(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650448
(24)【登録日】2020年1月22日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】揚力の前方向成分をもたらすように向けられた後方翼を備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/24 20200101AFI20200210BHJP
B63B 1/26 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
B63B1/24
B63B1/26
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-523760(P2017-523760)
(86)(22)【出願日】2015年7月13日
(65)【公表番号】特表2017-522233(P2017-522233A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】NL2015050510
(87)【国際公開番号】WO2016010423
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2018年5月16日
(31)【優先権主張番号】2013178
(32)【優先日】2014年7月14日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】517014181
【氏名又は名称】ヴァン オーサネン アンド アソシエイツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン オーサネン、ピーター
【審査官】
米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−48288(JP,A)
【文献】
特表2009−541117(JP,A)
【文献】
特開2008−247050(JP,A)
【文献】
実開昭59−49591(JP,U)
【文献】
特開平2−18191(JP,A)
【文献】
実開平3−24988(JP,U)
【文献】
実開平6−1181(JP,U)
【文献】
特表2002−516785(JP,A)
【文献】
米国特許第5566634(US,A)
【文献】
米国特許第6164235(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0126464(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/24
B63B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域(2)において運転される船舶(1)であって、
前部(6)、後部(8)、および中央部(7)と共に喫水線(4)および長手方向(5)を有する非滑走型船体(3)であって、前記中央部の排水量よりも排水量が小さい前記後部を有するように構成される非滑走型船体(3)と、
1つ以上の連結部材(13)によって、水面より下で前記船体から離間されて前記船体後部に固定される後方翼(9)であって、翼幅(ba)、翼弦(ca)、ならびに前方方向(12)において前縁(10)および後縁(11)を有する後方翼(9)とを備え、
前記後方翼の前記前縁が、水平に配置されるか、または水平に対して上向きもしくは下向きに角度(α)だけ傾けられ、
前記後方翼が、長手方向断面において、揚力(La)を与える構成を有する翼弦および外形を有し、前記後方翼の前記翼弦の傾斜角は水平に対して測定され、
前記後方翼が、揚力(La)の連続的な上向きの前方向成分(La12)をもたらすように向けられ、
使用中、前記長手方向において、前記船体の中央部が圧力変化領域(18)を呈し、前記船体に係る圧力は、この領域の前方への抵抗の増大から、この領域の後方への抵抗の減少へと変化し、
前方翼(19)が前記圧力変化領域の前に配置され、前記後方翼が前記圧力変化領域の後方に配置され、前記前方翼が、前記船体から翼弦長よりも大きくない距離に配置されて、前記前方翼の上側における低い圧力が前記船体の上側に持続し、
前記後方翼および前記前方翼が、定常時に、前記喫水線より下の前記船舶の水面下体積が少なくとも50%〜70%を保つように構成され、前記前方翼が前記船舶にバウダウントリム状態をとらせるのを防ぐ船舶(1)。
【請求項2】
前記後方翼が、1対の連結部材(13)を用いて前記船体後部に連結され、翼幅方向における前記後方翼が、垂直鏡面(14)に関して対称であり、前記連結部材のそれぞれが、前記鏡面からの翼幅方向距離(D1)が、前記後方翼の前記翼幅の25〜50%で、接合領域(16)において前記後方翼に連結される、請求項1に記載の船舶(1)。
【請求項3】
前記後方翼が、翼先端(15)を有し、前記連結部材のそれぞれが、それぞれの前記翼先端に配置される、請求項2に記載の船舶(1)。
【請求項4】
前記連結部材が、垂直に対して0〜40°の前縁後退角(β)を有する、請求項3に記載の船舶(1)。
【請求項5】
請求項3に従属する場合に、前記連結部材がそれぞれ、前記後方翼から前記接合領域(16)の垂直部にかけての漸進的移行をもたらすように、垂直横断面において丸みを帯びた形状を備える、請求項3または4に記載の船舶(1)。
【請求項6】
前記接合領域の前記丸みを帯びた形状が、前記後方翼の翼弦長の1倍の最大内側曲げ半径(Ri)および前記後方翼の前記翼弦長の0.5倍の最小内側曲げ半径を有する、請求項5に記載の船舶(1)。
【請求項7】
前記後方翼の前記前縁の、平面図における後退角が、15〜25°である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項8】
前記後方翼の前記翼弦の少なくとも半分が、前記船体の前記後部が水から離れる位置を通る垂直線より後ろにある、請求項2〜7のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項9】
前記連結部材が、前記前方方向において、前記後方翼の翼弦長の0.8〜1.2倍の翼弦長の流線形断面形状(17)を有する、請求項2〜8のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項10】
前記連結部材の翼弦長が、前記船体との接合部における第1の翼弦長から、前記後方翼との接合部における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなり、テーパ比が、0.5〜0.9である、請求項9に記載の船舶(1)。
【請求項11】
前記後方翼の翼弦長が、前記鏡面における第1の翼弦長から、翼先端における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなり、テーパ比が、0.5〜1.0である、請求項2〜10のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項12】
翼幅方向における前記前方翼が、前記垂直鏡面に対して対称であり、前記前方翼が、前記船体から前記翼までの距離(D3)が前記翼の翼幅に沿って実質的に同じままとなる上反角(∂)を有する、請求項2〜11のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項13】
前記前方翼および前記後方翼の両方の翼幅が、各翼の長手方向位置において前記船舶の船体幅の90%以下である、請求項2〜12のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項14】
前記前方翼が、0〜10°の傾斜角(φ)だけ前縁が水平に対して上方に傾けられる、請求項2〜13のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【請求項15】
前記連結部材が、翼弦(cc)ならびに前方方向において前縁(20)および後縁(21)を有する連結部材翼(17)を備え、
前記連結部材翼が、長手方向断面において、揚力(Lc)を発生する構成を有する翼弦および外形を有し、
前記連結部材翼が、前記後方翼が発生させる前記前方に向かう成分(La12)を増幅するために、揚力の横方向および前方向成分(Lc12)を発生するように向けられる、請求項2〜14のいずれか一項に記載の船舶(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帆船または発動機船などの後方翼を備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
このような船舶、すなわち、船舶のトリム状態に影響する後方翼を有する船舶は、従来技術から知られている。これは、とりわけ、より高い速度範囲において重要である。
【0003】
従来の船舶の欠点は、後方翼が船舶の総抵抗を増加させること、もしくは、少なくとも前方に向かう推進力を発生させないことである。
【0004】
本発明の目的は、後方翼を備える船舶であって、後方翼が前方に向かう推進力をもたらす船舶を提供することである。
【発明の概要】
【0005】
これに関して、本発明に係る、水域において運転される船舶は、
前部、後部、および中央部と共に喫水線および長手方向を有する非滑走型船体であって、中央部の排水量よりも排水量が小さい後部を有する非滑走型船体と、
1つ以上の連結部材によって、水面より下で船体から離間されて船体後部に固定される後方翼であって、翼幅、翼弦、ならびに前方方向において前縁および後縁を有する後方翼とを備え、
後方翼の前縁が、水平に配置されるか、または水平に対して上向きまたは下向きの角度だけ傾けられ、
後方翼が、長手方向断面において、揚力を発生するよう構成された翼弦および外形を有し、後方翼の翼弦の傾斜角が、水平に対して測定され、
後方翼が、揚力の連続的な上向きの前方向成分を発生するように向けられる。
【0006】
前述の角度(α)は、好ましくは、−15°〜5°の範囲内にあり、より好ましくは、約−1、0、または1°である。
【0007】
欧州特許出願公開第0290170号明細書が、滑走型船舶(planing vessel)であって、本特許出願に開示されているような非滑走型船舶(non−planing vessel)と異なる流体力学的メカニズムが役割を果たす滑走型船舶を開示していることに留意すべきである。欧州特許出願公開第0290170号明細書に開示されている船舶の船体は、船体が水に沈んだままである本特許出願に開示されている主題とは対照的に、翼により水上に持ち上げられる。したがって、出願人は、欧州特許出願公開第0290170号明細書が本発明とほとんど関連性を有さないと考えている。
【0008】
非滑走型船体および前方に向かう連続的な揚力成分が発生するように向けられる後方翼を備える船舶は、本出願人の名義の米国特許出願公開第2007/017428号明細書および国際公開第2004/020276号パンフレットからさらに知られる。
【0009】
米国特許出願公開第2002/0040673号明細書は、船体に関して相対的に非常に後方の「深い」位置(船体の作用球面(influence sphere)の外側)に配置される翼を有する船舶について記載している。それは、翼が、揚力を発生させるために反りを有することまたは前縁に関して後縁よりも上方に向けられるべきことを要求する。この場合、前方に向かう力は発生しない。
【0010】
特開平11−180379号公報は、船舶の
定常時に、喫水線より下の代わりに喫水線より上に翼が配置される船舶について記載している。特開平11180379号公報に開示されている翼は、第2の翼が上向きの力成分を有する揚力を発生させることが可能になるように船体の周囲の流れを案内するよう構成される。
【0011】
実施形態は、後方翼が、1対の連結部材を用いて船体後部に連結され、翼幅方向における後方翼が、垂直鏡面に関して対称であり、連結部材のそれぞれが、鏡面からの翼幅方向距離が後方翼の翼幅の25〜50%、好ましくは30〜50%、より好ましくは40〜50%の接合領域において後方翼に連結される船舶に関する。より外側の位置に連結部材を配置することによって、本発明者は、後方翼自体を通る流れ、特に、後方翼の上面を通る流れが、とりわけ連結部材間に延在する部分で、有益な影響を受け得ることを発見した。さらに、構造の観点から、より外側の位置に連結部材を配置することにより、不安定な流れ状態が後方翼の先端に発生したときに、そこに発生し得るばたつきの可能性が低下する。
【0012】
実施形態は、連結部材が、翼の端部、翼の先端に配置される船舶に関する。連結部材間に延在する後方翼におけるその有益な影響は、連結部材が翼先端、すなわち後方翼の最も外側の位置、に連結されるときに最も大きくなる。
【0013】
実施形態は、連結部材が、立面図において、垂直に対して0〜40°、好ましくは20〜40°、より好ましくは30〜40°の前縁後退角(leading edge sweep angle)を有する船舶に関する。本発明者は、実験から、前述の後退角が、連結部材自体によって生じる抵抗を大幅に低減することを発見した。より小さい前縁後退は、実際に、抵抗を増大させ、翼の連結部分の周囲の境界層がより迅速に離れるようにすると考えられる。より大きな前縁後退は、必要な構造強度を連結部材に与えることを相対的に難しくする。各連結部材がテーパ状の場合、前縁後退角は、20°など、大きくなることに留意すべきである。
【0014】
実施形態は、連結部材がそれぞれ、翼から接合領域の垂直部にかけての漸進的移行をもたらすためなどに、垂直横断面において丸みを帯びた形状を備える船舶に関する。本発明者は、実験から、後方翼および連結部材の複合配置によって生じる抵抗が丸みを帯びた形状によって低減されることを発見した。同時に、後方翼は、実際に、後方翼の揚力の前方向成分をわずかでも増幅する連結部材がもたらす揚力によって生じるスピルオーバー効果(spill−over effect)の恩恵を受けると考えられる。好ましくは、丸みを帯びた接合領域は、フライス加工処理を用いて形成されるか、またはフライス加工された本体を備える。なぜなら、丸みを帯びた領域においては反りがかなり大きくなり得る(連結部材の垂直部分からその別の部分または後方翼にかけての、連結部材の迎角設定のかなり大きな変化の発生に起因して)ため、また、他の製造技術がこの関連において非常に面倒であり、不正確であり、または非常に費用がかかるものであると判明しているためである。さらに、接合領域において、後方翼の後縁も、丸みを帯びていてもよい(平面図で見たときに)。
【0015】
実施形態は、接合領域の丸みを帯びた形状が、後方翼の翼弦長の1倍の最大内側曲げ半径および後方翼の翼弦長の0.5倍の最小内側曲げ半径を有する船舶に関する。本発明者は、丸みを帯びた形状のこの寸法が抵抗の低減に関連して最適な結果をもたらすことを発見した。より大きな曲げ半径は、後方翼による最適な揚力の発生を少なくし、一方、より小さな半径は、前述の、揚力のスピルオーバー効果を低減するか、または連結部材−後方翼の複合配置の抵抗を悪化させ、増大させる。
【0017】
表1は、CFD実験から得られる、様々な構成に関する船体の総抵抗Rtを示している。接合領域に丸みを帯びた形状を有する前述の実施形態は、「U字形状船体ベーンが取り外された裸船体(Bare hull)」として示されている。Rtが(驚いたことに)、米国特許出願公開第2007/017428号明細書および国際公開第2004/020276号明細書に開示されているような、裸船体を有する構成または従来の「船体ベーン」を有する従来技術の構成よりも大幅に低いことが明確に理解され得る。前に述べたように、出願人は、連結部材が発生させる揚力によって生じるスピルオーバー効果が、後方翼の前方に向かう揚力成分の増幅をもたらし得ると主張する。接合領域にこのような丸みを帯びた形状を有することは、米国特許出願公開第2007/017428号明細書または国際公開第2004/020276号パンフレットには間違いなく示唆されていないし、これらの刊行物において、さらなる大幅な抵抗の低減が、前述した丸みを帯びた形状を使用することによって、さらには前述の曲げ半径を使用して、得られることが示唆されているとは認められない。
【0018】
実施形態は、平面図における後方翼の(前縁の)後退角が、15〜25°、より好ましくは5〜15°、さらに好ましくは0〜5°である船舶に関する。とりわけより高い速度において、緩やかな後退角は、実際に抵抗を低減する。しかしながら、本発明者は、後方翼が、相対的に船舶の後部/船尾の近く、または船体の排水量が船舶の船尾に向かって相対的に急速に低下する位置に配置された場合に、一層小さな後退角またはわずかな前進角が有益であることを発見した。
【0019】
実施形態は、後方翼の翼弦の少なくとも半分が、船体の後部が水から離れる位置を通る垂直線より後ろにある船舶に関する。実験を通して、本発明者は、船尾の波が、有益な揚力の前方向成分を発生させるために十分な流れエネルギーおよび必要な流れ状態を含むことを発見した。
【0020】
実施形態は、連結部材が、前方方向に関して、後方翼の翼弦長の0.8〜1.2倍の翼弦長を有する流線形断面形状を有する船舶に関する。より大きな翼弦長は、抵抗の増大をもたらす一方で、より小さな翼弦長は、多くの場合、強度の観点から可能ではない。好ましくは、立面図で見たときに、連結部材の前縁は、後方翼の翼弦長の20〜40%程度、より好ましくは30〜40%だけ、後方翼の前縁の後方の位置で後方翼と交差する。
【0021】
実施形態は、連結部材の翼弦長が、船体との接合部における第1の翼弦長から、後方翼との接合部における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなり、テーパ比が、0.5〜0.9、好ましくは0.5〜0.7、より好ましくは約0.5である船舶に関する。接合領域の連結部材からの横断流によって生じる干渉抵抗が、特により高い速度において、これらの値の場合に相対的に最小となることが発見された。
【0022】
実施形態は、船舶であって、後方翼の翼弦長が、鏡面における第1の翼弦長から、翼先端における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなり、テーパ比が、0.5〜1.0、好ましくは0.7〜0.9、より好ましくは約0.8である船舶に関する。上記のテーパ比は、抵抗比の値に対して相対的に高い揚力をもたらす。
【0023】
実施形態は、使用中、長手方向において、船体の中央部が圧力変化領域を呈し、そこでは、船体にかかる圧力は、この領域の前方への抵抗の増大から、この領域の後方への抵抗の減少へと変化し、前方翼が、この圧力変化領域の前に配置される船舶に関する。本発明者は、広範囲の実験中に、(現在のところ)「圧力反射」と呼ばれている現象が発生すること、すなわち、前方翼の上側における低い圧力が船体の上側に持続することを発見した。これに関して、前方翼は、好ましくは、各船体位置において船体から翼弦長よりも大きくない距離に配置される。前述の実験から、この現象が、前方翼が、船体が
低圧から恩恵を受ける位置(圧力変化領域の
前方)に配置される場合はより
低い船体抵抗をもたらし、前方翼が、船体が
高圧から恩恵を受ける位置(圧力変化領域の
後方)に配置される場合はより
高い船体抵抗をもたらすと考えられる。したがって、前方翼は、この圧力変化領域の前方に配置されるべきである。同じ理由で、後方翼は、圧力反射によって生じる抵抗の増大を回避するために、圧力変化領域の後方に配置されるべきであり、好ましくは、少なくとも部分的に、船体の水面下部分の後ろに配置される。「圧力変化領域」は、船体にかかる圧力の水平成分が、この領域の前方の前方運動に対抗する力から、当業者ならば理解するように層流から乱流などへの、船体の周囲の流れの移行ではなく、この領域の後方の前方運動を助ける力に、符号を変える領域に関することに留意すべきである。
【0024】
前方翼は、好適には、後方翼が高い揚力値を発生させるとき、より高い船舶速度において船舶の長手方向トリムを水平方向に戻すために使用される。当業者は、欧州特許出願公開第0290170号明細書に開示されている滑走型船舶のように、前方翼および後方翼が高速時に水の上に船体を浮かせるために使用される水中翼船舶を得るために、前方翼が使用されるためのものではないことを承知すべきである。さらに、上記の特徴は、米国特許出願公開第2007/017428号明細書からは知られないし、これには示唆されていない。「Third International Symposium on Marine Propulsors」(2013年5月、オーストラリアのタスマニア州ローンセストン)に掲載されている、Eirik BockmannおよびSverre Steenによる「The Effect of a Fixed Foil on Ship Propulsion and Motions」という論文に開示されている船舶および翼が、基本的に本発明とは無関係であることにも留意すべきである。この刊行物は、前方への揚力成分を発生させるために絶えず変化する迎え角を必要とする、船体の下の相対的に大きな翼を開示している。本特許出願の出願日において、このような翼を有する船舶は、「waterbird」、「aqua skipper」、および「aqua bike」などとして市販されている。出願人は、このような船舶は、穏やかな水状態において必須となる、絶えず変化する迎え角が形成されるとき、または船舶がたくさんの波の活動を伴う水域にあるときにしか使用され得ないと主張する。前述の論文の導入部において、Bockmannは、自分の仕事が、推進力が例えば推進ユニット(特に、船舶のエンジン)によって独立に発生される出願人の設計とは対照的に推進目的のための波エネルギーの利用にのみ焦点を合わせていることを認めている。出願人の設計は、さらに、翼が実質的に一定の迎え角で機能することを必要とする。
【0025】
好ましくは、後方翼および前方翼(特に、前方翼)が、喫水線より下の船舶の水面下体積を少なくとも30%〜90%、より好ましくは50%〜70%に保つように構成される。本発明者は、実験から、これらの排水量の値が、船舶にバウダウントリム状態をとらせることなく、後方翼によるより大きな(前方に向かう)揚力成分の発生を可能にすることを発見した。この結果、船舶の長手方向安定性も損なわれない。これに関して、前方翼も、船体前部の抵抗を低減するために「圧力反射」現象を利用してもよい。
【0026】
実施形態は、翼幅方向において前方翼が垂直鏡面に関して対称であり、前方翼が、船体から翼までの距離が翼の翼幅に沿って実質的に同じままとなるように上反角を有する船舶に関する。本発明者は、これにより「圧力反射」現象が最適に利用されることを発見した。
【0027】
実施形態は、上反角が、船舶の船体の局所形態に応じて5〜50°、好ましくは10〜30°、より好ましくは約20°である船舶に関する。これらの値は、船舶の横方向の安定性を損なうことなく「圧力反射」現象を最適化することが発見された。
【0028】
実施形態は、前方翼のアスペクト比が少なくとも4.0、好ましくは5.0以上である船舶に関する。本発明者は、そうでなければ前方翼の発生する抵抗があまりに高くなり得ることを発見した。
【0029】
実施形態は、後方翼のアスペクト比が約4.0〜7.0、好ましくは5.0以上である船舶に関する。より低いアスペクト比の場合、後方翼が、相対的に高い抵抗を受け始めることが発見された。
【0030】
実施形態は、前方翼および後方翼の両方の翼幅が、各翼の長手方向位置において船舶の船体幅の90%以下である船舶に関する。より高い翼の翼幅は、実際に、実用的でないことが判明している。
【0031】
実施形態は、前方翼が、前縁が水平に対して0〜10°の傾斜角(φ)だけ上方に傾けられる船舶に関する。これらの傾斜角において、有用な前方への翼揚力の発生が最適になると考えられる。
【0032】
実施形態は、連結部材が、翼弦ならびに前方方向において前縁および後縁を有する翼を備え、
連結部材翼が、長手方向断面において、揚力をもたらす構成を有する翼弦および外形を有し、
連結部材翼が、後方翼がもたらす揚力の前方向成分を増幅するために、揚力の横方向および前方向成分を発生するように向けられる船舶に関する。
【0033】
本発明者は、例えば連結部材翼(の翼弦)を(局所的な流れ方向に応じて)内側もしくは外側に曲げることにより、もしくは、例えば連結部材翼に反りを与えることにより揚力の前方向成分を発生する構成を連結部材に与えることによって、連結部材翼が、主翼/連結部材の配置の揚力の前方向成分の発生に寄与し始めることを発見した。本発明者は、このことが、船体後部の下の流れがわずかに内側に向けられていること、および、船体前部の下の流れがわずかに外側に向けられていることに起因するとみている。しかしながら、添付の特許請求の範囲によって与えられる保護は、この理論の妥当性に依存しない。
【0034】
実施形態は、連結部材翼の翼弦と垂直鏡面との間の角度が、後方翼の場合は0〜10°、約5°などであり、前方翼の場合は0〜−10°、約−5°などである船舶に関する。これらの値は、主翼による揚力の前方向成分を増大させるために、揚力の横方向および前方向成分が生じるように、翼の先端において、船体の後部および前部のそれぞれの下で内側および外側に向かう流れから恩恵を受けるのに最適であることが判明している。実験から、「従来の」設計/方向の連結部材のみを有する後方翼および前方翼において揚力の前方向成分に対して、5〜10%のさらなる揚力の前方向成分が得られ得ることが発見された。
【0035】
実施形態において、連結部材はそれぞれ、好ましくは鏡面から後方翼の翼幅の30〜40%の翼幅方向距離の位置にある連結点で、ナセルを用いて後方翼に連結される。ナセルは、流れ方向において見たときに、(流れが当たるように)後方翼/連結部材/ナセルの複合配置の断面に滑らかな変化がもたらされるように形成される。この目的のために、ナセルの前方部分は、円錐形状または丸みを帯びた形状を有してもよい。好ましくは、ナセルは、弾丸状形状を有する。本発明者は、特に連結部材が前縁後退部を有する場合に、ナセルの前方部分が、断面積が漸増するように、連結点で後方翼の前縁(および各連結部材の前縁)から前方に突出することが重要であることを発見した。後方翼の翼幅の30〜40%の位置に連結点を設けることによって、一方の構造要件と他方の流体力学的な(抵抗についての)考慮事項との間に、最適なバランスが得られる。
【0036】
実施形態は、前方翼が、1つ以上の、1対のような、連結部材を用いて圧力変化領域の前で船体中央部または船体前部に連結され、連結部材が、船舶の後部の後方翼に関して記載されているような連結部材関連の特徴を用いて、必要な変更を加えて、前方翼および船体前部に対して規定される船舶に関する。
【0037】
本発明に係る船舶の実施形態は、非限定的な例として、添付図面を参照しながら詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に係る船舶の第1の例示的な実施形態の概略立面図を示している。
【
図2】
図1の船舶の第1の例示的な実施形態の概略平面図を示している。
【
図3】
図1および
図2の船舶の第1の例示的な実施形態の背面図を示している。
【
図4】
図1および
図2の第1の例示的な実施形態の後方翼の詳細な立面図を示している。
【
図5】船舶の第2の例示的な実施形態の前方翼の正面図を示している。
【
図6】船舶の第3の例示的な実施形態の連結部材の詳細な平面図を示している。
【
図7】船舶の第4の例示的な実施形態の概略底面図を示している。
【
図8】
図4の後方翼の別の例示的な実施形態の詳細な斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1〜
図3はそれぞれ、本発明に係る船舶1の第1の例示的な実施形態の概略立面図、平面図、および背面図を示している。
【0040】
非滑走型船体3を備え、水域2において運転される帆船または発動機船などの船舶1が示されている。喫水線4が、水域2と上方の大気との境界として示されている。長手方向が、参照符号5によって示されている。船体3は、前部6、後部8、および中央部7を備える。船体3は、中央部7の排水量よりも排水量が小さい後部8を備えるように構成される。後方翼9は、船体後部8に固定され、船体3から離間されて水面より下に配置される。後方翼9は、翼幅(ba、
図2参照)、翼弦(ca)、ならびに前方方向12において前縁10および後縁11(
図2および
図3参照)を有する。後方翼9の前縁10は、水平に対して下向き角度αだけ傾けられる(
図4参照)。後方翼9は、立面図において、揚力Laを与えるように構成された翼弦および外形を有する。なお、後方翼の翼弦の傾斜角は、水平に対して測定される。これに関して、後方翼9は、揚力の連続的な上向きの前方向成分La12をもたらすように向けられる。
【0041】
後方翼9の翼弦長(ca)は、垂直鏡面14における第1の翼弦長から、翼先端15における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなっていてもよく(
図2参照)、テーパ比は、0.5〜1.0、好ましくは0.7〜0.9、より好ましくは約0.8であってもよい。
【0042】
図1示されているように、長手方向12において、船体中央部7は、圧力変化領域18を備え、そこでは、船体3にかかる圧力が、この領域の前方への抵抗の増大から、この領域の後方への抵抗の減少へと変化する。前方翼19は、圧力変化領域18の前に配置されるべきである。同様に、後方翼9は、圧力変化領域18の後方に、好ましくは、少なくとも部分的に、船体端部の水面下部分の後方に配置されるべきである。
【0043】
好ましくは、後方翼9および前方翼19は、本発明者が船体1を完全に水から浮かび上がらせようとしない場合、
定常時に喫水線4より下の船舶1の水面下体積を少なくとも30〜60%に保つ揚力をもたらすように構成される。
【0044】
前方翼19の傾斜角φは、
図1に示されるように、水平に対して0〜10°であってもよい。
図2に示されているように、鏡面14に対する後方翼9の前縁後退角γは、−15〜25°、より好ましくは−5〜15°、さらに好ましくは0〜5°であってもよい。
【0045】
図3は、
図1および
図2の船舶の第1の例示的な実施形態の背面図を示している。後方翼9は、1対の連結部材13を用いて船体後部8に連結されている。後方翼9は、翼幅方向において垂直鏡面14に対して対称である。連結部材13のそれぞれは、鏡面14からの翼幅方向距離D1が、後方翼9の翼幅(ba)の25〜50%、好ましくは30〜50%、より好ましくは40〜50%の位置で後方翼9に連結される。最も好ましくは、後方翼9の連結部材13は、鏡面14から翼幅(ba)の50%の位置で翼先端15に連結される。
【0046】
図3に示されているように、連結部材13はそれぞれ、接合領域16で翼先端15に連結される。接合領域16は、連結部材13のそれぞれと後方翼9との間の滑らかな移行を実現するために垂直横断面において丸みを帯びた形状を有してもよい。接合領域の丸みを帯びた形状は、好ましくは、後方翼9の翼弦長(ca)の1倍の最大内側曲げ半径Riおよび後方翼9の翼弦長(ca)の0.5倍の最小内側曲げ半径を有する。さらに、平面図で見たときに、後方翼の後縁11は、接合領域16において丸みを帯びていてもよい。
【0047】
図4は、
図1および
図2の第1の例示的な実施形態の後方翼9の詳細な立面図を示している。図示のように、連結部材13は、垂直に対して0〜40°、好ましくは20〜40°、より好ましくは30°〜40°の前縁後退角βを有してもよい。同様に、連結部材13の後縁もまた、好ましくは前縁よりも小さな後退角を備えてもよい。テーパの場合、βは、20°増加してもよく、20〜60°であってもよい。
【0048】
連結部材13の翼弦長(cc)は、船体後部8における船体と連結部材13との交差位置における第1の翼弦長から、連結部材13が後方翼9に連結される位置における相対的に小さな第2の翼弦長にかけて次第に小さくなっていてもよく、テーパ比は、0.5〜0.9、好ましくは0.5〜0.7、より好ましくは約0.5であってもよい。
【0049】
述べたように、
図5は、船舶1の第2の例示的な実施形態の前方翼19の正面図を示している。翼幅方向における前方翼19は、垂直鏡面14に対して対称である。前方翼19は、好ましくは上反角∂、すなわち、水平面に対して上向きの角度を有する。鏡面14の位置における船体3からの距離D2および上反角∂は、前方翼19の翼幅方向において、船体3から実質的に一定の距離D3が維持されるように選択されるべきである。上反角は、5〜50°、好ましくは10〜30°、より好ましくは約20°であってもよい。前方翼19のアスペクト比は、少なくとも5.0であってもよく、一方、後方翼9のアスペクト比は、約5.0など、約4.0〜7.0であってもよい。前方翼19の翼幅(bf)は、好ましくは、前方翼19の長手方向位置における船舶の船体幅の90%以下である。
【0050】
図6は、船舶1の第3の例示的な実施形態の連結部材13の詳細な平面図を示している。連結部材13は、これに関して翼弦(cc)、前方方向12において前縁20および後縁21を有する連結部材翼17を有する。連結部材翼17は、揚力(Lc)を与える構成を有する翼弦(cc)および外形を有する。より具体的には、連結部材翼17は、後方翼9が発生させる前方への揚力成分La12を増幅するために、揚力の連続的な横方向および前方向成分Lc12を生むように向けられる。連結部材13はそれぞれ、前方方向5において流線形の外形を有し、後方翼の翼弦長の0.8〜1.2倍の翼弦長の翼弦を有する連結部材翼17を有してもよい。これに関して、連結部材翼17の翼弦(cc)と垂直鏡面との間の角度ψは、約5°など、約0〜10°であってもよい。
【0051】
図には明示的に示されていないが、前方翼19は、1つのまたは1対の前方連結部材を用いて圧力変化領域18の前で船体中央部または船体前部に連結されてもよい。前方連結部材は、後方翼9に関して記載されているような連結部材関連の特徴を用いて、必要な変更を加えて、前方翼19および/または中央部7もしくは前部6および/または垂直鏡面14および/または垂直/水平に対して規定されてもよい。
【0052】
図7は、船舶1の第4の例示的な実施形態の概略底面図を示している。図示のように、後方翼9の翼弦の少なくとも半分が、船体の後部8が水から離れる位置を通る垂直線より後ろにあってもよい。また、これは、
図1〜
図6において説明された実施形態にも当てはまる。図示のように、連結部材13は、これに関して、中央船体24から実質的に離間されたアウトリガ23として形成されてもよい。中央船体24および2つのアウトリガ23は、喫水線より上で堅く連結され、一方で、例えば単一の船体を形成する。アウトリガ23は、垂直鏡面14から実質的に翼幅方向距離D1だけ離間されるべきである。翼幅方向距離D1は、これに関して、後部/船尾8の船体幅の半分より実質的に大きく、1.5〜2.5倍など、例えば2倍である。付加的なストラット22が、後方翼9と中央船体24とを連結するために垂直鏡面14の位置に配置されてもよい。
【0053】
他の実施形態の場合にも、付加的なストラットまたは(一般的に)付加的な(中間)連結部材が、例えば後方翼が相対的に大きな翼幅を有する場合に、構造強度を改善するために付加されてもよい(例えば、垂直鏡面の位置に)ことに留意すべきである。
【0054】
図8は、
図4の後方翼/連結部材の配置の別の例示的な実施形態の詳細な斜視図を示している。
図8において、連結部材13はそれぞれ、好ましくは鏡面から後方翼9の翼幅の30〜40%の翼幅方向距離の位置にある連結点で、ナセル25を用いて後方翼9に連結される。ナセル25は、流れ方向において見たときに、(流れが当たるように)後方翼/連結部材/ナセルの複合配置の断面に滑らかな変化がもたらされるように形成される。この目的のために、ナセル25の前方部分は、円錐形状または丸みを帯びた形状を有してもよい。好ましくは、ナセルは、弾丸状形状を有する。本発明者は、特に連結部材13が前縁後退部を有する場合に、ナセル25の前方部分が、断面積の漸増を達成するように、連結点で後方翼9の前縁10(および各連結部材の前縁)から前方に突出することが重要であることを発見した。後方翼9の翼幅の30〜40%の位置に連結点を設けることによって、一方の構造要件と他方の流体力学的な(抵抗についての)考慮事項との間に、最適なバランスが得られる。
【0055】
以上、本発明について、上述した実施形態を参照して説明した。これらの実施形態が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく当業者に良く知られている様々な修正例および代替形態を許容することができることが認められよう。したがって、特定の実施形態について説明してきたが、これらは、例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 船舶
2 水域
3 非滑走型船体
4 喫水線
5 長手方向
6 前部
7 中央部
8 後部
9 後方翼
10 後方翼前縁
11 後方翼後縁
12 前方方向
13 後方翼連結部材
14 垂直鏡面
15 翼先端
16 接合領域後方翼/連結部材
17 連結部材翼
18 圧力変化領域
19 前方翼
20 連結部材翼の前縁
21 連結部材翼の後縁
22 付加的な連結部材/ストラット
23 アウトリガ
24 中央船体
25 ナセル
La 後方翼の揚力
La12 後方翼の前方に向かう揚力
Lc 連結部材の揚力
Lc12 連結部材の前方に向かう揚力
ba 後方翼の翼幅
bf 前方翼の翼幅
ca 後方翼の翼弦
cc 連結部材の翼弦
D1 鏡面からの翼幅方向距離
D2 鏡面の位置の船体から前方翼までの距離
D3 翼幅方向における前方翼から船体までの距離
α 後方翼の傾斜角
β 連結部材の前縁後退角
γ 後方翼の前縁後退角
∂ 前方翼の上反角
Φ 前方翼の傾斜角
Ψ 連結部材翼の翼弦と垂直鏡面との間の角度
Ri 内側曲げ半径