第一透明電極層の遷移領域の端部から第二透明電極層までの最短距離は、0より大きくする必要がある。絶縁領域の幅は、1.5mm未満であることが好ましい。
【0049】
[集電極]
ヘテロ接合太陽電池では、光生成キャリアを有効に取り出すために、透明電極層61,62上に、金属集電極が形成される。受光面側の集電極は、所定のパターン状に形成される。裏面側の集電極は、パターン状でもよく、透明電極層上の略全面に形成されていてもよい。
図1に示す形態では、受光面側の透明電極層61上にパターン集電極7が形成され、裏面側の透明電極層62上の全面に裏面金属電極層8が形成されている。透明電極層上の全面に金属電極層を形成する方法としては、各種PVD法やCVD法等のドライプロセス、ペーストの塗布、めっき法等が挙げられる。裏面金属電極層としては、近赤外から赤外域の波長領域の光の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0050】
パターン集電極は、導電性ペーストを印刷する方法や、めっき法等により形成される。導電性ペーストが用いられる場合、インクジェット、スクリーン印刷、スプレー等により集電極が形成される。生産性の観点からはスクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷においては、金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷する工程が好ましく用いられる。
【0051】
めっき法によりパターン集電極を形成する場合、電極層上に、パターン状の金属シード71を形成し、金属シードを起点としてめっき法により、金属電極72が形成されることが好ましい。透明電極層61上への金属電極の析出を抑制するために、透明電極層61上には、絶縁層9が形成されることが好ましい。
【0052】
絶縁層9は、第一の主面の周端まで形成されていることが好ましい。絶縁層が第一の主面の周端まで形成されている場合(すなわち、第一の主面の全領域にわたって絶縁層が形成されている場合)、電極層非形成領域615上にも絶縁層が存在するため、めっき法により金属電極72が形成される際に、光電変換部40をめっき液から化学的および電気的に保護できる。そのため、めっき液中の不純物等の結晶シリコン基板への拡散を抑制でき、太陽電池の長期信頼性の向上が期待できる。
【0053】
絶縁層9は、光電変換部の側面にも形成されていることが好ましい。インターコネクタを介して複数の太陽電池を接続してモジュール化する際、光電変換部側面とインターコネクタとが接触した場合でも、側面に絶縁層が形成されていれば、インターコネクタとの短絡が防止されるため、太陽電池モジュールの変換効率を向上できる。
【0054】
金属シード71上に、めっき法により金属電極72を形成するためには、金属シードとめっき液とを導通させる必要がある。そのため、金属シード71上の絶縁層9には、穿孔9hを設ける必要がある。絶縁層に穿孔を形成する方法としては、レジストを用いて絶縁層をパターニングする方法が挙げられる。また、レーザ照射、機械的な孔開け、化学エッチング等の方法により、絶縁層に穿孔を形成してもよい。
【0055】
上記の他に、絶縁層の穿孔を介してめっき金属電極を形成する方法として、下記の技術等を採用できる。
透明電極上に絶縁層を形成後、絶縁層を貫通する溝を設けて透明電極層の表面または側面を露出させ、透明電極層の露出面に光めっき等により金属シードを析出させた後、この金属シードを起点としてめっきにより金属電極層を形成する(特開2011−199045号参照)。
凹凸を有する金属シード上に、絶縁層を形成することにより、絶縁層が不連続となるため、穿孔が形成される。この穿孔を起点としてめっきにより金属電極を形成する(WO2011/045287号)。
低融点材料を含有する金属シード上に絶縁層を形成後、または絶縁層形成時に、加熱により低融点材料を熱流動させて、金属シード上の絶縁層に穿孔を形成し、この穿孔を起点としてめっきにより金属電極を形成する(WO2013/077038号)。
絶縁層として自己組織化単分子膜を形成後、金属シード上の自己組織化単分子膜が剥離除去されることにより、絶縁層に穿孔が形成される(金属シードが露出した状態となる)。露出した金属シードを起点としてめっきにより金属電極を形成する。透明電極層上には自己組織化単分子膜が形成されているため、透明電極層上への金属電極の析出が抑制される(WO2014/097829号)。
【0056】
これらの方法によれば、レジストを用いる必要がないため、材料コストおよびプロセスコスト面でより有利である。また、低抵抗の金属シードを設けることにより、透明電極層と集電極との間の接触抵抗を低下させることができる。
【0057】
また、本発明においては、マスク板と基板とがテーパ面で接した状態で電極層の製膜が行われ、基板の載置時や取出し時の基板の傷つきや端面でのクラックの発生等が抑制されるため、基板周縁の電極層(特に遷移領域)上や電極層非形成領域上に形成される絶縁層のカバレッジが良好となる。そのため、基板周縁等の不所望の箇所へのめっき金属の析出が抑制される傾向がある。
【0058】
以上、ヘテロ接合太陽電池の受光面側の透明電極層をマスク製膜する例を中心に説明したが、裏面側の透明電極層をマスク製膜し、受光面側はマスクを用いずに全面に透明電極層を製膜してもよい。また、本発明は、ヘテロ接合太陽電池以外でも、シリコン基板を含む光電変換部上に電極層と集電極を備える各種の太陽電池にも適用できる。
【0059】
本発明の太陽電池は、実用に供するに際して、封止材により封止して、モジュール化されることが好ましい。太陽電池のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、集電極にタブ等のインターコネクタを介してバスバーが接続されることによって、複数の太陽電池セルが直列または並列に接続され、封止材およびガラス板により封止されることによりモジュール化が行われる。