(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の膨張黒鉛シートは、面方向における熱伝導性に優れる一方、厚み方向における熱伝導性が十分ではなかった。
【0007】
また、特許文献2のグラファイトシート積層体では、製造工程において、グラファイトシートが圧延処理されているため、グラファイトが面方向に配向している。そのため、熱伝導性の高いシートをグラファイトシート間に配しても、厚み方向の熱伝導性がなお十分ではなかった。
特許文献3の高熱伝導性部材は、グラファイトの配向性を維持しつつ熱伝導性の粒子を混合することにより高熱伝導性を得るものであるが、やはり厚み方向の熱伝導性が十分ではなかった。
【0008】
本発明の目的は、シートの厚み方向における熱伝導性に優れる、熱伝導シート及び該熱伝導シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱伝導シートは、熱伝導シートであって、膨張黒鉛と、配向制御粒子とを含み、前記膨張黒鉛の少なくとも一部が、前記配向制御粒子の存在により、シートの面方向とは異なる方向に配向している。
【0010】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記膨張黒鉛の少なくとも一部が、前記配向制御粒子の存在により、シートの厚み方向に配向している。
【0011】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、厚み方向の熱伝導率が、5W/m・K以上である。
【0012】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記膨張黒鉛の前記配向制御粒子に対する重量比(膨張黒鉛/配向制御粒子)が、1/4以上、5以下の範囲にある。
【0013】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、比重が、1.5g/cm
3以上、5g/cm
3以下の範囲内にある。
【0014】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記膨張黒鉛が、部分的にグラフェンが剥離している構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。前記部分剥離型薄片化黒鉛内に、配向制御粒子が包摂されていてもよい。
【0015】
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記配向制御粒子が、無機化合物である。
本発明に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記配向制御粒子の平均粒径が、0.2μm以上、1000μm以下である。
【0016】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法は、熱伝導シートの製造方法であって、膨張黒鉛と、配向制御粒子との混合物を用意する工程と、前記混合物をプレスによりシート成形することによって、前記膨張黒鉛の少なくとも一部をシートの面方向とは異なる方向に配向させる工程とを備える。
【0017】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記混合物を用意する工程において、前記膨張黒鉛と、前記配向制御粒子とを、超臨界媒体の存在下で混合する。
【0018】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記シート成形が、前記混合物をシリンダー内に充填して、プレスすることにより行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る熱伝導シートは、上記のように、膨張黒鉛と、配向制御粒子とを含む。また、膨張黒鉛の少なくとも一部が、配向制御粒子の存在により、シートの面方向とは異なる方向に配向している。そのため、本発明に係る熱伝導シートは、シートの厚み方向における熱伝導性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[熱伝導シート]
本発明に係る熱伝導シートは、膨張黒鉛と、配向制御粒子とを含む。上記膨張黒鉛の少なくとも一部は、上記配向制御粒子の存在により、シートの面方向とは異なる方向に配向している。そのため、本発明に係る熱伝導シートは、シートの厚み方向における熱伝導性に優れている。もっとも、膨張黒鉛の全てが、シートの面方向とは異なる方向に配向していない場合、本発明に係る熱伝導シートは、シートの面方向における熱伝導性にも優れている。
【0023】
本発明においては、上記膨張黒鉛の少なくとも一部が、上記配向制御粒子の存在により、シートの厚み方向に配向していることが好ましい。その場合においては、シートの厚み方向の熱伝導性をより一層効果的に高めることができる。
【0024】
熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率としては、5W/m・K以上であることが好ましく、7W/m・K以上であることがより好ましく、10W/m・K以上であることがさらに好ましい。厚み方向の熱伝導率が、上記下限以上である場合、熱伝導シートの放熱性をより一層高めることができる。なお、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率の上限は、特に限定されず、膨張黒鉛が厚み方向に完全に配向した場合における熱伝導率以下とすることができる。
【0025】
熱伝導シートの比重としては、1.5g/cm
3以上が好ましく、1.6g/cm
3以上がより好ましく、1.7g/cm
3以上がさらに好ましく、2.0g/cm
3を超えることが特に好ましい。また、熱伝導シートの比重としては、5g/cm
3以下が好ましく、3g/cm
3以下がより好ましく、2.5g/cm
3以下がさらに好ましい。
【0026】
上記膨張黒鉛の上記配向制御粒子に対する重量比(膨張黒鉛/配向制御粒子)としては、1/4以上が好ましく、2/3以上がより好ましい。また、上記重量比は、5以下が好ましい。
【0027】
上記重量比(膨張黒鉛/配向制御粒子)が、上記範囲内にある場合、膨張黒鉛をシートの面方向とは異なる方向により一層配向させることができ、厚み方向の熱伝導率をより一層高めることができる。
【0028】
以下、本発明に係る熱伝導シートに含まれる各成分について詳述する。
【0029】
(膨張黒鉛)
膨張黒鉛は、複数のグラフェン層の積層体である。膨張黒鉛は、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの通常の黒鉛よりも、グラフェン層間が大きい黒鉛である。本明細書においては、少なくとも一部のグラフェン層間が通常の黒鉛より拡げられたものも膨張黒鉛に含まれるものとする。膨張黒鉛の大きさとしては、特に限定されないが、平均粒径で、100μm〜1000μmのものを用いることが好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、レーザ回折/散乱式粒度分布計により測定された値である。
【0030】
本発明においては、膨張黒鉛として、部分剥離型薄片化黒鉛を用いてもよい。部分剥離型薄片化黒鉛とは、グラフェン間の層間が拡げられている部分を有する黒鉛である。より詳細には、部分剥離型薄片化黒鉛とは、グラフェン間の層間が拡げられることにより、端縁からある程度内側まで部分的に一部のグラフェン積層体又はグラフェンが剥離され、薄片化している黒鉛である。
【0031】
部分剥離型薄片化黒鉛では、グラフェン間の層間距離が拡げられているため、その比表面積が大きい。また、部分剥離型薄片化黒鉛は、中心部分がグラファイト構造を有し、エッジ部分が薄片化している黒鉛である。このため、従来のグラフェンや、薄片化黒鉛よりも取り扱いが容易である。なお、薄片化黒鉛とは、黒鉛を剥離することにより得られ、もとの黒鉛よりグラフェン積層数の少ない、グラフェンの積層体である。
【0032】
部分剥離型薄片化黒鉛は、黒鉛または一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含み、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている原料組成物を用意する工程と、上記原料組成物中に含まれている樹脂を熱分解することにより、黒鉛または一次薄片化黒鉛を剥離する工程とを備える製造方法により得ることができる。なお、詳細な製造方法については後述するが、上記樹脂の熱分解にあたっては、樹脂の一部を残存させながら行ってもよい。そのため、部分剥離型薄片化黒鉛においては、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛にグラフトまたは吸着により固定されている樹脂が一部残存していてもよい。
【0033】
また、部分剥離型薄片化黒鉛中には、配向制御粒子が包摂されていてもよい。より詳細には、部分剥離型薄片化黒鉛内のグラフェン層間に配向制御粒子が包摂されていてもよい。その場合においては、部分剥離型薄片化黒鉛を、シートの面方向とは異なる方向により一層配向させることができ、厚み方向の熱伝導率をより一層高めることができる。
【0034】
(配向制御粒子)
配向制御粒子とは、その存在により、少なくとも一部の膨張黒鉛を、シートの面方向とは異なる方向に配向させることが可能な粒子のことをいう。配向制御粒子は、上記の機能を有する限り、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよい。
【0035】
無機化合物である場合、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)等を用いることができる。
【0036】
配向制御粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、0.2μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。平均粒径が、上記下限以上である場合、膨張黒鉛をシートの面方向とは異なる方向により一層配向させることができ、厚み方向の熱伝導率をより一層高めることができる。
【0037】
また、シートの外観により一層優れるという観点から、配向制御粒子の平均粒径は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
[熱伝導シートの製造方法]
本発明に係る熱伝導シートの製造方法は、膨張黒鉛と、配向制御粒子との混合物を用意する工程(工程1)と、上記混合物をシート成形することによって、上記膨張黒鉛の少なくとも一部をシートの面方向とは異なる方向に配向させる工程(工程2)とを備える。
【0039】
(工程1)
まず、膨張黒鉛と、配向制御粒子とを混合し、混合物を用意する。膨張黒鉛と、配向制御粒子との混合は、乾燥状態で行ってもよいが、超臨界媒体の存在下で行うことが好ましい。超臨界媒体中で混合する場合、膨張黒鉛と、配向制御粒子とをより一層均一に混合することができる。そのため、後述するシート成形において、膨張黒鉛をシートの面方向とは異なる方向により一層配向させることができ、熱伝導シートの厚み方向の放熱性をより一層高めることができる。なお、超臨界媒体としては、例えば、超臨界状体にある水や二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)を用いることができる。
【0040】
(工程2)
次に、得られた混合物をプレスによりシート成形する。このとき、膨張黒鉛へのプレスは、上記配向制御粒子の存在下で行われる。そのため、上記膨張黒鉛の少なくとも一部がシートの面方向とは異なる方向に配向することとなる。
【0041】
従って、上記膨張黒鉛をシートの面方向とは異なる方向により一層配向させる観点から、工程1で得られた混合物においては、膨張黒鉛及び配向制御粒子が均一に混合されていることが好ましい。特に、膨張黒鉛のグラフェン層間に配向制御粒子が包摂されていることがより好ましい。
【0042】
上記プレスによるシート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、得られた混合物を2枚の金属製の平板間に挟みこんでプレスし、所定時間放置する。しかる後、得られた試料を所定時間加熱し、再度プレスしてシート成形する。上記操作を繰り返して複数枚のシート作製し、それらを重ね合わせて再度プレスすることにより、所定の厚みを有するシートを得る。
【0043】
また、シート成形は、上記混合物をシリンダー内に充填して、プレスすることによって行ってもよい。シリンダーを用いる場合においても、まず上記混合物をシリンダー内に充填して、プレスし、所定時間放置する。しかる後、得られた試料を所定時間加熱し、再度プレスしてシート成形する。
【0044】
シリンダーを用いる場合、厚み方向に多量の上記混合物を充填することができるため、厚みの厚いシートを得ることができ、1回の操作で所定の厚みを有するシートを作製することができる。そのため、一度面方向とは異なる方向に配向した膨張黒鉛が、再度のプレスにより面方向に配向し難い。従って、シリンダーを用いてプレスすることにより、膨張黒鉛がより一層面方向と異なる方向に配向した熱伝導シートを得ることができる。従って、シート成形は、シリンダーを用いてプレスすることにより行われることが望ましい。
【0045】
本発明においては、熱伝導シートを製造するにあたり、膨張黒鉛として部分剥離型薄片化黒鉛を用いてもよい。その場合においても、膨張黒鉛をシートの面方向とは異なる方向により一層配向させる観点から、部分剥離型薄片化黒鉛の内部に配向制御粒子が包摂されていることが好ましい。以下、部分剥離型薄片化黒鉛の製造方法及び配向制御粒子の包摂方法について詳述する。
【0046】
(部分剥離型薄片化黒鉛の製造方法)
部分剥離型薄片化黒鉛の製造方法においては、まず樹脂が黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛に固定されている組成物を用意する。樹脂の黒鉛もしくは薄片化黒鉛への固定は、グラフト又は吸着により行われる。なお、一次薄片化黒鉛とは、黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を多く含むものである。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0047】
上記グラフトの方法としては、上記黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛と、ラジカル重合性モノマーとを含む混合物を用意し、混合物中のラジカル重合性モノマーを重合することにより、混合物中に上記ラジカル重合性モノマーが重合しているポリマーを生成させるとともに、該ポリマー、すなわち樹脂を黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフトさせる方法が挙げられる。
【0048】
上記ラジカル重合性モノマーとしては、プロピレングリコール、グリシジルメタクリレート、酢酸ビニル、ブチラール又はアクリル酸などが挙げられる。
【0049】
あるいは、予め得られたポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛の存在下で特定の温度範囲に加熱することにより、ポリマーを熱分解することにより生成したポリマーラジカルを直接黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフトさせてもよい。
【0050】
上記吸着の方法としては、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛と、樹脂とを適宜の溶媒に溶解もしくは分散させた後、溶媒中において、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛を樹脂と混合する方法を用いることができる。好ましくは、樹脂に黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛により効果的に吸着させるために、超音波処理を実施することが望ましい。
【0051】
上記ポリマー、すなわち樹脂としては、ポリプロピレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリブチラール又はポリアクリル酸などが挙げられる。
【0052】
次に、上記グラフト又は吸着により、樹脂が黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛に固定されている組成物中の樹脂を熱分解する。それによって、黒鉛又は一次薄片化黒鉛に固定されている樹脂の一部を残存させながら、黒鉛または一次薄片化黒鉛が剥離され、部分剥離型薄片化黒鉛を得ることができる。この場合の樹脂の熱分解を果たすために、上記組成物を樹脂の熱分解温度以上に加熱すればよい。
【0053】
より具体的には、樹脂の熱分解温度以上に加熱し、さらに樹脂を焼成する。このとき、組成物中に樹脂が残存する程度に焼成する。樹脂を残存させるように熱分解させるには、加熱時間を調整することにより達成することができる。すなわち、加熱時間を短くすることにより残存樹脂量を多くすることができる。また、加熱温度を低めることにより残存樹脂量を多くすることもできる。このようにして、樹脂残存部分剥離型薄片化黒鉛を得ることができる。熱分解温度については、例えば、ポリグリシジルメタクリレートの熱分解温度は400℃〜500℃程度である。
【0054】
上記ポリマーの熱分解により部分剥離型薄片化黒鉛を得ることができるのは、前述した理由によると考えられる。すなわち、黒鉛にグラフトしているポリマーが焼成されると、グラフト点に大きな応力が作用し、それによってグラフェン間の距離が広がるためと考えられる。なお、上記グラフトの工程と、上記ポリマーの熱分解とを同じ加熱工程において連続的に実施してもよい。
【0055】
上記組成物を用意する工程では、好ましくは、熱分解する際にガスを発生する熱分解性発泡剤をさらに含む組成物を用意する。その場合には、加熱により黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。
【0056】
上記熱分解性発泡剤としては、加熱により自発的に分解し、分解時にガスを発生する化合物である限り、特に限定されない。上記熱分解性発泡剤としては、例えば、分解時に窒素ガスを発生するアゾカルボン酸系、ジアゾアセトアミド系、アゾニトリル化合物系、ベンゼンスルホヒドラジン系またはニトロソ化合物系等の発泡剤や、分解時に一酸化炭素、二酸化炭素、メタンまたはアルデヒド等を発生する発泡剤などを用いることができる。上記熱分解性発泡剤は単独で用いてもよく、複数の種類の発泡剤を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
好ましくは、上記熱分解性発泡剤としては、下記の式(1)に示される構造を有するアゾジカルボンアミド(ADCA)や、下記の式(2)〜(4)に示される構造を有する発泡剤を用いることができる。これらの発泡剤は、加熱により自発的に分解し、分解時に窒素ガスを発生する。
【0062】
なお、上記熱分解性発泡剤の熱分解温度は特に限定されず、上記ラジカル重合性モノマーが自発的に重合を開始する温度より低くてもよく、高くてもよい。なお、上記式(1)に示される構造を有するADCAの熱分解温度は210℃であり、上記式(2)〜(4)に示される構造を有する発泡剤の熱分解開始温度は順に88℃、96℃、110℃である。
【0063】
上記黒鉛または一次薄片化黒鉛と上記熱分解性発泡剤との配合割合は特に限定されないが、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛100重量部に対し、上記熱分解性発泡剤を100重量部〜300重量部配合することが好ましい。上記熱分解性発泡剤の配合量を上記範囲とすることで、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し、部分剥離型薄片化黒鉛を効果的に得ることができる。
【0064】
(配向制御粒子の包摂方法)
本発明では、上記のようにして用意された、固定化された樹脂の一部が残存している部分剥離型薄片化黒鉛と、配向制御粒子とを含む原料組成物を加熱し、それによって部分剥離型薄片化黒鉛内に配向制御粒子を包摂させることができる。
【0065】
上記配向制御粒子の熱分解温度は、上記樹脂の熱分解温度より高いことが好ましい。そして、上記原料組成物の加熱は、上記樹脂の熱分解温度より高く、上記配向制御粒子の熱分解温度より低い温度で行われることが好ましい。この範囲で加熱することにより、より一層効率よく部分剥離型薄片化黒鉛内に配向制御粒子を包摂させることができる。より詳細には、加熱温度は、370℃〜500℃程度の範囲とすることが好ましい。
【0066】
[実施例及び比較例]
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
膨張黒鉛(鈴裕化学社製、商品名「GREP−EG」、平均粒径100〜2000μm)71.4重量%と、配向制御粒子としてのAl
2O
3(和光純薬社製、商品名「酸化アルミ」、平均粒径:>75μm)28.6重量%とを、圧力容器に入れ(重量比;膨張黒鉛:配向制御粒子=10:4)、マグネチックスターラーにより、20〜100rpmの速度で撹拌した。しかる後、容器内に超臨界二酸化炭素を供給し、容器内の圧力を27.6MPaとして、50℃で6時間撹拌した。撹拌後、超臨界二酸化炭素を抜き取り、膨張黒鉛とAl
2O
3の混合物を取り出した。
【0068】
次に得られた混合物を、シリンダー(大きさ;直径25mm、高さ250mm)内に充填し、10〜20MPaの圧力を加えて、15分間プレスした。しかる後、混合物を500℃で2時間加熱した。加熱後、混合物を再度シリンダー内で、30〜40MPaの圧力を加えて、15分間プレスした。それによって、熱伝導シートを得た。
【0069】
(実施例2〜7)
膨張黒鉛及び配向制御粒子の添加量(重量比)、配向制御粒子の種類又は配向制御粒子の平均粒径をそれぞれ下記の表1に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。
【0070】
(実施例8)
膨張黒鉛(炭鈴裕化学社製、商品名「GREP−EG」、平均粒径100〜2000μm)50重量%と、配向制御粒子としてのAl
2O
3(和光純薬社製、商品名「酸化アルミ」、平均粒径0.236μm)50重量%とを、圧力容器に入れ(重量比;膨張黒鉛:配向制御粒子=10:10)、マグネチックスターラーにより、20〜100rpmの速度で撹拌した。しかる後、容器内に超臨界二酸化炭素を供給し、容器内の圧力を27.6MPaとして、50℃で6時間撹拌した。撹拌後、超臨界二酸化炭素を抜き取り、膨張黒鉛とAl
2O
3の混合物を取り出した。
【0071】
次に得られた混合物を、2枚の金属製の平板間に挟み込み、10〜20MPaの圧力を加えて、15分間プレスした。しかる後、混合物を500℃で2時間加熱した。加熱後、混合物を再度2枚の金属製の平板に挟み込み、30〜40MPaの圧力を加えて、15分間プレスしてシートを得た。この操作を複数回繰り返して、複数枚のシートを得て、それらを積層させた。しかる後、積層したシートを2枚の金属製の平板に挟み込み、30〜40MPaの圧力を加えて、15分間プレスして熱伝導シートを得た。
【0072】
(実施例9)
部分剥離型薄片化黒鉛の調製;
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8F」)2.5gと、熱分解性発泡剤として、式(1)に示した構造を有するADCA(永和化成社製、商品名「AC♯R−K」、熱分解温度210℃)5gと、ポリグリシジルメタクリレート(日本油脂社製、品番「G2050M」)50gとを、溶媒としてのテトラヒドラフラン450gと混合し、原料組成物を用意した。原料組成物に、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発振周波数28kHzで5時間超音波を照射した。超音波処理により、ポリグリシジルメタクリレートを膨張黒鉛に吸着させた。このようにして、ポリグリシジルメタクリレートが膨張黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0073】
上記超音波照射後に、上記組成物を溶液流延法により成形し、乾燥温度80℃の温度で2時間維持し、次に110℃の温度で1時間維持し、さらに150℃の温度で1時間維持し、さらに230℃の温度で2時間維持した。それによって、上記組成物中において上記ADCAを熱分解し、発泡させた。
【0074】
次に、450℃の温度で1.5時間維持する加熱工程を実施した。それによって、上記ポリグリシジルメタクリレートを熱分解し、部分剥離型薄片化黒鉛を得た。この部分剥離型薄片化黒鉛では、ポリグリシジルメタクリレートの一部が残存している。
【0075】
得られた部分剥離型薄片化黒鉛を膨張黒鉛として用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを得た。
【0076】
(実施例10)
配向制御粒子の種類を下記の表1に示すように設定したこと以外は実施例9と同様にして、熱伝導シートを得た。
【0077】
(実施例11)
実施例9と同様の方法で作製した部分剥離型薄片化黒鉛71.4重量%と、配向制御粒子としてのMgO(和光純薬社製、商品名「酸化マグネシウム」、平均粒径40〜70μm))28.6重量%とを、圧力容器に入れ(重量比;膨張黒鉛:配向制御粒子=10:4)、マグネチックスターラーにより、20〜100rpmの速度で撹拌した。室温で6時間撹拌した後、膨張黒鉛とMgOの混合物を取り出した。その他の点は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。
【0078】
(比較例1)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8F」、平均粒径10〜300μm)100重量%を、シリンダー(大きさ:直径25mm、高さ250mm)内に充填し、10〜20MPaの圧力を加えて、15分間プレスした。しかる後、混合物を500℃で2時間加熱した。加熱後、混合物を再度シリンダー内で、30〜40MPaの圧力を加えて、15分間プレスした。それによって、熱伝導シートを得た。
【0079】
(評価)
(SEM写真による断面観察)
熱伝導シートを、ダイヤモンドワイヤーソーにより切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、型番「S−3400N」)を用いて観察した。また、EDX(日立ハイテクノロジーズ社製、型番「S−3400N」)を用いて、得られた走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)の元素マッピング像を得た。
【0080】
図1(a)は、実施例1で得られた熱伝導シートの断面の倍率600倍のSEM写真である。
図1(b)は、
図1(a)のSEM写真の元素マッピング像である。また、
図2(a)は、実施例1で得られた熱伝導シートの断面の倍率2000倍のSEM写真である。
図2(b)は、
図2(a)のSEM写真の元素マッピング像である。また、
図3(a)は、比較例1で得られた熱伝導シートの断面の倍率1000倍のSEM写真である。
図3(b)は、
図3(a)のSEM写真の元素マッピング像である。なお、
図1(b)及び
図2(b)の元素マッピング像においては、白色部分がAlであり、黒色部分が炭素である。
【0081】
図1〜
図2より、実施例1で得られた熱伝導シートにおいては、膨張黒鉛の少なくとも一部が、配向制御粒子であるAl
2O
3の存在により、シートの面方向とは異なる方向に配向していることがわかる。他方、
図3より、比較例1で得られた熱伝導シートでは、実施例1の熱伝導シートと比較して、膨張黒鉛が面方向と異なる方向に配向していないことが確認できた。
【0082】
(厚み方向の熱伝導率)
NETZSCH社製、品番「LFA447 ナノフラッシュ」を使用して、1cm角の熱伝導シートの熱伝導率を測定した。
【0083】
(比重)
熱伝導測定を行う1cm角の熱伝導シートの厚み(d)cmと重量(W)gを測定した。比重は、W/(1×1×d)により算出した。
【0084】
実施例1〜11及び比較例1における、厚み方向の熱伝導率及び比重の評価結果を、下記の表1に示す。