(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの両成分の全量100重量部のうち(A)ポリ乳酸を55重量部以上75重量部以下、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを25重量部以上45重量部以下含有し、更に(C)ペンタエリスリトールを(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの両成分の全量100重量部に対して0.05重量部以上20重量部以下、および(D)珪酸塩を(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの両成分の全量100重量部に対して10重量部以上40重量部以下含有し、
前記(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシブチレートが80モル%以上からなる重合樹脂であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
前記(D)珪酸塩がタルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイトからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
前記(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のポリエステル樹脂組成物の実施の一形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、更に(D)珪酸塩を含有するポリエステル樹脂組成物である。以下に、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩について説明する。
【0011】
[(A)ポリ乳酸]
本発明で用いられる(A)ポリ乳酸は、下記一般式(1)
【0013】
で示される繰り返し単位を含むポリ乳酸から選択される1種以上である。
【0014】
本発明に用いられる(A)ポリ乳酸は、前記一般式(1)の繰り返し単位を、全繰り返し単位の50モル%以上有していればよく、その他の繰り返し構造を含んでいてもよい。前記(A)ポリ乳酸は、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体であるステレオコンプレックスでも良い。
【0015】
成形加工が可能であれば、(A)ポリ乳酸の分子量や分子量分布に特に制限はないが、成形体の物性および加工性のバランスに優れる点で、重量平均分子量が5万〜30万であるものを用いることが好ましく、10万〜25万であることがより好ましい。なお、ポリ乳酸の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0016】
本発明においては、市販のポリ乳酸、例えばNatureWorks社「Ingeo」(登録商標)、浙江海正生物材料社「REVODE」(登録商標)等を用いることが出来る。
【0017】
本発明で用いられるポリ乳酸の使用量は、得られる成形体のバリ発生の抑制効果に優れる点で、ポリ乳酸量の下限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部のうち、55重量部以上であり、好ましくは58重量部以上であり、更に好ましくは60重量部以上である。また、耐熱性に優れる点で、ポリ乳酸量の上限値は、ポリ乳酸とポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量100重量部のうち、75重量部以下であり、好ましくは73重量部以下であり、更に好ましくは70重量部以下である。
【0018】
[(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート]
本発明で用いられる(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートは、下記一般式(2)
【0020】
で示される繰り返し単位を含む、微生物から生産される微生物産生P3HAから選択される1種以上であることが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートは、前記一般式(2)の繰り返し単位を、全繰り返し単位の50モル%以上含んでいればよく、その他の繰り返し構造を含んでいてもよい。
【0022】
微生物産生P3HAを生産する微生物としては、P3HA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「P3HB」と略称する場合がある。)生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではP3HBが菌体内に蓄積される。
【0023】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(以下、「P3HB3HV」と略称する場合がある。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「P3HB3HH」と略称する場合がある。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(以下、「P3HB4HB」と略称する場合がある。)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0024】
本発明で用いられる微生物産性P3HAの分子量は、目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。分子量が低いと得られる成形品の強度が低下する。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる。それらを勘案して本発明に使用する微生物産生P3HAの重量平均分子量の範囲は、20万〜250万が好ましく、25万〜200万がより好ましく、30万〜100万がさらに好ましい。
なお、P3HAの重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0025】
本発明で使用することができる微生物産生P3HAとしては、3−ヒドロキシブチレートが80モル%以上からなる重合樹脂であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上からなる重合樹脂であり、微生物によって生産された物が好ましい。具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)等が挙げられる。特に、加工性あるいは成形体の物性の観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)が好適に使用し得る。
【0026】
前記ポリエステル樹脂において、3−ヒドロキシブチレート(以下、「3HB」と略称する場合がある。)と、これと共重合しているコモノマー(例えば、3−ヒドロキシバレレート(以下、「3HV」と略称する場合がある。)、3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「3HH」と略称する場合がある。)、4−ヒドロキシブチレート(以下、「4HB」と略称する場合がある))との構成比、即ち共重合樹脂中のモノマー比率としては、加工性や生産性、あるいは成形体品質等の観点から、3−ヒドロキシブチレート/コモノマー=97/3〜80/20(モル%/モル%)であることが好ましく、95/5〜85/15(モル%/モル%)であることがより好ましい。
【0027】
前記ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート中の各モノマー比率は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥ポリエステル樹脂約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中のポリ−3−ヒドロキシアルカノエート分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート中の各モノマー比率を求められる。
【0028】
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
【0029】
本発明で用いられるポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの使用量は、耐熱性に優れる点で、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート量の下限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部のうち、25重量部以上であり、好ましくは28重量部以上であり、更に好ましくは30重量部以上である。また、得られる成形体のバリ発生の抑制効果に優れる点で、P3HAの上限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部のうち、45重量部以下であり、好ましくは42重量部以下であり、更に好ましくは40重量部以下である。
【0030】
[(C)ペンタエリスリトール]
本発明で用いられる(C)ペンタエリスリトールとは、下記一般式(3)
【0032】
で示される多価アルコール類の一種であり、融点260.5℃の白色結晶の有機化合物である。(C)ペンタエリスリトールは糖アルコールに分類されるが、天然物由来ではなく、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドを塩基性条件下で縮合して合成することができる。
【0033】
本発明で用いられる(C)ペンタエリスリトールは通常、一般に入手可能であるものであれば特に制限されず、試薬品あるいは工業品を使用し得る。試薬品としては、和光純薬工業株式会社、シグマ・アルドリッチ社、東京化成工業株式会社やメルク社などが挙げられ、工業品であれば、広栄化学工業株式会社品(商品名:ペンタリット)、日本合成化学工業社品(商品名:ノイライザーP)や東洋ケミカルズ株式会社品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
一般に入手できる試薬や商品の中には不純物として、(C)ペンタエリスリトールが脱水縮合して生成するジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトールなどのオリゴマーが含まれているものがある。上記オリゴマーはポリヒドロキシアルカノエートの結晶化には効果を有しないが、(C)ペンタエリスリトールの結晶化効果を阻害しない。従い、オリゴマーが含まれていても構わない。
【0035】
本発明で用いられる(C)ペンタエリスリトールの使用量は、(C)ペンタエリスリトールの結晶化核剤としての効果を得られやすい点で、ペンタエリスリトール量の下限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部に対して、0.05重量部以上であり、好ましくは0.1重量部以上であり、更に好ましくは0.5重量部以上である。また、成形加工時の樹脂の流動特性に優れる点で、ペンタエリスリトール量の上限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部に対して、20重量部以下であり、好ましくは12重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下であり、更に好ましくは8重量部である。
【0036】
[(D)珪酸塩]
本発明に用いられる珪酸塩は、耐熱性の向上や加工性の改善効果等が得られる事ができれば、特に限定されないが、汎用性が高く、機械的強度向上効果が高く、また粒径分布が小さく表面平滑性や金型転写性を阻害しにくいため、タルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイト等を好適に用いることが出来る。
【0037】
また、珪酸塩は、1種のみならず2種以上混合してもよく、(A)ポリ乳酸および(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0038】
本発明に用いられる(D)珪酸塩の使用量は、耐熱性に優れる点で、珪酸塩量の下限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部に対して、10重量部以上であり、13重量部以上が好ましく、15重量部以上であることがより好ましい。また、加工性に優れる点で、珪酸塩量の上限値は、(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート両成分の全量(A+B)100重量部に対して、40重量部以下であり、37重量部以下が好ましく、35重量部以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明に用いられる珪酸塩は、ポリエステル樹脂組成物中での分散性を上げるために表面処理してもよい。表面処理としては、高級脂肪酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ゾル−ゲルコーティング剤、樹脂コーティング剤等が挙げられる。
【0040】
本発明に用いられる珪酸塩の水分は、(A)ポリ乳酸および(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの加水分解を抑制しやすい点で0.01〜10%であり、0.01〜5%が好ましく、0.01〜1%がより好ましい。尚、前記水分量の測定方法は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0041】
本発明に用いられる珪酸塩の平均粒子径は、ポリエステル樹脂組成物の特性や加工性に優れる点で、0.1〜100μmであり、0.1〜50μmが好ましい。尚、前記平均粒子径の測定方法は、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」などのレーザー回折・散乱式の装置を用いることで求められる。
【0042】
なお、本発明に用いられる珪酸塩は、(C)ペンタエリスルトールと共に結晶化核剤としての機能も有しているため、(C)ペンタエリスルトールと共存させることによって、ポリエステル樹脂組成物の結晶化を更に促進させ、加工性を向上させることができる。
【0043】
本発明に用いられる(D)珪酸塩を以下に例示する。
【0044】
珪酸塩として、タルクを用いる場合は、汎用のタルク、表面処理タルクなどが挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社などのタルクが例示される。
【0045】
マイカを用いる場合は、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカなどが挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社などのマイカが例示される。
【0046】
カオリナイトを用いる場合は、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリンなどが挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や啓和炉材社などのカオリナイトが例示される。
【0047】
本発明の(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩を含有するポリエステル樹脂組成物は、従来のポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含む樹脂組成物では得られなかった、優れた加工性を有するので、溶融時の樹脂温度や金型などの冷却温度や時間を幅広く設定できる点で、優れた加工特性を有している。
【0048】
また、射出成形用の成形金型のキャビティ部のあわせ部(例えば、パーティングライン部、インサート部、スライドコア摺動部など)には、隙間があり、射出成形時に、その隙間に溶融した樹脂が入り込んでできる「バリ」が成形品に付着してしまう。ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートは、結晶化の進行が遅く樹脂が流動性を有する時間が長いため、バリが発生し易く、成形品の後処理に多大な労力を要する。ところが、本発明の(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートと(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩を含有するポリエステル樹脂組成物では固化が早いのでバリが発生し難く、成形品の後処理の労力を低減できるため、実用上好ましい。
【0049】
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、ポリ乳酸およびポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを含むポリヒドロキシアルカノエートの融点以上にまで加熱し混練できる装置であれば公知の混練機により容易に製造できる。例えば、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩と、さらに必要であれば他の成分とを押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とし、成形に供する方法、並びに(C)ペンタエリスリトールや(D)珪酸塩の高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これを(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートに所望の割合で溶融混練して成形に供する方法、などが利用できる。
【0050】
(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩は混練機に同時に添加してもよいし、あるいは先に(A)ポリ乳酸と(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートを溶融させた後に後から(C)ペンタエリスリトールや(D)珪酸塩を添加してもかまわない。
【0051】
得られる樹脂組成物あるいは成形体の特性を低下させない点で、珪酸塩は、最後に添加することが好ましい。即ち、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートと(C)ペンタエリスリトールを所望の割合で溶融混練した樹脂組成物に(D)珪酸塩を添加することが好ましい。一般的にタルクやマイカなどは、水分を含んでいたり、アルカリ性を示すため、高温下で(A)ポリ乳酸や(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート等のポリヒドロキシアルカノエートと共存させると、ポリヒドロキシアルカノエートの分解を促進させて樹脂組成物の機械物性が低下する場合がある。
【0052】
具体的には、例えば、同方向噛合型二軸押出機で樹脂組成物を作製する場合、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートと(C)ペンタエリスリトールはスクリュ根元から添加し、(D)珪酸塩は前記押出機の下流からサイドフィードなどで添加することが好ましい。
【0053】
[ポリエステル樹脂成形体の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル樹脂成形体の製造方法を以下に例示する。
【0054】
まず、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、(D)珪酸塩、さらには必要に応じて、他の成分を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、ポリエステル樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のポリエステル樹脂組成物からなるペレットを得る。
【0055】
前記において、(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトール、および(D)珪酸塩等を溶融混練する温度は、使用するポリ乳酸およびポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの融点、溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が160〜200℃であることが好ましく、165〜195℃であることがより好ましく、170〜190℃がさらに好ましい。溶融混練物の樹脂温度が160℃未満であると、(A)ポリ乳酸および(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートが未溶融となる場合があり、200℃を超えると(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートが熱分解する場合がある。
【0056】
前記方法によって作製されたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。
【0057】
成形時の温度(成形温度)について、着色などの外観に優れる点で、溶融樹脂の温度は、160〜200℃が好ましく、170〜190℃がより好ましい。また、その後、ロールや金型等の温度、つまり冷却温度を25〜55℃として成形することが好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0058】
成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、フィルム成形、シート成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0059】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。
【0060】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。また、本発明のポリエステル樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0061】
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、上記(A)ポリ乳酸、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、(C)ペンタエリスリトールおよび(D)珪酸塩の他に、酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;可塑剤;滑剤;無機充填剤;有機充填剤;または帯電防止剤などの他の成分を含有してもよい。これらの他の成分の添加量としては、本発明の効果を損なわない程度であればよく、特に限定はない。
【0062】
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、耐熱性と加工性に優れ、且つ短時間で加工が行え、例えば、食器類、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、各種ボトル成形品、押出シートや異型押出製品、などの基材として好適に使用され得る。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0064】
(A)ポリ乳酸:以下の製品を用いた。
PLA−1:NatureWorks社製Ingeo 3251D
PLA−2:NatureWorks社製Ingeo 3260HP
PLA−3:NatureWorks社製Ingeo 4060D
【0065】
(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート:以下の製造例および製品を用いた。
P3HA−1:製造例1で得られたものを用いた。
【0066】
<製造例1>
培養生産にはKNK−005株(米国特許7384766号参照)を用いた。
【0067】
種母培地の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.15w/v% KH
2PO
4、(pH6.8)とした。
【0068】
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.19w/v% KH
2PO
4、1.29w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0069】
P3HA生産培地の組成は0.385w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.067w/v% KH
2PO
4、0.291w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0070】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0071】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0072】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のP3HAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したP3HAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、P3HAを得た。
【0073】
得られたP3HAの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥P3HA20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、P3HA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、化学式(1)に示すようなP3HA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)であった。3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成は5.6mol%であった。
【0074】
培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法にてP3HB3HHを得た。GPCで測定した重量平均分子量は60万であった。
【0075】
P3HA−2:製造例2で得られたものを用いた。
【0076】
<製造例2>
KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いた以外は、製造例1と同様の方法でポリ−3−ヒドロキシアルカノエート原料、P3HB3HHを得た。重量平均分子量は65万、3HH組成は11.4モル%であった。
【0077】
P3HA−3:製造例3で得られたものを用いた。
【0078】
<製造例3>
生産菌株としてC.necatorH16株(ATCC17699)を用い、国際公開第09/145164号に準拠して、重量平均分子量が85万のP3HBを作製した。
【0079】
P3HA−4:Ecomann社製EM5400F(P3HB4HB)
【0080】
その他、実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
(C)ペンタエリスリトール:ペンタエリスリトール(日本合成化学社製ノイライザーP)
(D)珪酸塩:タルク(日本タルク社製ミクロエースK−1)
【0081】
<実施例1>
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
(A)ポリ乳酸としてPLA−1、(B)ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートとしてP3HA−1、(C)ペンタエリスリトール、(D)珪酸塩としてタルクを、表1に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型2軸押出機(東芝機械社製:TEM−26SS)を用いて、設定温度160〜180℃、スクリュ回転数100rpmで溶融混練し、ポリエステル樹脂組成物を得た。この際、樹脂温度は188℃であった。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該ポリエステル樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。得られたペレットを80℃で除湿乾燥し、水分を除去した。
【0082】
(射出成形)
得られたポリエステル樹脂組成物よりなるペレットを原料として、射出成形機(東洋機械金属社製:Si−100IV)を用い、成形機のシリンダー設定温度は160〜195℃、金型の設定温度(金型温度)は40℃で、ASTM D−648規格に準拠したバー状の試験片を成形した。
【0083】
(荷重たわみ温度)
射出成形で得られたバー状の試験片を23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、ASTM D−648のB法に準拠して、荷重たわみ温度測定を行い、荷重たわみ温度(以下、DTULと略称する場合がある。)を測定した。荷重たわみ温度は高いほど良好である。
【0084】
(バリの評価)
上記射出成形で得られた試験片を目視で観察し、バリが無い場合を○、バリがある場合を×とした。
【0085】
<実施例2〜5>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットおよびバー状の試験片を作製し、荷重たわみ温度およびバリの評価をした。結果は表1に示した。
【0086】
<比較例1〜6>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットおよびバー状の試験片を作製し、荷重たわみ温度およびバリの評価をした。結果は表1に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、比較例1では、ポリ乳酸のみなので耐熱性が荷重たわみ温度が低い。また比較例2では、ポリ乳酸とポリ−3−ヒドロキシアルカノエートのみなので荷重たわみ温度が低い。更に比較例3では、珪酸塩が入っていないので荷重たわみ温度が低い。比較例4では、ペンタエリスリトールが入っていないので荷重たわみ温度が低い。比較例5では、ポリ乳酸の比率が高いため荷重たわみ温度が低い。比較例6では、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの比率が高いため試験片にバリが発生している。それに対して、実施例1〜5では、ポリ乳酸にポリ−3−ヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールと珪酸塩の3成分を混合することにより、ポリ乳酸の比率が高くても荷重たわみ温度が高く、また試験片にバリが発生していない。
【0089】
<実施例6>
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
表2に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製した。
(押出成形)
得られたポリエステル樹脂組成物よりなるペレットを原料として、横幅が150mm、リップ幅が1.5mmのT型ダイスを装着した単軸押出機(東洋精機製作所製:20C200型ラボプラストミル)を用いて、シリンダー設定温度は160〜200℃、チルロールの設定温度は50℃で、厚み1mmのシートを得た。得られたシートについてヒートサグの評価し、その結果は表2に示した。
(ヒートサグ試験)
上記押出成形で得られたシートを23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、シートから幅12.7mm、長さ75mmの短冊形を打ち抜き、厚みと長さ以外はJIS K 7195に準拠し、ヒートサグ試験を行った。試験温度60℃で短冊形の試験片の撓みが10mm以内の場合を○、10mmを超える場合を×とした。試験片の撓みが小さいほど耐熱性が良好である。
<比較例7>
表2に示すような配合比で、実施例6と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットおよびシートを作製し、ヒートサグ試験の評価をした。結果は表2に示した。
<比較例8>
表2に示すような配合比で、実施例6と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットおよびシートを作製し、ヒートサグ試験の評価をした。結果は表2に示した。
<比較例9>
表2に示すような配合比で、実施例6と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットおよびシートを作製し、ヒートサグ試験の評価をした。結果は表2に示した。
【表2】
【0090】
表2に示すように、比較例7では、ポリ乳酸のみなのでシートが撓んでしまう。比較例8では、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートが入っていないのでシートが撓んでしまう。比較例9では、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートの比率が低いのでシートが撓んでしまう。それに対して、実施例6では、ポリ乳酸にポリ−3−ヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトールと珪酸塩の3成分を混合することにより、シートが大きく撓まず、耐熱性が高い。